Moon night fly 【一話完結】 |
- 日時: 2013/01/08 23:25
- 名前: 満月
- 参照: http://mypage.syosetu.com/200434/
- * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
一月七日、午後一一時四三分。
澄み渡った闇夜に浮かぶ月を部屋の窓から眺めている少女が一人いた。
癖のある水色の髪は肩ほどの長さで、真紅の瞳はじっと月を見つめている。紺色のパーカーに赤いスカート。
部屋着の少女は白く細い足を床に投げ出し、座り込んだ状態で見上げていた。
先ほどまで同じ様に投げ出していた右手で窓に手を伸ばした。カラカラ、と窓を開ける。部屋に流れ込んでくる冷気にぶるっと身を震わせ
「あー……さむぅ……」
言葉と同時に、はー、と息を吐き出す。冷気の所為で白くなったそれをぼんやりと眺めてから視線をまた、漆黒の空へ向けた。
長袖に包まれた腕を空へ突き出す。月を自分の手で隠し、ゆっくりと握ってみた。その状態のまま手を部屋に戻し、パッと開く。
何もない手の中を見つめ、あははっと悲しげに笑う少女。
真紅の光を細め、悲しげに笑い続ける。やっぱりかぁ、とも呟いた。
やっぱり、月は掴めないね、と。
言い終えると、ゆっくりと隣に置いてある携帯に目を落とした。
意図的に電源を落としてある携帯。
それを暫し見つめると、何かを決心したのだろう。投げ出していた足を動かし、ゆっくりと立ち上がった。
先ほど、空に突き出していた手を握ったり広げたり。それを繰り返しながら、歩を進め始めた。
ゆっくりと、ゆっくりと。大切な人を探す為に、廊下へと足を踏み出した。
みしっと鳴る廊下に足を踏み出した途端、冷気が身体を包みこむ。ぶるっと震えると、もう一度「寒い……」呟き、歩き始めた。
電気が殆ど消された古びた廊下。何かが出てきそうで、なんだか怖い。そんな現実から目を背ける為に好きな曲を口ずさもうと思ったのか、ゆっくりと口を開く。
自分の持ち歌ではない、とあるバンドの歌を口ずさみ始めた。
「手に入れたい月があって 手を伸ばした 掴めなくって 遠すぎて逆に笑えた=v
脳内で音楽も再生する。みしっと、一歩踏み出した。
「それなら、って飛んでみた できるかぎり手を伸ばす でも掴めなくて、遠すぎた=v
みしみし、と音を鳴らしながら歩を進め続ける。
「諦めかけた 無理だって思った でも諦めなかった 諦めないんだ=v
六人編成のロックバンド。作詞はボーカルが担当したデビュー曲のカップリング。
みしみし、と変わらない音を鳴らしながら廊下を進み。過去へ想いを馳せ始める。
この曲を作ったバンドと、ある歌番組で共演した時。
テーマは? と問われた際、ボーカルはあわてた風に
『テーマ……ですか!? えっと、そうですね……届かないって思ってるのに、それでも頑張る人への応援歌、です、か、ね……?』
不安そうに言う作曲者に対し、ギター担当の女性が何で疑問形なのよ、とツッコんでいた事も思い出す。
それに対し、起こる笑い。乗じ、彼女も笑った。
けれど内心では、笑えてなどいなかった。
彼女自身も、届かないと思っている物を追いかけ続けている一人だったから。
アイドルとしては成功していた。他のアイドルに羨ましがられる立ち位置だった。
けれど……彼女が欲する夢は違う物で。もっともっと先にあって。
それを掴むには、途方もない時間がかかりそうで。
そんな事を考えて、収録中だと言うのに落ち込んでいた時。準備を終えた彼等の音が流れだした。
メインと、カップリングの二曲。
メインもよかったのだが、それ以上にカップリングに戦慄した。
