CLANNAD SideStory
CANDY HEART
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「うーー風邪引いた……」
―――参ったな、せっかくの風子との初デートの日に風邪を引いてしまうんだからな。
やっと風子がデートをOKしてくれたというのに。そう、やっと、やっとである。
今まで風子を何度もデートに誘ったがことごとく断られていた。
『ごめんなさい、その日は忙しいんです』
『ごめんなさい、その日はお姉ちゃんと出かける用事があるんです』
『いつもあっているのにどうして休日にまで会おうとするんですか』
そうやって断られる日々のくりかえし。自分でこういうのもなんだが意外に風子に遊ばれている。
――まぁこれはこれで悪い気はしないんだが。
まぁ俺も風子とは違う意味で風子で遊んでいるし。
そういう日々をすごしてようやくOKを取ったのにクーラーをつけっぱなしにして布団もかぶらずに寝てしまい風邪を引いてしまうとは……馬鹿すぎる。
さっき公子さんに電話で風邪を引いたことを風子に伝えてください、といってからそんなことをずっと考えていた。
まぁせめてもの救いは今家に親父がいないことくらいか。
ピンポーン
チャイムがなった。ん?誰だ?
風邪を引いた体をおして外にでる。
「風子、参上」
――風子?
そこにいたのは今日一緒にデートするはずだった風子であった。
「彼女のデートの日に風邪を引いたお馬鹿な岡崎さんの為に看病に来ました」
そういって、風子は家に入ってきた。
☆
風子が看病に来た。なんか、意外だ。
どうやら今は下でおかゆを作っているらしい。
風子にはいつも少し遊ばれているみたいな感じだったからまさか来るとは思わなかった。
明日当たり、
『もう、せっかく風子がOKしたのに風邪を引くなんて風子の彼氏失格です』
っていわれると思っていたのに。
「岡崎さん、はいりますね」
そういって、風子が部屋にはいって俺の近くにきた。
手にはおかゆのはいったお盆。
「岡崎さん、あーんしてください」
そういってレンゲにおかゆを入れて口元に持ってくる。少し恥ずかしかったが俺はそれに甘えてみることにした。俺はおかゆを口にふくみ―――
「ぶっ」
吐き出した。
「岡崎さん、せっかく風子が作ったおかゆを吐き出すなんて、最悪ですっ」
「―――なぁ風子、お前味見したのか?」
俺がそういうと風子が顔を真っ赤にしていう。
「お、岡崎さん、風子と間接キスしたかったんですか、ぷち最悪ですっ、えっちですっ。岡崎さん」
「や、そうじゃなくてな―――」
そういって、風子に無理やりおかゆを食べさせる。
「何するんですか、岡崎―――なんですかこの味は。最悪ですっ」
「――風子、お前、塩と砂糖を間違えただろ」
口に含むとおかゆがすっごく甘ったるかった。
しっかしなんつーお約束な……。
「はっ、そういえば間違えたかもしれません。風子、はめられました」
誰がはめるんだ、誰が。
そんな俺の問いもむなしく、風子は一人納得している。
大体こんなに甘かったら塩を正しくいれたらすごくしょっぱいと思うが。
「風子、料理はいいから冷えたタオル持ってきてくれないか?」
「……わかりましたお待ちください」
数分後。
「岡崎さん、入りますね」
そういって、風子が部屋にはいってきた。
手には洗面器。水がいっぱい入っているらしく、洗面器をもって風子が歩く姿は少しみただけでも危なっかしさがよく伝わってくる。
――あまりにもお約束なある光景を思い浮かべてしまうのは何故だろう?
だが、21世紀にもなってそんなお約束を二度も続けてするはずがないだろう、いくらなんでも。
「あっ」
そういうと風子はこけて…。
バシャ
数秒後には、俺が思い浮かべたとおりのあまりにもお約束な光景がそこに広がっていた。
忘れていた、俺の彼女はこういう女の子だと言うことを。
正確に言うなら、水をかぶっていた。思いっきり。
「ふ、ふ、ふ、ふふ風子…」
しかも丁寧に氷まで入れていたらしく、さっきまで気持ち悪さが輪をかけて酷くなる。
「お、お、岡崎さん、大丈夫ですか?」
「と、とりあえず、ふ、ふくもの持ってきてくれ」
俺がそういうと風子は急いでタオルを持ってきた。
ピンポーン
ちょうどそのときチャイムが鳴った。誰だ?こんなときに……。
「俺、出てくるから風子、ここ、片付けといてくれ」
「――分かりました。岡崎さん」
へこんでいるのか、少し落ち込んだ感じで風子がそう答える。
俺は体を軽く拭いてから来訪者を迎える。
「こんにちわ、岡崎さん―――、って、どうしたんですか?そんなに体をぬらして」
そこにいたのは、風子の姉、伊吹――いや、芳野公子だった。
☆
一時間後、公子さんと風子が部屋をかたずけ――ほとんど公子さんの仕事だったが――部屋が元に戻った。風子は今、
「すーーすーー」
寝ている。
「こいつは……」
そういって風子の顔を見る。その寝顔は少女のようにあどけない。いや、普段から少女っぽいか、こいつの場合。
そう思いながら、風子の顔を見つめた。
「疲れているんですよ、昨日はまともに寝られなかったみたいですし」
ふいに、公子さんが口を開いた。
「なにか、あったんですか?」
俺の言葉に、公子さんは微笑んでこう答えた。
「岡崎さん、あなたがどうおもっているか分かりませんが、ふぅちゃんは多分、岡崎さんが思っているよりもずっと岡崎さんのことが好きですよ。――昨日はなかなか眠れなかったみたいですよ、初デートに緊張して」
「――え?」
いつも俺を軽くあしらっている風子が、緊張していた―――?まさか――?
