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落ち葉焚き

初出 2008年11月02日
written by 双剣士 (WebSite)
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 ふぅっ、やっと片付いたぞ。
 ふだん見慣れてる境内も、こういう時になると異様に広く感じるんだよな。
 落ち葉の掃除は巫女のお前の仕事だなんて、父さんも兄貴も勝手なこと言って逃げ出すんだから。
 いくら宿題フルコンプを引き換えにしてると言っても、たった1人でこの境内を掃除するのはさすがにきつすぎる。
 ま、次から次へと新しい葉っぱが落ちてくるんだから、多少手を抜いたってバレやしないし。
 通り道の落ち葉だけをそれなりに適当に払いのけて、通路の脇あたりに落ち葉の山盛りを何個か作っとけば格好もつくだろ。


 おおっす、よく来たな、美希、泉。
 例のブツは買ってきたか? よしよし、そうこなくっちゃな。
 私か? ああ、約束どおり落ち葉は集めておいたぞ。お前たちが来るのを待ってたところだ。
 それじゃ、さっそく始めるとするか。


 ああ、こらこら泉、焦るんじゃないって。
 まだ種火が根付いてきたばっかりだからな。湿った落ち葉が種火にあおられて乾くのを待ってからでないと、火は大きくならないよ。
 チョロ火のうちから放り込んだイモなんて表面が焦げるばっかりで食べられたもんじゃないだろうが。
 え、分かってるけど待ちきれない?
 まったくもう、お前は幼稚園の頃からちっとも変わらないな。


 ところで美希、ヒナのほうはどうだった? 誘ってくれたんだろ?
 え、話を切り出し損ねたって? なんでまた?
 ヒナだったら小一時間もしないうちに仕事終わるだろ? 押し付けて逃げ出してきた私たちが言うのもなんだが。
 ……え、雪路が? 何かを察したように周囲で聞き耳を立ててる気配がしたって?
 なるほど、美希、ナイス判断だ。もし雪路にこの焼きイモ会のことを嗅ぎつけられたら、イモ全部を1人で平らげかねないからな。


 しかしあれだな、ヒナが来ないとなると私たちだけじゃ食べきれないかもな。
 えっ、他のメンバーにも声はかけてみたけどダメだったって?
 千桜はバイトで早く帰った? 愛歌さんは寒空のなか立ち尽くすのは遠慮するって?
 そっかー、それじゃ仕方ないな。でも兄貴を呼んだら雪路と同じパターンになりそうだし、おじいちゃんを焚き火に近づかせるのは危ないしな。
 どっかに暇そうな女の子はいないもんか。……あ、おい、泉どこへ行く?


 おぉ、これはこれは歩君じゃないか。その手に持ってる袋は焼きイモか? そうかそうか君もイモ好きか、歓迎するぞ歩君。
 ナイスだぞ泉、よく歩君を連れてきてくれたな。そういや歩君はうちの神社のクイズ大会クイーンだったっけ、参加資格は十分ある。
 え、何をしてるのかって? 見りゃ分かるだろ、焚き火だよ。落ち葉を燃やすついでに焼きイモを焼いて食べるんだよ。
 ……お、おいおいどうした歩君? 何を泣いて……え、感激した?
 焚き火なんて生で見るの初めてだって? 団地住まいの自分にとってはお店で買うのが当たり前で、焚き火なんて絵本の中でしか見たことないって?
 あ、いやそんなにお礼を言われても……私たちにとっては焚き火なんて子供の頃からの恒例行事だし。


 とか何とか言ってるうちに火が燃え広がってきたな、そろそろいいだろ。イモを入れよう。
 あ、歩君は初めてだから、説明しておいた方がいいかな。
    1.イモはこの串を通してから、焚き火にかざすこと。直接地面に突き立ててもよし、串を手で持ってあぶってもよし。
    2.自分で焼いたイモは、必ず自分で食べること。他人の串を盗むのは反則。
 焼きイモごときでルールなんてと思うかもだけど、子供のころは串なしでイモを手掴みしようとして火傷するやつとか、
自分のが黒コゲばかりだからって他の人の生焼けイモを奪い取ろうとするやつがいたもんでな。こういう暗黙の了解ってのができたんだ。
 ……ん、泉、なんで涙目でこっちを睨む? 誰もお前のことだなんて言ってないだろ?


