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タイトル第5回お題:勘違いスパイラル (2008/2/25〜3/16)
記事No30
投稿日: 2008/02/24(Sun) 21:26
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
お題SSに取り組む前に、以下のルール説明ページに必ず目を通してください。
http://soukensi.net/odai/hayate/wforum.cgi?no=1&reno=no&oya=1&mode=msgview&page=0

なにか疑問などがありましたら、以下の質問ツリーをご覧ください。
そして回答が見つからなければ、質問事項を書き込んでください。
http://soukensi.net/odai/hayate/wforum.cgi?mode=allread&no=2&page=0

------------------------------------------------------------------
何げない行動が勘違いを生み、その勘違いがどんどん膨らんで……というラブコメ黄金パターンに
挑戦してください。(提案当時よりも条件をゆるめています)

【条件1】
物語の基本構造は以下のいずれかとします。

☆パターン1:スパイラル構造
  ・キャラAが行動aをする。
  ・行動aを見たキャラBはそれを行動bだと思い込み、それを受けて行動bbを起こす。
  ・行動bbを見たキャラCはそれを行動cだと思い込み、それを受けて行動ccを起こす。
  ・行動ccを見たキャラDはそれを行動dだと思い込み……
勘違いが新たな行動を生み連鎖して行って、最後にキャラAが見た光景は……という面白さに挑戦してください。

☆パターン2:スプラッシュ構造
  ・キャラAの行動aを、キャラBは行動bと思い込み……
  ・同じくキャラAの行動aを、別のキャラCは行動cだと思い込み……
  ・同じくキャラAの行動aを、別のキャラDは行動dだと思い込み……
各人がそれぞれ別々の勘違いをし、最後に一堂に会したときに……という面白さに挑戦してください。

【条件2】
勘違いをするキャラ(上記の例ではBとCとD)は最低3人以上登場させてください。

タイトルオチる大捜査線
記事No39
投稿日: 2008/03/14(Fri) 17:50
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
 それは3月14日、いわゆるホワイトデーの夜。日頃から敏腕で知られる三千院家のハウスメイドは、
小さな箱を手にしながら美しい眉を額に寄せていた。
「う゛〜ん……これ、どうしましょうかね〜〜」
 同じお屋敷で働く1つ年下の少年、綾崎ハヤテ。彼からは1ヶ月前のバレンタインデーに手作りチョコを
もらい、この日の夕方にも公園でクッキーを手渡されている。常識と礼節を自身の要としているマリアに
してみれば彼へのお返しを用意するのは当然、そう思って手作りのクッキーを箱詰めしてリボン掛けして
みたのだが……なにかが豪快に間違ってるような気がする。そもそもホワイトデーって、男の子が女の子に
プレゼントする日だったような。
「でもまぁ、せっかく作りましたし……ムダに感謝されるのも悪くないですわね」
 あくまでお礼、お礼。そう割り切ったマリアはハヤテを探すべくお屋敷の廊下を歩き始めた。
《でも一応はホワイトデーのプレゼントなんですし、あまり事務的に渡すのも……かといって意識して渡すと
なると少しテレますし……》
 歩いているうちに芽生えた小さな不安。迷ったマリアは近くにいたシラヌイを相手に、クッキーを手渡す
練習をし始めた。あれやこれやと試行錯誤を繰り返してみるが、意識すまいとすればするほどドツボに
はまっていく気がする。ここは基本に立ち返り、普通一般の人がやる感じをまず練習してから考えてみますか…
…そう思い直して。
「ハヤテ君! 好きです!」
「は?」
「…………☆◆$※!!!」
 ところがここでラブコメの定番【意中の相手が偶然目の前にいる】イベントが発動する。目をまん丸に
開けたマリアは顔を真っ赤に染めると、しどろもどろになってハヤテに言い訳をし始めた。
「ち……違いますよ!! ハヤテ君が……じゃなくて、シ……シラヌイに話しかけてただけですからね!!」
「あ、あ――!! そうですよね!! ビックリしたなぁ〜もぉ!!」
「と……当然ですよ!! ハヤテ君なんか、このシラヌイにあげる予定だったクッキーを食べちゃえば
いいじゃないですか!!」
「え? それはまさかツンデレ?」
「違いますよ――!!」
 こうして3月14日の夜は更けていったのだった。


