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変態執事は上機嫌

初出 2009年11月29日
written by 双剣士 (WebSite)
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 原作249話「究極の選択」の小ネタです。ナギとアテネの両方を救い、かつシリアスすぎる原作の雰囲気を笑い飛ばせるコミカルな解決策を考えてみました……が、お世辞にも推奨できる方法ではありません。そんな複雑な思いをラストのオチに込めてあります。

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 10年ぶりに再会した最愛の女性に命をねらわれ、危ないところを咲夜と伊澄に助け出された綾崎ハヤテ。だが光の巫女の攻撃すら余裕綽々で跳ね返す彼女……天王州アテネの状況は、彼が想像するより遙かに深刻だった。
「私が考えるに、白皇の理事長さんの力とつながる事によって、あの英霊は無限に力を供給され恐ろしく強化されているのだと思います。あのヘビも同様……おそらく彼女は力を最大限まで引き上げる何らかの能力を持っているのだと思います」
「…………」
「せめてあの英霊と理事長さんを分離しなくては……何度やっても勝ち目はないでしょう」
 自分のことを「あのとき殺し損ねた執事」と呼んで攻撃を仕掛けてきたアテネ。あれが彼女の本心だなんて考えたくもない。英霊に取りつかれているのなら、それを引き離せばきっと元のアーたんに戻ってくれるはず……ハヤテはそう願いつつ、通りすがりのゴーストスイーパーに問いかけた。
「あの化け物を……追い出す事は難しいんですか?」
「いいえ。追い出すだけなら簡単です」
「え?」
「ああいう融合するかのように取り憑くには、なんらかの具体的な『合意』が必要――つまり彼女の言っていた「石を手に入れる」という共通の目的が強い2人の合意となり、あの英霊の取り憑いていられるよりしろとなっている――ですから追い出したいならその合意を崩せばいい。つまり、その石というのを渡すか壊すかすればいい……そうすれば英霊との合意は崩れ、理事長さんを救うことができるでしょう」
 お仕事モードに入った鷺ノ宮伊澄はいつになく饒舌な口ぶりで、このマンガらしからぬ究極の選択をハヤテに突き付けた。このままではアテネは英霊に取り込まれ、二度と救い出すことができなくなってしまう。しかし石を渡すことは単にアテネと英霊を分離させるだけではなく、英霊の最終目的を成就させてしまうことにもなる。それは世界が終わる可能性すらある、と伊澄は言うのだ。
「その石……壊させていただけませんか?」
「ダ……ダメですよ!! 伊澄さんの頼みでも、それだけは絶対にダメです!!」
「……そうですか。ではハヤテさまは傷つけませんが、その石は力ずくで壊させていただきます!!」
 世界の命運を左右する石を、万が一にも英霊に渡すわけにはいかない。本気の伊澄がハヤテに向かって魔法陣を向ける。力を使い果たした直後とはいえ、異能の力を操る伊澄に抵抗する術などハヤテには無い。ハヤテが身を固くして胸の石を握りしめた、その刹那。
「待てぃ!!」
「――――!!!」
「自分、何をいきなり好戦的になっとんねん。世界が滅ぶ石かもしれんけど、大事な思い出の品かもしれへんやんか。それをいきなり壊すやなんて……」
 伊澄の背後から迫った咲夜がお姉ちゃんモード全開で常識ぶったお説教を浴びせる。着物の裾をいきなりめくりあげられた伊澄は術を発動するどころではなく、涙目になって着物の裾を押さえながら恨めしそうに咲夜のことを見上げたのだった。


 そして……そんな少女2人の姿を見ていたハヤテの脳裏に、不意に雷光が閃いた。
「そうか! それですよ咲夜さん!」
「へ? い、いきなり何やの?」
「ありがとうございます! 咲夜さんのおかげで僕、彼女を救う方法が分かりました!」
 ポカンとする咲夜の両手をとったハヤテは嬉しそうに手を上下に揺さぶると、顔だけを横に向けて伊澄に問いかけた。
「伊澄さん、要は彼女と化け物との共通の目的を崩せばいいんですよね? この石以外のものに彼女の意識を向けさせられれば、化け物を追い出すことができるんですよね!」
「え、ええ、そのとおりですが……あの理事長さんは人一倍意思の強い方です。あの英霊が表に出てるときに意識をそらさせるなんて、そう簡単には……」
「それが出来るんです!」
 両手をいっぱいに広げながら、ハヤテは自分のひらめきを高らかに歌い上げた。