爽やかさの中にある力強いサウンド。ボーカルの儚く、淡い声。それでもしっかりと芯が通っていて、聞いている者の心にすとん、と歌詞が舞い降りてくるようだった。
それを全て聞き終えた際、少女の目からポロっと涙が一粒零れたのだ。
自分の現状を切に表している歌詞に。そんな現状を打破する歌詞に。
どうしようもなく涙が溢れ、止まらなかったのを今でも覚えている。
そんな過去を思い返しながら、歩を進める現在の彼女。
今の彼女には、どうしても手に入れたい、掴みたい物が二つある。
一つは夢、そしてもう一つは――。
廊下を歩き終え、縁側へとたどり着いた。月光が降り注ぐそこに、一人の少年が座っている。
男子にしては長めの水色の髪。執事服のまま、ぼんやりと月を眺めていた。
そんな彼を見ながら、先ほどまで歌っていた再度口を開く。
先ほどまでスムーズに出ていたのに、緊張で声が喉に張り付いていた。それを外す様に、ごくっと生唾を飲み込む。
口を開きなおし、ゆっくりと彼の名を呼んだ。
月の様に、遠くて、大きくて。それでもどうしても掴みたい人の名前を。
「――ハヤテ、君」
名を呼ばれた少年は一瞬びくっ、と身体を強張らせた。しかし、振り向くとほうっと安堵の息を漏らしながら
「何だ……ルカさんじゃないですか」
名を呼ばれた少女――水蓮寺ルカはむーっと頬を膨らませ
「何だって……誰だと思ったの?」
「いやー、何か出そうなアパートなので、幽霊かなぁと……」
だってこの時間、皆さん部屋にこもってますし、と苦笑する綾崎ハヤテ。その言葉に更にむくれながら
「失礼なっ。私はちゃんと生きている人間だよ?」
「ですよねー」
苦笑しながら返す彼の隣にぽすんと腰を下ろす。先ほどのハヤテと同じ様に月を眺めながら「綺麗だねー」呟いた。
「冬って空気が澄んでますから、星などが綺麗に見えていいですよね♪」
「ほんとにねー♪ 鮮やかで綺麗でみとれちゃうよ♪」
言いながら、無意識に月に手を伸ばした。隠すようにし、またぐっと握りしめる。
けれど、やっぱり掴めた感覚などなくて。
やっぱり苦笑を浮かべるしかなかった。
と、それを不思議そうに見ていた彼がゆっくりと左手首を確認し始めた。つけられた腕時計をじっと見つめる。
それから暫くすると、ハヤテの視線が時計から外れ、ルカへと向けられる。くすっと笑みを浮かべた彼の口がゆっくりと言葉を紡いだ。
「お誕生日おめでとうございます、ルカさん♪」
不意打ちのおめでとうに、思わずきょとんとする。同時にあぁ、そっかと思い当った。
今日は私の誕生日だ。
思い、考え。にこっと笑むと彼に感謝の言葉を述べる。
「ありがとー♪ いやー、一発目のおめでとうをハヤテ君から貰えるなんて幸せ者だね私!」
「それは大げさだと思いますけど……」苦笑しながら「ですけど、一番目に言えて嬉しいです♪」
「でもそれに負けないくらい私の方が嬉しいよ?」
心底うれしそうに言う彼女は、あははと笑っている彼をじっと見つめた。
そんな彼を視界に捉えた瞬間、泣きそうになった自分を押さえつける。
おめでとう、が嬉しすぎて泣くのもある。けれど、それ以上に。
――彼のおめでとうが『友達』に向けられたものだったから。
友達以上の感情を抱いている彼女にとって、それは甘く優しい苦痛だった。
それを感じながら、内心で思っている事を吐露し始める。
……ねぇ、知ってる? 私は、一番初めに『おめでとう』を貰うなら君がいいって思ってたんだよ。
……だから、携帯の電源も落としてメールが来ない様にしてたんだ。電話も来ない様にしてたんだ。
……人がいないこの時間を見計らって、君のところまで歩いてきて、腰をおろして喋ってたんだよ。
