ハヤテのごとく! SideStory(瀬川泉のお誕生日記念SS)  RSS2.0

みんな大好き

初出 2007年09月11日
written by 双剣士 (WebSite)
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 普通の女の子だって、1年に1度くらいは主役になれる日があってもいいよね。
「は〜い、みんな席について〜」
 朝のホームルーム。担任の牧村先生と副担任の桂ちゃんが出席を取ってる。私の名前が呼ばれるまでもう少し。呼ばれたらいいんちょさんらしく、元気に返事するんだ。だって今日は……。
「はい、瀬川泉さん?」
「はいっ!」
 来た! 私は勢いよく右手を上げて、元気に席を立った。普段は声で返事だけすればいいんだけど、今日の私はそうするだけの理由がある。
「瀬川泉、17歳ですっ! 今日はいいんちょさんのお誕生日なのだ〜!!」
「……おおぉっ!!」
 周囲から上がる歓声。クラス中のみんなが私のほうを見てる。この空気が消えないうちに言っちゃおうっと、昨日から練習してきた言葉を。
「はぁ〜い、そんなわけで、今日はいいんちょさんの記念日だよっ! だから……」
「ただのビンボー人には興味ありません。この中にプレゼントを持ってきた人、現ナマを持ってきた人、ドンペリ引換券を持ってきた人がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
「……って、桂ちゃん! 私の台詞を取らないでくださ〜い!」
 桂ちゃんの変な突っ込みのせいで、クラスのみんなは大爆笑。もー、なんでこーなっちゃうのっ、グレちゃうよ〜っ!!


「うぅっ、えぐっ……」
「まったく、桂ちゃんにも困ったもんね」
「まぁ、欲望に忠実なのは泉も同様だけどな」
「ひ、ひどいよ理沙ちん!」
 ホームルームが終わって、ここぞとばかりにからかいに来た2人の親友。私はぼろぼろ涙を流しながら抗議の声を上げようとして……濡れた視界に小さな箱が映ったのに気づいて、きょとんとして2人を見つめたの。
「へっ?」
「プレゼントよ、泉。お誕生日おめでとう」
「後でさりげなく渡すつもりだったけどな、あれだけ派手にやられちゃ、引き伸ばすわけにもいかんだろ」
 照れくさそうに顔を背ける2人、じわっと勝手にあふれてくる涙。あぅ、ずるいよ不意打ちだよっ、胸が熱いよ嬉しいよっ!
「うぅ、ありがと、ありがとう! やっぱり持つべきものは友達だよっ!」
 美希ちゃんのプレゼントはきれいな髪飾り、理沙ちんのはおっきなクマさんのぬいぐるみ。どっちも私の大好きなものばかり。もう嬉しくて嬉しくて、私は何回も何回もお礼を言いながら美希ちゃんたちの手を握って振り回したんだ。そしたら2人は……私の興奮が収まるのを見計らって、急にがらっと口調を変えてきたの。
「しかし、あれだな。これで私たち3人のうち、泉が最年長者か」
「そうだな。人気投票だけでなく人生経験でも、私たちより一歩先んじたことになるわけだな、生意気なことに」
「……へっ?」
 ふかふかしたクマさんのあったかい肌触りとは対照的に、2人の言葉の刺がちくちくと痛い。あれ、いつの間にこんな流れになっちゃったんだろ?
「ここはやはり、いいんちょさんレッドとしての威厳を見せてもらわなくてはな」
「うむ。これからは遅刻もせず、予習復習もしっかりやって、我々を導いてもらいたいものだな」
「えっ、えぇっ?! そ、そんな、年上ったって同級生じゃない、私たち」
「いーや。贈り物をする側と受け取る側、それが平等な関係と言えようか、いや無い!」
 びしっとプレゼントを指差す美希ちゃん。なにそれ、そんな話、聞いてないよ〜!
「年上だからな、17歳なんだからな。子供っぽい言動はそろそろ卒業して、大人のレディらしいところを見せてもらおうか」
「うっ、うぐっ?」
「これから宿題を忘れたときは泉に見せてもらおう。生徒会の仕事も全部やってもらおう。そうだ、いっそノートとかも代理で書いてもらおうか」
「少なくともヒナに怒られたときの防波堤の役くらいは果たしてもらいたいわね、お・ね・え・さ・ま?」
 どこか嬉しそうに話を進める美希ちゃんと理沙ちん。2人にいじめられるのはいつものことだけど、何もこんな日にまで意地悪することないじゃない!
「もー、2人ともひどいよ、どーしてそんな意地悪いうの?! 泣いちゃうぞ〜っ!!!


