Re: 新世界への神話 4スレ目 3月22日更新 ( No.12 ) |
- 日時: 2020/03/29 22:33
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんは。
今週の分を更新します。
2 タイハは掌を氷狩に向ける。
「サーマルレーザー!」
そこから熱をもった光線が氷狩に向かって放たれた。しかし、レーザーは氷狩の手前で弾けて消えてしまった。
「おまえのライトカーテンと同じように、俺も自分の身をアイシングヴェールに覆われているんだ」
凍気をヴェール状にして放つことで、自分の身に薄い氷の防御壁を纏っている状態になり、それが相手からの攻撃を弾いているのだ。
「今度は本気でいくぞ!」
次は氷狩が攻撃する。最初の時とは違い全力でのフリージングスノウズは、タイハのライトカーテンを無効にし、彼の右腕を凍りつかせた。
すかさず、氷狩はタイハに肉薄し拳を一発入れた。これを受け、タイハはよろけてしまう。
氷狩は実感した。これなら勝てる。
グルスイーグの力は、氷を操るだけでなく相手を凍らせる力もある。温度を下げる、マイナスに働くエネルギーである。
それはプラスのエネルギーをもたらす陽の力を相殺できるかもしれない。
その氷狩の読みは当たった。互いの力は互いによって無効にされている。これならあとは肉弾戦だ。
「なるほど。俺たちの力は互いに相殺し合うようだな」
タイハも氷狩の力についてはある程度認めたようだ。
「だが、おまえも俺の力を見くびっているようだな」
タイハの纏う空気が、一層重みを増す。
「真のサーマルリレーの威力を思い知るがいい!」
そう言って、氷狩の右足に向けてレーザーを放った。アイシングヴェールによって防げる、もしくは威力が半減されると氷狩は思っていた。
だが、レーザーはヴェールを貫通し、氷狩の右足に直撃した。
「うわっ!」
思わず膝をついてしまう氷狩。右足にうまく力が入らないのだ。
先程の塁のように、炎傷とも何ともとれる傷。痛みはないが、これでは足を満足に動かすことができない。
「陽の力を舐めるな」
タイハが、黄金の使者としての核を見せ出した。
「陽の力には制限というものは存在しない。俺が望めば望むほどプラスの力を上げることができる。おまえのヴェールなど、紙切れほどにしかならん」
それを証明するかのように、タイハはレーザーを今度は左足に向けた。右足をまともに動かせないため、氷狩はかわすことができない。
氷狩は左足にも直撃を受けてしまった。足を封じられた以上、氷狩はもう逃げることはできない。
「無限に近い陽の力を、思い知ったか」 「無限に近い…」
その言葉を受け、氷狩は気づいた。
「まさか、陽の力というのは太陽…?」
太陽。あの強烈な光や熱も、無限に近い力も、すべて太陽を彷彿される。その圧倒的な力も。
「太陽の前では、おまえの氷などすぐに解けるものだ」
タイハの威圧感の前で、氷狩は思わず竦んでしまった。自分が対峙しているのは太陽、自分の力では覆すことなどできない。
「己の力量というものがわかったようだな」
動けずにいる氷狩に、タイハは構えをとる。あの構えは、ライトスピアーだ。
「最後はこの技によって敗北をかみしめるがいい!」
タイハは氷狩目掛けて光の角を突き刺してきた。
アイシングヴェールが突き破られ、スピアーに貫かれた氷狩。彼はそのまま振り払われ、倒れてしまう。
終わった。
タイハはそう確信していた。ライトスピアーは確実に氷狩の急所を貫いた。死にはしないが、もう戦えないはずだ。
「なっ…!」
しかし、氷狩は立ち上がってきた。しかも、ライトスピアーで受けた傷も浅かった。
「ライトスピアーを受けて何故…?」 「生憎、一度見た技をそうやすやすと受けるわけにはいかないからな」
氷狩の脳裏には雷矢と戦った時のことが浮かんでいる。
雷矢との戦い。雷矢は一度見ただけでフリージングスノウズを見破り、完全にかわしたのだ。驚きも生じたが、それ以上に悔しさに見舞われた。
仲間たちの力を合わせることで雷矢には勝ったが、氷狩の心にはその感情が深く根付いていた。
