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鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない
日時: 2019/05/29 23:01
名前: どうふん


さて、そろそろ第二章にとりかかろうと思います。ようやくヒナギクさんが活躍できる。
しかし、二年に亘る「妖怪大戦争」の過酷さはヒナギクさんを大きく変えていました。
いろいろな意味で。


鬼か人か 〜 第二章:HEROに涙はいらない


第一話 : 森に迫る危機


むき出しの原野に大小の岩が転がっている。
そこに吸血鬼カミーラがゲゲゲの鬼太郎と対峙していた。

「あはははは」背が隠れる程の大岩を背に、カミーラは哄笑した。
「そんなスピードじゃ私は捕まえられないわよ。日本妖怪の総大将がその程度かい。信じらんないね。ヴォルフガングもヴィクターもこんなやつに殺られたなんて」
西洋妖怪の中でも最強を誇る三人衆のうち二人、ヴォルフガング(狼男)とヴィクター(フランケンシュタイン)は鬼太郎たちに倒された。最後の一人となるカミーラはおよそ数百匹の吸血コウモリに自在に分裂・統合し、間合いに入らず鬼太郎の荒技を交わし続けていた。

鬼太郎は無言で指鉄砲の構えをとった。
「それは私には通用しない。さっき教えたと思うんだけどねえ。あんたには学習能力がないのかい」
「そんなものは持たないさ。僕には必要ないからね」自信ありげな口調に、嘲笑していたカミーラの眼が泳いだ。
「何を言ってるんだい、負け惜しみを」毒口を放ちつつ周囲に目を配ろうとするカミーラに鬼太郎は一言で応えた。
「誘ったのさ、その位置に」カミーラははっと後ろを振り向いた。しかし遅かった。
大岩の陰から一陣の風が吹いたのを感じるより先に、肩口のあたりで髪をなびかせた少女が真横を擦り抜け、カミーラは驚愕の顔をそのままに上下真っ二つになっていた。剣道でいう抜き胴だった。

鬼太郎の指がすかさず閃光を放つや、カミーラの上半身は粉々に砕け散っていた。
表情を緩めた鬼太郎が腕を下ろし、少女に声を掛けた。「さすがだな、ヒナギク」
鬼太郎の髪の中から、目玉おやじが顔を出してうんうんと頷いた。
「これで西洋妖怪三人衆は全員倒したわけじゃな」
それには答えず、少女−桂ヒナギクはしゃがみこんで地面に転がるカミーラの下半身を調べていたが、蘇る気配はないのを確かめると振り向いだ。
「鬼太郎、すぐ戻るわよ」怪訝な顔をする二人にヒナギクは厳しい顔を向けていた。「陽動作戦かもしれない」目玉おやじはすぐに悟った。
「そ、そうか。確かにカミーラは決して自分から攻撃してこなかった。今思えば時間稼ぎしていたのかもしれないのう」

「わかった。ゲゲゲの森へ戻ろう」鬼太郎も頷き、鬼太郎とヒナギクはカラスの群れに支えられた飛行船に乗ろうとした。しかし一羽のカラスが鬼太郎の元へ飛んでくるのが先だった。カラスは鬼太郎に向かい、わめくような勢いで啼き続けていた。
これを聞き取れるのは鬼太郎しかいないが、只事でないのはヒナギクたちにもわかった。固唾をのむ目玉おやじとヒナギクに鬼太郎が顔を向けた。普段の無表情が一変していた。
「ヒナギクの言った通りだ。奴らが総攻撃をかけてきた。ゲゲゲの森だ」



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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.1 )
日時: 2019/06/02 09:52
名前: どうふん


「ヒナギクさんを救わなきゃ・・・」
砂かけババアと一緒にゲゲゲの森に向かったハヤテはさっそく「妖怪大戦争」に巻き込まれます。
しかしハヤテの敵は西洋妖怪だけというわけではありません。
もっと恐るべき敵はあの・・・。



第二話:炎上する森


「砂かけババアさん。一体何が起こってるんです」顔に降りかかってくる火の粉を払いながらハヤテは叫んだ。
森のあちこちに首のない西洋の鎧騎士が倒れていた。それに混じって人間や動物に似た奇妙な姿も。(これが妖怪か・・・)ハヤテも何度か聞いたり、本で見たことのある妖怪の姿も混じっていた。しかしこのガラクタのような鎧騎士の群れは・・・?
「こいつらは西洋妖怪の兵隊じゃ。鬼太郎がいないところを狙ってやってきたのか」
「と、とにかく火を消さないと」
「それは後じゃ。とにかく奴らの狙いはアニエスじゃ」
「あにえす・・・?」それが宝物を指すのか人名であるのかハヤテには見当がつかない。確かめる余裕もない。獣道のような細い道を二人で森の奥へと駆けた。


森の開けた先に岩場が広がっていた。
そこに将軍のような鎧をまとった若い女−日本侵攻の指揮官を務める西洋魔女アデルが立っていた。
すぐ横に透明な立方体の箱が光を放っており、中にアデルより一回り小柄な少女が倒れている。
「もう遅い。アニエスも指環も回収した」西洋魔女は冷ややかに二人を一瞥した。
あの箱の中にいるのがアニエス・・・。見るからに魔女のコスプレのような衣装をまとう少女は意識を失っているのかピクリとも動かない。
あの中に閉じ込められているのか・・・。ハヤテは気付いた。

「みんな・・・」砂かけババアの唸るような声を聞いて辺りを見回すと、腕や首がもげ落ちて倒れている多数の騎士に混じって、手足のついた大きな壁、白い布、蓑を被った赤ん坊、それと一人の少女などが倒れていた。
(あれは・・・妖怪と・・・まさかヒナギクさん・・・じゃないか・・・)
ハヤテにしてみれば状況が呑み込めないが、とにかくあの将軍魔女が敵で、結界に閉じ込められている少女を助けなければいけない、ということは見当がついた。
ハヤテは黒椿を抜いた。「砂かけババアさん。あいつを倒せばいいんですね」
「ま、待て」引き留める間もなく、ハヤテは駆けだしていた。
「くっ」砂かけババアは後ろから砂塵を撒き散らした。せめて目くらましになれば。
だが、魔女は体のすぐ前にバリアを張って黒椿も砂も全て撥ね返した。

「うう・・・」弾き飛ばされたハヤテは頭を振りながら立ち上がった。衝撃で体が痺れている。
だが、こんなことで負けられない。ヒナギクが今どこで戦っているのかは分からないが、とにかくこいつは自分が倒さないと。
ふと、思った。もしかしたらヒナギクはこの森のどこかで倒れているのではないか。まさか死んでいるということは・・・。いや、そんなはずはない。きっとどこかで生きている。何としてもこいつを倒してヒナギクを助け出す。
事実関係の把握はうまくできていないが、ハヤテの精神テンションはかつてミダス王に徒手空拳で立ち向かった当時まで高揚していた。

「貴様も人間か。人間ごときが剣を持ったぐらいで私に勝てると本気で思っているのか」
「ああ。ミダス王だって僕たちが倒したんだ」アデルの口がピクリと動いた。
「なら容赦はしない」アデルの突き出した掌が光を放ち、ハヤテは後ろに吹き飛ばされた。さほどダメージを感じなかったのは黒椿を構えた効果か。
再び立ち上がり身構えたものの、一体どうすれば魔法使いに有効な攻撃ができるのか。黒椿を撥ね返すバリアへの対抗策が思いつかない。
横手から砂嵐が吹き荒れて、アデルを包み込んだ。いつの間にか砂かけババアが回り込んでいた。不意を突かれたアデルが目を腕で庇いつつ顔を背けた。
今しかない、ハヤテは目を瞑って突っ込んだ。闇雲に黒椿を振り回そうとしたハヤテを叱咤する声が響いた。
「まだよ、ハヤテ君!」
(あ、あの声は・・・)間違いない。ヒナギクだった。




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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.2 )
日時: 2019/06/02 16:02
名前: masa

初めましてmasaっと言います。

実は、第一章から拝見していましたが、何となく機会を窺っていたので、今回になってしまいました。


アニメ原作の方は色々ありつつも西洋妖怪と決着しましたが、こちらではどうなっていくか楽しみです。

漸くハヤテ参戦、そしてヒナギクさんとの再会。まあ、再会を喜んでいる場合じゃ無いですけどね、現状じゃ。

黒椿はアニメとは違うんですね。アニメじゃ魂を入れ替える剣でしたし。


どうなっていくか、楽しみにしてます。


(まさかと思いますが、アニエスがハヤテの「天然ジゴロと言う名の猛毒」に侵されるなんて事は・・・)

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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.3 )
日時: 2019/06/03 21:42
名前: どうふん


ええと・・・。
masaって・・・あのmasaさんですよね。
ずっとコンスタントに創作に勤しんでいるmasaさんから感想をもらえるとは正直驚きました。光栄です。当方、常に思いつきで気が向いた時限定ですので。


お見受けしたところ、ゲゲゲの鬼太郎第6期にも精通しておられるご様子。楽しんでいただければ幸いです。
本作の場面設定はゲゲゲの鬼太郎に基づきますが、日本妖怪と西洋妖怪の闘いが二年間に亘って続いているところが異なっております。
妖怪大戦争はいよいよ佳境を迎え、最終決戦が近づいています。
やっとのことで再登場、じゃなくて再会した二人ですが、確かに喜んでいる場合ではなく、更にここから大きな試練に巻き込まれることになります。
そんな中、この天然ジゴロに近づいてくるのは・・・。


あと、黒椿については・・・懐中時計という話もありますが、魂を入れ替える能力はさておき、基本的には「白桜に匹敵する威力を持つ聖剣」という設定です。
まあ未知の戦場に飛び込むハヤテを手ぶらで行かせるのはどうかと思いまして。
 ※実は拙作「想いよ届け 第三章」でも同じ設定にしております。

                                           どうふん
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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.4 )
日時: 2019/06/08 11:42
名前: どうふん


第三話 : 惨劇の森


(無事だったんだ・・・。ヒナギクさん)瞼の奥が熱くなった。だが、今は目の前の魔女を倒すのが先だ。
「あと二歩。そこよ」ヒナギクの声に従い、迷うことなく振り下ろした剣は、またもはじき返された。だが、今度はわずかながら光の壁にめり込んだ感触はあった。
後ろに倒れこんだハヤテの耳にまた声が響いた。
「今よ、鬼太郎。同じところを!」
その言葉の意味を理解するより早く、爆発音が響いた。今度吹き飛んだのは魔女の方だった。
自分の剣を杖にしてよろよろと起き上がった魔女はアニエスに目を向けた。その先では飛び込んだヒナギクが白桜で西洋魔法の結界を切り裂き、気を失ったままのアニエスを担ぎ出した。
魔女はハヤテを睨みつけた。「余計な手間を・・・」
「ヒナギクさんの邪魔は許さない」睨み返したハヤテを無視して、魔女はヒナギクに向き直った。その目が凄まじいばかりの怒りに燃えていた。
「またヒナギクか・・・。お前が・・・、お前さえいなければ・・・」この時初めてハヤテは気付いた。ヒナギクの腰まで届く自慢のピンクブロンドが肩にも掛からないショートヘアになっていた。

