ご注文は…お肉…ですわ…! ( No.1 ) |
- 日時: 2019/02/28 00:18
- 名前: ロッキー・ラックーン
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
面白そうなリレー小説板を管理人さんが上げてくれましたので乗っからせて頂きました。 登場キャラはほぼ未成年なのでお酒は飲めませんが、至福のひと時は過ごせてもらったかと思います。
登場するカップルはヒナギクとハヤテ、私の長らく放置している連載のほうの関係性のままです。ということは…あの超絶きゃわゆいお姫様は登場不可避なのはお察しいただけるかと…。
それではどーぞ!
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--あぁ…それにしても肉が欲しいですわ…!--
【ご注文は…お肉…ですわ…!】
「……」
「ん?どうしたんですかヒナ…」
私、桂ヒナギクは生まれながら心中に…怪物を飼っている。いや、それは怪物というよりむしろ…邪神…!
「いや…ハヤテ、今『肉が欲しい』とかなんとか言ってないわよね?」
「え…?言ってませんが…」
「そう…ならいいの」
「はあ…」
ということは…まさか今の声は…! この邪神、普段は寝てばっかりのグータラで、どっかの誰かさんそっくりなのだけど…私がお肉をお腹一杯に食さない期間がある程度を超えると…
--ヒ…ナ…!--
き、聞こえた!今度は間違いなく…!
--ササ…ゲ…ヨ…!肉を私に…捧げるのですわ…!--
--カルビ…タン…ハラミ…ステーキ…ローストビーフ…ですわ…!--
起きた…数ヶ月ぶりに私の中の邪神…! とどのつまり…【肉を食べたい欲】が…!!
--スキヤキ…しゃぶしゃぶ…ですわ…!--
ぐっ…!早く肉を食べて黙らせないと…!
◆
しかし、その日の夕食…なんと…焼き鯖…!そうそうタイミング良く肉は出ないわね…。
「ヒナちゃん、お箸が進んでないけど大丈夫?体調でも悪いのかしら?」
「あ"…なんでもないわ。ちょっと考え事を…」
「ヒナ…食欲が無かったらその焼き鯖は私が食べて差し上げますわよ?」
「何言ってるのアリス!お腹ペコペコよ!考え事はあとにするわ!」
「なーんだ。てっきり鯖じゃなくてお肉が食べたいとでも考えてるのかと思いましたわ」
ぐっ…この邪神…鋭い…!まるでアダムとイヴをそそのかす…蛇…蛇め…!
「何をテキトーな事言ってるのよ!私がお義母さんの作った焼き魚ダイスキなの知ってるでしょ?いただきまーす!」
「いやーホントお義母様の焼き魚は絶品ですね、ヒナ。ご飯がいくらでも進みます!」
「そ、そうね」
「ご飯おかわり!ですわ!」
◆
なんとか夕食をやり過ごしたものの…止まらない…邪神の勢い…!
--特上カルビ…サンカク…サガリ…カイノミ…ですわ…!--
どうやら邪神のご所望…牛の肉…! 明日は土曜…そして取った…先週の剣道の都大会…個人戦…入賞…! お義母さんたちにお祝いを開いてくれると言われてるから…多少は無理が利くわ…贅沢な注文…! ならば、いつぞやにハヤテが皆を連れて行ってくれた焼肉屋さんに…!
--スブタ…トンカツ…しょうが焼き…ですわ…!--
え…!?
--から揚げ…焼き鳥…フライドチキン…トリサシ…ですわ…!--
増えてる…邪神のご所望…!まさか…夕食に魚を食した事で…買ってしまったの…?邪神の怒りを…!
--手羽から…ドネルケバブ…ジンギスカン…ですわ…!--
ぐっ…ダメ…!この飢えは焼肉でチンタラ焼いていたのでは…間に合わない…とても…!
