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ヒナミチ!
日時: 2014/04/26 13:23
名前: ネームレス

この小説を読むさいの注意点。
独自設定独自解釈含みます。
原作と食い違う部分があるかもしれません。
とにかく妄想です。
それでもいいなら本編へ。

ーーーーーーーーーー
その場の空気を支配していたのは緊張だった。
張り詰められた空気の中、白テープで一辺9mの正方形型の「フィールド」の中で二人の人間が向かい合う。
両者は共に防具を身につけ相手に剣を向ける。それは竹で出来た物ではあるが、やはりどこまで行ってもそれは「剣」だ。
フィールドの周りには人が集まるが、外側からでは表情は見えない。内側でのみわかる相手の表情。
「アアアアアア!!!」
片方が動いた。左足で踏み出し、右足を勢いよく前に出す。腹から出した叫び声に対し、相手は全く怯まない。剣を振り上げ、そして振り下ろした。
「メェェェエエエエエエン!!!」
しかし、相手もただ黙っていたわけではなかった。
面の奥にある美しくも鋭い眼光はさらにその鋭さを増し、相手が手を振り上げた瞬間に踏み込んだ。相手の振るタイミングに完全に合わせ剣を横に振る。
「ドオオオオオオオオ!!!」
凛と響く高い声は道場の中に万遍なく響き渡り、同時に相手の胴を竹で出来た剣がパシィィイイインと鳴った。
「一本! 勝負あり!」
それを合図に両者は元の位置に戻りしゃがむ、剣を収める、立つという一連の行動の後、互いに礼をした。
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
向き合ったままに下がり、白テープより外に出てようやく力が抜ける。
少し離れた所に座った勝者は面の後ろに結んだ紐を解き面を取る。頭に巻いた手ぬぐいを取り、そこから長いピンク色の髪が垂れた。
「ふぅ」
一息吐く人物は美しい容貌の少女だった。対して、先ほどの対戦相手は男。さらに三年生だった。年、経験、性別の壁を実力にて打ち破った少女の名は桂ヒナギク。白皇学院高等部二年の生徒会長兼剣道部員。そして、「最強」の剣士だ。
「顔を洗ってきます」
「おーう、お疲れ様」
「今日も強かったですねー」
「さすが生徒会長様だ」
「美人だな」
「結婚してぇ」
ヒナギクは後半二つの言葉を聞く前に道場を後にした。



道場を出てすぐの所に蛇口がある。そこは主に剣道部員が使うものだった。ヒナギクも例外ではない。
バシャバシャと水を両手ですくい顔に掛ける。持参のタオルで顔を拭く。実は練習終わりにヒナギクは毎回ここへ訪れるため、一部の生徒がヒナギク見たさに集まっているのをヒナギクは知らない。
(放課後だって言うのに生徒が多いわね。さすが白皇)
小、中、高一貫校である白皇であるため生徒が多いことに疑問を持つことは無い。
そんなヒナギクだったが、その背後に人影が忍び寄る。
人影は何かを手に持ち、それをヒナギクの頬へと触れさせようとして__触れる前にヒナギクにその手を掴まれた。クルミすら簡単に砕く握力で、全力で、だ。
「いだだだだ!」
「あ、ああ! ごめんなさいハヤテくん!」
「いえいえ……頑丈なだけが取り柄なので……。あ、これどうぞ」
ヒナギクの思い人であり現友人の綾崎ハヤテだ。ハヤテはその手からいろはすを渡す。
「あ、ありがと……」
「本当は飲み物も作ってたんですがお嬢様に飲まれてしまって。すいません」
「ううん。十分よ。ありがと。……ナギは相変わらずね」
「ええ。今も発売されたばかりのゲーム攻略のために学校さぼって屋敷でゲームしてます」
思わず苦笑いしてしまう。ハヤテの主であるナギはいつも通りのようだ。
そこまで話したところで、ヒナギクは自分が今凄く汗をかいてる事を思い出し咄嗟に一歩下がってしまう。
「どうしました?」
「いえ、何でもないわ」
何でもないわけがないのだが、口に出すのは恥ずかしく、距離は結局離れたままだ。
「それにしてもヒナギクさんは凄いですね。あんなに剣道が強くて」
「え? 見てたの?」
「はい。遠目にですが」
「そ、そう」
気恥ずかしいのか少し頬を赤く染まった。元々試合後だから頬は赤くばれなかったが。
「ヒナギクさんって本当に剣道が好きなんですね」
「そう見えるの?」
「違うんですか?」
ヒナギクは少し考えてから話し始める。
「好きは好きだけど、少し違うかも」
「そうなんですか」
「うん。じゃあ、練習も終わったし少し昔話しようかしら」

