タイトル | : メモリーズノットフェイド |
投稿日 | : 2008/11/02(Sun) 20:24 |
投稿者 | : 絶対自由 |
秋と云う季節には様々な過し方があると思う。
芸術の秋――絵を描くなど様々だ。ナギがやりそうなことだな。いやアイツの場合は違うか。芸術……なのか? あれは。
食欲の秋――何処からか、焼き芋屋の聞き慣れた声が響いている。歩とか今頃追い掛けてるかもな……
スポーツの秋――ま、年中無休引きこもっているような連中しか知らないオレには解らないね。ああ、でもあの生徒会長なら今頃練習しているかもな、きっと。
さて、そんな秋の一日な訳だが……どういう訳か、目の前にはナギが居るわけで……
「何で此処に居るんだ?」
新しく入荷したビデオやDVDのチェックをしながらオレは聞いた。こいつが此処に来るなんて余程の時か、退屈な時にしかこない。ビデオやDVDをレンタルする時には何時もハヤテかマリアさんだからな、本人が来ることは滅多にない。
「何故って、お前に用があるからだ。用が無かったら私は来ないぞ、余程のことが無い限り」
だろうな。
「私はだな……これを聞きに来たんだ」
と、ナギは珍しくハヤテに頼る事無くオレに頼っている。どういう風の吹き回しか。
ナギが取り出したのは一つのカメラだ。何時だったか、ナギが初めての給料で買ったやつだ。まだ持っているとは驚きだ。コイツは飽きっぽいからな、もう埋れていたかと思ったけどな。
「失礼な! 私はそんな事はしない!」
そうかね。
大体、カメラのことなら随分前に説明しただろうが。それに忘れたんならハヤテに聞けばいいじゃねぇか。態々オレの所まで来なくても。
「うるさいっ! どうでもいいだろう!」
で、そこでなんでキレるんだよ……まぁ良いか。どうせ整理なんて何時でも出来るし、したとしてもサキがぶっ飛ばしちまう可能性もあるからな……。で? 何が聞きたいんだ?
「うむ。秋と云う事で、紅葉の写真でも撮って見ようと思ってな。それでだ、お前に上手い風景写真の撮り方を教えてもらおうと思って来たんだ」
だから、そういうのはハヤテに聞けよ。と、言いたくなったが、まぁ大方良いカッコしたいとか云う考えだろうから、その辺りは無視するとするか。
「風景写真と言ってもな……風景写真つうのは、写真の撮り手と、その写真を見たヤツが感動を共有できればそれで良い写真なんだよ。他の写真もそうだ、使うマシンに拘りがあったとしても最終的にはそれがものを言う。
お前はその写真で撮りたいんだろ?」
ナギはコクリと肯いた。
「ならお前が、観て、感動した、これを残しておきたいって思った写真を撮ってみろよ。写真なんて、それで良いんだよ」
むぅ、と腕を組んでナギは唸る。
その内納得したのか、ナギはそのまま、邪魔したな、と言って出て行った。全く今の言葉の為だけに来たのか? DVDの一本ぐらい借りてけよ。折角ガン●ム00のブルーレイDVD入荷したってのに……
……と、まぁ、ナギが出て行った後思ったわけだが……
オレも写真の一つや二つ撮って見るか……久しぶりに。
「サキー」
取り敢えず行くんだったらサキも連れて行くか、と云う念に駆られてオレはサキを呼ぶ。確か今倉庫の方で他の入荷したDVDを整理している筈なんだが……
まさか、また滅茶苦茶にしてんじゃねぇだろうな……
倉庫に行くと、案の定、ビデオとDVDの山に埋れているサキが居た。おい! 大丈夫か!?
「ああ若。すみません」
「いや、怪我は無いか?」
散らばったビデオやDVDを拾いながらサキを起こす。全くしょうがないヤツだな。ま、今に始まったことじゃねぇけど。
「……若、今とても失礼なことを考えませんでした?」
「な、何でそう思うんだよ」
「女の勘です」
使いどころを間違えているような気がするけどな……女の勘とやらを。
「そんなことより! 写真撮りに行くぞ! 写真!」
他所を向いて叫ぶ。
「は? 写真、ですか?」
「ああ。偶にはいいだろ? それにお前の写真って、あんまないしさ」
そう理由を作って、オレとサキは店を出た。どうせ客なんて来ないさ、悲しいことだけどな。
■■■
場所は公園にした。周りの木の葉が紅葉で紅や黄に染まっている。今が丁度見事と云う訳だ。もう少しすると今度は散り始める。まぁ今でも結構散ってるけどな。
「此処で良いか。サキ、其処の木の下に立ってくれよ」
「あ、はい。きゃっ!」
あーあ、また転んでやがる。本当に何も無いところでも転ぶんだな。
「大丈夫か?」
「はい……すみません」
全く……これだからほっとけねーんだよ。何時まで経ってもコイツはこうドジで、こけてばかりで――。偶に何でだか知らねぇけどすねたり、怒ったり。コイツのことはしっかりオレが守ってやんねぇと……
って、何考えてんだ、オレ!
今は写真だ! 写真!
カメラを構え、ピントを合わせる。
「サキ、なんかポーズとってもいいぞ」
はい、と返してくる。と、サキは別段ポーズを取るわけでも無く、片手を上げ、ピースを作って、笑顔でカメラを見る。
……まぁいいか。
オレはカメラのボタンを押して、シャッターを切った。
■■■
「で? どんな写真が撮れたんだ?」
DVDを借りに来たナギと一緒に来たハヤテに聞くことにした。ナギは今頃エヴァンゲ●ヲンのDVDやスク●イドのDVDなんかを見てるんだろうよ。
ハヤテは持ち前の笑顔をそのままに、懐に入っていた写真をオレに見せた。
「いやぁ、良く撮れてるでしょ?」
確かにまぁ、良く撮れているな、ナギにしては。……てかこれ敷地内だろ!? 外になんて出てないだろ!?
「流石にまた山に行くわけにも行きませんし……クマが出てくるかもしれませんよ?」
もう直ぐ冬眠の季節だからな。餌を蓄えている可能性が高いが……それにしたって手ェ抜き過ぎだろう!
「まぁお嬢様にはそれが精一杯と云う事で……」
確かにな、ナギにはそれが精一杯だろうな。納得してオレはナギが持って来た大量のDVDを袋に詰める。……ておい、まだ借りるのかよ。まぁいいけどよ。
「若ぁ! これもです、ってきゃあ!」
またやりやがった。仕方ねぇな。
オレはサキの元に駆けて行って、ぶちまけたDVDを拾い始める。
昔から変わらねぇ、あのポンコツメイド。
放っておけねえ、大切な家族。
撮った写真は小さい額を買って中に入れておいた。
何時か写真は色あせてしまうかもしんねぇけど……
思い出だけは色あせない……なんて、柄じゃねぇや。