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風間君の属性(上)

初出 2012年01月30日
written by 双剣士 (WebSite)
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「風間さんにも属性が必要だと思うんですよ」
 部長がいつものように小さな胸を張ってなにかの本の受け売りを偉そうに語っていた。
「なにそのパクリ丸わかりのオープニング! なにかの本ってのが著者タイトル出版社レベルで特定できちまうんだけど!」
「さっすが風間先輩、のっけから全力のツッコミですね♪」
「SSの1本目だけあって、まずは自分のポジションを固めにきたか。やるな風間」
「俺に勝手にレッテルを貼ってるのはお前らの方じゃねぇか!」
 大声で2連続ツッコミを繰り出している少年の名は風間堅次かざま けんじ、府上学園に通う高校2年生にして本編の主人公である。その彼に合いの手を入れるのは水上桜みずかみ さくら烏山千歳からすやま ちとせ、それぞれ水属性と土属性を自称する1年生と2年生。彼らはゲーム製作部(仮)という、名前と実体が全く一致していない意味不明な部活の部員たちであった。
「いけませんよ風間さん、この学園では通り名が付いて初めて一人前なんですから。いつまでも『風間一派のリーダーの……えぇっと誰だっけ?』とか言われているわけにはいかないでしょう?」
「地味に傷つくなその言い方! つーかお前らとつるむようになってからますます影薄くなってねぇ俺?」
「大丈夫です、私たちが風間さんをプロデュースして差し上げます。さぁ私たちに任せてください、身も心も」
「どー考えても死亡フラグじゃねーか、それ!」
 そして丁寧な口調ながら風間のハートを針先でズタズタに傷つけてくる少女の名は柴崎芦花しばさき ろか、ゲーム製作部(仮)の部長にして風間をこの部活に引きずり込んだ張本人である。ちなみに彼女は炎属性を自称しているが、その炎は“燃え”ではなく風間限定の“萌え”であり、普段は逆に“最強の闇”と恐れられる闇属性の持ち主だと言うからややこしい。もちろん風間堅次本人が彼女の“萌え”を有り難がったことなど1度もないわけだが。
「的確な背景説明ありがとうございます。ほら風間さん、もうお話が始まってるんですから観念してください」
「背景説明って何? 虚空に向かって何しゃべってるわけ? お話って何のことだよ?!」
「いまさら何を言ってるんですか。冒頭のシーンで地の文にツッコミ入れたの先輩でしょ? 人間あきらめが肝心ですよ」
「そうだ、往生際が悪いぞ風間」
「いやいや観念とかあきらめとか往生際とか、お前ら俺に何する気だよ! 人体実験でもする気か?!」
「大丈夫だ、大概のことは生徒会長の権力で揉み消せる。なんせ原作第1話では部室に火をつけた私たちだからな」
「これっぽっちも安心できねー!!」
 ちなみに現在の状況だが、場所はゲーム製作部(仮)の部室で時刻は放課後、風間は椅子に縛られた状態でにじり寄る女生徒3名にイヤイヤと首を振っている。主人公らしからぬ哀れな姿だが、このマンガではこういう状況は珍しくない。学園最強の不良を目指す風間堅次も、このゲーム製作部(仮)の中でのヒエラルキーは最下位なのだ。
「あきらめろ、ツンツン頭の高校生は、とびきり不幸な目に逢うことになってるんだ」
「またしても超有名ラノベからのパクリかよ!」
 そしてどんな逆境にあっても、ツッコミを入れるのを辞められない彼なのであった。

