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巡りくる聖夜

初出 2005年12月24日
written by 双剣士 (WebSite)
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 読者の皆さん、クリスマスの準備はもうお済みでしょうか?
 『ハヤテのごとく!』第61話の小ネタSSは年末最後の小ネタということもあり、あえて本編に登場しないキャラばかりを使って構成してみました。文章量の都合で台詞すら登場しないキャラも居ますが、華々しい本編の裏側でこんな素敵な出来事があったら良いな、とメルヘンチックに浸ってください。
 なおこの物語を発案するに当たっては、360度の方針転換の記事から貴重なインスピレーションをいただきました。お礼を込めてリンクを張らせていただきます。

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 12月24日、クリスマスイブ。街中が一夜限りのロマンスに沸き返るなか、三千院家のメイドを勤めるマリアは屋敷で寂しくお留守番をしていた。
「ナギとハヤテ君……無事でいてくれるかしら……」
 いつも騒がしくて気難しい彼女の雇い主は、いまは少年執事を連れ戻すために地下ダンジョン攻略に乗り込んでいる。あちらの時間では2月3日ということになっているが、本編で出番のないマリアとは時間の流れが異なる。少女たちが悪霊や巨大ロボットと戦っている間にも、下界の時間は進むのだ。
「結局、今年も……なにも起こらない一日でしたね」
 頬杖をつきながら窓の外の雪を見上げるマリア。去年のクリスマスイブもこんな感じだった。口先では『マリアの誕生日を祝おう』と調子のいいことを言っておきながら、さっさとパーティーに飽きて夜の公園に飛び出してしまったナギ。奇妙な縁で綾崎ハヤテと出会ったものの、直後にナギの誘拐騒動でハヤテが大怪我を負い……どさくさに紛れてクリスマスパーティーはうやむやになったのだった。もっとも誕生日のことを覚えてくれていただけ今年よりはマシだが。
「ま、誕生日といっても教会で拾われた日というだけで、別に特別な日じゃないんですけどね……仕方ありません、去年も今年も誕生日は来なかったということで……」
 期待しなければ裏切られることもない。ほっとしたような寂しいような、複雑な表情でマリアが溜め息をついたのとほぼ同時だった。三千院家の玄関チャイムが軽やかな響きを立てたのは。


「マリア姉ちゃん!」
「まーねーちゃーん!」
 監視カメラで愛沢咲夜の来訪を確認し、重い扉を開けて出迎えたマリアは……ドアの隙間から飛び出してきた小さな女の子に急に抱きつかれて、しばしよろめいた。
「おばんやで〜、マリアさん」
「さ、咲夜さん……これは一体?」
「いやぁ、今日マリアさんの誕生日やろ? ウチはすっかり忘れとってんけど、妹たちが会いたい会いたいって騒ぐもんでな」
 照れ笑いをしながら玄関に入ってくる咲夜の後ろには、彼女の妹と弟……日向と朝斗が真っ赤なほっぺをして付いてきている。そんな姉妹3人の視線はいち早く駆け出してマリアにしがみついた末の妹たちに注がれていた。愛沢家の元気の象徴、夕華(8歳)と葉織(4歳)の2人である。
「まーねーちゃん、おめでとー」
「おめでとー」
 子供に笑顔を向けられてマリアの表情も緩む。だがその直後、三千院の屋敷を束ねる者としての自覚がマリアの表情を曇らせた。
「みなさん、ありがとうございます……でも困りましたね、皆さんがいらっしゃると分かっていたら、おもてなしの準備をしましたのに」
「マリアさんらしいな。そやけど心配いらん、今夜はウチらのこと放置しくさった作者への当てつけとして、出番のないキャラたちの忘年会も兼ねとるよってな」
「そうですよ、準備は私たちでやりますから、主賓のマリアさんは座っててください」
 咲夜たちの後ろから顔をのぞかせる貴嶋サキ。
「そーそー、ほらエイト出番よ、ちゃっちゃっちゃーっとやっちゃってぇ〜」
 そして不細工な介護ロボットを従えて遠慮の欠片もなく乗り込んでくる牧村志織。彼女の命を受けたエイトはジェット噴射をなびかせながら屋敷の奥へと突撃し……豪快な破壊音と虎のうなり声とが向こうから帰ってきた。
「…………」
「あ、あははー(汗)」


 そして、西沢さん・ヒムロ・野々原やモブ3人衆なども加わり、こじんまりとしたパーティー会場には横断幕と料理の数々が並べられた。クラウスが催す舞踏会用のパーティー会場とは比較にならない狭さではあったが、マリアに不満などあろうはずがなかった。満場の拍手に迎えられ、涙をぬぐいながらマリアは壇上のマイクを握った。
「みなさん、本当に、本当にありがとうございます! こんなに嬉しい誕生日、初めてです私! こんなに沢山の方が、お忙しいなか駆けつけてくださって!」
 出番のないキャラ同士の忘年会という位置づけもあるパーティーにおいて、嫌味にもなりかねないマリアの挨拶。だが野暮な突っ込みをする者は誰一人いなかった。マリアが身も世もないほど喜んで舞い上がっているのは誰の目にも明らかであったから。
「それじゃさっそく乾杯しましょう! ジュースは行き渡りましたか?」
「あれ、シャンパンとかじゃないんですか? マリアさん今日から18歳でしょう」
「何を言ってるんです? 私はピチピチの17歳ですよ?」
 思わず口を滑らせたサキの一言は、黒いオーラを背負ったマリアの笑顔とそれを感じ取った周囲の人たちの制止によって、発言自体なかったことにされた。全員がこわばった笑顔を浮かべる中、マリアは気分よくジュースのグラスを高々と差し上げて……乾杯の声を発しようとしたまさにその瞬間、目の前に差し出された白いカードに出鼻をくじかれた。
「……あら、クラウスさん居たんですか」
「最初からおったわい! いや別に出番欲しさに邪魔をしたわけではないがの、旦那さまからクリスマスカードが来とるものでな、お前さん宛てに」
「まぁ、おじいさまから?」
 幼少時代のマリアを知る老人からのカード。期待に胸を膨らませながらマリアは封を切った。折りたたんだカードのなかにはミミズののたくったような文字で、今のマリアが最も嫌がるであろう短い言葉が刻まれていた。
『マリアよ、三十○回目の誕生日、おめで……』

 びりりりりぃっ!!!

 般若の形相になったマリアはクリスマスカードを両手で引き裂くと、力の限り噛み付き、げしげしと足で踏みつけ、破片を握ったままDDT、バックドロップ、STFと流れるような連携攻撃を見せた。祝賀ムードが一瞬にして冷め切ったことに参加者たちが唖然とする中、かろうじて口を開いたのはこの場の最年少者とその姉であった。
「まーねーちゃん、すごいわぁ……」
「よぉ見とき、あれがレギュラーにして扉絵常連キャラの突っ込み技や」
「あれ覚えたら畑先生、ウチのことも描いてくれるかなぁ?」
「う〜ん、葉織がメイン張るんはしんどいかも知らんな。畑先生がサンデー追い出されてロリ雑誌に転身でもせん限り」
「そんな殺生なぁ!」


Fin.

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