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黄昏色の疾風歌
日時: 2012/12/16 22:10
名前:
奏
えー、始めての方は始めまして。久方ぶりの方はお久しぶりです。奏っていいます。
今回は私が独自で掲載している黄昏の讃戦歌という小説のハヤごとversionに挑戦してみました。
………始める前に謝っておきます。本文の内容に関しては、本当に申し訳ありません。
物語を始めるためとはいえこのような文章になってしまったことを心より謝罪申し上げます。……できれば非表示にしないでいただけると幸いです。
それでは始めたいと思います。『黄昏の疾風歌』………どうぞ。
〜プロローグ〜
―――――はじまりというものは何時も唐突だ。
「……まったく…ハヤテは一体何をやってるというのだ…」
黄昏色に染まる刻。三千院家のご令嬢である三千院ナギは彼女の通う白皇学院の校門の前で背をレンガの壁に預けながらぽつりとつぶやく。
彼女はGWでの一件以来、遺産の相続権利である王玉を持たずまま。三千院の正統な血を継いてありながら相続権がないというのは誠に滑稽な事だ。
本人もそれはわかっている。自分は金がなければ何もできない。そんな生活は、彼女自身にとってはもはや死んでいるようなものだ。
ゲームも好きなように出来ず漫画も好きなだけ買えず、使用人もおらず全てを自分一人で片付けねばならないそんな生活………小柄な身体に宿る卓越した知識はそれを理解出来ない訳がない。彼女は今の生活を捨てるわけにはいかなかったのだ。
『だったら、お前が私を守ってくれ』
だが彼女はその一言と共にその生活を捨てた。なんの躊躇もなく、彼女は金のない生活を選んだ。
……なぜ?
………あれほどわがままな三千院のご令嬢がそんな事が出来たのか?
ナギの人柄を知る人物なら誰しもそう思うだろう。彼女に仕える執事でさえ、そう思った。
だが彼女には確固たる意思があった。気まぐれでもなく、ヤケクソでもなく、情に流されたというわけでもなく、自分がそうしたいからした。
彼女は、これ以上自分の目の前で大切な人が悩み苦しむ所をみたくなかったのだ。
彼が自分の抱えるものの所為で苦しむというのならば、自分はそれを手放そう―――――彼女の意思は彼に紡がれ、彼はかつて最愛の人を、闇に囚われし姫君を救い出す事に成功し、彼には苦しむ原因がなくなりそれでもなお彼女の顔はどこか涼しげで………彼にとって歳下であった彼女が大きく見えた瞬間だった。
彼女が今まさに待っているのが彼、綾崎ハヤテ。
ふと校門の中を覗くと、こちらに気づいたのか走って駆けてくる彼の姿がそこにあった。
「すみませんお嬢様!!ちょっとした手違いで時間がかかってしまいました…」
――――――だが、唐突にくるはじまりの前には、必ず悲劇がやってくる。
綾崎ハヤテにしては珍しく息を切らし、制服代わりである執事服には所々に葉っぱやら砂やらがついている。
……誰かと喧嘩したのだろうか?
といっても、日常の中で考え得るのは一つしかない。そして彼女にとってそれは執事綾崎ハヤテの最も黒いワンシーンである事……瀬川虎鉄の襲来、彼の服装が乱れているのはおそらくそのためなのだろう。
「いや、いいんだ。……お前もいろいろあったみたいだし」
「いろいろというか、ゴミ処理ですけどね………まぁそんな事はどうでもいいので、早く紫荘に帰りましょう」
「そうだな。早く帰って新作のゲームをやりこまねばならんのだ」
――――――そして終わりというものははじまりよりも唐突で、残酷だ。
…お嬢様は相変わらずぶれませんね…と、彼は心の中でため息をつく。しかし内面で落胆している時間はそう長くはなかった。
……………ぞわり。
身体の内から何かになぞられる感覚が彼を襲う。
殺気にもにた何か。しかしそれは今迄感じてきた荒々しい殺気ではなく、やけに澄んだもの……澄みすぎて何もない。そんな正体不明の気をハヤテは捉えていた。
………なんだ、いまの………!?
