Re: Shape ( No.1 ) |
- 日時: 2014/03/06 11:55
- 名前: ネームレス
- どうもネームレスです。こちらからの感想返しは初めてでしょうか。
まあそんなことは置いといて感想です。 今回、導入がとても神秘的で続きがとても気になりました。 白銀の髪に紅い瞳を持つ少女の事も気になります。 風景描写がとても上手く、脳内で情景を妄想するのが余裕でした。 ここから紡がれるであろう少年と少女の物語、楽しみにしています。 ネームレスでした。
※誤字(?)かわからないのでこのような形で一つ報告させていただきます。最初の方に「ハヤテは歌声の方へと足を踏み出した。」という一文があるのですが、他では少年、少女、父と名前が明記されてないなかで「ハヤテ」とだけ名前が書かれていたので、間違いかもと思い報告させていただきます。早とちりだったら申し訳ありません。 それではまた。
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Re: Shape ( No.2 ) |
- 日時: 2014/03/06 18:01
- 名前: ピーすけ
- >ネームレスさんこんにちは。
指摘の通り、誤字・・・・・・というかケアレスミスでした。有難うございます&申し訳ありませんでしたor2 実は投稿する前日まで第一話は「ハヤテ」と「少女」が主語だったんです。なので、その名残ですね。・・・・・・言い訳ですが。 風景描写は一応得意分野? だと自負しているので、これからも頑張って磨いて行きます。
3/8追記。 PDF(縦書き)版を止まり木ユーザーブログの方に掲載しました。 表紙&ルビ付き、及び一部文章校正を行っております。よろしければどうぞ。
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Re: Shape(03/11.06:50更新) ( No.3 ) |
- 日時: 2014/03/11 06:51
- 名前: ピーすけ
- -Operaton 0010-
一月下旬。だが、冬の寒さとは縁遠く調温された温かな室内の空気を震わせて、始業を知らせるベルが鳴った。 規律と調性の象徴。学徒の背筋を正す筈のそれは、だが現実としては精々、時報としての役しか果たしていない。 教室の喧しい賑やかさは一段音量を落としただけで、まだずるずると後を引きずっていた。月曜日、まだ休み明けの浮つきが、蔓延している。 緊張という言葉が忘れ去られたような空間。どこにでもある、ごく平穏な風景。コピーアンドペーストして繰り返されていく、平々凡々とした日常。 しかし、それで良い。と、自らの心音を確かめながら、綾崎ハヤテは感慨を抱く。 こうして、学び舎で平穏に暮らせる喜びを、彼は誰よりも弁えていた。 悪魔のような親の下に生まれ、自身もまた幼き頃は悪行とも知らぬままに手を穢し……それでも最後には救いがあると信じて身を削って働き、最後の最後に勝手な都合で切り捨てられた。もし、生きる為に逃げ出したあの日に三千院ナギとの運命の出会いに恵まれなかったなら、そして彼女を利用しようとした自分を、執事として雇ってくれていなかったなら……彼の体は最小単位に分解され、パッケージ詰めされて冷蔵庫に陳列されていたことだろう。 経てきた時こそまだ平均的な人生の半分にすら遠く届かぬものの、壮絶という言葉が相応しい経験を経て構成されたハヤテの価値観は、既に辛酸舐めつくした老人のそれに近い。 必要以上に誰かに親切にしてしまうのも、きっとそのせいなのだろう。と、ハヤテは昨夜――日付的に言えば今朝だが――に思いを馳せた。 すべての始まりの日、自らの犯した罪とその重さ。温情あふれる少女を金銭の為に利用しようとしたその浅ましさ。あえて着古した格好で外に繰り出したのは、過去を再現することで、改めてそれを確かめるためだった。 そんな折に起きた、一人の少女との出会い。それは、主の時を彷彿とさせる構図だった。 だから、放っておけなかったのも無理はないのだ、とハヤテは誰にともなく心の中で言い訳をする。少女の笑顔に、ほんの少しだけ心に漣が立ったのも、きっと全てはそのせいなのだとひとまず結論付けた。 窓の外に目を遣ると、日和(ひより)に照らされて、砂糖を塗したようにきらきらと輝く景色が広がっている。人々の懸命な努力によって道だけは何とか所々アスファルトの肌を露わにしているものの、他全てが色彩を取り戻すにはまだしばらく時を必要としそうだった。 「うぃ〜。さっさとホームルーム、はじめるわよ〜」 思考を断つ、気の抜けた声。 意識を教室に戻せば、女性がほうほうの体で教壇の前まで歩いている所だった。 着崩れた衣類、青ざめた顔。学校という場においては異常な風体に、だが驚く者は居ない。ただ皆一同にして諦観にも似た乾いた笑いに口元を歪めるだけだ。――またか、と。 彼女こそがこのクラスの担任、桂雪路。天下の名門私立高校、白皇学院の名物世界史教師である。 雪路はつんとしたアルコール臭を漂わせながら、ゾンビのような千鳥足で何とか教壇に辿り着く。 それを遠くから見詰める雪路の妹、桂ヒナギクが姉より酷そうな頭痛に頭を抱えている。 「きりぃつ」 クラス委員長の少し舌足らずな号令に、がたがたと椅子を鳴らして、不揃いに立ち上がる生徒たち。 「――れいっ」 おはようございます。と形だけの挨拶が、会釈も同然の礼と共に、三々五々と発せられる。 「はいは〜い。おはよう」 応える雪路の態度は、生徒達に輪を掛けていい加減だった。 あなたそれで本当に教師なの? とでも言いたげに、無言で柳眉を逆立て睨みを効かせる妹には全く気付いた様子もなく、元を正せば美人に類する顔の魅力を9割方損なった渋面で、やおら名簿を開き点呼を始める雪路。 多少風変りではあるが、ここ白皇学院ではこれもまたルーチンの一部だった。 ハヤテは名字の関係上、いつも最初に名を呼ばれてしまう。小中高と通して、二番目だった事すら稀だ。だから、最後の者が呼ばれるまで少しの合間余裕ができるのだが、そこでふと教室を見渡して、教室の机に空きがあるのを認めた。誰かが休んでいる、という訳ではない。教室の一番後ろに追いやられるようにして置いてあるそれは、先週の時点ではなかったものだ。つまりそれの意味するところは―― 一通りホームルームの内容を終えて、雪路はぱたりと名簿を閉じる。ハヤテには何故か、それが何かのスイッチが切り替わった音のようにも感じた。 「あー。知っている奴もいるかも知れんが、今日はもう一つ連絡がある。……おーい。入っていいぞ」 扉に向かって手招きする雪路。乳白色の擦りガラスの向こうに、ぼんやりとした輪郭が現れる。だが、影は怯えたようにそこで止まってしまった。 「何やってんの? 早く」 雪路に急かされて意を決したのか、そろそろと扉が横に滑る。 「あ」 そんな間抜けな声がハヤテの口から漏れた。 緊張に強張ったぎくしゃくとした顔をのぞかせる少女。 「……あ」 白銀の髪に白い顔。少女もまたハヤテに気付いたのか、瞼を大きく見開き―― 「きゃ!?」 そして小鳥が囀るような悲鳴を上げる。少女は何もない所で足を縺れさせて、しかも前のめりに顔から地面に接地。どべちっつ、と蛙を地面に叩きつけたような音が、いっそすがすがしいまでに響く。そしてさらに、その拍子に桜色のスカートがぺらり、と盛大に捲れ上がる。 ――以下生徒たちの囁き合う声より一部抜粋―― (……白。か) (……白。だな (……白。