 ……とまぁ、ここまでが単行本14巻の巻末おまけに描かれた出来事。物語はここから急転する。
 憧れの美人メイドさんからクッキーを受け取ったハヤテは、本来ならもっと陽気に振舞ってもいいはず
だった。勢いとはいえ面と向かって『好きです』と言ってもらえたのだから、これってフラグだよねと
ベッドの上でニタニタしながら悶絶してもいい立場のはずである。しかしそこは少年漫画の主人公、
そういう単純な行動は取らない。
《マリアさんはシラヌイにあげる予定だって言ってたけど、嘘だよなやっぱり……いったい誰にあげるつもり
だったんだろう?》
 超人的能力と引き換えに超不幸な人生を送ってきたハヤテにとって、マリアの意中の相手が自分自身だと
いうのは想像の範疇にない。あのマリアさんの意中の相手って誰だろ、まさかクラウスさんじゃないよなぁ…
…と想像をめぐらせたところで、少年はふと気づいた。自分が『お屋敷の中のマリアさん』しか知らないと
いうことに。
《そういえばマリアさんがお屋敷の外で誰と会ってるか、僕は全然知らないぞ……ひょっとしたら外に
恋人がいて、あのクッキーはその人へのプレゼントだったのかも。僕やお嬢さまの前ではそんなこと
素振りにも見せないけど……ありそうなことだよな、お嬢さまが寂しがり屋なのをマリアさんはよく
知ってるわけだし》
 マリアは世間知らずなところもあるけど、ときどき買い物をしに外に出ることはある。ナギの代わりに
ビデオを返しにいったり、ファミレスにお金を届けに来てくれたり、白皇学院やその時計台にふと姿を現した
こともあった。外の世界と交流があるなら男の人に声を掛けられたって不思議じゃない。あれだけの美人が
完全スルーされるほうがおかしいのだ。
《よし、明日からマリアさんが外出する先を回って、街の噂を聞いてみよう。ひょっとしたら何か手がかりが
つかめるかも》
 こうして翌日からハヤテの尾行と聞き込みが始まった。


 聞き込みをしていることがマリア本人にバレては元も子もない。ハヤテは慎重に間隔を取り、マリアの
行動パターンと重ならないようにしながら調査を開始したのだが……そんな彼の姿を興味深げに見守る
6つの瞳があった。
「ハヤ太君、何してるんだろう?」
「なんか聞き込みをしてるみたいだな。それも人目につかないよう気を配りつつ、さりげなく広範囲に…
…誰かを探してるみたいだ」
「探し人だって? やっぱ女か?」
 面白そうなことが大好きな3人組、泉と美希と理沙。日頃ナギの傍につき従ってる少年執事がこっそりと
別行動を取り始めたことを、目ざとい彼女らが見逃すはずもない。しかし動画研のカメラでは彼を追う事は
できても、会話を盗み聞きすることはできなかった。それがいっそう彼女らの想像力を刺激する。
「ハヤ太君が探してる女の子って言うと、やっぱりヒナちゃんとか歩ちゃんかな?」
「いや、クラスやバイト先で普通に会える相手なら聞き込みなんかしないだろ」
「するとあれか? 以前にハヤ太君が話してた、幼稚園時代の彼女とか?」
 幼少時のハヤテに強烈なトラウマを植えつけた、男に甲斐性を求める暴君“アーたん”。なんだかんだ
言っても今のハヤテの性格を形作った少女、その姿を偶然見かけたとしたら……3人はそのストーリーに
飛びついた。
「ありえる、それは大いにあり得る! よりを戻すとか言うつもりはなくても、近くにいるなら会わずには
居られないよな、どんなことをしてでも!」
「彼女さんのほうも今のハヤ太君を見たら惚れ直すかもしれないよね、お金以外のことはなんだって出来るん
だから!」
「よぉし、こうなったらスクランブル体制だ! ハヤ太君の一挙手一投足を抜け目なく監視して、なにが
なんでも彼女さんの正体を突き止めるぞ!」
「おーっ!!」


