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花菱美希議員の憂鬱
日時: 2013/11/28 20:03
名前: 春樹咲良

お久しぶりです。春樹咲良です。
連載中の作品を更新停止にしておいて何なのですが,禁欲的な生活をしている間に,全然別のアイデアが膨らみ続けて止まらなくなってしまったので,ガス抜きを兼ねて作品として投下することにしました。
あと,企画の方も放置のような形になってしまってすみません。何とかしたいとは思っているのですが…。

原作Afterということで,本編から20年後が舞台になっています。
主役がアラフォーの作品をここに投稿するのもどうなのかという気がややしますが,お付き合いいただければと思います。
とりあえず,二日に分けて投稿しようかと思っています。
前編はこの後のレスで。

差し当たり,プロローグ(のようなもの)からどうぞ。




◆◆◆

花菱男女共同参画担当大臣「自分が最後の大臣に」
2025.8.27 20:32
27日に発足した火田第二次改造内閣で内閣府特命担当大臣(男女共同参画担当)として新たに入閣した花菱美希参院議員(36)は、就任会見で「自分が(男女共同参画担当の)最後の大臣になりたい」と述べ、遅々として進まない男女共同参画社会の実現に向けて強い意欲を示した。内閣府特命担当大臣は、複数の省庁にまたがる国政の重要事項に対処するため、2001年の中央省庁再編の際に法制化された。沖縄及び北方対策担当、金融担当、消費者及び食品安全担当は必置とされているが、男女共同参画担当も2001年以来常に置かれている。
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花菱美希議員の憂鬱(前) ( No.1 )
日時: 2013/11/28 22:02
名前: 春樹咲良

遅くなってしまってすみません。
それでは,前編をどうぞ。


◆◆◆

内閣府特命担当大臣(男女共同参画担当)大臣室。時刻は21時半を回った。
「内閣府の内部組織を統括するだけといっても、やっぱりこういうとこには金かけてるよなぁ。
 むしろ、こういうとこにばっかり金かけて、バカなんじゃないかと時々本気で思うよ」
「大臣がオフィスチェアーに座ってくるくる回りながら言うセリフとしてはセンスがありすぎですね。
 マスコミの前でそういうこと言うと、あなたの思ってる以上に面倒なことになるんですから、本当にお願いしますよ」
呆れた声で秘書に窘められている女性は、カチューシャで留めた前髪からこぼれた髪をかき上げながら「わかってるってば」と唇を尖らせた。
まだあどけなさすら感じさせるその姿からは、つい一時間前まで就任会見をしていた大臣の威厳など微塵も感じさせない。
「誰でも持つ感想だと思うがな。言いたかないが、国民を代表している立場の自分を、当たり前のように偉い人間だと勘違いしてる奴をたくさん見てきたんだ。
 そうやってこういう豪華な待遇を当たり前に思ってる奴らにとっては、国民の声なんて右耳から左耳へ通り抜けてるんじゃないか?」
「またすぐそういうことを言う……。っていうかあなたがそういうこと言うのもどうなんですかね。
 政治家の家系に生まれて相当裕福な家庭で育ってきたんでしょう? それこそ豪奢な生活が当たり前だったのでは」
彼女よりいくらか若いであろう青年から放たれた、秘書とは思えない痛烈な指摘に、うんざりといった顔をしていた美希の表情が少し曇った。
「……ふっ。相変わらずなかなか辛辣だな、明智君」
革張りの回転椅子に座ってふんぞり返る様子は、小柄な彼女の姿を一層際立たせて、強烈な違和感を放っている。
直前に見せた表情からすると、虚勢を張っているようでもあった。
「もちろん、その通りだ。私も、父も、祖父もそうだった。普段から何不自由ない暮らしをして、それに少しの疑問も持たずに育ってきた。
 それこそ、カップラーメンの価格の相場なんて今も知らないんじゃないかな、あの人たちは」
苦々しさに若干の諦念も混じった笑みを浮かべながら、美希はそのまま椅子にもたれて天井を見上げた。
子供の頃に見た、祖父の書斎の天井に似ているような気がした。
「政治家の家に生まれるということがどういうことかなんて、いちいち考えて生きてこなかったんだ……まぁ、めんどくさかったからな」
目を閉じると、幼少の頃の思い出が浮かんでくる。
「ふふっ、いつも偉そうにしていた父や祖父が、選挙の時だけは選挙区の有権者に頭下げててなぁ。
 ――昔から本当に不思議だったよ、政治家という生き物が。だから元々、なるつもりはなかったんだ……政治家なんてな」
大学を卒業して広告代理店に就職、30歳になる前に退職して父の秘書になった。
3年前の参院選で祖父・父が築いてきた支持基盤を引き継いで、危なげなく初当選。
世襲議員なんてみんなこんなものなのだろうか、と思っていたが、振り返ってみると美希には自分で選べる選択肢は何もなかった。
大学も就職も、家のコネで入ったようなものだった。
めんどくさいからそれでいいと思っていたはずだったが、結局は親の敷いたレールの上を歩むだけの人生を送り続けて、ここまで来てしまった。
それに気づいたのが、少し遅すぎたらしいことを美希は自覚していた。