「今日デートに行くって事で昨日は何度も何度も私に聞いてきました。この服装でいいですか、こういうときはどうすればいいですか、子供っぽくないですかって」
おかしそうに公子さんは笑う。
「それに、また、デートの誘いを受けたって相談も何度も受けていたりしましたよ」
「……マジですか?」
「ええ、マジです。でも、そのたびにまた、断ってしまったって後悔しているみたいでした」
「俺には軽くあしらわれていると思っていましたが……」
そうじゃ、なかったというのか。
「臆病なんですよ、この子、岡崎さんの彼女にふさわしいか、子供っぽいんじゃないかって」
そういって公子さんは風子の頭をなでる。
――ふっと思い出された、公子さんの結婚式前々夜の風子の言葉。
『岡崎さんが風子のこと、好きになってください。そしたら風子も岡崎さんのことを好きになります。――片想いは、イヤですから』
ああ、そうか、あの頃からずっと風子は臆病なままかわっていないのか。
「馬鹿ですね、俺。彼女のことに気づいてやれないなんて……」
風子はまだまだ子供。そんなことをまったくわかってやれなかったんだ、俺は。
「難儀な子ですから」
そういって公子さんは微笑んだ。
「でもそんな風子がよく俺んちに来る気になりましたね」
普通に考えてデートの時よりもずっと緊張しそうだ、彼氏の家に来るなんて。
「なかなかいこうとしなかったんですけど、『病気のとき、男の子に優しくすると大人っぽくて一気に親密になれますよ』っていったらとんで行きました」
そういってころころ笑う。
――公子さん、あなた案外計算高いんですね。
確かに普段から大人っぽいを強調している風子なら、そんなことを聞かされたら飛んでいくだろう。
―――ふと、今日の風子の失敗は緊張していたのもあったんじゃないか、そう思った。
風子の場合そうなのかそうじゃないのか非常に判断しずらい部分があるから断言は出来ないが。
「でもそのせいで岡崎さんをこんな目にあわせて申し訳ありませんでした。もうちょっとよく考えるべきでした。心配してきてみたら案の定……」
そういって公子さんは頭を下げた。
「いいですよ、風子のことをもっと知ることができましたし」
そういって俺は微笑んだ。
「だったら、この話もしちゃいましょうか」
そういって公子さんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「私が始めに『岡崎さんの看病にいったら?』っていったら、あの子なんていったと思います?」
「さぁ?」
見当もつかない。
「あの子ですね。こういったんですよ。『岡崎さんがおそってきて「みほしちゃん」が生まれたらどうするんですか、妹が襲われてもかまわないんですか』って、好かれてますね、岡崎さん」
「ぶっ」
いくら緊張して行きたくないからってそう答えるのはどうなんだ?風子?
「私は別にそれはそれでいいです、と答えたんですが」
……いや、ちょっとまってください、公子さん。ていうか結婚してから公子さん性格変わっていません?
俺はあまり親しいわけではなかったからもともとこういう性格だったのかもしれないが。
「あ、「みほしちゃん」って言うのは自分の子供につけたい名前らしいです。それと男の子の場合には「かいせい君」らしいですよ、つけたい名前」
くすくす笑ってそういった。
「それで二人とも漢字で名前をかくと……」
数分後。
「そろそろ帰りますね、それではお大事に。そうそう、来週こそはふぅちゃんとデートに行ってきてくださいね」
そういって、風子を背負って帰っていった。
さっきの公子さんの言葉を思い出しふと考えた。このまま風子とつきあって子供が生まれたとして、将来交わされるであろう会話を。
『ねぇねぇ、みほし、どうしてみほしって名前なの?』
『実はヒトデ(海星)です』
――ダメだ。ダメすぎる。
でもいかにも彼女らしい命名だ。
――そう思いながら俺は眠りについた。
……風邪をひいてよかったな。不謹慎ながらも、そう思いながら。
Fin.
あとがき
タイトルは「臆病な心」という意味です。
某ゲームの曲名そのままなのですが、わかる人がいたら俺泣くかもしれません(苦笑
では
おまけ
風子「ヒトデッ、ヒトデッ、ヒトデッ」
みほし「ヒトデッ、ヒトデッ、ヒトデッ」
かいせい「ヒトデッ、ヒトデッ、ヒトデッ」
風子&みほし&かいせい「「「ヒトデ大家族♪」」」
朋也「……」
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朋也「はぁはぁはぁ……夢か……」
その日の晩何度も朋也はこの夢にうなされたという……。
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