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紫色の日々
日時: 2013/11/22 22:43
名前: 高島屋秋帆

細々と活動中の高島屋でございます。

3作目はゆかりちゃんハウスにおけるオリキャラ視点の物語となります。



    ―5月14日―


「ここだな」

父の声がすると同時に足が止まる。

コンクリート塀の向こうには、何とも古めかしい木造家屋が建っている。

(ここが“執事付き”アパートか‥‥)

建物が古くて風呂も共同というマイナス面を、執事というマンパワーで補っているわけなのか?

「行こうか」
「‥‥うん」

促す父に続き、門の内側に歩を進めた。
まずは建物と部屋、そして執事さんを見ないことには話にならない。

広々とした庭のあちこちで猫が日向ぼっこをしているが、目を引いたのはくすんだ色の老いた猫と、額に白い十字模様がある、まだ幼い黒猫が寄り添って寛いでいる光景だった。


「ごめん下さい」
「はーい」

父の声に対し、返ってきたのは予想外にも若い女性の声。
女性の執事さんなのかな、などと思っていたが、玄関に現れたのは、誰がどう見てもメイドさんだった。

え?メイド付きアパート??

「昨日連絡しました保科と申しますが‥‥」
「伺っております。どうぞお上がり下さい」

些か当惑気味の私をよそに、父とメイドさんは挨拶を交わし、父が靴を脱ぎ始めた。

「お、お邪魔します」

内心の動揺を隠しながら、私もメイドさんに会釈しながら靴を脱いだ。

  ――――――――――

外観の古さとは裏腹に、内部はさほど古びていなかった。

部屋にはミニキッチンとトイレもあり、陽当たりも良かった。
建物の古さを割り引いても、賄い付きで月4万円ならなかなかの掘り出し物件ではないだろうか?

――マリアと名乗ったメイドさんによれば、執事さんは驚いた事に現役の高校2年生であるという。

そういうマリアさんもかなり若そうなのだが。

そのマリアさんによると、大家さんというのが、13歳ながら飛び級で高校2年生の女の子で、執事さん共々、セレブ校として名高い白皇学院高等部に在籍しているのだとか。

白皇学院といえば、あの人が進学した学校だったっけ‥‥。

「どうだ?美幸」

そんな事を考えていた時、父から声がかかった。

「‥‥ここに入るかどうかという事?」
「ん」

数秒だけ考えたが、返事は一つしかない。

「ここにお世話になります」

父にそう返し、マリアさんに向き直った。

「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」

と、マリアさんと挨拶を交わした直後、

「只今戻りましたー!」

若い、というより、私と同世代と思しき男の子の声が玄関から聞こえてきた。

「綾崎が戻りましたわ。今こちらに伺わせます」

マリアさんが席を立ち、玄関に向かっていく。
噂の執事さんのご登場らしい。

ほどなく、マリアさんともう1人の足音が近づいてきた。

「失礼します」

入ってきたのは、英国風の執事服に身を包んだ、ボブカットで女の子のような顔立ちをした男の子。

――これが、猫屋敷こと『ムラサキノヤカタ(別称:ゆかりちゃんハウス)』の執事である綾崎ハヤテさんとハウスメイドのマリアさん、そして私こと『保科 美幸』の初対面だった。
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Re: 紫色の日々 ( No.1 )
日時: 2013/11/23 20:21
名前: 高島屋秋帆


   ――夕食時――

「入居者第2号は決まったのか?マリア」
「ええ。都立高1年生の女の子ですよ。お家賃も3ヶ月分先払いで頂きました。明日の午前中に引っ越してきます」

家主の三千院ナギと、側でそれを聞いた春風千桜はふーん、と言う表情になる

「‥‥そうか。マリアがよしとしたんだから、悪い奴ではないんだろうな」

そう言いながら、ナギはマリアから手渡された賃貸借契約書に目を通し、千桜も脇から覗き込んだ。

「そうか、学校は違うが下級生か‥‥ついに私も先輩になれる!」

と嬉しそうに呟くナギだが――。

「私生活に学年は関係ありません。あちらが年上なんですから、無礼な言動は許しませんよ、ナギ」

セブンティーンのメイドは容赦ない。

「えぇ〜!?」
「ふふん、当然だろう?」
「何だとー!」

不満だとばかりに口を尖らせるナギとドヤ顔になった千桜がぎゃあぎゃあと言い争い始めたのを横目に、借金執事は、明日は忙しい1日になるなあ、と気楽な事を考えていた。



☆オリキャラ『保科美幸』のプロフィールは今しばらくお待ち下さい。
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Re: 紫色の日々 ( No.2 )
日時: 2013/11/24 20:07
名前: 高島屋秋帆

‥‥ハヤテをさん付けで呼ぶキャラクターって、原作では園芸店の京橋ヨミくらいしかいないんじゃないでしょうか?
ましてや二次作品でも見た事ないんですが、ご存じでしょうか?



