Re: 新世界への神話Drei 12月30日更新 ( No.77 )
日時: 2016/03/13 18:51
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23

どうも。
忙しくて現在まで更新できませんでした。


それでは、2016年最初の更新です
38話、始めます


 第38話 水のように

 第五の間の前に辿り着いたハヤテたち。

 結局、伊澄のことはそのまま放置ということになった。酷い処置ともとれるが、いつも迷子の伊澄ならたぶん大丈夫であろうと予想したことなので、文句はなかった。ひょっとしたら全員同じ気持ちだったのかもしれない。

「闘の間、か…」

 そんなことはさておき、全員は門の前に刻まれた文字を見た。

「闘ってことは、闘いにはかなり強いってことだね」
「堂々と出ているもんな。恐らく黄金の使者でも指折りってことだろう」

 闘というのが、格闘ということを想定する佳幸たち。これまで戦ってきた黄金の使者と違い、純粋な戦闘技術は恐らく相当なものだろう。

「なあに、心配いらねえさ」

 しかし達郎は不安など抱いていなかった。

「むしろ山とか天とかややこしい力がない分、やりやすいじゃねえか」

 彼の言うことももっともだった。力の差がはっきりと出やすい分、小細工がないのでこちらとしては戦いやすいし、自分たちの性にも合っている。

 しかし、達郎の口調はどうしても楽観的に捉えているとしか感じられない。

「なんなら、ここは俺に任せてみるか?」

 明らかに調子に乗っている。

 今までの勝利に浮かれているのであろう。元々の自分たちと相手にあるかなり離れた実力差が存在することを忘れてしまっている。

 おかげで、皆からは呆れられている。

「まったく、おめでたい奴よね」

 彼女に喰ってかかろうとする達郎だが、その前に他の皆からさらに畳みかけられる。

「寝言は寝てから言えよな」
「たまには冗談でもいいこと言ってよね」

 塁と拓実にまで言われ、達郎は頑なとなってしまう。

「なんだよ!俺は至ってまじめだぜ!」

 その言葉通り、彼は真剣な顔で語り出した。

「俺だって、この戦いに何の備えもしてこなかったわけじゃねえ。秘密兵器ってもんが俺にはあるんだぜ」
「秘密兵器?」

 思わず優馬はオウム返しをしてしまう。その言葉はほぼハッタリにしか使われないからだ。

 しかし、達郎は自信に満ちていた。

「一応聞きますけど、その秘密兵器って何ですか?」

 伝助も半ば期待してないようで、聞いてあげなきゃ失礼かもということで尋ねてみる。

「それは、見てのお楽しみってことだ」

 わざともったいぶらせる達郎は、佳幸と氷狩の方を見る。二人は、彼に苦笑で応じた。

 この二人は何か知っている。だが友人のことを尊重して、何を聞かれても口を噤むだろう。

「まあいい。さっさと行くぞ」

 うんざりした様子でナギは入ることを促した。他の皆も彼女に続いていく。

「あ、ちょっと待てよ!」

 遅れて達郎も彼らを追い、全員が闘の間へと入っていった。

 そんな彼らを待ち受けていたのは…

「497、498…」

 回数を数えながら、ダンベル運動に汗を流す若い男だった。

「な、なんなの…」

 海が肩を落としたのは、この光景が強烈なだけではない。

「お、来たか」

 ナギたちに気づいた男は、運動を止めてこちらに向き直った。

「よく来たな。俺は闘のフィストネルが使者、シェルドだ」

 細身だが引き締まった肉体に、滴る汗。

 加えて、輝かしいばかりのさわやかな笑顔。

 それはナギたちが思わす引いてしまう程の、十分な魅力をもっていた。

「ああいうの…苦手なの…」

 どうやら海は、筋肉質な男は好みではないらしい。何かトラウマでもあるみたいだ。

 そんな彼女に構わず、シェルドと名乗った男は話を続ける。

「俺の方は既に準備万端だ。ウォーミングアップしていたからな」
「ウォーミングアップって…」

 伝助は恐る恐るといった調子で尋ねた。

「使者の戦いは心の力によりますけど、何故そんなことを…?」
「ましてや、一体化すれば体のつくりが変わるからな。意味がないんじゃ…?」

 優馬も揃って口にする。こちらが一体化するほどの相手じゃないということかもしれないが、準備運動をするのはどうしてか。

「わかっていないな」

 シェルドは不遜な態度で話し始める。

「これは俺の戦闘意欲を沸き立てるためにやっている。適度な運動は精神を高揚させるからな」

 確かに、肉体にある刺激を与えると興奮作用を起こす。この男はそうやってテンションを高めているのだろう。

 これに対して、反応は様々だった。

「なるほど、一理あるな」
「まったく、体育会系の考えそうなことね」

 理解して感心を示す塁と、呆れて嘆息する花南。対照的な二人は、互いに目を付け合った。

 そんな二人は放っておいて、シェルドは話を進める。

「この闘の間に来れたってことは、それなりにやるってことだな」

 シェルドはハヤテたちを注意深く矯めつ眇めつ見まわした。

「もうわかっているが、ここを通りぬけたければ俺を倒さなければならない」

 煽るような調子で話すのは、こちらに対する挑発なのか。

「最初に言っておくが、俺にはエーリッヒやミークのような特殊な力があるわけじゃない。この体一つが武器だ」

 シェルドのその姿は、裏表のない堂々としたものだ。それに加えて、言葉の端々に絶対負けないという自信に満ち溢れている。

「もちろん格闘だけじゃ黄金の使者にはなれん。俺だけの技というものがあるから、用心しておけよ」
「ここまで正々堂々されると、何も言えなくなるね」

 拓実は半ば呆れるように頭を抱えていた。相手は正直者を通り越した馬鹿なのだろうか。こういう相手に彼は苦手だ。

「だが油断は禁物だな」

 既にコーロボンブと一体化した塁が一歩前に出る。

「ほう、最初はおまえか」

 塁を挑戦者とみて、シェルドもフィストネルと一体化した。

 塁が一番先に出たのは、シェルドと戦ってみたいという気持ちが強かったからだ。それだけでなく、味方の中では格闘センスが抜き出ているため、格闘で相手を倒すシェルドが自分とどれだけ実力がかけ離れているか確かめることができる。

 シェルドの実力はいかほどか。緊張と興味で気を引き締める塁だった。




今日はここまでです