一瞬、気を取られたハヤテがはっと視線を戻すと、アデルの全身が青く燃え上がっていた。いや炎に包まれているが、本体が燃える気配はない。
剣を振り上げたアデルはそのまま動かない。攻撃の機を窺っているのか?躊躇っているようにも見えた。あれを振り下ろしたら炎がヒナギクに襲い掛かる、ということは見当がついた。
「いかん。ヒナギクさん、逃げるんじゃ」誰かの叫ぶ声が響いた。だが、ヒナギクはぐったりしているアニエスを後ろに庇って白桜を構え、防御の姿勢を取った。
その瞬間にアデルが剣を振り下ろした。それと同時に、沸き上がった青い炎がヒナギク目掛けて光線のように飛んで行く。
十文字に打ち振られた白桜は、押し寄せる炎を四散させた。だが、片手が塞がっているヒナギクの顔に炎の欠片が交錯した。髪が燃えている。ヒナギクは声を出さずに倒れた。
「ヒナギクさん!」
ハヤテはヒナギクに駆け寄ろうとした。
目の端に閃光が煌めいた。はっと目を遣ると、アデルがあおむけに倒れていた。誰かの飛び道具が魔女を倒したらしい。
だがそんなことよりヒナギクだ。ヒナギクに駆け寄ったハヤテは髪についた火を手で払い、拭き消した。
息を呑んだ。ヒナギクの顔の左半分が無残に焼け爛れていた。何てことだ。「ヒナギクさん、ヒナギクさん!」声が震えていた。

近寄ってくる人影に気付いた。黄色と黒のちゃんちゃんこをまとい下駄を履いた少年の姿だった。
「どいてくれ」
「な、何を」年下にしか見えない少年の素っ気ない物言いに目を据えたハヤテだが、眼を合わせると心臓を氷の手でつかまれたような気がした。逆らうことなど思いもよらずヒナギクから離れた。
「おお・・・ヒナギクさん」少年がしゃがみこむと同時に、髪の中から目玉に胴体が付いた豆粒のような妖怪が飛び出した。これが目玉おやじだということは後で聞いた。少年は目玉おやじとヒナギクの傷を検めていたが、やがてぼそりと呟いた。「良かった。命に別状ない。眼も大丈夫だ。おばば、ヤケドの治療を」
「お、おう。任せておけい、鬼太郎」駆け寄ってきた砂かけババアがかつて伊澄の家で見たようにヒーリングを始めた。
すぐ横に立ち尽くしていたハヤテにはまだ状況がつかめていない。だが、はっきりしていることはヒナギクが負傷し、女の命ともいえる顔に大ヤケドしたということだ。そして砂かけババアのヒーリングがどれほどのものか詳しいことは知らないが、伊澄の例を考えると傷跡を完治させるようなものではないだろう。
そしてそんなことを全く気にせず「命に別状ない」から「良かった」と平然と言い切る鬼太郎と呼ばれた少年に怒りが湧いた。
ハヤテは恐怖も忘れ、鬼太郎の襟首を両手で掴んだ。
「お前。わかっているのか!何が大丈夫だよ。どこが良かったんだよ。女の子の顔にこんな傷をつけて」
「怒る相手を間違えてないか」鬼太郎の表情は変わらない。不思議そうにハヤテを見返していた。「命に別状ないから良かった、というのがそんなにおかしなことですか」
ハヤテは手を放した。恐怖からではない。鬼太郎は本気でそう思っているらしい。


ゲゲゲハウスの周囲はさながら野戦病院と化していた。砂かけババアが看護婦のように駆けまわっている。
鬼太郎は意識を失っているヒナギクを抱きかかえた。ハヤテは鬼太郎についていくしかなかった。
ゲゲゲハウスに寝かされたヒナギクの姿は痛々しかったが、先ほど砂かけババアが施した応急措置のお陰で血が止まり、傷口は癒えているように見えた。だが、ヤケドはどす黒く顔の半分を覆っていた。これは時間が経って消えるようなものではない。
一声うめいたヒナギクが目を覚まし、覗き込んでいる顔をぐるりと見まわした。
「ハヤテ君、どうしてここに・・・」ハヤテは涙が溢れだすのを止められなかった。
「ヒナギクさんが心配だからに決まっているじゃないですか。済みません。僕がついていたのにこんなひどいケガを・・・」
「傷ついているのは顔だけだ。炎のかなりの部分は振り払うことができた。目は問題ないから視力はすぐ戻る」横から鬼太郎の無機的な声がした。
「そう、良かった。なら戦いには支障ないわね」
ハヤテは二の句が継げなかった。自分をスルーし、淡々と鬼太郎に答えるヒナギクが遥か遠くに行ってしまったような気がした。



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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.5 )
日時: 2019/06/08 12:27
名前: masa

どうもmasaです。

言っときますけど、本物ですよ。「女神と共にシリーズ」を手掛けてた。


取り敢えず、とは言えアデルを退ける事は出来たみたいなので、良かった?です。

ハヤテの怒りは尤もですが、今期の鬼太郎は人間に対してドライな面がありますからね。
依頼があれば助けるが、必要以上の干渉は全くしないですし。

確かに、ハヤテは怒りを向ける相手を間違えてはいますよね。「刃物で切られ、傷跡が残ってしまったから医者に八つ当たり」みたいな感じですから。
ハヤテよ、その怒りはアデルに向けなさい。

詳しい事は分かりませんが、「本物の戦争」な以上「戦いに支障のない傷」は構ってる場合じゃ無いですからね。幾ら顔とは言え。
過酷な戦いに2年以上身をおけば、変わりますよね。まあ、根本的な部分は大丈夫でしょうけど。


さて、今期の鬼太郎は見てますよ、毎週(放送があれば)。
目玉おやじが本当はイケメンだったり、現代のネット社会や人間だったり。
後、石動零も。


そう言えば、名無しはどうなったんでしょう?アニメでは、西洋妖怪との戦いの後にも少しの間出てきましたし。


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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.6 )
日時: 2019/06/09 21:36
名前: どうふん


masaさんへ


感想ありがとうございます。

さて、方向違いに怒ったハヤテですが、ヒナギクさんを救うことしか考えていないハヤテにとってはヒナギクさんが、それも顔が傷つくことはあってはならないことでした。

一方の鬼太郎やヒナギクさんにとってはこの戦いに勝つことが最優先で、ひどいケガでも戦力という意味では大したことなくて良かった、と割り切れる問題だったということです。

あと「名無し」について。おそらくは隠れて様子をうかがっているのではないかと思いますが、これは私にもわかりません。(これ以上ややこしくしたら、訳が分からなくなる可能性大)



                                                                       どうふん
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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.7 )
日時: 2019/06/14 21:07
名前: どうふん


第4話 : 月が綺麗な夜


「ヒナギク、済まない」ヒナギクの顔に濡れた布を当てながら鬼太郎は項垂れていた。「僕が迷わずアデルを撃ち倒しておけばこんなケガをさせることは・・・」
ヒナギクはやれやれと笑った。「アニエスのお姉さんを迷わずに?それは鬼太郎にはできないでしょ」
「それは・・・。でも・・・」
ヒナギクは鬼太郎の顔の前で手を振った。「ちょっとしくじったくらいでそんなこと言わないの。あなたには何度も助けられているんだから。それに鬼太郎の非情になれないところ、私は嫌いじゃないわよ」
「・・・ありがとう・・・。僕もヒナギクのことが大好きだよ」


捕らえられたアデルは妖怪たちの居住区域にある穴倉に似た住居に閉じ込められていた。逃げ出すことができないよう砂かけババアとアニエスによる東西二重の結界に固められている。
鬼太郎の指鉄砲を受けて重傷を負っていたが応急措置を受け、命には別状なかった。

ハヤテは砂かけババアの助手として傷ついた妖怪たちの手当てにあたっていた。
ヒナギクの傍にいたかったが、ヒナギクの世話は鬼太郎と目玉おやじの役割だった。
理不尽な目に遭っているような気がして仕方ない。(僕はヒナギクさんを心配して、ヒナギクさんを助けに来たのに・・・)
大体ヒナギクは自分のことが好きではなかったのか。自分と会えば映画のワンシーンのように涙を流して喜んでくれるとばかり思っていた。アテネやナギがそうだったように。
実際ハヤテはヒナギクの声を聞いた瞬間に、胸が高鳴り涙がこぼれそうになったのだ。
しかし、ヒナギクはハヤテがそこに居ることに不思議そうな顔をしただけで、特段の感慨もなさそうだった。誰もが憧れる美貌を傷つけられたことを気にしていない様子だったのもショックだった。
(もうヒナギクさんは僕の知っているヒナギクさんじゃないんだろうか)気が沈んでいくのを抑えようがない。

「さ、もうええ。あんたも休むんじゃな。また明日闘いがあるかもしれん」砂かけババアがハヤテに声を掛けた。
(いや、最後まで手伝いますよ)と頭には浮かんだのだが、出てきた言葉は正反対だった。「じゃ、お言葉に甘えて。後はお願いします」疲労感がどうしようもなく体に沈殿していた。
といって寝る場所があるわけではない。ハヤテは立ち上がって振り向いた。ゲゲゲハウスの灯りは消えていた。
まさか今頃ゲゲゲハウスの中でヒナギクは鬼太郎と・・・。
いや、いくら何でもそんなことはあり得ない。あの人間の姿をした妖怪の実年齢は不明だが、小学生か、せいぜい中学生の外見ではないか。本来なら大学生になっているはずのヒナギクが惚れる相手ではないだろう・・・。
いや、あの少年の落ち着きと大人びた振る舞いは、普通の中学生ではない。実際は何歳ぐらいなのだろうか。幾ら考えても妖怪の年齢なんてわからなかった。

(どこか・・・横になるところは・・・)
池のほとりに出た。草の上に寝っ転がって目を瞑ってみたものの、悶々とした思いは消えない。もう一つ、気になっていることがあった。(あのヒナギクさんの髪は・・・)ヒナギクが髪を切ったのはなぜだろう。自惚れるような考えが頭に浮かんだが、頭を振った。とてもそうは思えない。

隣にふわり、と誰かが座る気配がした。
(ヒナギクさん・・・?)目を開けると、ヒナギクや自分と同じ年くらいの美少女が微かに口元を緩めてハヤテの顔を覗き込んでいた。赤と白を基調とした服に大きな赤いリボンが良く似合う。
「あなたは・・・」そうだ、顔はよく見なかったが、アデルの近くに倒れていた女の子だ。(この子も妖怪・・・?)とてもそうは見えなかった。
「え、ええと・・・。あなたも人間・・・なんですか」我ながら奇妙な質問をしているものだ。
少女はくすくすと笑った。
「そう見える?私は妖怪『ネコ娘』。さっきはみっともないところを見られちゃったけど、これでも結構強いのよ」
この時初めてハヤテはネコ娘の耳が尖っていていることに気づいた。


ハヤテ君、って呼んで良い?少女−ネコ娘は親しげにハヤテを見た。
「ハヤテ君はどうしてゲゲゲの森に来たの?」ハヤテは口淀んだ。説明するのは簡単だ。だがそれが正しかったのかどうかハヤテにはわからなくなっていた。
「ヒナギク?」黙って俯いたハヤテをネコ娘はしばらく見ていた。
「まあ、そりゃそうよね・・・。あんな素敵な人なんだから・・・あたしなんかじゃ敵わない」
最後のセリフが何を意味しているのか、ハヤテはネコ娘を見た。ネコ娘は遠い目をして夜空を眺めていた。
初めて星空が広がっていることに気付いた。いつもより星が明るく綺麗な気がした。
「そりゃそうよ。ここにはネオンも街灯もないんだから」
だから綺麗に見えるのか・・・。何となく気持ちが和み、口元が緩んだ。
「やっといい顔になった」ネコ娘がニッと笑ったようだった。その顔には確かに甘えてくるシラヌイ(かつてゆかりちゃんハウスに住み着いていた猫)を思い出させるものがあった。だからネコ娘か・・・。何となくこの美少女の姿をした妖怪に親しみが湧いた。
「あの・・・僕からも訊いていいですか。何でヒナギクさんはここ・・・ゲゲゲの森ですか。ここに来たんですか」
「それは長くなるけど・・・」
「構いません」くすりと笑ったネコ娘はハヤテのわだかまる疑問に精一杯丁寧に応えてくれた。
魔法少女のアニエスが西洋妖怪の首領バックベアードに生贄にされそうになり逃げてきたこと。
それを助けようとしているのが日本妖怪たちで、執念深くアニエスを追う西洋妖怪と戦っていること。
ヒナギクはアニエスの窮地に居合わせて共に戦ったことで仲間に加わったということ。
アニエスが生贄になるのを防ぐには、アニエスが持っているアルカナの指環を破壊しなければならないが、今のところその方法はないこと。
そして、日本妖怪が負け、連中の目論見通りになれば、それは妖怪だけでなく、日本に住む人間が皆異形のモノとなり西洋妖怪に支配される、ということ。
聞いていた以上に事態は深刻だった。改めて胸を締め付けられた。
「ヒナギクさんは二年の間、すっとそんな戦いを・・・。たった一人で・・・」
「一人じゃないわね。私たちも一緒に戦ったんだから」
妖怪を数に加えていなかった。見透かしたようにネコ娘が続けた。「伊澄もいたわよ」
伊澄もヒナギク同様、抗争に巻き込まれる形で参戦したという。