__私が「弱かった」頃の話を。

これはヒナギクがただの「一般生徒」で、そして現在のヒナギクを形作る物語。
完全無欠でも、何でもない少女の成長の物語である。
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Re: ヒナミチ! ( No.1 )
日時: 2014/04/27 09:13
名前: ネームレス

「お姉ちゃん! またお酒なんか飲んで!」
「いいでしょー。たまの休日ぐらい」
「平日だろうがなんだろうが毎日飲んでるでしょうが!!!」
とある一軒家では毎朝の恒例行事のごとく怒声が響いていた。
「もうヒナちゃん。外まで響いてるわよ」
「う……ごめんお義母さん」
「やーい怒られてやんのー」
「お姉ちゃん!」
「はーいヒナちゃんは今日入学式でしょ。せっかく外部入試で入れたんだから遅れちゃダメよ」
「ヒナも花の中学生ねー。頑張りなさいよー」
当時のヒナギクは13歳。中学一年生だった。
この時点ですでに成績は優秀で容姿も良かった。テストでも常にオール80点代であった。
「お姉ちゃんだって今日は高校の入学式でしょうが!!!」
「何故か今日は休みを言い渡されたのよねー。……何でかしら」
「お姉ちゃんの普段の仕事態度がよーくわかったわ」
雪路の一言にヒナギクの背後に炎が立ち上がる。あくまでイメージではあるが。ただ、それだけの迫力がヒナギクにはあった。
が、
「せいやぁ!」
「まだまだ甘いわよー」
ヒナギクの全力のパンチを雪路は軽々と片手で受け止める。
「これでも若い頃はいろいろ無茶やってたのよ。ヒナ程度の遅れなんかとりゃしないわよ」
「うぅ〜!」
「もう、雪ちゃんはあまりいじめないの。ヒナちゃん。そろそろ時間がやばいわよ。送って行きましょうか?」
「ううん。大丈夫。後で来て。お姉ちゃん! 帰ったらお説教だからね!」
「はいはーい」
「それじゃあ行ってきまーす!」
慌ててカバンを持ち急いで白皇学院中等部へと向かう。
白皇に着く頃にはヒナギクの息は絶え絶えであった。



ヒナギクは元々白皇に来る予定は無かった。それは学費が高いからだ。
無駄にでかい校舎。揃えられた機材。凝った装飾。有名なデザイナーが作った制服。年々更新されていく道具などなど。お金持ちが通うからこそ可能ともいえる無茶な教育環境作り。
今の両親はヒナギクの本当の親ではない。だから距離を取っているわけでも無い。むしろ仲は良好だし、金銭面もどちらかというと裕福なためなんら問題は無い。だが、それはヒナギクの理性や自立心が止めた。ただでさえお世話になっているのに、例え負担で無くとも迷惑は掛けたくないという不屈の親孝行精神がそれを許さなかった。
そんなヒナギクを後押ししたのは友人である花菱美希と入学先である白皇学院で教師をやっている姉の存在だった。
なんやかんやで「なら外部入試で特待生になって学費免除にする!」というのがヒナギクの決断であった。
外部入試で入った生徒は学費免除の変わりに常に偏差値以上の点数を取り、白皇を名門たらしめる義務が追加されるのだが、普段から真面目なヒナギクにとっては余裕だった。
そして今日、ついに入学式を迎えた……はいいのだが、予想していない事態がヒナギクを襲う。
「ヒナ。どうした」
「美希……私転校しようかしら」
「後悔が早過ぎやしないか?」
周囲の殆どが金持ちだということだ。
中学の時点で外部入試してくる生徒は少ない。当たり前だ。ついこの間までみんな小学生だったのだ。普通であれば受験などせずとも進学は出来る。
故に、この時点で庶民感覚のヒナは金持ちだらけの空間でアウェー感をすでにひしひしと感じていた。唯一の救いは美希の存在か……。
「本当に何なのここ。大企業の息子とかいるじゃない。私、何か失礼な事とかしたら消されるんじゃ……」
「不可能じゃないけど、普通めんどくさくて誰もやらないしまだ私たちは中学生だぞ? 子ども同士の問題でとやかく言う親はそういないさ。わざわざ騒ぎを大きくする親じゃ金持ちにはなれないよ」
「そうだといいのだけれど……」
「なら友達増やせばいいじゃないか」
「気が引けるわよ」
「全く……そうだ。なら私の友達を紹介しよう」
「美希の?」
「ああ。自慢の友達だ」
美希は「自慢って言ったのは秘密だからな」と一言添え、ヒナギクの手を引っ張る。
「ちょっと美希!」
「大丈夫大丈夫。痛いのは最初だけだ!」
「何の話!?」
いきなりの事に動揺するが、同時に自分の友達である美希にとっての「自慢」を見てみたくもあった。
だがヒナギクはいろいろと後悔する羽目になる。