あの人に、負けるわけにはいかない。それなら最低、あの人ができたことぐらいできるようにならなければならない。
完全にかわすことはできなくても、ダメージを最小限に抑えることはできる。
「なるほど、うまくかわしたというわけか。だが圧倒的な実力差を前にしてまだ戦うのか?」 「実力差は、問題じゃない…」
氷狩は、タイハから目を背けない。
「大切なのは、逃げ出さないこと。恐くてもいい、やせ我慢でもいい。目を背けずに、立ち上がることなんだ」
そして氷狩は、再びタイハと戦おうとする。そんな彼に、タイハは辟易していた。
「まだ太陽を相手にするつもりか?」 「太陽だって、いつかは終わりが来る。けど、それでも燃え続けようとしているんだ」
構えをとる氷狩。
「なら俺だって。溶かされてしまうとしても、何度でも挑戦し、陽の力もおまえも凍結させてみせる!」
フリージングスノウズを放つ氷狩。
「無駄だ。この攻撃で、おまえの敗北は決定となる」
タイハはとどめとなるサーマルレーザーを撃つ。これによりフリージングスノウズは打ち消され、そのまま氷狩を焼くと思われた。
「なっ!これは…!」
だが、サーマルレーザーは両者のちょうど中間で抑えられてしまった。フリージングスノウズがレーザーを押し留めているのだ。
「バカな!お互いの必殺技の威力が互角だと?」
タイハは手を抜いていない。全力で攻撃している。その攻撃に、氷狩が押し留めているのだ。自分より実力が離れているこの男が。
「まさか、この俺と同等レベルまで威力を上げたというのか?」
なんて奴だ、とタイハは驚いた。だが、すぐに気が付いた。
氷狩の体から、白い気体が出来ているのだ。
タイハは瞬時に理解した。あれは冷気であると。
「奴の体から冷気が漏れている…!」
それが示すのは、一つしかなかった。
「おまえ、自分の限界以上に高めた力を放っているのか!」
タイハの実力は氷狩のはるか上のレベルだ。それに対抗するためには、自分の心の力をタイハの域にまで上げればいい。
氷狩はそこまで高めた力を、すべて出し切っているのだ。しかしそれは、完全にコントロールできるものではない。
自分の技量を超えた力など簡単に制御できるわけがなく、せっかく高めた力が消えてしまうか、力に振り回されてしまう。氷狩の体から冷気が漏れているのはその証だ。
そして、それだけの力を使っていけば、体力の消耗も激しくなる。
疲労から、フリージングスノウズの勢いが下がっていく。このままではサーマルレーザーに押し切られてしまう。
「くっ、負けるか!」
疲れを振り切り、氷狩は再び心の力を高めようとする。
「よせっ!それ以上はおまえの身が…」 「それでも!」
自分の身が危険だろうと、自分は戦うんだ。
その勇気が、氷狩のマインドを覚醒させた。
恐竜のオーラを背後に浮かばせ、さらに自分の力を高めた。その力を、フリージングスノウズをこめる。
再びフリージングスノウズに勢いが戻る。レーザーと拮抗し、そしてレーザーは拡散されていった。
タイハはそのまま、フリージングスノウズを浴びてしまった。その凍気の威力に、彼は倒れこみそうになる。
「バカな!押し返されただと!」
自分の必殺技と互角なだけでなく、それを押し返して自分にダメージを与えるとは。
凍りついた自分の下半身を見て、タイハは驚いていた。
「しかし、おまえだって無傷ではあるまい」
タイハは氷狩の方を確認する。
氷狩も左肩から腹部にかけて凍結していた。自分のレベルでは扱いきれない力で必殺技を放ったため、その反動でダメージを受けてしまったのだろう。
「見事な反撃だが、それもここまでだな」
自分は脚を凍結させられた。対して、氷狩は左上半身の凍結に加え、両足はレーザーを受けて満足に動けない。
傷だけではない。必殺技であるフリージングスノウズはタイハを凍らせはしたが、決定的なダメージを与えることができなかった。力で相手を上回ることができても、それをぶつける技がないのだ。
「最早勝負は見えている。が、ここまで戦ったおまえには相応の敬意を払うべきだな」
タイハは、新たな構えをとり、力を練りだし始める。
「最後だから教えてやる。陽の力というのは、プラスイオンを操る力だ」