ちょっと気まずさを感じたハヤテは再び手を頭の後ろに組んで寝っ転がった。
目の前に大きな半月が浮かんでいた。
「月が綺麗ですね」何気なく口にしたセリフにネコ娘が顔を朱に染めた。「な、何言ってるのよ。あんたが好きなのはヒナギクでしょ?」
ハヤテは怪訝な顔をした。それをまじまじと見ていたネコ娘が噴き出した。「ああ、あんた、気付いてないのね」
この時初めてハヤテは「月が綺麗ですね」というのがかつて告白に使われたセリフだという事を知った。
と、いうことは・・・。かつてヒナギクが怪しさ一杯のパフォーマンスを加えながら自分に同じことを言っていたことを思い出した。
あの時にヒナギクの想いに気付いていれば・・・。その時は今と何か変わっていただろうか。わからない。
ただ、その時の自分の反応は何と残酷なものであったのか。身を捩るような恥ずかしさと申し訳なさが押し寄せてきた。

「ハヤテ君はこれからどうするの?」ネコ娘が改めて尋ねた。どうにも答える術がなかった。さらに追い打ちをかける一言に心臓が凍り付いた。
「ヒナギクは鬼太郎と恋仲よ」





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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.8 )
日時: 2019/06/14 22:25
名前: masa

どうもmasaです。


原作の最終回を見る限りじゃ、ハヤテへの告白は失敗に終わったみたいでしたからね。
きっと、アテネやナギと違って「フラれたからもう終わり」みたいな感じなんでしょうね。
自分はそう思いますし。

昔のハヤテならどんな無茶でもやってのけたんでしょうけど、2年間の空白がそれを難しくしたのかもしれないですね。勝手な思い込みですが。
因みに、鬼太郎の年齢は2019年の今年で65歳みたいですよ(wikiに昭和29年生まれって書いてありました)。

若しかしたら、アニメ版に出てるまなちゃんがいるのかななんて最初の方には思ってましたが、猫娘だったんですね。まあ、いない方が圧倒的に不自然ですが。
西洋妖怪の計画はアニメと一緒ですね(違う方が驚きですけど)。
まあ、ヒナギクさんは「ある意味一「人」」ですけどね。鬼太郎達は「人間」じゃないですし。

ってか「月が綺麗ですね」で気付くのは相当なまでに勘が鋭くないと無理でしょ。
それこそ東大や京大に余裕で入れて「東大・京大って、つまんないね」何て凄い領域にいる位。
勿論、意味を知っていたとしても、ですけど。

ってか、鬼太郎とヒナギクさんが恋仲!?
戦いが終わって「ハヤテとヒナギクの結婚式に鬼太郎達が出席する」何て結末は怪しくなってきましたね。
まあ、ハヤテの毒が猫娘やアニエスに感染して・・ってのがあるかもしれませんけど。


では。
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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.9 )
日時: 2019/06/15 18:34
名前: どうふん

masaさんへ


感想ありがとうございます。

当方としてもヒナギクさんの告白は玉砕するためのものだと認識してます。
実際、修学旅行で借金から解放され縛りがなくなったはずのハヤテに何もできなかったわけですし、ハヤテへの気持ちも次第に冷めかけていたのかもしれません。
ただはっきりと振られたことで気持ちを切り替えることができたのかは保留しておきます。

>昔のハヤテならどんな無茶でもやってのけたんでしょうけど、2年間の空白がそれを難しくしたのかもしれないですね。
→ 確かにこの物語でハヤテが参戦するまでかなりの葛藤を経ました。やはり堅気となったハヤテにとって昔のテンションに戻るのはしんどいのでしょう。しかしここは二年前に戻ってもらうつもりです。

>因みに、鬼太郎の年齢は2019年の今年で65歳みたいですよ(wikiに昭和29年生まれって書いてありました)。
→ 戦後それほど間もなく生まれたはずですからそのくらいですよね。鬼太郎は赤ん坊として生まれ普通に少年に成長してそのまま変わらなくなったわけですが、これも考えてみれば不思議です。

>若しかしたら、アニメ版に出てるまなちゃんがいるのかななんて最初の方には思ってましたが、猫娘だったんですね。
→ 犬山まなはこの物語にも存在しているはずですが、戦争のさなかで出番はないかもしれません。しかしネコ娘は主要キャラとなります。

>西洋妖怪の計画はアニメと一緒ですね
→ これは基本的に同じです。キャラも変える気はありません。違うのは戦争の経過と結末・・・(おっとこれはそれくらいで)

>まあ、ヒナギクさんは「ある意味一「人」」ですけどね。鬼太郎達は「人間」じゃないですし。
→ ハヤテの認識はその通りです。しかし、ネコ娘にしてみれば、自分たちがヒナギクの仲間に数えられていない気がしたと思います。それに気づいて、ハヤテも気まずさを感じています。

>ってか「月が綺麗ですね」で気付くのは相当なまでに勘が鋭くないと無理でしょ。
→ まあ、そうですね。一つ間違うと自意識過剰なレベルです。しかし、ネコ娘は妖怪法廷で弁護士を務めたこともあるインテリです。それだけでなく、そうした告白に憧れていたんじゃないかな、と考えています。

>ってか、鬼太郎とヒナギクさんが恋仲!?
→ これに関しては次回投稿にてもう少し詳しいところを。(「なんじゃそりゃ」という声が聞こえてきそうな)

                                                              
                               どうふん

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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.10 )
日時: 2019/06/20 22:14
名前: どうふん



第5話 : 彼女が髪を切ったワケ


(ちょっと・・・効きすぎちゃった)
ネコ娘は後悔した。先ほどの一言で、魂を抜かれたように目と口を半開きにしているハヤテにはいまだに動き出す気配がない。
予想を大幅に超越した反応に、「てへぺろ」しか打開策を思いつかなかった。


「うそ」ネコ娘が舌を見せている。ちょっとざらついて見えるのは気のせいだろうか。
そのセリフの意味を理解するまでしばらく時間がかかった。
一度固まった心臓の血が逆流した。激高して跳ね起きたハヤテだが、ネコ娘の眼が寂しそうに瞬いているのに気付いた。
「ごめんなさい・・・。だけど鬼太郎がヒナギクを好きなのは本当」そういうことか・・・ネコ娘は鬼太郎のことが好きなのだ。怒る気力が萎えた。だが今はそれより大きな問題がある。訊かずにはいられなかった。
「ヒナギクさんはどうなんですか」
「気付いてないみたい」
拍子抜けした。他人を笑えないことはわかっているが、ヒナギクもまた相当鈍い。
「でも、あれだけいつも一緒にいるんだから・・・。戦いでも普段でも息ぴったりだし・・・時間の問題かもね」
ほっとした気持ちが一転して焦りが沸き上がった。いや焦りとも違う。もっと胸が疼くような重苦しいものだった。
胸を掻きむしりたい。一体何なんだ、これは。生まれて初めて感じるものだった。まさかとは思うが・・・嫉妬?
ふと疑問が湧いた。鬼太郎はヒナギクの顔があれだけ傷つけられても何ら感傷を見せなかった。あれが好きな女の子に対する態度だろうか。
「鬼太郎が好きなのはヒナギクであって、ヒナギクの顔じゃないのよ」
また胸に突き刺さった。あんたはどうなの、問いかけられたような気がした。


ハヤテは目を瞑って考え込んだ。ヒナギクのこと、自分のこと。ヒナギクと再会したとき、そして傷ついたヒナギクを前にした自分の気持ち。何をされたわけでもないのに鬼太郎に抱いている不快感。そして今、胸が痛み苦しくてたまらない。その理由なんてたった一つしか思いつかない。
もう一つ異質の痛みが胸に走った。閉じたままの目にナギの悲しげな顔が浮かんでいた。
(ナギさん、済みません。やっぱり・・・僕はヒナギクさんが好きみたいです)
自分を信じて「待っている」といってくれたナギに対する裏切りだろう。
ヒナギクの心を取り戻すなんてもう無理なのかもしれない。
それでも、自分の気持ちはもうはっきりしている。 
「ネコ娘さん」眦を決したハヤテはかっと目を開いて横を向いた。が、飛び上がった。いつの間にかそこに座っていたのは砂かけババアだった。
「いいのう、若いモンは」まるで伊澄さんみたいな人だな、ハヤテは思った。
(それとも・・・伊澄さんが妖怪染みているんだろうか)


「そこに咲いている花、知ってるかね」砂かけババアが指した先に小さな白い花が咲いていた。太陽を思わせる黄色い中心部と外に伸びる細い花びら。気づいたのは今だが、遠目でみてもわかる。
「ヒナギク・・・デイジーですね」
「そう見えるじゃろ。だが違うんじゃよ」え?近寄ってまじまじと見直したが違いがわからなかった。
「この花を人間の世界に持ち帰っても育てることはできない。似て非なるものじゃ」首を傾げるハヤテに砂かけババアは続けた。
「人間と妖怪もそうじゃ」ハヤテは気付いた。これは世間話じゃない。
「人間と鬼や妖怪が結ばれることもある。だが、環境も寿命も全然違う者同士が長いこと連れ添うことははっきり言って難しい。あの姿で鬼太郎は70歳くらいじゃ」
10歳あたりで成長が止まっている鬼太郎の本当の年は砂かけババアはおろか鬼太郎自身も知らないらしい。
「そんな妖怪がせいぜい百年しか生きられない人間といつまでもうまくいくとは限らん」しかもその間、妖怪の姿は変わらない。そればかりではない。開発や都市化が進む人間の世界に住むことは妖怪にとって難しくなる一方である。かといって便利に慣れている人間が、長年に亘りこの森の中で過ごすことに耐えられるのか。
「でも、二人は・・・」好き合っているんでしょう、と言いかけて思いとどまった。今のところは鬼太郎の片思いらしい。そもそも認めたくなかった、というべきか。
「まあ、あまりのんびりする時間はないじゃろう。しかし、お主がヒナギクを人間の世界に連れ帰り、鬼太郎はネコ娘と結ばれる。それが最も望ましく相応しいかたちだとわしは思うがのう」

