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タイトル第1回お題:○○の陰謀 (2008/1/21〜2/11)
記事No14
投稿日: 2008/01/21(Mon) 00:03
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
お題SSに取り組む前に、以下のルール説明ページに必ず目を通してください。
http://soukensi.net/odai/hayate/wforum.cgi?no=1&reno=no&oya=1&mode=msgview&page=0

なにか疑問などがありましたら、以下の質問ツリーをご覧ください。
そして回答が見つからなければ、質問事項を書き込んでください。
http://soukensi.net/odai/hayate/wforum.cgi?mode=allread&no=2&page=0

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お題:ある目的を持ったキャラが陰謀を仕掛ける物話

【条件1】
 陰謀の主は以下に挙げる原作キャラのいずれかとします。
複数登場させて陰謀対決させたり謎解き役に使っても構いません。
   マリア、クラウス、三千院帝、花菱美希、霞愛歌
   ギルバート、ソニア・シャフルナーズ(シスター)
   葛葉キリカ(アニメ版の理事長)

【条件2】
 オリジナルキャラを登場させてもいいですが、それは被害者役か
語り手役のみ可能とします。陰謀加担者とか黒幕とかは不許可。
なお原作でまだ登場してないキャラ(姫神、アーたん、ハヤテ兄など)
については、今回はオリジナルキャラとして扱います。

【条件3】
 ラストシーンは必ず大団円とすること。誰かが死んだり人間関係が
原作と別のものになってしまうようなエンディングは禁止とします。
ただし陰謀の途中過程で、死を装ったり不仲な振舞いをするのはOK。

タイトルおじいさまのお年玉
記事No15
投稿日: 2008/01/21(Mon) 00:05
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
 この作品は、2008/01/07 に『支天輪の彼方で』にてお正月記念SSとして公開したものです。

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 ここは練馬区の65%を占めるとも言われている広大なお屋敷、三千院家。そこには世界を股にかけた
石油王の遺産を受け継ぐ唯一人の孫娘が住んでいる。当然ながら警備に費やされる人員と設備は莫大であり、
人見知りな孫娘が招き入れない限りはそれが婚約者であっても銃口を向ける、テロリストの秘密基地にも
並び称される鉄壁の警備体制が敷かれていた。
 そんな広大なお屋敷に1人の男が足を踏み入れた。大胆不敵にも正面から侵入してくるその男に対し、
三千院家の誇るSP部隊や警備ロボ軍団は訓練どおりに周囲を取り囲み……しかし排除どころか指一本
触れることもできないまま、遠巻きにその男の侵入を見送ることしかできなかった。淡々と歩を進める
その男の胸には、鈍く光るペンダントが揺れていた。
「どんな仕掛けがあるか知らんが、ワシに三千院家の武器は効かん」
 こうして指一本動かすことなく三千院家に侵入したその男は、ついに最終防衛ラインとも言うべき
お屋敷の守護女神と対峙した。男は臆することなく相手の懐に飛び込むと、目の前にある双丘、
手を伸ばしただけで幾多の男たちが形意拳の餌食にされたという伝説の頂に向かって一片の遠慮もなく
むしゃぶりついた。ところが守護女神は無粋な侵入者に天罰を食らわすどころか、逆に赤子をあやすように
腕を広げて男の顔をかき抱いた。
「おぉ、マリアや、マリアや、会いたかったぞ」
「……はいはい、ようこそいらしてくださいました、おじいさま」


