Re: 新世界への神話Drei 12月31日更新 ( No.56 ) |
- 日時: 2013/02/10 17:53
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも。
新年経ってから一月以上たちましたが、更新します。
3 ゼオラフィムと一体化するミーク。
その鎧のような外見からは、ゼオラフィムの神秘な雰囲気が更に増したような感じがした。
「さあ、誰から落とされたいの?」 「悪いがそう簡単に落とされるわけにはいかない」
塁もまたコーロボンブと一体化し、ハヤテたちの前に出てミークを見据える。
「とりあえずおまえを倒してから、どうやってここを渡るか考える」 「倒すですって?」
ミークはそんな塁に対しても、嘲笑を崩さなかった。
「むしろ倒されるのはあなたの方よ。けど、落とされるのも倒されるのもどちらにせよ同じ結果よね」
彼女はこちらの挑戦をあえて受けた。遊び半分ではあったが、手加減をするつもりもなければ慢心することもなかった。
やるからには全力で戦う。こちらの身を震え上がらせるほどに伝わった気迫が、それを物語っていた。
「あなたたちと戦ってあげるわ。素直に落ちる方を選択していれば痛い思いをしなかったのに、なんて後悔しないようにね」 「そんなことは考えもしねえよ!」
塁は全身から放電を起こし火花を散らして気合を入れる。パチパチと音が鳴る中で、その気合を相手にぶつけるかのごとく、必殺技を繰り出した。
「スパーキングブリッツ!」
掌をミークに向けて突き出すと、そこから真っ直ぐに電撃が放たれ、ミークに襲いかかろうとする。
小技の一つで格上の相手に対して大きなダメージは期待できないが、かすり傷程度なら負うはずだ。これは牽制で、敵の出方を伺うために塁は攻撃したのだ。
「このような技なんて、簡単に捌けるわ」
もちろん、ミークがこれに動じたことはなく、冷静さを崩さなかった。
「けど、私の力がどれ程のものなのか見せつけるにはいいわね」
彼女も小手調べをするつもりらしい。まるで空気をかき集めるかのようにミークは腕を振るいだす。
「クラウディバリアー」
すると、ミークの周囲に靄のようなものがかかり出し、彼女の姿が霞んで見えてきた。しかもただの靄ではない。鈍色の、まるで暗雲を思わせるように漂っているのだ。
その靄にスパーキングブリッツの電撃が突き破ってきた。そのままミークに命中し、彼女を痺れさせるのだと思われた。
だが電撃はミークに届く前に、靄の中で次々と枝分かれしていき、最後には散るように消失していった。
塁は、驚愕に声をあげてしまう。
「なんだ…?分解でもしたのか!?」 「いえ、吸収したと見た方がいいでしょう」
伝助が冷静に指摘し、氷狩もまた分析する。
「恐らくはあの靄の中で漂っている水滴や氷の粒が、スパーキングブリッツによって電気を含んだ、帯電状態となったんでしょう」
それを聞きながら、一同は靄の中にいるミークを見やる。
その彼女は余裕からなのか、塁たちに解説をはじめた。
「私が張ったクラウディバリアーは、雨雲と同じ成分でできた防御壁なのよ」
雨雲と同じということは、やはりあれは微小な水滴と氷の粒子によって生じているのだろう。
そして、氷狩は更に推測し、先程のスパーキングブリッツと結びつけると悪い予感を覚え冷や汗を一筋を流す。
「雨雲…まさか!」 「勘がいいわね」
氷狩の考えが当たっていることを告げるミークの声には、一瞬寒気を錯覚させる無機的な冷たさを感じることができた。
「雨雲が電気を帯びることによって、雷雲へと変わったわ」
そのことを証明するかのように、クラウディバリアーの靄の中では時折小さな閃光が起こり、鈍い音も轟き出す。
「先程の電撃、返すわね」
その言葉と共に、靄の中から塁に向かって電撃が放たれた。自分の電撃が返されたことに驚き、そのため反応が遅れた塁はかわしきれずに電撃を浴びてしまう。
「あのバリアーは攻撃を返すこともできるのか?」 「いや……」
息を呑むハヤテたちに、塁は少し違うと訂正する。
「ただ返しただけじゃねぇ。威力も増してやがる」
実際に受けた塁だからわかる。この電撃は、自分のスパーキングブリッツよりも攻撃力が高かった。
考えてみれば当然のことかもしれない。必殺技を返すのに相手もまた必殺技を、しかもこちらよりも力も完成度も高いのだから。
「あの雲のバリアーの前には、俺の攻撃も通用しないみたいだな」
氷狩は手が出せないことを唇を噛んで痛感する。雲は大気中の水蒸気が凝結、凍結によって水や氷になることで生じるものである。これは冷気によって起こることであるため、氷狩の言うとおりグルスイーグの攻撃はあまり効果がないだろう。また、冷気とは逆の熱で攻めて雲を蒸発させるという手も、実力差が大きくかけ離れているため有効とは言えない。それがわかっているから、佳幸も打つ手がないことの悔しさに拳を握りしめる。
「なら、僕の必殺技はどうかな?」
氷狩や佳幸たちとは別に、塁の次に攻撃に移ろうとしていたのが拓実であった。知らぬ間にアイアールと一体化していて、黄金の矢を弓に番える。
「ゴールデンアロー!」
ミークに狙いを定め、黄金の矢が放たれた。電撃や氷、炎と違い、実体のある物理攻撃だ。あのクラウディバリアーを突き破り、ミークにダメージを与える可能性があった。
だが黄金の矢は雲の防御壁の手前で、何かの力によって吹き飛ばされてしまった。
「こ、これは…」
拓実は一瞬何が起きたのかわからなかったが、すぐに理解ができた。
「そうか気流。雲は気流とも結びつきがある」
雲が大気中に浮かぶのは、上昇気流と下降気流の力が釣り合うことでなる。雲の形も空気の影響によって決まることからも考え、雲の形成には気流や空気も必要と言えるだろう。
「気流の力によって、黄金の矢を弾き飛ばしたんだ」 「ということは、僕やハヤテ君の風の力で対抗してもあまり効き目はないということですね」
伝助が眼鏡の奥からミークを見据える。
普段おとなしいだけに、その目力には凄みがあった。
「ついでだから教えてあげるわ」
塁や拓実の必殺技を苦も無く退けたミークは、貫禄をにじみ出しながら話しだしてきた。
「今使っていた力は、ゼオラフィムによるものじゃないわよ」
あれがゼオラフィムの力ではない?
