Re: 新世界への神話 4スレ目 3月8日更新 ( No.10 ) |
- 日時: 2020/03/15 21:50
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- こんばんわ。
今週の分を更新します。
3 はじめてラナロウを倒すことができた。
それは、このままいけば彼に勝てる。伝助にそう確信させるには十分であった。
だが。
「どうやら俺はおまえを甘く見ていたようだ」
ダメージは効いている。なのに、ラナロウは立ち上がってきた。
マインドが覚醒した中での必殺技。それを受けた中で、ラナロウは決心した。
「俺も、全力の技で応じよう」
青銅クラスが、黄金クラスを倒した。
この事実から、伝助の強さを認めなければならない。だから、ラナロウも自身最大の必殺技を放つことを決めた。
「受けるがいい」
ラナロウは両の掌に圧力を用いて、周囲に散ったエネルギーを集める。
「プレサスブラスター!」
そのエネルギーをビーム条にして伝助に向けて放った。
目覚しい反撃を見せた伝助だが、彼にはもう相手の攻撃を回避する余裕はない。
そのまま巨大なビームに、伝助は飲み込まれてしまった。
プレサスブラスターは、圧力によって作られたビームだ。それには、空気や水や電力といったエネルギーが含まれている。
それらが伝助の身に牙を立てていく。
プレサスブラスターを受けた伝助はその場で倒れてしまった。
終わった。
ラナロウはソウ確信していた。プレサスブラスターを受けた以上、立ち上がることはできない相手の体はズタボロになっている。
これでようやく、敵の一人を倒せた。
霊神宮にたてつく者は許さない。何者であろうと、排除するまでだ。
「さて、次はこの間を抜けた奴らを追いかけるとするか」
倒れている伝助を背にし、ラナロウはハヤテたちの後を追い始める。この先に待ち受けている黄金の使者がそう簡単にやられるわけではないが、反逆者を許さないのは変わりない。自らの手で討たなければ気が済まない。
そんな彼を止めるものが。
「どこに行くんです?」
声のした方向に、ラナロウは驚きをもって振り返った。
なんと、伝助は起き上がっていた。プレサスブラスターを受け、その身は動くことさえできないはずだというのに。
その状態で立ち上がったことが信じられないが、ラナロウはすぐに興味を失せた。
「そんな体で何をするというのだ?」
もはや伝助に、抵抗する力などないと見ていたからだ。
「あなたを、倒す」
それを聞いたラナロウは思わず笑ってしまった。
何の冗談だろう。そんな身で戦えるというのだろうか。
「最大の拳と言っていた嵐鷲滑空拳も、この俺には通用しなかったではないか」
そう。伝助の必殺技は決定的なダメージは与えられなかった。伝助にはもう攻め手がない。そのはずだった。
だがラナロウは、突如戦慄を覚えた。
伝助はまだ、何かをやろうとしている。技はすべて失ったというのに。
そんな彼にラナロウは気付いていた。伝助はまだ何かを隠している。
それは、あの嵐鷲滑空拳以上の威力を秘めていると。
「まだ、嵐は止んでいないというのか」
そこでラナロウは気づいた。
「風が…吹いている?」
八方向から、この厚保野間に風が流れ込んでいる。
ありえないことだ。圧の間は外から完全に閉ざされている。出入り口はともかく、十二の間には風が通るような窓は無い。
しかし現実、風は伝助を中心にして集うように流れている。これは、伝助が起こしたものだというのか。
「人には、求めるものと避けるものがあります」
伝助は、まっすぐにラナロウを向いている。相手に目を反らさせない。そんな迫力が込められていた。
「利や誉などの四順を求め、衰えや苦しみなどの四違を避ける…」 「八風、か」
八風。それは仏の教えにある単語である。仏の修行には、それを妨げる八つの出来事が存在し、利い、誉れ、称え、楽しみの四順と、衰え、毀れ、譏り、苦しみの四違からなるそれらを八風としている。
「この八風に侵されない者こそが、賢人とされています。ですが…」
伝助は自らが抱く何かの思いを込め、拳を握った。
「それらに心が揺さぶられ、時には間違いを犯してしまうのが人ではないのでしょうか。だからこそ、人は心を理解し、救いたいと願うのではないのですか?」
その拳に、八つの風が集っていく。
「人として、精霊の使者として、この風間伝助はそう考えているのです」
ワイステインと出会い、精霊の使者となり佳幸たちと出会ってから、苦しんだり楽しんだり時には失敗をすることもあった。八風に侵されてきたといってもいい程だと自分では思う。
だが、その度に自分は強くなろうとしてきた。助けてもらった仲間たちのためにも、今度は自分もやらなくてはならない。身を張ってでも。