 ハヤテの調査と、それを追う美希たちのストーカー行為は新学期になっても収まらなかった。
 かくして放課後になるとすぐにハヤテを追って教室を飛び出していくようになった仲良し3人組。それと
引き換えに生徒会役員としての時間は激減する。元々ろくすっぽ生徒会の仕事など手伝わない3人ではあったが、
生徒会室に顔すら出さなくなるというのは異常事態といえた。
「あの3人、いったいどうしたんでしょうね?」
「さぁ? いろいろあるんじゃない、あの子たちも年頃の女の子なんだし」
 サボってる3人の尻拭いを淡々と進める春風千桜の疑問に対し、体調不良を口実に生徒会室のソファで
くつろいでいる副会長・霞愛歌は年上じみた余裕の返答を口にした。ちなみに会長のヒナギクは剣道部の
練習中である。
「愛歌さん、何かご存知なんですか?」
「いいえ別に? でも秘密の1つや2つ、誰にだってあるわよね千桜さん」
「うぐ……」
 なんでこの人はこう弱点をつくのが上手いのか。学院に内緒でメイドさんのバイトをしている千桜は
息を呑んだが、それと同時に愛歌から何かを聞きだすのは無理だと悟った。仮に3人組の事情を知ってたと
してもこの人は絶対にそれを漏らさない。ジャプニカ弱点帳にしっかりメモしたイジメネタを無償で他人に
話すほど、この人は親切でも天然でもないのだ。もちろん最初から何も知らない可能性だってあるわけだけど。
「千桜さん? どうしたの急に黙っちゃって」
「……いいえ、なんでも」
「あの3人のことが気になるんでしょう?」
 これはどういう意図の問いかけなんだろう……千桜は最大限に警戒アンテナを張りながら返事をした。
「なりませんよ。私には関係のないことですし」
「嘘ばっかり。あなたの方からこの話を始めたんじゃない」
「いいんです、愛歌さんなら何か聞いてるかもと思っただけですから」
 にべもない拒絶に黙り込む愛歌。ちょっと言い方がきつかったかな……と千桜は後悔したのだが、愛歌は
すぐに体勢を立て直して別の人物の名を挙げた。
「そうね、気になるんだったら……ワタル君に聞いてみたら?」
「ワタルって……クラスメイトの、橘ワタル君ですか?」
「そうよ、知らなかった? あの子、動画研究部の部長さんだから」
 さりげなく爆弾を落としてから、愛歌はゆっくりとソファから立ち上がったのだった。


「知らねーよ」
 その日の夕方。借りてたビデオを返却するついでに3人組の話題を切り出した千桜に対し、
ビデオ・タチバナの店番をしていた橘ワタルの返答は取り付く島もなかった。
「俺だって勝手に部長にされただけだし、あいつらと特に親しくしてるわけでもねーし」
「でも……」
「それに見ての通り、俺は俺で放課後にやることあるしな」
 別に千桜のほうも確信あって聞いたわけではない、あの3人と生徒会以外のつながりがある彼なら
ひょっとして知ってるかもと思っただけだった。だからゼロ回答でも落胆はしなかったのだが…
…なんというか、こういうきっぱりした拒絶をされると少し凹む。
「気になるんだったら、本人たちに直接聞いたらいいんじゃねーの?」
「……そうなんだけど」
 それができたら苦労はしないと千桜は思った。女の子同士の交友において、グループ外の人間が
グループ内部の事情に首を突っ込むのは容易なことではない。異性とか全然知らない仲とかならまだしも、
生徒会というゆるい関係で立ち位置が決まってしまっている千桜にとっては3人衆の固い防壁を乗り越えるのは
危険極まりない行為なのだ。ましてやその話題が、思春期の女の子らしい微妙な内容を含む可能性が高いと
あっては。
「おい、千桜ねーちゃん……大丈夫か?」
 ……気がついてみると、うつむいて立ち尽くす自分のことを下から見上げるワタルの顔が目の前にあった。
心配そうに見あげてくる少年の表情は、さっきの冷たい態度とは打って変わった年下らしい純真さに
満ちあふれていた。
「悪い、ちょっと言いすぎた……泣かないでくれよ、な? そういう顔されたら俺、どうしていいか
わかんねーんだ」


《あのワタル君が……師匠と……》
 ビデオ屋の店先で立ち尽くす千桜と、それを慰めようとするワタル。フラフラとさまよっているうちに
意外な光景に出くわした鷺ノ宮伊澄は、着物の袖で口元を押さえながら幼馴染の心変わりを嘆いた。
《ワタル君はあんなにナギのことが好きだったのに、サキさんに振袖をプレゼントしたり……咲夜の誕生日の
時には咲夜を押し倒してたし……あまつさえ師匠まで……》
 ちなみに師匠というのは、伊澄にメイド魂を伝授してくれたハルさんのことである。学校ではバイト先の
姿のことを隠しているようだけど、霊力の見える伊澄にとっては正体はバレバレ。
「やっぱりワタル君、マニアックだから……メイドさんのことが大好きなのね……」
「メイドさんって誰? あのドジでメガネのグリーン髪ポンコツ女のこと?」
「いえ、サキさんとは別の……って、あなた誰ですか?」
 思わず口から漏れていた独り言に背後から突っ込んでくる声に気づいた伊澄が振り返った先には、怒りの
オーラを立ち昇らせた丸眼鏡のシスターが立っていた。執事とらのあな騒動のときには敵味方に分かれた
伊澄とソニアであったが現在は休戦中である。しかしソニアのつりあがった目尻は当時のそれをはるかに
上回る勢いだった。
「ワタル君にちょっかいをかけるメイドって誰? あのドジメイドとは別に、またワタル君を惑わすやつが
現れたって言うの?!」
「い、いえそんな、まだワタル君が浮気したと決まったわけでは……」
 伊澄はフォローしてるつもりなのだが、今のソニアにとっては火に油を注ぐ発言に他ならない。
「さぁ教えなさい、どこに居るの悪魔のメイドは? 神に代わって天罰を下してあげます!」
「あ、あそこに……」
 勢いに押されて指差したビデオ屋の店先には既に千桜の姿はなかった。ほっと胸をなでおろす伊澄とは
対照的に、逆襲のシスターことソニア・シャフルナーズは燃える思いで決意を固めた。
《覚悟しなさい、ワタル君を惑わす悪魔のメイドめ……今度見かけたら、ズタズタのギッチョンギッチョンに
してあげますから!》


