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【2014/06/07 茶会ネタ】ハヤテと京橋ヨミさんの再会
日時: 2014/06/30 23:18
名前: 双剣士
参照: http://soukensi.net/ss/

 ミスター園芸道の看板娘、京橋ヨミ。
 遊びたい盛りの中学3年生でありながら骨惜しみせずせっせと実家の園芸店を手伝う彼女の姿は、銀杏商店街のアイドルとして
絶大な人気を博している。
 小粋なエプロン姿を小気味よく着こなし、行き交うお客さんに輝くような笑顔を振りまく下町の天使。
 彼女の魅力にハートを打ち抜かれた男子たちは数知れず、彼女の笑顔を一目見ようとミスター園芸道には
今日も長蛇の列が作られるのだった。


 だが……その一方で彼女には『不沈艦』という有り難くない異名もついて回っていた。
 彼女に会うために園芸店に足繁く通い、勇気を振り絞って告白を試みた勇者は幾人もいたが、誰1人として商店街のアイドルを
独り占めできたものは居なかった。それは商店街の年長者たちによる有形無形のバリアーが足を引っ張るためでもあったが、
最大の原因は京橋ヨミが幼い頃から如才なく客商売を続けてきたことで自然と身につけてしまった“自分に寄せられる好意に対する
恐竜並みの鈍感さ”故でもあった。
 告白してきた相手を特別なところに受け入れることもなく、逆に冷たく突き放すこともせず、
『顔なじみのお客さん』の距離感を無意識のうちに守り続ける下町の天使。玉砕しつつも諦めのつかない哀れな男子たちを
毎月のように量産しつつ、着実に人気と売り上げを伸ばし続けるミスター園芸道。
 こうして花に惹かれつつも蜜を吸えずに周囲を旋回するだけの蜜蜂と化した青少年たちが、お互いに連帯感を感じるように
なるまでに時間はかからなかった。これから語る物語は、そうして秘かに結成されたグループ『ヨミちゃんを優しく見守る野郎たちの会』
通称『YYY』にまつわる悲喜劇の1つである。
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Re: YYY ( No.1 )
日時: 2014/06/30 23:19
名前: 双剣士
参照: http://soukensi.net/ss/

   「京橋さん、どうもご無沙汰してます」
   「あ、ハヤテさん! わーっ、本当にお久しぶり。お元気でしたか?」


 それは何ということのない、古い馴染み客との再会の一幕。だが京橋ヨミの一挙手一投足を向かいのビルの2階から観察していた
YYYのメンバーたちは、双眼鏡の向こうで一斉に色めきだった。
「な……なんだ、あの男は!? ヨミちゃんにあんな嬉しそうな顔をさせるとは、どこのどいつだコンチクショー」
「まぁ待て待て。ヨミちゃんのあの表情は精々A+ランクだ、まだ慌てる段階じゃない」
「A+だと? 俺は1年半通ってB−ランクまでしか引き出せなかったというのに!」
 いかなる物事も、多くのデータが集まれば解析され順位付けされる。YYYは過去のメンバーが引き出した京橋ヨミの表情を
データベース化し、ランクSからD−までに至る16段階もの評価テーブルを設け、新鮮な情報を日々更新するために
交代制の撮影要員と専門の鑑定員まで用意するほどの完璧な体制を整えていた。そんなことしてどうするという意見も初期にはあったが、
自分には向けてもらえないエプロンの天使の表情を共有して好きなだけ眺められるという誘惑には誰もが抗しがたかったのである。
 はっきり言ってキモイ連中であるが、そのことを自省できる段階は全員とっくに通り過ぎているのだった。


   「すみません、実は訳あってあのお屋敷を出る事になりまして……今はお嬢さまやマリアさん共々、賃貸アパートのオーナーをやってるんですよ」
   「えぇっ!! そんなことがあったなんて……」
   「それでですね、引っ越してからようやく落ち着いてきたんで、庭に花壇を作りたいってマリアさんが言い出しまして。
    それで今日は、お花の種と肥料を買いに来たんですよ」
   「本当ですか? わーっ、ぜひお手伝いさせてください! 私ガーデニング大好きなんです!」