だねえ) (呑気に構えていて良いのか泉、ライバル出現だぞ?) (何の!?) (まあ待て理沙、あれはチラじゃなくてモロだ) (ふむ、なるほど。チラの相手ではないという余裕なのか。深いな) (だから二人とも、さっきから何の話!?) ――これは全くの余談なのだが、特徴的な頭髪の色より先に、彼女のパーソナルカラーを決定したのはレースに淵を彩られた三角形の布切れだった。 「……うぅ」 慌てて立ち上がり、スカートについた埃を払う少女。 どうやら、その中身を見られた事には気付かなかったようだ。おそらく、気が回らなかった、という方が正鵠を得ているのだろう。 ゆでダコと化した顔を隠すために俯きながら、スタスタとホワイトボードの前に立つと、丸っこいアルファベットを書き連ねる。 『AriaOldman』それが、彼女の名前らしい。 彼女は、もじもじと指先を弄りながら、オイルの切れた機械のようなお辞儀をする。 「あ、アリア・オーりゅろマンどぅえしゅ……」 ――以下生徒達の反応より―― (噛んだ?) (外国の人っぽいし、ネイティブの発音なのかも) (いやー。アレは噛んだだろー) ――アリアの顔には早くも『天然』のレッテルが貼られかかる。それだけは避けねばと感じたのか、彼女は息を吸ってもう一度自らの名を発する。 「アリア・オールドマンです。短い間ですが、よろしゅくおねがい☆Δ※¶」 ――生徒達の(以下省略)―― (……噛んだな) (……噛んだね) (……噛み噛みだな) ――たどたどしい自己紹介は、だが雄弁に彼女について語っていた。 「あー。コイツは親の都合で引っ越してきたらしい。慣れない事も多いと思うが、まあ、皆で助けてやってくれ」 雪路が頬を引き攣らせながら、やや強引にそう締めくくった。これ以上前に立たせるのは危険と判断したらしい。 きっとそれで正解だ。と心の中で雪路に珍しくも同意したハヤテは、もう殆ど今朝の出来事など忘れ掛かっていた。
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Re: Shape(05・03 01:10更新) ( No.4 ) |
- 日時: 2014/05/03 01:13
- 名前: ピーすけ
- 若さを持て余した血気盛んな者たちからすれば、淡くくすんで見える日常も所詮は退屈なものでしかない。だから、イレギュラーというものは、良くも悪くも興味の対象となりやすい。そしてそれは、今回も例に漏れなかった。
多くの生徒達が、教室に舞い込んできた新しい仲間に目を爛漫とさせて、休み時間となる度にアリアの机に殺到する。人だかりに呑まれたアリアの姿は、蠢く人々の隙間から覗かねばならない程度だ。ハヤテもかつては在り後似たような境遇ではあったのだが、余程アリアの第一印象が好奇心の琴線に触れたと見えて、彼の時とは比較にならない有様だった。周りは轟々たる勢い、だが、その中心に据えられたアリアは、四方から投げられる質問に気圧されて殆ど喋っていない。その位置関係は、まるきり台風と、その目だった。 分けてもアリアを気に入ったのは、兎に角新しいオモチャに目が無い花菱美希と朝風理沙、そして天真爛漫にして好奇心旺盛な性格の瀬川泉の3名らしい。実のところ質問の内、おそらく5割近くは彼女ら3人のいずれかの声によるものだった。 「私は泉。瀬川泉、だよ。よろしくね。えっと……オールドマンちゃんって呼びにくいし。名前で良いかな?」 「もちろん。こちらこそよろしくお願いします。泉さん」 「うんっ!」 にぱーと、目を輝かせる泉。長い髪をサイドで結ぶ髪留め、そこにあしらわれたビー玉のような飾りが、いちいち行われるオーバーアクションな身振り手振りによってころころと楽しげに弾む。 無邪気な泉に、緊張をほぐされたのか、アリアはくすり、と慎ましく笑った。 その時だった、ざあと音を立てて、ハヤテの中をなにか得体の知れないものが通り過ぎる……まただ、やはりアリアを見ているとどうにも……いや、この感覚に対する答えはまだ、追うべきではない。 「どうしたのだ? 普通の時より、赤くペイントして角を生やしたくらい変な顔をしているぞ。ハヤテ」 どうやら、通常の三倍ほど変な顔をしてしまっていたらしい。怪訝な顔をしている己が主人、ナギに「いいえ」と手を振り、顔の筋肉を操ってハヤテは表情を「普通」にする。少し頼りない、三千院家の執事と「綾崎ハヤテ」に合った表情に。それは取り繕う、という表現とは少しばかり趣が異なる。例えるなら、賽ころだ。大本は同じでも、違う位置から見れば、違う目を向けている。予期せぬ風が吹いたせいで、いつも見せている面以外が見えそうになったので、角度を調整したようなものだ。いくつかの人格を疑似的に作成してロールプレイングするのは、ハヤテの得意分野だった。上っ面だけの表情、打算的な優しさ……波乱万丈の人生の中で得た技術は数多あれども、親から学び取った下衆の手管は時にハヤテ自身でさえ辟易するほどに馴染むときがある。 「いいえ、なんでもありませんよ」 ハヤテは頭を振って、同時に負の方向へ悪循環していく思考を振り払う。 「ふん。まあ、良かろう」 言いつつも、ナギは矢庭には眉根の皺を消さなかった。『なんでもない』と何かあった時の常套句を口にされて、『ふうん、あっそう』と素直に流せるほどおめでたくはないつもりだが、より深く質したところで回答を得られないことも知っている。ハヤテの『なんでもありません』と言って何かを誤魔化そうとしているは、要約すると『なんかあったけど、訊かないでね』という意味合いなのだ。だから、ナギも訊かない。結局のところ、ナギは本当にハヤテが自分を裏切るようなことはないと、信用しているのだ。 「ありがとうございます」 ナギの信頼に対して、ハヤテは素直に感謝した。こればかりは全く嘘偽りのない言葉である。
ハヤテは引き出しから数学の教科書とノートを引っ張り出して、ぱらぱらとめくった。次の時間が数学だったというのも勿論あるが、数式に思考を割いていれば、他のことはひとまず考えずに済むと思ったからだった。いうなら、素数を数えるのと同じである。最も、数式というのはそれよりはるかに複雑で、しばらくにらめっこしているうちに、湧いた疑問も何もかも、数字と記号の合間に埋もれていった。というか、今日の授業の範囲が解らなかったので、そんなことを考えている余裕がなくなっただけだったりする ていうか明日までの宿題、1+1を証明せよってコレ、高校の問題じゃないでしょ! そんな無茶ぶりも、日常茶飯事の白皇学園の昼下がり。 別の意味で頭を抱えたくなったハヤテをよそに、それでも騒がしくものどかな時は着々と過ぎてゆく。牛の歩みで高く昇った太陽は、気が付いた頃にはもう地平にまっしぐら。夕暮れという時が忘れられてしまいそうなほどに呆気なく、宵闇が空の派閥を奪う。特に頼まれごとをこなすうち、学校中を駆け回る羽目になった放課後は時計に誰かアフターバーナーでも積んだんじゃないかってくらいだった。先程見たときはぐんと背筋を伸ばしていた時針と分針が、いつのまにかお嬢様の不機嫌そうな口元みたいになっていた。 自分の不運とおひとよしさにぶつくさと文句を言いながら、這う這うの体で教室に帰る頃には、宵もとうの昔に過ぎ去り、誰かが振れたらぺっきりと折れそうな月が、空高くで微笑んでいた。 まあそれでも、まだましな方だった。もっと不運が重なれば、最悪の場合、またぞろ時計の針が逆立ちして針を伸ばすような時間までアクシデントに振り回される恐れすらある。嘘みたいだが、大きなイベントがある日というのは、得てして予想だにしないアクシデントを伴うものである。自らの不運体質と十余年を付き合ってきたが、ここ最近は、乞食も同然の生活をしていた頃より拍車がかかっている気さえする。 けれど、あの頃よりずっと幸せだった。それだけで、ハヤテにはそれ以上を望む気さえ起きない。