 侵入者の名は三千院帝(さんぜんいん みかど)、三千院家の現当主にして経済界の帝王と称される
人物である。指一本で総理大臣の首をも吹き飛ばせると恐れられる存在ではあったが、マリアにとっては
孤児だった自分を拾って可愛がってくれた優しいお爺さんに過ぎない。日頃から政敵や追従者に囲まれて
暮らしている帝にとっても、彼の孫娘に仕える美しい少女の存在は心を許せる数少ないオアシスであった。
「ごめんなさい、おじいさま。ナギはハヤテ君と初詣に行っていて、今はお屋敷には……」
「おぉ、いいんじゃいいんじゃ。今日はマリアに会いに来たんじゃからのぅ」
 三千院家の当主が孫娘と反目の関係にある一方で、出自も知れないメイド少女を溺愛していることは
周囲の誰もが知っている。付き人の1人も連れずこのお屋敷に辿りつくまでに、どれほどの反感や嫉妬を
乗り越えてきたことだろう。マリアはそれに気づかないほど子供ではなかったが、それを口に出していい
立場でないことも同時に悟っていた。自分はあくまで孫娘つきのハウスメイドなのだ、少なくとも今は。
「ありがとうございます。でもせっかくのお正月なのですから、ナギに……お嬢さまに
 お会いになって行ってくださいな。いまハヤテ君に電話して、お嬢さまを連れて帰ってきて
 もらいますから」
「そんなに気を使わんでえぇ、あいつもワシの顔など見たくなかろう」
「そんなことは……」
「えぇんじゃって。あいつは母親に似て、腹芸などできん奴よ。信じた者には全てをゆだねる代わり、
 そうでない者とは同じ空気を吸うことすら嫌がる」
 マリアの入れてくれた紅茶を美味しそうに味わいながら、財界の帝王はどこか寂しそうに溜め息をついた。
「下手にこれ以上いじり回して、どっかの馬の骨と駆け落ちでもされたらかなわんわい」
「おじいさま……」
「ま、孫娘のことはえぇ。今日はマリアにこれを渡しに来たんじゃ、せっかくのお正月じゃからの」
 三千院帝はソファに座ったまま、目の前に立つマリアに向かって光る何かを放った。
そのままカーペットに落ちてころころと転がる透明の球体をマリアが目で追った直後、
帝の口からは世にも情けない嘆き声が飛び出してきた。
「受け止めてくれよぉ……」
「……あの、おじいさま……まさかこれ、落とした玉だからお年玉、なんてオチじゃありませんよね?」
 さっきまでのシリアスな会話はどこへやら、半目のマリアにじどっと見下ろされて帝は狼狽した。
「そ、そんなことは、な、なな、ないぞ? ワシがそんな古典的なオヤジギャグをすると思うか?」
「…………」
「さ、早く拾ってくれ。お年玉贈呈式のやり直しじゃ。まさかお前まで、ワシからの贈り物をいらんと
 言い出しはせんじゃろうな?」
「……はい」
 球体を拾って差し出すマリア。帝はそれを受け取って1度懐にしまうと、改めて取り出して
マリアに向かって差し出した。そして伸ばしたマリアの手がそれに届く寸前に手を離し、
再び球体が床に落とす。悪戯っ子のようにそれを眺める帝は本当に楽しそうだった。
「ふっ、ふっ、ふっ」
「……もう、おじいさまったら……」
 こういう無駄な茶目っ気さえなければ、ナギとの仲も少しはマシになったでしょうに。
マリアは心の中で溜め息をつきながら、落ちた球体をまた拾い上げた。それはミラーボールのように
きらきらと光る透明な宝石だった。無数の平面で精緻にカットされた宝石からは夢のような味わいのある
色とりどりの輝きが放たれている。そして球体から飛び出した部分には紐を通すための穴が1つだけ
開いている。
「まさかこれ……ダイヤですか?」
「そうじゃ。そしてこれが、それを首にかけるためのプラチナ製のチェーン」
「いただけません、こんな高価なもの!」
 いくら世間知らずのマリアでも、これが借金執事の負債を数倍するくらいでは到底追いつかない
高額のものであることくらいは察しがつく。だが反射的にそう口走ってしまった途端、
楽しそうな養父の笑顔が見るも無残に崩れ落ちてしまうのをマリアは目にしてしまった。
石油王にとっては金額の多寡など問題ではない。自分が贈ったものを受け取ってもらえるか否か、
そこだけが重要なのだ。
「マリア……嫌いか? 嫌いなのか、ワシのお年玉が?」
「い、いえ、そんなこと……」
「お前までワシを捨てるのか? ワシにもらったものなど身につけるのも汚らわしいと、そう言うか、そうなのか?」
「そういうわけじゃ……」
 金額の大きさ、ナギへの遠慮、見せる相手がいないことの悲しさ。それら全てを置き去りにして、
マリアは養父を喜ばせることを最優先する覚悟を決めた。ダイヤのペンダントにプラチナのチェーンを
通して首にかける。そしてメイド服を着たままその場を一回転して、ダイヤのペンダントが
宙を舞うところを養父に見せ付ける。踊る少女を眺める石油王は嬉しそうに目を細めていた。
「ありがとうございます、おじいさま。素敵なお年玉、大切にします」
「肌身離さず大切にしておくれ。お前にはこの程度のことしか、してやれんかも知れぬからのぅ」
「そんな寂しいことおっしゃらないでください。私から恩返しするまでは元気でいてくれないと困ります」
 弱気になった当主を慰める少女。それからしばらくして、胸に大きなリボンを結んだメイド服の上に
ダイヤのペンダントを飾るのが似合わないことに気づいたマリアは、そっとペンダントを服の内側に
落とした。それを横目で見ていた帝の瞳がキラリと光った。