どういうことかわからないハヤテたちに向けて、腕に着けてあるリングを見せてきた。
「この力は、雲のクラウドリアによるものよ」
それを聞き、再び彼女のリングに目を戻す。
遠目なのではっきりとはしなかったが、リングには銀色に輝く、雲と刻まれた勾玉が挿入されていた。
確かに、クラウドリアの力とみて間違いないだろう。勾玉をリングに挿入すれば、その勾玉の精霊が持つ力が使えるのだ。
「元々私はクラウドリアの主である白銀レベルの使者だったわ。今は明智天師から譲り受けたゼオラフィムの使者だけど、勾玉はまだ私の手中にあるのよ」
ゼオラフィムと一体化したうえに、クラウドリアの力まで備わっていることに、益々手強いものを感じるハヤテたち。
天と雲を一緒にして捉えていたが、実のところはそれぞれ別の力だった。雲の力を攻略しても、ミークに決定打を与えることはまだできないだろう。
それでも、一つ一つ着実に攻めていくしかない。それらは必ず勝利へと結びつくはずだから。
そのためには防戦一方の展開から何としても攻勢に出なくてはならない。だがミークは、その機会を窺っていたハヤテたちに逆に攻撃を仕掛けようとしていた。
「今度は、こっちからいくわよ」
指を一本ハヤテたちに向けて指すミーク。その指の先で雲が発生し、それはどんどん大きく形成していく。
「クラウディアサルト」
その雲は瞬時にハヤテたちの頭上まで移動し、銃弾のような勢いで雨を降らしてきた。
それはまさに、水のマシンガンであった。
「くっ、防御がうまくとれない…」 「しかも、目がよく見えなくて…痛たっ!」
夥しい雨量の上に飛沫が目一杯かかり、視界が晴れずに周囲がよく見えない。その上全身は強風に煽られ、身動きが取れない。
豪雨と猛風、それを起こした雲はスコールのようにすぐに消えていった。だが、ハヤテたちは傍から見た以上のダメージを受けてしまった。
「大丈夫ですか、お嬢様?」
身を呈して豪雨から自分を守ったハヤテの問いに、ナギはうむと言って頷く。
主の無事を確認できたハヤテは、ミークの方へと向き直る。
「これ以上お嬢様を危険に晒すわけにはいかない!」 「いい加減、こちらから攻撃しないとね!」
ヒナギクもハヤテの隣へと並ぶ二人はその場で自分たちの精霊と一体化、ミークを目指して飛びかからん勢いで駆け出そうとした。
「待ちなさい!」
しかし天の間の中へあと一歩のところで、伝助に慌てたように制止された。
「忘れたのですか?今天の間へと入れば、達郎君の二の舞になりますよ」
天の間には地面が存在せず、入ってしまえば永遠に落ち続けてしまう。
そのことを失念していたハヤテとヒナギクはその場で思い留まった。達郎の救助をしている花南はそれに手間取っている。戦闘中なのだから当然だ。自分たちが落ちることでこれ以上彼女に迷惑がかかるなんてことにはしたくない。
だが二人の気持ちもわかる。こちらの遠距離攻撃は全てかわされた。対抗するには近距離での技しかない。自分たちの力を最大限まで振り絞りやすいため、微小でもダメージは与えることはできる。
ただ、足場がなければそれも叶わない。どのような方法でミークに近づき、一発当てることができるのか。それがうまく思い浮かばない。
そんな中、ナギはあることを思い出したみたいでヒナギクに尋ねてみた。
「そういえばヒナギク、おまえ高所恐怖症なのにこんな近くまで来て大丈夫なのか?」
こんな時になにを呑気なことを、と宥めるつもりでナギを睨むヒナギク。
「べ、別にこの程度で恐いなんて言うわけないでしょ」
口では強がりを言うものの、指摘されてみて自分でも疑問に思えてきた。
「…わからないけど、あれを見ても恐いとか、そんな気にならないのよ」 「おかしいではないか」
ナギは有り得ないものであると、断固として言い放つ。
「ヒナギク高いところを恐がらないなんて、なにか不吉なことの前触れとしか思えん」
真面目な顔で豪語するナギに腹立たしくなるが、怒鳴りつけたくなる気持ちをヒナギクは抑え冷静に努めようとする。
高所恐怖症が筋金入りなのは自分が一番よく理解している。どうしてだなんてこちらが聞きたいくらいだ。
そんなヒナギクを傍目で捉えている優馬は、割と真剣に考え出す。
彼女の恐怖症が治ったとは思いにくい。でも、現実にヒナギクは空を前にしても平然としている。
いくら悩んでも答えが出てこない。袋小路に入りかけるが、優馬はふと閃く。
あの天の間は、本当に中が空中となっているのだろうか?
それが発想の転換となり、優馬は脳を素早く巡らせてゆく。
そして、ある仮定へと結びつくのであった。
次回も少し遅れるかもしれません。
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