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タイトル第20回お題:年越し or 大掃除 or クリスマス (2008/12/01〜12/14) ←批評会は作者限定
記事No124
投稿日: 2008/12/01(Mon) 01:09
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
お題SSに取り組む前に、以下のルール説明ページに必ず目を通してください。
http://soukensi.net/odai/hayate/wforum.cgi?no=1&reno=no&oya=1&mode=msgview&page=0

なにか疑問などがありましたら、以下の質問ツリーをご覧ください。
そして回答が見つからなければ、質問事項を書き込んでください。
http://soukensi.net/odai/hayate/wforum.cgi?mode=allread&no=2&page=0

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今回のテーマは3択です。「年越し」「大掃除」「クリスマス」の3つから、
お好きなテーマをお選びください。原作ではいつになるか分からない年末イベント、
みなさんの想像力が試されます!

【条件1】
 以下3つのキーワードのいずれかを、物語の展開に組み込むものとします。
   (1) 年越し
   (2) 大掃除
   (3) クリスマス

【条件2】
 オリジナルキャラは登場可能ですが、あくまで名無しの脇役に限ります。
(たとえばコスプレ会場のカメラ小僧とか、食堂のウェイトレスさんとか)

【条件3】
 えっちなのは禁止です。

(注:今回は作者限定チャットです。投稿者は作者IDの確認をお忘れなく!)

タイトル嘘と奇跡と優しさと
記事No126
投稿日: 2008/12/12(Fri) 23:58
投稿者黒獅子
今回も投稿させていただきます。
ちょっとルールと抵触していないか不安ですが。
それではどうぞ。



ギン! ガッ! ギィイン!
ロイヤルガーデンの巨大なホールに、剣を打ち合う音が響き渡る。
打ち合う二人の一方は、金色の髪を美しくはためかせながら華麗に舞う少女、そしてもう一方はその少女の剣捌きに必至で喰らい付く水色の髪をした執事服の少年。
「さあ、ドンドン速度を上げますわよ。
 しっかり付いてきなさい、ハヤテ 」
「う、うわわわ! 」
宣言どおりに鋭くなるアテネの剣に、情けない声を上げながらハヤテはたじろぐ。
その間にも容赦なく剣速は増して行き、防戦一方となっていく。
いつものように剣が弾き飛ばされ、稽古が終わるのも時間の問題。
(さて、そろそろ頃合ですわね)
最後の一撃を決めようと、剣を大きく振りかぶる。
「っ、今だ! 」
「えっ!? 」
予想だにしないハヤテの反撃。
完全に狙い済ましたその一撃にアテネは対応しきれず、いつもとは逆に剣を弾き飛ばされ、鈍い金属音とともに床へと落ちる。
「やった! やったよアーたん! 」
初めて取った一本。
それが今まで自分を鍛えてくれていた相手からである以上、その喜びもまたひとしおである。
「ハヤテ、あなた…… 」
「えへへへ、アーたんが最後の一撃は振りが大きくなってスキができやすいから狙ってみたんだ 」
作戦通りの結果に、得意満面のハヤテ。
少し前までは事あるごとに泣きじゃくっていた姿はどこにもなかった。
「そう、たいしたものね 」
その著しい成長に顔をほころばせる。
だが、それと同時に彼女の中に言い知れぬ不安が走った。
成長した、つまりそれは彼が“変わった”というこの事実に。
「アーたん、どうしたの? 」
自分の心中が表情に出ていたのか、ハヤテが不安そうに尋ねる。
その声に我を取り戻し、何とか平静を装うとする。
「いえ、何でもありませんわ。
 今日はこれまでとしましょう。
 私は少し風に当たってきますから、食事の支度をお願い 」
この感情を悟られるわけにはいかない。
そういい残すと、足早にバルコニーへと向かっていった。