自分の境遇が、十分すぎるほど恵まれていることはわかっている。
それでもやはり、これでよかったのだろうかという思いが頭をよぎることがある。
「……自分では好きなように生きてきたつもりだったのに、気づいたら政治家どころか国務大臣なんて役が回ってくるんだからな。やってられなくてこんなことも言いたくなるさ」
「……」
長い沈黙の後に、おどけて言ってみせたが、明智は美希の心境を見透かしたように、真っ直ぐに彼女を見つめていた。
この人の前では、嘘が通じない。
秘書としてそばに置いている間に、そのことがよくわかった。
「……私がこんなことを言ってたなんてことは、この場限りにしてくれよ」
「わかっていますよ。自分でよければ、いくらでも愚痴に付き合います」
あぁ、この感じ、何だか誰かに似ている。前からそう思っていたが、ようやく思い当たった。
「――秘書ですから」
懐かしい、あの執事の姿が、明智と重なった。相変わらず生真面目に不幸を背負っているだろうか……。
胸の奥にしまった、高校時代の思い出の蓋が開きそうになるのを、しかしもう少しのところで美希は思いとどまった。

「さて。いくらお飾りでも大臣は忙しいんですよ。この後も仕事が目白押しです。しっかりしてください、花菱先生」
「……先生はやめてくれよ」
議員になってからというもの、そう呼ばれる機会が増えて本当にうんざりしているのだった。
何だか、どうにも自分には不似合いな気がしてならない。
一応、世間体というものがあるので公の場では割りきって「先生」呼びを我慢しているが、普段は「花菱さん」と呼ばせている。
「っていうかさらっと酷いこと言うなよ。お飾りなのは否定しないが」
若くして有能なこの秘書は、次第に美希の扱いを覚え始め、遠慮がなくなってきた。
美希にとってもその方が気が楽なので助かっている。
「まったく……君に関しては正直、名前のインパクトだけで採用したんだが……」
秘書に関してだけは、美希は自分の意向を強硬に通した。
父に任せておくと、父の息のかかった中年のおっさんが四六時中自分の面倒を見ることになりかねないと思ったためである。
数ある応募の中から、これといって政界にコネクションがあるわけでもない、一介の青年を採用することに当初は難色を示された。
それでも、お目付け役として父の選んだ人物を第二秘書とするのを了承することで無理矢理納得させた。
その後の仕事ぶりについては、その父からも絶賛されるほどであったので、結果としてはよかったのだろう。
20代になってからというもの、機会さえあれば美希にお見合いを薦めて来た父が、最近は「この際だからもう彼を婿にしてしまえ」と言い出してむしろその方が面倒なくらいだ。
「まぁ、結果としては正しい選択だったわけだなぁ、明智君」
「何ですか、褒めても何も出ませんよ」
「人の悪口言っといて、埋め合わせくらいしろよ。仮にも大臣だぞ。偉いんだぞー?」
椅子に座ったまま、今度は机に肘をついて身を乗り出す。
「出たな36歳児。っていうかさっきと言ってること違うじゃないですか」
「いいから、どこからともなくパッと甘いものとか出してくれよ」
「あいにく、秘書にそういうスキルは備わってないんですよ」
「なんだとー?」
年は美希の方が7つも上なのだが、こうして見るとまるで兄と妹のようである。