どっこいしょ、と砂かけババアは腰を上げた。
背を向けて歩き出した砂かけババアが振り向いた。「あの花、摘んでくれんかの」
わけがわからないが、ハヤテは深く考えず茎を一本折った。が、声を上げた。茎の折り口から流れているのはまるで血のような赤い液だった。
(確かにデイジーそっくりだけど・・・違うんだ・・・)
そっと歩み寄ってきた砂かけババアは、ハヤテの手からデイジーに似た花を抜き取り、折り口を元の茎に戻した。
あっと驚いた。その花は何もなかったように茎にくっついていた。
「お前さんは知っているかの?男が好きな女と結ばれることを『手折る(たおる)』と言うのじゃよ」砂かけババアの声がずっと遠くから届いてくるような気がした。
「本物のヒナギクを手折るのは鬼太郎かの、お主かの。じゃが忘れてはいかん。ヒナギクは人間なんじゃ」
(鬼太郎と僕・・・どちらか・・・。砂かけババアさんは僕に言っているんだ。ヒナギクさんは人なんだから僕が・・・人の手で手折ってみろ、と)

ヒナギクが選ぶのは鬼か人か・・・。砂かけババアがわざわざこんな話をするということは、まだ望みはあるのだろう。
だとすると、ヒナギクの髪を切った理由も、あながち自惚ればかりではないかもしれない。ヒナギクがあの自慢の髪をいつばっさりと切ったのかはわからないが、ハヤテと別れた時、と考えるのが自然だろう。そして二年経った今でもそのままなのだ。
萎えかけた心が戻っていくようだった。
勇気をもらった、そんな気がした。

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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.11 )
日時: 2019/06/20 23:29
名前: masa

どうもmasaです。


成程、鬼太郎とヒナギクが恋仲っと言うのは猫娘の冗談?だったんですね。
ってか鬼太郎に恋愛って分かるのかな?ネズミ男に渡された結構古いギャルゲーをやらされるまで分からなさそうでしたのに。
まあ、その次の回では相変わらず恋愛が分ってない雰囲気に戻ってましたが。

ハヤテもちゃんと人間らしくヤキモチを妬くんですね。
まあ、以前までのハヤテは鈍感でしたし、アテネとの一件以来鈍くしたみたいな感じでしたし。
2年の空白がまともにさせたのかな?

確かに、人間と妖怪が上手く行く確率は限りなく低いでしょうね。名無しの両親が最もいい例ですね。
それに、人間と妖怪のハーフであるネズミ男も色々あったみたいですし。

最も長く生きた人間はフランス人の女性で122年164日(ただし、疑問は残る)ですが、妖怪じゃこんなのほぼ一瞬でしょうし。
つまり、仮に幸せになれてもそれは「妖怪の尺度」で考えると「花火位一瞬」って考えても問題は無いでしょうしね。

ハヤテにも希望はあるみたいなので、何とか頑張ってほしいですね。
まあ、何とかならなくても、「それはそれ」なんでしょうけど。


(まあ、ハヤテと猫娘の結婚を鬼太郎・ヒナギク夫婦が祝うなんてのも面白いかも何て考えたのは、内緒です。若しくはハヤテとアニエスの結婚を鬼太郎ヒナギク夫婦が祝うのも・・)


では。
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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.12 )
日時: 2019/06/23 22:26
名前: どうふん


masaさんへ


感想ありがとうございます。週末留守にしており、返信が遅れました。ご容赦。


>鬼太郎とヒナギクが恋仲っと言うのは猫娘の冗談?だったんですね。
→ まあ冗談です。それだけじゃないでしょうけど。
  頼もしい戦友でありながら強力な恋敵に、あるいは恋敵を好きな人に、ちょっと意地悪をしてみたくなった・・・そんな黒い気持ちもあったんじゃないかと思います。

>ってか鬼太郎に恋愛って分かるのかな?
 → アニメでは相変わらずわかっていないみたいですね。しかしアニメには登場しないヒナギクさんと出会うことで、恋愛を知ったみたいです。

>ハヤテもちゃんと人間らしくヤキモチを妬くんですね。
 → 何せ原作のハヤテはハーレム展開でしたからね。そもそもヤキモチを焼くような状況にならかったような気が・・・

>確かに、人間と妖怪が上手く行く確率は限りなく低いでしょうね。
→ アニメでは幾つかうまくいった事例はありましたが、やはり難しいでしょうね。砂かけババアが話していたこと以外に、身内との関係もあります。当方としても(例えば)自分の娘が「妖怪と結婚する」と言い出したら必死で止めるでしょう。

>ハヤテにも希望はあるみたいなので、何とか頑張ってほしいですね。
 → 確かに個人的にはハヤテを応援したいですね。今までの当方の作品は全てそれでしたし。  ただし今回は戦争のさなかで恋敵は妖怪で、と不確定要素が多すぎますね。


>ハヤテと猫娘の結婚を鬼太郎・ヒナギク夫婦が祝うなんてのも面白いかも何て考えたのは、内緒です。
→ まあ、いろんな組み合わせが考えられますが・・・。しかし結論は一つです。
ああ、そういえばmasaさんみたく、マルチエンディングにする手があるか・・・。



                                  どうふん
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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.13 )
日時: 2019/06/26 21:12
名前: どうふん


第6話 : アルマゲドン勃発


何事も起こらないまま一週間が過ぎた。ゲゲゲハウスには鬼太郎ファミリーに加え、アニエス、ヒナギク、ハヤテが揃っていた。全員の手元には小豆あらいたちがこしらえた一口饅頭がお茶と共に置いてある。ハヤテがちらちらと目を遣る先で、ヒナギクは口の右半分を歪めるようにそれを齧り、啜っていた。どす黒く焼け爛れている顔の左半分はまともに動いていない。右半分が絶世の美少女であるだけに余計に痛々しかった。ヒナギクはそれを隠そうともしていない。気にするそぶりも見えなかった。


「もしかしたら、奴らの首領・・・バッグベルトだったかの。幹部を全員やられて諦めたんじゃないかのう」子なきジジイの楽観をアニエスは一蹴した。
「バックベアードよ。あいつはメンツを潰されて引き下がるようなタマじゃない。きっとまた仕掛けてくる」
再び沈鬱な空気が漂う中、砂かけババアが尋ねた。「ところで・・・閉じ込めたアデルはどうしとるんじゃ」
全員がアニエスを見た。「会ってないからわからないわね」アニエスはこの話題になると常に素っ気ない口調になる。
ヒナギクがアニエスに声を掛けた。「一度、会ってみたら。私にはよくわからないけど魔女には複雑な事情があるんでしょ。お姉さんにも何か・・・」
「その話はもうやめて!」下を向いたアニエスは、わなわなと震えていた。絶対にイヤだ、と態度が示していた。
「私が会いに行っていい?」え?ヒナギクの声にアニエスは顔を上げた。
「やめた方が・・・。あの女、逆恨みしてヒナギクに何をするかわからないわよ」アデルがヒナギクを傷つけ、その瞬間に打ち倒されたということは聞いていた。もっとも、アデルの攻撃を躱せなかった原因が自分を庇ったためだということは知らない。
「大丈夫よ」自信ありげなヒナギクを全員がまじまじと見た。「アデルはアニエスのお姉さん。それだけは間違いない」

立ち上がったヒナギクをハヤテは追おうとした。が、制止された。
「ここは私に任せて。一対一で話がしたいの」ヒナギクの背中を見送ったハヤテはため息をついて腰を下ろした。
この一週間、ヒナギクに何とか想いを伝えたいと思っているのだが、そのチャンスがない。当のヒナギクも戦いの中、ハヤテばかりか鬼太郎のことさえ、ろくに考える余裕はなさそうだった。
(昔のヒナギクさんもこんな気持ちだったんだろうか)独り相撲を散っているようで脱力感に包まれた。

鬼太郎の頂上の頭髪が逆立って光った。
ハヤテは全員の表情が一変していることに気付いた。「禍々しい妖気じゃ」目玉おやじが叫んだ。



アデルが閉じ込められている結界はゲゲゲハウスから少し離れた森の外れにある。
ヒナギクは結界の中にいるアデルと対峙していた。
先に目を反らしたのはアデルの方だった。ヒナギクの傷から目を背けたのかもしれない。
「お前に魔女の何がわかる」
「わからないから知りたいのよ」アデルは答えず、ふんと鼻を鳴らした。
「あなたはアニエスが可愛いのよね」
アデルがちらり、とヒナギクを見たが、すぐ視線を戻した。「だからどうだという」
「あなたは私を攻撃するときこう言った。『お前さえいなければ』。いなければどうだと言いたかったの」
沈黙するアデルにもう一つ、付け加えた。「あなたは私がアニエスを後ろに庇うのを確かめてから攻撃してきたわね。あれはアニエスを・・・」
「黙れ、黙れ」両耳を手で塞ぎ、アデルが首を左右に激しく振った。「アニエスは無傷で連れ出す必要が・・・あった・・・。魔女はその命をバックベアード様に捧げる。バックベアード様はその力でこの国を支配する。その役割を与えられたのはアニエスだった。それだけ・・・」ヒナギクの瞳がきらりと光った。
「だから・・・自分が身代わりになろうとした。そうじゃないの?」
否定する言葉は出てこなかった。違う、とは言えなかったのだろう。雄弁な自白だった。
ヒナギクは胸が締め付けられるような気がして口ごもった。誰より妹のことを思い遣りつつ空回りしているアデルの姿が自分の姉と重なった。偏愛がもたらす破壊のスケールこそケタが違うが。


だが、そんな感傷など持ちようのない者もいる。
「へっ、何を言ってんだか」吐き捨てるような声がした。「お前さん、バカなのか。そんなもん、ただの自己満足だろ」
「なに・・・?」ネズミ男が近くに寝そべっていた。
「あんたが身代わりになりゃ、アニエスは自由になれるのか。バックベアードの野望とやらは日本で終わるのかい。アニエスは次の機会に取っておこう、と思うのが当たり前じゃねえか」
「だ・・・だが、例えそうだとしても、あと何年かは生き延びることができる。逃げることも逆らうこともできないんだから、せめて・・・」
「笑わすなよ。ほんのちょいと妹の寿命を延ばすためなら日本の妖怪も人間も丸ごと滅んでも構わねえのか。言っとくけどな、日本にはアニエスの仲間や人間の友達だっているんだぜ。もっとも自分のことしか・・・おっと妹のことしか考えられないヤツに友達や仲間の意味なんてわからねえか」
(言ってて恥ずかしくないの?)自分を棚に上げた言い草にツッコミたい気持ちをこらえ、ヒナギクはネズミ男を手で制した。
改めてアデルに向き直った。「アニエスが可哀そうとは思わないの。アニエスは姉も仲間も犠牲にして生き延びるなんて望んじゃいない。逃げられないなら倒せばいいじゃないの。今なら強い味方がいるのよ」
突如として地鳴りのような唸り声が響いた。一転して暗くなった空から火の雨が降り注いだ。


「く、くそ・・・。一体これは」雨あられと降る炎を防ぐ手立てはなく、鬼太郎たちも避けながら逃げ回るしかなかった。
「と、とにかく元凶はどこじゃ。アニエス、つかめないか」
「無理よ。だけどバックベアードの力も無限じゃない。いつまでも続かない」
「反撃はそのあとばいね」
「ここはひとまず散開しないと」
「ぬりかべ・・・」
次第に仲間たちは散り散りとなった。森や仲間たちをを包み込む炎は前回の闘いの比ではなかった。