 ここで舞台は、数日前のMHE(ミカド・ハイパー・エナジー)実験室の光景にさかのぼる。
「おじいちゃ〜ん、お待たせ、できたよぉ〜」
「おおっ」
 案内された三千院帝が入ったのは、前後左右上下の6面全てに液晶ディスプレイを張り巡らせた
特殊な実験室であった。今は正面のディスプレイだけに電源が入っていて、入室したばかりの
帝の顔が大きく映し出されている。そしてその部屋の中央では、眼鏡をかけた灰色の髪の女性が
小さな球体をぶら下げながら無邪気に手を振っていた。
「はいこれ、おじいちゃん注文の特殊レンズ」
「ほぉ、ここまで小型化できたか。これで電源やケーブルなしでも、周囲360度の光景が
 カメラで撮影できるというわけじゃの」
「まぁね。要は胃カメラに魚眼レンズをくっつけて、映像を無線で送れるようにしただけなんだけど」
 MHEオーナーである老人にタメ口を聞くのは若干22歳の女性主任。彼女が白皇学院で
マリアと同級生だったころから現在に至るまで、この呼び方は続いている。帝の取り巻きや
MHE上層部はハラハラしながら彼女の言動を注視していたが、帝のほうは気にする風でも
なかった。真の天才とは常識や伝統の外側でしか暮らせない、そのことを彼は早くから見抜いて
いたから。
「さっそく試してみていいかの」
「いいよ、じゃこれ、エイトの口の中に入れて」
 女性主任は傍に立つ介護ロボットの口の中に小さな球体を無造作に放り込むと、操作パネルを
さらさらと操作した。すると室内6方向に張り巡らされたディスプレイに電源が入り、
ネジや電線で囲まれた機械じみた空間が映し出される。それはあたかも、見る者が介護ロボットの
体内に侵入して周囲を見渡したときの光景だった。さすがの帝も感嘆の声をあげる。
「ほぉ……見事なものだの。しかしこれ、周囲をライトで照らしたりはせんのだろうの?」
「しませんよ〜、暗視カメラで得た電磁波の映像を画像処理して色付けしてるだけだもん。
 でもほら、リード線の赤とか青とか黄色とか茶色とか、ちゃんと見えるようになってるでしょ?」
「うむ……確かに」
「重心移動装置もつけてあるから、転がっていける範囲なら自力移動できちゃったりもするんだ。
 もちろんパネルから操作できるし」
「よくやってくれたの。じゃ約束どおり、特大のケーキ食べ放題じゃ」
「やったーっ♪」
 女性主任は喜び勇んで万歳をすると、さっそくエイトの腹部を開けて透明な球体レンズを
取り出した。そしてそれを帝に渡しながら女性主任は無邪気な笑顔で問いかけた。
「でもおじいちゃん、こんなの作ってどうするの?」
「なぁに、たまにはミクロキッズになってみたいときがあるんじゃよ、男には」