 そして翌日。小さな主人に代わって借りていたビデオを返却しに来たマリアは、ビデオ・タチバナに
入店しようとする直前、いきなり背後から鋭い殺気を浴びせかけられた。
「死ね悪魔! 地獄の業火に焼き尽くされるがいい!」
「えっ……?」
 マリアが肩越しに振り返った先には、怒りに燃える戦闘シスターのスネークバイトの爪先が顔まで
数センチのところに迫っていた。考えるより前にマリアの身体が反転する。襲い掛かる右腕に自身の左手を添え、
力の流れを一気に逆流させた。シスターは自分にかかる重力がいきなり逆方向に切り替わるのを感じた。
 グシャアッ!!! ドカバキ、グバァッッ!!!
 ……………………………………………………………………
「そ、そんな、バカ、な……」
「もう、いきなり後ろから襲い掛かるなんて……肝が縮む思いですわ♪」
 十数秒後、そこには渾身の一撃をかわされてアスファルトの地面へとガマガエルのようにねじ伏せられた
修道服姿の女と、汗ひとつ掻かずに背後からの奇襲を返り討ちにした弱冠じゅうななさいの完璧メイドさんの
姿があった。
「すげぇ……」
「なんだよ、いまの?」
「ただの形意拳ですわ。護身術程度の浅学で、不意打ちくらいにしか使えません」
 にっこり微笑みながら周囲からの問いかけに答えたマリアは、丁寧にメイド服のスカートの裾をはたきながら
しゃがみこんだ。そして足元に横たわる暗殺者の胸倉をつかんで片手で持ち上げると、創造主ですら冷や汗を
流しそうな極上の笑顔をもって語りかけた。
「さぁ、いったい私に何のご用でしょうか……とっととしゃべりやがらないと手が滑りますよ?」
「ひぃいいぃぃっ……」
 顔が引きつり前歯の砕けたシスターから事情を聞きだすには結構な時間を要した。そしてようやく
『ワタルにちょっかいを出すメイドが居ると伊澄から聞いた』という理由を聞きだしたマリアは、
さっそくSP部隊を呼び寄せて鷺ノ宮家へと車を回したのだった。


 そこから先はドミノ倒しの要領である。
伊澄いわく、「ワタル君が師匠に目移りしたかと思って」
ワタルいわく、「千桜ねーちゃんが相談があるって言うから」
千桜いわく、「愛歌さんが、ワタル君なら事情を知ってるかもしれないと」
愛歌いわく、「瀬川さんたちのことを千桜さんが気にしてたみたいだったから」
泉たちいわく、「ハヤ太君が誰を探してるのか気になって」
 そして…………。


 巡り巡って舞台は三千院家のお屋敷へ。自分の発言が全ての発端であることを知ったマリアはぎこちなく
苦笑いをしたのだが、事態はそこでは終わらなかった。
「マリアがハヤテに告白したって? どういうことだ、私はどうすればいいんだ、ハヤテはなんて
返事をするつもりなんだ?!」
 小さなお嬢さまの誤解が解けて不機嫌と困惑が収まるまでには、さらに1週間を要したという。


Fin.

タイトル恋愛運のデフレスパイラル
記事No41
投稿日: 2008/03/16(Sun) 20:52
投稿者jihad(ハイド)
参照先http://hmsa.blog61.fc2.com/blog-entry-6.html#more
* 6/1追記:投稿時「ハイド」と名乗っておりましたが、後に自分のブログに掲載する際別HNだと不都合だと気が付いた為本来のHNである「jihad」に修正しました。