第3話『引っ越し蕎麦は音威子府に限る』

     ―5月15日朝―

装甲ハムスターこと西沢 歩のサプライズバースデイパーティの開催が決まった直後のムラサキノヤカタ――。

「ハムスターの事はひとまず置いて、今日は新たな金蔓‥‥もとい、入居者が越して来るんだったな?」
「ええ。10時頃お迎えに上がります」
「‥‥綾崎君がか?」

朝食の席で新たな住人である保科美幸の入居が話題に上った。
ハヤテが言う『お迎え』とは、荷物の引き取りと引越作業も含めての事だ。

「ええ。保科さんのお宅からここまでは徒歩圏内ですから、僕がリヤカーで往復した方が効率的ですし♪」
「そ、そうかい‥‥?」
「うむ。では受け入れは任せたぞハヤテ。私は千桜と幕張に出撃。然る後『どんぐり』に行く!」
「承りました、お嬢様!」
軽く引いた千桜をよそに、ナギとハヤテの間で本日の予定が決まっていくのだった。


   ――――――――――


  ―14時頃、ムラサキノヤカタ202号室―

「んー‥‥これでひとまずは終わりかな?」

額の汗を拭いながら、保科美幸は呟いた。

机・本棚・箪笥・母の仏壇等々、ハヤテの手を借りながら家具や什器の位置決めをしていたが、やっと納得いく収まりになった。
後はふくさに包んだ母の位牌を置くだけだが、202号室は、女の子の部屋と言うには違和感が漂っていた。

それは本棚の一角を占める鉄道関係の本と、畳の上に横たわる『C59 90』と英数字が浮き出た金属製の分厚い板、黒く艶やかな真鍮製の蒸気機関車の模型に原因を求める事ができる。

「C59の仙台仕様とは渋いカスタマイズですねー」
「知名度ならC62かD51でしょうし、C59なら山陽か北九州仕様が定番なんですけどね。母方の実家が小牛田ですから、通勤列車や臨時列車を引いてた最終時の姿にしたみたいです‥‥でも、よくご存じですね」

心底感心したように美幸がハヤテに話しかけた。

「執事ですから♪」

執事たる者、主やお客様のふる話題についていかなければならない。知らないでは済まされないのだ。

「‥‥ところで、東北線でのC59の営業運転の北限は一ノ関が定説ですけど、本当なんでしょうか?保科さん」
「美幸でいいですよ、ハヤテさん」

様々な出版物では一ノ関北限が定着しているのだが。

「‥‥軌道強化が済んだ1964年頃には、帰省列車や団体列車を牽いて盛岡まで行ってたようです。引退する前月のシフト表も残ってますし」
「じゃ、花巻の馬面電車とも顔を合わせてたんですね♪」
「でしょうね(笑)」

執事と女子高生のディープな談義が続く。

(何ですか!?この子、ナギとも違ったタイプのヲ〇クなんですか?『のぞみ』『はやぶさ』ならまだしも、デゴイチじゃないSLって‥‥)

2人の鉄道談義についていけないメイドは、美幸から手渡された『音威子府(おといねっぷ)そば』の包みを手にしたまま美貌を引きつらせ、冷汗を流していた。
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Re: 紫色の日々 ( No.3 )
日時: 2013/11/25 20:25
名前: 高島屋秋帆


    ―同日19時―

「ええーー!!?」

ロイヤ〇ホストに桂ヒナギクの驚きの叫びが響いた。

「!?」

何事かと振り向く他の客にヒナギクは頭を下げながら身を縮込ませた。
当然同じテーブルを囲む友人達も目を丸くして彼女を見る。

「どしたの?ヒナちゃん」

尋ねる瀬川 泉にちょっとねと答え、そそくさと店外に出る。

いつものヒナギクらしくない態度に、彼女の悪戯好きな友人達が黙っているはずもなかった。

「‥‥怪しいな」
「メール?の内容もな」

悪戯好きな朝風理沙と花菱美希がまず反応した。

ヒナギクがあそこまで大きなリアクションをする事は、白皇高等部に入ってからこのかた、片手で数えるほどしかない。

姉の雪路がバカをやらかしてもここまで驚いた事はない。

「ヒナをしてあそこまですっとんきょうなリアクションをさせるほどだから、全く予想していなかった事が起きたに違いない!」
「ボコられるなよー‥‥」
ヒナギクの後を追って出入口に向かった理沙に美希が身を案じる声をかけた。

