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ひみつの咲夜ちゃん

初出 2016年08月29日@止まり木有志合同本2016夏「日曜日の出来事」
サイト転載 2017年01月02日
written by 双剣士 (WebSite)
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 皆様こんにちは。残暑厳しい折、いかがお過ごしでしょうか。鷺ノ宮伊澄です。
 今日は日曜日の出来事ということで、連載本編ではほとんど語られることのない咲夜の休日についてリサーチしていきたいと思います。
 日頃からナギやワタル君の世話ばかり焼いていて、お誕生日パーティ以外では本人のプライベートを明かす機会のなかった咲夜。漫才好きとか女子校でモテモテという設定が活かされることもなく、愛歌さんのご実家が大恩を受けたという伏線も放置されたまま、天王州理事長の執事を引き取る際に聞いたはずの情報も未だ闇の中です。
 水くさいとは思いませんか? 幼なじみの私たちにも隠し通すだなんて。少しばかり年上だからと言って他人の面倒ばかり見ている感のある咲夜ですが、私たちだっていつまでも小さな子供ではないのです。ここは親友の私が、頼り甲斐のあるところを見せてあげようではありませんか!!


 ……さて、ここはいったいどこでしょう?
 普段とは違う咲夜の一面を見つけるために、アポを取らずに咲夜のお屋敷に向かったところまでは良かったのですが……あの子の家って砂漠の真ん中にありましたっけ?
 道を間違えたはずはないのです、ハイブリッドでクレバーな私はiPadを片手に、次世代技術の賜物・Siriちゃんの言うとおりに歩いてきたのですから。そりゃあたまには、ちょうちょを追いかけたりシマウマさんと遊んだりもしましたけど……そのたびに『咲夜のおうちはど〜こ?』ってSiriちゃんに聞きながら方向を決めてきたのですもの。多少遠回りにはなっても、咲夜の家には近づいているはずです。
 大丈夫大丈夫、私はしっかりしているんですもの。


 ……しばらく歩いて、ようやく見覚えのある光景が見えてきました。
 ここは確かそう、ラスベガス。ワタル君と一緒にきた咲夜がバニー姿で半裸にされたという思い出の場所でしたね。たしか修学旅行で私たちが来たときにも咲夜は変な格好で遊びに来て、特に何かをするでもなく帰って行ったような記憶がありますけど……もしかしなくても暇人なのかしら、あの子?
 ともかくここまでくれば大丈夫。私は慣れた口振りで、Siriちゃんに問いかけてみます。
「咲夜のおうちは、どっち?」
「海岸沿いに八千キロ、北上してください」


 こうして気づけばアラスカへ。咲夜ったらずいぶん酔狂なところにいるのね。まぁいいわ、できる女はこれ位じゃ諦めないものよ。さぁ、またSiriちゃんと話を……。
「いいかげんにせんかーい!!」
「あら咲夜、やっと会えたわね。いったい今までどこに行っていたの?」
「それはこっちの台詞やっちゅーの!! 伊澄さんがくるっちゅーから待っとったのに何日待っても来ぇへんで、iPadの電波たどってみたら海の向こうでぴょんぴょん転移を繰り返しとるし!!」
 咲夜ったら、何を怒っているのかしら。現に道順は間違ってなかったでしょ、こうして咲夜と会えたんだし。
「こっちが必死になって追いかけてきたんやっちゅーの!! まったく、世界規模でボケ倒しよってからに……」
「まぁ……私を追いかけて来ただなんて、咲夜ってストーカーさんだったの? もっと建設的なことに目を向けた方がいいわよ」
「ア・ン・タ・が・言うなぁあぁあぁぁ!!」


 頭から湯気を上げながら私のほっぺたをつねる咲夜とは対照的に、私の脳裏は澄み渡っていたのですが……あることに気づいた瞬間、急速冷凍されてしまいました。
「ごめんなさい咲夜、せっかく来てくれて悪いのだけど、今すぐ目の前から消えてくれる?」
「……はぁ?」
 隠された咲夜の秘密を見つけるという目的からすれば、こうして咲夜と直線対面しているわけには行きません。咲夜には私など気にせず普通にしていて欲しいのです。そのつもりで言ったのですが……私の言葉を聞いた咲夜の表情の崩れ方は、私の予想を超えていました。
「……そっか、世界を半周してようやく見つけたと思ぉたら、アンタなんか要らん、か……悪かったな伊澄さん、ウチもお節介が過ぎたようや……」
 この世の終わりのような表情をしながら私の手を離して、力なく背中を向ける咲夜。なぜそんな顔をするのか分からないけれど、このままだと彼女が手の届かないどこか遠くに行ってしまう、そんな気がしました。
「待って咲夜! あの……」
「……なんやの?」
「ここから居なくなるのはいいけれど、私の目の届くところには居てね」
「……はぁあ? 伊澄さん、頭大丈夫なんか……?」