『さて、今週最も運の悪いのは……ごめんなさ〜い、うお座のアナタです。特に3月3日生まれの、生徒会長をやっていて胸がぺったんこな女性のアナタは注意してくださ〜い』
「……この占い、私に何か恨みでもあるのかしら?」
 空気は澄み太陽が眩しく輝く、何とも気持ちの良いとある月曜日の朝。
そんな外とは対照に、この少女、桂ヒナギクはご機嫌斜めであった。
身支度も整え、丁度家を出る前の時間に流れている、ニュース番組の占いコーナー。
空になった飲みきりサイズの牛乳パックを握り潰し、怒りに任せスイッチに手を伸ばしたその時。
『特に恋愛運は注意です。モタモタしてると、意中のアノ人が誰かに取られちゃうかも?』
「え?」
『とりあえず、取られないにしても一波乱ありそうです、それではまた次回〜』
 その手は止まり、頭に浮かぶのは締まりの無い笑顔を浮かべた執事服の少年。
「……って、何でハヤテ君の顔が浮かんでくるのよ! そりゃあその、キライな訳じゃないけど……だからと言って……」
 以前観覧車の中では、友達兼ライバルの少女に自分の気持ちを話す事が出来たものの、中々素直になれない性格は相変わらず。
「ヒナちゃ〜ん、そろそろ学校に行かなくていいの〜?」
「あっ……行ってきます!」
 台所から響く母の声に気づき、慌てて家を出るヒナギクであった。



「はぁ〜、今日は授業も身に入らなかったわね〜」
 放課後の生徒会室。ホームルームが終わり生徒会室に入るなり、ヒナギクは机に突っ伏し小さくため息をついた。
「大体なんなのよ、あのピンポイントな占いは。頭おかしいんじゃないかしら? そもそも――」
「あの〜、ヒナギクさん?」
「へ? ……ひゃあっ!?」
 突然の声に振り向くと、そこに立っていたのはまさに今考えていた少年、綾崎ハヤテであった。
「ど、どうしたのよいきなり?」
「いや、瀬川さんが机の上に置きっぱなしだった日誌を届けに来たんですけど」
「あ、そうだったの。全く、あの子ったら」
 お決まりのような台詞を言いつつ受け取るヒナギクではあったが、内心は驚きと焦りでかなりうろたえていた。
何しろ、考えていた相手が気づかない内にいたのだからタチが悪い。
そして、この少年の間の悪さは更にタチの悪いものであった。
「でもヒナギクさん、どうしたんですか? 呼んでも中々気づかなかったですし」
「え?」
「いや、何かずっとブツブツ言ってましたし。これじゃあ春先に多い危ない人みたいですよ?」
「なっ……」
 ハヤテにとっては特に他意は無い言葉ではあったが、理由が理由だけにヒナギクの逆鱗に触れてしまった。
「だ、誰のせいでこんな事になってると思ってるのよー!」
「うわぁっ? すいませんすいません!」
何故怒られるのか、心を読める訳でも無いハヤテには当然見当もつかず、ただ謝って生徒会室を飛び出すしかなかった。



「はぁ〜、参ったな。またヒナギクさんを怒らせてしまった……」
 主が例のごとく欠席のため、一人で帰路についていたハヤテは、盛大にため息を一つ。
賑やかな商店街の喧騒の中、彼の周りの空気だけはやけに重いのであった。
「あれ、ハヤテ君?」
「あ、西沢さん……」
「何か元気無いみたいだけど……どうかしたの?」
 そこに偶然通りかかったのはハヤテの旧クラスメイト、西沢歩。
一瞬驚くハヤテであったが、これは相談のチャンスとばかりに口を開く。
「はい、実はまたヒナギクさんを怒らせてしまいまして……僕、やっぱり嫌われているんでしょうか?」
(あちゃ〜、どうしてこの二人、こんなすれ違ってるんだろう?)
 事の次第を聞いた歩は、心の中でやれやれとため息をつく。
「とりあえず、嫌われてるって事は無いと思うけど」
「そうですかねぇ……」
「そうだよ、ハヤテ君はちょっと悪い方向に考えちゃう癖があるんじゃないかな」
 そのまま歩はハヤテを近くにあったカフェに誘い、ゆっくりと相談に乗る。
マイナス思考の連鎖から中々抜け出す事の出来ないハヤテを元気付けるのはかなり骨の折れる仕事だが、歩は丁寧に話を聞き慰める。

「……っと、大分暗くなって来ちゃったね」
 話が終わる頃には、既に商店街の街灯が点るほどの暗さになっていた。
「あ、すいません。こんなに色々聞いてもらっちゃって……」
「いいのいいの、困った時はお互い様ってね。じゃあね、ハヤテ君!」
「はい、また今度」
 随分気が楽になったハヤテは、足取りも幾分軽く屋敷へと帰るのであった。
――カフェで歩に相談に乗ってもらっている最中、その光景をクラスメイトに目撃されていた事には当然気づく訳も無く。