「はぁ……、はぁ…… 」
ハヤテの視界から外れたと判断すると、すぐさま駆け足となった。
そのため、目的の場所に到着した頃にはすっかりと息が上がっていた。
それはあたかも自分の思い描いた想像から逃げ出すように。
変わっていくハヤテ、変わることのできない自分。
その二人のどうしようもない違いに気づいてしまったから。
(ハヤテは私と違って城の外に出ることができる。
 そう、彼は本来ならここに居るべきではない。
 彼には帰るべき場所がある。
 だから…… )
漠然としたものであっても、一度現れたその不安は簡単には消えてくれない。
『僕とアーたんは……ずっと一緒だ 』
彼は確かにそういった。
しかし、それは本当に果たされるものか?
彼は強くなり“変わった”
ならばその胸の内にある思いも“変わる”時が来るのではないか?
もしそうなれば、自分はそのとき耐えることができるのだろうか。
この永遠と呼べるほどにふさわしい時の中、孤独に生きることを強いられた自分に。
誰かと過ごすことの喜びを知ってしまった自分に。
考えれば考えるほど、その思考は悪い方へと傾いていく。
「こんなことなら、出会わない方がよかったというの?…… 」
思わず口から出た言葉は、あまりにも残酷な結論を紡ぎだす。
そんな自分に、想像する結末に、嫌悪と恐れが止まらない。
だから気づかなかった。
この城のもう一人の住人が、自分の執事である永遠を誓った相手が、そんな姿を見て何かを決意したことに。



「ハヤテー、ハヤテー、どこに居るのですかー? 」
それから数日、アテネの中でその不安が消えることはなかった。
いや、むしろ大きくなっているといっていい。
原因はハヤテの行動である。
「ご、ごめんアーたん。
 遠くに居たから中々聞こえなくって 」
あの日からというもの、一人で動き回ることが格段に増えていた。
そのため用事があって呼びつけようにも、探し出すのに一苦労しなければならない。
「全く、主である私を差し置いてこそこそ何をやっているというの? 」
「べ、別にそんなんじゃないよ。
 ちょっと城の中を探検してただけだよ。
 まだ、何処に何があるか全部分かったわけじゃないし 」
もうここに来て随分と日も経ち、一通りの案内は自分がしたのだから本来ならばもうそんなことをする必要はないはず。
目的が別にあることは明白であった。
しかし……
「そう、ならかまいませんわ。
 それではお風呂を沸かしておいて頂戴 」
「え……う、うん 」
特に追求することもなく用事をいいつける。
ハヤテは不思議に思いながらも風呂場へと向かっていく。
それは聞かなかったのではない、聞けなかったのだ。
下手に問い詰めて話がこじれてしまうことを怖れてしまったために。
ハヤテに嫌われてしまうのではないかと思ったために。
(何をやっているのかしら、私は。
 本当なら、主の威厳というものを示さなければいけないというのに )
そのギクシャクした状態はその後も続き、そして事件が起こった……



