ハヤテのごとく! SideStory
乙女の逆鱗2
初出 2006年09月11日
written by
双剣士
(
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60話の小ネタ「乙女の逆鱗」を書いたのは9ヶ月も前のことですが、まさかシリーズ化することになるとは思いませんでした(笑)。
この物語は執筆コンセプトは「乙女の逆鱗」と同じですが、物語的な連続性はありません。したがって前作をご存知でない方でも予備知識なしでお楽しみいただけます。その代わり久々の新キャラ・虎鉄が相方として登場しますので、連載誌未読の方はご注意ください。
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「どこだ……どこに隠れた綾崎ハヤテ……」
ヒナ祭り祭りの夜。色とりどりの縁日で賑わう校内の一角を、怖い顔をした青年が目を血走らせながら歩いていた。彼の名は虎鉄、瀬川家に勤めるモテナイ鉄ヲタ
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(
ヤクザ
)
者という3重苦を背負ったアブナイ執事である。何年かぶりに訪れた甘い胸のときめきを綾崎ハーマイオニーに踏みにじられた青年は、復讐の鬼と化して白皇学院を徘徊していたのだが……やがて不意に誰かと衝突した軽い感触と「きゃっ」という可愛い悲鳴が彼の耳を打った。
「いたた……」
視線を下ろした先には、ピンク色の髪をした少女が尻餅をついていた。綾崎ハーマイオニーの可憐な魅力とは系統を異にするものの、整った顔立ち、輝く瞳、引き締まった若々しい肢体……それら全てが青年の脳髄をダイレクトに刺激する。虎鉄の思考回路は一瞬にしてラブラブモードに切り替わった。
「おおおお、お名前は何ですか、お嬢さん!!」
「えっ? か、桂ヒナギク……」
「……常習盗賊改め方みたいな名前ですね」
意味不明な突っ込みを入れながらも虎鉄の心は浮き立っていた。そうだ、自分を裏切った変態執事への復讐なんて不毛なことは止めよう。あれは運命の少女と衝撃の出会いをする奇跡の夜の軽い前振り、冗談みたいなちっぽけな出来事じゃないか。LOVEアンドPEACE、愛って素晴らしい!
「いやしかし……お嬢さんにケガがなくて良かった」
「あ、はぁ……そうですか?」
自販機のコーヒーを少女におごりながら不器用な気遣いを見せる虎鉄。いきなり衝突してきたくせに馴れ馴れしい態度を見せる青年に、桂ヒナギクは複雑な笑みを浮かべながら応対していた。学院の“顔”である生徒会長としては、お祭りに来てくれたお客様をあまりすげなく振り払うわけにも行かない。だが虎鉄の目からすれば少女の戸惑いっぷりも初心な奥ゆかしさの証にしか映らないのだった。
「あの……じゃあ、私はこれで……」
「あ! ちょっと待ってください!」
「何か?」
「へ? あ〜、いや……」
精一杯冷たい視線を返したつもりのヒナギクに対し、とにかく切っ掛けを作りたい虎鉄は一瞬口ごもる。もともとナンパなどとは縁のない人生を送ってきたのだから無理もない。迷った挙句に、彼の口から飛び出してきた言葉は……。
「きょ……今日はその、お祭りの夜なんです!」
「ええ、知ってますよ」
「で……ですからその……私と一緒に踊ってくれませんか?」
思ったよりもすらすらと誘いの言葉が出てきたことに、我がことながら虎鉄は驚いた。それがついさっき別の女性(?)と交わした言葉の焼き直しであることを思い出すのに時間はかからなかった。そしてその言葉を受けたピンクの髪の少女の態度、あのときのネコ耳メイド服少女と同じく“冷たくあしらう”態度を彼女が見せたことが、彼の目には鮮烈なデジャビュとして映った。
《まさか、この後さっきと同じオチが待っているなんてことは……ああしかし何もかも符丁が合いすぎる。俺の前にこうも続けて魅力的な女性が現れるのも不自然だし……これはあれか、祭りのドッキリか何かか?》
一度騙されて痛い目を見ているだけに、虎鉄の猜疑心は止まらない。獣のような猛々しい瞳をした虎鉄は、背を向けて立ち去ろうとするヒナギクの肩を後ろからつかむと強引に振り向かせた。そして……。
「失礼しますっ(グイッ)!!」
「…………▲☆※○♪◎◆□▽§!!!」
いきなり振り向かせると胸元をつかみ服の下を覗き込む虎鉄の行動に、一瞬スパークを起こす少女の思考回路。声にならない悲鳴を上げながらヒナギクは胸を押さえて後じさった。いきなり何するのよ変態……そう罵声を浴びせようと震える唇を動かそうとしたとき、地の底から這い出てくるような低い声が彼女の耳に飛び込んできた。
「裏切ったな……」
「……えっ?」
「お前もまた、さっきの女装男のように……私を裏切ったな……」
「な、なによ、失礼ね! あなたが無理やり引きとめていたんじゃない!」
「だまれ超平面! ヴェスパーのアンドロイド戦士も顔負けの垂直急降下ぶりをさらしておいて、なお人間の女を装うか! 謝れ、全世界30億人の女性に謝れ!」
「な、なななな、何ですって! ちちちち、ちちち超平面って、いいいい一体……」
最大のコンプレックスを言葉の爪でえぐられて、怒りと悔しさに声を失うヒナギク。口喧嘩においては女は男に勝るのが通例なのだが、カレーとハンバーグが大好きな少年の魂を持つ武闘派生徒会長には即座に切り返すことができない。だが不利な土俵での戦いは長くは続かなかった。
「お前みたいな奴がいるから……戦争がなくならないんだ─────!!」
「知らないわよそんなの!!」
突然振り下ろされてきた竹刀の衝撃を、木刀正宗がしっかと受け止める。考えるより先に動いてくれた両腕と瞬間移動してきた鷺ノ宮家の家宝とが、桂ヒナギクのピンチを救った。その素人離れした身のこなしを目の当たりにした虎鉄は後ろに飛んで距離をとると、隙なく竹刀を構え直した。
「おのれ卑怯者! 竹刀に対して木刀を持ち出すとは剣士の風上にも置けんやつ!」
「う、うるさい女の敵! 天誅よ、原子のチリに戻してあげるわ!」
悔し涙に曇る視界をぬぐうと、ヒナギクは淑女の仮面をかなぐり捨て、木刀正宗を手に跳躍した。執事=超人と位置づけられている当マンガにおいて、一般人の身で正面から戦闘執事に挑むなど無謀もいいところ。しかし怒りでバーサークしている今のヒナギクには、そんな常識は通用しないのであった。
そして十数分後、お祭りの会場に戻ったヒナギクは年下の友人から誕生日のプレゼントを受け取っていた。
「別に安物だよ。安物で気にいらないってんなら別に受け取らなくていいけど……」
「え? いや、そうじゃないわよ。ありがとう、大事にする」
ニッコリと微笑んでお礼を言ったヒナギク。しかし大富豪の令嬢からの突っ込みは厳しかった。
「ふん、どうせすぐ壊すに決まっている」
「な!! そんなことないわよ!!」
「どうだか……」
虎鉄との死闘で穴だらけ傷だらけになった制服姿で反論しても、説得力はなかった。
Fin.
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