Re: 新世界への神話Drei 2月10日更新 ( No.59 ) |
- 日時: 2013/05/06 18:48
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- 本編行きます。
4 「さあ、まずは一人」
その間に、ミークは自分たちの中から狙いを絞っていた。
「いつまでもぶら下がっているのも目障りよね」
そう言って、花南に引き上げられている途中の達郎に顔を向ける。達郎の方も気付いて彼女と向き合い、嫌な予感をし身を強張らせた。
「この辺りで落ちてもらいましょう」
言いながら、ミークは達郎に向けて指を振るった。それで気流の類でも操作しているのか、それによって達郎を繋いでいる蔦がちぎれ出してきた。
それを見て、達郎は大きな声で悲鳴をあげる。
「か、花南、急いでくれ!」 「わかっているわよ!」
言われなくても、フラリーファは急ピッチで引き上げを命じる。しかし、蔦が裂かれていくスピードの方が早い。
救出までもう少しのところで、遂に蔦が断ち切れてしまった。
今度こそ落ちる!
達郎が下へと引きずりこまれようとする。その寸前だった。
彼の腕が、何かによって掴まれた。達郎にはそれが人の手によるものだと感じた。
もしかして、助けてくれたのか?
一体誰が助けてくれたのか、確認するために顔を見上げた。
「大丈夫か?」
達郎が見たのは、ユニアースと一体化して自分を掴み上げようとしている優馬の姿であった。
「ゆ、優馬さん…?」
達郎は目の前にいる彼に唖然としてしまう。別段、仲間が助けてくれたことに対して疑っているわけではない。
優馬は今、天の間の中での空中に、何事もないかのように膝を着いていたのだ。これには達郎だけではなく皆も信じられなかった。
そんな達郎の心中がわかる優馬だが、今は他にやることがあった。
「聞きたいことがあるんだろうが、とりあえず今はお前を助けるぞ」
そう言って達郎を引き上げその手で彼を抱きながら、上に向かって飛び上がる。二人はミークと同じ高さで足を着ける。
達郎は自分も足で立っていられることに驚き、本当に足場があるのか軽く数回踏んでみて確認する。
透明なのか視認することはできないが、確かにそこに足が着けるように何か硬質なものが存在していた。
「ど、どうなっているんスか?」
達郎は隣で自分に抱きかかっている優馬に顔を向けた。どういった道理でこうなっているのか理解できず、彼に聞くしかなかった。
「ああ、こいつのおかげだ」
そう言って、優馬は空いている方の手に持っているものを見せた。
彼が手にしているのは、円錐型のランスを思わせる槍であった。しかもただの槍ではない。ユニアースの角が変化したものだ。
「こいつでアースフィールドを応用した場を作ったんだ。向こうもこの天の間に技をかけているからな、同じことをしたまでだ」 「天の間に、技って…?」
これまた訳がわからない。天の間とミークの必殺技がどう結びついているのか。ゼオラフィムの力によるということなのだろうが、それ以外のことに関しては難しく想像ができない。
ハヤテたちも話してくれと言わんばかりに優馬を注視する。その期待に応じて、優馬はミークから視線を外さずに説明を始めた。
「この天の間の中は本当に空中というわけじゃない。今俺たちが見ている風景は、あいつによって作られたものだったんだ」
優馬は更に詳しく続けた。
「恐らくは場を空に近い環境にして、尚且つ天の間に入ってこようとする奴らに対して催眠もかけているんだろう。達郎のように、空だと思った奴はミークの手中にはまって落ちていくんだ」
広域にまでも及ぶ大きな力と、催眠という高度な技術の組み合わせ。効果は大きいが扱いはとても難しく、黄金のレベルで初めて使えるような技である。
「ただ、本物に近いという疑似空間を作っただけでしかない。その証拠に、重度の高所恐怖症のヒナギクがなにも反応しなかったからな」
称賛するような調子で優馬は言うが、なんだか馬鹿にされたような気がしたヒナギクはあまり気分がよくない。皆の役に立てたことは嬉しいのだが、自分のコンプレックスを悪意に利用されたような感じがして、素直に喜ぶことができないのだ。