イオンとは、原子が電子を放出したり受け取ったりすることでできる粒子であり、プラスイオンは前者の、もっとも外側の電子殻から電子を放出し正の電荷をもつことでなる。
プラスイオン、陽イオンとも言うが、この物質が原子からなるには電子を放出させるためのエネルギーが必要である。当然、より多くの電子を放出させるにはそれに比例してエネルギーはもっと大きくなっていく。そして、二つ以上の電子を放出させた陽イオン、多価イオンと言うが、電子を吸収すると膨大なエネルギーを放出する。
タイハはこの多価イオンを操ることができる。そして、それがもつエネルギーを戦闘に利用しているのだ。また、太陽は水素原子による核融合によるものであり、多価イオンはそれによって生じたプラズマに多く存在している。タイハが自身を太陽と称していたのはこのためであろう。
「そして、これが俺の持てる力を込めた最大の必殺技だ」
タイハの掌に光球が出現し、段々と大きくなっていく。
「その名も、ソーラービーム!この光エネルギーの光線が、おまえの氷を勇気をも撃ち抜く!」
見るだけでわかる。最大の技というのは口だけではない。いくら氷狩が力を高めても、フリージングスノウズでは対抗できない。
氷狩はもう成す術はない。タイはそう確信していた。
だがそれは、氷狩がフリージングスノウズしか技を持っていると仮定してのことだ。
「…なんだ、それは!」
氷狩もまた、タイハに応じるように構えをとった。
見たことのない構えだ。だが、氷狩が集中しているのを察し、フェイクではなく真の、まだ見ぬ必殺技であることを察する。
「…できればこの技は使いたくなかった」
彼はここに来る前日まで行った修業を思い出す。彼は今日に備えて佳幸、達郎と共に特訓をしていた。
二人の協力もあって、氷狩は一体化を習得することができた。だがこれだけでは、二人に追いついたとは言えない。
佳幸は攻撃、達郎は防御というように、自分にも特化した技というものがなければならない。ただ氷を使って攻撃するのではヒナギクの真似でしかなく、それでは自分が一緒に行く意味がない。
試行錯誤の末、氷狩は自分の持ち味というものを手にすることができた。
それは、対象を凍結さえること。相手やその攻撃、そしてすべてを凍りつかせる。相手を封じることのできるこの技は他の仲間たちにはできないことだ。
目指すべき方向が決まったなら、あとは努力するだけだ。
そして、氷狩は極めることができた。だがそれは、諸刃の剣であった。得た必殺技は極めすぎたため、氷狩の今のレベルでは扱いきれないのだ。
それでも、やるしかない。
「自分が傷つくことになろうとも、自分で決めたことだから逃げ出してはいけないんだ」
実戦で使うのは初めてだ。どうなるかもわからない。
それでも、やらなければならない。
対して、タイハは余裕の態度だ。
「この正念場で、自らの手に余るような技で決められると思うか!」 「決めてやる」
氷狩の決意は固かった。
「ならば思い知るがいい。黄金の使者の格と、自らの浅はかさを!」
タイハの掌で、一層光が増しソーラービームを放った。
氷狩も、同時に秘めたる力を発した。
「アブソリュート・レイ!」
両者の技が今、交錯した。
本気の技同士のぶつかり合い。勝ったのは、どちらか。
「大した奴だな、おまえは」
技を放った構えのまま、タイハはふと笑った。
「この俺のソーラービームを止め、そして俺自身を凍りつかせるとは」
彼が言葉を紡いでいく内に、足からその身を氷が覆っていく。氷狩の必殺技が勝ったのだ。
「だが、おまえとてただじゃすまなかったな…」
タイハが完全に凍結したと同時に、氷狩もまた凍りついていた。やはり彼の必殺技は、まだ自分では扱いきれていなかったのだ。
だが氷狩は満足していた。タイハをここに留まらせ、仲間たちを先に行かせたのだから。彼が託した思いは、ハヤテたちの中で勇気となり、戦いの原動力となるだろう。
41話はこれで終了です。 次回は来週更新予定です
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