Re: 新世界への神話Drei 5月6日更新 ( No.60 )
日時: 2013/07/25 21:29
名前: RIDE
参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23

ご無沙汰しています。

2か月も放置していて申し訳ありません。

待っていた人もそうでない人もとりあえず見てください。

それでは、どうぞ。



 5
 ほっと一息つく優馬。そんな彼に向かって、飛んでくるものが…。

「ん?あれは…」

 それが黄金の矢だと理解したのは一瞬。それから急いで飛び退き、軽い悲鳴をあげながらかわした。

「拓実てめえ、何するんだ!」

 こんな真似をする奴なんて、一人しか思い当たらない。

「ええっ、何のことですかね?」
「とぼけんな!」

 黄金の矢が飛んできたということが、拓実が犯人だということを物語っている。動かぬ証拠が存在する以上、言い逃れはできない。

「ああ、すみません」

 避けるのがもう一歩遅ければ優馬は巻き込まれていたかもしれない。だというのに、拓実は悪びれた態度もなく淡々と謝っている。

「僕の矢で加勢しようとしただけで、悪気はありませんよ」

 口ではそう言っているものの、そんな彼からは誠意が見られない。

「決して、優馬さんに刺さってもそれはそれでいいかなとか思っては…」
「そんなことを口にしている時点で嘘だろうが!嫌がらせが目的だってことはわかってんだぞ!」

 拓実の本音がわかり切っているからこそ、優馬は彼に対して怒鳴り散らす。

 優馬と拓実。硬派と軟派という対照的な性格であるため、上手く折り合いがつかないことが多い。二人にとってこうした衝突は会えば必ずと言っていいほど起こってしまうが、こんな二人でも仲間同士でいられるのだから、本当のところはそんなに仲が悪いというわけではないだろう。

 一頻り拓実と口論した後、優馬は再びミークに向き直る。

 今までの尊大な態度はなりを潜め、彼女は顔を俯かせている。

「どうした?自分の必殺技が破られたことがそんなにショックか?」

 呼びかけてみるが、何の反応もない。まるで石になったかのようにその場で硬直している。

「なんだ、こいつ?」

 あまりの変わり様に、普段鈍い達郎でさえ訝しみ始める。

「ボーっとしやがって、俺の攻撃を喰らえ!」

 中々動かないのでじれったくなったのか、達郎が苛立たしげに仕掛けてきた。

「ハイドロスプラッシュ!」

 達郎の掌から水がミークに向かって激流となって放たれた。しかし、尚もミークは動こうとしない。

 これでは直撃は免れない。誰もがそう思っていたのだが、水はミークの手前のところで突然飛び散ってしまった。

「な、なんだ?」

 驚きに、達郎は軽く声をあげてしまう。彼女はないもしていないように見えた。クラウドリアが封印された以上、クラウディバリアーは張れないはずだ。

「なにか、見えない壁に阻まれたように見えたが…」

 優馬も若干の動揺を抑えながら冷静に状況を分析する。あの力は、精霊のものとは少し違い、ミーク自身のものではないかと考える。

 そこで二人は気づいた。ミークから、静かだがとてつもない怒気を発していることを。

 本能的に察する。今のこの女はかなり危険だと。

「ヤ、ヤバいっすね…」

 達郎の声は恐れに震えていた。ミークが殺気を抑えているように感じて、それが無気味であった。抑えていたものが恐ろしく、爆発する時が不穏なのだ。

 優馬もまた警戒心を強めていた。迂闊な真似は控え慎重であるように努めようと心に言い聞かせている。

 まずは自分と達郎で相手の様子を見ておかなければ。

「後ろにいる奴らには、まだ入るなと釘を刺さなきゃな」
「もう遅いです…」

 傍から聞こえてきた声に、優馬は間抜けな声をあげてしまう。

 恐る恐る振り向いてみると、そこには氷狩と伝助が優馬に対して申し訳なさそうに立っていた。

 何故彼らがここにいるのだろうか?

