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我ら、一流の執事

初出 2006年02月05日
written by 双剣士 (WebSite)
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 咲夜の濡れ場(笑)が話題となった、ハヤテ65話の小ネタSSです。

 第65話は命がけで豪雪に立ち向かう借金執事の雄姿を描いたものですが、私としては大きな疑問があります。ハヤテが凍えながら予備電源のブレーカを入れに行ってる間、『母屋の主電源を直しに』行ってるはずの巻田と国枝は何をやってたんでしょうか?
 主人の咲夜を雪の中に放り出して1時間以上経っているのに母屋の照明が直った気配はありませんし、そのくせ咲夜が電話で呼び出すと『雪の中を母屋から歩いて1時間以上』なはずの電源室に短時間でタオルと着替えと担架を持ってきてるし。

 あの2人、案外ポンコツなのかもしれません。

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 予備電源室にあった風呂場に飛び込んだ後、ブレーカを入れるためにびしょ濡れの身体のまま歩き去ってしまった借金執事。女の子だから、という理由で同行を止められた愛沢咲夜であったが、このまま黙ってハヤテの帰りを待てる性分ではなかった。しばし熟考した咲夜は彼女の両腕とも言うべき敏腕執事たちを電話で呼び出した。
「あ……巻田? 国枝もおる? いや……ちょっと着替え持ってきてくれへんか?」
 ハヤテを追って2重遭難になっては目も当てられない。追いかける前に濡れた身体を拭かないと、と考えた彼女の判断は正当なものであった。だが電話口から聞こえてくるのは、激しい風のうなりと弱々しい男性の声であった。
「さ、咲夜お嬢さま……着替えの件、承知いたしましたが……」
「なんや? どないした?」
「あの……我々はいま、どこにいるんでしょう?」
「…………はぁ?」
 咲夜の手から防水仕様の携帯電話がするりと滑り落ちた。


「はぁ、それで……母屋の修理もせんと、雪の中をさまよってたわけかいな」
「申し訳ありません、咲夜お嬢さま」
「降雪機を設置した頃には母屋の方角を把握していたはずだったのですが、雪で前が見えなくなった後、いつのまにか円周状の軌道をたどっていたようでして……」
 電話を通してぺこぺこと頭を下げる2人の様子が眼に浮かぶ。お前らまでナギの執事君と同じボケやってどないすんねん、と呆れた咲夜は自分も危うく遭難しかけたことなど棚に上げ、情けない執事2人を糾弾した。
「お前らGPS携帯もっとったやろ? あれあって、なんで遭難すんねん」
「三千院家の敷地内までは、GPSの電子地図には載っておりませんので……」
「それでも自分が北行ってるか南行ってるかくらいは分かるやろ!」
「そのつもりだったのですが、こうなると自分が直進している確信すら持てませんで……」
 ああ言えばこう言う。凍える執事2人とは対照的に、咲夜の頭は沸騰寸前まで煮えたぎった。
「えぇい、言い訳は聞きたない! こうなったら母屋は後回しでえぇわ、ウチのおるとこに向かってきいや」
「いったいどっちへ……」
「GPSにウチの携帯の位置が出とるやろ! その点が近づいてくる方向に歩いたらええねん」


 そして数分後、予備電源室に到着した巻田と国枝は風呂場の脇で咲夜に向かって平伏していた。咲夜は真っ赤な顔をして2人をにらみつけた。
「まったく情けない、タイタニックのときもそうやったけど、お前ら最近たるんどるんとちゃうか?」
「申し訳次第も……」
「ナギのとこの執事君はちゃんとウチをここまで連れてきてくれて、いまは命がけで予備電源を入れに1人で向かっとるんやで! うろうろしとっただけのお前らとは雲泥の差や」
「なんと! あの少年が寒い中を、予備電源を入れに? 咲夜お嬢さま、そんな危険な行為をお許しになったのですか?」
「もしや我々が母屋にたどり着けないことを予測して? あぁ情けなや、咲夜お嬢さまに信じていただけなかったとは!」
「偉そうにいえる立場かいっ!」
 あのときはお前らが主電源直しに行ってるのを忘れとったんや……と口にするわけにはいかない咲夜は、思わず言葉を荒らげた。
「まぁ怒るのは後回しや、すぐに執事君を助けに行かなあかん! それでお前ら……あっ!」
「ど、どうかなさいましたか、咲夜お嬢さま?」
「しもた、ウチとしたことが……電話聞いた時点で、お前ら待つ必要なかったんや」
 雪の中で遭難寸前になってた巻田と国枝が、着替えとタオルなど用意してこられるはずがない。そのことに今頃気づいた咲夜であったが……主人の悩みを聞いた執事2人は名誉挽回とばかりに顔を輝かせた。
「なんの! 着替えならちゃんとございます、咲夜お嬢さま!」
「いかなる時も主人の命に応える、それが愛沢家クオリティ!」
 ばっと執事服の前を開いてみせる巻田。その下には……ビニール袋で包んだ少女向けのブラウスと下着がしっかりと結び付けられていた。隣の国枝の方は長めのスカートを包んだビニール袋を腹巻代わりにして、にっこりと微笑んでいる。
「こんなこともあろうかと! さぁ咲夜お嬢さま、さっそくお召し替えを!」
「雪の中でも咲夜お嬢様のぬくもりに抱かれているようで、我々心強うございました! 今度は我々が、咲夜お嬢さまのお役に立つ番です!」
「……変態どもめが……」
 帰ったら妹たちの服の数を確認しとかなあかん。一流の執事たちのフェチな一面に思いがけなく遭遇した咲夜は、そう固く心に決めた。


Fin.

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