    * * *

「さて風間さんも納得してくれたことですし、属性の話を続けましょう」
「納得してねー! つーか最初から俺の意見なんて聞く気ねーだろ!」
 椅子に縛られたまま抵抗する風間を放置して、芦花たちは冒頭の話題に戻った。
「風間さんがこれほど私たちに抵抗するのは、部員としての一体感をまだ持てていないからだと思うんですよ」
「ちょ、この体勢とここまでの経緯で、お前らと一体感もてる奴なんていねーって!」
「炎、土、水そして雷。みんなが属性を背負っているのに風間さんだけ名前で呼ばれてることを、きっと寂しがってるに違いないんです」
「寂しがってねーっ!! てかこの状況をそう解釈できるお前らの脳味噌と、同類になる気はさらさらねーっ!」
「なるほど、それで多少強引にでも風間に属性を付けてやろうってことなんだな芦花。泥に混じれば茶色くなる、を地でいく作戦か」
「烏山先輩、それをいうなら『水に混じれば青くなる』かと」
「いえいえ、そこは『火に混じればラブファイヤー』で」
「もーどっからツッコんでいいか分からねーっ!!」
 絶叫してハァハァと息をつく風間を尻目に、冗談を引っ込めた少女たちの会話は続く……どこまでが冗談かは諸説あるとして。
「ごらんの通り、風間さん本人の協力は当てにできませんから私たちで決めてあげましょう」
「そうだな。しかしこいつ、これと言った取り柄があるわけじゃなし……1匹の不良って以外に肩書きもないからな」
「じゃあ不良さんにちなんで、陰属性なんてどうでしょうか? 炎属性のそばにぴたりと寄り添う、欠かせない存在って意味も含めて」
「却下だ却下! そりゃ俺は不良だけど、日陰者だけど! 何でお前の手下みたいな扱いを受けないといけないわけ?」
「だって実際そうじゃないですか、陰は闇に従属するものでしょう?」
「いや陰属性を受け入れた覚えはねーし! 勝手に上下関係を確定させるなよ!」
 勝手なことをつぶやく芦花にすかさずツッコミを入れる風間であった。“最強の闇”の戦闘能力に一目おいてはいても、膝を屈した覚えはない……そこだけは彼としては譲れない一線だったのだ。もっとも女子を殴れないお人好しの彼にとって、その一線を周囲に納得させる機会は今後おそらく訪れないわけだが。
「はーいはーい、じゃあ髪の毛ツンツンにちなんで、油属性なんてどうでしょう? 水属性の私と相性ぴったりだと思うんですけど」
「ぴったりどころか正反対なんだけど! お前、実は俺のこと嫌ってねぇ?」
「そんなことないよ、お兄ちゃん♪」
「お兄ちゃんじゃねーっ!! つーか下げたり上げたり、俺のこといったいどうしたいんだよ?! からかって遊んでるだけか?」
「あれ、今ごろ気付いたんですか?」
「年下にからかわれてオタオタするな、キモいぞロリコン」
「風間さんの浮気者……」
「ぐあー、殺せぇ〜っ、いっそ俺を殺せぇ〜〜っ!!!」
 胸の痛みに身悶えする風間の姿を、なま暖かい瞳で見つめる3人。
「あーもう、こんな奴に立派な属性なんか必要ないだろう。ヘタレ属性でいいんじゃないか」
「千歳、漢字1文字じゃないのはちょっと」
「そんじゃ、へ属性」
「意味わかんねーし! つーか意味不明なのにダメなニュアンスだけはしっかり伝わるところが余計ムカつくし!」
「ぜいたくを言える立場か。せっかく生徒会長の私がわざわざ、お前の肩書きを作ってやろうというのに」
「いや別に頼んでねーし! 頼んだとしても『へ属性』なんて論外だろ!」
 千歳の決めつけに全力であらがう風間。彼にしてみればアイデンティティの危機である。だが出す案出す案をことごとく却下された少女たちの表情には、次第に険しい色がこもり始めていた。
「芦花、さっきから思ってたんだが……こいつにツッコませてると話が進まなくないか?」
「そのようですね。風間さんにはしばらく黙っていてもらいましょうか」
 反論の声を上げる間もなく、風間の視界が一瞬にして暗転した……芦花にかぶせられた水色の袋によって。

    * * *

 水色の袋を頭にかぶせられ、椅子に縛られたままモガモガとうめくことしか出来なくなった風間堅次。芦花の必殺技である袋攻撃を受けた者は視界と身体の平衡を封じられ、声なき声をあげながら倒れ伏してしまうのが常であった。なぜ口を塞がれた訳でもないのに言葉が出せなくなるのかは闇属性のみが知る秘密である……あ、ちなみに原作第1話で袋をかぶせられた主人公が普通にしゃべっていたことは忘却の方向で。
「さて、文句を言う人が居なくなったところで続きをやりましょうか」
「…………!!」
 部室の隅でうめき声と足踏みの音がする。風間が現在の境遇に激しく異議を唱えているだろうことは想像に難くない。決して『俺にもツッコミを入れさせろ』ともがいているわけではない……はず、だ。
「3人それぞれの意見が出たわけですが、私たちが喧嘩しても仕方ありませんので……まずは1つに絞る前に、4番目以降の意見を出してみましょうか」
「今のところ出てるのは、陰と油と屁でしたよねぇ」
 なにげにヘタレ属性の略語『へ』を漢字変換してしまう桜。話し言葉としては漢字もひらがな1文字も変わらないが、そこに単なる文字以上の『臭い』がこもっていることは耳にした人間ならすぐ分かる。だが提案した生徒会長は苦笑しつつも、あえて桜の当て字を訂正しようとはしなかった。
「漢字1文字ならあれだ、波属性ってのはどうだ? 光や雷と並ぶエネルギーの伝え方の1つだし、凡人をあらわす『並』ってのと同音だしな」
「媒体がないと何も出来ないってところも、ツッコミ気性の風間先輩に合ってますよね♪」
「でも1年ほど前、大量の水を伴って土を押し流し時代に闇をもたらした災害があったばかりですし……」
「……そっか、あいつには格好良すぎるな、却下」
「…………!!」
 うめく風間が『不謹慎すぎるだろ!』と言ってるのか、『お前らそんなに俺をヘタレ扱いしたいのかよ』と言ってるのかは確認のしようもない。
「じゃあストレートに、ツンツン属性はどうでしょう? 風間一族と言ったらこれかと」
「それ漢字じゃないし」
「半角にして『ツンツン』、転じて属性というのは? なんか水属性とも近いし」
「…………!!」
 意味わかんねーし、と風間はたぶん言ってるんだと思われる。『巣属性?』と首をひねる芦花たちも同様の感触を持ったらしいことに気づいた桜は、苦笑しながら提案を撤回した。
「あはは……え、えぇっと芦花先輩、陰属性の他には何か?」
「そうですね。裏属性とか、アシ属性とか、派遣属性とか」
「…………!!」
 いい加減そっちの発想から離れろ、つーか後のほうは漢字1文字じゃねーだろ……風間の言いたいことを代弁すれば、こんなところか。
「う〜ん、なかなかコレといったのが決まりませんねぇ」
「てゆーかさ。風間は黙らせたはずなのに、なんか誰かに片っ端からケチつけられてる気がするんだよなぁ」
 溜め息をつく桜に、意味不明なボヤキをかぶせる千歳。自分たちがろくなアイデアを出せないのが悪いくせに、他の誰かのせいにするとは良い度胸である。だがそんな2人に、部長の芦花は優しく微笑みかけた。
「いいえ、それ思い過ごしじゃないかもしれませんよ、千歳」
「えっ?」
「ねっ♪」
 笑顔を浮かべた芦花は勢いよく振り返り……そして、視界が暗転した。