 疑問を抱いていると、今度は別の声が反対側から聞こえてきた。

「どうした?戦う気がなくなったのか?」

 錆びたナットを回すかのような鈍い音が鳴るかと思われるほどぎこちない動作でそちらへと首を動かす。

「来ないなら、こっちからいくぞ!」

 優馬が見たのは、ミークに対して挑発しているエイジやナギの姿だった。ハヤテや佳幸たち、残りのメンバーもいる。

 完全に言葉を失ってしまう優馬。もしユニアースと一体化していなかったら、開いた口が塞がらない彼の表情が拝めたかもしれない。

「ようし、このチャンスに乗って全員で突撃…」
「ちょっと待てえぇぇっ!!」

 優馬の怒声が、天の間内に反響した。

 突然間近で響いた大声量の叫びに、ナギたちは顔をしかめて耳を抑える。

「なんですかもう、いきなり大声を出さないで下さいよ」

 涙目で耳を抑えながら佳幸は優馬に悪態をつく。

「ああ、すまん……。て、そうじゃないだろ!」

 一瞬彼らのペースに呑まれそうになる優馬だが、すぐにまた喚き出した。

「何やってんだおまえら!どうしてここへ入ってきた!」

 かなり怒気が込められた一喝であったが、一同はこれに脅えた様子もなく優馬の質問に応じた。

「そりゃあ、スカイフィールドが破られたってことは、反撃のチャンスってことだから…」
「一斉攻撃で一気に決めようと思って入ってきました!」

 随分とポジティブな調子で話すエイジたち。彼らにとっては優馬の援護のつもりで、その気満々で行動に移している。

 そんな彼らを悩ましく思い、優馬は頭を抱えた。

「どうかしたんですか?」
「なんでもねえよ」

 これ以上は怒る気にもなれなかった。呆れ返ってその気が削がれたのと、彼らは善意で行動したのだからこれ以上咎めると良心が痛んだからだ。

 それでも、優馬はため息をつかずにはいられなかった。これからミークは全力で襲いかかってくる。その攻撃に、達郎一人でも難しいというのに、全員を守り切ることは自分には無理な話である。だというのに、呑気ともとれるようなポジティブさでいられると、なんだかムカムカしてくる。氷狩や伝助はまだそうしようとしたみたいだが、ハヤテやヒナギクら止めるべき立場にいる人間まで戦う気になっていることも一因にある。

 そんな状況の中で、遂にミークが動き出そうとしていた。

「…!来るか」

 ミークの気配を察して、優馬は仲間たちに構うのを止め、槍を手に取った。

「アースフィールド!」

 その槍を地面に突き立てる。すると地面に紋様のようなものが浮かび出て、優馬を中心に味方全員を囲んだ。

 これで防御は万全だ。破られるだろうが、何もしないよりはマシだ。

 自分にとっては最高の守りを敷いた優馬は、ミークの方を窺う。

 彼女は、俯かせていた頭を上げてこちらを見据える。

 それだけで、彼女の気迫というのがより実感できた。

「まさか、一撃を食わされるなんて…。この失態は、大恩ある明智天師の失態となってしまうわ……」

 ぶつぶつと少々興奮気味に呟いた後、ミークは優馬たちに向けて言い放った。

「死に方を選ばせるなんて悠長なことはもうしないわ。あなたたちは、私自らの手でこの世界からお別れさせてあげる」

 この宣告に、優馬の味方たちも戦意を煽られる。

「その前にあんたを倒すさ」
「スカイフィールドは破られたんだ。もう悩むことはねえ」

 攻撃を選ばなくてもよくなったことから、全員強気となっている。ほとんどが格闘や白兵戦の戦闘スタイルをとっているので、自由に戦えるようになった今ならなんとかなると思っているのだ。

「私が倒される?そんなことはないわ」

 嘲笑と共に、ミークがマインドを発動させた。それを感じた優馬たちは、思わず身を硬直してしまう。

 ミークの背後に浮かんだ、広大な天空のオーラ。彼女からあふれ出る精神エネルギー。それらが並々ならぬ迫力が秘めており、大気すら震えているようである。

「この感じ…」

 今まで見てきた中で、これほどの力とは気を放てる黄金の使者は他にはいない。

 これはヤバい、と優馬は本能的に危機を察していた。これまでにないくらいの。

「あなたたちはもう、進むことも逃げることも、私と戦うこともできなくなるんだから」

 そう言いながら、ミークは掌に青白い光球を出現させる。精神エネルギーの密度が高いことは、見ただけでわかる。

 そのエネルギー球を自分たちに向けて投げつけるのか。優馬たちはそう思ったが、ミークはそれを掌と一緒に頭上へと掲げる。そこでエネルギー球が段々と大きくなっていくのと同時に、ミーク自身も青く光り出す。

 仲間たちが驚きの息を洩らしたのを、優馬は聞いた気がした。

 そして、閃光は眩しさを増していく。まるでミーク自身がエネルギーそのものへと変わっていくように。

「スカイデッドホール!」

 ミークがそう唱えた時、天の間内が光で溢れた。




今回はここまでです。
ミーク編はまだ長いです。