Re: 新世界への神話Drei 9月27日更新 ( No.51 ) |
- 日時: 2012/10/22 21:35
- 名前: RIDE
- 参照: http://soukensi.net/perch/hayate/subnovel/read.cgi?no=23
- どうも。
前回の更新分が消えてしまったので載せます。 感想も消えてしまったのが残念です…。
9 見事に攻撃が決まった雷矢。だが、不可解な点は残されたままだ。
「な…なんなの?」
何がどうなったのか訳が分からず、海は口をあんぐりとあけている。光と風も、ただ呆然とするばかりだ。
「い、一体何が起こったの…?」
雷矢がライオーガとの一体化を解いたところまでは理解ができた。しかし、それから後の展開には全くついていけなかった。
ライオーガはエーリッヒの必殺技で拘束されていたのに、何故雷矢と一体化ができたのだろうか。
どうして、攻撃が見事に決まったのだろうか。
疑問が色々と渦巻き混乱が深まる中、倒れていたエーリッヒがゆっくりと起き上がってきた。
「やりましたね」
今度は彼がやり返すのかと思われたが、エーリッヒからはそんな意志は感じられず、声の調子も戦闘時と比べて穏やかなものへと変わっている。
「この私の、超能力者の弱点を突いたとは」
弱点。その言葉に光たちは気になりだした。
弱点とは、一体何なのだろうか。
一方の雷矢も、戦意のないエーリッヒに毒気を抜かされ話をはじめた。
「気づいたのは獅堂たちが魔法を使った時だ。俺にかけていた必殺技をわざわざ解いてから瞬間移動でかわしたことに、違和感を抱いた」
光たちの魔法にはエーリッヒも焦っていたようであった。だからといって彼が慌てて解除してしまうようなミスを犯す人間には見えない。
これには、何かがあると雷矢は勘づいたのだ。
「そして気づいた。おまえは、一度に多数の標的を狙えても、一度に二種以上の能力は使えないとな」
確証はなかったが、全くというわけでもなかった。
雷矢と光たちは知らないが、先にこの念の間を訪れたハヤテたちと戦った時も、エーリッヒは複数の能力を同時には使わなかった。また、一つの能力を使っている時に別の能力を使おうとすると、切り替えるように使用中の能力を止めてから新しい能力を発現という手順を踏んでいた。
雷矢の言うように、それぞれ異なる能力の同時使用は見られなかった。だから、彼の言うようにそれは不可能だと疑ってもおかしくはない。
そしてその疑惑は、正確に当たっていた。
「私たち超能力者が使う念力は、威力は絶大です。種類も多彩に存在しますが、あまりにも強大であるため、取り回しが困難という面があります」
その証明を、エーリッヒ自らが行ってくれた。
「念力を使う際は、瞑想しなければなりません。念力による技を一つ繰り出すのに全神経を注がなければなりませんので、もう一つの技を使うことに、集中力を削ぐわけにはいかないのです」
エーリッヒの話を聞きながら、光たちは超能力についてある光景を思い浮かべていた。
それはテレビの特集番組であった。そこで取り扱われていた、エスパーがスプーンを曲げているところなどを見ていた光たち。彼女たちにとって、エーリッヒの念力とは遥かに見劣りするが、トリックがあるにせよそういう類の力を持たない者には少々ながらも驚くことであった。
その時は超能力者の力に目を奪われていたが、今改めて思い出し、エーリッヒの話と照らし合わせて新たに気付かされた。
スプーン曲げをしていた者は、軽い受け答えを除けば他の行動はしていなかった。正にエーリッヒが語ったとおりに。
このことからも、超能力の弱点を物語っていた。
「技の切り換えを可能な限り高速にして、連続攻撃のように見せて悟られないようにしていましたが…」 「生憎、この俺には見抜かれてしまったな」
