Re: 新世界への神話Drei 約1年ぶりの更新 ( No.86 ) |
- 日時: 2018/04/14 15:03
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24
- お待たせしました。
ゲーム大会等色々とやることがありまして、この小説を長い間更新停止状態としてしまいました。 約1年以上の更新となります。
4 佳幸が戦うのは、自分のためだけではない。ナギのため、仲間たちのため、そして精霊のため。
先代のスセリヒメ、黒沢陽子は多くの人を思ってその身を散らした。けど、自分たち以外の使者はそれをしなかった。守るべき陽子も、人であるのに。これでは救いがない。陽子も、人の心を救うはずの精霊も。
だから戦う。スセリヒメであろうがために試練が待ち構えているナギの、苦しくても戦うことを選んだ仲間たちのために。そして、精霊が正しく人の心を救えるようにするために。
人を思う佳幸の心が、自身のドラゴンリングを光らせた。その様子を、タイチも確認していた。
「その言葉は、偽りではなさそうだな」
ドラゴンリングの光を見て、タイチは佳幸が自分と同じ魂の資質を持っていると確信する。
「おまえも炎の精霊の力となる、愛の魂を持っているのか」
そして、それに呼応するように自らのデモンリングを光らせる。
やはりタイチも、愛の魂の資質を持っているのだ。
「おまえの気持ちはわかった」
タイチは、佳幸の心を使者として認めた。
しかし、それと戦いは別だ。
「だが、私は戦いを引くつもりはない」 「だから僕は、あなたを倒す!」
そして、佳幸は力を集中し始めた。
「本当はもっと後の戦いに取って置きたかったけど、あなたは強い。出し惜しみはしない」
佳幸の中で高まっていく心の力が炎を生む。それは大きくなって、佳幸の身体を包みこんでいく。
「あれは…」
その様子を見た達郎は思わず口からこぼれた。
「何か知っているのか?」 「佳幸も特訓で新たな力を得たんだ。あれはその兆候だ」
そう言い、達郎は佳幸の方を見ろという。
「そろそろ変化が現れるぞ」
彼の言うとおり、佳幸を包む炎の様子が変わっていく。それまでは紅い炎だったが、段々と青い炎へと変わっていく。
炎が吹き飛び、佳幸が新たな姿を披露した。
先程までと違い、身体の色が赤から青に変わった。体のフォルムも、空気抵抗が減らされ、身軽なイメージを持つ。
「形態変化か…」
タイチはその姿を調べるように見る。
「そんな手を使っても、この私は倒せん!」
佳幸目掛けて金棒が振りおろされる。
叩きつけられると思われたが、その直前佳幸の姿が突然消えた。
「なんだ!?」
一瞬のことにハヤテたちは驚くが、この形態のことを知っている達郎はもちろん、タイチも初見ですぐに見破っていた。
「高速移動か」
タイチは佳幸の姿を一瞬で捉えていた。佳幸は、通常では瞬時にたどり着けない場所まで移動していた。
「その形態は、スピードに特化したのだな」 「そうさ。あなたの攻撃に当たるわけにはいかない。だから、よければいい」
敵の攻撃を回避しながら、自分の攻撃を当てる。基本の考え方だ。
驚くべきは佳幸の移動速度だ。シルフィードと一体化したハヤテもそうだが、今の佳幸のスピードはかなり速い。これは黄金クラスに匹敵するレベルだ。
しかし、そのためにはより高い集中力が必要だ。
それがどこまで続けられるのか、試してやるか。
タイチが腕を振りかざすと、周囲に立ててあった仏像が浮かび上がっていく。対して佳幸は、両手に二振りの小太刀を構える。
タイチは仏像を次々と佳幸に向けて飛ばしていく。佳幸は高速移動でかわすか、小太刀で裁きながらタイチに迫る。
そして、その小太刀でタイチに素早く斬りかかっていく。何回も何回も連続で。
