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笑撃の告白

初出 2007年06月19日
written by 双剣士 (WebSite)
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「わざわざ来てもらってごめんなさい、咲夜」
「ええってええって、いつものことやんか。伊澄さんに来てもろて迷子になられても面倒やしな」
 愛沢咲夜の誕生日を目前に控えたある日。咲夜は親友の鷺ノ宮伊澄に呼ばれて、鷺ノ宮家を訪問していた。季節の変わり目で体調を崩したという伊澄は布団から身を起こした姿勢で咲夜を迎えたが、お見舞いが必要なほどの重病には見えなかった。
「それで、どないしたんや? 伊澄さんが病気とは思わんかったから、お土産とか持ってこんかったんやけど」
「あの……咲夜がお誕生日に『爆笑』を欲しがってるってワタル君に聞いたから」
「えっ? あ、あぁあぁ、あのことな」
「ワタル君やハヤテさまに『爆笑』をプレゼントされたって聞いたから、私からもと思って」
 誕生日を祝ってくれようという親友の気持ちは嬉しい。しかし伊澄が根っからのボケ属性であることを熟知している咲夜としては、実は最初から当てにしてなかったりするのだった。
「い、いや、ええよええよ伊澄さんは」
「でも……」
「ええんやって、伊澄さんは存在そのものがボケの塊なんやから。普段からお腹一杯にさせてもろてるし」
「……失礼だわ。私、こんなにしっかりしているのに」
 真っ赤な頬を膨らませた伊澄の言葉を聴いた瞬間、咲夜はお腹を押さえて畳の上を転がりまわった。
「咲夜……?」
「……!!!……!!!……あはは、いや、ウケタウケタ、今世紀最大の大ボケや! 伊澄さん、いまので十分やって」
「…………?」
「あはは、はは、おかしい、あーおかしい! ナイスボケ、パーフェクトや!」
 一向に笑いが止まらない咲夜と、訳が分からず置いてきぼり状態の伊澄。やがて理解するのをあきらめた伊澄は、おごそかに口を開いた。
「よく分からないけれど……せっかく用意したから受け取って、私からのプレゼント」


「……へ?」
 涙目になりながら笑い転げていた咲夜が顔を上げると、いつのまにか部屋の空気は一変していた。やわらかい春の日差しがさしていたはずの和室に暗い影が立ち込め、伊澄の両脇に白い煙が立ち昇り……その煙の中から異形の生物が次々と現れる。周囲の障子は鋼のような重量感をもって咲夜の逃げ道をふさぐ。
「な、な、なんやこれは!」
「どうやったら咲夜が笑ってくれるか、よく分からないから……みんなで思いっきりくすぐってあげようと思って」
「みんなでくすぐるって……だいたい何や、なんで妖怪があんたと一緒におるんや! あんた退魔師とちゃうかったんか?」
「大丈夫。某孤島にいる藁人形好きな巫女さんを見習って、使い魔を召喚してみました」
「あんな性悪で年増な意地悪姉貴の真似なんかせんでええって!」
 異形の妖怪の1体が手を伸ばし、咲夜の足をつかんで動きを封じる。他の妖怪たちはゆっくりと脅える咲夜を取り囲む。妖怪の周囲から降りてくる冷気に包まれて咲夜の背筋は震え上がった。何度も親友の妖怪退治に付き合わされてきた彼女ではあったが、伊澄が敵方に回るという状況は初めてである。さきほどまでの爆笑を空の彼方に放り投げると、咲夜はガチガチと歯を鳴らしながら夜叉と化した親友を見あげた。
「嘘やろ? 冗談やろ伊澄さん、妖怪使うてウチをいじめさせるやて、そんな殺生なことせぇへんよな?」
「泣き落としは通じないわ、咲夜。私は年中お通夜みたいな顔した女だから」
「し、下田でのことまだ根に持っとったんか! あんなん軽い冗談に決まってるやん」
「深海魚並みの表情とも言ってたわね……私の分まで笑ってちょうだい、咲夜
「ひっ、目が笑ろてへんで伊澄さん、堪忍して、うひゃあぁ〜」
 じたばたともがく少女に妖怪たちが一斉に襲い掛かった。歳に似合わぬ豊満な身体を妖怪の指が撫で回し振り回し突付きまくる。妖怪の鋭い爪に引っかかって咲夜の衣服は惨めなボロ布と化し、握られた手首や膝小僧に粘液が付着する。ハヤテキャラ随一のナイスバディを誇る咲夜の身体を弄り回す、ファン垂涎の宴がここに始まった。イラストのないことが、実に、本当に、泣きたいほどに残念である。
「さりげなくエロ絵募集しとる場合か! ウチを助け……あひゃ、ふわははは、くひひ、ふぁ、あ、あかんって!……(途中略)……こら、どこ触って、ひっ、あっ、ああぁ〜〜ん!!」


 ところが。予想外の侵入者というのは、えてしてこういうときに限って現れるもの。
「伊澄!! たまには私の方から遊びに来てやったぞ、一緒に三途ノ川センパイの今後について語ろう!」
 元気な声で鷺ノ宮家に乗り込んできたのは、普段はお屋敷の外に出ることのないはずの金髪ツインテールな幼馴染であった。瞬時に危機を察知した伊澄は大急ぎで妖怪たちを回収したのだが……。
「おーい伊澄……えっ?」
 元気にふすまを開けた三千院ナギの目に飛び込んできた光景は、驚くべきものだった。広い和室に布団が1つ、そこに寝巻きのまま座り込む伊澄。そしてその傍らでは、服をずたずたにされた半裸の咲夜が荒い息をつきながら倒れ伏している。部屋には他に誰もいない……こんな状況にいきなり直面したら、少女漫画フリークでマセガキなナギの脳裏でパニックが起こらないことがあろうか、いや無い!
「な、な、な……なんなんだこれは! お前たち、こんな(健全な少年誌に描けないような)関係だったのか?!」
「あぁ、なんてこと……ナギにだけは、このこと(自分に妖怪を呼べる力があること)を知られたくなかったのに……」
 ぐらぐらと煮えたぎる金髪少女の脳みそに、天然な和服少女の言葉が油を注ぐ。淫靡な妄想を肯定されたと勘違いしたナギの脳細胞は沸騰寸前。
「どういうことだ、なにがどうなってるんだ!」
 数少ない友達だと思っていた2人が、自分を置いて大人(?)の階段を登ってしまった……驚きと困惑と恥ずかしさで思わずナギは金切り声を上げてしまった。しかしそうとは知らぬボケ属性の光の巫女は、なんとかこの場を言い繕って妖怪のことを隠し通そうと言葉をつむいだ。
「ナギ、よく聞いて。これはね……」
「これは?」
「ハ、ハンドソープ、です……」
「ソ、ソープ?!……うぅ〜ん」
 バブリーな妄想に目を白黒させた挙句きゅうぅと目を回して倒れこむナギの方へ、あわてて駆け寄る伊澄。そんな彼女たちの背後から、息絶え絶えの関西芸人が命からがらツッコミを入れるのだった。
「はぁ、はぁ……ソ、ソープゆうてもオチまで滑らせてどないすんねん……もうえぇ、こんな状況よぉフォローせえへん、やめさしてもらうわ……」


Fin.

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