 時刻はハヤテと歩が丁度別れる頃。愛沢邸の一室には、帰り支度をする愛沢家専属メイド、ハルこと春風千桜の姿があった。
「しかし、あの綾崎君が女の子とデートをしているとは……」
 脳裏に浮かぶのは、この愛沢邸へ向かう途中で見た光景。
偶然視界に入ったのは、カフェの窓際の席で話すクラスメイトの少年と、他校の制服を着た見知らぬ少女。
普段お堅いイメージで通っているため、学校の男子たちとは最低限度の会話しかしないような千桜。
そんな彼女にとって、男女が二人きりでカフェで会話しているなどデート以外の何物にも見えなかった。
「ハルさん、今綾崎君言わへんかった?」
「さ、咲夜さん? いつの間に……」
「いやな、着替えに入ってから中々出て来ぇへんから……それより、ハルさんあの借金執事と知り合いなん?」
「えぇ、まぁ……」

 その後、千桜が帰った後。
咲夜はソファに腰掛け、先程の千桜の話を思い返していた。
「ま、お茶してる所を見た言うても、あいつに限って彼女云々は無いやろな」
 ハヤテの性格を考えるに、大方ただ話をしていただけだろうという予測はついた。
そう結論付けた所へ、携帯電話が着信を告げる。
着信画面に表示された名前は、三千院ナギ。
「ん、どないしたん?」
『あぁ、この前一緒にやったゲームが見当たらないんだが、サクん家に忘れてないかと思って』
「アレか? いや、ウチには無いと思うけどな」
『そうか。まぁいい、後でハヤテに手当たり次第探させるか』
 その言葉を聞き、咲夜は一つため息をついたのだった。
物をきちんとしまわずにいるのはナギの悪い癖である。
あの広大な屋敷、あるいは他の家のどこにあるかも分からない物を、宛ても無しに探す羽目になるハヤテが不憫に感じたのであった。
「全く、しっかり管理しない自分が悪いんやないか。その内愛想尽かされても知らんで?」
 そして、何気なく放ったこの一言が、ナギに火を点ける。
『な、何だと? ハヤテはいつだって私にラブラブだ!』
(あちゃー……)
 よく考えるとかなり恥ずかしい台詞を電話越しに聞きつつ、肩を竦める咲夜。
これに振り回されているハヤテの様子が目に浮かぶ。
そしてその時、ふと思い出したのは先程の千桜との会話。
「まぁ、今日は女の子とお茶しとったらしいけどな」
『な、何をデタラメな……』
「いや、ウチのハルさんからそんな事聞いてな。何か気にしとったみたいやし」
『何!? 他の女に浮気して、あまつさえお前のとこのメイドまでたぶらかしているだと?』
 言ってしまってからふと気づいた時にはもう遅かった。
ナギという少女の思い込みの強さをつい失念していたのである。
「いやいや、浮気って……別にそんなんと違――」
『許さん、許さんぞ! 決定的証拠を押さえて問い詰めてやる!』
 最後に聞こえた怒りの雄叫びと同時に、電話は突如切られたのであった。



 翌日の放課後。
珍しく学校に来たナギは、更に珍しい事に動画研究部の扉を開く。
「あれ? ナギちゃんが部活に来るなんて珍しいねぇ〜」
「ちょっとモニターを借りるぞ」
 そう言ってナギは、何画面にも分割された巨大モニターの前に腰を下ろす。
ナギの狙いは、この白皇学院中に配置された動画研究部の監視カメラの映像だった。
昨晩、咲夜の話をロクに聞かずに電話を切ったナギ。
"女の子とお茶"しか聞いていない為、他校の生徒とは知る由もなく、ハヤテの相手は白皇学院生の中にいると考えたのである。
先に車を呼んで帰る、とハヤテに嘘をついておいたナギは、浮気相手が現れるのを見逃すまいと目を光らす。
入ってくるなり黙々とモニターにかじりつくナギに興味津々の瀬川泉、花菱美希、朝風理沙の三人組。
最初は後ろから様子を伺っていたものの、何をやっているのか一向に分からず、とうとう理沙が口を開く。
「なぁ、一体何をやってるんだ?」
「ハヤテが浮気をしているんだ。だからその証拠を押さえる」
「「「な、何だってー!?」」」
 とりあえずお約束のリアクションを取ってから、三人組はふと首を傾げる。
浮気というキーワードに。
「浮気って……一体どういう……」
「どういうも何も、私というものがありながら他の女と付き合っているんだ。加えて他の所のメイドまで手を出して……」
 もはやナギの中でハヤテの浮気は確定事項となっていた。
疑惑ではなく事実として言うナギの言葉に、三人組は驚きを隠せない。
そして、浮気という言葉よりも前にまず衝撃だったのは――
「私というものがありながら、って……もしかして、ナギちゃんとハヤ太君って付き合ってたのー!?」
「ま、まさかハヤ太君、そんな趣味が……」
「これは衝撃だな……」
 ナギの認識では、ハヤテとは恋人ということになっているため否定はしない。
再びモニターを見つめるナギと、緊急会議を開く三人組。
かくして時は過ぎて行くのであった。