今迄まったく感じた事のない『気』。たったの一瞬だったが、ハヤテの脳内にはハヤテ自身が息耐える瞬間が映像化していた。
これはまずい。執事になって半年が過ぎ、その間にいろいろな人と戦ったりしてきたが今回は度が違う。
ハヤテは表情をなんとか崩さずナギに早く帰りましょうかと呼びかける。そうしている間にも、背中からは冷や汗が溢れ出していた。
彼女はいきなりどうしたのかと怪訝な表情を浮かべたが何かを察したのかとてとてとハヤテに寄り、手を取り歩き始めた。
「……ハヤテ。少し歩くのを遅くしてくれないか?」
「…………………」
「…………ハヤテ……?」
ナギが話しかけるもまるで聞こえてないかのように、ハヤテは一心不乱に歩き続ける。普段のハヤテからは考えられないような行動だった。
しかしそれはハヤテにとって深刻な事態である故に、主に怪我させぬよう精一杯の気配りだった。おそらく、あの『気』の持ち主とやりあったならばナギが逃げる余裕なんて絶対に生まれないだろう。そいつが仁義あるものであれば別だが。
少しばかり刻は過ぎ、白皇の塀に沿って進んでいく。
そろそろ大丈夫か………?
今現在、ハヤテたちは内部は雑木林となっているところを通過した。そしてその時、まるで待っていたかのように森の中から何かが飛び出してきた。
ドシャリという音を立てて地面に転がるその物体。
淡青色の短髪、額にあるひし形の何か。瞳孔は開いており、心臓の音は聞こえず頭や身体からはおびただしいくらい血をながしている……ハヤテはこれ以上その人物を見ていられなくなった。
「……なぁ……ハヤテ…………あれは……まさか」
「お嬢様、早くこの場所を離れましょう……アレは…そう、猫が寿命を迎えただけですから」
――――――――残酷なりし現実、そのあとにくるはじまりは人に何を与えるのだろうか。
ハヤテは即座にナギの視界を遮り、すぐに別の方向を向かせる。
………何だよこれ………何なんだよこれは!!
ハヤテ自身、ナギには猫と誤魔化したけどあれはそんなものじゃない、むしろそうであって欲しいと願うほど。それほどにショックなもの。ナギに別の方向を向かせたままハヤテはもう一度振り返り塀から落ちてきたものを再度詳しく見た。
先ほども見えた通り、淡青色の短髪、額のマーク、それだけでもその人物が誰だと把握できる。その人物…桂雪路の身体には腹部と右胸あたりに穴が空いていた。何かに貫かれたかのような、そんな傷跡。おそらく即死だったのだろう。
ハヤテはギリギリのところで平静を貫き、一刻も早くナギの安全をとるためにも彼女を抱え走り出す。それと同じくして、ポケットから携帯を取り出してある人物に電話をかけようとした。
……しかし、電話に出る気配が一切ない。
こまめな彼女であればそういったことにはすぐに気づくはず。しかしその彼女が気づかないとなると余程の事があったに違いない。ハヤテ側ではもはや手遅れな程に事態が進んでいるのだ。彼女のいるところに何かがあってもおかしくはない。
「………電話にでてください………ヒナギクさん……!!」
ナギに聞こえないくらいの音量で、彼はそうつぶやく。今、この場所で何かが起き始めているのだ。彼女といれば切り抜けられるはず…そうハヤテは考えていた。
藁にもすがるような気持ちで、ハヤテは電話を何度も何度もかけなおす。 だいたい10回くらい掛け直したとこだろうか……ようやく、彼女と電話がつながったのだ。
「ヒナギクさん!大変です、桂先生が………!!」
電話が繋がったとたん、ハヤテはナギに聞こえることも構わずに電話にすがり声を発する。しかし返答はなく、ヒュー、ヒューという何か風の吹き抜ける音しか聞こえなかった。
しかし、さらに耳を澄ますと誰かの嗚咽が聞こえてくる、そんな気がするような音が携帯から流れ出てくる。