     * *

 ここから咲夜とのおしゃべりがしばらく続いて。
 私の真の目的を聞いた咲夜はほっとしたようにため息をつくと、遠慮せずになんでも聞いてんか、と大きな胸を張って見せました。隠密調査という当初の狙いとは違う形になってしまったけれど、こうなった以上は仕方ありません。普段聞けないようなことも聞いてみることにしましょう。
「それじゃ聞くわよ? 隠し事なしで答えてね」
「えぇよ、なんでも言うてみ」
「咲夜には実は旦那さまがいて、もうすぐ女の子も生まれるって噂を聞いたのだけど、本当?」
「……ぶはっ!! なな、なんでそんな噂が? そんなことあるわけないやん、ウチのお腹に子供がおるように見えるか?」
「じゃあ根も葉もない噂に過ぎないのね? 咲夜の旦那様というのはモテないオタクの妄想で、結婚式に出席したり目撃したという情報も事実に基づかない集団幻覚の一種だと、そう言うのね?」
「そりゃあ……ま、ま、下世話な噂に真正面からツッコむのも野暮やんか、な? なんか他に聞きたいことはないん?」
 苦笑いを浮かべながら話題を変えようとする咲夜。でも困ったことにそれから先も、咲夜の返事は明快さに欠けるものばかりでした。

「メイドターンを教えてくれた咲夜のメイドさん、実は私たちの身近にいる人だという噂なのだけど、本当?」
「うっ……(本人から強く口止めされとるからなぁ)……さ、さぁ? ウチにはよぉ分かれへんなぁ」

「ミコノス島から帰って以来、私の妖怪退治に付き合ってくれなくなったのは何故?」
「……(アンタが天王州理事長さんと一緒に動く以上、マキナ連れたウチが合流したら話が一足飛びに進んでしまうから、とバラす訳にもいかんし)……別に意識してるわけやないけど? 大人の事情ってやつと違う?」

「一人称がウチだったりワシだったり私になったりするのは、なにか使い分けの根拠があるの?」
「……(そんな作者の大昔の凡ミスにまで責任取れるかいっ)……あ、あはは、実はウチにもよう分かれへんねん」

「全裸のままハヤテ様にお姫様抱っこされてキスまでされたという噂があるのだけれど、その真偽は?」
「……(アニメ1期BD付属の裏ルートやん!)……の、ノーコメントや」


 咲夜はあくまで頑なな態度を崩しません。私は悲しくなってきました。小さいころから一緒に居るのに心の奥底は見せてくれない。私はそんなに信用されていないのでしょうか? 一線を引かないと付き合っていけない相手だと思われているのでしょうか?
「べ、別に伊澄さんやから隠してる訳やないんやで? 誰が相手でも、なんとも答えられへん事ってあるんや。それ以外やったら何でも答えたるから」
「じゃあ……私やナギと一緒に居ない休日は、どんな風にして過ごしているの?」
「えぇで、それくらいやったら教えたる。そやなぁ、そういう時はたいてい、妹や弟たち連れて吉本新喜劇を見に行くか、転校先の友達と一緒にショッピングに行くかやなぁ。ショッピング言うても渋谷や原宿は制覇し終えてるから、最近は六本木のほうに足を伸ばして〜」
 咲夜は一生懸命に説明してくれるのですが、聞いたことのない単語ばかりで何を言っているか私には分かりません。でも質問した以上は聞かなきゃと思って、せめて相槌だけでも返そうと……。


「……さん、伊澄さん! 目を覚ましや、眠ったら死んでしまうで!」
「……あ、あぁ……」
 気がつくと私は毛布にくるまれて、テントの中の焚き火のそばに寝かされていました。アラスカの吹雪の中で凍死する寸前だったそうです。息を吹き返した私に向かって咲夜は何度も頭を下げてくれました。
「ごめんな伊澄さん。こういう話に興味も関心も無いのは分かってたから、今まで話すのを控えてたんや。ナギも自分も、一人っ子で友達の少ないタイプやし」
「……今まで気を遣ってくれていたのね」
「あぁいや、気にせんでえぇんやで? こういうのは個性であって、優劣とは違うんやし。それに伊澄さんが自分の知らんところに興味持ってくれて、本当はウチ嬉しいんや。今度は一緒にショッピングいこ、な?」
 励ましてくれる咲夜の気持ちは嬉しいのだけど。私は自分が情けなくなってきました。年上ぶってる咲夜の秘密を見つけてやろうと意気込んでおきながら、結局また咲夜のお世話になっている自分が。咲夜のことを何一つ知らずに今日まで来て、聞かされてもさっぱり理解できない自分が。私はしっかり者だったはずなのに。
「ねぇ咲夜」
「うん?」
「ごめんね、迷惑ばかりかけて……でもいつか、私も咲夜を助けられるようになるから。今は無理だけど、困ったことがあったらいつでも言ってね」
 それは鷺ノ宮伊澄の全面降伏宣言。とても恥ずかしかったけれど、こういうときでないと言えない言葉だと思いました。優しい咲夜は照れたようにほっぺたを掻くと、私の気持ちを軽くするためでしょう、恥ずかしそうに言葉を返してきました。
「うん、それやったら……とりあえず今、困ってることがあるんやけどな」
「なに? なんでも言って」
 やっと咲夜の役に立てる。息せき切って身を起こした私を制止しながら、咲夜はポツリとつぶやきました。


「日曜どころか日付変更線まで越えてしもぅとるわけやけど、『日曜日の出来事』ちぅテーマに対して大丈夫なんやろうか、これ?」
「……咲夜、なんとも答えられない質問って、世の中にはあるのよ」
「ちょ、それウチのセリフのパクリやん!」

 お後がよろしいようで。


Fin.

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