 再び舞台はお正月の三千院家へ。帝が自家用ヘリで退出した後、それと入れ替わるように
お屋敷の主人とその執事が戻ってきた。
「ただいま」
「ただいま、マリアさん」
「お帰りなさい、ナギ、ハヤテ君」
 お決まりの挨拶を交わした後、三千院ナギは不機嫌そうな表情で信頼するハウスメイドに問いかけた。
「なぁマリア、さっきヘリコプターが飛んでくのが見えたけど……ひょっとしてくそじじいが
 来てたりしなかったか?」
「…………」
 マリアとしては肯定したくはなかった。認めれば帝が孫娘に会わずに帰ってしまったのが
バレてしまうし、では何の用事でここにきたのかと聞かれるのは必至だから。しかしここで
空気を読めない1人の男が登場する。
「さようです。帝さまは御自ら、年始のご挨拶においでになられたのですよ、ナギお嬢さま」
「クラウスさん?!」
「わがままなお嬢さまにお仕えするのはさぞや苦労の耐えぬことだろうと、帝さまはわざわざ
 私どもの手を取って励ましてくださったのです。あぁなんという慈悲深いお方、思えば
 紫子お嬢様にお仕えしてからというもの、帝さまは折に触れて私どものことを……」
「ジャンクになさい!」
 三千院家当主の栄光と寛大さを謳いあげる老執事長は、マリアの指先ひとつで馳せ参じてきた
SP部隊によって丁重にお持ち帰りされてしまうこととなった。残されたナギは立ちすくんだまま
黙って顔を伏せていた。マリアは慌ててフォローに回る。
「な、ナギ……ま、まぁ、こんなこともありますって。だからその、げ……元気を出して、ね?」
「……私は落ち込んでなどいない、心配するなマリア」
 小さな主人は気丈に顔をあげた。しかしその目尻に光るものがあることをマリアは見逃さなかった。
「だ、だいたいあんなくそじじいと顔を合わせたら新年から縁起が悪くなるというものだ。
 私が戻る前に出てってくれて清々するくらいだ」
「ナギ……」
「疲れたからちょっと寝る。夕食ができたら起こしてくれ。誰もついてくるんじゃないぞ」
「あ、あのっ!」
 肩を怒らせて自室へと立ち去ろうとするナギ。妹のように思っていた意地っ張り少女の行動を
とても正視できなかったマリアは、思わず声をかけてしまった。
「ん? どうした、マリア」
「おじいさま、お年玉を持ってきてくれたんですよ。ナギの分も預かってます」
「嘘つけ。あいつがそんな殊勝なじじいかよ」
「嘘じゃありませんよ。お夕食のときに持ってきてあげますから」
 そういってナギと別れたマリアは、夕食を作るふりをして自分の部屋に駆け込むと鏡の前に
座り込んだ。そして躊躇を気合で振り払うと、首にかけたペンダントをそっと外し、
机の中にあった化粧箱に収めて丁寧に梱包をし始めた。
《いいんですよね、これで……おじいさまが私のためにお年玉をくれた、そのお気持ちだけで私は十分ですもの》


《むふふ、ふふふ〜》
 練馬の別宅を飛び立ってから三千院帝は含み笑いが止まらなかった。ヘリはそのまま
三千院家本宅ではなく、MHE実験ラボのヘリポートへと降り立った。ヘリから飛び降りた帝は
厳重に人払いをすると、あの6面ディスプレイ実験室へとスキップしながら足を踏み入れた。
「ふふふ〜、マリアと風呂に入らなくなってから何年も経つからの。やはり養父としては、
 娘の成長具合を知っておく義務があるというもんだて」
 開発費数百億円をかけた秘密プロジェクト。その最初の実戦テストが今、MHEオーナー
自らの手で行われようとしている。帝は震える手で操作パネルの電源を入れた。マシンが立ち上がり
ペンダントとの通信リンクが確立されるまで数十秒間。みずみずしい肌色の双丘が目の前に
繰り広げられるのを帝は胸を高鳴らせながら今か今かと待った。
「とりあえず今回はテストじゃ。夜になってマリアが寝静まったら、自力移動装置のテストも
 始めることにしよう。あのチェーンは遠隔で外せるようにしてあることだしのぉ」
 準備は万端、細工は流々。新しいテクノロジーの扉を開くのが下世話なスケベ心であることは
古今東西変わりがない。やがて液晶ディスプレイのノイズが弱まり、透明な球体を取り囲む光景が
数十キロ離れた実験室に映し出された。しかしそれは、帝の想像を大きく裏切るものだった。
「なんじゃ、こりゃああぁ〜〜!!!」
 帝の目の前に広がったのは、見渡すかぎり平坦な肌色の台地だったのである。


 翌朝。三千院帝は周囲の制止を振り切り、再び練馬の別宅へと足を運んだ。
「マリア! 昨日渡したペンダントはどうした!!」
「えぇっと、そのぉ……」
 マリアが返答に窮しているところに、お屋敷の主人が顔を出す。
「なんだくそじじい、なんの用だ」
「……きさまっ、何でお前がそれを! お前のような洗濯板に用はないんじゃ!!」
 三千院帝は血走った目をしながら孫娘の胸元に手を伸ばした。


 三千院帝、世界有数の石油王。新年を迎えた彼はこうしてまた一歩、黄泉の国へと近づいたのだった。


Fin.

