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誤解から生まれた…(ナギ誕生日記念・一話完結)
日時: 2012/12/03 00:17
名前: サタン

誤解…それは間違った解釈から生まれてしまう物。

「これが真実です…本来なら僕はお嬢さまの傍にいるべき人間ではありません…」

ナギの執事の綾崎ハヤテが氷のように冷たい涙を無意識に流しながら話し終えていた。
彼が主にさせていた誤解の全容を…










「ナギはまだですか? ハヤテ君」
「大丈夫ですよ。 マリアさん。 着替えたら行くとおっしゃっていましたので…」

三千院家の出入り口にハヤテとマリアが立っていて、普段の服装にコートを羽織った姿をしていた。
綺麗な結晶が空から降り注ぐ一帯は一面銀世界の三千院家別邸の屋敷の外で、ナギの支度が終わるのを待っていた。
因みにハヤテたちは今日のこんな冬空の日にどこに行くのかというと、ナギの祖父の帝に、三千院家の子会社が建設した貴賓館にて、
ナギの誕生日パーティーを行うついでに大事な話もあると言われたので、今日の主役のナギを含むハヤテ、マリアの三人で行くことになったのだ。
しばらくすると、黒のパーティードレスの上にそのドレスに不似合いのブカブカのコートを着たナギが屋敷の扉を開けて、顔を覗かせる。

「ハヤテーマリアーお待たせー!」
「あ! お嬢さま…そのコートは!?」

ハヤテはナギが着ていたコートを見て驚きを隠す事はできなかった。
なぜなら、そのコートは去年のあの日に初めて会ったナギが放っておけないような心細い姿をしていたので、そのコートをナギにあげた…という過去があった。
ナギがハヤテの顔を一瞥すると、表情をいかにも恥ずかしそうに変化させながら、口を白らの白い吐息を無意識に出しながら答える。

「こ…このコートはな、衣装部屋でコートを探していた時に、偶然に目に止まったから着てきたのだ。 他意はない!!」
「…! ありがとうございます。 お嬢さま」

理由がどうあれ、自分が大事にしていたコートをナギが、今尚、大事に着てくれるたったそれだけの事だが、
ハヤテにとっては十分嬉しい事であった。
ハヤテはその嬉しさを感謝の言葉に変えて、にっこり微笑みながらナギに伝えた。
すると、ナギはますます顔を赤くしていって、ハヤテを視線から逸しながら促す。 
まるで、好きな人のスマイルが直視していられないように。

「そ…それより! 早くあのじじいのパーティーに行くぞ! ハヤテ!」
「はい! お嬢さま」

ハヤテはナギの反応に何も気づかずに返事をすると傘を開いて、ナギ達とのペースに合わせて会場に向かった。





「あのクソジジイ。 私の誕生日に呼び出して、一体何の用なのだ? もし、つまらんことだったら、殴るだけでは済まさんぞ!」
「お嬢さま…」

三千院家が所有する貴賓館で行われている三千院帝の孫娘であるナギを祝う誕生日パーティー会場内に、
気品が漂う椅子に座って、帝を待つナギの只ならぬ言葉をその後ろに立って控えているハヤテが諌めるが、
その横に立つマリアは、沈黙を守ったままだった。

「揃っておるな」

その時、入口の扉が会場の空気に不穏な音を響かせながら開かれ、そこから、入ってきた険しい顔つきの帝は、
年の割には軽い足取りでソファーに歩み寄ると、ナギと向かい合わせの椅子に落ち着く。

「綾崎、ナギの隣へ座れ…」

帝の静かな言葉に従ってハヤテが持っていた紙袋を会場の隅に置く。
それから、ナギの隣の質素な椅子に座ると、帝は早速切り出す。

「今日、お前たちを呼んだのは他でもない…」
「前置きは良い…用件をさっさと言え!」

毛嫌いな祖父が居て不機嫌な口調で言葉を遮るナギに、「よし、わかった!」と言わぬばかりの勢いで、帝は一気呵成に言葉を繋いだ。

「お前たちは、お互いにお互いの事を、どう思っておるのだ?」
「な!?」
「え!!」

並んで座るソファーの上でナギとハヤテは同時に驚愕の叫び声を上げると、
ナギはそのまま耳の先まで真っ赤に染まって俯いてしまい、ハヤテは、訳が分からずに帝とナギの顔をただ見比べた。

「わしは、お前たちについて、全ての事を知っているという事をよく承知した上で返事せよ!」

帝の自分達の事を何もかも知っているような言葉に、ナギは何かを思い出したように後ろに立つマリアの顔をハッとなって見上げたが、
自分もそのようにしたいという気持ちに必死に耐えるハヤテの顔色が、見る見るうちに真っ青に変化していく。
そう、帝の情報源がマリアであるならば、この自分が以前、企てたナギへの誘拐未遂の事も帝の耳に入ったに違いなかった。

