Re: 新世界への神話Drei 12月29日更新 ( No.83 ) |
- 日時: 2017/01/30 21:56
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- 2017年最初の更新です。
年中にこの第3スレまで終わらせたいです。
それでは、第39話です
第39話 愛と鬼
1 闘の間を突破し、ナギたちが目指すは第6の間。
「いやあ、順調順調」
上機嫌で歩を進むは達郎。
「最初は負けるかもと思ってけど、見事俺の秘密兵器が決まったな」
調子に乗っているのはいいが、あまりうるさいと鬱陶しいものである。
「けど、勝ったわけじゃないわよね」
花南の言葉に、達郎は口を閉ざしてしまう。
「あの程度でいい気になるなんて、呆れてしまうわ」
いつものように花南に言い立てられる達郎。彼も彼女に対しては弱腰になってしまう。
「な、なんだよ!おまえだって同じじゃないか!」
それでも反論はするのだが、彼女に睨まれ脅えてしまうのだった。
「けど、ここまで来て誰も勝ちがないのは事実だよね」
佳幸は重苦しい表情で考え込む。
「ここまで勝ちはないけど負けもない。でもそれは黄金の使者が一人相手だったから。しかも全力を出していない」
それに、と佳幸は花南、優馬、ハヤテ、達郎を見て回る。
「身体の傷とかはユニアースの治癒術や鳳凰寺さんの回復魔法で問題ないけど、力の源となる心の方はそうもいかないからね」 「一人相手に相当消費するからな…」
氷狩も深刻に捉えている。
「私は別に、あの程度のことなんて…」 「強がりはよしなよ」
自分のことはなんでも見透かされているような佳幸の態度は気に喰わないが、事実なので花南は何も言わない。
「できればどこかで休みたいところだが…」
時間をかければ向こうの気が変わって全戦力を差し向けてくるかもしれない。そもそもここは敵地、安心して休めるわけがない。
「…先を進みましょ」
ヒナギクが、静かな声で皆を促す。
なんにしろ、彼らには進む以外の道はないのだ。
そんな彼らの、次の関門は。
「鬼の間、か」
第6の門が、ハヤテたちの前に物々しくそびえ立っていた。
「まさか、本当の鬼が待ち構えていたりして…」 「この世界では、ありえることですわ」
海と風は中にいる人物について考え込む。この世界には妖精みたいな生き物もいるのだから、いても不思議ではない。
「ま、こっちには鬼のように強い生徒会長がいるけどね」 「誰が鬼よ!」
自分を指して鬼という花南に、ヒナギクは怒る。
「とにかく、入りましょう」
ハヤテが門を開け、他の者も彼に続いて中へと入っていく。
鬼の間へと入った瞬間、全員言葉を失ってしまう。
中は、想像とは違っていた光景だった。石造りの建物なのは今までと変わらないが、異様なのはその内装だ。
「なんだ、これ…」
エイジがそれを見て呟く。
鬼の間の中には、無数の像が整然と並んでいた。一体一体がきちんと手入れされており、像の出来も見事であった。
「これは…仏像?」 「よくできていますね」
塁と伝助は目を細めて見渡していた。趣向が和風であるこの二人には関心を抱かせるものなのだろう。
それにしても、仏像とはいえこうして大勢に目を向けられると見張られているようで気が気でない。それでも、霊の間と違い不気味な気配というものはないから安心はできる。
「よく来たな」
そして、鬼の間の番人がハヤテたちの前に姿を現した。
「私の名はタイチ。この鬼の間を任されている者だ」
タイチという男は、老人であった。長身でやや体つきは細い。物腰は柔らかく、穏やかな印象だ。
とてもじゃないが、鬼というようには見えない。それどころか、こちらに対する敵意すら感じないのだ。ミークやサイガは最もだが、自分たちを試そうとしたエーリッヒでさえある程度の戦意を見せてきた。
だが、タイチにはこちらと戦おうとはしなかった。それどころか、信じられないことを言いだしてきた。
「どうだろう?ここで少し一休みしていかないか」
一瞬言葉を疑ってしまった。この男にとって、自分たちは敵のはず。疲れている今叩くには絶好のチャンスなのに、何故自ら棒に振るのか?
動揺するハヤテたちを余所に、タイチはどこからかテーブルと、人数分のカップとティーポットを用意してきた。
「精霊界で上質な茶葉で淹れたものだ。口に合うかどうかわからないが、飲んでくれ」
的に茶を勧めるなんて、何かの罠だろうか。しかし、タイチからは相も変わらず悪意というものがなさそうだ。
皆が戸惑い警戒している中、動いていたものが二人。
「これ、おいしい!」 「ちょうど喉が渇いていたんだよな」
達郎と氷狩がカップを受け取り、中身をその口に含んでいた。
疑いもせず茶を飲んだ二人に、ハヤテたちはずっこけてしまう。
「ちょっと、何やってんのよ!」
海が間髪いれずにツッコミを入れる。そうせずにはいられなかった。
「毒が入っていたらどうするの!?」
ヒナギクも彼女に続いた。この二人には、人を疑うということを知らないのか。
「でもこの人、悪い人には見えないし…」
光が困った顔で言う。悪気がなさそうなその様子に、海の苛立ちは更に大きくなる。
「だからって…」 「まあ、いいじゃないか」
それを諌めたのは氷狩であった。
「なんであれ、休みが必要なのは事実なんだからな」 「それに、黄金の使者たちはそんなせこい真似はしないよ。そんなことしたら…」
そこまで言って、佳幸はタイチの傍にいる精霊に目をやった。
「あの精霊がああまで穏やかでいるわけないから」
何を根拠にと言いたいところだが、自信満々に言うのだからとりあえず従うことにした。
佳幸のこの言動は、精霊に対してどんな思いを抱いているのか垣間見えた。
「…おいしい」
口に含んだ瞬間、身体が何だかほぐれていき、心が安らいだような気分になった。香りがそれほど強いわけではないのに鮮明であり、味も温かさも口いっぱいに広がっていく。
はっきり言うと、十分にリラックスができた。連戦で消費していた精神力を回復させたのだ。
「よっしゃあ!元気が出てきたぜ!」
エイジは右拳を左手に打ち付け、活力があふれていることを表す。
「それは何よりだ」
タイチはその様子を見て満足していた。
「さて、元気になったのなら、大人しくここから去ってもらおうか」
それを聞き、一同はタイチの方へ向く。
「僕たちにお茶を飲ませたのは…」 「帰るための体力がなければ、どうすることもできないだろう?」
確かに、ここから帰るには十分なほど体力は回復した。だが、自分たちは帰るつもりなど微塵もない。
「悪いけど、僕たちは動ける限り前へ進むと決めましたから」 「そうか…」
次回、戦闘開始
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