Re: 新世界への神話 4スレ目 4月5日更新 ( No.14 ) |
- 日時: 2020/04/12 21:02
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは
今週の分を更新します
2 矢を手にする拓実。しかし弓を構える暇を与えずにリツが迫っていく。
三日月の形をした刀を振るい、拓実を斬ろうとするリツ。拓実はそれをかわして距離をとろうとするが、リツはそれを許さず攻撃し続けていく。
拓実が矢と弓を武器にしていることから、距離を詰めて戦うというのは正しい。実に有効な戦法だろう。
だが拓実は思う。自分を舐めるなと。
「僕はよく軟弱者だと思われているようだけど、ケンカの方だってそれなりに腕が立つのさ」
襲い掛かる刃を巧みなフットワークでかわしていく。
「いい男は足腰も強くないとね。戦いでもベッドの上でも重要だし」
そう言いながら、リツの顔面に裏拳を入れた。続いて弓を持つ手を高々と上げる。
「この弓、刃が仕込まれているんだよね。これで斬りかかろうか!」
頭を揺さぶられ、思考力が定まらない中、リツは刀で防御をとろうとするが。
「なぁんて、ウソさ」
空いたリツの腹部に拓実は蹴りを入れた。その勢いのままリツは後退してしまい、両者の間に距離がとれた。
この好機を逃す拓実ではない。素早く矢を弓に番え、そのまま放つ。
矢は見事、リツの脇腹に命中した。当然、これで終わりではない。
更に拓実は矢を次々と放つ。放たれた矢は、それぞれ勝手な方向へと跳んでいく。
ゴールデンアロー乱れ撃ちだ。黄金の矢は外れていくものもあるが、ほとんどはリツに当たっていた。
「これで最後!」
拓実はとどめとなるゴールデンアローの一矢を、リツに向けて放った。
ところが、リツはその矢を右手で受け止めてしまった。
「軟派な男だと思っていたが、それに反して戦い慣れているな」 「あなたこそ、美しい顔立ちからは想像できない腕力と反射神経をお持ちのようで」
余裕を取り繕っているが、拓実は内心驚いていた。とどめの一発がまさか防がれるとは予想していなかったのだ。
そんな拓実への挑発なのか、リツは矢の穂を指だけで砕いた。
「このまま長引けば、足止めを狙う貴様の思うつぼだな。ならば、短期決戦といこうか!」
そう叫んだ瞬間、リツは拓実を思いきり殴り飛ばした。吹っ飛ばされた拓実だが、その勢いを利用して思い切り地面を蹴り、リツの死角へと跳んでいく。
そこからゴールデンアローを放つ。死角からの攻撃だ。かわすことはできないはず。
するとリツは、今度は指一本で矢を受け止める。その瞬間、矢は粉々に崩れ落ちてしまった。
「本当にすごい力だね」
呆れたような声を出すものの、拓実は危機感を抱いた。黄金の矢を砕くほどの握力を誇る手に捕まってしまっては、如何なるものでも握り潰されてしまうだろう。
リツを近づけさせないため、ゴールデンアロー乱れ撃ちを行う。矢がリツの視界一杯にばらまかれる。
その矢の一つ一つを、リツは華麗にかわしていく。
これには拓実も驚愕するしかなかった。スピードはもちろん、矢を一本一本見切ることのできる眼力と瞬時での判断力は素晴らしいの一言しか出なかった。
だがどんなに強者でも、必ずどこかに隙はある。
「…そこだ!」
拓実はそれを見逃さず、ゴールデンアローを放つ。ところが、矢がリツに当たった瞬間、矢の方がボロボロに崩れ落ちてしまった。
ここにきて、拓実は違和感を抱いてしまう。戦っていく内に、リツが強くなっていく気がするのだ。黄金の矢だって、初めはリツにダメージを与えられたものの、今では当たっただけで矢の方が粉々になるのだ。
それに、疲労感が並々ならぬものとなっている。今まで戦ってきた中で一番の強敵だということもあるだろうが、それにしては体力と精神力の消耗が激しすぎる。ペース配分はきちんとしてきたつもりなのだが。なにかあるのか。
これでは、リツの言う通り早期決着しかなくなってしまう。
「この私がだんだんと強くなっているようで戸惑っているな」
そんな拓実の心を、リツは見破っていた。
「正確に言うと逆だ。おまえが弱くなっているのだ」
拓実はその言葉が理解できなかった。確かに、疲れによって力は落ちるものだが、劇的に変わるわけではない。
それとも何かあるのかと、拓実は再びゴールデンアローを放った。この攻撃の結果によって、何かがわかるはずだ。
その黄金の矢は、またもリツに当たった瞬間に散ってしまった。
またも同じ結果となってしまった。こうなると、リツの言うことが現実になっているのかもしれない。
疑問が確信へと変わりつつある中、リツが何が起こったのか説明をしだした。
「月はその美しさとは裏腹に、吉兆の証でもある。その姿を見れば、生物的本能を刺激される。おまえたちの世界には獣になるという伝承もあったな」
