ハヤテのごとく! SideStory
愛する人のために
初出 2010年01月29日
written by
双剣士
(
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原作257話を読んで思いついた突発ネタです。小ネタらしい小ネタって久々のような。
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「キャ――――!!」
「なんなのだ、こいつらは――!!」
そこはアテネ市街にある某ホテルのパーティー会場。着ぐるみをかぶった仮装パーティーを楽しんでいた瀬川泉たち4名は、突然現れたゴーゴンやミイラ男など大勢の怪人たちに追いかけられて悲鳴をあげながら逃げ回っていた。
しかし恐ろしい怪物たちに追われながらもお嬢さまたちの表情はどこか楽しげ。それもそのはず、超常現象などとは無縁な人生を送ってきた彼女らにしてみれば、この連中がこの街と同じ名を持つ少女によって召還された異世界の化け物であろうなどとは想像できるわけもない。ホテル側が用意したサプライズイベントの1つだと完全に思いこんでいるのだ。
「あ、おかわりもらえる?……それにしても最近の着ぐるみって、よく出来ているわね〜」
逃げまどう少女たちの傍らでは、白皇学院副会長・霞愛歌がミイラ男に給仕をさせながら紅茶をすすっている。奥の厨房からはマリアに手なづけられたゴーゴンと1つ目男が焼きたてのハンバーガーをトレイに載せて運んでくる。年長組がこんな調子では、緊張感を持てと言う方が無理である。ホテル側の趣向を無駄にしないよう、せいぜいキャーキャーと怖がってみせるのが年少者たちの努めというものではないか。
「きゃん♥」
「おおっ、泉ついに絶体絶命かっ?!」
「しまった、こんなことなら先日買ったトイカメラを持ってくるんだった!」
足を滑らせて転んでしまった瀬川泉に背後から襲いかかる怪人たち。アトラクションだと信じ込んでいる理沙たち一行は親友を助け出すどころか、絶好のシャッターチャンスとばかりに手に汗握ってカメラを構えるのだった。だが怪人たちの牙はゴム製などではなく、鋭く光る爪は見かけ倒しの代物ではない。神話の世界で幾多の勇者を苦しめてきた怪物たちの邪悪な牙が、にはは〜と照れたような笑顔を浮かべる泉の頭上に迫る。危うし瀬川泉、脳天気ないいんちょさんという偶像を読者の胸に刻みつけたまま、悲鳴すらあげずに永遠の存在となるか……?!
「シングル執事キィ――ック!!」
「……へ? あれ、虎鉄君?」
ところがそんな緊張感は、空気を読まずに飛び込んできたイケメン執事によって他愛なく破られる。
「大丈夫か、お嬢?」
「ど、どうしてここに? GWは全国列車巡りをしてたんじゃなかったの?」
「バカを言え、妹のピンチとなれば海の向こうからでも駆けつけるのは当然だ! 年増の女教師だけに美味しいところを持ってかれてたまるか!」
「な、なにそれ?」
意味不明な叫びをあげながら華麗な格闘術で怪人たちをねじ伏せていく、泉の執事・瀬川虎鉄。唯一の戦闘系キャラである桂ヒナギクのいない状況において、執事=超人のライセンスを持つ虎鉄の戦いぶりは瞠目に値すると言えた。だが肝心のお嬢さまたちの反応はと言うと……。
「ぶーぶーぶー」
「空気読め、この変態執事」
「泉のためとか言ってるけど、絶対ハヤ太君を追いかけてきたに違いないぞ、あいつ」
……賞賛どころかブーイングを浴びせている有様だった。華麗な活躍に似合わぬ冷たい空気に気づいた虎鉄は、周囲の怪人たちをあらかた片づけ終えると頬を膨らませるお嬢さまたちに向き直った。
「な、なんだこの反応は? 妹の危機に駆けつけることの何が悪い?!」
「あーあ、空気読めない鉄ヲタはこれだから……」
「女だらけの所に飛び込めばヒーローになれるとでも思ったか? 暑苦しいったらありゃしない」
「そ、それを言うなら……綾崎はどうした綾崎は?! 主人のピンチを放っておくなんてどういうことだ、三千院?」
「へ?」
思いがけず視線を向けられた三千院ナギは、何かを思い出したようにポッと頬を赤らめて……胸元で手を握り合わせながら、もじもじとつぶやいた。
「ハヤテは……いいんだ。今夜はヒマをやったんだ。必ず戻ってくるって、あいつは約束してくれたから……」
「ふん! なにが約束だ、主人のピンチを見過ごすなんて執事の風上にも置けん!」
どうだとばかりに胸を張る虎鉄だったが、少女たちは目の前の勇者よりもこの場にいない借金執事の方に同情的だった。
「まぁ……ハヤ太君、この旅行ではいろいろワガママ聞いてくれたもんね。一晩ぐらいオフがあってもいいと思うよ」
「リゾートにきたのに他人の世話ばっかり焼いてるやつだったもんな。もう明日は帰国だし、思い出作りの時間くらい必要だろ」
「それにこんな高級ホテルの貸し切りスペースで、危険なんてあるわけないしな。勝手にヒーロー面して割り込んでくる方がウザイ」
「な、なんだなんだ綾崎ばっかり!」
じだんだ踏むイケメン執事のことを、少女たちは冷ややかに見下ろすのだった。
「主人を守れずして執事と呼べるか! 私なら泉のためなら地球の裏でも駆けつけるぞ、綾崎の危機とあらば時空だって越えてみせる!」
「ほ〜ら、やっぱりハヤ太君が目当てなんじゃないか!」
虎鉄は知らなかった。ちょうどそのころ某ホテルから遠く離れた豪邸のホールで、重傷を負った綾崎ハヤテが血の海に倒れ伏していたことを。
Fin.
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