「彼女のスカートをめくればいいんですよ!!」

「……は?」
「ハ、ハヤテさま?」
 あまりと言えばあんまりな少年の言葉に絶句する2人の少女たち。だが少女たちの前で堂々とチカン宣言をした綾崎ハヤテのほうは得意満面だった。
「どんなに真剣な局面でも、たとえ世界の命運がかかっていても……恥ずかしいところをめくられたら反射的に意識がそっちに行ってしまう、それが女の子の習性なんですねっ!! 男の僕にとっては盲点でした、ありがとうございます咲夜さん!」
「あ、いや……そないなとこ褒められても」
「あぁ、ハヤテさまが壊れた……」
 じりじりと後ずさりするお嬢さまたちに目もくれず、ハヤテは自分の思いつきに酔っていた。これでアーたんを助けられるし、お嬢さまも遺産を失わずに済む。ここ数ヶ月のシリアス展開に辛抱強くついてきてくれた読者に対してサービスすることもできる。それに化け物から分離されたアーたんがスカートを押さえながら涙目で自分を睨みつけてくれれば、小さかったころのように仲良くケンカできるようになるかもしれない。一石二鳥どころか三鳥にも四鳥にもなる起死回生の妙案。有頂天になるなというほうが無理である。
「ハヤテさま、本気でおっしゃっているのですか?」
「本気ですとも! これで万事うまくいくんです、僕1人が悪者になるくらい、お安いご用ですよ。彼女が隙を見せたときにはお願いしますね、伊澄さん」
「……私、スカートめくりの片棒を担がされてしまうんですか……」
 憧れのヒーローという心の中の偶像がガラガラと崩れていく。伊澄は悲しそうに顔を袖でおおった。そして急に無口になった親友に代わり、もう1人の少女がツッコミを入れる。
「そ、そやけどな自分、スカートめくるには理事長さんの足元まで近づかなあかんねんで? 狙われてる立場の自分が、どないして近づくねんな?」
「大丈夫です、僕には手を触れずに相手のスカートをめくる必殺技、『疾風のごとく』があります!」
「ひ、必殺技やて?」
「そうです、なんたってあのマリアさんにだって通用した技なんですから! きっとお嬢さまを守るために、神様が授けてくれたんですよ!」
「さ、さよか……マリアさん相手に実践済み、ちゅうことやねんな……」
 もはや体裁を繕う余裕もなく、10歩ほど後ろに離れてひそひそと陰口を交わし合う伊澄と咲夜。そしてこの日の夜を境に、2人がハヤテのことを下の名前で呼ぶことはなくなったのだった。


 そして翌日。エーゲ海旅行最後の1日を買い物に費やすことになったナギたち一行は、連れ立って商店街を渡り歩いていた。異国の珍しい土産物の数々に嬌声を響かせ合う少女たちの中にあっても、この日のハヤテの機嫌のよさは際立っていた。鼻歌を歌いながら少女たちの後を追い、楽しくて仕方ないとばかりに皆の荷物を抱えて歩きまわる。前日までの何か思い悩んだような様子は影も形もなかった。
「ハヤテ君、ずいぶん機嫌が良さそうですね。昨日のディナーの時、何かありました?」
「へ? そんなそんな…!! なんにもなかったですよ!!」
「そうですか…ならどうしてあんなに元気なんですかね?」
 首をかしげるマリアに対し、桂ヒナギクは表向き平静を保っていた。だが心の中では、自分を振った少年の脳天気すぎる笑顔をぶん殴りたくなる衝動を必死で押さえていたのだった。


 そしてその夜。伊澄たちと共に再び天王州家を訪れた綾崎ハヤテは、前日と同様に異能者たちの壮絶なバトルの渦中にいた。しかしただ守られ逃げるだけだった前日とは違い、今日のハヤテには秘策がある。伊澄の結界を抜け出したハヤテの頭上に骸骨の攻撃が降りかからんとする……アテネと化け物の意志が“ハヤテ抹殺”に傾いたその瞬間をとらえて、少年は堂々と叫んだ。
「行きます……秘技、疾風のごとく!!」
 力強く右足を踏みこむと同時に巻き起こる竜巻。壇上に立っていた天王州アテネの黒いドレスが、下からの風を受けて花びらのように水平にめくれ上がった。これでアーたんの意識はスカートのほうに向かい、化け物との連携が断たれるはず……そう思って顔を上げたハヤテ。だがアテネの姿を一目見た瞬間、彼は失敗を悟った。
《しまった忘れてた……このマンガの学園系ヒロインは、スパッツ装着がデフォだっけ……》
 1秒の半分にも満たぬわずかな時間。降りてくるスカート越しに突き刺さってくるアテネの嘲りの視線が、ハヤテの見たこの世で最後の光景だった。


BAD END.

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