「マリア…お前…」
「マリアを責めるな。わしが、全てを話すように命じたのだ」

ナギの何とも言えない声色でのマリアへの問い詰めを、帝が静かに遮った。

「帝おじいさま…、ナギお嬢さま…、僕はあのクリスマスイブの夜、ナギお嬢さまを誘拐しようとしたのです…」

ハヤテは全ての事実を知られているのなら、もう隠しきれないと自分の心の中で決心を着けて、重い口を開けて切り出した。

「へ…!?」
「…」

素っ頓狂な声を上げるナギと、押し黙る帝、マリアの前で、
ハヤテは、ナギと初めて出会ったあのクリスマスイブの夜に起きた真実を語り始めた。

「…これが、あの日の夜に僕がお嬢さまに申し上げた言葉の本当の意味です…」

ハヤテは、その会場に居合わせた少数の人達に全てを話した。
親に一億五千万円の借金を押し付けられ、その取立てに訪れたヤクザたちから必死で逃げた事。
だが逃げ切れないと悟って自暴自棄になり、誰かを誘拐して身代金をせしめようと企んだ事。
ナギを標的にしたのは、ナギがたまたま自分の近くにいたから、というだけの理由だった事も…

「これが真実です…本来なら僕はお嬢さまの傍にいるべき人間ではありません…」

懺悔を終えたハヤテの顔は犯してしまった罪を後悔するかのように大量な涙が溢れていて、
そんなハヤテの様子を見ていたナギの頬にも幾筋もの涙跡が悲しみの深さを感じさせるように何箇所からも光っていた。
二人の間に存在していた壁がはっきりとその姿を見せる。

そんな涙顔の二人に、帝が優しく問い掛ける。

「ナギに綾崎…」
「はい…」
「何だ…」
「わしは、お前たちに、『今までの事を話せ』と言ったのではない。お互いの事をどう思っておるのかを聞いておるのだ」

なるほど、言葉の意味としては確かにそうかもしれないが、しかし、そんな事はもう、
今のハヤテにとっては何の意味も無いことだった。
しかし…

「わ…私は…、ハヤテの事が大好きなのだ…! だから、だから…、これからもずっと傍にいて欲しい!!」

ナギは、すぐ隣に座るハヤテの身体に飛びつくようにしがみつくと、
その逞しいが今はナギたちへの申し訳なさに恐縮し切っている体をギュッと抱き締めながら消え入るような声で訴えた。

「お嬢さま…」
「ハ…ハヤテは、私の事をどう思っているのだ…?」
「え?」
「今、ジジイも言ったではないか!ハヤテが、自分自身の事をどう思っているかじゃなく、私の事をどう思っているか、
聞かせろ!!」

ナギの傍から感じる温もりを手で確かめながら、ハヤテはこの言葉を受け取った。
その温もりはハヤテにとっては、
とても暖かい物であると同時に、自分が離れたらすぐにその温もりが冷めてしまう…そんな不安も同時に感じ取れた物であった。
その時、ハヤテはある事に気が付いた。
どんなにナギとの過去に償いきれない罪があったとしても、もし、自分がナギの元から去ったら、ナギはさらに悲しませる事になるだろう。
その証拠に、ナギは本来なら首にしても良いぐらいの罪を犯している自分に解雇宣言をするどころか、
本当に大切な人にしか言う事ができるはずがない、とびっきりの愛情がこもった「大好きだ」という言葉を自分に向けて言ってくれた。
だから、そんなにも自分に好意を持ってくれているナギに対して罪を償うなら…そして、ナギの一途な想いを無駄にしないようにするには、
自分がナギに対して抱いている素直な気持ちを今ここで告げなくちゃいけないと拳を握り締めながら、固く決意すると二人の間に何かのひび割れた音をする。

「お嬢さまの気持ちは確かに受け取りました…許されるのなら、これからお嬢さまの事を好きになっていこうと思います…!」
「許すに決まってるだろう…ハヤテ…あ、ありがとな」

ハヤテは目の前にいる誰よりも捨てがたく、それで置いて大切である主人に向かって、自分が考え抜いた結論を面と向かい合って伝えた。
ナギはハヤテの決意を受け止めると、さっきまでとは対照的な暖かくなった涙を流しながら、
最愛の人に身を寄せた。

「どうやら話はまとまったようだな…」
「ジジイ…」
「帝おじいさま…」

二人の様子にこれまで必要以上に口を挟まなかった帝が和解した孫娘とその執事の二人にこの話の終止符を打つ。

「まあ、好きにするがよい。 孫娘のお前がどんな男と結ばれたって、わしには関係ない事じゃからな」

帝はそれだけ言うと黙ってその場から離れて、会場の壇上に向う。
帝の背中を黙って三人は見ていたが、どこからともなくマリアが明るい声でその沈黙を破る。

「さて、ナギのバースデーパーティーを始めましょうか。 ハヤテ君」
「そうですね。 マリアさん」
「よーし! 今日は学校なんて記憶から削除して、今のこのひと時楽しもうな! ハヤテ!」

