Re: 新世界への神話Drei 10月9日更新 ( No.81 )
日時: 2016/12/29 21:56
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=24

お久しぶりです

今年中には38話を終わらせる予定です。


それでは、どうぞ


 5
 昔のことを思い出した達郎は、自然と立ち上がっていた。

「勝ち目のない戦いだとわかったばかりじゃないのか」

 その気配を察したシェルドは、振り返らずに話しかけた。

 達郎が立ちあがったのは尚も自分と戦うためだと皆も思っていた。それは確かなことである。

 だが彼は、不意に笑いだした。その場にいたものは面を喰らってしまう。

「どうした、なにがおかしい」

 気でも触れたのかとシェルドは疑い出した。

「いや、親の、特に親父の一言は後から身に染みるってな」

 いきなり笑いだしたので錯乱したのかと思ったが、どうやら違う。先程までは頭に血が上がり切っていたのだが、今は落ち着いている。

 ふっきれた、と言った方がいいだろうか。しかし、きっかけが何なのかわからない。

 だがまあそれはどうでもいい。達郎が再び戦おうとしていることが重要なのだ。すでに彼はシャーグインと一体化している。

「何度やっても無駄だと徹底的に教えなくてはな」

 うんざりした様子で向き直るシェルド。

 そんな彼に達郎は殴りかかろうとする。その拳をを受け止めようとするシェルドだが、達郎はそのガードしようとした手ではなく、手首をつかんだ。

「フェイントか!」

 拳を繰り出すのではなく、相手の腕を抑えることが本当の狙いだった。やはり達郎は冷静になっている。

 そして達郎は、シェルドの腕を後ろへと捻りあげた。シェルドは身体を回して逃げようとするが、それを許さず達郎はもう一つの手でシェルドの身体を抑えつけた。

 見た目は地味で、ダメージもそれほど大きいものではない。しかし、相手の動きを封じるにはいい技である。

「何の変哲もない技がそいつを一番よく表わすって、まさにその通りだな」
 基本となる技は、礎となるもの。どんな大技も基本ができていなければ成り立たない。故に基本技はその者を表していると言ってもよいのだ。

「更に、基本技はそれ自体が威力が低くても…」

 言いながら、達郎はシェルドを抑えていた手を放し、その腕で彼の首をねじ曲げる様に絡め、両足も組みついた。

「組み合わせて使えば、強力な一撃となる!」

 そして、シェルドの身体をねじ曲げる。各部をホールドしたまま。

「なんか、プロレス技みたいだな」
「達郎があんな技使ってくるなんて…」

 達郎はどこか恰好をつけたがる傾向がある。加えて、力押しな戦法をとることが多い。だから、あのように地に敵と寝転がり、汚れながらも地味な技をかけているなんて少し驚きである。

 もちろん、達郎はただの根性無しではないし、潔癖症と言う訳ではない。それでも、普段情熱をあまり見せずお調子者の面が目立つ彼からは想像難い光景だ。

 だが、戦法を変えたことは効果があった。敵であるシェルドすらも評価していた。

「自分の精霊に合わせた戦いをしてくるとは」

 達郎の精霊シャーグインは、攻撃よりも防御の面に秀でている。力で押し切るよりも、このような関節技で相手の動きを封じるようなスタイルが合っている。相手の攻撃の目を摘むことも、防御の一つだ。

「褒めてやりたいが、まだまだ未熟だな」

 シェルドは一瞬力を抜いてから、なんと自ら技の締め付けを強くしていったではないか。

 皆気でも触れたのかと思ったが、相手の方から押してくるので達郎は思わず掴んでいた手を放してしまう。

 その生じた隙をシェルドは逃さなかった。素早くたつろうから離れると、彼を思い切り蹴り上げた。再び転び回される達郎。

「このような稚拙な技で、俺を止められると思うか」

 やはり闘の精霊の使者は格闘技に精通していた。そんな相手に、達郎の技など子供だましでしかない。

 達郎自身もそれはわかっていたことだ。

「単なる準備運動だ」

 それでも、何らかの手ごたえは得たみたいだ。

 達郎は堂々とシェルドに立ち向かっている。

「攻めてダメなら、守りに徹すればいいだけだ」

 もう大丈夫だ。先程のような焦燥も固執もない。達郎の心は至って澄んでいる。

 彼の心を表すかのように、リングも光を発している。

「水の属性である精霊の使者が持つ魂の資質は、純粋…」

 純粋、何にも着飾らない心。単純と言われるほど素直な心を持つ達郎を表す最もな言葉である。

「達のテンションが上がっている証拠だ…」

 シャーグリングが光っている光景を見て、佳幸は確信した。

「あれを使うつもりだ」
「あれって、さっき言っていた秘密兵器ってやつ?」

 ここに入る前に達郎が口にしていた言葉を花南は思い出す。

「ハッタリじゃなかったのね」

 そんなことかを思っていると、今度は達郎自身が発光し出した。

 何が起こっているのか。それはすぐにわかった。




次回でラストです