Re: 新世界への神話Drei 11月2日更新 ( No.67 ) |
- 日時: 2015/01/01 16:32
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- あけましておめでとうございます!
新年もこの作品をよろしくお願いします
それでは、更新します
2 「ここまで来るなんて結構やるんだなおまえら。まあ、そうでなければ面白ねぇけどな」
余裕あるサイガに対し、ハヤテたちは戦意をたぎらせていた。サイガは大の一件を起こした一人。その時の無念から、サイガは絶対に負けたくない相手となっていた。
それに比例して彼らにかかるプレッシャーも大きくなっている。あの時歯が立つことのできなかった使者に、勝つことができるのだろうか。
しかし、プレッシャーはサイガ自身からのものだけではなかった。
「なんだ…この霊の間」
達郎は落ち着きがなくまわりをキョロキョロと見渡している。というのも、この霊の間に入ってから妙に気苦しいと言うか、悪寒が止まらないのだ。
まるで、目に見えない冷たい牙を突き立てられたみたいに。
達郎はふと氷狩と目があった。彼は視線で達郎に訴えていた。恐らく彼も同じ気分なのだろう。達郎は頷きで応じた。
一体、この寒気は何なのか。
そんなことに構わず、サイガはハヤテたちへの長髪を続けていく。
「さあ、一人ずつでも全員がかりでもいい。かかってこい!」
ファムザックと一体化し、サイガは迎え撃つ態勢を万全にした。
「なら、俺が行こう」 「俺もだ」
そんな彼に挑む最初のチャレンジャーは氷狩と達郎だった。それぞれグルスイーグ、シャーグインと一体化し攻撃に出ようとする。
まずは自分たちが動いてこの異和感が何なのかを探る。強く実感している自分たちならば、直感でわかるかもしれない。
「おまえには、絶対に負けん」
様子見とはいえ、手を抜くつもりはない。
「フリージングスノウズ!」 「ハイドロスプラッシュ!」
氷狩と達郎は、サイガに向けて必殺技を放った。
その時既に、異変は起こっていた。
「こんなものか」
サイガは自分に襲いかかろうとする凍気や水流を無造作に払いのけた。必殺技を寄せ付けなかったのは、単に双方の実力差、ということだけではなかった。
「おいおい、なにやってんだよ」
塁が二人に半ば怒った調子で言いよってきた。
「全然技に力が入ってないじゃねぇか。どうしたんだ?」
二人が放った必殺技は、普段の時よりも威力も勢いも落ちていた。仲間として共に戦ってきた塁たちだから、全力でないことがすぐにわかった。
「調子悪いのか・まだ第四の間だぞ」 「いえ…」
氷狩と達郎は、塁たち以上に困惑していた。
「俺たちの力はまだ十分にありますけど…」 「その力を引き出すことが、できないッス…」
達郎は確認するように手を握ったり開いたりしている。その様子から見て、思ったほど力が入っていないのだろう。
「次は私が行ってみるわ」
二人に続くのはヒナギク。ヴァルキリオンと一体化し、氷の剣を手にする。
「直接攻撃なら多少はダメージを受けるはず!」
そう信じ、ヒナギクは剣を構えながらサイガへと真っ直ぐに駆け出した。対して、サイガはよけるつもりもなくその場で立ったままだ。
「受けなさい。氷華一閃!」
そのままヒナギクは剣を振るい、サイガに斬りかかろうとした。
響く金属による衝撃音。誰もがヒナギクがやったと思った。
だが、刃はサイガを捉えることはできなかった。
「な、なによこれ」
ヒナギクは信じられなかった。刃がサイガの手前の空中で止まっていたのだ。いや、サイガとの間にある見えない何かに防がれたようだ。
動きが止まったところに、サイガはヒナギクを拳圧でふっ飛ばした。
放出系も直接攻撃も通用しない。どうすればいいのだろうか・
「これならどうだ!」
しかし、まだ一つ手はあった。
「紅い稲妻!」
そう。先程加わった光、海、風が使える魔法だ。光は早速、プラズマ火球をサイガに向けて放った。
「魔法、か」
流石にこれはサイガも動じたようだ。だが、それはさほど大きなものではない。
前の攻撃に比べれば多少は手間取ったが、サイガはプラズマ火球も弾き飛ばしてしまった。
「中々やるな。だが、ここでは所詮この程度の威力しか出せん」
いまだ悠然として立ったままでいるサイガに対し、光はショックを受けてしまう。魔法までも受け付けない以上、打つ手がもうなくなってしまった。
そんな状況の中で、氷狩はサイガの言動に引っかかりを感じた。
ここではこの程度の威力しか出せない。
それでは、この霊の間では本気を出すことが不可能ということなのか。
一方では、風が海の様子がおかしいことに気づいた。
「海さん、どうかしたのですか?」
海の顔は青ざめていた。ぱっと見ても明らかであり、身体も震えている。
「み、見たのよ…」
しどろもどろながらも、海は口を開いてしっかりと伝えようとする。
「光の紅い稲妻に照らされて、一瞬何か不気味なものが見えたのよ…」 「不気味なものって、それがどこに?」
伝助が周囲を見渡すが、そんなものは見当たらない。海の錯覚だと誰もが捉えようとしていた。
だが花南は、何かを考えていた。
海が見たもの。それはまさか…。
思い当たった時、花南は塁の方を向いた。
「塁、コーロボンブにこの辺りに向けて放電させなさい」 「えっ、なんで?」