そういえば、と拓実は狼男の話を思い出す。あれも満月の夜に変身して暴れまわっていたと聞く。
「わが精霊ローゼスターも、その月の力を宿している。相手の心を刺激させ、不安定にさせる波動を放つ力だ」
つまり、自分もその波動を受けていたということなのか。自分が弱くなったというのはそういうことなのか。
半信半疑のまま、拓実は三度ゴールデンアローを放つ。矢がリツへと迫っていくが、当のリツは意にも介していなかった。
「この技こそ、その力の証明であり、究極の到達だ」
リツは、飛んで来る矢に向けて指を差す。
「ルナティックビーム!」
彼の指先から光線が放たれ、黄金の矢に命中する。それだけで、矢は砂粒レベルまで分解されていく。
「使者の心の力さえも、この技の前では不安定となり力となさずに消えるのだ」
拓実が弱くなったというのは、月の力を受けて心の力がいつものように攻撃にこめられなくなったことを言うのだろう。それも、当人に気づかれないレベルで。
だからと言って、拓実が勝てないことが証明されたわけではない。
「なら、これはどうかな?」
拓実は今度は乱れ撃ちを行う。一本では崩れてしまっても、十数本も迫ってくれば防ぎ切れないかもしれない。
「何本増えようが同じことだ」
リツも掌を前に掲げ、構える。
「ルナティックウェーブ!」
その掌から衝撃波のようなものが放たれ、黄金の矢を次々と砂へと変えていく。更にその脅威は拓実にも迫っていき、その勢いで彼を転倒させた。
リツの必殺技を受けたことによる痛みはなかった。だが、月による狂気、ルナティックの波動を受けたことで心に影響が出たのか、拓実のアイアールとの一体化が解かれてしまっていた。
まさか、使者との一体化まで強制的に解いてしまうなんて。攻撃的ではないが、その強力な技に拓実は驚愕するしかなかった。リツとローゼスターは、精霊の使者にとって天敵であることを実感する。
「どうだ?私の前ではおまえを全力を出し切れないことがこれでわかっただろう?」
しかし、拓実は弱気になることはなかった。
「果たしてそうかな?」
拓実の余裕ある態度が気にかかるリツは、彼の視線を辿ってみる。その先の、自分の上腕を見て、今度はリツが驚く。
自分の腕に、かすった程度だが切り傷が出来ていた。後ろを振り返ってみると、黄金の矢が一本、地面に刺さっていた。
一本だけ、ルナティックウェーブを受けても崩れずに飛んでいき、かすったとはいえ傷をつけたのだ。まさか自分も傷を負うとは思っていなかっただけに、リツはそのことが信じられなかった。
「僕だって、ただやられるわけにはいかない。みんなが僕を信じて先に行かせたんだ。その信頼には、応えたいと思うじゃないか」
拓実は仲間たちを信じている。きっと何とかしてくれると。そして自分はそんな彼らの仲間でもあり、共に戦ってきたのだ。自分にも、それだけの力があると信じている。
何より、ここで負けたらリツだけでなく仲間たちにも負けたような気になってしまう。ナギやエイジや塁、優馬たちの勝ち誇るような顔を思い浮かべては、腹立たしくなった。
「気にくわない連中が多いけど、僕はそれでも彼らを信じているからね」
ルナティックウェーブにも揺れない拓実の心が、彼のアローリングを光らせた。
「なるほど、金属性の精霊の使者は信念もしくは信頼であると聞いたが、おまえにもそれなりの思いがあるということか」 「どうかな」
天邪鬼な一面がある拓実は、うそぶいて見せた。
「だが、私だってこれ以上足止めされるわけにはいかない。明智天師への恩に報いるためにも」 「恩…?」
拓実はふとそれが気になった。明智天師の弟子であったミークと同様に、リツもまた彼と何かあるのだろうか。
リツは、自らの身の上を話し始めた。
「私は、元は陰鬱の精霊の使者であったのだ」 「えっ、あなたが?」
黄金の使者の一人が、霊神宮と敵対する陰鬱の使者であったことに、拓実は驚きを隠せなかった。
もう少し、リツの話が聞きたくなった。
「使者としての力を持つ私は、負の心に囚われ陰鬱の使者へと堕ちてしまった。私の心はそのまま闇へと沈んでいったが、あの方が救ってくれたのだ」
あの方というのは、明智天師のことに違いない。
「闇から引き上げられた私は、あの方のような使者を目指し、修行した。その中で、私と同じような人間も多く見てきた。その心と触れ合うことで、私自身も強くなった」
そこでリツは、自らのリングを見せる。
「元々陰鬱の精霊であったこローゼスターも、こうして黄金の精霊にまでなることができたのだ。これもあの方のおかげだったから、私はその恩を返したいのだ」 「ローゼスターが、陰鬱の精霊だった?」
この事実に拓実は驚いていた。陰鬱の精霊がそのネガティブを自ら晴らすなんて聞いたことが無かったし、自分たちがそれをやろうとしてもうまくいかなかったからだ。
拓実は希望を持てた。それと同時に、この戦いに負けるわけにはいかなくなった。