「おかえりなさい……ってのも、今日来たばかりの私が言うとなんだか変な感じですね」 平穏と調和をこよなく愛する少年を、百合の一輪挿しのごとくし居住まいを正して、教室の席で出迎えたのは、クラスの新参者、転校生。つまりアリアだった。 イベントとアクシデントはワンセット。それは相手の是非には全く関わらない。 「あなたと、お話がしたかったのです」 畏まった口調のアリアに、ハヤテはお得意の柔らかい笑みを作ってみせる。 「綾崎ハヤテ」 「え?」 「僕の名前です。好きに呼んでください。アリアさん。 あと、敬語は使わなくて良いですよ」 アリアは『え? それ、あなたが言うの?』と言いたげな表情をした。 「僕のこれは、この方が楽だからというだけので、気にしないでください」 ハヤテは先手を打つ。 「……やっぱり君、変わってるよ」 「光栄です」 恭しく頭を下げてみせると、アリアは「ぷっ」とふき出した。 「これからは変わり者同士よろしくね」 はい、と差し出されるアリアの掌。 右手と右手が繋がる。方や女性の柔らかさにちょっとどきっとしつつ、方や意外に固い指先に驚きつつ。 「……君の手、暖かいね」 ハヤテが、にやりと口の端を歪める。 「趣味ですから」 また、アリアがはにかんだ。
イベントとアクシデントはワンセット。 日常もいいが、だからと言って新しいことが嫌いなわけではない。 ハヤテは、爛々と輝く星々に彩られた、細い月を見上げる。夜の帳は、今は口元を映す鏡のようだった。
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Re: Shape(05/03 01:10更新) ( No.5 ) |
- 日時: 2014/05/03 02:26
- 名前: ピーすけ
- みなさん、ごぶさたしております。改めまして、ピーすけです。
連載開始からずいぶん経ちましたが、改名以来(元ピアノフォルテ)の付かない初めての小説となるので、改めてご挨拶申し上げます。
といっても、名前が変わったからって作風がそんなに変わるわけではないのだけれど。 でも、変えようと頑張ってます。変なところあるかも、有ったら直しますので忌憚なくお申し付け下さい。 今読み返してみると、プロローグ部分の固いこと固いこと(笑) それ以降も今一つライトにできていないのは私の欠点ですね。この掲示板じゃあ、かなり異端な部類だと思います。昔はもっと柔らかくかけたのに……
なお、今作は一回の投稿あたり3000から4000字程度をおおよその目安にしています。 改行少ない上にweb上では横に伸びるので短く見えますけれど、実は結構書いてます。 まあ、一話で5000字突破する猛者もいらっしゃるので、それに比べれば……ですが。 その上、基本的にwnb用にレイアウトしていないので、見にくいかもです。 PDFを試作しているのはそういう意味合いもあったりします。
さて、今作は私の小説家として今までの集大成になれたらと思い製作しております。 ひなゆめ時代処女作で音楽を扱い、まどか☆マギカのクロスやARIAのクロスをやり、その合間に短編をいくつかやりつつ、こちらでは無謀にも空戦モノに挑戦していました。結果は……ほら、努力することが大事って言いますしw
正直、長編では処女作が未だに私の中では最高傑作なんですよね。荒かったけど、いろんなことを詰め込んでいなかった分、まとまっていましたし。 多分、私の身の丈に合っているのはああいうのなんだろうなあと、今にして思います。 だから、今回も大風呂敷は広げずに小ぢんまりとやりつつ、以後の経験も活かしていけたら、ちょっとは成長できたのかなと。
これまで見守ってくださった方に驚いていただけるよう、これから見てくださる方に楽しんでいただけるよう、これからも誠心誠意頑張っていきます。
それでは。
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Re: Shape(05/03 01:10更新) ( No.6 ) |
- 日時: 2014/10/30 23:10
- 名前: ピーすけ
- ぬっと聳え立つ直方体の塊。頑丈な鉄筋コンクリートの骨組みと、日本という狭い国土に合わせて進化した背丈の二つだけが取り柄の古臭い高層マンション。白いペンキは色あせ、その肌には苔がうっすらと貼り付いている。その上に夜とあっては、明りの乏しさが薄気味悪さを助長していて、いよいよ妖怪じみた様相を醸し出している。
だが、そのエントランスに、余りにも似つかわしくない装い人影が一つ。アリアだった。 質のいい桜色の制服。白皇学院が誇る華やかさは、鬱蒼としたこの場において浮いてしまっている。 アリアはポケットから鍵を取り出し、自動ドアの前に取り付けられた装置の錠前に差し込み、捻る。よほど滑りが悪いのか、ドアはきゅるきゅると己が身を削るような音を立てながらゆっくりと開いた。 埃っぽい廊下を足早に、しかし足音は出来るだけ立てないように歩き、いつ遊園地のフリーフォールと化してもおかしくないようなエレベーターの中へと身を滑り込ませる。 最上階のボタンを押す。ギ、ギという音を聞きながら、じっと階数表示が目的地を指すのを待つ――到着。 再度廊下をすこし歩くと、そこが彼女の住まう部屋だった。 こん、こん。ここん。ノック。返答無し。 当然チャイムも備え付けられているのだが、我が家の家訓として、出来るだけ使わないようにしているのだ。 分厚い扉を最小限だけ開き、隙間に体をねじ込む。 やはり父は帰っていないようで、遮光カーテンを閉め切ったままの室内は、ドアが閉まってしまうと、息が詰まりそうな暗闇に包まれていた。 手探りでスイッチを探り当てて、カチリ。 ぱか、という音とともに、一気に光を取り戻した室内は、しかし闇を追い払って尚六畳1Kという間取りのせいで閉塞感を拭えない。ここに二人暮らしというのだから、カプセルホテルより幾分マシという程度だろう。 置いてあるものと言えば小さな円卓と、窓際に異様にしっかりとしたつくりの収納付きベッドが一つ、そしてその反対には質素なソファが一つ。それだけでも一杯いっぱいという有様だった。そして、残りのスペースのほとんどは、まだ封を開けていない段ボールが埋めつくしている。歩こうと思えば、人の方がテトリスのピースのように隙間を縫わねばならない。 アリアは服を全て脱ぎ散らかし、着替えとタオルを段ボールから取り出して浴室に入る。 丁寧に一日の汚れをシャワーで洗い流しながしていると、どっと疲れが押し寄せてきて、少しだけ眠かった。 だが、まだ今日の内に済ませておかねばならない仕事は残っている。 がしがしとタオルで体の水分を拭き取り、浴室を出る。イモ臭い着古したジャージを着て、粗雑な夕食を二人分作っておく。父の分は皿によそってラップをかけ、自分はというとフライパンを皿代わりにした。 歯磨きをしながらの洗い物までを済ませてようやく、アリアはベッドの上に身を投げ出すことが出来た。 「……ふぅ」 その嘆息は、安堵ではなく……むしろその逆だった。 彼女の本業は、ここから始まる。 その手のひらには、一枚の写真が握られている。映っているのは少女のような優男の顔。 綾崎ハヤテ。