「そういえば、ヒナちゃん明日のお祝いで食べたいもの決まったかしら?」
「お義母さん…その件なんだけど、リクエストしてもいいかしら…外食を…!」
「ん、良いわよ良いわよぉ!珍しいわね、ヒナちゃんが外食のリクエストなんて…。どこに行きたいの?」
「え〜っとね、4人だとちょっと出費がかさんじゃうかも…」
「な〜に言ってるの!お祝いなんだし、子どもは食べたいものをリクエストすればいいの!お母さんにまっかせなさ〜い!」
「娘にもまっかせなさ〜い、ですわ!」
「彼氏にもまっかせなさ〜い、ですよ!」
「そう…?じゃあお言葉に甘えて…」
こうなればもう…行くしかない…あそこに…!
◆
「いらっしゃいませー!」
「18時に予約した桂ですが…」
「ハイ!ご予約の桂様ですね!こちらへどうぞ!」
「わぁ〜、僕シュラスコって初めてです!ヒナは行った事あるんですか?」
「ううん、私も初めて。美希におすすめされたからちょっと興味あったの」
私がリクエストしたのは…食べ放題レストラン…ブラジル式のBBQ…シュラスコ…! 飢えに飢えている邪神を満足させるためには欠かせない…食べ放題システム…! そしてこの邪神、味にも間違いなくうるさいだろうというのも予測し…選ばざるを得ない…それなりの値段帯の店を…! ここは、生粋のお嬢様の美希のおすすめ…!敷地は一流のホテル内…!味については、食べられればなんでも美味しいという泉ですらが「一味違う」とのたまったほど…!せざるを得ない…期待を…!
「失礼します…まずはご注文の…サーロインステーキです」
「わぁ〜!おいしそうですね、ヒナ!」
「そうね!」
「こんなの…うまいに決まってるじゃないですかぁ〜ってヤツですわね」
フフフ、来たわ…肉…!まずはステーキの王様…サーロイン…!
「さぁ、最初は一番真ん中の美味しい所をヒナが食べてくださいまし」
「え、いいの!?」
「ヒナのお祝いなんですから、まずはヒナが食べてくださいよ!ねえ、お義母様」
「うん!食べ放題だけど、最初はヒナちゃんからよ!」
「多分くるとは思ってたけど…。みんなほんっ…とに優しいのね」
「…喰うんだ!ですわ!」
「うん…じゃあ…いただきます!」
ガプ…ギュウウウウウ…ナポ…モニュ…モグ…モニュ…モニュ…
垂涎のステーキ…至福の食感…圧倒的存在感…悪魔的な旨みのソース…! これだ…私が求めていたのはこれだったのよ…!
--ウマイ…ですわ…!--
でしょ? 流石の邪神も、このステーキには納得をしてくれたようね。
「ヒナちゃんどう?おいしい?」
「うん、すっごく!みんなも食べて食べて!」
「言われなくてもいただきますわ」
「じゃあ僕も、いただきます!」
「私もいただきま〜す!」
「「「ウマイ!(ですわ)」」」
みんなも嬉しそうに肉を頬張って、とっても幸せ!
--…もっと…もっと肉を持ってくるのですわ…!--
はいはい…。このお店は放っておいても店員さんが肉をどんどん持ってきて、欲しいだけ切り分けてくれるシステム…! だから私は…それに身を委ねるだけ…!
「失礼します、ピカーニャはいかがでしょうか?」
おっ…ピカーニャって確か…牛のお尻の部分…イチボ…!
「あ、それくださーい!」
「ハイ、どうぞ!」
モグ…モニュ…
--オイシイ…オイシイ…ですわ…!--
「オンブロ・デ・ポルコ(豚肩ロース)です」
「ください!」
モグ…モニュ…
--ウマイ…もっと…ですわ!--
「フランゴ(鶏もも)です」
「ください!」
モグ…モニュ…
--んまっ…このソース…合う…ですわ…!--
そう、シュラスコを選んだ理由…自分で焼く必要が無いのもそうだけど…ある…たくさん…肉の種類が…! 牛・豚・鶏と、それぞれ様々な肉の部位を堪能できるのもこのシュラスコの魅力…!
--かけなさい…バルサミコソース…ですわ…!--
はいはい
--合う…こっちにも…ですわ…!--
はいはい
気づけば…まるで猛獣使い…!沈静…獰猛な邪神を…! フフフ…よーし、そろそろサラダバーにでも…!
