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世界にひとつだけのヒナ

初出 2006年08月22日/サイト公開 2006年09月02日
written by 双剣士 (WebSite)
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 この物語はパロディでありフィクションです。ここに登場するキャラクターたちは、ハヤテのごとく本編に出てくる彼女たちとは微妙に性格が異なります。
 たぶん違うと思う。
 違うんじゃないかな?
 ま、ちょっと覚悟はしておけ。

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 普段のクールな表情をかなぐり捨て、おずおずと綾崎ハヤテの評判を聞いてくる桂ヒナギク。対する花菱美希は唐突な質問にも臆することなくスラスラと答えると、ついでにとんでもないことを言い出した。
「ま、政治家の娘だから調べるのは得意。ちなみに今日のヒナの下着はオレンジ。フリルのついた可愛いやつ」
「(ばっ)!! なんでそこまで調べてんのよ!!」
「フフ……調べるのは得意。ていうかさっき着替えるのを見た」
「……」
「ちなみにあまり似合っていない」
「うるさい!! お気に入りなの!!」
 ヒナギクは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。そのおかげで彼女は、そのとき親友の顔に浮かんだ邪悪な表情に気づくことはなかった。


 顔から湯気を立てながら生徒会室を後にする親友を、呆れ顔で見送った美希。男の子みたいだったヒナが変われば変わるもんだわ、と溜め息をついた彼女は、周囲に誰もいないことを確認すると携帯電話を耳に当てた。
「あ、私。ヒナのパンツの好みをゲット。知りたい?」
「5千、いえ7千!」
 電話の向こうからは『おおぉ』というどよめきと、狂喜と焦燥を含んだ叫び声が聞こえてくる。身元も内容確認もなく即座に金額が出てくるあたり、美希と電話相手との連携は半端なものではない。
「ヒナ本人から聞いた情報なんだけどな〜」
「1万、いや1万2千!」
「今日、本人がそれを履いてきてると言ったら……?」
「さ、3万だします! だから他には流さんでください、お願いします!」
 平伏して懇願している様子が電話越しでも伝わってくる。まったく男ってやつは……と半ば呆れながら、美希はさらに追い打ちをかけた。
「3万ぽっちか……ありがと。また気が向いたら連絡する」
「そ、そんな! 3万と言えば相場の6倍ですよ、いくらなんでも……」
「高すぎるとは思わないけどなぁ。ま、無理しなくていいって、買い手の心当たりは他にもあるし」
「ぬうぅうぅ……」
 結局さんざん恩を着せたうえで、美希は校内情報ブローカーから5万円を巻き上げたのだった。政治家一族の面目躍如といえよう。


「ふっふっふっ、おぬしも悪よのう、花菱屋」
 電話を切った美希の背後から突然響いてきた声。聞き覚えのある少女の含み笑いに、美希は眉ひとつ動かさずに切り返した。
「なんの、おぬしの腹黒さには及ばぬよ、瀬川屋」
「えへへぇ〜」
 誰もいないはずの奥の部屋から頭をかきながら姿を現したのは瀬川泉、美希とヒナギク共通の友人である。しかし愛用のデジタルカメラを手にした今、彼女の立場はコミック本編に出てくるそれとは微妙に違っていた……美希にとっては盟友にして商売仲間、ヒナギクにとっては気配なきパパラッチへと。
「撮れた?」
「もーばっちし」
 可愛らしくVサインをしてみせる泉。被写体がなんであるか、今の彼女らには念を押すまでもないことだった。
「それにしてもすごいよね、ヒナちゃんの人気って。5万出してでもパンツの色を知りたいって人がいるくらいだもんね」
「あれだけの値をつけてくるってことは、それ以上の値段で売れる自信があるってことでしょ。適正価格ってやつじゃない? 案外」
「確かにヒナちゃんって、スパッツのイメージ強いもんねぇ。でも美希ちゃんが値を吊り上げてくれたおかげで、この写真きっと高く売れるよね♪」
 太陽のような笑顔でどんな細部にも入り込む表向き天然少女、瀬川泉。彼女の手にする小型デジタルカメラは白皇の歴史的瞬間を数多く映像に残し、いまや瀬川の名は校内裏人脈においてブランド価値を持つほどになっていた。なかでも無敵の生徒会長・桂ヒナギクの日常を収めた幾多の映像は、人気の高さと撮影者の立場……いつも被写体のすぐ傍にいられるという強み……も相まって、某借金執事には想像も付かない高値で取引されるのが常となっている。
 親友を裏切る、という意識は美希にも泉にもない。そもそも「すべからくバカ」な彼女らが柄にもなく生徒会役員をやっているのは、生徒会室に出入りするのに好都合だからなのだ。ちなみに桂雪路が綾崎ハヤテのスキャンダル写真をデジタルカメラに収めた際、瀬川泉がその映像の奪回に動いたのは既得権益を守るためという裏の意図もあったりする。


 ちょうどその頃。生徒会3人衆の最後の1人、朝風理沙は美希たちの情報がヒナギクの耳に入らぬよう、裏情報ルートの締め付けを行っていた。彼女が手足とするのは桂ヒナギク公式ファンクラブ、HHH欲しい欲しいヒナちゃんの精鋭たちである。
「いいか、今回のブツは100万単位までセリ上がる可能性が高い。下手に漏れて価値が下がらぬよう、情報統制にしっかり励め!」
「ラジャー、マム!」
「うむ、ヒナの身を陰ながら守るのが我らの役目、諸君らの奮闘を期待する!」
「アイアイサー! 我らが生徒会長のためとあらば、死して屍拾うものなし!」
 最敬礼した精鋭たちの中には東宮康太郎の姿もあった。忠誠心においては右に出る者のない青年たちである。傍らの戦闘執事ともども、ヒナギクの名誉を守る(?)ために粉骨砕身してくれることだろう。


 かくして生徒会3人衆が収集し売りさばき統制した生徒会長プレミア情報は、30分もしないうちに元値の20倍の値段で取引されるようになったのだった。
 あざとい、と言うなかれ。そもそも花菱美希は名門政治家の家柄、瀬川泉は超有名電器メーカー創業者の孫娘、朝風理沙は神社の跡取り娘なのである。政界・財界・宗教界の次代を担う3人が手を結んだとき、そこに闇の勢力が関わってくるのは必然にして当然。表の世界でまっすぐ生きてきたヒナギクには想像もできない現実が、白皇学院の裏社会には存在していたのであった。
 もちろん、親友だとばかり思っていた生徒会タンケンジャーの正体を、無敵の生徒会長はまだ知らない。


 だが闇社会の奥は深い。さすがの生徒会3人衆も想像すらしていないだろう、桂ヒナギク極秘情報ピラミッドの最終段にして最大のスポンサーである人物が、こんな身近にいる存在であろうなどとは。
「うふふ、ヒナちゃん可愛いよヒナちゃん、こんなパンツがお気に入りだなんて激萌えよねぇ、そうと知ってたらお誕生日にサービスしてあげるのにぃ。あの娘が真っ赤な顔しながらお礼を言う姿が目に浮かぶわぁ……あーヒナちゃんヒナちゃん、どうしてこんなに可愛いのかしらっ、本当に食べちゃいたいくらい!」

 ……そして桂ヒナギク本人も、養母の正体を知らない。


Fin.

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