パシャパシャとシャッター音が鳴り響く。
カメラを構えるのは身長が高く黒髪を短く纏めた女子生徒だ。
「この角度いいな! 美希! よくこんないい「素材」を持ってきてくれた!」
「いや友達だぞ」
バサバサした感じの喋り方で活発なイメージを持たす子だ。いろいろな角度でヒナギクを撮りまくる。
「ヒナちゃーん。こっち向いてー」
反対側でカメラを構えるのはおっとりとした雰囲気の女子生徒だ。性別問わず人気がありそうである。
そしてそんな二人に挟まれるヒナギク。額には徐々に青筋が浮かんで行く。
「美希。帰るわね」
「いやヒナ。悪かった。タイミングが悪かったんだ。いやだからそんな早足で歩くのはやめよう。
ヒナー!」
ヒナギクと彼女たちのファーストコンタクトは最悪の形で終わる。
しなしヒナギクは知らない。この関係は後々まで続くということを。そしてヒナギクにとっても掛け替えのない友人になるということを。
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Re: ヒナミチ! ( No.2 )
日時: 2014/04/28 22:38
名前: ネームレス

誤字の報告ありがとうございました。一瞬修正の仕方わからなくて全く同じ報告を自分でしてしまった(焦)

ーーーーーーーーーー


「はぁ……」
「ヒナちゃん大丈夫?」
「大丈夫よお義母さん。ちょっと慣れない環境でびっくりしただけ」
今まで自分が体験したことも無い「お金持ちの世界」に圧倒されたヒナギクは見事に疲れ切っていた。
しかし、迷惑を掛けたくないヒナギクはその態度を隠してしまう。
「うーん、ヒナちゃん見てるとたまに心配になるわ」
「何が?」
「私がちゃんとヒナちゃんの母親出来てるかって」
「で、出来てるに決まってるじゃない! お義母さんたちがいなかったら、私とお姉ちゃんはとっくに野垂れ死んでたわよ!」
突然の告白に狼狽してしまうヒナギク。その姿を見てヒナママはにっこりと笑った。
「なら、もう少しわがままを言ってもいいのよ。ヒナちゃん立派なのはいいんだけど、全く手のかからないのはお母さんとしては少し寂しいわ」
「う、うん……」
「ごめんね。でも、ヒナちゃん何か困っても一人で抱えちゃいそうだから。こうでも言っておかないと」
「……ありがとう。何かあったら絶対話すわ」
「ふふ、楽しみにしてるわ。それより友達は出来たかしら」
「うっ」
ヒナギクが思い浮かべるわ美希が紹介した二人。思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「……ヒナちゃん、男勝りだからねー」
「私は女よ!」
昔、美希を助ける際に三人の男子をボコボコにしたことを少し気にしているヒナギクだった。



