Re: 新世界への神話Drei 12月8日更新 ( No.92 ) |
- 日時: 2018/12/21 22:00
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも。
今回で第37話は最後です。 それでは、どうぞ。
5 「…いい答えだ」
トキワは塁に向けて紅の宝石をよこした。
塁はそれをしっかりと受け取り、躊躇せずにリングへと挿入した。それを見てトキワも紅の宝石を装備する。
それだけで、始まりの合図はなかった。デスマッチは既に幕が明かされている。
コーロボンブとアムドライはお互い殴り合った。それだけで、塁とトキワに激しい痛みが走る。
両者ともに倒れこみそうになるが、歯を食いしばり足で踏ん張りなんとかその場に踏みとどまる。
「やるな」 「お互いにな」
そこからは、二人とも殴り合いの応酬となった。相手が殴れば、自分も殴り返す。その繰り返しであった。
ダメージを受け、体力も精神力も減ってきている。しかし負けたくないという闘志だけは逆に燃え上がり、二人を戦わせているのだ。
ハヤテたちはこの戦いを見守ることしかできなかった。
塁はトキワに、トキワは塁に集中していた。この状況で横槍を入れることは簡単だ。
しかし、それはできなかった。いや、したくなかったと言ったほうがよいか。
自分たちは先へと進まなければならない。だが、闘志をもってぶつかり合う二人の中に割って入るのはなんとなく気が引けた。
彼らは自分の全てをかけて戦っているのだ。ならば、自分たちは塁の戦いを見守りたい。
「困ったものだわ」
そんな言葉を口にする花南。彼女には塁の行動が理解できない。だが感情は理解できる。
塁はプライドをかけて戦っているのだ。自分なら水を差されたくない。だから塁が勝つことを信じて見届けるしかない。
自分たちは、自分のためにも戦っているのだ。
そんな仲間たちの思いなんて気づいていないだろうが、塁は尚も戦い続けていた。
「ショックサンダー!」
コーロボンブがアムドライに向けて電撃を放った。かわすことはできず、電撃を受けるアムドライ。
「サンダーボルトナックル!」
続けて必殺技を放つ。拳は見事アムドライに命中した。
アムドライが受けたダメージが、トキワにも伝わる。
「くっ…やるな…」
二発分の必殺技を受け、トキワは気を失いかけるが何とか取り戻す。
ここまでやるとはトキワは思わなかった。これ程ギリギリの戦いになるなんて、高揚せずにはいられない。
そして、黄金の使者として負けるわけにはいかない。
「雷神槍雨撃!」
アムドライから無数の電撃が放たれ、コーロボンブに襲いかかる。
コーロボンブを通して、ズタズタに切り裂かれる痛みを感じる塁。
しかし、それをこらえて真っ向から対峙する。
「どうした?エレクトロンブレイクとやらは出さないのか」
トキワは塁に向けてそう話しかけてきた。
「おまえにはもう、その技しか残されていない。エレクトロンブレイクでなければ俺を倒すことはできないぞ」
明らかに挑発である。しかし、事実でもあった。
そしてそれは相手も同じだと塁は感じていた。お互い最後の一撃を控えていると。
次の一発で、勝負が決まる。
塁はこの一撃に、コーロボンブに、自分の闘志を込めた。
「エレクトロンブレイク!」
電撃を纏った手刀が、振り下ろされる。
「雷神槍雨撃!」
相手もまた、電撃の槍をこちらに飛ばしてきた。
両者の必殺技が交錯し、それぞれが標的に牙をむいた。
コーロボンブは貫かれ、アムドライは切り裂かれた。そしてそのダメージを受けた塁とトキワはその場で倒れてしまった。
沈黙が鎧の間を支配する。
「まさか…二人とも死んじまったんじゃないよな」
ピクリと動かない二人を見て、達郎はそう思ってしまう。
それを聞き、全員が怒りだす。
「何縁起でもないことを言ってるんだよ!」 「塁さんを信じろ!」 「いや…でもさ…」