--なりませんわ…!--
え?
--野菜などいいですわ…!草など、牛が食べてるんだから、それを食べる貴女が食べているも同じ…!肉…もっと肉…ですわ…!--
でも…栄養バランスが…
--そんな貴女の都合…知ったこっちゃない…ですわ…!--
ぐっ…やはり邪神ね…一筋縄では…! こうなったら肉だけで思いっきりお腹一杯に…!
ナポ…モニュ…モニュ…カチャ…モニュ…モニュ…
「よ・く・喰・い・ま・す・わ・ねェ〜〜〜〜〜〜〜!」
「本来ヒナの食欲は桁外れなはずなのに、圧倒的な克己心のせいでそれを発散する事もほとんど無い…こうしてたまァ〜に見せてくれる一杯食べる姿…僕は大好きですよ。あの食べっぷりを見てる時が僕の至福のひと時です」
「相変わらずい〜〜〜〜〜い彼氏してるわねェ、ハヤテ君は」
「え〜そうですかァ〜?それほどでも〜…」
モグ…モニュ…モニュ…モニュ…モニュ…
--良いですわ…ヒナ…!私は満足しましたわ…あとは…アサイーヨーグルトでも…ライチでも…好きなものを食べるが良いですわ…!--
「……」
フフ…では…お言葉に甘えて… ガプ…ギュウウウウウ…ナポ…モニュ…モグ…モニュ…モニュ…
--ヒナ…!貴女…なにを…!?--
フフ…好きなものを食べて良いって言ったから…頬張っているのよ…肉を…!
--な…もういい…適量ですわ…!十分私は…--
いやいや、ダメよ…!欲望の発散というのは…小出しはダメ…! いけるトコまでいかないと…でないと貴女…また暴れだすでしょ?
--うっ…しかし貴女にも限界が…アッ!貴女そのグラス…いつの間に…!--
グビッ…ゴクッ…ゴキュッ…ゴキュッ…
そう、肉の脂はおいしいけどたくさん食べると重い…!そこで…リセット…ドリンクバー…黒烏龍茶…! 肉と黒烏龍茶の無限ループ…これであと500グラムは食べられる…!
--ヒナ…分かりましたからもう止めるんですわ…!これ以上はもう…!--
モニュ…モグ…モニュ…モニュ…
--ウ…グ…もうダメですわ…!覚えてろ、これで勝ったと思うなよ…ですわ…!--
邪神退散…大勝利…勝者…私…桂ヒナギク!
「ふゥ〜お肉はそろそろ適量かしら…」
「たくさん食べたわねぇ〜ヒナちゃん!」
「800グラムも食べて適量だなんて…相変わらずの食欲ゴリラですわ」
「まあまあ…ヒナが満足そうで僕は嬉しいですよ」
ホント久々に欲望のままに食べたわね…。ハヤテにふさわしい女の子であるために、明日からまた節制しないと…!
--…フフフ…ですわ…!--
「……!?」
--ショートケーキ…シュークリーム…プリン…エクレア…どら焼き…ですわ!--
ぐ…肉に満足した瞬間に現れたわね…!
--今度は私が相手してあげますわ…ヒナ…!--
仕方ない、こうなったら…!
「あのね、みんな…。このホテル…スイーツのビュッフェの店も良いトコがあるらしいんだけど…」
「ファッ!?あれだけお肉を食べといて、まだ食べるんですのヒナ!?」
「良いわよ良いわよぉ!もうヒナちゃんが行きたい所ぜ〜んぶ行っちゃいましょう!」
「家族でスイーツビュッフェ…これもまた至福…ですね」
新たな邪神現る…【スイーツ食べたい欲】…! 桂ヒナギク…開始…第2回戦…!!