炎がようやく止んだ。だが禍々しい気配は強くなる一方だった。
「今度は何が来る?」鬼太郎たちは森のあちこちで空を見上げた。
空にヒビが入り、割れ目が広がっていく。その中から現れたのは巨大な黒い球体だった。さらに球が上下に割れて巨大な目と化した。割れたものは瞼であるらしい。その周りに放射状に生えているのは睫毛だろうか。
その目は高らかに笑っていた。どこから発しているのか、口のない目が哄笑していた。
「お前がバックベアードか」鬼太郎はバックベアードを見据えた。
「くくく・・・。鬼太郎とやら。なかなか見事な戦いぶりであったぞ。三人衆にアデルまでことごとく打ち破ったことは褒めてやる」バックベアードの眼球がぎらりと動いた。
「一度ならず繰り返し我に刃を向けた罪は重い。容赦はせぬ、と言いたいところであるが・・・」バックベアードの眼玉が鬼太郎に向いた。「だが、お前ほどの妖怪。ここで殺してしまうのも惜しい。これより私に忠誠を誓うというなら、働きによっては水に流してやってもいいぞ。お前に罪を償う機会を与えてやろう」
悪い話ではあるまい、と言いたげなバックベアードに鬼太郎は怒りを爆発させた。
「これが返事だ」鬼太郎の下駄が巨大な目の中心目掛けて飛んだ。
リモコン下駄は巨大な目を塞いだ瞼にはじき返された。
「なら滅びるるがよい。この島国に生ける者、一人として生かしてはおかぬ」

日本とそして世界の命運を賭けた最終決戦・・・アルマゲドンの火蓋が切られた。


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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.14 )
日時: 2019/06/26 21:48
名前: masa

どうもmasaです。

火傷に関しては、「戦争の真っ只中である」っと言う事を考えれば、気にしてる場合じゃ無いですよね。
昔、とある漫画で「傷つくのが嫌なら戦場に来るな」みたいな事を言ってたキャラがいた気がするので、その通りですよね。

アニメ版では、出て来たばかりの頃は確かにアデル・アニエス姉妹の仲はかなり悪かったですからね。
まあ、その後は色々あって昔みたいな仲良しに戻りましたが。
ヒナギクからすれば姉妹の話はほおっておけないですよね。あの姉妹の過去を考えれば・・ですね。
だからこその、ヒナギクの言葉だったんでしょうし。

まあ尤も、上の兄弟との話はハヤテにも当てはまりますよね。ハヤテがただ1人信用出来たのは兄・イクサだけでしたし。
ハヤテとアデルの話し合いも見てみたいですね(この先あるかもしれませんが)。

ネズミ男の言い草は確かに正論なんですが、あいつの普段の行いを考えると、素直には感心出来ないんですよね。「正論なんだがお前には言われたくない」っていうんですか?

でも、バックベアードを倒すなんて、かなり難しいですけどね。
今期もそうですし、自分が覚えてる範囲でも「超強敵」って印象がかなりありますし。
なんたって「西洋妖怪のボス」ですし。

鬼太郎がバックベアードの提案を飲む訳が無いですよね。ってか「罪を償え」って、おかしいでしょ。「犯罪者を逮捕した警官に「あいつを逮捕した罪を償え」って言うようなもの」ですよね。

さて漸く現れた強敵とハヤテがどう戦っていくか楽しみです。


(まあ、黒椿の力を覚醒させたハヤテが・・。何て妄想したのは内緒ですが)


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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.15 )
日時: 2019/06/27 21:30
名前: どうふん

masaさんへ


 相変わらず素早い感想をありがとうございます。
 それではお返事を。


  >火傷に関しては、「戦争の真っ只中である」っと言う事を考えれば、気にしてる場合じゃ無いですよね。
  → このあたりはやはり、ハヤテとヒナギクさんの戦争に対する意識の差、あるいは目的の違いでしょうね

  >ヒナギクからすれば姉妹の話はほおっておけないですよね。あの姉妹の過去を考えれば・・ですね。だからこその、ヒナギクの言葉だったんでしょうし。
  → まさにその通りです。アデルの妹への屈折した愛情をわかってあげられるのは似たような姉を持つヒナギクさんだけだと思います。
   これは正直、ハヤテでも難しいかと。イクサの弟への愛情は当人や周囲に心配と迷惑を巻き散らす様な代物ではありませんし


  >ネズミ男の言い草は確かに正論なんですが、あいつの普段の行いを考えると、素直には感心出来ないんですよね。
  → 全く金のために「大親友」を平気で陥れる男がよう言うわ。まあそんなことまでアデルにはわからなないでしょうけど。
    ただ、アニメでも、ネズミ男の正論自体は侮れないんですよね。
  
  >でも、バックベアードを倒すなんて、かなり難しいですけどね。
  → 確かに。とはいえ、倒さなければ物語は成り立たないんですよねえ。さて、いかにしてバックベアードを倒そうか。考えている最中です。

  >鬼太郎がバックベアードの提案を飲む訳が無いですよね。ってか「罪を償え」って、おかしいでしょ。
  → まあ何と言いますか。権力者というのは大半が勘違い野郎ですから


                                どうふん

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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.16 )
日時: 2019/06/29 13:37
名前: どうふん


第7話 : ヒーローとして 人として


「鬼太郎、一反木綿。わかっちょっるな。あいつと目を合わせてはいかん」目玉おやじはいち早くバックベアードの目がもつ催眠能力に気付いた。
「はい、父さん」だがそれは相手を見ることなく戦うことを意味していた。
鬼太郎を乗せて飛び回る一反木綿も戸惑っている。何とかバックベアードの横や後ろに回り込もうとするが、バックベアードの動きは素早くそれを許さない。

空中戦とあっては砂かけババアやぬりかべ、ネコ娘たちも手が出せない。
「せめて二手から攻撃できればのう・・・」
「任せて」顔をスス塗れにして駆け寄ってきたアニエスが箒に跨って飛び上がった。鬼太郎の反対側に回り込み、挟み撃ちの態勢をとった。
だが、バックベアードには「束になってこい」と嘲笑う余裕すらあった。バックベアードが目から怪光線を連発すると、二人は防戦一方に追い込まれていた。
「きゃあああ」バックベアードの怪光線がアニエスの箒を直撃した。箒が真っ二つになり、アニエスが空中から墜落していく。
「ちっ。アニエスに怪我させては」バックベアードが舌打ちした。ネコ娘が落下地点に向かって懸命に駆けたが間に合う距離ではない
だが、地面に直撃する寸前、突如現れたアデルが気を失ったアニエスを抱きかかえていた。


先ほど。
ようやく止んだ炎の雨が落下地点の周囲を焼き尽くす中、ヒナギクは唇を噛み、駆けだそうとした。
「待て、ヒナギク」呼び止めたのはアデルだった。「私を出してくれ」
「はあ?」ネズミ男は顔を歪めた。だがそれ以上に驚いたのは、ヒナギクが言われた通りに結界を解いたことである。
アデルが結界から歩み出てきたのを見て、ネズミ男は悲鳴を上げて走り去った。
「アニエスを助けるわよ」
「恩に着る」短く答えたアデルにヒナギクはもう一言告げた。「肝心なことは言葉にしなければ伝わらないわよ」かつての自分がそうだったからこそ、アデルにも気付いてほしかった。
俯いたアデルの背中に4枚の羽根が生えた。飛び去るアデルを見送ったヒナギクはアデルを閉じ込めていた結界に目を遣った。
「きっと・・・間違ってはいなかったはずよね」あの火の雨を浴び、結界が崩れて穴が開いていることには気付いていた。アデルは黙って逃げようと思えば逃げられた。それなのに結界を解かれるまでは決して自分から出ようとはしなかった。
改めてヒナギクはアデルが飛び去ったその先に目を向けた。巨大な目玉が鬼太郎たちと空中で戦っているのが見える。感傷に浸っている場合ではない。すぐに行かないと。
白桜をスノーボードやサーフィンの要領で使えば自分も空を飛べる。その代わり、手元に武器はない。特攻覚悟で体当たりして白桜の剣先を突き立てるしかない、と思い決めた。


白桜を召喚したヒナギクは飛び乗ろうとして立ち止まった。
目の前にハヤテが立っていた。荒い息を吐いて、樹で体を支えていた。
「ヒナギクさん、僕と一緒に戻ってください」
「何言ってるの。私は飛べるんだから先に行ってるわよ」
「違うんです。人の世界に戻ろう、そう言ってるんです」動きを止めたヒナギクに向かい、ハヤテは声をはげました。「僕はあなたが好きです。だからヒナギクさんを連れて帰りたいんです」
絶句したヒナギクがようやく声を絞り出した。「どういう・・・ことなの」


かつてヒナギクは鬼太郎と手をつなぎゲゲゲの森に足を踏み入れた。
ハヤテには告白することができた。ナギの独り立ちもめどがついた。砂かけババアや妖怪たちがナギを見守り、育ててくれるだろう。ちょっとは不安があるが、それは時々でも見に帰ればいい。自分が生きていれば、の話だが。
この選択に悔いはない。そう自分に言い聞かせた。命を落とすことも覚悟した。それ程厳しく、敗北の許されない戦いであることわかっていた。
大切なものを守るためには私が行くしかない。私は正義の味方なんだから・・・。
だからこそ二年近い戦いの間、親や友達とほとんど縁が切れることになっても受け入れた。ハヤテがいきなり戦いに加わったことにも心を乱されまいとした。顔を焼かれて傷ついたことさえも。
今は勝って仲間と日本を守ることが何より優先、そう思っていた。


その意味では。
今ハヤテの告白など聞いている場合ではない。一刻も早く戦場に戻らなければいけない、とはわかっていた。だが動けない。ヒナギクの心が初めて乱れていた。
「ばか・・・。今さら何よ・・・」ようやく絞り出した声が震えていた。
「僕が馬鹿でした・・・。済みません。だけどやっとわかったことがあるんです。お嬢様が一人前になったのを見届けて安心できた時、ヒナギクさんが行方不明になって初めて気づきました。心配で胸が張り裂けそうでした。僕が好きなのはヒナギクさんです。多分・・・いや、きっと・・・ずっと前からそうでした」
ヒナギクは顔を背けて俯いた。左手を上げ、今の今まで平然と晒していた傷を初めて隠した。涙がぼろぼろとこぼれていた。ゲゲゲの森に入って以来、ずっと忘れていたものだった。
「で、でも・・・。私はもう・・・こんなに醜く・・・こんな顔になって・・・」
言いかけたヒナギクをハヤテは遮った。
「ヒナギクさんはヒナギクさんです。誰が何と言おうと傷つこうと世界で一番キレイです。それ以上に素敵です」
ヒナギクの全身からずっと張り続けていた気が抜けていく。へたへたと膝が折れて地に着いた。
ハヤテは泣きたくなった。ヒナギクはやっぱり人だった。正義の味方であろうとし、ヒーローとして振舞っても、やっぱり普通の女の子だった。
そこに安堵する気持ちも確かにあった。ヒナギクを取り戻した・・・ そう思った。
「これからは僕がヒナギクさんに付き添います。ずっと一緒に」

地に座り込むようにして、両手で顔を覆い、ヒナギクはしゃくりあげた。
ずっと忘れようとして、忘れたつもりだったものが体内から溢れてくるようだった。
ハヤテの腕が自分の背中に回ってくるのに気付いた。その腕に力が籠り、顔がハヤテの胸に押し付けられた。
「ヒナギクさんは今の今まで頑張り過ぎです。もう十分です。もういいじゃないですか」
ハヤテの心臓の音が耳元に響いてくる。全身に力が入らない。身動きさえできない。
ハヤテの腕が緩み、そっと体が離れた。俯いた顔を上に向けたヒナギクにハヤテの顔が近づいてきた。


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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.17 )
日時: 2019/06/29 14:55
名前: masa

どうもmasaです。

やっぱり、バックベアードは強敵ですよね。
以前も言いましたが、「今期・今迄のシリーズ全てにおいて鬼太郎一行を極限まで追い込む敵」ですからね。 まあ、身も蓋も無い事を言っちゃえば、「最終的には鬼太郎達の勝利である」ですが。

アデルは一応は律儀ですね。逃げ出せたのに逃げ出さなかったんですし。まあ、それが良さなのかな?