「お姉ちゃーん。いるー」
「んあー……? ああ、ヒナじゃない。どうしたの? 説教ならやめてよねー」
本宅の近くにある小屋。そこに桂雪路はいた。
中は酒ばかりで酒臭い。唯一の住人も見事な泥酔ぶりだ。
「少しは抑えなさいよ……全く」
「酒は私にとっては水よ。ヒナは水飲まなきゃ生きてらんないでしょ?」
「……本気でぶちのめした方がいいかしら」
「ヒナにはまだ負けないわよ」
ケラケラと笑う雪路。ヒナギクはもう怒りを通り越して呆れていた。
しかし、そんな話をしに来たのではない、ヒナギクは気を引き締めた。雪路も何となく察している。
「で、わざわざここに来るって事は用があるんじゃないの?」
「うん。聞きたいことがあって」
「何よ」
「……甘えるって、どうするのかしら」
「…………」
ポカン、といった様子で目を見開く雪路。そして徐々に口角を上げ、終いには声を上げて笑い始めた。
「あははははははははははは!!! あ、あま! ヒナが甘えるって!」
「ちょっと! 私は真面目に話してるのよ!」
顔を真っ赤にして怒るも、雪路に効果は無い。
「ひ、ひー、ごめんごめん。そうかー、ヒナが甘えるねー。お義母さんに言われたの?」
「……そうよ」
「まあ大丈夫じゃない? どうせすぐにヒナは問題起こして否が応でもお義母さんに頼ることになるんだから」
「それってどういう意味よ!」
「どーうせ学校の規則破ってる生徒とか見つけたら学年関係なく噛み付いては注意するんでしょ。イジメ現場発見したら言葉より行動を先にしちゃうもの」
「う……でも悪いのはあいつらよ!」
「そうなんだけどねー……」
雪路は一瞬眩しそうに目を細めた。先ほどまでのふざけた態度とは一変し、真面目な雰囲気を出していた。
「ヒナ。世界は正しさだけで作られてるわけじゃないわ。時には許容して、受け入れる事だって必要よ。見逃す事も必要なスキルになってくるのよ」
「じゃあ、悪い奴は見逃せって言うの?」
「違うわよ。ヒナのやり方は真っ直ぐ過ぎるの。たまには攻撃してノックアウトさせる以外の方法を考えなさい」
「と言われても……」
「とりあえず、人と関わってみたら? ヒナはぼっちだものね」
「ぼっちじゃないわよ!」
「もう帰る!」と顔を真っ赤にして戻るヒナ。雪路は軽く手を振って返した。
「……全く。その真っ直ぐさは誰に似たんだが……」
雪路は窓から見える月を仰ぎ、手に持っていたビールを一気に飲み干した。



「美希ー。おはよー」
「ああヒナ。おはy」
「ヒナちゃんおはよー!」
「おお、おはよう」
翌日。学校に行くと早速あの二人が待ち構えていた。ヒナギクは一瞬の思考ののち、無視を決め込んだ。
「ふむ。完全に嫌われたようだな」
「ええー! 何でー! 友達になろうよー!」
「……ええと」
「泉! 瀬川泉だよ!」
「朝風理沙だ」
「そう。瀬川さんと朝風さん。すこし静かにしてもらってもいいでしょうか?」
あまりにも他人行儀な態度に、流石の二人も硬直する。
「ま、まずいぞ泉。私たちは完全に歓迎されていない」
「ふぇぇ、どうしよう」
「決まっている! 「アレ」だ!」
「おお! 「アレ」! ……てなに?」
「行くぞ泉! 待っていろよヒナ! 明日には見せる!」
「え? み、見せ? ……て、あなたたち! これから授業よ!」
二人は話を聞き終わる前に教室を出て行ってしまった。
「……まあ、悪い奴らじゃないんだよ。バカではあるが」
「……美希が友達やれてる理由がわかったわ」
「言っておくが私はバカではないぞ?」
「え?」
「え?」
「そ、そうね。美希はバカでは無いわね。……勉強が出来ないだけで」
「聞こえているぞヒナー!」
閑話休題
「それにしても……どうしようかしら」
「何がだ?」
「んー、昨日お姉ちゃんにもっと人と関わりなさいって言われたのよ。だから手っ取り早く達成するにはどうしたらいいかなと」
ヒナギクは飲んだくれだからといって姉をバカにしているわけでは無い。仮にも自分を中学生の身で守ってくれた存在だし、実の姉だ。シリアスと平常時のギャップが酷すぎるだけで、雪路のアドバイスは十分に聞き入れている。
「ふむ。それなら簡単だ」
「え? 本当?」
「部活に入ればいい」
「部活?」
「ああ。白皇はあまり部活は強くないが、やる必要がない。将来が決まっている生徒も少なく無いから無理して部活をやる生徒は少ないんだ。だから、部活をやっている生徒は必然的にその部活を好きでやっている者だからな。フレンドリーな人たちも多い。趣味でやっている者や溜まり場として使われている部活もあったりするがな」
「た、溜まり場って……ダメでしょそれ。学校側や生徒会は何してるのよ」
「別に部活強豪校では無いからな。部費も払ってるし機材もほぼ自腹。学校側も特に厳しく規制しているわけじゃないからそのままにされてるんだ」
「うーん、それでいいのかしら」
いかにも納得いかないといった様子のヒナギクだったが、昨日の姉との会話を思い出しとりあえずはスルーする事にした。現場で何か出来る事は無いと判断したのだ。
「それで、部活だっけ?」
「ああ。ヒナはどんな部に入りたいんだ?」
「そうねー。強くなれる部活かしら。お姉ちゃんに負けたくないし」
「そうなると団体戦より個人戦かな」
「でもテニスとかは違う気がするし……柔道?」
「あー……それなんだがヒナ」
美希はとても言いにくそうに、だが言った。
「柔道部は無いんだ」
「え? そうなの?」
「まあ、ちょっと問題があってな」
「……聞いた方がいいのかしら」
「聞かない方がいいかもしれない」
「……ここまで聞いて引き下がれないわ。教えて」
「陵辱事け」
「もういいわ」
一瞬で聞くのをやめるヒナギク。顔は真っ赤だ。
「寝技は寝技でもベッドの上での寝技でね」
「いや、だからもういいわ……。部活は諦めようかしら」
「ま、まぁ。この後部活動紹介だし、それを見てからでもいいんじゃないか?」
「なんかいい部活があるとは思えないんだけど」
「金持ちの趣味の延長だからな……」
早速ヒナギクは、姉からの助言である人との関わり合いを、遥か遠くに感じるのだった。