ピリリリリリ――
そんな中、美希の私用の携帯が着信を知らせた。

◇◇◇


物語の都合上,初めてオリジナルキャラクターを登場させました。
明智君と言います。一応それなりに設定があるのですが,その辺は最後にまとめて。
後編は,明日投稿する予定です。





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花菱美希議員の憂鬱(後) ( No.2 )
日時: 2013/11/29 22:03
名前: 春樹咲良

それでは,後編です。


◇◇◇

「――もしもし?」
『もしもしー? わー、ミキちゃん久しぶりー!』
電話の向こうから、懐かしい声が聞こえてきた。
「泉か。久しぶりだなぁ」
『テレビ見たよー! 何だっけ、凄いよね、あの、何とか大臣』
「そうそう、何とか大臣だ。実は私もよく分かってなくてな」
『あははは、何それ、大丈夫なの? っていうか今更だけどごめん、忙しくなかった? まだ仕事中だったりとか』
「あぁ、いや、別に忙しくはない。秘書が有能だからな」
そう言いながら、机の向こうに立つ明智の方をちらりと見てウインクをしてみせたのだが、あいにく明智はスケジュール帳に目を落としていて美希に気づいていなかった。
『秘書さん? ああ、何かその人もテレビで見かけたかもー。何か若くてイケメンだったよね! いいなぁ、今度会ってみたいなぁ』
「それが実物は割と毒舌でな。遠慮がないから、初対面で泣いても知らんぞ」
再び明智の方を見ると、今度は目が合ってしまった。何でこういうときだけばっちり聞いてるんだ、と内心舌打ちをする。
『えー、そうなんだ? ふふっ、でも何かミキちゃん楽しそう。元気そうで良かったよー。あ、そうそう、それで、何で電話したかっていうとね』
どうやら、泉は就任会見のニュースを見て電話をかけてきたのではなかったらしかった。
『ミキちゃん、同窓会の案内って届いてる?』
「ん? 同窓会?」
『白皇の同窓会。来月なんだけどさー』
「あぁ、白皇の……うん、ちょっと待っててもらえるか?」

明智の方に向き直ると、美希が聞くより先に、
「5日前案内が来ていて、『とりあえずスケジュールつきそうか調整しといてくれ』って花菱さんが言ったんじゃないですか」
と言って、先ほどから手にしていたスケジュール帳を美希の前に突きだした。
「……そうだっけ?」
「来月の19日です。公務は夕方までに片付きそうなので、重要な会食などが入らなければ夜は出席できると思いますよ」
電話の相手が判明した段階で次に美希が聞いてくる質問を先読みしていたらしいという事実に軽い恐怖すら覚えながら、美希は電話口に戻った。