ヒナギクの行動は間違っては無いですよね。断罪は後ででも出来ますし。
それに、「言葉にしなきゃ分からない」ってのもその通りですね。出しても伝わるか分からないのに。まあ、「自意識と言う言葉を擬人化した大馬鹿野郎」なら、「分かってるよ」なんてバカな事を言い出すかもしれませんが。

ってかハヤテよ、幾ら焦ってるとはいえ、告白のタイミングは変じゃないか?まあ、「ヒナギクが人らしくいる為の最後の機会」ってな意味合いでは正しいんでしょうけど。

ヒナギクは原作でもそうでしたが、「強さはあるけど、心は女の子で無理してそれを押し込めてる」っと言う部分がありますからね。
だからこそ、好きだった?ハヤテからの告白に心が乱れたんでしょうけど。

まあ、傷の一つや二つで「好きと言う気持ち」が変わるようなら、そいつは屑野郎ですね。確かナギが「それは上辺だけを好きになってるに過ぎない」って、どっかの変態に言った気がしますし。

良い雰囲気か!?ってな終わり方ですが、普通に考えたら「誰かしらの邪魔が入って台無し」ってのが普通ですね(たぶんネズミ男)。


(お詫び、ですか? 猫娘(またはアニエス)がハヤテを好きになってしまい、ハヤテの愛人を希望したら「問題がある」っと断られたが「私は妖怪だから人間の常識の範囲外よ」って言って無理やり受け入れさせる。 っと言う妄想をしてしまった事を謝っておきます)


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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.18 )
日時: 2019/06/30 08:26
名前: どうふん


masaさんへ


毎回感想ありがとうございます。第二章の終了まであと2〜3話。これを励みに締めくくりまで頑張ります。


>やっぱり、バックベアードは強敵ですよね。
(中略)まあ、身も蓋も無い事を言っちゃえば、「最終的には鬼太郎達の勝利である」ですが。
→ まあ、そこのところは仕方ないかな、と。当方、ヒナギクさんを不幸にする物語を描く気はさらさらありませんので。

>アデルは一応は律儀ですね。逃げ出せたのに逃げ出さなかったんですし。
 → これは自分なりのケジメでしょうね。ヒナギク(とネズミ男)の話に心を動かされたアデルとしては、ヒナギクさんに敵対する意図はないことをはっきりと伝えたんだと思います。

>ヒナギクの行動は間違っては無いですよね。断罪は後ででも出来ますし。
それに、「言葉にしなきゃ分からない」ってのもその通りですね。
→ ヒナギクさんはアデルのバックベアードと戦っている妹を救いたい気持ちを信じた、ということでしょう。そして自分が妹をどれだけ愛しているか、きちんと伝えなさい、そう言ったわけです。アニエスがアデルのことに触れられるのも嫌がっているのを先ほど目の当たりししたばかりですし。

>ってかハヤテよ、幾ら焦ってるとはいえ、告白のタイミングは変じゃないか?
→ これは当のハヤテから
「そ、そんなことわかってますよ。だけど一週間の間一回もチャンスがなかったんです。それに今ヒナギクさんが行ってしまったら、またどんな目にあうかわからないじゃないですか。だからその前にヒナギクさんを止めたかったんですよ」
はいはい、そのくらいで。ハヤテ君、そう興奮するな。君の気持はわかる。だが、場違いなのは確かだよ。

>ヒナギクは原作でもそうでしたが、「強さはあるけど、心は女の子で無理してそれを押し込めてる」っと言う部分がありますからね。
 → 当方、原作のヒナギクさんが好きですし、キャラは変えたくないですね。そして「無理」できるところがヒナギクさんの凄さだと思います。

>まあ、傷の一つや二つで「好きと言う気持ち」が変わるようなら、そいつは屑野郎ですね。
→ その通りでしょう。ただヒナギクさんの傷は初めて見た人なら完璧に引くレベルです。夫婦や恋人ならまだしも、事実上片思いでありながら心変わりしなかったハヤテはやはり褒めてあげたいです。

>良い雰囲気か!?ってな終わり方ですが、普通に考えたら「誰かしらの邪魔が入って台無し」ってのが普通ですね(たぶんネズミ男)。
 → まあ、これについては・・・。一言だけ申し上げておきますと、ネズミ男は悲鳴を上げて必死に逃げている最中ですので、この場には戻ってきません。


                                          どうふん


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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.19 )
日時: 2019/07/04 21:34
名前: どうふん



第8話 : アルマゲドンの彼方に


アニエスに代わり、アデルが鬼太郎と二手に分かれてバックベアードと空中戦を続けていた。
「鬼太郎。黒目の部分だ。目に痛手を受けて平気な生き物はいない」
もっとも妖怪を生き物と呼んでいいのか。実際目玉おやじは痛手どころか踏みつぶされても平気である。しかしそんなことはどうでもいい。問題はバックベアードの瞼が頑丈すぎるところで、眼球目掛けて叩きつけられるあらゆる武器を撥ね返していた。
「フン、お前がアニエスの身代わりになろうとしていたことはわかっていたがな。私を裏切るほどのアホウとは思わなんだぞ」
しかし箒に跨って飛ぶアニエスに比べ、アデルは背中の羽根で飛んでいる分小回りが利き、バックベアードの攻撃を躱し続けていた。
二人掛かりでも未だ近寄ることができない。しかし口調こそ余裕をみせているバックベアードの動きが、焦りか疲労か次第に荒くなっていた。


「砂かけババア、奴に砂を喰らわすわよ」地上からこの空中戦を見上げているネコ娘が囁いた。
「じゃ、じゃが、どうやってあんな高いところに」鬼太郎ファミリー得意の子泣きジジイのパチンコも通じる距離ではない。そもそも準備に手間が掛かって空中からはすぐ見つかるだろう。
「私に砂壺を貸して。小さくていいから一番強烈な奴を。ぬりかべ、真下まで走るわよ」
ネコ娘の考えが読めた。ぬりかべの頭を、いや肩だろうか、借りて跳躍し、射程距離に潜り込もうというのか。
確かに空中戦はもつれあうように次第に地上に近づいている。チャンスは必ずくる・・・。
ただし使えるのは一度きりだ。

長期戦で疲労の色を隠せない一反木綿の尻尾がバックベアードの怪光線に焼かれた。バランスを失った一反木綿がふらつき、鬼太郎が空中に投げ出された。
「鬼太郎!」地上から悲鳴が上がる。しかし、バックベアードは墜落する鬼太郎を追って高度をさらに下げた。
今だ。今しかない。目の隅で鬼太郎を追いつつ、飛び上がったネコ娘はぬりかべの背中を足場にさらに高く跳んだ。
ネコ娘に気付いたバックベアードの眼玉がぎらりと光った。
「喰らいな!」渾身の力を込めて投擲された砂壺がバックベアードの眼玉に吸い込まれるかに見えた。
だが、バックベアードの眼から怪光線が発せられるのが早かった。壺は届く前に粉々になり、ネコ娘までも吹き飛ばした。
「雑魚が、粋がりおって」勝ち誇ったバックベアードが言い終わる前に、次の砂壺が飛んできた。
ネコ娘のすぐ後ろを飛んでいた砂かけババアが第二弾を放っていた。ぬりかべがバックバアード目掛けて砂かけババアごと投げつけたのだった。
怪光線は間に合わない。バックベアードは瞼を閉じた。だが、破裂した砂壺は砂塵となってバックベアードを包み込んだ。

「うう・・・」瞼の隙間からわずかだが砂粒が入り込んだらしい。目を開けられないバックベアードは砂塵から逃れようと高度を上げた。
「待ちなさい」横手から飛び込んできたのはヒナギクだった。白桜に乗って一直線に向かうその手に、ハヤテが持っていたはずの黒椿が握られていた。
気合いと共に黒椿が瞼の隙間を一文字に切り裂いた。血しぶきが飛び、バックベアードが初めて悲鳴を上げてのたうつように揺れた。
「離れろ、ヒナギク」墜落しかけた鬼太郎の手をアデルが握って空中に浮いていた。
アデルの手にぶら下がったまま鬼太郎は指鉄砲の狙いを定めた。
「鬼太郎。糸よ」
「わかってる」
鬼太郎の指が控えめな閃光を放つや、それは炸裂することなく一本の糸のように細く長い筋となってバックベアード目掛けて伸びた。瞼に跳ね返された光線が次第に照準を合わせ、瞼の僅かな隙間を撃ちぬいた。
再び声を上げたバックベアードだが、これは今までとは違う。断末魔の叫びだった。
のたうち回るバックベアードの姿が歪み、消滅していった。

「やった」アデルに支えられながら鬼太郎が地上に降り立った。その目が最初に捉えたのはヒナギクだった。
「ヒナギク、どこに行ってたんだ。心配したよ」
「みんな、遅くなってごめん」
そこにいる全員が疲労困憊し、また痛手を負っていたが、それでもよろよろと集まり、やっとのことで掴んだ勝利に安堵する声があちこちから上がった。バックベアードに吹っ飛ばされ、血塗れのネコ娘もがその中にいた。
「ところで・・・ハヤテはどうしたかの。ヒナギク、その剣は」砂かけババアが尋ねた。
「ああ・・・ハヤテ君は傷ついて治療のため向こうの世界に戻ったわよ。その時に、私に黒椿を託してくれたの」
「そ、それは一大事じゃ。戦いは終わったことだし、わしがヒーリングを。ヒナギク、案内してくれい」
ヒナギクは首を振った。「ハヤテ君はそんなこと望んじゃいない。そっとしてあげて」
その重い響きに砂かけババアは口を噤んだ。だが何か言いたげだった。
少し離れたところで怒声や罵声が響いてくるのに気付いた。日本妖怪たちが口々に何かを罵っている。そして哀願するような泣き声も。


「こいつらに一体どれだけの仲間が殺られたんだ」
「ゲゲゲの森だって焼け野原になっちまった」
「それはわかる。わかります。だけどあたしの一人きりの姉なの。最後は私たちに味方して戦ってくれたんですから何とか命ばかりは・・・」
「こやつのやったことを考えてみろ。最後に少しくらい協力したからって、罪滅ぼしにはならねえだろ」
日本妖怪たちがアデルを取り囲み、今にも飛び掛かりそうな一触即発の体だった。
黙然と座り込んで俯くアデルの前で、アニエスが膝まづき、姉を助けようと嘆願していた。

「みんな待ってくれ」鬼太郎とヒナギクが二人、輪の中に割り込むように入り、アニエスの前に立った。
「確かに皆の言うことは分かる。だけど、皆、アニエスが僕たちの仲間ということは認めるだろ。アデルはアニエスのたった一人の肉親なんだ」
「私はアデルと二人で話したの。アデルは何とかアニエスを救おうとして悩んだ挙句に暴走したんだということも聞いたのよ。やったことは許されることじゃないけど、決して自分の意志でやったわけじゃないの」
「そもそも僕たち日本妖怪だって、仲間内で際限なく争っていたこともあるじゃないか」
二人が口々にアデルを庇うのを聞き、お互いの顔を見合わせていた妖怪たちの雰囲気が渋々ながら変わり始めた。
「まあ・・・お前たちがそう言うなら・・・」
一人、二人とその場を去っていく妖怪が出始めたとき、アデルが初めて口を開いた。
「鬼太郎、ヒナギク。本当に済まなかった」
「もういいさ。済んだことは。これからゲゲゲの森を元に戻さなきゃいけない。力を貸してくれるか」
「ええ、アニエスと二人きりの家族、大切にしてね」
「大切にしたい。だがそれは私の役目ではない。私の役目はこの森を元に戻すことだ。そしてヒナギク、お前もな」鬼太郎にヒナギクも意味が分からずアデルの顔を見た。
だが、アニエスは悲鳴に近い声を上げ、アデルにしがみついた。

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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.20 )
日時: 2019/07/05 00:55
名前: masa

どうもmasaです。

自身の小説でも言いましたが、書き手は引退しても感想は続けます。


ふと思ったんですけど、アデルってバックベアードに「心をから忠誠を誓っている」って訳じゃ無さそうですよね。って事で、「裏切る」って言い方はなんか違う気が。

まあ、何はともあれバックベアードを倒せて良かったです(まあ、モノによっては「勝ったと喜び合っていた所を死んでなかった敵に攻撃されて重要人物が死ぬ」ってのはありますけどね)。

まあ、ハヤテからすれば少し位は仲良くなった妖怪に治療してもらうってもの悪くは無いんでしょうけど、「人間と妖怪は関わり合いにならない方が良い」ってのが今期の鬼太郎のテーマって感じですし、妥当なのかな?

