Re: 新世界への神話Drei 11月18日更新 ( No.91 )
日時: 2018/12/08 19:20
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23

どうも。

続きを更新します。


 4
 負けられない。

 その思いは負けん気の強い塁の中でとても大きかった。それが、塁を立ち上がらせる原動力となっている。

 いや、立ち上がるだけではない。強敵と戦う時に沸き立つ感情。

「闘志…か」

 塁の魂の資質。それが更に彼のマインドを覚醒させる。

 塁の背後に、雷獣のオーラが浮かび出てきた。

「…面白い」

 塁に呼応するかのように、トキワもマインドを発動させた。

 塁が発した雷獣のオーラに襲いかかるように、鎧を纏った虎のオーラがトキワの背後から生じた。

「もう一度喰らってもらおうか!」

 トキワは再び雷神槍雨撃を繰り出す。ダメージが残っているため塁はかわすことができない。

 加えて、トキワは今マインドを発動している。必殺技の威力は段違いに上がっている。

 雷神槍雨撃を、塁は成す術もなく受けてしまう。大きく後方へと吹っ飛ばされてしまう。

 地に倒れ、意識が見られない。今度こそやられたか。

「塁さん…」

 しかし、塁はまた立ちあがった。

「ほう…」

 これにはトキワも驚いた。立ち上がってきたことだけじゃない。

「…ん、あれ…」

 なんと、塁は立ち上がって木から意識を取り戻したのだ。言いかえれば、塁は無意識状態の中で、本能によって立ち上がったのだ。

 本能で戦いを継続する。それは並大抵でできることではない。

 そういえば先程塁は言っていた。このまま倒れるわけにはいかないと。その思いが、本能レベルで行動を起こしたのだ。

 彼の戦士としての素質は、自分たちに匹敵するかもしれない。

「全力での雷神槍雨撃を受けても、立ち上がってこれるとはな…」

 もう一つの驚きはそれであった。一発目と違い、手を抜いていない。塁も直撃を受けたはず。立ち上がるだけの力も残っていないはず。

「へっ、同じ技を立て続けに喰らって倒れるわけにはいかないんでな」

 つまり、一撃目を喰らった時点で雷神槍雨撃についてある程度見切ったということだろう。そのため、技を喰らっても致命傷には至らないよう、防ぐことができたという訳だ。

 そんな塁を、トキワは益々好ましく思えてくる。

「それで、立ち上がってきてどうするんだ?」

 塁の次の手に興味がわいてくる。

 結局のところ、トキワも戦いが好きなのだ。

「その鎧を叩っ切る」

 塁は右手をトキワに向ける。

「この一撃でな」

 彼の右手が電気を纏いだす。それと同時に、再び塁から雷獣のオーラが浮かび出てきた。

 トキワは一瞬戦慄を覚えた。それはオーラによるものではない。

 これから塁が放つ一撃には、自分が手痛いダメージを与えることができるほどの威力を秘めていると感じたのだ。

「喰らえ!」

 塁が駆け、トキワとの距離を詰めていく。トキワは迎え撃とうとする。

 炎神剛斧を放つが、塁はそれをかわし、一気に肉薄して一撃を放った。

「エレクトロンブレイク!」

 塁は手刀をトキワに向けて思いっきり叩きこんだ。

 電撃を纏った手刀の一振りが、トキワの鎧を捕らえ、紙のように切り裂いた。

「なんと…」

 自慢の鎧を切り裂かれ、トキワは驚きを露にする。

「すげぇぜ、塁さん!」

 味方側からも称賛の声が上がる。

「あんな必殺技を持っていたなんて、やるじゃないか!」
「ええ、ですが…」

 その中で、伝助は暗い顔をしていた。

「どうしたの、伝さん?」
「…あの必殺技は、塁君の全力が込められた、断ち切れないものはない技です。それが、トキワの鎧とぶつかった」
「それがなにか?」