 ナギの調査も三日目となったが、元々無い浮気の瞬間を押さえる事は当然出来る訳もなく。
怒りに燃えていたナギと、面白そうだと手伝っていた泉と理沙だったが、全く無い収穫に疲れは溜まるだけ。
最初の勢いはどこへやら、今は調査もそこそこに部室でぐだぐだとしているのであった。

 一方、三人が気づかない内に部室を出ていた美希は、広大な敷地内を歩いていた。
「これは随分深刻よね……」
 最初の内は泉や理沙と共に騒いでいた美希であったが、時間が経つにつれて冷静になっていった。
そして思い出すのは以前のヒナギクとの会話。
『あなたのクラスに、綾崎ハヤテ君って人がいると思うんだけど……ど、どんな人?』
 あの時、少なからず好意を抱いていたのはすぐに分かった。
普段一緒にからかっている泉と理沙はどう思っているか知らないが、美希は三人の中で一番ヒナギクと付き合いが長い。
だからこそ、ヒナギクがその想いをはっきりと自覚する前から感じ取っていたのである。
そこへ聞いた、ハヤテがナギと付き合っており、かつ浮気までしているという話。
浮気の証拠はまだ出ていないにせよ、この話が事実ならヒナギクの想いが成就する可能性は低い。
「まぁ何にせよ、問いただしてみるしかない、か」
 早ければ早いほど傷も浅かろう、とハヤテを探す美希であった。

「ハヤ太君、ちょっといいかな」
「あれ、花菱さん?」
 美希がハヤテを見つけたのは、敷地内でも奥の方、木が茂る人の気の無い場所であった。
「こんな所で何を?」
「いえ、ヒナ鳥が巣から落ちていたもので……」
「そう、まぁいいけど」
 怪訝な顔をするハヤテに、美希はしばし躊躇う。
どうやって切り出すものかと考えた末、率直に聞く事にした。
「ハヤ太君、君は一体誰が好きなんだ?」
「えっ?」
 ハヤテからしてみれば、いきなりもいい所である。
突然辺鄙な場所で呼び止められ、誰が好きなんだ、と聞かれるのだから。
質問の意図を測りかねていると、美希が更に問い詰める。
「聞くところによると、まだ十三歳の少女をモノにしただけでは飽き足らず、他の女と浮気をし、他所のメイドさんまで毒牙に掛けているとか」
「な、何ですかそれは! 全然意味が分からないんですけど……」
 勿論全く身に覚えの無いハヤテであったが、美希はナギが断言しているのを聞いているため、俄かには信じられない。
「しかし、そういう話を聞いているんだ。思えばヒナともよく一緒にいるし。男子の間では、あの難攻不落の生徒会長とイチャイチャしてるって評判だぞ?」
「そんな、イチャイチャだなんて――」
「そういえば、前会った……歩君だったっけ? あの子にも随分好かれてたみたいじゃない」
「そ、それは……」
 否定するハヤテに対し、次々と思い当たる節を述べていく美希。
一方ハヤテも、歩の話題が出たことでどう言っていいのか言葉に詰まり、それが更に美希を不審がらせる。
「そう言えば以前、牧村先生を押し倒していた映像もあったな……」
「だ、だからアレは誤解です! とにかく僕は知りませんっ!」
「あ、ちょっとハヤ太君!」
 その場を去ろうとしたハヤテを引き留めようと、慌てて袖を掴む美希。
そしてその時、事件は起こった。
「「うわぁっ!?」」
 急に袖を引っ張られ、その勢いのままバランスを崩したハヤテ。
その袖を掴んでいた美希も、そのまま後ろへ倒れてしまう。
かくして完成したのは――
「「あ……」」
 お約束の『色々あって男子が女子を押し倒した格好になってしまった図』である。
そしてお互い、どうしていいやら分からず、しばらくそのままで硬直していたのであった。



「た、たたた大変です! 事件なのです!」
「ええと、どうしたの? 文ちゃん」
「大変が大変で変態なんです!」
「とりあえず落ち着いて」
 バタバタと走ってきたと思えば、騒いで何を言っているのか分からない日比野文。
そしてそんな彼女を落ち着かせようと試みるのはシャルナである。
「実はかくかくしかじかで……」
「それじゃ分からないでしょ。いい加減にしないとグーで叩くわよ」
 こうしてどうにか文を宥め、事情を聞きだすシャルナであったのだが。
「前に会った女顔の執事服の人が、カチューシャの人を押し倒してました!」
「えぇっと、もう少し詳しく言ってくれないと……」
もちろん内容は半ば理解に苦しむ。絶賛混乱中の彼女の話は、断片ばかりでいまいち要領を得ない。
「それに聞こえたのです! メイドさんと浮気してるとか、あの生徒会の人と――」
「女顔の執事服だと? その話、詳しく聞かせてくれ!」
「「へ?」」
 そこに口を挟む人物が一人。
女顔の執事服、という言葉に反応して出現したその人物は、虎鉄その人。
そして、気迫に圧され文が話すや否や、虎鉄は猛スピードで消え去ったのであった。