 でもまぁ……年上年下はともかく、子供っぽいのから卒業すべきだってのは確かにあるかも。泣きながら大声で抗議するのって、けっこう恥ずかしかったもんね。やっぱりここはいいんちょさんらしく、きちんと仕事ができるってことを見せてあげなくちゃ。
「へぇ〜、立派ですね瀬川さん、すごいですよ」
「えへへぇ〜、でしょでしょ?」
 ハヤ太君がくれたクッキーを頬張りながら、私は胸を張ってうなずいた。今は放課後、誰もいない教室に残ってクラス報告書を書いてるところなんだ。理沙ちんたちは早々と逃げ出しちゃって、今はハヤ太君と私の2人きり。ハヤ太君、私にプレゼントを渡すのに、周囲に誰もいなくなるのを待ってたんだって。
「ありがと、ハヤ太君。これとっても美味しいね、ハヤ太君の手作りなの?」
「ええ、元手はあんまりかかってないんですけど……」
「そんなことない、美味しいよ、すっごく! いいなぁナギちゃん、こんなに器用で気配りできる執事さんと一緒にいられて」
「いえいえ、瀬川さんのほうが偉いですよ。1人で残って毎日きちんと日誌を書くなんて、お嬢さまに見習ってほしいくらいです」
「あ、あはは……」
 本当は理沙ちんたちが逃げちゃった代わりに、ハヤ太君に手伝ってもらえたらなぁって思ってたりもしたんだけど……さきに褒められちゃうと、なんか言い出しにくいなぁ。嬉しいような寂しいような、ちょっと複雑な感じ。


 で、結局お誕生日なのに、いいんちょさんは教室に1人で残って報告書を書いてたりするわけなのです。
「う〜ん……」
 適当に書いてた今までは気にしてなかったけど、ほんと、報告書って書くの難しい。クラスの問題点とかを書けって言われても、みんなすごく良い子だし楽しいし……それに悪いこと告げ口するみたいで気が進まないな。でも『今日もとっても平和でした♪』なんて書いてたら昨日までと一緒で、子供っぽいって笑われちゃうんだろうし。
「やだなぁ……」
 いつまでもみんな仲良しで、楽しく笑いあっていられたら良かったのに。普段は気づかない問題点を見つけ出して、連絡して改善して……それってどうしてもやらなきゃいけないことなのかな。大人になるのって、なんだか悲しいな。いっそお誕生日が来たら子供に戻ってくみたいなのって出来ないかな。
 ……とまぁ、そんなことばっかり考えて時間ばっかり過ぎていくわけです。帰りを心配した虎鉄君からときどき電話とかが入るんだけど、つい意地になって『もう少し』って私も言っちゃうし、虎鉄君もそれを真に受けちゃうんだよね。いっそ無理やりにでも連れ出してくれれば嫌な悩みから抜け出せるのに、本当に女の子の気持ちがわかんないんだから、虎鉄君は。


「……ずみ、起きなさい、泉」
「……ふぇ? あ、あれ、ヒナちゃん?」
 気がつくと教室の外は真っ暗で、私は机に突っ伏して寝ちゃってたみたい。もう8時を回ってるわよとヒナちゃんに言われて、このまま帰っちゃおうかな、と思ったりもしたんだけど……身体を起こしたとたん、ヒナちゃんは身体の下にあったクラス報告書に気がついちゃった。
「あら、報告書を書いてたの? 偉いのね」
「あ、いや、これはその……」
「こんな時間まで感心ね……って、あれ?」
「だ、だって、だってだって!」
 見られた! 真っ白けなのをみられた! ぜんぜん成長してないってとこをヒナちゃんに見られちゃった!
 頭の中はもう大パニック。なんだかもうぐちゃぐちゃで、涙が勝手に眼からあふれ出してきちゃう。私は両手をぶんぶん振り回しながら訴えた。
「頑張ったんだよ! 考えたけど、やっぱ無理だよ! 意地悪な美希ちゃんとか薄情な理沙ちんとか、サボリんぼのナギちゃんとか空気読まない桂ちゃんとか、いろいろ考えたんだけど! 報告書で告げ口なんて出来ないよ!」
 複雑そうな表情で視線をそらすヒナちゃんの両手を握って、ぎゅーっと手に力を込める。
「だってみんないい子だもん! 大好きだもん! 私こんな仕事嫌だ! 大人になんかならなくていい! いいんちょさんも辞める!」
「……だったら、書かなければいいじゃない」
「へっ?」
 むちゃくちゃでぐちゃぐちゃな頭の中にアイスの棒を差し込まれたみたいに、私はきょとんとしてヒナちゃんを見上げた。
「クラス報告書は、クラスの問題点をみんなで一緒に考えて解決していくためにあるのよ? 委員長のあなたが問題ないと思ってるんだったら、それでいいじゃない」
「ほ、ほんと?」
「えぇ。無理やり問題児をつくりあげてクラスの雰囲気を悪くするなんて、生徒会だって望んでないもの」
「やったーっ!!」


 頭のなかの暗雲がいっぺんに晴れた気分。私はぴょんぴょんと跳ねながら万歳三唱した。ごめんねごめんね美希ちゃん理沙ちん、いっときでも悪者扱いしてごめんね! 帰ったら電話しよ、いっぱい喋って仲直りしようっと!
「まぁ、でも毎回白紙ばっかりだと生徒会としても困るわけだけど……」
「ありがとヒナちゃん! じゃこれ報告書! 問題ナッシング! お疲れ!」
 書きかけのクラス報告書をヒナちゃんに押し付けると、私はスキップしながら教室の出口へと向かった。ヒナちゃんは何か言いたげな顔をしたけど、すぐに優しい表情になって私のことを呼び止めた。
「泉」
「ほぇ? なぁに?」
「遅くなったけど、お誕生日おめでとう。気をつけて帰ってね」
 ……ヒナちゃんに言われるまですっかり忘れてた。私はとびっきりの笑顔を作ると、くるっと一回転しながらヒナちゃんのほうを振り返った。
「うん、ありがと♪ ヒナちゃんのことも大好きだよ!」


Fin.

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