「あなたに勝てば、僕たちも陰鬱の精霊を救える力がつくということか」
拓実の矢を握る手に、力がこもる。
「足止めできればそれでいいと思っていたけど、そんな甘い考えは捨てよう。僕は絶対に、負けない!」
また、ゴールデンアローの乱れ撃ちを行う。対するリツも、先ほどと同様ルナティックウェーブで迎え撃とうとする。
矢が一本ウェーブをかわして自分にかすり傷をつけたのはまぐれだ。こんなことは二度も起こらない。リツはそう信じていた。
そんな彼を裏切るように、矢がまたしてもかすり傷とはいえダメージを与えた。しかも、今度は矢が二本と増えていた。
「まぐれではない。まさか、矢を撃つたびに奴の心の力は高まっていくのか…?」
それが本当なら、月の力は通用できなくなってしまう。戦いが長引けばこちらが不利になるかもしれない。
だが月の力を封印して正攻法で戦うのは危険かもしれない。拓実がそれを狙っているかもしれないのだ。彼はまだ何かを残している。使者としてのカンが、そう告げている。
誘いに乗るか、自分の戦いを貫くか。
「…ここで戦いが長引けば、先に行った奴らが明智天師の元へ着いてしまうか…」
自分はともかく、明智天師が危機に陥るのだけは避けたい。優先度を考えれば、答えは決まり切っていた。
「アイアールの使者。おまえとの勝負、受けて立つ!」
月の力を用いず、拓実との直接対決を降す。ハヤテたちに追いつくにはそれしかない。それに、この男の真価というものを見てみたい。そんな気持ちもリツにはあった。
三日月の刃を再び手にし、リツは拓実に攻め入る。対して、拓実は距離をとり、ゴールデンアローの乱れ撃ちを行う。
「その程度の技、最早月の力を使うまでもない!」
三日月の刃を前に構えることで、盾代わりとして矢を払い除けるリツ。これにより矢がリツに突き刺さることはないが、それでも拓実は乱れ撃ちを行い、相手を近づけさせまいとする。
しかし、リツはついに拓実に手が届くところにまで詰めてきた。そこでリツは三日月の刃を振り下ろした。その刀身が拓実を捕らえようとした瞬間、拓実は手にしている弓でそれを防ぐ。
競り合いが続く中、拓実の弓が三日月の刃を払い除けた。リツの手から刃が離れ、拓実も感覚がマヒしたのか、手から弓を落としてしまう。
ここまでの流れは、リツの想定内であった。そして、彼の本領発揮はここからであった。
リツは二つの手を拓実のそれに組ませ、潰すかのように強く握る。
彼の握力の強さは、黄金の矢を砕いたことで証明されている。拓実の両手は、完全に粉砕されてしまった。
しかし、これこそ拓実が狙っていた唯一の好機であった。今リツの手は自分のと組まれている。これでは自慢の握力も働かない。
叩くなら、今しかない。
一方、何かを察したリツは危機から逃れようと拓実から離れようとするが。
「…なんだ、これは!」
自分の手と拓実の手が組んでいる状態で黄金に固められていた。これでは手を離すことができない。
「あなたほどの使者を相手にするには、僕自身が矢となるしかない」
そう言い、リツと繋がったまま上空へと高く飛び上がった。
高く高く上がり、天井スレスレのところでリツを下に向けて急降下する。
「地面に叩きつけるつもりか?それだけではこの私は倒せないぞ」
言いながら、リツは気づいた。
無数の矢が穂を天に向けて、地面に刺さっている。このまま落下すれば、リツの体は串刺しとなってしまう。
「まさか、先程から矢を何本も打ったのは、これのため…」
そう。単なる悪あがきと思われた数々の乱れ撃ちは、このための布石だったのだ。しかし、矢の穂をうまく天に向くようにするには撃ち方に工夫がいるし、途中で相手に気づかれてもおかしくないはずだ。
「矢に気づかなかったのは、私が奴を甘く見ていたからだ」
何より、拓実の信念が実ったのがこの結果なのだろう。
リツの体が着地と同時に、無数の矢に貫かれた。しかし、リツと手をつなぐ形で捕らえていた拓実も、リツほど深くはないとはいえその身に矢が突き刺さった。
「はは…やっぱりこういう相打ち覚悟ってやつは嫌だね…」
痛い思いをするなんて、拓実はまっぴらごめんだ。しかし、仲間たちの信頼に応じられない方がよっぽどごめんだ。
「けど、これで足止めはできたな」
これではリツは動くことはできない。約束通り、拓実はこの場を任すことができたのだ。
「後を追うことはできないけど、頼んだよ…」
ハヤテたちなら、うまくやってくれる。拓実はそう信じているからこそ、後のことは安心できた。
「ただ…男を押し倒すなんて二度と勘弁してもらいたいな」
こんな状況でも、拓実は軽い調子を崩さなかったのだった。
第42話はこれで終了です 続きは来週更新します。
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