打算的な考えを、計画を表情には出さない様にゆっくりと笑みを浮かべる。「嬉しいなぁ」ともう一度呟いた。
言うと、腰を上げた。少し歩いて、彼の背中に自分の背中を合わせる様に座り込む。
ルカさん? という、不思議そうな声が背を合わせている彼から投げかけられる。
それに答えられる言葉を、彼女は考えられなかった。
代わりに頭の中、ぐるぐると回る、先ほどの歌。
何かを言おうと口を開いた。けれど、そこから溢れ出たのは彼女の言葉ではなく。
彼女を何時でも勇気づける。『rainy, fine later』というバンドの曲だった。
「届かないなら 飛行船でも出そうか 掴めないなら 両手を伸ばそう=v
遠くにある夢や遠くに居る大切な人を、必死につかもうとする人への歌。
「月だからって 星だからって 雲みたいな夢だからって=v
目を閉じた。微笑を浮かべながら歌い続ける。
「諦めたくなんかない だから変わらず手を伸ばそう 手に入れてやるって笑いながら=v
歌っている最中、耳にいい歌ですね、という声が響いてくる。
でしょう? と内心で相槌を打ちながら
「手に入れた時 変わらずに笑って=v
最後は、メロディーに乗せず。ポツッと小さく呟いた。
「――『良かった、やっと届いた』って言いたいね=v
歌い終え、言い終えると目を開ける。先ほどより幾分気持ちは軽くなり、穏やかになっていた。
手をじっと見つめる。手の中に月を思い浮かべ、それを彼と重ねてぐっと握りしめた。
何時か、手に入れたい温もりを想像しながら。
背中を合わせている少年に、楽しそうな笑みを浮かべて何時もの調子で口を開いた。
「この曲いいでしょー? あのね、rainy, fine laterっていうバンドなんだけど――」
にこっと笑い、曲名を告げた。
自分にとっての大切な歌を。
彼を諦めない、手に入れてやるという決意を固めさせる歌を。
「――『Moon night fly』って言うんだ♪」
この曲の様に、月夜を飛ぼう。
君を手に入れるって決めたんだから。
来年の、誕生日にはもっと特別な意味の『おめでとう』が貰えるように。
いくらでも、飛んで。手を伸ばし続けるよ。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
……と言う訳で、ぎっりぎりの投稿ですがルカの誕生日小説でした!!
内容は、そのですね……自分でも何て言うんだろコレって点がいくつかありますが、今後ルカが幸せになってくれればいいですかね!!
ちなみに、このネタ……原作でルカがハヤテに告白する前に思いついたので、ルカが奥手っていう設定だったので……はい。原作クレイジーとは私の事さっ!!
なのにハヤテと同居とかどんだけ調子いいんだよ私……!?
……と言う感じで色々原作無視な設定になってしまいましたが、何度も何度も推敲を重ねた小説なので、楽しんでいただけたら幸いです
あと、『想いシリーズ』と言っていただいている一話完結とは違う意味合いにしたかったので、題名から「今回は」想いをなくしました……!!
あ、あと所々で出てきた『rainy, fine later』というバンドは私の小説内のバンドです。本編に出てきた歌詞も完璧自作なので、変な点はご了承ください……
このバンドについては……小説家になろうっていうサイト見てもらった方が早いやも……←
まあ、何がともあれ此処まで読んで下さりありがとうございました!!
誕生日小説なのにぎりぎり投稿申し訳ありません……!!
また、一話完結や連載小説でお会いできる事を願って
最後に、ルカ誕生日おめでとう!!
では、満月でしたーっ!
[管理人へ通報]←短すぎる投稿、18禁な投稿、作者や読者を不快にする投稿を見つけたら通報してください |
|