    * * *

 あ な た は 、 し に ま し た


「おぉさくしゃよ、しんでしまうとはなにごとか」
 まるで80年代の伝説RPGにも似たメッセージと共に、闇に包まれた世界の頭上から一条の光が指す。思わず見上げた視界の先には、まばゆいばかりの光を放つ天上の女神……ではなくて、奇妙なリーゼント崩れの髪形をした男子高校生がこちらを見下ろしていた。
 あんた誰?
「僕はフィフティーフィフティー藤崎。SSのバランスが崩れかけたのを見るに見かねて、助けを指しのべに来た神様さ」
 えっ、なんでお前が来るの? 世界観をメタ崩壊させてまでこんな展開を割り込ませたのは、こうすれば光属性にして癒しの女神様が登場してくると思ったからなんだけど?
「それじゃ作者の君ばっかりが良い思いをしてしまうじゃないか。不幸のどん底にいる風間君との釣り合いが取れないだろう」
 いや、お前が真ん中に生きる長者原クローンだってことは知ってるけど! でも『風間君の〜』ってタイトルになってりゃ、どこかで船堀さんが出てくると思うじゃん?
「船堀さんは次のSSの主役が決まってるから、この話には出てこないさ。それに風間君を君つけで呼ぶのは彼女だけじゃない、僕もそうだし、子王君もね」
 そりゃひどい、詐欺だ! 騙し討ちだ! あのタイトルなら読む人の99.8%は彼女の登場を期待するだろ! プロットの組み直しを要求する!
「少し前までなら君の思うようにできたけどね。君は主人公の風間君を見捨てて、彼を代弁するという名目でゲーム製作部(仮)の皆にツッコミを入れ、あまりのウザさに彼女たちに追い出された。もう君にキャスト変更をする権利はないよ」
 そんなぁ……しくしく。
「とはいえ、ここで打ち切りにしたらブーイングものだからなぁ。改心してツッコミを控えるなら、この続きを書かせてあげても良い。ストーリーはこちらに任せてもらうけどね」
 モブキャラごときに主導権を奪われた! こんな不幸なSS作家がかつて他にいただろうか? いや居ない!
「愚痴ってばかりで言うこと聞かないのなら、船堀さんの出てくる次回作を別の人に廻してもいいんだけどね」
 全力で書かせていただきます犬と呼んでくださいマイマスター。
「掌の返しっぷりだけは超一流だね……さぁほら、SSの世界に戻るがいい。大丈夫、風間君や君の代わりにツッコんでくれる新キャラを送り込んであげるから」


 戻ってきた部室の様子はさっきまでと何も変わっていなかった。ゲーム製作部(仮)の3人は相変わらず好き勝手なことをしゃべりあっていて、椅子に縛られた風間はうめき声だけで毎回丁寧にツッコミを入れていた。もっとも今や、彼の言葉を代弁してくれるものは誰もいない。ツッコミを欠いたディーふらぐなど、果たしてその名に値するだろうか? この一方的イジメとも言うべき様相を描写し続けることに、果たして読者は着いて来てくれるのか? 習作1本目として書き始めたこのSSは、グダグダのままオチもつかずに終焉を迎えてしまうのか?
 ……と一時は懸念したものだったが、それは杞憂だったようである。
「ちょっと、あんたたち! いったい何をやってるわけ?」
 甲高い声と共に乱入者……誰もが待ちわびた巨大なおっぱいが、部室に飛び込んできたのだから。


(下編に続く)

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