『……………ハヤテ……君……?』
電話に相手がでてから数分後、ようやく彼女からの声が聞こえてくる。その声は途切れ途切れで息は激しく切れており、嗚咽が混じった、そんな声だった。
『………あなた……は……無事…なの…ね?』
「僕は無事です! それより桂先生が―――――」
『大…丈夫……言わなく……てもわ…る……わ……だからこそ……ハヤテ君……あなたが…心配で…』
必死に言葉を紡いでいる。電話越しからでもそんな感じが痛いくらいに伝わってきた。
雪路に続きヒナギクまでもが何かしらの被害を受けている。それだけはわかるのだがそれ以外はまったく何も掴めない。まるで真っ暗な空間にいるかのように、ハヤテは上も下も右も左も分からなくなっていた。
とりあえず会話に専念できるよう、深呼吸をして息を整える。
「…ヒナギクさん、一体何が起こったというんですか」
『……………いい?ハヤテ君、貴方だけは絶対に生き残って頂戴。そしてナギを、生き残った人々をみんな助けて。……瀬川さんも、朝風さんも、美希も天王洲さんも白皇もみんな守れなかった…………私にはもうそれをするだけの力はないの。だからハヤテ君、貴方にその役目を……お願いするわ』
質問とはまったく逆のベクトルを向いた答えが帰ってくる。その言葉を聞いた瞬間、ハヤテの頭にはある一つの考えが浮かんでいた。
…………まさか…遺言…なんてのは………!?
――――――絶望、現実はいつもこの二文字をいつも与えてくる。避けられない運命……人が人である故に。
ヒナギクが言葉を言い終え一息ついた、息の音が聞こえたあと……電話口から聞こえてきたのは血肉の弾ける音、ドシャリと何かが横たわる音。そして硬いものが砕ける音と共に、電話はそこで途切れてしまった。
ツー、ツー、となり続ける自らの携帯電話。走ることすら叶わず、ハヤテはただ絶望に立ちずむことしかできなかった。
ナギが慌ただしく何かを言っている。しかし彼にはまったく聞こえてはいない……心の中が絶望という闇が覆って行く感覚が、そこにはあった。
ずるりと手から携帯電話が滑り落ちる。カツンと落ちた音……黄昏色の世界に飲み込まれるように消えていった。
気力は耐え、彼は膝から崩れ落ちる。両手は地につき、カランと何かが落ちる音が幾重にも重なって聞こえる………白い様々な形の固形物…骨だ。骨が地面に転がっていたのだ。
………骨?
………『両手』を地につけた……?
絶望に覆われながらもハヤテは必死に身体を動かし、自分の手を、誰かを抱えていたはずの場所に目線をうつす。
しかしそこには何もなく、袖に金色の髪の毛と制服の切れ端がついているだけ。………どうやらその骨は……三千院ナギだったものらしい。
「ッ――――――――――――――――!!!!!!!!!」
声にならない叫びが黄昏色の世界に木霊し溶け込んでいった。
そして叫びが切れたのを待っていたかのように地に転がる骨々はさらさらと粉になり消えていく。
「………ぁっ………おじょ……お嬢様……が……っ……!!」
粉になり消えていく骨。しかしハヤテはそれに手を伸ばし必死にかき集める。骨だけあっても意味はなかろう。骨からナギが戻ってくるわけがない。
しかしそれでもハヤテはただただかき集めることしかできなかったのだ。
手に掴んでも手の中でまた消えていく……目の前に三千院ナギがいたという証は何一つ風化してしまった。
――――――――ただし、全ての事には意味がある。決して変えられない悲壮的運命も意味があるのだ。
黄昏色の世界は更に濃くなっていく。
その中でハヤテはただ一人、道の真ん中で両膝をついて項垂れていた。………それは当然だった。もう彼には何も残っていなかった。
