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5 years after
日時: 2016/09/20 23:29
名前: 原宿の神




(大分、遅くなっちゃったな・・・・・・)




かばんの中に手を入れ、家の鍵を探りながら、自分には分不相応な高級感漂うマンションの

ドアの前で1人ごちる。



それなりに経験を積み、執事協会からも執事としての実力を認められ始めた今となっては、

本職である三千院ナギお嬢様の執事としての業務のほかに、

こうして稀にくる協会からの依頼のため方々へ出張することもままある。



お嬢様からは「お前は私の執事だろう!協会の連中の言う事なんぞ聞かなくていい!」

と言われてはいるものの、やはり自分の実力を見込んでくれてのことだし、

期待されているのならそれに応えたいと思う。



今回の依頼は三千院家の主催する世界中の著名人が集まるパーティでの給仕や接待が主だったが、

やはり一流の執事が選ばれるだけあって求められる仕事のレベルも相応に高い。

自分としてもいい経験になると思い、渋るお嬢様をいつもどおりマリアさんと二人がかりで

なだめすかして、無事出張に向かった。



そこでは野々村や氷室などの顔見知りを始め、多くの先達に囲まれながら仕事をこなしたが、

大きなミスこそなかったものの、やはりまだまだついていくので精一杯な面もあり、自分が至らない

ことを自覚しつつ、身が引き締まる思いだった。



そうして一連の業務をどうにか予定通りにこなし、屋敷に戻って報告を終えてから帰宅する頃には、

とっくに日付をまたいでいた。



体力には自信があるので肉体的な疲労はさほどでもないものの、やはり一流どころの集まる現場での

仕事は精神的に磨耗するものがあったのだろう。

どこか普段よりも感覚が鈍くなっている自分を感じていた。




(・・・・・・ま、その分やりがいはあるんだけど)




探り当てたカギを取り出して鍵穴に差込みゆっくりと回す。そして、あまり音を立てないよう

注意しながらドアを開けた。



この5年間、さまざまな出来事や想いを共有し、ずっと隣で自分を支えてくれていた彼女は、今頃はもうとっくに

夢の中だろう。

彼女が日々こなしている業務を思えば、下手な真似をして貴重な睡眠時間を妨げるわけにはいかない。



そう思いつつ、靴を脱いで綺麗に揃えてから、できるだけ慎重に玄関から

リビングに向かったところで、リビングのドアから漏れている明かりに気がついた。




「・・・・・・?」




彼女が消し忘れたのかといぶかしく思いながらリビングのドアを開けると、

そこには、とっくにベッドの中にいるはずの彼女が、本を片手にリビングのソファに腰掛けていた。




「あ・・・・・・お帰り、ハヤテ君」




僕を見て、ふわっと優しく笑いながら、彼女は穏やかな口調でそう言った。




「・・・・・・ルカ、さん?」




呆然としながら僕が名前を呼ぶと、彼女はくすっと笑いながら本に栞を挟んで

テーブルの上においてソファから立ち上がった。




「うん、遅くまでご苦労さまだね。・・・・・・あ、ご飯はちゃんと食べた?まだなら何か作るけど」




そう言って僕のほうに近づき、当たり前のように僕の着ていたスーツを

脱がすと、ハンガーにかけて吊るしてから、パンパンとはたいて皺を伸ばした。




「大丈夫です・・・・・・けど・・・・・・まだ、起きてたんですか?」




「まあね。・・・あ、気にしなくていいよ?ただなんとなく寝付けなかっただけだから」




そう言って彼女は笑うが、それが僕を気遣った言葉だということはすぐに分かった。



彼女は多忙な芸能界での仕事の中で、睡眠がいかに大切かをよく心得ている。

その場で最高のパフォーマンスをするために、十分な睡眠をとることも

プロとしての業務の一つ。たとえ寝付けなくても布団に入り横になっている

だけで体は多少なりとも回復する。こんな風に夜更かしをするなんて、

普段の彼女からはありえないことだ。




「・・・・・・明日も、朝早いんでしょう?ダメじゃないですか、無理にでも寝なくちゃ」




「んー?別に大丈夫だよ、慣れてるし。・・・というかハヤテ君?帰ってきたなら、何か言うことはないのかな?」




彼女は僕の顔をのぞきこんで、いたずらっぽく笑う。

その表情を見て、少しだけ胸が高鳴った。




「・・・・・・えっと、あの・・・・・・ただいま、帰りました」




「はい、お帰りなさいハヤテ君」




そう言ってにぱっと彼女は笑う。

その顔が可愛くて、愛しくて、つい抱きしめそうになったが、ぎりぎりのところで手を引いた。




「・・・・・・んふふ〜」




けれど、そんなことも彼女にはお見通しなようで、僕が手を引くのと同時に彼女の方から

抱きついてきた。




「・・・・・・あ〜今朝ぶりのハヤテ君だ〜・・・やっぱり落ち着くなあ・・・」




胸にぐりぐりと顔をこすりつけながら、彼女はどこか蕩けた表情で息を吐いた。




「あの・・・・・・僕まだお風呂入ってないので・・・・・・」




汗くさいだろうと思って言ったのだが、彼女は特に気にもしていないといった様子で・・・




「ん?あ〜気にしなくていいよ。いいにおいだし。私は好きかな」




そう言って笑う。僕としてはちょっと照れくさいので早めに解放してほしいのだが。






「・・・・・・あ、お風呂行くなら、一緒に入る?」






・・・・・・勘弁してください。そう言ってシャワールームに逃げ出した僕を見て、

彼女はくすくすと笑っていた。



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