タイトルマリア様ゲーム
記事No25
投稿日: 2008/02/10(Sun) 03:08
投稿者通りすがり
「やっぱり幼女性愛者はまずいですよね〜」
 今日も今日とてハヤテハヤテと、何たらの一つ覚えのように彼にじゃれつくナギを横目に、
マリアはぼそりと呟いていた。
 ナギの恋を応援しようと決めていた彼女がその決心を鈍らせ、あまつさえ否定する方向に
走っているのには、もちろん理由がある。それは、つい昨日のこと。ナギの数少ない友人と
言って差し支えないであろう、伊澄と咲夜が遊びにやってきた、静かな昼下がりにまで時は遡る。
 客人二人に紅茶と菓子を用意したマリアが、幼女三人と綾崎ハヤテが集っている部屋へと
向かう途中、聞こえた声がその始まりであったという。

 ハヤテのバカー!!

 めきょっ。

 バタン。

 バタバタバタ……。

 それ自体は、マリアにとっては聞き慣れたものだった。何かしらの理由により感極まったナギが
「ハヤテのバカー!!」と叫ぶ。めきょっ。とその頭部に何かをめり込ませる。今日のナギは、
人気の漫画を読んで影響されたらしい、将棋の盤と駒を持ち出していたので、おそらくそれだろう。
バタン。とドアを開け、バタバタバタ……と駆けて行く。ああ、今日も平和ですね、とマリアは、
この後部屋を片付けるという自分の現実から目を逸らす。いつもと何も変わらない。強いて普段と
異なることを挙げるのならば、バタバタバタ……。の後についていく、パタパタパタ……。と
若干可愛らしい足音が聞こえたことくらいだろうか。伊澄あたりが後を追ったんだろうと、
マリアは推測した。後を追ったのが咲夜であったならば、こんなに可愛らしい足音にはならない。
 果たしてその通り、ナギを追ったのは伊澄であり、咲夜はハヤテの元に残っていた。とりあえずは、と
マリアが乱暴に開け放たれたドアの近くまでやってくると、部屋の中から咲夜の声が聞こえたのだ。
「ハヤテお兄ちゃん……大丈夫か?」
 ぶっ。
 吹き出しそうになるのを、なんとか堪える。
 お兄ちゃん。お兄ちゃんときましたか。あらあらまあまあ、ハヤテ君ったら妹スキーでしたか。
でもこの中にいるのは咲夜さん。ハヤテ君をそんなふうに呼ぶわけはありません。あ、もしかすると
ハヤテ君の妹さんですか? 生き別れになった兄を求めてこんなところまで……泣かせるじゃないですか。
ところで、いくらハヤテ君が天然ジゴロだと言っても、まさか義理の妹だとかそんなオチにはなりませんよね?
 ──と、思考を展開することおよそ三秒。ギギギ、と体を断続的に動かし、扉の端から部屋の中を覗こうとして、
「あ、あの、こんなところでその呼び方は……」
 ピタリ。どこか戸惑ったようなハヤテの声を聞いて、マリアは思わず上半身を乗り出すのを止めた。
 あれ? 「こんなところで」「その呼び方」ってことは、普段は別の呼び方をしているってことでしょうか?
 おかしいですね、妹さんだったらいつもその呼び方でいいでしょうに。
「え、ええやん、へるもんやなし」
 あら、妹さんは関西弁なんですか? まるで咲夜さんみたいですね──。
 覗き見、再開。マリアが冷や汗を垂らしながら部屋の中を見ると、そこにいたのはハヤテと、
その妹などではもちろんなく、見事に顔を赤くした咲夜お嬢さま。
 あらあら、義理の妹どころか、赤の他人じゃないですか。
 ハヤテ君が実は咲夜さんと兄妹だったなんて裏設定は知りませんよ?



 ──思えば。
 綾崎ハヤテは、幼女に好かれる体質だった。
 三千院ナギ。
 鷺ノ宮伊澄。
 そして──愛沢咲夜。
 咲夜があのように顔を赤くするなんて、滅多なことではない。
 それを見てマリアは、忘れかけていたことをふと思い出したのだ。
 ロリコンは、まずいんじゃないかしら?
 「お兄ちゃん」は、まずいんじゃないかしら?
 ナギがハヤテを好きなことは、仕方が無い。
 だから、ハヤテがナギを──分類するならば幼女を、好きになることは、何か引っかかるが、しかし必要なのだ。
 そう思っていた。
 でも。
 「お兄ちゃん」は、まずいんじゃないかしら?
 幼女を好きになることは、幼女への抵抗を無くすことは、どこか引っかかるが、必要だから仕方ない。
 しかし、幼女に対して、「そういうもの」に対して、偏愛を抱くようになるのは、流石にまずいのでは?
 咲夜がハヤテを「お兄ちゃん」と呼んだことは、マリアが忘れかけたいたことを、
以前以上にはっきりと意識させるのに十分だったのだ。