しばらく経った後、佳幸は再びタイチと距離を取った。あれだけの猛攻を受けたのだ。タイチは大きなダメージを負っているはずだ。
しかし、タイチは大して傷を負っているようには見えなかった。それどころか、佳幸への攻撃を再開したではないか。
「どうなってんだ?あれだけ佳幸の攻撃を受けて動けるなんて…?」
佳幸とムーブランの攻撃がタイチにも通用するのは最初の戦いで証明されている。大した傷はつけられなかったものの、あれだけ攻撃されれば相当こたえたはずだ。
この疑問に、達郎は困ったように説明した。
「あの青の形態は赤よりもスピードは上がるけど、その分攻撃力は下がってしまうんだ」 「なるほど。だから先程のように攻撃を連続で当てなきゃ、相手を倒すことはできないってわけね」
確かに、今の佳幸を見ればわかることだと花南は考える。
佳幸が今手にしている武器はいつもの青龍刀ではなく、小太刀だ。振るう力が少ないものに切り替わっていることから、パワーダウンしていることは明らかだ。
それでも佳幸はタイチに挑む。力は下がったが、スピードが上がったことで敵の攻撃を回避することができる。後はタイチを倒すまで攻撃し続ければいい。
だが、タイチへの攻撃途中、佳幸は突然吹っ飛ばされてしまう。
「嘘!?」
これにはみんな驚いた。今の佳幸は多少反応が遅れても回避できるはずだ。それがどうして、タイチの攻撃に当たってしまったのだろうか。
その理由にいち早く気づいたのは氷狩だった。
「まさか、佳幸が高速移動を停止する瞬間を狙ったのか?」 「そうだ」
どういうことなのか、タイチが更に解説した。
「この男が高速移動できるのは約十秒。それを過ぎるとしばらくの間高速移動ができなくなる。そこを狙えば攻撃を当てることができる」
つまり、高速移動は十秒の間だけ続くのであって、その後高速では動けない時間がある。そこを突かれたのだ。
タイチの説明を聞いた氷狩は、悔しそうに歯噛みする。
「十秒か…そこまでは数えられなかったな」 「いや、気づけるおまえもすごいよ」
達郎の言葉は皆の気持ちを代弁していた。いつも冷静な氷狩だから気づけたのだろう。自分たちは戦いに熱中していて気付けなかった。
まあそれは今どうでもいい。問題はタイチと佳幸だ。いくら時間切れのタイミングがわかっていても、初見で攻撃を当てることは難しい。やはりタイチは強い。そして佳幸だ。タイチの一撃を喰らい、一体化こそ解かれはしなかったが青から赤へと変わっていた。
あまりのダメージに、佳幸はついに後ろへと倒れこみそうになる。
そんな彼を、支える腕が伸びてきた。
「言ったでしょ」
佳幸は自分を支えてくれた者の顔を見る。
「あんたが倒れたら、私が起こすって。背中も押してあげるって」
フラリーファと一体化した花南が、佳幸の背を押して起こしてくれた。
彼女の手に込められた力と、何よりも心が佳幸の心に再び炎を灯す。
「ありがとう」
佳幸は花南に向き、礼を言う。
「もう、大丈夫さ」
その瞬間、佳幸の背後に炎の龍のオーラが浮かび上がった。
この二人の間にあるのもまた、愛。その愛が、佳幸にマインドを目覚めさせたのだ。
「行ってきなさい」
佳幸を戦いへと送り出す花南。
傍から見れば、淡白な何気ないやり取り。しかしそこに込められたお互いを思う心は、何よりも大きい。
佳幸はいつもの青龍刀を構え、タイチに向き直る。
「わかっていると思うが、次で最後になるぞ」
タイチは勝利の確信からか、余裕ある態度を見せる。
「青の形態になっても、十秒以内に倒せなければ今度こそおまえは倒れてしまうぞ」
先程は運よく重傷にならずに済んだ。だが、二度も都合よくは起こらない。これがラストチャンスになる。
そのラストチャンスに、佳幸はかけた。
今回はここまでです。
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