二つ以上の超能力の並列使用が不可能であることを見破った雷矢。
得意気にならないその様子からは、風格そのものが表れていた。数々の修羅場を経験し潜り抜けてきた彼だからこそ発することができるものであり、雷矢に相応しくもある。
強大な超能力を前にしても喰らいついていったからこそ、自分の弱点が読めたんだなとエーリッヒは考えた。
「ですが、私にもわからないことがあります」
ここでエーリッヒは、もう一つの謎について話を振った。
「ライオーガは私の必殺技で抑えていたはずです。なのに、どうしてあなたはライオーガと一体化ができたのですか?」
一番気になっていたことなので、光たちも聞く姿勢を深める。
「ああ、あれか」 彼女たちとは対照的に、雷矢は毅然としたまま口を開く。
「もうすでに見えるはずだ。あれの本当の姿を」
そう言われ、光たちは先程までメンタルクラフィクションにかけられていた方のライオーガへと目を向ける。
光たちは、それを確認した。
「あれは…」
姿形はライオーガと全く同じだった。異なるところなど見当たらず、見分けを突くことなんて困難であった。
体の色が、黒いことを除けば。
「ネガティブライオーガ…」
黒いライオーガを見たエーリッヒは、感嘆の息を漏らした。
ネガティブライオーガは、かつて雷矢が憎しみの心で生み出した陰鬱の精霊である。雷矢の憎しみはとても凄まじいものであったため、ネガティブライオーガも多数生まれたのだ。
ほとんどのネガティブライオーガは陰鬱の使者たちに一体ずつ渡されたが、創造主である雷矢自身が一体所持していてもおかしくはない。
「ネガティブライオーガの勾玉に幻魔雷光をかけ、ライオーガに見せるように錯覚させたのだ」
本物だと思わせて、相手に隙を与える。そしてみごとに底をつけたのだ。
黄金の使者であるエーリッヒすら惑わした幻魔雷光。本来は幻覚で精神にダメージを負わせる必殺技だが、格上の相手を翻弄させたのだから、本当に恐ろしい必殺技であることがわかる。もしエーリッヒの精神を直接狙っても、大したダメージの期待は薄いが通用はするだろう。
しかし、雷矢はいつ幻魔雷光を仕掛けてきたのだろうか?そんな素振りは見られなかったので、見当がつかなく首を傾げてしまう光たち。
いや、とエーリッヒは思い当たる節があった。
「あの時、私に一撃を与えると告げた時に、幻魔雷光を仕掛けたのですね」
雷矢はあの攻撃への意気込みとして、放電を起こしていた右の拳を握りしめ、掲げていた。
あの拳の中に、ネガティブライオーガの勾玉があったのだろう。加えて、右拳で起きていた放電が幻魔雷光だったのだ。
幻魔雷光は右手から電撃を発し、それによって生じた光を相手に見せる。光を目にした相手は幻覚に惑わされ、心を壊されていくという必殺技だ。
単に力を入れているだけだと思い気にも留めなかったが、あの放電を見た瞬間から雷矢の手中にはまっていたのだ。
「それにしても、意外でした」
エーリッヒは、語気を少しきつめに変える。
「ハヤテたちとの戦いで憎しみの力が玉砕されたはずなのに、まだその力を使っていたことは」
ダスク峡谷のあの戦いで、雷矢は憎しみから解放されたものだと思っていた。ハヤテたちに負けたことを機に、変わっていける。艶麗の襲撃がなければ、そんな彼を見てみたいという望みも叶えられたかもしれない。
だがネガティブライオーガを使ったことは、その期待を裏切る行為でもあった。雷矢の憎しみは、依然としたまま存在しているのだろうか。
そんな不安と警戒心を読み取ったのか、雷矢は皆に語った。
「俺から憎しみが消えることは、そう簡単ではない」
彼はここで、どこか沈痛な調子で声を落とす。
「憎しみは許されない、許すことのできない怒りが行き場なく募っていく感情だ。俺はまだ、自分を許してはいない」