 どうだ歩君、この煙の匂い? 石焼きイモとは違って、焦げたみたいな臭さがあるだろ?
 これこそがお店の焼きイモとは違う、自然の風合いってやつだよ。この手作りな感じがたまらないんだよな。
 もちろん焼くのを失敗する時もあるし、生焼けと焦げ目が混ざり合って美味しいところは少しだけってこともあるけど、
だからこそ美味しいところの味は格別だし、次こそは上手に焼けるよう頑張ろうって気になるってもんじゃないか。
 ……え、意外? お金持ちはそういう苦労と無縁だと思ってたって?
 心外だな歩君。望めば簡単にプロの味を食べられる私たちだからこそ、こういう苦労が贅沢ってもんじゃないか。
 さ、そろそろ焼けたぞ。ほら一口だけかじってごらん、私のイモをさ……これが落ち葉集め十余年のベテランの味ってもんだ。


          **


 はふはふ、よぉしみんなペースもだいぶ上がって来たよな? それじゃそろそろ、本日のメインイベントと行きますか。
 実はみんなには内緒で……ハヤ太君をここに呼んだのだ! ついさっき携帯でメールを送ったから、もうすぐ来るよ。
 ふっふっふっ、君たち手放しで喜んでいていいのかな?
 君たちは今までたっぷりと焼きイモを食べていたのだぞ? お腹の中に恥ずかしいガスが溜まっているのだぞ?
 このタイミングで男の子を呼ぶことがどういう事態を引き起こすか、想像できないわけではあるまい?
 はぁーっはっはっはっ、見よこの完璧な策略を! 貴公らは既に我が策略の糸にからめ取られていたのだ!
 ……鬼呼ばわりとは心外だな美希。泉はいじめられるのが好きなんだから、これくらいでいいんだよ。巻き添えの歩君には気の毒だけどな。


 よぉ、待ってたぞハヤ太君。ナギ先生もお供に連れてきたか。えっ主従が逆? いいんだいいんだ細かいことは。
 さぁ輪に入ってくれ、じゃんじゃん食べてくれ。ハヤ太君だったら胃袋は女の子並みだろうから遠慮することないぞ。
 あぁ、すまんな気が回らなくて。せっかく寒い中を駆けつけてくれたんだから焼けるのを待ってなんかいられないよな。
ほら泉、ハヤ太君とナギリンに焼けた分を回してあげなよ。
 ん? どうしたどうした、泉にしては妙に無口じゃないか?
 おやおや、歩君は喜ぶと思ってたのに、なんか辛そうじゃないか? 顔に汗までかいて。
 なにか我慢してることでもあるのか? せっかくハヤ太君がいるんだ、体調が悪いなら介抱してもらったらどうだ?

  ぷぅ。

 な、なんだよ美希、怖い顔でこっちを見て? 私の顔に何かついてるか?
 歩君もどうした、急にこっちに視線を向けて? ハヤ太君の方を見てなくていいのか?
 えぇい、白状してしまえ泉、いまのお前だろ? 恥ずかしがったって分かってるんだぞ!

 ……すみませんすみません私ですごめんなさい今のは私ですオンナとして失格です笑ってください馬鹿にしてください蔑んでください……
 あれ、ハヤ太君いつのまに傍に? 生理現象だから仕方ない? 自分もするんだから恥ずかしくなんかない?
 逆にこういうとこが見られて、朝風さんのことが身近になったような気がするって?
 ……う、うぅ、ハヤ太君いい子だなぁ。これが男の子の器量ってもんなんだなぁ。さすがは私にゾッコンなだけはあるな。

  ぷぅ。

 い、今のは違うぞ、私じゃないぞ? 誰だ泉か、歩君か?……って、えっ、美希、お前か今の?
 ……あ、ごめんハヤ太君。責める気はないし他人の失敗を喜んでるわけでもないんだ。そうだよな、私にはそんな権利ないよな。
 そうだそうだ、気にするなよ美希、これは単なる生理現象……ってハヤ太君の移動早っ! いつのまに美希とあんな距離にまで!
 おっ、自分のお尻に手を当てて鼻で嗅いでのけ反るジェスチャーまで! 音はしなくても自分もやってるというアピールだな。
自分も泥にまみれることで美希の劣等感を軽減しようという作戦だな! さすがは紳士のハヤ太君、そこに痺れる憧れるぅ!

  ぷぅ。

 今度は歩君かっ!
 おおっ、ぽっと頬を染めたお下げ髪が可愛いなっ! ハヤ太君が気にしないと分かってはいても赤面してしまう、これぞ微妙な乙女心!
 駆け寄るハヤ太君に赤い顔のまま照れた笑いを浮かべる歩君、落ち込んでる様子がないのが救いだな。
 それにしてもハヤ太君も大変だな、こうやって次々とフォローして回らなきゃならないなんて。

  ぷぅ。

 真打ちが来たーっ!!
 顔に手を当てて逃げ出そうとする泉、慌ててそれを追いかけるハヤ太君。泉の足で逃げ切れるわけなんて無いけど、
たぶんあの子は意識せずにやってるんだろうな。そういうのを素のままやれるのが泉の魅力なんだろうな。
 おっと、涙目の泉を慰めようとハヤ太君が肩に手を置いているぞっ! 狙った通りの微笑ましい光景なんだけど、
なんか腹が立つなぁ。泉をからかって遊ぶつもりだったのにこの悔しさはなんだ? 私も変に誤魔化したりせずに、
顔を隠してしゃがみこむくらいの振舞いを見せた方が良かったのかな?


 あれ、ナギリンどうした? 急にがつがつと焼きイモにかじりつくなんて?


Fin.

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