 何が言いたいかわからない。そんな一同に伝助が説明した。

「矛盾って言葉を知っていますか?」
「た、確かつじつまが合わないって意味だったような…」
「この言葉の由来は、中国の故事にあります」

 ある商人が、矛と盾を売っていた。

 矛は、どんな盾も突き通し。

 盾は、どんな矛も防ぐ。

 商人は、矛と盾についてそう謳っていた。すると客は言った。

 その矛と盾をぶつけたら、どうなるか。

 商人は、答えることができなかったという。

「これを題材にした話の結末は、ぶつかり合った両者は共に砕けてしまうというのがほとんどです」
「じゃあ、今その通りのことが起こったとしたら…」

 この場合、盾はトキワの鎧、矛は塁のエレクトロンブレイクに置き換わる。トキワの鎧が切り裂かれたが、同時に塁も…。

「右腕を、いってしまいましたね…」

 注意深く見てみると、塁は右腕を下げている。無意識であろうが自分でも危険を察しているのだろう。

「でも、あの技は右腕だけしか出せないわけじゃないでしょ?」
「そうだね。でも、出せてあと一回ってところかな」

 あと、一発。

 塁はそれにかけるしかないのだ。

 一方、トキワは冷静だった。自慢の鎧に傷をつけられたというのに。

 これも自信の表れだろうか。そう思っていると、突然トキワの一体化が解かれた。

 これにはみんな驚いた。

 一体化が解かれるほどのダメージを受けたのだろうか。いや、トキワ自らアムドライとの一体化を解いたのだ。

 余裕とは違う。何のつもりだろうか。

「傷をつけられた以上、最早鎧はあってもないようなもの。ならば、私の心の力で勝負を決めてやろう」

 どうやら向こうは防御を捨て、攻撃のみに集中するようだ。

 皆これはチャンスだと思った。相手との実力差は大きい。倒すなら今しかない。

 だが塁は。

「面白い」

 なんと塁も、コーロボンブとの一体化を解いたではないか。

「あんたと俺、どっちの闘志が強いか勝負だ」

 塁は対等の条件でトキワと勝負するつもりだ。後は心の力だけが勝負を左右する。

「まったく、呆れちゃうわね」

 花南はため息をついてしまう。コーロボンブと一体化したまま戦えば勝てるものを、わざわざ自分も一体化を解くなんて、どうかしている。

 しかし、塁はやる気だ。そしてトキワも。

「おまえ、変わっているな」
「あんたこそ」

 二人は互いに笑いだした。

「…変わっているわね」

 こんな状況で笑いあうなんて、花南にはわからなかった。いや、彼女だけでなく皆理解できなかった。

 戦い合う二人だけで感じあえるものがあるのだろうか。

「おまえ、デスマッチはやったことがあるか」

 それは、唐突な質問だった。

「ない」

 けど、と塁は強い意志を込めて言った。

「戦うからには、俺の命すら力の一部として戦っている」

 彼の目に、嘘などなかった。

 それを感じたからこそ、トキワは塁に提案した。

「どうだ、決着ぐらいデスマッチでつけないか?」

 そう言って、宝玉を二個取りだした。

 血を想像させる紅。なんだか禍々しい印象を与える玉である。

「この宝玉をリングに挿入すると、精霊が受けるダメージがダイレクトに使者へ伝わる」
「つまり、それをリングにつけて、どっちが倒れるまで戦えってことだな」

 精霊が受けるダメージが使者にも伝われば、下手をすれば精神崩壊、最悪の場合ショック死に至ってしまう。

「この俺の挑戦、受けるか?」

 塁に恐怖はあったが、それ以上に闘志が燃えていた。

 格上の黄金の使者からの挑戦状。それは自分を一人の使者として認めてくれたのかもしれないということだ。

 ならば自分も、これを受けなければならない。

「答えは、イエスだ!」





今回はここまでです。

年末までのレス終了に間に合うかな。