彼女は彼のためにはるばる日本を訪れ、そして今も彼のために思案する。 たった一日……しかしそれでもこの対象の優秀さは想像できた。 彼女は、彼の半生を知っている。 だから、はじめからこれが容易ではないと察していたし、やはり慎重に手段を選ばなければ失敗するのは目に見えている。 アリアはベッドの収納を開けて、詰め込まれた下着の奥へと手を伸ばす。柔らかい布に交じって、固い塊が指先に触れる。冷たく重い箱を引き出して、膝の横に寝かせる。アルミ製の小さなアタッシュケース。 その口を開けると中には鈍く光る凶器が息を潜めていた。 マテバ2006M。奇妙な銃を作ることで有名なイタリアのマテバ社が作り上げた、彼女の愛銃であった。 銃身の下部に取り付けられた銃口のせいで照準は狂いやすく、しかしそのおかげで発射時における上下のブレは抑えられる。前後方向の反動は、その分大きくなってしまうのだが。 ハッキリ言って実用面からすると疑問符の付く銃である。しかしアリアの体格と役職には合っていた。最大のメリットは、バレルの長さを153oから51oまで7段階のバリエーションで容易に変えられる点である。 もともと、狙撃より至近距離からの不意打ち、だまし討ちのスキルを磨いてきたアリアにとっては、拳銃というものに求める要件は確実に弾が出ることと、コンシールドキャリーが容易であること――つまり隠匿して携行出来ること――の二点のみだった。 入念に各作動部を点検し、ガンオイルを塗布。ついでに携帯性とコンシールド性を重視してバレル長をアリアにとって最も慣れ親しんだ最短の51oに換装。同じくケースの中に収められている.357マグナム弾にも変形がないか入念に見ておく。 コンディション・ノーマル。万が一今すぐに使命を果たせと申しつけられたなら、きっとつつがなく全うできることだろう。確かに綾崎ハヤテは優れた人物である。だが、彼女の手の内に銃という絶対の暴力が存在する限り、敗北はあり得ない。 むしろ問題は日本という国が持つ、暴力に対する潔癖性だ。 人一人の命の価値が高すぎる日本で、計画性なく対象を殺害すればすぐにアシがつく。 雇い主からすればトカゲの尾のようにアリアを切り捨てればいいだけの話だが、無論アリア本人がそこまで己の命を軽んじられる筈も無い。理想は最後の最後、まさしく殺すその瞬間まで……いやその時ですらも対象及び周囲に察せられることなく完遂するのが理想だ。 だから、日本に入国した初日――対象を対象と知る前に面識を持ってしまったのは、不幸だったとしか言いようがなかった。 情報の開示がアレより早ければと、今でも悔やまれる。 当然あのときだって自分が暗殺稼業とするような人物であると勘繰られるような言動はしていなかったが、アリア・オールドマンの素面に近い一面を見られてしまったのは、痛恨だった。 加えて、対象に少々特別な感情を抱かれてしまった感も否めない。 必要以上の興味関心は、正体が露見する要因にもなりうる。だが、彼女たちの出会いは、余りにも小説的のようで…… ――ああ、神様どうか―― アリアは、賛美歌を口ずさむ。掌の上で、同胞を殺す道具を弄りながら。 ――私にこれ以上あの人を好きにさせないでください―― 主は、彼女の耳に優しい福音をもたらしたりはしない。許しも、罰も与えてはくれない。 銃弾の冷やかな感触だけが、彼女の至る未来を、克明に物語っているようだった。 愛銃を学生鞄の奥にしまい、今度こそ眠るためにベッドに横たわる。 次に覚めだったときに、すべてが夢であったら良いのに。 夢であってほしいのは、果たしていつからなのだろうか――父との出会いもまた夢のようであったし――今日まで生きながらえていること自体もまたそう。 もしどこからか、本当に夢の世界に迷い込んでいたのだとしたら、現実はきっと……父に会うよりもっと前に終わっているのだろう。
――でなければ、こうして身を包む毛布が、こんなにも暖かいはずがない―― そう思えてしまうほどにアリアの記憶は、乾いた情景から始まっていた。
一人頭幾ら。 私の服に付けられたタグには、英数字が書かれている。 16。当時はロクに文字など読めなかったが、今なら解る。これはきっと、一番価値がありそうだから一番後に出荷される予定という意味だったのだろう。 トラックの固い荷台に押し込められていたのはアリアとそう年の変わらない少年少女たちだ。1から順にアリアの16まで、無機質な数字を付けられた子供たち。皆暗い瞳をしていて、蔓延する腐臭を気に留めようともしていない。 アリアもまた、彼らとなんら変わらなかった。 両手両足の自由を時代遅れの拘束具で奪われ、床ずれで痛む体を動かすことも出来ず、ただ時が過ぎるのを待っている。 傷むのは、床ずれのせいだけではない。顔がポテンシャルにならないような子供たちの顔は腫れていたし、そうでない子たちもボロの隙間から覗く肌には暴力の跡が垣間見える。 その点アリアは比較的優遇されていたようで、少なくとも跡が残るような暴力はほとんど受けていなかった。これで痛いなんて悲鳴を上げた暁には、他の子たちから非難されること必至だろう。けれどこのときは、自分だけ仲間外れにされたようで、安心しつつも、同じ境遇の彼らとすら、痛みを共有できずに寂しかったのも覚えている。 人間のアルビノは稀少で、だから丁重に扱われているのだと知ったのは、ずいぶん後のこと――余談だが、他の皆は一人頭幾らで扱われていたそうだが、私はグラム売りで扱われる予定だったそうだ。得意な存在は時に魔術やそれに類するオカルトにとっては稀少素材だったりするらしい。しかしこればっかりは今になってもその価値観を理解できない。自分の肉体が平凡な人間と全く変わりないのは、彼女自身には当たり前のことだったから。 ひとしきり冷静に周囲を確認して、アリアはこれが夢だと確信した。 始まりの記憶。これより前は、覚えていない。その代わりにこの映像だけは、鮮明に覚えている。勿論、この後の展開も……だが、夢の中であっても、彼女は構えることさえできず――爆音。怒声。そして悲鳴。 洗濯機の中に放り込まれたみたいになる荷台の中。 床が壁に、壁が床になっていた。 眩いばかりの陽の光に目を眇める。外と彼女たちを隔てていた荷台の扉が、瞼のようにぱっくりと開いていた。 遠のく意識の中で、最後に外の光を見ることが出来てよかったなあなんて、そんなことを思った。
目が、覚めた。 寝ころがったまま視線を部屋の中に彷徨わせる。 五感がじわじわと覚醒していく。まず、壁掛け時計に焦点を合わせる。午前3時。起きるには、まだ早い。 続いて、ソファの方へ視線を落とす。ジャン・オールドマンが深くそこに腰掛けていた。色の濃いサングラスをアイマスク代わりに、静かに寝息を立てている。 アリアは、心の中に暖かいものが満ちるのを感じた。 ジャンと名乗るこの男こそが、アリアの地獄を破壊した張本人であり、養子として身寄りのない彼女を受け入れてくれた今の父親であった。 アリアの中に、暖かいものが満ちる。 ここが、私の居場所だ。たとえ異常と烙印を押される場所であっても、ここが一番大切な場所だと断言できる。そのためなら、きっとなんにでもなれる。そう、父と同じ殺し屋にだって。 アリアはそっと瞼を閉じる。 幸せな夢の続きを見られることを願いながら。
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Re: Shape(11/11 更新) ( No.7 ) |
- 日時: 2014/11/11 20:40
- 名前: ピーすけ