「えぇっと、何か……すいませんでした」
「いや、こちらこそ……」
 一方、ハヤテと美希はと言うと。
とりあえず立ち上がる事は出来たものの、お互い顔は真っ赤、口はしどろもどろであった。
「じゃ、じゃあ、時間取らせて悪かったわね」
 何とかそれだけ言って立ち去っていく美希を見送り、ようやくほっとするハヤテ。
しかし、その安堵も束の間――
「綾崎ぃぃぃ!」
「うわぁぁっ!?」
 突然現れ、ハヤテの襟元を掴み揺さぶる虎鉄。
さすがのハヤテでも、動揺のため反応する事が出来ず、なすがままになってしまう。
「どういう事だ、綾崎ぃ!」
「ちょ、一体何なんですか?」
「私というものがありながら、十三歳の幼女に他の女生徒、メイドや生徒会役員とハーレムを作り上げ、それだけで飽き足らず更に愛人を作って白昼堂々押し倒していたそうじゃないか!」
「意味が分かりません!」
 当初の話に尾ひれ胸びれが付き、更に文の混乱により曲解されたそれらの言葉が早口で一気に捲し立てられる。
さすがに堪忍袋の尾が切れたハヤテが虎鉄を振り切ろうとするが、ここでまた転倒してしまう。
「綾崎ぃ!」
「うわぁ、離れろぉ!」
 もはや口調も乱暴となって来たハヤテが抵抗するが、虎鉄の力も伊達ではない。
丁度ハヤテの上に虎鉄が馬乗りになった状況。もはやどうにも出来ず。
「だ、誰かー!」
 何とかしてこの状況をどうにかしたいハヤテは、あらん限りの声で叫ぶ。
そして――

「何をやってるのかしら、綾崎君?」
「「な……」」
 ここで聞こえた、本来ハヤテにとっては救いとなるはずだったその声は。
「ヒ、ヒナギクさん!?」
「せ、生徒会長……」
 生徒会の仕事を終えたばかりのヒナギクであった。
「あの、これは……」
「綾崎君、ちょっといいかしら?」
「ひっ……」
 いつもの『ハヤテ君』から『綾崎君』へと戻っている上、その怒りのオーラを纏った笑顔に怯むハヤテ。
もちろん虎鉄も例外ではない。
「何やら騒がしいと思って来てみたら、何か色々凄い事が聞こえたんだけど?」
「い、いや、これは……」
「聞く所によると、十三歳の幼女を自分の物にした上に他の女子生徒と浮気をし、他所のメイドさんをたぶらかし、難攻不落の生徒会役員を攻略し、先生と禁断の愛を繰り広げた上昼間っからカチューシャの女の子を押し倒して、自分だけのパラダイスを作り上げているそうじゃない」
 指を一つずつ折り曲げながら、罪状の数々を述べていくヒナギク。
先程文が大声で騒いでいたため、何人かがそれを耳にしていたのだった。
ここへ来る途中で、その曲がりに曲がった噂を耳にしたヒナギクの瞳が、冷たくハヤテを射抜く。
「ご、誤解ですって!」
「じゃあ、この状況はどう説明するのかしら?」
そして今現在はハヤテの上に虎鉄が馬乗りになっている状況。
もはや言い逃れは意味を持たないのだった。
 


 その後、ヒナギクの誤解を解くのに陽が暮れるまで掛かり、話が伝わったルートを辿り一人ひとりの誤解を解くのには丸々一週間を要した。
そして最後になってようやく、ヒナギクの態度が発端であった事に行き着いた訳だが。
あれほど怒った手前何も言えず、もはやヒナギクはハヤテに逆切れするしかなかったとか。

「あの占い……結構当たってたのかもね……」
 逆切れによる説教も終わり、冷静になったヒナギクの頭に浮かんだのは、あの子憎たらしい占いであった。


Fin.

(3/19 0:53 一部修正致しました)

タイトル第5回批評チャット会ログ
記事No42
投稿日: 2008/03/17(Mon) 00:22
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
3/16(日曜)に開催された、批評チャット会のログを公開します。
今回は1作品あたり1時間以内と批評時間を区切って運営してみましたが、
参加者が2人だったのであまり意味がありませんでした。
 まぁお題の評価込みで3時間ちょうどで終われば上出来でしょう。

http://soukensi.net/odai/chat/chatlog05.htm