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壁(一話完結)
日時: 2018/07/14 11:24
名前:
蒼紫
煌びやかに光る装飾を見ていた。
装飾のシルエットに従って目を滑らせていた。
黄金色と銀色をぎらつかせている装飾には一流の職人が凝らしたであろう模様が刻まれていて、よくこれを作るものだと感心していた。
いや、感心している体の方がいいのだろうと考えていた。
装飾の知識について一流のものから、そうでないものまで判別できる知見を有していた。
だから、今目の前に飾られている装飾がいかに優れているかを知っていた。
しかし、それの値が張ろうとも、歴史的価値があろうとも、卓越した技術で成り立っていようとも、関心がなかった。
それは過去の経験からすでにありふれていたものの一つにすぎなかった。
「ナギ、部屋へ戻りましょう」
左後方から声が聞こえた。ナギは声の主が誰かを知っていたため、振り向く気にもならず、装飾に関心がある風を保ちながら、前方を凝視した。
実際、彼女はこちらを説得しなければならないことを理解していた。
だから、このまま黙っていても事態は改善しないこともわかっていた。
「あなたは三千院家の令嬢なのですから、社会的な関心が強いのです。こんな所でぼうとしている暇がないことぐらいはわかってるでしょう」
「ええ」
「それなら、早くいきましょう。待っている人がいます」
彼女はナギの腕をつかんだ。
そしてナギはその力のあるがまま、歩き始めた。
彼女の後ろ姿が見える。
そこでナギはマリアを視認した。
マリアの背丈はナギより20センチは高い。
自分の左腕からはマリアの腕が伸びていて、それがそのまま上に滑るとやけに生真面目な顔つきとマリアを飾り付けているメイド服が見えた。
それもまた一流品であることをナギは知っている。服もそのメイドもだ。
マリアは一流の服で飾られ、一流の勉学で鍛えられ、一流の仕事で人間らしさを獲得させられていた。
その分、マリアはひどく生真面目さを拗らせているように見える。
いくつか年は離れていたが、マリアもまだ見た目は子供だった。
マリアは白皇高校に飛び級で進学しており、若干13歳で生徒会長を務めている。
優秀なんだろう。これからのことを考えるとぞっとした。
私はこれからどこにいくのだろうか。
目の前に壁がある。
マリアは壁についた取っ手を押す。
壁が割れると装飾と赤い敷物がやけに主張した。
人の話し声がする。
彼女はメイド服の紺を睨みつけた。
人がこちらを見ている気がした。
目の前の紺が消えた。
マリアはナギを前に押し出していた。
「遅れまして申し訳ないことです。三千院ナギです」
体に染みついた動きをしながら言った。
「あら、ナギちゃん。立派になったわね」
目の前には礼装の紳士と夫人がいた。やけに気取った品のよさそうな人間だった。
夫人はナギのことを懐かしさと嬉しさが混ざったような目で見つめていた。
「君はとても優秀だと聞いているよ」
紳士がこちらを見つめる。
「ええ、もう8歳になりますから」
彼女は笑み浮かべた。
彼女は社交性と誠実さが周囲から求められているような気がした。
「これからもどうぞお見知りおきを」
紳士と夫人はこちらの振る舞いに満足そうだった。
得体のしれない苛立ちが積もった。
ナギは三千院ナギであると思った。
子供らしさを見せないよう、彼女は世間話を続けた。
しばらくすると紳士と夫人は部屋を出ていった。
彼女は紳士と夫人を部屋から見送り、マリアも一緒に部屋から出ていった。
彼女はこれで作られなくて済むと思った。
目の前にある壁を閉じれば、私は作られないのだろうか。
彼女はよくわからなかった。
わからなさだけが疑問符を浮かべ、押し込んだ。
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