「おい、今の唇の動きを読んだか!? 大好きって言ったぞ!!!」
「何者だあの野郎! 俺たちのヨミちゃんにあんなこと言わせやがって!!」
「まさか……あの笑顔が、伝説のSランク……?」
 16段階あるとは言え、Sランクと呼ばれる上位3階層は未だ該当データが無い。それはYYYメンバーにとって
「自分こそがその笑顔を手に入れる」ために空けておいた目標であり憧れである。どうすれば到達できるかは
まだ未解明とはいえ……言うだけならタダではないか! 素人がワールドカップ優勝を夢見てなにが悪い!? 
そう強がりながらわざと空けておいた皇帝位、神聖なる玉座そのものであった。
 だがそれが今、どこの馬の骨とも知れぬ貧相な軟弱野郎に踏みにじられようとしている!
「抜け駆け許すまじ!!」
「貧乏神に正義の鉄槌を下すべし!!」
 口々に怒りの声を上げるYYYメンバー。すぐにでも下に降りてあいつを殴りに行こうと言い出す者まで現れた。
だが扉のそばに陣取っていたYYY創設メンバーの1人が重々しく慎重論を唱える。
「落ち着け、皆の衆。俺たちはヨミちゃんを見守る会だ。何があろうともじっと見守り続ける、最初にそう誓ったではないか」
「しかし……」
「ヨミちゃんを行かず後家にするのが我々の目的ではあるまい。ヨミちゃんを惚れさせた奴には手を出さない、
 ヨミちゃんの幸せを陰ながら祈り続ける。それが夢破れつつも彼女のそばを離れられない我々の、せめてもの矜持ではないか、ん?」
「そんな腰抜けでどうする! 俺たちのうちの誰かならまだしも、あんな訳の分からない奴にヨミちゃんを取られてもいいというのか!?」
「それがヨミちゃんの選択なら仕方あるまい。それとも何か、これからあの場に割り込んでいったとして、あいつより自分の方に
 ヨミちゃんが味方してくれる自信のあるやつが、この場にいるのか?」
 ヘタレ男子たちの暴走は、ヘタレ親玉の最後の一言によって瞬時に沈静化したのだった。
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Re: YYY ( No.2 )
日時: 2014/06/30 23:20
名前: 双剣士
参照: http://soukensi.net/ss/

 やがて。肥料を積んだ自転車を押しながら楽しそうに談笑する綾崎ハヤテと京橋ヨミの後ろを、こっそりと尾行するYYYメンバーの
姿があった。
「おのれ、我らがヨミちゃんと一緒に並んで歩くとは、八つ裂きにしても飽き足らぬ奴……」
「我慢しろ。これで奴の居所を割り出すことが出来れば、ヨミちゃんが帰った後でどうにでもできる」
「そうとも。ヨミちゃんの思い出を美しいまま終わらせてあげるのも、我々の務めというものではないか」
 一度は慎重論に傾いたYYYメンバーであったが、こうも羨ましいシーンを見せつけられ続けては自制するにも限界がある。復讐の機会が
近いうちに訪れる、そう信じ込む方向に一同の心理が流れてしまうのは無理からぬところであった。
 一方、そんな周囲の思惑があろうとは露知らぬ鈍感男と鈍感女のカップルは……。


   「アパートのみんなはスイカが食べたいって口を揃えたんですけど、マリアさんは今の時期だとゴマとかパセリになるって言うんですよね」
   「あははは、それじゃ他の人はがっかりしちゃいますね。でもガーデニングは別に食べ物に限りませんよ?」
   「でも食べ物以外を育てて、どうするんですか?」
   「もう、食いしん坊だなぁ、ハヤテさんは♪」


……という色気の欠片もない会話をしていたわけだが、尾行しつつ身を隠すことに精一杯なYYYメンバーは気づかない。
「ちくしょう、ヨミちゃんの表情がSランクを通り越してS+まで来たぞ。下手するともっと上のランクが必要になるかも知れん」
「えぇい、連邦軍のモビルスーツは化け物か……」
「そんな事を言ってる場合か! あのヨミちゃんの表情は絶対に撮り逃せんぞ……うっ、バッテリーがもう残り少ない!」
「くそっ、部屋でコンセントに繋ぎっぱなしにしてたせいでバッテリーがヘタレたか! この根性なしめ!」
 こいつらにヘタレ呼ばわりされては、バッテリーも良い迷惑である。
「急いで予備のビデオカメラを調達しろ! なに電器店まで遠すぎる!? まったくこの肝心なときに……おっ、あれは?」
 そのときYYYメンバーの1人が見かけたのは、彼らと同じように京橋ヨミたちを尾行しながらビデオカメラを構える、3人の女子高生の姿であった。



※ (すみません、思ったより長引いたため6月末までに完結できませんでした。もう少し続きます)
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