ってかハヤテとヒナギクに何があったの!? いい雰囲気で終わったのに!?
まあ、それは次回って事でしょうけど。

確かに、アデルとした事は許される事では無いんでしょうけど、本人に贖罪の意思がある以上償って行く事は大変とは言え出来ますよね。
「暴走した正義」って割と色々な所で扱われますし。

アデルはヒナギクに何をするつもりなんでしょうね。 自分の中じゃ候補は幾つかありますが。まあ、邪魔になってしまう恐れもありますから、言いませんけど。

さて、勝った以上はそろそろこの章も終わりでしょうし、ハヤテとヒナギクはどうなるのか!?ヒナギクと鬼太郎達との関係はどうなっていくのか!?楽しみにしてます。

(後、ハヤテの天然ジゴロが猫娘やアニエスに影響を及ぼすのかも気になってますけど)


では。

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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.21 )
日時: 2019/07/05 22:35
名前: どうふん


masaさんへ


感想ありがとうございます。今後もご期待に沿えるよう頑張ります。


>ふと思ったんですけど、アデルってバックベアードに「心をから忠誠を誓っている」って訳じゃ無さそうですよね。って事で、「裏切る」って言い方はなんか違う気が。
→ 権力者、独裁者のありがちな特色として「疑い深い」、っていうのがあるんですよね。結局バックベアードはアデルを始めとする部下たちを全然信じちゃいないと思いますよ。
そんなバックベアードにしてみれば、「裏切り」とは「心情」ではなく「行為」でしょう。アニメではアデルはただ身代わりになろうとしただけでした。しかし本作では自分に歯向かってきたため、この裏切り者め、となったわけです。


>「勝ったと喜び合っていた所を死んでなかった敵に攻撃されて重要人物が死ぬ」ってのはありますけどね
→ 個人的にはブラック〇ンジェルズの松〇鏡二が印象に残っています。まあ、当方、そんなややこしいストーリーは考えておりません。


>まあ、ハヤテからすれば少し位は仲良くなった妖怪に治療してもらうってもの悪くは無いんでしょうけど、
→ これは砂かけババアの気遣いですね。ハヤテとヒナギクを(ひいては鬼太郎とネコ娘を)くっつけたい、という意図がありますから。


>ってかハヤテとヒナギクに何があったの!? いい雰囲気で終わったのに!?まあ、それは次回って事でしょうけど。
→ はい、その通りです。少々お待ち願いたく。


>確かに、アデルとした事は許される事では無いんでしょうけど、本人に贖罪の意思がある以上償って行く事は大変とは言え出来ますよね。
→ アニメで気になったのは、最後にアデルとアニエスの姉妹が旅立つとき、見送るのは鬼太郎ファミリーと犬山まなだけだったということです。やはり、周囲の妖怪たちの反感は強かったのではないかと。



今後の展開について触れておきますと、あと二話で本編は終了します。
ただ、物語は未完成のままですので、第三章へと続きます。そしておそらくはそれが最終章になるかと。


どうふん


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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.22 )
日時: 2019/07/08 21:39
名前: どうふん

第9話 : リバース


「何の役にも・・・立てなかった」ハヤテの遥か先でバックベアードが消滅していくのが見えた。「何のために・・・僕は・・・」
ヒナギクを助けよう、取り戻そうとしてこの世界にやってきた。ナギとの別れ、命を落とすことまで覚悟して。
前回の闘いに加わり時間稼ぎぐらいはしたかもしれないが、それだけだった。目の前でヒナギクが傷つくのを防げなかった。

つい先ほど、ヒナギクに告白し、一緒に人間界に戻ろうと頼んだ。ヒナギクは当初呆然として、そして涙を流した。
だがハヤテの腕の中で震えていたヒナギクはハヤテを手で押し戻した。
「私は行かなきゃいけないの。今、行かなきゃ日本が滅びるかもしれないのよ。あなたの大切なお嬢様も。今、そんな場合じゃないでしょう」きっぱりと言い切ったヒナギクの眼に先ほど見せた迷いはなかった。
それは違う。そんなはずはない。ハヤテは唇を噛み締めた。
この場は引くべきだったろう。だが、今のハヤテにそんな余裕はなかった。
「ヒナギクさん、だったらもう一つだけ教えてください」ハヤテの思い詰めた目に、ヒナギクの顔にも緊張が走る。
「ヒナギクさん、あなたが・・・あなたが髪を切ったのはなぜですか。そのままずっと伸ばさなかったのはなぜですか」最後の命綱であったかもしれない。それがヒナギクの自分への想いの証明だと、信じたかった。
だがヒナギクは気が抜けたように首を傾げた。「戦う時に邪魔になるから・・・だけど」
言葉が出ない。最後の希望があっけなく打ち砕かれたハヤテは呆然としていた。
「あとは・・・いつ敵が襲ってくるかわからないのに長い髪だと手入れに時間がかかるし」ハヤテの反応を見て、もう一つひねり出した答えがこれだった。
やはりヒナギクはヒーローだった。せいぜいが身の回りのことしか考えられない自分がヒナギクに比べてあまりにちっぽけに感じた。
ハヤテの告白はヒナギクをほんの一瞬昔に還しただけだった(やっぱり・・・もう僕の手が届く人じゃない・・・)

ヒナギクは白桜に飛び乗った。
今まさに飛び立とうとするヒナギクにハヤテは黒椿を差し出した。「せめて、これだけでも・・・。白桜に乗ったままでは武器がないでしょう」
ヒナギクが笑った。この世界に来て、初めて見たような気がした。
「ありがとう、ハヤテ君。じゃ、気を付けて帰ってね。みんなに宜しく」別れの言葉だと気付いた。
「ヒナギクさん・・・死なないで下さい。また顔を見せて下さい。本当にみんな心配しているんですから」最後に掛けた声はヒナギクに届いただろうか。そしてヒナギクが戻ってきても、その場に自分はいないだろうと思った。
それでも、まだ何か役に立てるかも・・・思い直して駆けだした時には戦いは終わっていた。
「これから・・・どうしよう・・・」さすがにゲゲゲハウスに戻る気にはなれなかった。かといってもう人間界にも帰る家はない。
また旅に出よう。なに、いつものことじゃないか・・・。ハヤテは踵を返した。肩を落とし、足を引きずるように歩き出した。



「お姉さま。何を、何をするつもり」
「もう・・・わかっているだろう」
「駄目。それは駄目。やっと気持ちが通じたのに。昔の姉妹に戻れたのに」
アデルはさらに力を込めてしがみつくアニエスの肩を抱いた。「私は罪を償わなければならない」
「だ、だから・・・それはゲゲゲの森を」
「そのために最も効果的な方法は知っているであろう、アニエス。魔女の命は破壊と再生、どちらに向けても究極の力となる。そして・・・」アデルは右手を伸ばし、アニエスのペンダントを引きちぎった。糸の先端に輝いているのは母親を含め、歴代魔女の命が籠められているアルカナの指環だった。「多分これが力を貸してくれる」
バックベアードが死んだ今、固く厳しく縛められた指輪の封印が力を失っている。今までどんな打撃を加えてもびくともしなかったが、今ならきっと破壊できる。そして閉じ込められた魔力を再生に向けた力で開放することも。

アデルはアニエスの肩に回していた腕を放した。「こうするしかない。私が今までしてきたことを考えれば。もう取り返しのつかないこともあるが、せめてできる償いだけでも。アニエス・・・今まで一方的な思い込みでお前とお前の仲間を苦しめて済まなかった」
「嫌、それは嫌」泣き叫ぶアニエスはアデルにしがみついたまま離れない。
「私のために泣いてくれるのか。こんな嬉しいことはない。いや、違う。今のお前には仲間がいるんだ。お前がいなくなったら私は一人だがお前は違う。それが何より嬉しくて・・・」アデルはそこで一度、口を噤んだ。
「もう一つ、言わなければならないことがあった。ヒナギクのあの傷はお前を庇ってついたものだ」動きを止めたアニエスを押さえ、アデルは飛び上がった。
「待って。お姉さま。私も一緒に・・・」だが、箒が折れているアニエスには追いかける術がない。
空高く浮かび上がったアデルがアルカナの指環を高く掲げた。その全身が柔らかな光を放ち、鬼太郎たちとゲゲゲの森を包み込んだ。
その光はどこまでも温かく、全身の疲労や傷までが癒えていく。焼け落ちた樹や草が新たに芽を吹き天に向かって伸びてゆく。


光が次第に弱まり消えたとき、アデルもアルカナの指環も跡形がなかった。
ゲゲゲの森は元通り、とはいかないまでも、緑に再び包まれ生き返ったのが感じられた。
心地よさに目を閉じて光を浴びていた鬼太郎は、ヒナギクがしゃがみこんでいるのに気付いた。「どうした、ヒナギク」ヒナギクの周りにだけはまだ光がホタルのように飛び交ってヒナギクを包み込んでいた。
ヒナギクは両手で顔を覆っていた。泣いているのか、それにこの光は・・・傍に行こうとした鬼太郎をヒナギクの右掌が押しとどめた。
そして再び顔を上げたヒナギクが顔から手を放すと、周囲から驚きの声が上がった。あの焼け爛れた傷が消えていた。



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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.23 )
日時: 2019/07/08 22:42
名前: masa

どうもmasaです。


どうやら、ハヤテの告白は見事なまでに砕け散ったみたいですね。
てっきり「戦いが終わったらデートとかしよう」みたいになるかと思いましたが。

まあ、ハヤテからすれば「フラれたから」的な答えを期待したんでしょうね。髪を切った理由の答えは。
まあ、戦う為と戦いに備える為ってのは理に適ってますけど。

ハヤテはどうなるんでしょうね。このままじゃナギと出会う前に戻っちゃいますね。「幸せになる資格なんかない」みたいな辛い日々に。
まあ、そんな事にならない事を期待しますが。

アデルは自分が思った以上の事をしましたね。 てっきり「ヒナギクの傷を消す、若しくは記憶(鬼太郎達に関する事)を消す」かなっと思ってましたから。

自分の中では「償い」は立派に成し遂げたっと思いますよ。結果的にそれが正しかったかは別ですが。
アニメとは別の結末になっちゃいましたね。アルカナの指輪は鬼太郎の手によって砕かれましたが、ここでは「アデルの償いと言う犠牲のもとでの消滅」ですし。

まあでも、ヒナギクの傷が消えた事は良かったです。
この先がどうなるかは分かりませんけど。


(まさかと思いますが、悲しみに暮れるハヤテのもとに「相手に憑依する能力を持った大妖怪」が現れ、支配されたハヤテをヒナギクが鬼太郎達に助力を仰いで大死闘の末助け出すって展開は・・・ないか)