【おわり】
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【あとがき】
ホンマにやりたい放題…。ありがとうございました。 最近ハマっています「カイジ」シリーズスピンオフ「1日外出録ハンチョウ」のエピソードをモチーフにしました。ハンチョウがおいしそうに食べるのもありますが、休暇を過ごす心構え的なものが非常に刺さるのでオススメです。 やたらと福本的倒置法を使うヒナギクが書いてて楽しかった…! 邪神のイメージはもちろんアリスちゃんです。絶対きゃわゆい…! そして、食べる音などところどころに挟まっているのはご存知「バキ」シリーズから。あの作品のステーキが美味しそうなんですよ!
さて、シュラスコ食べ放題…。行ってみたいトコの一つです。食べ放題ではない所で自分でオーダーするスタイルの店には行ったことがありましたが(そこも美味しかったです)、どんどん持ってきてくれるスタイルは憧れますね。
さて、一番手を飾りたくて睡眠時間を削ってやっつけさせて頂きました。 色々と事故なんかもあったようですが、ご愛嬌。寛容な精神ってヤツが大事ですね。 他の皆さんのお酒エピソードを楽しみにしています。 それでは失礼しました。
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Re: (リレー小説)カップルがお酒を飲んでイチャイチャする話 ( No.2 ) |
- 日時: 2019/03/03 10:38
- 名前: どうふん
- ロッキー・ラックーンさん
ご無沙汰してます。 当方、書き込みすることもなくなっておりましたが、今でもちょくちょく立ち寄っております。
小さな子がお腹一杯に食べ物を詰め込む姿は男女問わず可愛いですが、幸せそうに食べる女性にも心癒されます。ハヤテの気持ちもわかる・・・。 さながら「うる〇やつら」のサクラさんを思わせるヒナギクさんの食べっぷりに脱帽です。ただサクラさんの場合、さほど味を気にしているようには思えないので、この邪神(群)はもっとタチが悪いかもしれませんね。
ところで、ハヤテも大食いだったと思いますが、優等生的な発言の一方で、ヒナギクさんに負けじと肉を頬張っていたのではないかな・・・。 ヒナギクさんは邪神との戦いに頭が一杯で、気付いていなかったようですが。
どうふん
P.S. 最近、ふと思い立って二次創作を再開しました。とはいえネタが「ハヤテのごとく」単体ではないので、今回は別の場所に投稿してみるか、などと考えておりましたが、ロッキーさんの新作を久々に読んで気が変わりました。近日中に新スレッドの立ち上げを予定してます。
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レス返し ( No.3 ) |
- 日時: 2019/03/05 01:49
- 名前: ロッキー・ラックーン
- >どうふんさん
ご無沙汰してます。ご感想ありがとうございます。 幸せそうに食べる女性は良いのですが、昨今のグルメマンガにありがちな、今にもどこかに逝ってしまいそうな顔などの表現は過剰かなと思う今日この頃です。 ヒナギクの大食いという設定は実は原作にもあったりしますが、32巻のラーメンを食べに行く話で千桜さんが引くような注文をしている所くらいで、特にフォーカスされるエピソードって無かったですよね。色々要素を詰め込まれてるヒナギクですが、なかなか活かされませんでしたね。まさに「競うな 持ち味をイカせッッ」と言いたいキャラクターだったなと今更ながら。
ハヤテも、アリスちゃんも、己の限界まで肉を食べてたかと思います。それを見守るお義母様が一番の至福を感じていたのではないかと。ちなみに「お母さんにまっかせなさ〜い!」の部分は誤字ではありません。ここでは大きな意味はありませんが…。 「イチャイチャする話」とされながらも全然書いてないのは邪神のイメージがアリスちゃんだからだというのをお察しいただければ幸いです。
さて、二次創作再開とのことで、楽しみにしています。このスレにもぜひ投稿してもらえたらなァ〜…なんて言葉も残させて頂きます。