「その心をこめたこの拳で、あなたを倒します」
そう言ったと同時に、八つの風の勢いが強まる。
今、はじめてラナロウは伝助に危機感を抱いた。
このままでは本当に、自分は倒される。今決定的なとどめを与えなければ、やられる。
「これで終わりだ!」
ラナロウは最後の一撃として、プレサスブラスターを放とうとする。しかし、伝助の方が早い。
「受けなさい!この拳を!」
圧の間内の風が、ひときわ強く爆ぜた。
「嵐鷲八風拳!」
第十一の間へと先を急ぐハヤテたち。
後に残った伝助も、必ず追いつくと信じて。
そんな彼らを、一瞬そよ風が撫でた。
「これは…」
全員が何かの予感をいだかせるには十分であった。
「まさか…」
伝助の身に何かが起きたのか。
足を止め、圧の間があった方向を振り返ってしまう。
伝助は無事なのだろうか。みんな心配してしまう。
「ここで止まるわけにはいかない」
それでも、彼らは進まなければならない。
「伝さんに言われたもんな。先に言ってくださいって」
伝助と約束したのだ。自分も後で追いつくから、先に行ってくれと。
ハヤテたちはそれを信じて行くしかない。
大丈夫だ。伝助は約束を反故するような男ではない。
伝助の必殺技、嵐鷲八風拳によって舞った砂埃が晴れる。
伝助とラナロウは、最後の激突からその場で立ち尽くしたままだった。ピクリとも動く様子は全く見せない。
「風間伝助、と言ったか?」
しばらくして、ラナロウは伝助に問いかけた。
「おまえは、何のために戦ったのだ?」
伝助は、黙ってラナロウの話に耳を傾けている。
「自らを傷つけてまで、なぜここまで戦おうとする。おまえほどの男が、ただ私利私欲のためだけに戦うとは思えない」
もしそうであったのなら、伝助はこんなボロボロの状態になってまで戦おうとは思わないはずだ。この男はそんなに愚かではないはず。
一体何がこの男を戦わせているのだろうか。
「正義のため、なんて格好つけたことは言えませんが…」
伝助は疲労の中、弱弱しくもしっかりと声を絞った。
「仲間のため、スセリヒメとなる三千院ナギさんのため、そしてなにより彼らが好きな自分自身のために」
スセリヒメ。
その単語に、ラナロウは反応した。
「ナギさんはワガママにも見えますが、純粋で優しい心を持っています。それだけでなく、人を引き付ける魅力というのもあります」
自分たちはナギを信じ、ついてきた。なんだかんだ言いながら、エイジだってそうだ。
彼女の周りには自然と人が集ってくる。彼女に何かそうしたくなる、そんな気持ちを抱かせる。決して悪い人ではないということも分かっている。それはきっと、ナギはそういう人物だからだろう。
「そんなナギさんだからこそ、龍鳳も選んだのでしょう。だから僕も、今度こそ力になりたいと戦うことを選んだ。それだけです」
陽子の時のようにはさせない。
その思いが、伝助の戦う理由であった。
「…そうか」
それを聞いたラナロウは、納得したようだった。
「スセリヒメのため。霊神宮にいる使者であるなら当然のことであろうに、忘れていた」
ラナロウの戦意が失せたのか、彼とプテラクスとの一体化が解かれた。
「俺は明智天師に従えばいいと思っていた。彼が間違っていても、使者としての務めを果たすことが精霊の使者であるべきなのだと」
ラナロウだって悪人ではない。ただ使命感が強すぎたため、盲信のきらいがあっただけだ。
伝助は戦っていて、それがよく理解できた。
「けど、俺よりおまえの方が霊神宮の使者にふさわしい。俺の敗北は必然というわけか」
ラナロウの体が、ふらりと揺れ出す。
「おまえの勝ちだ、風間伝助。だが、おまえもここまでだ」
この言葉を最後に、ラナロウは倒れるのであった。
伝助はしばらく立ち尽くした後、ワイステインとの一体化を解いた。そこから、第十一の間を目指して歩き出す。
「行かなくては…」
だが、数歩したところで、伝助は突然吐血してしまう。
「八風拳の反動、か…」
嵐鷲八風拳は滑空拳以上の威力を秘めている。だがその強すぎる力は使い手の精神や肉体まで傷めてしまう。故に伝助はとっておきとしてこの技を禁じ手としていた。
しかし伝助は勝利のためにそれを使った。しかもダメージを負った状態で繰り出したのだ。伝助にはもう先に進む力すらない。
それでも、彼は先を目指す。
「約束したのですから。行かなくては…」
だが足はおぼつかず、逆に伝助は前のめりで倒れてしまう。
同時に圧の間に風が入り込み、彼の体を優しく撫でるのであった。
第40話はここまでです。 次回は来週更新予定です。
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