- 「遅かったではないか」
脹れっ面をした主と、すまし顔のメイドがハヤテを出迎えてくれた。 きつい眼差しで遅い帰りを咎めるナギに、ハヤテは 「いやあ、すみませんでした」 なんて曖昧な笑みを返して謝罪する。 ハヤテのお人よしはいつものことなので、それに慣れてしまったナギの怒りも長続きはしない。ふん、と鼻を鳴らして形だけの威厳を示すと、さっさと奥に引っ込んでしまう。お嬢様はまるきり子供だなとハヤテは思ったが、いくらデリカシーが無い彼でも、流石に口には出さない。 「全く、ナギったら」 ナギが消えたのを見計らって、メイドが相好を崩した。我儘な娘がかわいくて仕方がない良妻賢母といったところか。実のところ、母子と表現するにはナギと年が近すぎる人なのだが、落ち着き過ぎた挙措とマリアという名前のせいで、姉というよりやはり母という印象の方が強くなってしまう。 これでまだ十代なのだから、驚きだ。 もちろんこれも口には出さないことにする。 笑顔で隠した奥に眠る逆鱗に、わざわざ手を伸ばして触れる程、ハヤテは命知らずではない。 「あなたもですよ。ハヤテくん。お人よしは結構ですけれど、あまり私たちを心配させないでください。あなたが大事に思うものと同じくらい、私たちにとってあなたは大切なのですから」 「はい、肝に銘じておきます」 「返事だけは素直ですわね」 まるきり信頼されていない。今までが今までだったし、そしていくらマリアの忠告を肝に銘じたところで、自分は変わらないだろうとハヤテは思う。どうしても、ハヤテには自分の価値がナギやマリア達に比肩するとは信じられない。 だが綾崎ハヤテなんてモノを、大切なもの達が大切に想ってくれている。だから、ハヤテは自分を大切にしたいと思える。少々歪かもしれないが、そうでもしなければハヤテは自信というものが持てないのだ。 「さ、ご飯にしましょう」 ハヤテの神妙な顔を見て、説教は十分だと判断したのか、マリアは輝くような笑顔を作って言った。 つくづく、この人には敵いそうにない。 こういうのをマザコンって言うのかな。と、ハヤテは馬鹿なことを考えた。
まるで夢のようだった。 幸福だった。 世界の中で自分ほど恵まれている人間はいないのではないか、そう思えてしまうほどに。 確かに、日々は過酷だ。一日のうち為すべきことを成していたら、寝る時間なんてブラック企業も真っ青の有様だし、きっと長生きは出来ないだろう。 それでも、現状に文句など、あるはずがない。 綾崎ハヤテは幸福な人間である。 いつ何時誰かに問われたとしても、そう答えられる。 そうして、今日もハヤテは愛しい家族達の居る場所で美味いメシを食う。
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Re: Shape(11/11 更新) ( No.8 ) |
- 日時: 2015/03/10 17:49
- 名前: ピーすけ
- operatiom0020
昼下がり、冬の高い空には雲一つなく、窓から差し込む暖かな日差しが、時の長閑さを讃えているかのようだった。 「アリアちゃんはさ、部活とかしないの?」 もぐもぐ。口の端に米粒のお弁当を付けながら、にぱーっと泉が尋ねた。 「部活……考えたことなかったよ」 「ここにはいろんな部があるから、きっと楽しいところが見つかると思うんだ」 「うむ、確かにここでは面白いものがたくさん見れるな」 理沙がストローを咥えたまま同意した。 「部活以外にも名物は沢山だよな。アレにアレにアレに……まあ、とにかく沢山だ」 美希が箸を持たない左手の指を折る。パーが親指から順に閉じていき、あっという間にグーになって、すぐにまたパーになった。 「凄いねえ」 月並みな感想を述べつつ、果たしてどう答えるべきかアリアは考える。 あくまでアリアの第一任務は、白皇学院への潜入である。まず潜入自体が上手くいった以上、今後は学院内の地理を体に叩き込む必要がある。当然学院内の地図は頭に叩き込んである。しかし、数値で把握していたよりもずっと校内は無駄に広々としており、転校したてのアリアが自らの足だけで施設を把握するのは案外に難しかった。 昨日遅くまで学校に居残る羽目になったのも、これが原因だった。出来れば、案内役がいると助かる。 「でも、まだあまりこの学校のことわからないし……」 ただでさえ人の良い泉のことである。友である自分が弱音を吐けばきっと力になってくれる。 「じゃあ、私が色々案内してあげる」 アリアが計略を巡らせているとはを気づかずに、無垢な笑顔のままに泉は胸を叩いて見せる。 アリアの胸が、ちくりと痛む。 嘘やだまし討ちはアリアが目指す道では商売道具である。それに逐一感傷を抱くようでは二流もいいところだ。 「うん、お願い」 「まっかせてよ」 ふん、と自信満々に息を荒げる泉に、詫びることすら許されないアリアは、どうしても作り物の笑顔しか向けられなかった。 「おーい、我々を忘れるな」 「仲がいいのは結構だが、よすぎてちょっとアレだぞ君たち」 理沙と美希が、ニヤニヤとからかう口調で口々に捲し立てる。 泉は「ちがうよっ」と顔を真っ赤にして首をぶんぶん横に振って否定した。 「必死になるあたりが怪しいと思いませんか理沙さん」 「ええ。コレは匂いますわ」 「違うってばー!!」 むきになってドツボに嵌る泉の必死な声が、午後の長閑な時間に響いた。
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Re: Shape(3/10 更新) ( No.9 ) |
- 日時: 2015/03/12 13:17
- 名前: ピーすけ
- 「ケンドー……ですか」
放課後、アリアが泉に手をひかれてやってきた先は、何かの冗談としか思えないほど広々とした剣道場であった。 面―っ!!胴−っ!!と大きな声、そしてぱあん、と竹刀が防具を叩く音が道場の中に響く。幾らサッカーコート二面分ほどの面積があろうとも、スポーツに打ち込む若者たちにとっては広すぎる、ということはない。 「せっかく日本なんだしそれらしいのを見てもらった方が楽しいかなって」 「うーん……」 アリアはどう感想を言えば良いのかと口ごもってしまう。正直に評価すると、自分は運動神経が優れている訳ではないと思う。また、才能を覆したいと思うほどの熱意があるわけでもない。 「それに何より、ここにも名物が居るからな。むしろそっちの方がメインなんだ」 「めいぶつ?」 何事かを企んでいる笑顔を隠そうともしない理沙。彼女はくい、と顎でその名物とやらのほうを指し示す。 「あら、あなたたちどういう風の吹き回し?」 さきほど鮮やかな一本を決めて試合を終わらせたばかりの剣士が、面を外しながら近づいてくるところだった。その凛然とした声には憶えがあった。 「桂さん?」 面を外すと、桜色の長い髪を面手拭きで綺麗に纏め上げた桂ヒナギクの(微妙に怖い)笑みがあった。 「あら、私は名前で呼んでくれないのかしら」 「あ、ゴメン……えっと、ヒナギクさんってケンドーブだったんです……だね」 「そうだ。しかもエースだぞ」 何故か美希が誇らしげに胸を張った。 「そんなんじゃないわよ」 ヒナギクは頭を振ったが、謙遜なのは明らかだった。アリアは剣道のことなどほとんど知らない。決め手は一見平凡な唐竹割り。それでも、先の僅かな攻防で見た間合いのとり方、重心の安定した足運び、そして剣筋の鋭さ――どれをとっても彼我の差は明らかであった。 凡夫を自負するアリアには羨ましいほどの才能と技術である。 