 かくして、『綾崎ハヤテから幼女スキーもとい好かれ分をとりあえず一時的に取り除こう作戦』は幕を開ける。
 戦略は、『年上の魅力を理解させる』こと。シンプルであるが、これが一番であるように思われた。
ハヤテはきっと、年上の魅力をわかっていない。以前、年下よりも年上の方が良いと嘯いていたことが
あったが、それはおそらく、自分の真の趣味を隠すためのブラフだったのだろう。あんな単純な嘘に、
簡単に騙されてしまったものだ。しかし年上の良さがわかれば、相対的に、年下への興味も減少してゆくだろう。
年上お姉さんを集めて、その魅力でころりとやっつけてしまうのだ。そして年下に対してドライになれば、
年下から好かれにくくもなるはずだ。

 ──そのようにしてマリアは、面白そうな暇潰しに向けて張り切っていた。
「やっぱりマリアは無駄に強いからつまらんな……」
「うふふ……ナギ、修行が足りませんよ」
 伊澄と咲夜の帰宅後、ハヤテを避けたのだろうか、将棋の戦術について書かれた本を片手に
挑んできたナギに、マリアは上機嫌に笑う。
 そう、この将棋のように。年上お姉さんという駒を自在に操って、敵方の王将であるハヤテを
追い込んでいく。そうして最終的に、彼の性格をほんの少し改造、もとい、彼を更生させてやるのだ。
「でも、これならハヤテだったらいい勝負になるかな……」
 負けながらも自分の成長を感じたのか、ナギは再戦しようとハヤテを呼びに行った。
 その後姿を見て、マリアはふ、と笑う。
 もしかしたら、これからハヤテ君は少しだけあなたに冷たくなるかもしれません。
 でも、それは正常なことなんです。だから、負けないで──。
 これからハヤテに、年上お姉さんの刺客を差し向ける。ぱたぱたとナギが廊下を歩く音を聞きながら、
マリアは、ふふ、ふふふ、と笑っていた。



 マリアは、気づいていなかった。
 これは、最初から平等な勝負ではないということに。
 マリアには、手駒など殆ど与えられていない。
 将棋ならば、王と歩のみで戦う十枚落ちすら上回る──王のみで戦う、裸王に近い状況であったということに。



 ケース一:貴島サキ

『え、あの、私、そういうのは……だって、若がいますし。あ、いや、別に若がどうとかいう
わけじゃないんですけど……ほら、お店ですよ! お店が忙しいので、ちょっとそういうことを
やっている時間は……え、ハヤテさんを店まで来させる? いえ、あの、そんな、余計に……
だって、お店には若が』
「あー……はい、サキさんはそうでしたね。すみません、お幸せに」



 ケース二:牧村志織

『えー、いくらマリアちゃんの頼みでも、私には彼氏がいるから……』
「ああ、彼氏が──って、ええ!? 牧村さん、そんな、同学年なのに、だってあの頃はそんな素振り
全然無くて、灰色仲間だと思っていたのにぃぃ……」
『あれ、マリアちゃん? もしもし、もしもーし?』



 ケース三:桂雪路

『え!? お姉ちゃんをハヤテ君に!? だ、だめだめだめ!! そんなの絶対だめよ!! ハヤテ君って
だけでもだめなのに、ましてやお姉ちゃんをなんて……だめよ! お姉ちゃんは絶対に渡さないわー!!』
「えっと……ヒナギクさん、そこはせめて『ハヤテ君は渡さないわー!!』にしておかないと、
ラブコメ的に問題があるんじゃ……ていうか桂先生に電話掛けたのに、どうしてあなたが出ているんですか?」