「――もしもし。すまんすまん。今のところ、夜は行けることになってる」
『そっかー。じゃあその時は会えそうだねぇ』
「うん、もう何年会ってないかな。学生時代はイヤってほど一緒だったのになぁ」
『ねぇ、本当に。何か不思議な感じがするよ。卒業以来会ってない人とかも沢山いるしねぇ』
「あぁ、そうだな」
ついさっき開きかけて思いとどまった高校時代の記憶が、再び引き出される。
『リサちんは来るって言ってた。せっかくだからと思ってワタル君にも聞いてみたんだけど、やっぱりお仕事が忙しいみたい』
次々と聞こえてくる名前が、懐かしい響きと共に美希のしまいこんだ記憶を呼び覚ましていく。
『それからね、ナギちゃんもちょっとまだ来られるか分からないってさ。何か今ラトビアだかザンビアだかコロンビアだか、よく知らないけど外国に居るって言ってた』
「ラトビアとザンビアとコロンビアはそれぞれ全部違う大陸にあるけどな」
『えっ? ……またまたー、ミキちゃんったら』
小学校から高校まで一緒に落ちこぼれていた美希が言えたことではないが、泉の頭の足りなさは時々心配になるレベルである。
「お前、本当に変わってないな……」
『えへへ……。ミキちゃんは、なんか……ちょっと変わったね』
「……そうかな」
ここまで来ると、泉が次に何を話そうとしているのか、美希にはもう分かっていた。何となく声が沈んでしまった気がする。
『……聞かないんだね、他に、誰が来るかって』
忘れてしまおうと思っていたわけではない、思い出。思い出すたびに、胸を刺されそうになるのが辛いから、ずっとしまいこんでいた名前。
『……あのね、ヒナちゃんも、来るって。みんなに、会いたいなって、言ってたよ』
「……そうか」
『……』
「……なぁ、泉。心配するなよ。私はちゃんと行く」
もう、そろそろ、いい頃合いだと思った。決着をつけるとか、そんな大層なことではなく。
一度会えば、きっと、それで終わるのだろう。それを避け続けて、もう二十年近く経ってしまっているのが、どれほどちっぽけで、どれほど重大なことであるか。美希が一番よく分かっていた。
『うん……楽しみにしてるからね。ミキちゃんに会えるの……みんなに会えるの、楽しみにしてるんだからね』
「わかってる、わかってるよ。あ、そう言えば、泉」
『なあに?』
「ハヤ太君は来るのか?」
『ええっ……えーっと……本人には、聞いてないんだけど……その……』
「ああ、もういいよ。お前のその反応だけでお腹いっぱいだ」
『も、もう、ミキちゃん!』

◇◇◇

「最後のアレは何なんですか」
「んー? ふっ、恋に敗れた者同士の傷の舐め合いってとこかな」
「何寝ぼけたこと言ってんですか。明日は朝から閣議ですよ。さっさと帰りましょう」
相変わらず素っ気ない秘書の背中を追いかけながら、美希は大臣室を後にした。

後部座席に乗り込んだ美希に続いて運転席に座ると、明智は思いがけないことを口にした。
「さて……途中でクレープでも買って帰りますか」
不意をつかれて目を見開いてしまったが、それでも精一杯の憎まれ口を叩いてやる。
「……今はパフェって気分なんだけどな」
「贅沢言ってるとたこ焼きに変更しますよ?」


◆◆◆


以上で終了です。

美希は3人娘でまとめてバカ扱いされていますが,めんどくさい勉強が嫌いなだけで頭が悪いわけではないんじゃないのかなぁと個人的には思っています。
本編の未来を描こうとすると,不確定な部分に自分なりの解釈を与えていかなければならなくてなかなか難しいですが,そこは巧妙にぼかして書いたりして。

ついでに,オリジナルキャラクターについて,設定だけ書いておきますね。

明智俊哉(あけちとしや)
1995年9月20日生まれ(乙女座),29歳
身長173cm,体重55kg,A型
大学院在学中に何気なく応募したら花菱議員の秘書になっていました。
美希に対しては毒舌ですが,仕事ぶりは極めて有能で,美希をコントロールしています。
高校時代は卓球部でした。

昔からちまちまと考えていたキャラクターを使う機会ができて嬉しかったです。

ではでは。次はいつになるか分かりませんが,そう遠くないうちにでも…。
エピローグとか書いても面白いかなぁとも思っていますけど,それよりは連載作品の方ですかね。

感想などいつでもお待ちしています。
それから,前編での誤字の指摘ありがとうございました。




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