「これから野球部の紹介を始めます」
部活動紹介。
と言っても、普段の練習風景をコンパクトに纏めたものを順に紹介するだけだ。金持ちの趣味の延長ということは誰もが理解しているところだし、気合が入っている部活はあまりない。
(はぁ。どれもパッとしない)
ヒナギク自身、ただ流れていくのを見るだけだった。
(まあ人付き合いって言っても部活だけじゃないしね。無理して入る必要も無いのよ。そもそもここは金持ちの学校。部活が適当でもしょうがないじゃない。趣味の延長でしかないんだし、本気でプロを目指してる子だったらクラブとかに行ってるはずだし)
言い訳のように思考を並べるのはきっと、少しだけ楽しみにしていた部分もあるのだろう。
だが、そんなヒナギクの思考を切り裂くものがあった。
「メエエエエエエエエン!!!」
「っ!?」
突然の大声に驚くヒナギク。
何事かとステージ側を見れば、防具を付けた人間が竹で出来た剣、竹刀を使いバシンバシンと音を立てながら相手を叩いていた。
「これは……」
「剣道だよ。ヒナも知ってるだろう?」
と、隣にいた美希は告げる。
しかし、ヒナギクは直接剣道を見たことは無い。目の前で見た打ち込みの迫力は凄く、そして、ヒナギクは何故か強く惹かれた。
「えー、部長の風宮徹(カザミヤ トオル)です。うちは少人数ではありますが、一応全国を目指しています!」
その言葉に体育館からは失笑が漏れる。部長だという人もその反応を受けて笑っていた。
だが、ヒナギクの目には、そして耳にはその態度も、言葉も真面目なものだと感じられた。
最後に部員全員が並んだ。
「興味のある方は是非入ってください。そして、応援よろしくお願いします!」

__よろしくお願いします!

その声は体育館中に響いた。

「美希。決めたわ」
「何がだいヒナ?」
「私……剣道部に入る」

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Re: ヒナミチ! ( No.3 )
日時: 2014/05/06 20:24
名前: ネームレス

ふぅ、危うく失踪しかけたぜ……。
まぁ皆さん薄々気付いてると思いますがここのヒナギクは才色兼備の完全無敵の生徒会長ではありません。ただの優等生です。「こんなのヒナギクじゃねえ!」という方は見ないことをオススメします。
……これ最初に言うべきだったな。

