むかしむかし、世界は海と空だけでできていました。どこまでも広がる青い空と、その下に横たわる蒼い海。風の神様と水の神様は、生まれたばかりの広い世界を存分に謳歌していました。
ところがあるとき、神様はあることに気がつきました。どこまで行っても同じ風景の広がる世界。形のない風と形のない水から出来た、どこまでも平板な世界。変化があるとすれば、風と海の接点に出来る小さな泡粒だけ。しかもそれはあっという間に消えてしまう。
さびしい。つまらない。
そう考えた神様は、泡粒に命を吹き込むことにしました。クラゲと呼ばれることになったその泡粒たちは、もう消えてしまうことはありません。ゆらゆらと海面を漂いながら、卵を産み、子供を増やしていくクラゲたち。みずからの意志で成長してゆくクラゲたちに、生みの親である海と風の神様は暖かいまなざしを注いでいました。
ところがそのうち、クラゲはどんどん繁殖し、海の表面を隙間なく覆ってしまうほどになりました。海の神様は息苦しくてたまりません。海の神様は増えすぎたクラゲを追い払おうとしましたが、いくら波を起こしてもクラゲたちはゆらゆらと揺れるだけ、ほとほと困ってしまいました。
「おい海よ、いささか調子に乗りすぎたようだな」
「おう風よ、お前もこの子たちに責任があるだろう。風でこいつらを吹き飛ばしてくれないか」
「そりゃあ無理だ、いくら吹き飛ばしたってクラゲたちはまた別の海に落ちてそこで子供を産むだけだろう」
「‥仕方ない。風よ、私の力を少し貸してやるから、増えすぎたクラゲたちにお仕置きをしてやってくれないか」
こうして風の神様は、海の神様から貸してもらった「雲」を使って、海面一杯に繁殖したクラゲたちに雷を落としました。クラゲたちは瞬く間に数を減らし始めました。この雷は海の神様にとっても少なからぬ痛みをもたらしましたが、自分から頼んだ手前もあって、海の神様はじっと我慢をすることにしました。
ところが。平板な世界に飽き飽きしていた風の神様は、クラゲの数が減っても海の神様に雲を返さずに、手に入れたオモチャで遊ぶかのように雷をあちこちに落とし始めました。驚いた海の神様は猛然と文句を言いましたが、風の神様は我関せずと雷遊びを続けます。起こった海の神様は、雷に対抗できる新たな武器を捜し始めました。
そしてしばらくして。海底から真っ赤に溶けた溶岩の奔流が吹き出し、海を抜けて空へと吹き上がりました。雷に対抗すべく、海の神様が編み出した攻撃「火山」の誕生です。こうして海の神様は風の神様にダメージを与える武器を手に入れました。
驚いた風の神様は
雷で反撃。海の神様は火山で再攻撃。ですがこの勝負は風に分がありました。雷は海だけにダメージを与えるのに対し、火山は海を突き抜けないと風に届かない武器だったからです。不利を悟った海の神様は、火山のある場所を持ち上げ、その周りに海がないようにすればいいと考えました。隆起した火山の頂上を海から突き出させて、そこから溶岩を吹き上げれば海はダメージを受けません。
‥こうして。海から隆起した火山から溶岩が吹きあがり、その火山に向かって雷が襲い掛かる、と言った光景が世界中で見られるようになりました。火山はより高く広くなり、雷に付随して降りしきる雨の範囲もどんどん広がっていきました。
そして長い月日ののち。風と海が仲直りをしたとき、世界には広大な陸地と、そこに溜まった湖、そして湖と海をつなぐ河ができていました。風と海しかなかった世界とは違う、新しい新天地が生まれていました。そしてそこには、地と火と言う新しい神様も産声を上げていました。
・・・新しい二人の神様と、古い二人の神様が喧嘩をするのは、それからずっと後のお話になります・・・。