「ハヤテー、ハヤテー 」
その日も返事は中々返ってこない。
彼を待つ時間が長ければ長くなるほど、アテネの中では不安が膨らんでいく。
そしていつにも増して返ってこない返事は、彼女があらぬ想像をするには十分な材料であった。
(まさか、本当に……
 いや、そんなこと! )
考えが頭の中をよぎったその瞬間、無意識のうちに足は駆け出していた。
『もう親の元に帰りたくなったから? 』『自分があんな態度をとってしまったから? 』
結論の出ない思考のループに苛まれながら、その小さなからから搾り出すように執事である少年の名を叫ぶ。
かつて彼がそうしたように、この城から世界中に聞こえるように。
だが、幼い少女が一人の人間を探すにはこの城はあまりにも大きい。
息が切れ、声は枯れ、精根尽き果てようとしたそのときだった。
普段使うはずのない近くの厨房から大きな爆発音が聞こえたのは。
「ハヤテ! ここに居たの!? 」
「わわ! アーたん!? 」
想像以上に駆けつけるのが早かったためであろう。
ハヤテはかなり驚いている。
しかし、それはアテネも同じこと。
今まで必至で探したその少年は、服にこげあとがいくつか残っているのは理解できても、クリームまみれになっていたのだから。
「あ、あなたいったい何をしていたというの? 」
「えっと、その……
 ケーキを作ろうと思っていろいろやってたら、オーブンが爆発しちゃって 」
申し訳なさそうに答えるその姿の周りを見渡すと、今までの失敗作だろうか、歪な形に仕上がったスポンジの山に生クリームがデコレーションされた“ケーキもどき”ともいえるものの山が目に撮れた。
どうやら、今まで一人で何度も作っていたのだろう。
「ケ、ケーキ? どうしてそんなものを急に? 」
「だって今日はクリスマスでしょ?
 だからケーキを作ってお祝いしようと思って 」
「クリスマス? 」
よもや、この城の中でそんな言葉を耳にするとは思わなかった。
「そうだよ。だって僕がこの城に来てから数えたら今日がその日になるはずだもん 」
“嘘だ”
瞬時に気づいた。
ハヤテが几帳面に日にちを数えているところなど見たことがない。
それでなくても、まともな時間感覚などこの城の中でつかめるはずがないのだ。
しかし、それを追求しても仕方ない。
アテネは話をあわせて質問をすることにした。
「そう、でもどうして急にそんなことをしようと思いましたの?
 別に二人で作ってもいいことですし 」
「だって、アーたん最近元気ないみたいだったから。
 何か楽しんでもらえないかなと思って…… 」
「私が…… 私の為に?…… 」
「そうだよ。だって、僕はアーたんにはずっと笑ってて欲しいから 」
屈託のない笑顔で答えるハヤテの姿にアテネは心のわだかまりがと晴れていくのを感じる。
いったい自分何を心配していたというのだろう。
不安の根源であったその少年は、自分のことをこんなにも考えてくれているというのに。
あのときの彼の誓いの言葉が、偽りのない本心であることは分かりきっているというのに。
(そう、誰にも分からない、分かるはずのないそんなことで悩むのは無駄ですわ。
 だって、今この時を楽しめなくなるということはとても愚かなことですもの )
だから、彼女は行動に移した。
今を楽しむため、彼が最も望むことを。
「ア、アーたん? 」
視界に留まった出来損ないのケーキ。
その一つを指先ですくって口に含み、一言。
「見た目はともかく、味は悪くありませんわ。
 メリークリスマス、ハヤテ 」
極上の笑顔というクリスマスプレゼントを沿えて。
「ありがとう。
メリークリスマス、アーたん 」
そして、暖かな空気が二人を包み込んだそのとき、奇跡は起こる。
先に気づいたのは、ハヤテの方であった。
「あ、アーたん。雪だよ、雪が降ってるよ! 」
「え? そ、そんなはずは…… 」
ありえないはずだ。
この城で季節を感じることが起こるなど、今まで一度もなかったのだから。
しかし、たしかにハヤテの視界の先である窓の外を見れば“それ”は確かに降り注いでいる。
「うわー! すごいね!
 ホワイトクリスマスだよ、アーたん!
 僕こんなの初めてだよ! 」
ただでさえ雪を見れば心は躍る。
それがこんな狙い済ましたタイミングであれば尚のこと。
「ねえ、アーたん。
 庭に出ようよ!
 こんな凄いことちゃんと見ないと損だよ! 」
「え? ちょ、ちょっとハヤテ!? 」
相手の承諾を得ることもなく強引に手を引き、二人は枯れることのない花が咲き誇る庭へと向かう。
そこに映し出された光景は、降り積もっていく雪に間違いない。
(いったいどうして。こんなことは今まで一度も )
それは、その城に住むという神の気まぐれか。
だとすれば、なんとも見事な演出か。
ならば、これに酔いしれるのも一興というもの。
だから、もう一度あの言葉を聞こう。
この今を確かにするため。
「ハヤテ…… 
わたしとあなたは……ずっと一緒よ 」
「うん。
 僕とアーたんは……ずっと一緒だ 」
今はこの言葉を信じ、この黄金に輝く日々をともに過ごそう。
たとえ二人を分かつ日が、この先に待ち構えているのだとしても……