「アリアさんは剣道に興味があるの?」 「……私はあまり運動が得意じゃないので」 嘘ではない。ルールに則る試合に限れば、アリアは平凡より少しマシ程度の能力しかない。彼女が体得しているのは正面ではなく背後から、だまし討ちの類を利用して音もなく首を刈り取る卑劣の技巧。礼節を重んじる武道とは根本からして土俵が異なる。 「皆まで言わずともわかっているともさ。いいんちょさんホワイトくん」 「その呼び方はやめて。というかまず、私は学級委員じゃないから」 理沙の茶化しに、アリアは耳を赤くしてしまう。あの失態は、できれば思い出したくなかった。 「ちなみに今日もホワイトだぞ」 追い打ちを掛ける美希。 「なんで知ってるの⁉」 アリアは思わずスカートのすそを抑えてしまう。万が一ここに銃を隠していたらと思うと、ヒヤリとした。想像より、この三人組は手ごわいらしい。 「大変ね。あなたも……」 ヒナギクがしみじみと同情していた。 「ちなみにヒナは今日フリルの」 一閃。目にもとまらぬ速さで何かが美希の横を過ぎ去る。それが竹刀だと見切れたのは、投擲した本人であるヒナギクと、動体視力を鍛え上げていたアリアの二名だけだった。 竹刀が壁に激突する音に遅れて、轟と衝撃波のような強風が飛来し、ばたばたと髪の毛がはためく。 常人には予備動作すら見えぬ早撃ち。それも竹刀で。速度で言えば飛天御○流の抜刀術にも比肩しうる超神速剣(?)。 「ごめん、手が滑ったわ」 白皇学院生徒会長に口伝されている秘奥義「手が滑る」を放ったばかりの、ヒナギクの笑顔は、無機質すぎておっかない。 鋭い眼光と目があって、アリアは背筋が寒くなった。 「なんなら、アリアさんにも手の滑らせ方を教えてあげようか」 「い、いえ。け、結構です」 「そう。でも、興味が湧いたらいつでも来てね。歓迎するから」 この人だけは敵に回してはいけない。 剣道部見学は、白皇学院の鉄則をアリアの体に刻み込んで終わった。
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Re: Shape(3/12 更新) ( No.10 ) |
- 日時: 2015/03/17 14:36
- 名前: ピーすけ
- 武に学はまかり間違っても暴力に非ず。故にすべての武道は礼に始まり礼に終わる。
二礼二拍一礼を神棚に捧げ、粛々と矢を射る弓の道こそは、まさしく礼節の武道を体現しているといっていい。 つまり、裏を返せば窮屈ということでもあった。 上流階級の血を引く者が大半を占めるとはいえ、白皇学院も所詮は高等学校である。社交パーティならいざ知らず、日々の学生生活でまで上品な挙措を徹底できるわけではないし、したいとさえ思わない連中は幾らでもいる。 「やっぱりつまらんな」 からん。生真面目さが滲み出た基礎に忠実な射だった。びゅん。緩やかな放物線を描いて、矢が的に突き刺さる。たあん、と鼓を打つような音が響いても、それに対する称賛の声すら上がらない。弓道は、つくづく騒がしさを排した武道である。そもそも、近的の距離はわずかに28メートル。それも固定した的を狙うのだから、風でもない限り射を見ればおおよそ的中か否かは予想が出来る。だから、むしろ弓道の肝は射そのものよりも、傍からだと一見無為にも見える残心にある。残心せずとも、放たれた矢は物理法則の奴隷だから、結果に差は生まれない。しかし、それを見て次に活かすことは出来る。次の一射は、再び矢を番えた時ではなく、一射目を見届ける瞬間に始まっているのだ。 矢を射るという行為は極めて単純であるからこそ、僅かな誤差が明らかな結果として生じる。直接では型の乱れ。間接ではそれを引き起こした心の乱れ。一射目を見てそれらを弁え、反省する。残心の僅かな間に、射手たちは己との問答を繰り返すのだ。 それは実際の行為が異なるだけで、厳格な印象は楚々と茶をたてる茶道にも近しい。それどころか、徹底した個人競技である点では、それ以上に息が詰まりそうな気配すらある。 「こいつら何がたのしくてこんなことやってんだろう。むすー、って仏頂面してさあ」 射場の外から眺めつつ、率直で容赦のない文句を理沙が吐いた。 射場の誰にも見られていないことを良いことに、剣道から続いて弓道を覗いたのは失敗だった。と嫌そうな表情を隠しもしない。 泉と美希は、声にこそしなかったが、理沙を諌めなかったところをみるに、おおよそ同意の気持ちだったのだろう。 一方アリアはというと、少しだけ見入ってしまっていた。 こと的当てには一家言あるつもりだ。たかだか30メートル未満の近距離でも、一尺二寸の霞的に的中させるのはそれなりの鍛錬を必要とする。扱いが単純な拳銃すら、百発百中は決して容易ではない。照準器さえも備えていない非効率かつ単純な器械である弓でとなればなおのこと。 続けざまに四つの矢が的を射る。一立四射全て皆中。心身がともに成ってこその偉業である。ここでようやく控えめな拍手が射手に贈られる。が、射手はあくまで淡々とした様子で一礼して射場を離れるのみである。弓道に限った話ではないが、武道ではこれ見よがしに歓喜を表に出すことは憚られる。返す返すも礼を尽くすが武の道なのである。 だからこそ、ここはアリアに合っていないと思う。 「うーん……なんだか、よくわからないね」 矛を以て止むが武の骨頂ならば、アリアの目指す凶手という生き方には余りにもかけ離れているから。所詮武器とは詰まる所人殺しの器械である。それを最も活かす道は暴力であり、極意は殺生にこそある。平和な世界では狂って聞こえるかもしれないが、弱肉強食を生き抜くには、暴力に屈しないためにさらなる暴力で支配するより他に無かったから。 「うん。ちょっと失敗しちゃったかな」 にはは。と苦笑する泉。 「行こっか」 「……うん」 去り際に、ふとアリアは射場の生徒と目があった。不思議そうにこちらを見つめてくるその名も知らぬ人物に、アリアは敬意をこめてしかし、もしかしたら相手に気づいてもらえないかもしれない程に小さく会釈をした。
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Re: Shape(3/17 更新) ( No.11 ) |
- 日時: 2016/09/07 00:19
- 名前: ピーすけ
- 「ここが、私達動画研究部の秘密基地」
泉がとっておきを見せつける子供の笑顔で言った。 アリアは、ずらりと蜂の巣のごとく壁一面に敷き詰められた液晶や、蜘蛛の巣よろしく地面に敷き詰められたケーブルの数々に、そしてそこに映る映像に絶句する。
「これは……学校の中……?」
校庭、中庭、廊下、学園内がリアルタイムで映し出されている様は、圧巻である。
「うん。元からあった監視カメラの回線をここにも分配してるのが殆どだけど、いくつかは私達で設置したんだ」
「あ、心配しないでね。もちろん、許可はとってあるよ」
泉は無邪気に笑うが、だとしてもプライバシーの侵害である。
「まあ、交換条件ってやつさ。私達が設置したカメラも、逆に監視センターにも送られている。あくまで隠しカメラじゃなくて、監視カメラなのさ。これは」
下世話を取り繕う言い訳を、美希が悪びれた様子もなく言ってのける。
「まあ、ウチは風紀はいいからなあ。これだけしてもあんまり面白いものは撮れないんだが、たまにこんなのも」
無造作に放置されていたリモコンを、理沙が操作する。 一際大きなモニタに映し出されたのは、アニメチックかつフリフリした衣装に身を包んだ可愛らしい少女。……少女?