ナギの自堕落さを感じるが、ナギには元気だという事も同時に感じ取れる言葉にハヤテは内心安心しながらも一応、ツッコミは入れる。

「楽しむのはいいですが、明日はちゃんと学校へ行ってくださいね。 お嬢さま」
「えー! 明日ぐらいサボってもいいじゃないか。 ハヤテのケチ!」

ハヤテのたしなめにナギはそっぽを向く。
こんないつもながらの光景は二人を遮る壁は綺麗に崩れ去っていた事が感じられるほどの清々しい物だった。
そして、帝のマイクからの声の合図をきっかけに身内四人の小パーティーが始まる。

「これより、我が孫娘のナギの誕生日会を始める! まず記念にナギの小さな頃の恥ずかし〜い写真を…」
「な…何を公開しようとしているのだ!? このクソジジイ!」 

ナギの渾身のグラス投げによって帝は真っ赤な絵の具を流さずに倒れる。
使用人の二人はその姿を苦笑いしながら傍観していた。

「ったく…このジジイは本当にクソジジイだな。 ハヤテ、マリア。 あんなジジイはほっておいて、
我々だけでパーティーを始めようではないか」
「…そうですね。 では、お嬢さまの誕生日を祝って乾杯しましょう」

ハヤテは些細な事を気にせずにナギの言う通りにして、三人分のグラスを注ぐ。
そして、三人はジュースが入ったグラスを各自持つ。

「お嬢さま、誕生日おめでとうございます!」
「ナギ、おめでとう。 これからもよろしくお願いしますね」
「ハヤテにマリア、ありがとうな! では、これからもよろしくお願いするぞ!」

祝杯の言葉と共にグラスの当たり合う音が響く、その音はこれからの二人の未来の幸せを祈っているかのような鐘の音色に近い物だった。





「ハヤテ、ここに来たのは久しぶりだな」
「そうですね、お嬢さま。 あれからもうすぐ一年が経つんですね…」

二人はパーティーが終わると近所の公園にやってきていた。
公園と言ってもただの公園ではない、二人が初めて出会った負け犬公園である。

「そういえば、その紙袋はなんなのだ? 屋敷を出た時から持っていたみたいだが…」
「お嬢さまの誕生日プレゼントですよ。 どうぞお受け取り下さい」

ハヤテの手に持っていた紙袋に興味を示したナギが尋ねると、ハヤテが待っていたと言わんばかりに感謝の気持ちを込めながらそう言って差し出した。

「おお! さすがハヤテ、ありがとう! 何が入ってるのだ?」
「開けてみてのお楽しみですよ」

ナギの歓喜の一言に顔をほころばせるハヤテ。
ハヤテの意味ありげな言葉にそそくさ紙袋を開封する。

「マフラー…?」
「お気に召したでしょうか? お嬢さま」

中にあったプレゼントは紫色のマフラーであった。
しばらく、ナギはじっと紙袋の中身を見つめていたが、やがてこんな事を投げかけてくる。

「ハヤテ、一緒にそこのベンチに座ろう」
「え、急にどうなさったのですか? お嬢さm」
「いいから私の隣に座るのだ! ハヤテ!」

ハヤテが聞く間もなく、ナギは自販機に隣接したベンチに腰を下ろしながら、促す。
ナギの意図にさっぱり分からないハヤテは首を傾げていたが、やがてナギのすぐ近くに座ることにするハヤテ。
ハヤテが隣にいる事を確認したナギは、ハヤテからもらったマフラーを自らの首に途中まで巻きつけると…

「ハヤテ、せっかくこんなに暖かい物なんだから、お前にもその暖かさを分けてやるぞ」
「え? お嬢さま…」

そんな事を言うとナギはハヤテにピッタリくっつくと、途中まで自分につけたマフラーの残り部分をハヤテに分け与えた。
すると、ナギの言っていた暖かさがハヤテにも自然と伝わってくる。

「ハヤテ、マフラーありがとうな! 今、私がお前の暖かさを感じてるぞ! ハヤテも…感じてるか?」
「はい、とっても暖かいです…お嬢さま」




「それは良かった。 この暖かさこそ私がお前からもらった物だ! ありがとう! 暖かい毎日を! ハヤテ!」




ナギは精一杯の感謝と愛情を込めた言葉を、この世で一番大事な人に伝える。

僕はこれからお嬢さまを女性として好きになれるのかな。
でも、お嬢さまとの生活は僕にとってもかけがえない物として、しっかり心に刻みこまれている…!

「はい! どういたしまして! そして、ありがとうございます! お嬢さま」

ハヤテは満面の笑顔をナギに向けてお礼を言う。
公園の外灯に反射してキラキラ光る雪は二人の暖かい雰囲気をロマンチック化するかのように地面に落ちていく。
二人は誤解を乗り越えて生まれた物がある。 それはどんな物にも勝るとびっきりの―




暖かさ。





〈完〉



どうもサタンです。

今回はナギの誕生日記念というわけでこんな話を書いてみました。

まだまだ、上手い物は書けませんが、ナギの誕生日を祝いたくて、数ヶ月前から書いてきた作品です。

少しでも読者様楽しめたら、嬉しいです。

因みに以前書いていた長編小説はバックアップが全て消えている為、新しい作品を投稿しようと現在書いています。

最後にここまで見て下さった読者の皆さんありがとうございました。

ナギ、誕生日おめでとう!
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