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Re: (リレー小説)カップルがお酒を飲んでイチャイチャする話 ( No.4 ) |
- 日時: 2019/03/25 18:08
- 名前: 彗星
- こんにちは。彗星です。
なんとなく覗いてみたら面白そうな企画をやっていたのでなんとなく書いてみました。 SSを書くなんてものすごーく久しぶりで、なんだかうまく書けませんでしたが、楽しんでもらえると幸いです。
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「桂ちゃーん、この後、みんなで飲むけどどう? ちょっと遅いけど、新年会みたいな感じでさ」
プレミアムフライデー、と言うのだろう。年も明けてから一月が経つかという金曜日のことだ。アルバイト先の社員さんにそう誘われた。 彼の隣には口だけで「タダ酒、タダ酒だよ!」と伝えてくる同僚の姿がある。タダより美味い酒は無い、とかつて言い切ったのは誰だっただろうか。身内を思い出して少し懐かしい気持ちになりつつも私は首を振った。
「すみません、明日は朝早くから研究室に顔出さなきゃ行けなくて……」 「あちゃー、それはダメだね」
じゃあ、また暇なときにでも飲もうね。 そう言って残念そうな顔を浮かべる社員さんには少し申し訳ない気持ちになる。同僚に至ってはタダ酒なのに信じられない、と目と口を丸くしていた。なんとも憎めない人達である。 そんな彼らと駅で別れ、私は帰宅ラッシュで混み合う地下鉄に乗り込んだ。銀色の車体に紺と赤のライン。大学に進学してから乗り始めた路線だが、人で溢れるホームもぎゅうぎゅうに押し込まれた車内も、もうすっかり慣れたものになってしまった。 ――もう、二十二だもんなあ。 大学に入学して四年が経って、更に一年。あと一月で二十三になる。サークル活動にアルバイト、研究としていたら、気づけば高校を卒業して五年の月日が流れていたのだ。
「……っと、忘れてた」
スマートフォンで時刻を見ると、もう既に十九時を回っていた。この時間ならば、恐らく同居人も家に帰ってきてることだろう。 LINEでささっともうすぐ帰る旨を伝えると、すぐに可愛らしいスタンプが送られてきた。料理中のキャラクターが描かれているから、きっとご飯を作ってくれているのだろう。美味しい夕食を想像して、思わず喉を鳴らした。
「早く帰りたい……」
こういう日の電車ほど、なんだか遅く感じるのは気のせいだろうか。
☆
「ただいまー」
ようやく家に帰り着いて、扉を開ける。 すると、まずぱちぱちと弾ける油の音が耳に届いた。次いで、肉の揚がる香ばしい匂い。唾液が口に広がって、ぐぅ、とお腹が鳴った。 今夜は揚げ物だ。思わぬご馳走に胸が踊る。 逸る足を抑えて廊下を抜け、真っ先にキッチンへ向かった。トンカツ、チキンカツ、いや待てもしかしたら串カツか? 献立候補が次から次へと浮かんでは消えずにぐるぐる回り、さながら脳内メリーゴーランドとなって私の思考を染め上げていく。もうお腹はぺこぺこだ。 キッチンの戸を開ける。
「ねえ、今日の晩ごはんなに?!」 「からあげだよ、ヒナさん」
開口一番叫んだ私に、西沢歩はぐっと親指を立てそう答えたのだった。
☆
私の同居人、西沢歩はこう語る。 二十代女子なら、からあげをお腹いっぱい食べたくなるときがあるんじゃないかな、かな。
「とはいえ、これは揚げすぎなんじゃない……?」
揚げに揚げたり千五百グラム。私の目の前には文字通り山となった唐揚げが積み上がっていた。
「でも食欲が高校生男子のヒナさんがいるし……」 「誰が高校生男子の食欲よ、誰が。さすがに高校生男子の方が食べるわよ」 「いや、ヒナさん私の弟よりいっぱい食べてるんじゃないかな」