タイトルrevenge
記事No127
投稿日: 2008/12/14(Sun) 19:21
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
「ん……うん……」
 可愛らしい息遣いとともに、金髪の少女……天王州アテネは瞼(まぶた)をしばたかせた。朝の陽光に照らされた
純白のベッドで身を起こし、座り込んだまま小さく背伸びをする。朝に弱い少女にとって目覚めは半分夢の中、
周囲の光景に焦点が合ってくるのもしばし先……のはずなのだが。
「アーたん♪」
「きゃっ!!」
 いきなり正面から名前を呼ばれた少女は文字通り飛び上がった。シーツを身体に巻きつけて目を凝らすと、
正面にいたのは椅子の背もたれにしがみつく形で座る同年代の少年。無邪気そうにニコニコと笑顔を向けてくる、
この世界でただ1人の執事。
「ハッ……ハヤテ、も、もう起きてましたの?」
「うん、歯磨きも朝ご飯の用意もちゃんとやったよ」
「そ、それだったら、どうして私を起こしてくれなかったんですの?!」
「だってアーたんの寝顔を見てるのが楽しくて」
「なっ!!」
 アテネは顔を真っ赤に染めた。寝起きといえば髪はボサボサ、目ヤニは付きまくり、口元からはだらしなく涎まで……
自分自身の寝顔を見たことはなくとも、そんなのをじっと注視されたと聞いて平気でいられるわけがない。
「あ、あ、悪趣味ですわ! 女の子の寝顔を眺めて楽しむなんて!」
「でも可愛かったよ、アーたん」
「えーい、うるさいうるさいっ」
 頭からシーツを引っかぶったアテネは手の先だけで少年にあっち行けと指示を出す。ところが少年は部屋から
出て行くどころか、逆にベッドの脇に歩み寄って何度も何度も頭をベッドの端に叩きつけた。
「ご、ごめんねアーたん、怒っちゃった? ごめんなさい無神経で、これから気をつけるから、朝の支度ができたら
すぐに起こしに来るようにするから、だから……僕のこと嫌いにならないでよ、ね、アーたんお願いだから……」
「……だあぁぁっ、いいからさっさと出て行きなさい、レディーの着替えを邪魔するつもりですの?」


 ここ、ロイヤルガーデンには彼女ら2人のほかに人は居ない。
 季節の移り変わりもなく、王城を取り囲む花園の風景もいつまでも変わることはない。
 永遠に続く時間の牢獄の中で、機械的に食事と睡眠を取り続けるだけの生活……。
 そう信じて諦めきっていたアテネの世界は、ハヤテ少年が迷い込んできたことで変わりつつあった。
 つい最近まで下界で暮らしていた好奇心旺盛な少年によって。