ともあれ、これで天の間のからくりが解けた。
「…あなたも戦場を対象とした必殺技が使えるのね」
ミークは優馬に少し感心を抱いた。まさか、自分の必殺技を察して、その中で堂々と立てる者がいたとは思いもしなかった。
「けど、私の前ではそれが限界のようね」
優馬がユニアースの角で発生させている足場は、とてもじゃないが広いとは言えない。彼と達郎の二人が少しばかり足を動かせる程度しかないのだ。天の間の空に比べ、吹けば飛ぶような儚いものである。
「同じ系統の技同士なら、強力な方が勝つわ。私のスカイフィールドを覆すことは無理なことよ」
青銅と黄金の差が、ここにも表れていた。やはりそう簡単にはいかないものだ。
「ああ、そうだな」
優馬は、それを承知していた。
「俺の必殺技が通用するなんて最初から期待してねえよ」
言いながら、彼は踏み込むように脚を屈め、力を入れ始める。
明らかに、何かを狙っている。今度は何を仕掛けてくるか。
「おまえのような必殺技を破るには、おまえ自身に一撃を入れるしかない」
これだけの大規模な技、維持するための集中力が過大な疲労となっているはず。そこへ攻撃が命中すれば集中力が途切れ、スカイフィールドは消失してしまう。
「そのための足場が作れれば、上出来な方だ!」
優馬の狙いは自分だ。
ミークがそれを理解した時には、彼は自分目掛けて跳び上がっていた。
生意気である、と優馬を見てミークは思った。
自分のスカイフィールドの中で立つことができたのは誉めてやろう。だが彼の攻撃が自分に命中するとまで思っているのは自惚れが過ぎている。
ミークは再び自分の周囲に雲を漂わせ、その雲から優馬に向かって電撃が放たれた。
スカイフィールドを使用しているため移動はできないが、迎撃することはできる。
だが電撃は、優馬の後方から飛んできた何かに防がれてしまう。
その何かは、金色の輝きを持つ矢であった。これだけで、拓実が放ったものだとわかる。
「女の人に忘れられるなんて、ちょっと傷つくなあ」
ミークは苛立たしげに一瞥するが、当の拓実は飄々とした態度を崩さない。
「他人の戦いは見ておくものだね」
そう言って、拓実は塁と佳幸を見やった。
電気は金属に引き寄せられやすい。スピリアルウォーズの第四戦、塁の電撃を自分の青龍刀を避雷針替わりにして佳幸はかわした。拓実はそのことを参考にしたのだ。
その拓実の援護もあり、優馬は雲を突き破ってミークへと一気に迫る。そして、右半身を後ろに引いて右膝を屈め、蹴りの構えを取った。
「ギャロップキック!」
その体制からキックを繰り出し、ミークを蹴りつけた。
蹴りの必殺技を入れられ、若干よろめいたミーク。同時に、天の間の内部が空中から元の石造りで囲まれた部屋へと変わった。
「スカイフィールドが破られたぞ!」
喜びを露にするエイジたち。だが、優馬はまだ攻撃を止めない。
ミークから至近距離で着地する優馬。そこから、リングを着けている彼女の腕に向かって思い切り蹴り上げた。ミークに足が届かなかったのか、当てる気がなかったのかわからないが空振りとなってしまう。
しかし、蹴りによる風圧でミークのリングに挿入されていた雲と刻まれている、クラウドリアの勾玉が弾き飛ばされた。
「しまった!」
ミークは慌ててそれを取り戻そうとするが、優馬がそれよりも速く掴み取った。
「三千院のお嬢さん!」
そして、ナギを呼ぶや否や彼女に向けてその勾玉を投げた。
自分ではとらえることのできない速さで真っ直ぐに飛んでくるので、ナギは急いであるものを取り出した。高速で飛来する勾玉に対して恐怖を感じ目を閉じるが、手にしたもので上手く勾玉を受け止めることができた。そして勾玉は、そのあるものに吸収されていった。
「リダート?」
ナギが手にしているものは、精霊を封印する道具だ。本来ジムが持っているはずなのだが…。
「霊神宮に着く前に、あの男から渡されたのだ」
優馬もナギがジムから手渡されるところを見ていたのだろう。
ナギがうまくクラウドリアを封印できたのを見て、優馬は安心した。
今回はここまでです。 次回もまだ戦いは続きます。
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