失礼な。さすがに私だって女の子なんだからそんなに食べないわよ。仮に食べたとしてもそれはすごくお腹が減ってたから。それか料理が美味しかったから。うん、多分そう。 そう言い訳して、私は改めてからあげに向き直った。いやはや、なんとも美味しそうなからあげだ。 二人でいただきますと手を合わせ、我先にと手を伸ばす。箸と衣が擦れてかさりと音が鳴った。 手元に引き寄せ、一気に口に放り込む。あまりの熱さに舌の上で転がしながら、薄くパリッとしたきつね色の衣を裂きぷりっとした肉を噛みしめた。一回二回と咀嚼するたびに肉汁がじわりと広がって、あっという間に口に中から消えてしまう。 すかさずもう一つ。今度はゆっくり、味わうように。下味で付けられた醤油のしょっぱさと、食欲をそそるガーリックの匂いが鼻を抜けた。 美味しい。本当に美味しいものを食べたときは無言だと言うけれど、まさにその通り。二人してあつあつのご飯とからあげを黙々と口に運ぶ。 ――あぁ、でも。
「ビール……」
からあげの塩気で喉が乾いたからだろう。そんな呟きが思わず漏れた。ホップの苦味と炭酸の刺激。麦酒独特の味と香りを思い出す。
「ふふふ、ビールなら冷やしてあるよ」 「うーん、でも、明日朝早いのよね。朝から研究室に行かなきゃいけないし……」
そんな私のつぶやきを耳ざとく拾い、得意げな顔を浮かべる歩。その言葉に私は少し口ごもった。 お酒は好きだ。少し陽気になれるし、ふわふわとした感覚も嫌いじゃない。飲み会だって、お酒が入ればなんだか本音で話せる気がして、むしろ好きなくらいだ。それでも、明日朝が早いからというのは関係なく、お酒を飲むことを躊躇う自分がいた。
「ふーん……?」
そんな私を歩は不思議そうに眺めながら、ぽいぽいっと口のなかにからあげを詰めていく。頬を膨らませもしゃもしゃと食べるその姿はまるでハムスターのようだ。それをごくりと飲み込んで、おもむろに立ち上がって台所へと向かう。 ――原因は分かっているのよね。 そんな歩を目で追いながら、私はそう呟いた。 なんとなく、お酒を飲めない理由。怖いのだ。酔っ払って、迷惑をかけてしまうのではないか。何か取り返しのつかないことをしてしまうのではないか。あの人達のように、理性で幾ら押さえつけたとしても、己に流れる血が全てを台無しにしてしまうのではないか……
「――シャンディガフです」
テーブルをグラスが打つ音と、歩の言葉で沈み込んだ意識がふっと浮き上がる。丸みを帯び縦に長いグラスに黄金色がなみなみと注がれていた。水底からは次から次へと気泡が浮きたち、それらが出ていかぬよう最上部では白い泡が蓋をしている。グラスの表面は水滴で濡れていて、程よく冷えていることがよく分かった。
「え……」 「これなら、酔わないと思うよ」
そう言って、歩はばちりと下手なウインクを寄越した。その姿に思わず笑みが漏れる。私の気持ちを知ってか知らずか、度数の低いカクテルを作ってくれた歩に心がほうっと温かい。
「ちょ、なに笑ってるのかな?!」 「ううん、なんでもない。じゃあ、貰うわね」
グラスを口元に持っていき、傾ける。 シャンディガフはビールとジンジャーエールで作られるカクテルだ。口に入れるとビール特有のホップの苦みではなく、爽やかな甘みが広がった。後を追うように、ジンジャーがピリッと舌を刺激する。 一口、二口と続けて飲み、からあげを食べる。そしてシャンディガフ。口の中の塩気や油と一緒に、さっきまで感じていた恐怖も流れ去っていくような感じがした。きっと、この恐怖はしばらく無くなりはしないのだろう。それでも、彼女のような人がいてくれたら。その日は、今日のように心置きなくお酒が楽しめるような、そんな気が、した。
「ほんと、おいしいわね。からあげも、お酒も」 「でしょー! いやー、料理上手になっちゃったんじゃないかな?!」
あぁ、なんと言えばいいのだろう。 美味しいからあげに、シャンディガフ。そして気の置けない友人。まさに……
「しふくぅぅぅぅぅぅ」
思わず、そんな言葉が漏れたのだった。
=====================
と、いうわけでハムヒナです。 お酒、というテーマで考えたらこれしか出てきませんでした。 あとでよく見たらカップルがイチャイチャする話って書いてあったんですけど、カップルって二人組ってことですよね?(すっとぼけ)
それではー☆
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