「大掃除?」
 それから30分後。すっかり料理にも手馴れた少年の作ってくれたスープをすすりながら、アテネは怪訝そうに
向かいに座る少年へと視線を向けた。
「うん、もうすぐ年末でしょ? だから今年のうちに大掃除をして、新しい年を迎える準備をしなくっちゃ」
「新しい年って……ロイヤルガーデンにはお正月なんてありませんわよ」
 誰かが訪ねてくるわけでもなく、誰かに合わせて動く必要もない天空の古城。お正月がないというより意識する
意味すらないと言ったほうが正しい。しかし普通に幼稚園に通っていた少年にとっては、季節とともにイベントが
巡ってくるのは当たり前のことであった。
「ほら、天球の鏡とか見てたらみんな年越しの準備してるじゃない? 僕たちもやろうよ、アーたん」
「……まぁ、お掃除を念入りにやりたいというなら反対はしませんわ。頑張ってちょうだいね、執事さん」
「違うよ」
 ところが、ここから話はアテネにとって思いがけない方向へと転がりだす。
「大掃除は家族みんなでやるって幼稚園の先生が言ってたよ? アーたんも手伝ってよ」
「なんですって? いいことハヤテ、あなたは執事で、私は主人ですのよ。どうして私が……」
「だってアーたん、僕が掃除してるときずっと傍についててくれてるじゃない」
 そう、掃除の仕方をハヤテに教えるという名目でアテネはいつでも掃除中のハヤテの傍にいる。経験を積んで
成長したハヤテにはもう教えることなどほとんどないのだけれど、他にすることなど無いアテネは今でも彼の
傍にいる。彼が掃除している間、ずっと。
「何でも出来るアーたんが一緒に手伝ってくれたら、きっと早く終わると思うけどな〜」
「そ、そりゃこのお城すごく広いから、1人では大変でしょうけど……」
「お掃除が早く済んだら、その分だけ一緒に遊べる時間が増えるよ?」
「あ、遊ぶ時間なんていつだって有り余ってるじゃ……」
「僕、アーたんが一生懸命掃除してるとこ見たいな〜、見たいな〜」
「…………」
 これじゃどっちが主人だかわかりゃしない。そう溜め息をついた時点で、この勝負は決まっていた。


 普段の黄色いドレスのままでは掃除なんて出来やしない。アテネは朝食を終えて部屋に戻ると、誰が用意して
くれたか分からないクローゼットからメイド服とエプロンドレスを引っ張り出して身に付けた。だがそれが
間違いの元だった。
「うわあ〜、すごいすごい、可愛いよ似合ってるよアーたん、ねっ、ねっ、そこでクルッて回ってみて?」
「こ、こうですの?」
 小さくてもアテネだって女の子、お洋服を褒められて悪い気はしない。少年におだてられるままアテネは
1回転したり髪を掻き揚げたり腰に手を当てたりと、艶やかにファッションショーの真似事をしてみせた。
ニコニコと笑いながら拍手をするハヤテはあくまで無邪気……そう見えていたのだけれど。
「ねーねー、アーたん、もっと別の服とかもあるの?」
「そ……それは、まぁ、いろいろとね。今まで見せる相手もいなかったから、着る機会なんてなかったけど」
「それも見たいな! ほらウェディングドレスとか、振袖とか!」
 さすがに幼稚園児、セーラー服やスクール水着といった発想はない。あ、いや、突っ込むのはそこじゃなくて。
「調子に乗らないっ! 今日は大掃除をするんじゃありませんでしたの?」
「う〜ん、でもそんな可愛い服を汚すの勿体ないし、それに綺麗なアーたんを見てるほうが僕も楽しいって言うか」
《……こ、この天然ジゴロッ!!》
 恨めしげな視線を向けるもハヤテの笑顔は崩れない。今朝の喧嘩とは少し様子が違う。ひょっとしたらそれは、
私が心底嫌がってるような素振りを見せないからかも。褒められて嬉しいって気持ちが態度の端々から洩れて
しまっているせいかも……そう思い至ったとき、アテネの中の反骨心がSモードのアクセルを踏み込んだ。
「……いいですわ、ただし」
 アテネの言葉にブラックな響きを感じ取って、ハヤテの笑顔が凍りつく。アテネは腰に手を当ててハヤテの
眼前5センチのところに顔を寄せると、ぐいぐいと押し込みながら反撃の狼煙を上げた。
「そういうことなら、ハヤテにも着替えてもらいますわよ……私が言うとおりの格好に」
「い、言うとおりの格好? そ、それってどんな……」
「そうですわね〜、まずはハヤテにもメイドさんの格好をしてもらいましょうか、あなたの部屋にもあるはずだから」
 なんで執事服と同じ場所にメイド服があるのかと突っ込んではいけない。このロイヤルガーデンにおいて、
アテネに不可能はないのだ。