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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.24 )
日時: 2019/07/10 21:55
名前: どうふん


masaさんへ


感想ありがとうございます。

この物語では、ハヤテの天然ジゴロは威力を発揮できていないですね。日常生活を営んでいるうちに鈍ったのかもしれませんが。
失意のハヤテの行き先は・・・これは第三章のお話になります。


今、テレビをつけると仲間由紀恵が出演して「ごくせん」(実写版)を扱っています。
全くの偶然ですが、ヒナギクさんの髪の発想は、実はコレなんです。
なんで「ごくせん」はアクションシーンにわざわざ髪をとくのだろうか。実際、戦いながら髪が顔にかかってやりにくそうでした。
ヒナギクさんにしてみれば当然の話なんですが、これはハヤテの期待を大きく裏切るものでした。それこそ呆然とするほどの。


当方、ゲゲゲの鬼太郎のアニメにはまった人間ですが、このあたりに関しては結末を変えています。
まずアデルは身を挺して妹を救おうとしたのは健気ですが、そのためなら日本を滅ぼしても構わないわけですからとんでもない話です。
それとアルカナの指輪。あれも戦いが終わった時に自然消滅しましたが、これにも何か力が働いていたはずです。
それにヒナギクさんのやけどが魔法で治るのなら、とっくにアニエスがやっているでしょうから、結局、アデルに命を投げ出して贖罪をしてもらわないと話がまとまらないんですよね。


さて、第二章最終話まであと一話。長い闘いがようやく終わり、鬼か人か、ヒナギクさんを巡る物語へと続きます。


それにしても久しぶりに見た仲間由紀恵さんは相変わらず綺麗だったな・・・。


                                どうふん





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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.25 )
日時: 2019/07/15 22:09
名前: どうふん


二年にわたる妖怪大戦争はようやく決着しました。
鬼太郎ファミリーやヒナギクさんの勝利という形で。

しかしそれは新たなる闘いの幕開け・・・というのは冗談です。念のため。
とはいえ、戦闘の終結により、今まで隠れていた火種が噴出してくることになります。
その兆候をもって「鬼か人か 〜第二章」、完結します。

その後については第三章にて



第10話 : それぞれの別れ


「アニエス・・・これは・・・」さしもの目玉おやじも驚いて言葉が出ない。
「アデルが言った通りよ。お姉さまは命を再生に使ったの。でもこれだけの効果があったのは・・・指環の力ね」
何と言っていいのかわからずヒナギクは俯いた。アデルは贖罪のために命を投げ出した。そしてバックベアードに消耗され、悪用される一方でその力を指環に蓄積させていった魔女の命はようやく解放された。

アデルがこうするしかない、と言うのはわかる。これで永年に亘る負の遺産を消滅させることができ,アニエスが人柱とされることもなくなった。
それでもアデルが消えた空を見上げるアニエスの背中を見ていると胸が痛んだ。
「アニエス・・・。何と言っていいのか・・・」ようやくヒナギクは声を振り絞った。
だが、向き直ったアニエスは笑っていた。その顔は涙に濡れてはいたが。
「ねえ、ヒナギク。最後にお姉さまは何を言おうとしたのかわかる?」
え・・・、アニエスがヒナギクに抱き着いていた。
「あなたにありがとうって言っていたのよ」言葉が出ないヒナギクにアニエスは続けた。「それとね、あなたの傷が元通り治って本当に良かった、って」
姉を失ったアニエスなりに気持ちを整理しようとしているのであろう。そしてあえて一人でアデルと会い、姉妹の絆を取り戻してくれたヒナギクへこうした言い回しでお礼を言っている。
そう思うとこれ以上ネガティブなことは言えなかった。
「まあ、何にせよお祝じゃ。飲もう、飲もう」相変わらず短絡的で雰囲気の読めない子泣きジジイである。しかし、この場ではそれが救いになった。

***********************************************************************::

その夜は妖怪たちの酒宴が行われた。
賑やかに浮かれる妖怪ばかりではなく、死んでいった仲間たちを偲んで涙酒に暮れているものも多い。そのため盛り上がりはいま一つであったが、いつ死ぬかもわからない緊張から解放され、全員が安堵の空気に包まれていた。
妖怪大戦争において常に最前線にいた鬼太郎ファミリーも例外ではない。
姉を失ったアニエスや普段は無表情の鬼太郎さえ、力が抜けた様子で表情が緩んでいた。目玉おやじも珍しく鬼太郎の頭を離れ、お猪口を大杯のように抱えて酒をあおっていた。

「ヒナギク。あんたも飲まんかの」子泣きジジイから盃を勧められたヒナギクはちょっと笑って手に取った。
やはり姉譲りでアルコールへの耐性は強いのだろう。一息で空けたヒナギクの顔を子泣きジジイが覗き込んでいた。
「ほ、ほおお。未成年のヒナギクが初めてわしの酒を受けてくれたわい」
「やあね。今日ぐらいは良いじゃないの。それに妖怪の世界に未成年も何もないでしょ」
「そんの通りさ。おっばけは死なあないいいい。未成年も老いぼれもなあい」ネズミ男が調子を合わせて周囲で笑いが起こった。
「もうヒナギクはわしらの仲間ばい」
「ひなぎく、ともだち。ようかいのともだち・・・」一反木綿やぬりかべも浮かれている。
誰も気づかなかったが、一人顔をしかめていたのが砂かけババアだった。


時が過ぎて三々五々。次第にその場の頭数が減っていた。
「子泣き、ええかげんにせんかい。ヒナギク、そろそろお休みした方が良いんじゃないかの。酔いは後でまわってくるものじゃぞ」
「そ、そうね」砂かけババアから声を掛けられ、振り向いた目元が朱く染まりとろんと潤んでいる。初めて飲む酒でほろ酔い風情のヒナギクは普段と違う雰囲気を醸し出していた。
それだけで周囲の目を釘付けにするのに十分だったが、気づくことなくヒナギクがゆらりと立ち上がった。
先ほどまで緩んでいた鬼太郎の顔が固まっていた。明らかに緊張していた。
自分も立ち上がってヒナギクに向かってゆっくりと手を伸ばし、何事かを語り掛けようとして口ごもった。それでも意を決したように唾を呑み込んだ。
だが鬼太郎が口を開くより早く、砂かけババアがヒナギクの肩に手を遣り、森の奥を指さした。「ちょいと、ヒナギク。こちらにいいかの」

「何かしら、砂かけババアさん」意外に遠くまで連れてこられたヒナギクは首を傾げていた。
「なあ、ヒナギク。あんたにはほんとに良くしてもらった。お前さんのお陰で勝つこともできた。じゃが・・・」砂かけバアアはヒナギクに顔を向けた。「ヒナギクは人間なんじゃ。いつまでもわしらの中に居てはいかん・・・そうではないかの」
「どうして・・・居ちゃいけないの?私はもう鬼太郎ファミリーの一員のつもりだったのに。そんなことを言われるなんて心外よ」
ヒナギクの顔から酔いが醒めたように笑みが消えていた。怒りではなく困惑の体だった。
「あんたは立派にわしらの仲間じゃよ。だがな、人間界と縁を切ってしまっていいのかのう。本来あんたのいる場所はあちらじゃないのかな。わしは半分人間界にいる。あんたの友達がどれだけ心配しているかも知っておるぞ」
ヒナギクは沈黙した。砂かけババアは「仲間」とは認めても「ファミリー」とは言わなかった。

砂かけババアは話を続けた。「訪ねてくる分には、わしらはいつだってヒナギクは大歓迎じゃ。だが一度人間界に戻るべきではないかの。そして・・・」
ヒナギクは顔の前で手を振って話を遮った。
「それはわかっているわよ。でもやっと戦いが終わったんだもの。今晩だけは鬼太郎たちと一緒に居させて」
「そうか。それじゃ人間界に戻るんじゃな」砂かけバアアがほっとしたように息をついた。
「待ってくれ」声と共に駆けてくる音がした。鬼太郎だった。切羽詰まった声の響きが二人の動きを止めた。「ヒナギク、帰らないでくれ。これからも僕と一緒にいてくれ」
声が出ないヒナギクに向かう鬼太郎の形相が普通ではなかった。
「言ったじゃないか。『どこだろうとついていく』、って」


 <鬼か人か 〜 第二章:HEROに涙はいらない【完】>


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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.26 )
日時: 2019/07/15 22:46
名前: masa

どうもmasaです。

第二章の完結お疲れさまでした。


まあ、アニエスの気持ちはヒナギクには痛いほど分かるんでしょうね。
もし、雪路がヒナギクの為に同じ事をすれば・・って事を考えれば、ね。

まあ、「空気を読まない」ってのは時には重要なスキルなのかしれませんね。


宴ってのは楽しいイメージがありますが(某海賊漫画の影響)、そう言う気持ちになれない参加者がいるのは事実ですよね。そう言う場合、「献杯」ですね。


砂かけババアの言い分は「正しすぎる程の正論」ですよね。人間と妖怪は本来は関わらない方が最適ですし。
前にも言いましたが、人間と妖怪の寿命何て違い過ぎるほど違いますからね。人間はどんなに頑張っても100年程度が限界ですが、妖怪の中には千年でも二千年でも生きられる輩がいるって聞いた事ありますし。

ってか鬼太郎よ、君のやっている事は「ハヤテと全く同じ」だよ。 「そう言う場合じゃ無い」のに告白?何て。


ヒナギクがどう返事をするのか、ハヤテとヒナギクがどうなるのか、妖怪達とヒナギクとの交流はどうなっていくのか。 以上を楽しみにしつつ、第三章を楽しみにしてますね。


(ついでに言うと、猫娘かアニエスがハヤテの恋仲になるなんて展開も期待しちゃってますけど)


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Re: 鬼か人か 〜 第二章 HEROに涙はいらない ( No.27 )
日時: 2019/07/16 21:03
名前: どうふん


masaさんへ


毎回、感想ありがとうございます。


>まあ、アニエスの気持ちはヒナギクには痛いほど分かるんでしょうね。
もし、雪路がヒナギクの為に同じ事をすれば・・って事を考えれば、ね。
→ 実際に雪路がそこまでやるかはわかりませんが。しかし似たようなことはありましたね。日頃の言動を考えると、なぜそこまでできるのか、それこそギャップが怪奇現象のレベルですが。

>まあ、「空気を読まない」ってのは時には重要なスキルなのかしれませんね。
 → 計算づくなら大したものですが、子泣きはいつだって理由をつけては飲みたがる妖怪ですし、何も考えていないでしょうね。

>宴ってのは楽しいイメージがありますが(某海賊漫画の影響)、そう言う気持ちになれない参加者がいるのは事実ですよね。そう言う場合、「献杯」ですね。
 → 気持ちとしては献杯ではありますが、それでも気分的には開放された空間であったと思いますよ。何といっても長期に亘る闘いがようやく終わったわけですから。

>砂かけババアの言い分は「正しすぎる程の正論」ですよね。人間と妖怪は本来は関わらない方が最適ですし。
→ 「正論」です。間違いなく。ただし、それを超越したものがあるかどうかは次章にて

>ってか鬼太郎よ、君のやっている事は「ハヤテと全く同じ」だよ。 「そう言う場合じゃ無い」のに告白?何て。
 → ハヤテも似たようなものですが、鬼太郎もヒナギクさんが自分を好きだと思い込んでいるんですよね。そのヒナギクさんが人間界に帰る、と聞いて驚き慌ててしまったわけです。
これまた場違いな告白なんですが。
もちろん、当人には告白の意識はありません。とっくに済ませたつもりですから(第一章 冒頭参照)。

>ヒナギクがどう返事をするのか、ハヤテとヒナギクがどうなるのか、妖怪達とヒナギクとの交流はどうなっていくのか。
→ ご賢察のとおりです。第三章はその3点がポイントになります。

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