「これ、もしかしなくても……綾崎……くん……? だよ……ね」
合成にしては気合の入りまくった映像である。 部屋に入った時以上の衝撃を処理しきれず、ぱくぱくと口を動かすだけのアリアに、してやったりと理沙がほくそ笑む。
「まあ、上品とは言わないが、面白いだろ。こういうのも。それに、あくまで私達が記録しているのは公共性の高い場所だけだ。大体、これに関しては祭りの往来のど真ん中でこの恰好なんだ。言い訳も何もないと思う」
「じゃあ、結構映していないところもあるんだ」
ほっと胸をなでおろして見せるアリア。
「なにせ、この学園広すぎるしな。セキュリティ上必要な場所以外にまで監視の目をまわしてたら、いくら人が居ても足りなくなるだろ」
「それもそうだね」
アリアは視線を右往左往させて、モニタに映る映像を素早く確認していく。 過剰に思えたカメラの数も、頭の中の地図と照らし合わせてみると、決して過剰とは言えない。
「あれ、ここって……」
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Re: Shape(3/17 更新) ( No.12 ) |
- 日時: 2016/09/08 01:00
- 名前: ピーすけ
- 森の中にひっそりと佇んでいるのは、手入れも施されずすっかり風化した廃墟だった。
解像度の低い画像では、ディテールまでは観れないが、おそらくは礼拝堂。
「ああ。ウチの学校も、一応は令嬢が多いからな、昔はそっちの方も力入れてたらしいんだ。ま、今となってはすっかり自由な気風に染まっちまったけどな」
理沙が、制服のタイを解いてひらひらと振って見せる。 「そうだな」と珈琲豆の入った瓶を開けながら美希が頷く。
「私達にとっては、幸いというしかない。学校は社会の縮図だ。なんて言うけどさ。だからって社会の堅苦しさを学校にまで持ち込まれたら、窒息してしまう。そんなものは必要最小限で充分なのさ。砂糖とミルクに混ぜるコーヒーの量は、間違えちゃあいけない」
泉が笑う、ころころと、真っ白く。
「甘党だからね。私たちは。本当のコーヒーを飲んだことはあるし、それがどういう物か知ってはいるけど、カッコつけたいとき以外は別にいいかなあ。むしろカフェオレの方がずっとおいしいよね。子供っぽいって言われたら、それまでなんだけど」
「私は、それでも良いと思う」
それが許される世界なら、かくあるべきだと、アリアは素直に同意した。 常識や思想は、人に応じて柔軟であるべきだろう。 それは同意であると同時に、絶対的な防壁の言葉でもあった。 泉たちがそうであるように、アリア自身もまた、その個人の思想を、柔軟性の一つの形として保持するために。 個性、という便利な、言葉。それは極めてローカルな、個人に宿った宗教と言い換えてもいい。 そして、彼女が本当に信じているのは父と、決して人を裏切らない道具だけだった。
「ここって今も何かに使われてるの? 観た限りすっかり廃れているけれど」
「ううん。新しい礼拝堂も、もっと校舎の近くに建てられたし、こっちは完全に立ち寄り禁止区域だね。あまりにも何も映らないから、今日アリアちゃんに言われるまで、ここにカメラがあることすら忘れてたよ」
たはは、と苦笑いする泉。 そっか。とアリアは興味が失せたふうを装って笑みを返した。
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Re: Shape ( No.13 ) |
- 日時: 2016/09/13 05:32
- 名前: ピーすけ
- operation 0030
礼拝堂は、割れた窓から挿し込む月明りだけでも朽ち果てていると解る有様だった。 忘れ去られたままのイエスに、アリアは膝を折って祈りと歌を捧げる。 われにこよと主は今。そう遠くない未来、あなたの者とに一つの命が向かいます。その時は、どうか受け入れてあげてください。 そしてよりにもよって、ここを実行場所に選ぼうとしている自分は、許されることのありませんよう。
自分の安息は、きっと天国にはないから。
主は、少女の嘆きを静かに受け止める。 天啓を与えることもせず、礼拝堂に流れる時を眺めていたのと同様、冷徹なまでに平等を貫く。
風が、びゅうと吹き込んだ。 寒さが頬を打ち、ひりひりとする。 まだ、そこを伝う涙は、凍ってはいない。
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Re: Shape ( No.14 ) |
- 日時: 2016/10/19 12:26
- 名前: ピーすけ
- 「ねえ、お父さん……私、決めたわ。人目に付きにくい、おあつらえ向きの場所があったの。
きっと何かの思し召しね。神様によく似た、何かの……」
「……そうか」
ソファに深く腰掛けたまま、ジャンは頷いた。
「迷いは、無いな?」
「……父さんは、いつも迷わないもの。私だって、きっと……」
アリアの声は、いまにも泣きだしてしまいそうだった。 きつく決した眦が、なおのこと痛々しい。 しかし、ジャンは慰める言葉を持たない。 彼らは殺し屋。壊して殺すだけが取り柄の木偶の棒。
「俺は極道にすらなれなかった外道だ。 だから、躊躇わない。必要なら、求められるなら、それに応じるだけのこと。 役に立たなくなったその時は、何者でもない俺は、ただ破棄され、忘れられる。 それだけだ……俺たち殺し屋ってのは……」
「そんなこと言わないで。あなたは、私のお父さんだもの。 父さんこそが私の生きる道標。 例え血が繋がっていなくても、真似事の親子だったとしても構わない。 父さんが居れば、私は一人じゃない……そのためになら私は……」
「俺のせいにするな。これは、お前の選択だ。 もし、俺に理由を求めるというなら、この仕事は俺が処理する。 人の分まで背負うつもりは無い……おれは、一人だ。 そうあり続けることで、今まで生きながらえてきた。 お前のことも、信じてなんかいやしない」
「なら、どうして私を助けたのよ。 勝手すぎるわ。 一人で居たいというなら、私は何に縋ればよかったの?」
「そんなもの、初めからないのさ。俺がお前を救ったのは、ただ便利そうだと思ったからだ。 俺にとって女手ってのは稀少だからな。 この国には、理想の女を作るためにガキの頃から教育するって話があるらしいが、まあそれと同じようなものだ」
「……相変わらず、嘘が下手ね。ネタバレは最後にしなきゃ駄目じゃない」
「好きに言えばいい。 騙されたと知ってなお、そう答えられるなら、お前は、俺が望んだとおりになってくれたってことだ。 合格だよ。 お前は、お前の為に、お前が信じられる幻想じみた現実に、ただ忠実であればいい」