三千院家を憎んでいた雷矢。だがそれ以上に、自分自身を憎んでいた。いくら三千院家の無責任な振る舞いと同時に、それに対して無力であった自分自身にも激しい怒りを抱いていた。そして、その感情を当たり散らすかのように弟たちと戦ったことをはじめ、罪を犯した自分を許していない。この自責の念が晴れない限りは、憎しみも消えないだろう。
「それに、少しでも憎しみを持っていなければ人を殴るなんてできないからな」
自嘲気味に続けた言葉は、光たちの心にも強く響いた。
もし人を怨むことも憤ることも、敵対することも全く知らない人間がいたら、そのものは戦いなんてできないだろう。格闘技であっても、相手に対して少しでも憎んでいなければ、握った拳を相手に向けて振るうことにためらいが生じ、やられてしまう。
光たちもエメロードを討つ時に、迷いなどを押し殺し半ば脅迫するかのように無理矢理殺意を駆り立て、突き動かされるかのようにその手で彼女を下した。その時の気持ちが、今この場で重なった。
人は憎まずにはいられない生き物なのかもしれない。そう思うと、自分たちが悲しく見えてしまう。
「だが俺は、まだ憎しみを捨てることはできなくても憎しみに囚われたりはもう決してしない」
この場に漂う暗然とした雰囲気を打ち消す、毅然とした声で雷矢は言った。
「憎しみを原動力にするのではなく、憎しみさえ己の武器とする」
憎しみを糧にして戦うのでは、ただ感情に振り回されるまま暴れるだけでしかない。それでは視野が狭まってしまい、大切なものまで見えずに傷つけてしまう。しかし、憎しみを己の意のままに扱うことができたなら…。
思えば最後の一撃も、ネガティブライオーガと一体化して放ってもよかったはずだ。それをしなかった、いや、できなかったのは雷矢自身が言っていたように、彼がハヤテたちと戦う以前とは違い憎しみを持たして戦っていたのではないからだ。
自らが生み出し、激しい憎しみの象徴であるネガティブライオーガを囮に使ったことは、雷矢が憎しみも自分のものとしていることを示しているのかもしれない。
「それが、これからの俺の戦い方だ」
まだ負の心に取り込まれる不安はあるものの、今の雷矢は安心できる。
「…そうですか」
そう判断したエーリッヒは、その身を少し脇へと寄せる。
「行きなさい」
先へと促してきた彼は、さらに続けて言った。
「あなたの戦いがこの先に待ち受けている黄金の使者たちに通用するかどうか、進んでみてください」
霊神宮からの挑戦と、エーリッヒの期待が込められた言葉だった。
「わかった」
それだけ応じると、雷矢は足早に念の間を去っていった。
光たちも後を追おうとするが、その前にエーリッヒが声をかけた。
「セフィーロから来た魔法騎士のみなさん」
神妙な面持ちの彼に、光たちは黙って耳を傾ける。 「余所者のあなたたちは戦うなとは言いません。この先の戦いも、ぜひ見届けてほしいのです」
これも、エーリッヒ個人の気持だった。
「セフィーロの柱制度撤廃に関わったあなたたちがこの霊神宮で思ったことがあるなら、迷わないでください」
それが、霊神宮のためになると信じていた。
彼女たちの想いは、国すら変えたのだから。
光たちは微笑みながら頷いた後、先を行く雷矢から離されないように走り出した。
一人残ったエーリッヒは、物思いにふけ始めた。
「まさか、綾崎雷矢まで来たとは思いもしなかった」
雷矢や光たちのことは、エーリッヒにも予想外のことであった。しかし、悪い意味ではない。
彼らによって、霊神宮はこれはもう自分たちだけの問題ではないと知ることになるのだろう。事は重大なのだと。
「そして、その後はどうなるのか…」
こればかりはエーリッヒにもわからない。
だからこそ、彼は今ハヤテたちの戦いを見届けようとしているのであった。
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