ONE 〜輝く季節へ〜 SideStory
みさき先輩のハンデとは
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登場人物紹介(ONEを知らない人向け)
【折原浩平】
高校2年生で、本編の主人公。からかい半分の言動が身に染みてしまっている。彼には哀しい運命が待ち構えているのだが‥?
【川名みさき】
浩平より一つ年上の、盲目の美少女。楚々とした外見に似合わぬお茶目な性格。見る者に恐怖を覚えさせるほどの早食い&大食いを得意技とする。
本文
何気ない問いかけのつもりだった。みさき先輩と一緒に居られるのもそう長くはない‥そう思いながら先輩と並んで歩く帰り道。黙りこくった俺を心配してくれる先輩に、何か話をしなきゃと思って“付き合ってる人は居ないのか? 告白くらいはされたことあるだろ?”と話を振ったんだ。
まさか、先輩がこんなに暗い顔をするとは思わなかった。
「でも、私は絶対に断るよ‥そんなの、残酷だからね」
「‥‥え」
「私と付き合うってことは、私の背負うハンデをその人にも押しつけるってことだから」
俺はそんなの気にしない‥と言いかける俺の方を向いて、みさき先輩は言葉を続けた。
「浩平君、世の中の人は浩平君が思ってるほどいい人ばかりじゃないんだよ」
たぶん、過去にも同じようなことがあったんだろう。
みさき先輩に告白してくれた彼。彼を信じようとした先輩。それなのに、家族や周囲の眼が盲目の先輩を煙たがる。先輩本人は覚悟していたとしても、彼をそれに巻き込むのは忍びない。周囲の圧力に負けて次第に疎遠になって行く彼の背中を、笑顔で見送らなければならない先輩。相手のことが好きだからこそ、先輩の胸に深く突き刺さる十字架。
言葉だけなら、何とでも言える。
だが、俺には気休めの言葉は吐けない。みさき先輩と出会ってまだ数ヶ月、それに将来を先輩と約束することも出来ない身の上‥みさおが迎えに来て、俺がこの世界から消えるまであと何日残されているか。そんな俺が、先輩を受け止めるなんて言えるはずがない。
だけど。
先輩と一緒に過ごせる、残り少ない日々。俺の軽はずみな言葉で、先輩に辛い思いをさせたくない。俺の蒔いた種だ。ここは俺が何とかしなきゃ。
ギャグだ。
ギャグに紛らわせるに限る。みさき先輩なら、きっと調子を合わせて微笑んでくれるだろう。みさき先輩のハンデ=盲目、という図式を打ち破るには‥これだ。
「せ、先輩、任せてくれよ。俺、稼ぐから。頑張って働いて、みさき先輩の食費、作るから」
「浩平君‥?」
「先輩が日本中の‥いや世界中の料理を食べたいって言ったって、俺、集めてみせるから。先輩が遠慮なくお腹一杯食べられるように、頑張るから」
「‥なんだか、引っかかるけど」
「もし食費が足りなくなったら、そのときは、俺の腕でも足でも食べていいから。先輩にひもじい思いなんて、絶対させないから」
これだけ言えば、先輩は笑ってくれるだろう‥そう思った俺は、つい言葉を滑らせた。みさき先輩はちょっと驚いた表情の後、ゆっくりと頬をほころばせた。
「信じるよ。浩平君の言葉、全部」
その日。折原浩平は、この世界から消滅した。骨も残さず。
Fin.
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