ジャンは、手品のようにマテバ6Unicaを出現させる。アリアとは兄弟にあたる銃。 2006Mより大型で鈍重にも関わらず、懐から銃を抜き放つ速度たるや、さながら達人の居合の如く。 動作の鋭さもさることながら、相手の認識の隙間を見抜く技量も呆れるほどに卓越している。或いは、銃弾すら見切る超人ですらも、彼の抜き打ちからな逃れられまい。 残酷なまでに絶対な、殺し屋の技術。 「もし耐えられなくなったときは、いつでも終わりの形だけはある。 拳銃稼業の、数少ない利点だ。 つまるところ最初から最後まで、俺たちが頼れるのはコイツだけだ。 だから、どんな時でも最後の一発だけはとっておくんだ。 相手の、そしてなにより自分の為にな」
スイングアウト。弾倉に込められた.357マグナム弾が硬い床に滑り落ち、真鍮が鈴のように凛然とした音を奏でる。
「弾が残ってねえ拳銃なんざ、文鎮の代わりにしても不便だからな。まだ石の代わりに投げたつけ方がマシだ」
「肝に銘じておくわ」
「間違えるなよ。アリア。幸運を祈る」
「オーケィ。祈る相手だけは、いつだって解っているつもりよ」
「良い返事だな。『イエス』じゃないだけ上等だ」
アリアは、床に転がる弾丸を一つ拾い上げる。
「お守りにはちょうど良いかもね。借りてもいい? 銀と違って、鉛なら魔除けにもならないだろうし」
「いいだろう」
ジャンは、微笑む。 今まで見せたことも無いような、優しい笑顔。
「その一発を……お前に預ける」
この日ようやく、アリアはジャンと本当の家族になれた。 そんな気がした。
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Re: Shape ( No.15 ) |
- 日時: 2017/04/11 18:23
- 名前: ピーすけ
- アリアは、重い鈍色の、今にも泣きだしてしまいそうな空を見上げた。
アリアは雨が嫌いだ。冷たくて、寒くて……嫌な事ばかりを想像してしまうから。舌の上の食材まで、ぼそぼそとした灰色の味になってしまう。
「泉は、雨は好き?」
「……ぅん?」
もっきゅもっきゅとご飯を咀嚼していた泉は、噛むのを休めて、こてんと首を横に倒した。 ……こく。と嚥下する小さな音。 口が小さな泉は食べるのが凄く遅い。 対してアリアは早メシ早グソも芸の一つの兵士である。 アリアも当然合わせようとはしているのだが、一緒に昼食をとるとどうしてもアリアが泉を待つ構図になってしまう。 アリアは元々口数が多い方ではないし、泉はアリアに合わせようと食べるのに精一杯なので、理沙や美希が(おもにヒナギクにしょっ引かれるという理由で)居なかったるすると、折角のランチタイムが途端に静かになってしまう。
「理沙が言ってたの。会話の初めに天気の話は一番無難だって」
「美紀ちんは終わりだって言ってたような気がするけど」
へにゃり。とした泉の笑顔。 泉の隣は、アリアにとって余りにも心地がいい。 曇天の隙間から挿す一条の光芒がつくりだす、ひだまりのような空間。 人懐っこくておせっかい焼きで、でも決してうるさくはない。 心の底から、泉が標的でなくて良かったとアリアは思う。 万が一、そうだったとしても、アリアはトリガーを引けるだろうから。
「お昼に誘ってくれたのは嬉しいのだけれど、なんでこんな天気なのに屋上なのかなって」
わざわざ寒空の下曇天を眺めるためだけに外に出るような物好きが居ようはずもなく、屋上には二人以外の姿は無い。
「アリアちゃんは雨、嫌いなの?」
「雨が降ると、晴れた日を好きになる」
アリアは皮肉のつもりだったのに、泉は頬を赤くする。
「アリアちゃんって、意外と情熱的だよね。『雨ニモマケズ』みたい」
「それは勘違いだよ」
「そうかな。私はそう思わない」
確信しているかのように、泉は言葉を強くする。
「あなたは、とても情熱的な人。きっと自分で思っているよりずっと真っ直ぐで、誰かを想える人。私は知ってる」
「どうして、そう言い切れるの」
「だって、ずっと見てたもん」
アリアは、泉にの真っ直ぐな瞳に見つめられる。
「アリアちゃんは、ずっと隠し事をしてる。誰にも気づかれていないつもりだろうけれど、きっと私だけが気づいてる」
アリアの背筋を冷たいものが流れ落ちる。無意識に、スカートの裏に隠した銃の位置を確かめていた。 気づかれていた? いつから?
「私も、きっとアリアちゃんと同じ。だから気づけた。だから、今日はそれを確かめたくてここに呼んだ」
アリアは絶望する。 抜いてから撃ったのでは、間に合わない。 間合いがあまりにも近すぎる。 この期に及んで泉が無防備なのは、それだけの自信があるからだろう。 体格からして、格闘能力は恐らく高くあるまい。 ならば暗器の類。あるいは遠隔操作のトラップ、それとも誰か協力者がいるのだろうか。 例えば時計塔。今日も理沙と美希がヒナギクに連れて行かれているあそこからなら、十分にここを狙撃できる。
「ねえ、アリアちゃん。正直に言ってね」
泉が姿勢を正す。 身体ここに極まれり。アリアには最早考えを巡らせている余裕はない。 窮鼠となったならば、あとは猫を噛むだけ。
「アリアちゃん。ハヤテくんのこと、好きでしょ?」
今まさに泉に飛びかかろうと、力を溜めていた足が、滑る。 ずるり、と横に倒れそうになるのをすんでのところで堪えた。
「…………は?」
「だ、だってアリアちゃんよくハヤテ君のほうよく見てたし、たまに寂しそうに外観て黄昏ちゃってたりしたし!!」
ズビシィっと泉の指がアリアの目前に突き立てられる。
「私もハヤテ君の方をみてたから、知ってるんだからね!!」
「あ、そう……そういうこと……」
「えっ、違うの?」
「ええ。それは泉の勘違い。確かに、綾崎君のことは気になってるけど、そういう感情じゃないよ」
「じゃあどう気になってるっていうの? 転校してきた日もなんだかハヤテ君と思わせぶりに目配せしてたしっ」
「それは、以前たまたま綾崎君と会ったことあったから。またゆっくりお話ししてみたいなって」
「それだけ?」
「うん。それだけ」
「……」
「だから私は、誓っても綾崎君に恋愛感情は全くないよ……泉と違ってね」
泉の顔が真っ赤になる。
「―――――――――――――ッ」
声にならない悲鳴を上げる泉。
アリアは、目を細めて再び空を見やる。 こんなに愛らしい少女に恋してもらえる少年は、全く幸運だ。 彼女の恋路が幸多からんことを祈らずには居られない。
「ふふふ」
アリアの口から笑い声が漏れる。 ああ、夢想される未来はなんて幸福で、だからこそこの世には溢れんばかりの残酷に満ちている。 ぽたり。と一滴だけ、雪解け水の様に冷たい雨がアリアの鼻梁の先に落っこちた。
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Re: Shape(断筆決定) ( No.16 ) |
- 日時: 2018/01/05 22:27
- 名前: ピーすけ
- ずっと次の展開は考えていたのですが、やはり原作ハヤテとの折り合いがどうしてもつけられず、誠に勝手ながら断筆とさせていただきます。
私の無計画さこのような顛末となってしまい読者の皆様にはご迷惑をお掛けします。 長らく放置した上に、無責任にも未完のまま終了という形になってしまい、大変申し訳ありません。
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