突然何を言い出すのかと意味がわからないが、花南は更に催促する。
「少し痺れる程度でいいから、早く!」 「わ、わかった」
急かされ、通常形態のままコーロボンブに放電させた塁。何が何だか疑問ばかりであったが、そんなものはすぐに吹き飛んだ。
「な、なによこれ!」
ヒナギクの震えながらそれを指差す。
それはこの世にあってはならないものだった。
「これ…見ちゃいけないもんだよな…」
塁はあまりの衝撃に呆然としてしまう。
「幽霊…ですね」
伝助の言うとおり、半分身体が透けているように見え亡者のような外見であるそれは幽霊と言われているものであった。
「な…なんなのだこれは?」
物々しく何かを叫ぶ幽霊に、ナギは恐れてハヤテにしがみつく。ホラーが苦手な彼女にとってこれは恐怖そのものであった。
「お嬢さん、何を恐がってんだよ」
そんなナギに、エイジが意地悪く話しかけてきた。
「幽霊なんか恐いもんじゃねえだろ。まったく、恐がりだな」
いかにも勇敢だというように胸を張るエイジ。しかし、ナギとハヤテは白けた目で彼を見ていた。
その理由は、彼の足にあった。
「まったく、本当に情けないお嬢さんだな」
いくら威厳をもった言葉を並べても、震えている足の方が今のエイジの感情をよく物語っていた。これを見れば、まず呆れてしまうだろう。
「足が震えていては、何を言われても説得力はないぞ」
痛いところを突かれ、エイジは口をつぐんでしまう。
「まったく、間抜けな奴だな」 「なんだと!あんただって!」
そのまま口論へと発展する二人。状況を忘れ言い争いに夢中になっているその光景を見て、ハヤテたちは飽きないのかとただため息をつくしかなかった。
「でも、これが幽霊だとしてもどうして今になって見えるように…?」 「道理はわからないけど、電撃やプラズマでそうなったんじゃないかしら?」
花南にしては珍しく曖昧な憶測だが、無理もないだろう。心霊現象には、科学的根拠がはっきりとしているわけではないのだ。
「でもこの霊たちが、私たちの力を抑えている直接の原因に違いないわね」 「その通りだ」
サイガは霊のいくつかをその手で招き寄せながらハヤテたちに語った。
「俺の精霊、ファムザックは幽霊を呼ぶことができる。そしてその霊を敵に取り憑かせ、相手の力を抑える。おまえたちも既に見えているはずだ」
サイガはハヤテたちを指差した。そのハヤテたちには、霊がその身に取りついていた。
「ひっ、何これ!」 「ハ、ハヤテ、取ってくれ!」
ヒナギクやナギは霊を取り払おうとするが、実体のない霊に対しては意味のないことだ。気味が悪いので早く取り払いたいのだが、どうすることもできない。
「この、気合で吹き飛ばしてやる!」
達郎は叫びまくるが、それでなんとかなるはずがない。無駄な行為に、味方までも呆れてしまう。
そんな彼をよそに、伝助がワイステインと一体化して、サイガに向かって駆け出し殴りかかろうとする。
「無駄だ!」
伝助の拳が届く前に、サイガは軽く伝助を振り払った。手を抜いていたとはいえ、伝助を遠くの壁まで衝突させるには十分な力がこもっていた。
「なるほど……パワーだけじゃなく、スピードも半減させているんですね」
起き上がりながら伝助は言った。あの特攻は、それを確認するためのものだったのだ。
「パワーやスピードだけじゃない」
サイガは更に力を集中させる。
「とくと聞くがいい!グリーフズシャウト!」
そのまま手をハヤテたちへ向けた瞬間、霊たちが一斉に叫び出した。それはおぞましい光景で、霊の間全域に反響している。
普通の人間にしたら、目も耳も塞ぎたくなるだろう。しかもこれはただの叫びではない。
「な、なんだ?なんか気分が悪くなっていくような…」
その叫びを聞いた塁たちは、急に気だるくなってしまっていた。肩を落とし、戦う気がないのが見ても明らかである。
「どうだ、戦う意欲がわからないだろう?」
彼らの様子をサイガは得意気に眺めていた。
「この叫びは、敵の気力を削ぐ。もうそろそろ効果が表れるはずだ」
彼の言うとおり、伝助や達郎に変化が起きていた。
「あ、あれ…?」
なんと、彼らの一体化が解けてしまったのだ。それも、本人の意志ではなくて。
確かに、戦意がなければ一体化はできない。だが、それを他人が強制できるものなのだろうか。
ここまでの効果をもたらすファムザックの力に、達郎たちは愕然としていた。
「さあ、これでおまえたちはここを抜けることはできなかったな」
この霊の間を突破するには、サイガに勝つしかない。だが今の状態では勝つことすらおろか、戦うことすらままならぬことは間違いない。生身や精霊だけでは、サイガに太刀打ちできないのは明らかだ。
だが、サイガは気づいていなかった。
「大人しくここでやられるか、引き返すかどちらか…」
言い終わる前に、サイガは誰かに殴り飛ばされていた。
「なっ…!?誰だ!」
不意だったがなんとかこらえた。しかし、ファムザックと一体化している今の自分をここまで後ずらせる程の力は今の奴らにはないはずだ。
サイガは自分を殴った相手を確認する。誰が、こんな力を持っているのだろうか。
「お、おまえは!」
サイガの前に立っていたのはシルフィードと一体化していたハヤテだった。
今回はここまでです。
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