守りたい人を守れなかった。ただその事だけが酷く彼の心にのしかかっている。
………………涙すらでてこない。泣くなんてことでは拭いきれない。それだけ深い絶望が彼の心にのしかかっている。
ふと聞こえてきたのはクスクスと誰かが笑う声。周りには誰もいない。しかしそれは空気の振動で伝わってくる声ではなくなにか別の媒体を介して伝わってくるものだった。
……いや、誰もいないというわけではない。
絶望の中でも彼は気づいていた。自分は今、敵に囲まれていることを。おそらくナギを、ヒナギクを、雪路を殺害した連中なのだろう。
しかし奴らの襲ってくる気配はなく、ただただハヤテを囲み、クスクスと笑い続ける。
クスクス、クスクス、クスクスクスクスクスクス………
ハヤテは何かに憑かれたかのように、洗脳されたかのようにクスクス笑い始める。身体からはどす黒い黒煙が出始めていた。
身体の半分くらいからどす黒い黒煙が吹き出るようになったころ……上空から何者かの声が聞こえてきた。
「ちょいと失礼するぜ、青髪の兄ちゃんよ」
瞬間、周りの黒い人影は黄昏色の風に風化し、同時にハヤテから溢れ出る黒煙も止まった。
いきなり現れたその声の持ち主……黄昏色の一つ結びをした少年は土を払う仕草をし、ハヤテに手を差し伸べる。
「……あなた……誰……ですか…?」
必死に声を振り絞りるハヤテ。少年はその様子から彼に何が起こったのかを瞬時に察した。まるで慣れているかのように。
「俺は凪・エルピス・ビュクシス。あんたは…綾崎ハヤテで間違いないんだよな?」
「………えぇ……僕…は………綾崎……ハヤテ……です…けど…」
「そうか。んじゃまぁ唐突だがよ、ハヤテ…お前は今この現実をどう思う?」
「…………もう……どうでもいいですよ………茶化すなら……帰ってくれますか?」
心は完全に絶望に染まり、ハヤテはまるで糸の繋がれた芝居人形みたいに生気なく立ち上がり、何処かへ行こうとする。
凪と名乗る少年はハヤテを追う仕草もなく、ただ腕を組み一言、発した。
「………お前、この現実を変えたくねぇのか?」
ふわりと黄昏色の風が吹く。
ハヤテは歩みを止め、振り返らずに一言、弱々しく、風に消されてしまいそうな声で答えた。
「……何を言い出すやら………変えられないから……こうなってるんじゃないですか……」
そう。
現実は変えられない。起きてしまったことは変えられやしない。
あとから何をしても焼け石に水。それはハヤテ自身が何よりも理解している。
しかしこの男は変えたくないかと言い出した。まるで俺なら変えられるぜと言わんばかりの自信溢れた声で、はっきりとハヤテの心を突き動かす。
「そっかぁ……んじゃあさ………死んでもらうわ」
荒々しい殺気が背中から迫り来る。
ハヤテは避ける仕草もなく、ただ迫り来る彼の腕を受け入れた。
心臓部から生えてくる少年の紅く染まった手……それを確認した時にはもうハヤテの意識はなかった。
望んで受け入れた死。少年は手を抜き血を洗い、倒れ伏したハヤテに話しかける。
「……いいか、お前が次目覚めるのはGW初日だ……戸惑うんじゃねぇぞ。そんでもってこの未来を変えろ。お前はそのために過去に戻るんだ………じゃ、この肉体はもういらないな? 処分…させてもらうぜ」
死んで最後に消えていくは聴覚。
深い海に意識を沈めていくハヤテは、絶望の中でたしかにその声を聞いていた。
続いて聞こえてくるのは肉の潰れる音………そうして聴覚と絶え、綾崎ハヤテは完全に死滅した。
――――さぁ、悲劇は終わった。ここから何が始まるかは誰も知らない……綾崎ハヤテの人生はここで終わり、ここから始まった。
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