ーーーーーーーーーー

「お義母さんお願い! 私、剣道したいの!」
その日の夕方。ヒナギクは帰ってきてすぐにヒナママに剣道部への入部の事を話した。突然の事にヒナママは驚いてしまう。
「ど、どうしたの急に」
「あ、そのね、せっかくだから部活に入りたいくて、それで剣道部に入りたいの。……ダメ?」
「うーん、剣道ね。危なくないかしら。ヒナちゃん女の子だもの」
「大丈夫よ! 防具を付けるもの!」
「でもねー」
そこに酒をたかりにきた雪路が現れる。
「なーにヒナ。あんた剣道やんの?」
「そうよ」
「あんたに出来んのー? 中学の頃は勉強ばっかしてたじゃない。剣道はハードよー?」
「むっ」
小馬鹿にするような雪路の態度に怒りの炎を燃やすが、雪路はケラケラ笑うとすぐに出て行ってしまった。
ヒナギクは怒りの形相でヒナママに向き直る。
「お願いお義母さん!」
必死なヒナギクを見てヒナママは少し困ったように考え込む。その様子をヒナギクは心配そうに見ていた。
そしてヒナママはクスリと笑う。
「わかったわ。いいわよ」
「本当!? ありがとうお義母さん!」
「ええ。あのヒナちゃんからのお願いだもの。断れないわ」
「うぐっ」
「あのヒナちゃん」という言葉に思い当たる節が多過ぎるヒナギクは言葉に詰まる。その様子をヒナママは面白そうに笑った。
「やるからにはちゃんと最後までやるのよ?」
「うん!」



「本当にやるのか」
「ええ。まあね」
「ふーん。今年の剣道部は豊作だな」
後日。学校ではいつも通りにヒナギクと美希が話していた。
「豊作?」
「ああ。剣道部にはヒナともう一人入るんだよ」
「たった二人で豊作なの?」
「いや。実質一人でもちゃんとやる気さえあれば豊作と言えるな」
「あー……」
ヒナギクは白皇学院の部活の実態を思い出していた。たしかにヒナギクみたいに真面目にやろうとする生徒はそういないだろう。
「ついでに、もう一人の方はわかる?」
「ああ。エスカレーター組のようだな。名前は東宮康太郎。13歳で1988年の6月24日生まれ蟹座。身長152cm体重42kg。よく上から目線から暴言を放ち困った時は執事をドラ◯もんよろしく呼んで解決する。しかしその都度お仕置きをされては人にすぐ助けを頼む癖を無くそうとはしているが進展は見られない。友達は皆無で学校行事の際にはいつも一人でいる所が目立つ。しかしその内面は下手な女子より女らしくリスを彷彿とさせる。剣道部の入部は執事の方が貧弱な精神と肉体の矯正のために強制的に入部させられたそうだ」
「……相変わらず凄い情報力ね」
「まあ親が政治家だからね。情報集めは得意」
「へー」
「ちなみにヒナもぼっち」
「余計なお世話よ!」
その時、ヒナギクの背後から怪しい人影が襲いかかる。
「きゃあ!?」
「捕まえたー!」
「たー!」
「朝風さん!? 瀬川さん!?」
理沙はヒナギクに覆いかぶさるように、泉は腰に腕を回し抱きつく。美希は笑い声をあげながらその状況を見ていた。
「な、なになに!? 何のよう!!?」
「明日動画見せると言ったのに!」
「ここ数日間どこに行ってたんだー!」
「何処にも行ってないわよ!」
「「というかこの学園広すぎ!!」」
「迷子!?」
二人のテンションに圧倒されてしまうヒナギク。周りから生暖かい視線を送られているのだが気にしている余裕は無さそうだ。
ヒナギクは二人を引き剥がすと肩で息をするぐらいには疲労していた。しかし二人はピンピンしており、どこか理不尽に思うように睨み付ける。が、二人は意に介した様子もなく、右手に持った「ソレ」を高々と持ち上げ見せつけた。
「……それは?」
「ビデオカメラだ」
「そういうことを聞いてるわけじゃ……」
「まあまあ。見てみるといい」
そう言って理沙はヒナギクにビデオカメラの映像を見せた。
「ちょっと! いったいなにが……」
文句を言おうとするが、その言葉はすぐに萎んで消えた。
そこには子猫の映像が流れていた。
「どうだ」
「頑張ったよー」
「…………」
ヒナギクは両目をいっぱいに見開き、集中してその映像を見ていた。周りの声は聞こえていない。
自然と緩み、柔らかくなっていく頬は緩い曲線を描き見る者を魅了する笑みを浮かべる。
もちろん理沙は写真を撮っている。
「……はっ」
そして、ようやく自分に向けられている視線にヒナギクが気付いた。
「な、何見てんのよおおおおおおおおおおお!!!」
「あっはっは。可愛いところもあるんだな」
「ヒナちゃん可愛い〜」
しかしきっちりと動画は貰うのだった。
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