「桂先生もだめ、と……ふう」
 まだ何か言ってる生徒会長を無視して、受話器を下ろす。これで三人連続で失敗、しかもそれぞれに
惚気られているときた。溜め息の一つも出る。
「でも、こんなことで挫けてなんかいられませんね。次は……」
 次は、と受話器を持ち上げる。そして、掛けるべき番号をプッシュ──できない。
 いない。
 年上の女性に、これ以上知り合いがいないのだ。いるにしても、それは伊澄の母らであったり──さすがに、
頼むことはできない。初穂などは、頼んだらぽーっとしながらこくりと頷いてしまいそうですらあるため、
余計に頼めない。
「そんな──」
 がくりと、膝をつく。既に、持ち駒は無い。たった三枚与えられた歩は、持ち駒がそれだけだと
気づきすらしないうちに、何の役割を果たさせることも無く、無造作に使い切ってしまった。
 ──だが。
「……あ」
 将棋というのは、王が取られるまでは続くゲームである。
「……なんだ、簡単じゃないですか」
 王将が、たった一人の年上が、まだ残っていた。
「待っていてください、ハヤテ君。私が直々に、年上の魅力を教えてあげます……!!」
 ところで、将棋というゲームの特異な点としては、取られた駒が相手のものになってしまうということがあるそうで。



「ねえ、ハヤテ君は……年上に興味は無いんですか?」
 とある夜更け、お風呂上りの無防備な格好で問うてみたり。今までも無意識にやっていたことを意識的に。
まあ、最初はこんなものでしょうと思いながら。

「ここはこう解くんですよ。まったく、手がかかりますねぇ……」
 二人きりで勉強中、ふと手を重ね合わせてみたり。ボディタッチ開始。手が触れ合うぴくりと反応し、
そのまま体を硬直させるのが初々しい──おかしなことに、それはハヤテだけではなかったが。

「そんなに気にすることないですよ……ね?」
 ナギやヒナギクがツンツンするのを真に受けて落ち込んでいるところを、背後から
抱きすくめてみたり……大人の所業。最初は恥ずかしかったそれが、段々と悪い気が
しなくなっていくのは、きっと慣れだろうと、マリアは思うことにした。




 そして、数日後。
「完璧ですわ……!! 年上ってどんなことをしたらいいのか正直よくわかりませんでしたけど、
ハヤテ君の反応を見るにこれで正解に違いありません!! むしろ、逆にフラグとかいうのが
立っちゃうんじゃないかってくらいです……で、でも、次はもうちょっと踏み込んでみるのも
いいかもしれませんね……例えば、ほ、ほっぺたに……………………ま、まあ、いずれにせよ、
もうしばらくこの路線で続けていけばすべてが上手くいく」
「わけがあるかぁーーーー!!!!」
 どんがらがっしゃーん。
 無駄に派手な効果音付きで部屋に押し入ってきたのは、すみませんここ最近マリアさんに奇行が
目立つのが気になってお嬢さまに全部話してみたらいきなり怒り出して、と目線で訴えながら
ぺこぺこ頭を下げるハヤテと、尋問態勢万全のナギお嬢さま。
「ナ、ナギ……ううっ……」
 悪事のすべてが露見した犯罪者といった様相で、マリアはがくりと頭を垂れる。特に悪事を
働いた覚えは無いが、無意識にそうしてしまっていた。
 こうして、『綾崎ハヤテから幼女スキーもとい好かれ分をとりあえず一時的に取り除こう作戦』は、
綾崎ハヤテに大きな影響を与えることも無いままに、あっけなく幕を閉じた。



 虚実織り交ぜながら事の次第をナギに説明したマリアには、結局のところ何のお咎めも無かった。
 なんとなしに感じる罪悪感から、マリアはこれ以降ハヤテと多少の距離を取る──有り体に言えば、
いくらか冷たくすることを考えたが、それはナギによって止められた。曰く、
「お前は世間を舐めている! 今は、ちょっと冷たくしただけで
すぐにツンデレ疑惑がかけられる腐った世の中なのだ!!」
ということらしい。中途半端に冷たくするくらいなら、今まで通りにしていてくれということだ。
 一方ハヤテには、咲夜が彼をお兄ちゃんと呼んでいたことをマリアが報告したことを原因に、
いくらかの厳罰と多少のごたごたがあったとのことであるが、それはまた別の話となる。

タイトル第1回批評チャット会ログ
記事No26
投稿日: 2008/02/12(Tue) 00:21
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
2/11(月曜)に開催された、批評チャット会のログを公開します。
たった2名の参加にも関わらず、予想以上に濃い会話が交わされました。

http://soukensi.net/odai/chat/chatlog01.htm