責められて、達郎は怯んでしまう。しかし、彼の気持ちもわかる。
塁は立ち上がれるのか?それとも…。
固唾を呑む中、遂に誰かが動いた。
起き上がったのは…。
「くっ、生きているか…」
意識が朦朧としながらも、トキワが立ち上がってきた。
「い、生きていたのか?」 「いや、生かされたのだ」
そう言い、トキワは自分のリングから赤い宝玉を取り出した。
その宝玉には、ひびが入っていた。
「ショックサンダーとサンダーボルトナックルだったか?あれらの必殺技によってこの宝玉が機能しなくなったのだ」
つまり、こういうことだ。
塁の放ったショックサンダーはアムドライを通じて、トキワにではなく彼がつけているリングへとダメージを与えていたのだ。宝玉の効果が働かないように麻痺させて。
次に放ったサンダーボルトナックルも、宝玉自体が狙いだった。これにより宝玉にヒビが入り、その機能が半減したのだ。
「勝負には勝ったが、相手に命を救われたか…」
こんな結果では、素直に喜べないトキワである。
「しかし、何故この男はそんな真似を?」
その疑問に答えたのは、拓実であった。
「塁はケンカが好きだけど、殺し合いはしたくない。遺恨が残るような戦いは絶対ごめんなんだ」 「それが、この男のやり方という訳か…」
それで死んだら元も子もない。
だが、自分の流儀に従って闘志を燃やして戦い、決着がついたのだ。もし塁がトキワを殺して構わない気でいたら、自分も死んでいたかもしれない。
「この勝負、私の負けかもな…」
倒れている塁に、トキワは賛辞を送る。
一方、塁の仲間たちは。
「塁さん…やられちまったのかよ…」
塁の死に、皆悲しんでいた。ハヤテも、ナギも、光たちも。
「ちくしょう!」
そして、エイジがトキワに向って歩き出そうとする。 「待ちなさい、エイジ君!」 「放してくれ!塁さんの仇を取るんだ!」
伝助の制止を振り払い、塁の脇を通り過ぎてトキワに喰ってかかろうとした時だった。
突然、エイジが前のめりに倒れこんでしまった。
「ぶっ!な、なんだ…」
頭だけを後ろに向けると、エイジは驚く。
なんと、死んだと思われた塁がエイジの足首を掴んでいるではないか。しかも…。
「勝手に殺してんじゃねぇ…」
顔だけ上げて、エイジを睨んでいるではないか。
「生きてた!?」
この場にいる誰もが驚く。
「ま、まだ彼女もできてねえのに死ねるかよ…」 「そのセリフ、情けないと思わないの?」
毒を入れた拓実にうるさいと返しながらふらふらと立ち上がり、次に塁はエイジの頭を軽く叩いた。
「おまえの気持ちは嬉しいぜ。けど、拓実が言ったように復讐ごっこはやめてくれ。お互い納得したルールで戦ったんだから、悔いはないさ」
エイジの方はと言うと、唇を尖らせていた。恐らく塁の言葉ではなく、自分が子供扱いされたような態度に納得がいかないのだろう。
そして塁は、トキワと向き直った。
「…引き分けか」 「いや」
トキワは自分の紅の宝玉を見せる。
「これにひびを入れた程の技を繰り出したこと。何よりデスマッチで相手から命ではなく死を奪ったのだから、脱帽せずにはいられんな」
その上で、自らは生きているのだ。素直に敗北を認めるしかないと言った。
「じゃあ…」 「ああ、ここを通るがいい」
それを聞き、みんな喜びながら闘の間を後にする。
「ルイ、とか言ったな」
そんな中、トキワは塁を呼び止めた。
「おまえにはもう戦う力はないはず。それでも先へ進むのか?」
これに対して、塁は迷うことなく答えた。
「あいつらの盾にでもなればいい。とにかく、動けるなら戦うまでだ」
そう言って、塁も去っていった。
「…見せてもらおうか、おまえの闘志がどこまで行くのか」
その言葉は、塁の魂の資質を認めたことの証であった。
これで第37話は終わりです。
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