 そして、それから。
 ネコミミ尻尾つきメイド服を着せられたハヤテのことをアテネが指差して笑ったり。
 振袖を着てきたアテネに対してハヤテが「良いではないか、良いではないか」と帯を引っ張ったり。
 お馬さんの着ぐるみを着たハヤテを四つん這いにさせて、背中に乗ったアテネがお尻を叩いたり。
 吸血鬼のコスプレをしてきたアテネにハヤテが水鉄砲をかけまくったり。
 もう大掃除などどこへやら、服やら帯やら靴下やらを部屋中に散乱させながら、少女と少年は陽が暮れるまで
遊びまくったのだった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ハァ、ハァ、ハァ……」
 そして夕方。遊び疲れたアテネとハヤテは布切れの散乱する絨毯のうえで、仰向けになって荒い息をついていた。
「ま、まったくもぉ……掃除するどころか、かえって散らかってしまったじゃありませんの」
「でも、面白かったよね、アーたん」
「えっ?」
 アテネにとっては意外な感覚だった。手のかかる子ども、いろいろと教えなきゃならない未熟な男の子……そんな
ふうに見てきた少年に、気がついたら振り回されてしまった1日。誰にも見せたことのない服を着て、何の役に
立つかも分からなかった服の着せっこをして、そして互いに褒めたり笑ったりからかったり。これが……
この息苦しくもワクワクするような感覚が、面白いってことなんだ。
 1人の頃にはこんなことなかった。王城の主人として自活の術や剣の腕を磨くことはあっても、こんな感覚は
必要とされなかった。今まで誰もこんなこと教えてくれなかった。
「……お、面白くなんかありませんでしたわ。まったく、ハヤテのせいで今日は散々……」
「……(すーっ)……」
「……? ハヤテ?」
 遊び疲れたハヤテは隣で小さな寝息を立てていた。少女の小さな手をしっかりと握ったまま夢の世界に旅立った
少年の寝顔を、身を起こしたアテネは口元をほころばせながら穏やかに眺めた。
《……もうっ》
 小さいくせに一生懸命で、器用なくせに臆病で。優しいけれど浮気者で、泣き虫だけど悪戯好きで。
 そんな少年がくれた楽しいひと時。王城の掃除はアテネ1人だって出来る。でもこんな1日は、彼がいなければ
決して訪れなかっただろう。
「いいわ、今日は許してあげる」
 アテネは小さな声でつぶやいた。遊び疲れた少年を起こさないよう、細心の注意を払いながら。


 陽光が沈み、ロウソクの炎が太陽に代わって王城を照らし始めた頃。
 がばっと跳ね起きたハヤテは、部屋中に散らかる服の山と隣で頬杖をつく少女をみて瞬時に状況を把握した。
「あ、ごめん、アーたん。僕ついウトウトとしちゃって……すぐに片付けるから。それに晩ご飯の仕度も」
「いいのよ」
 いつもなら不機嫌そうに怒鳴りつけてくるはずの王城の主人は、薄暗い部屋の中で優しく微笑んだ。
「目が覚めたら誰かが隣にいるって、素敵ね」
「え? アーたん、何を……」
「ハヤテ……あなたの寝顔、すごく可愛かったですわよ」
 半日遅れの“おはようのキス”の響きが、薄闇に包まれつつあるロイヤルガーデンを温かく包み込んだ。


Fin.

タイトル第20回批評チャット会ログ
記事No128
投稿日: 2008/12/14(Sun) 23:59
投稿者双剣士
参照先http://soukensi.net/ss/
12/14(日曜)に開催された、批評チャット会のログを公開します。
 今回は偶然にもアーたんSS対決。登場キャラや舞台が制限されるため
似たような主題になりがちですが、個性豊かな作品2つが集まりました。
 2人きりというのはちょっと寂しかったけど、年末進行では仕方ないかな。

http://soukensi.net/odai/chat/chatlog20.htm