――ちなみに、盗み聞きしているのをヒナギクに見つかって制裁される確率は約6割強――。


   ――ロイホ店外――

「何であの2人が一緒に乾杯してんのよ‥‥!」

ヒナギクは再び携帯電話を開いた。

ディスプレイには、笑顔でコーラのグラスを掲げる春風千桜と保科美幸の写真が展開されていた。
千桜からの件名なし・本文なしメールの添付ファイルがこれだ。

2人ともヒナギクにとってはよく知る人物だ。
春風千桜は同級生であり生徒会では自分の片腕同然の存在。
保科美幸は中学時代の1年後輩で、やはり生徒会長を務めていた自分を副会長として十分以上に補佐してくれた。

しかし、直接の接点がないはずの千桜と美幸が今仲良く同席している理由がさっぱりわからない。

撮影した場所はナギの新しい家で千桜も住んでいるアパート『ムラサキノヤカタ』のお茶の間のようだ。

撮影したのはマリアだろうが、そもそも、何故あのアパートに保科美幸がいるのか?

「どういう事よ‥‥!」

電話で千桜を呼び出す。

電話は着信音1回で繋がったが、電話の向こうから聞こえてきたのは千桜の笑い声だった。

『あははっ、すぐ電話してくると思ったよ、ヒナ』
「そんな事より、どうして私の後輩があなたと一緒に写ってんのよ!?」

お気楽な様子の千桜に苛立ちながら、ヒナギクは説明を求めた。

『それは本人が直接話すと言ってる。今代わろう』
『代わりました。保科です』

千桜が答えた直後、後輩の声に変わった――。
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Re: 紫色の日々 ( No.4 )
日時: 2013/11/27 19:27
名前: 高島屋秋帆

『お久し振り‥‥ではないですね、ヒナ先輩』
「ま、そうね。中野一高(都立中野第一高校)に決まった時にメールくれたものね‥‥って、それより!」

都立中野一高といえば、大正時代に旧制中学として開校。生徒の平均学力レベルでは“都立高御三家”の一角を成す進学校だ。

もっとも、中野一高は教師も生徒も奇人変人が少なくなく、都知事からも睨まれているのだが、進学実績が抜群ゆえ、表立った干渉はできないのだとか。

ヒナギクは“巣窟”に自ら飛び込んでいった後輩を案じていたのだが、予想以上に元気そうだった。

しかし、今知りたいのは、美幸がどうしてあのアパートにいて、早くも馴染んだような顔をしていたのかだ。

「そもそも、どうして美幸が千桜と乾杯してたの?」

それに対する回答もヒナギクの予想を上回るものだった。

『今のマンションが建て替えられる事になったので、今日、ここに引っ越しました』
「そうだったの‥‥」
『昨日、父のつてでここを紹介されまして、古さは否めませんが、賄い付きでしっかりしたスタッフさん達もいますから大丈夫と思いまして、即日契約しました』

スタッフというのはハヤテとマリアの事なのだろう。
マリアのスーパーメイドぶりはヒナギクも目の当たりにしているし、ハヤテも、イラッとくる唐変木ぶりを除けば、執事としての能力は高い。
ただ‥‥。

「そこのスタッフは私もよく知ってるわ。確かに能力に疑問はないけど、美幸の腕っ節なら多少セキュリティが不十分でも大丈夫じゃないの?」

若干の皮肉を交えて言うが、美幸も負けてはいない。

『いえいえ、私なんかヒナ先輩の足元にすら届きませんよ♪』

――2人ともそれ以上は踏み込まない。

ヒナギク・美幸とも、中学時代は『焔の桂、氷の保科』と周囲から畏怖されていたからで、その評価を定着させたある出来事は、ともに黒歴史として封印しておきたかったからだ。

「‥‥それじゃ、近いうちにお邪魔するから、お話聞かせてね」
『はい、お待ちしてます』

――写メールの真相が解って一息ついたヒナギクだが、背後の注意が疎かになった。

「今の相手は後輩だな?ヒナ」
「‥‥理沙、あなたの頭をデコレーションケーキにしてあげてもいいのよ?」

振り向いたヒナギクはとても素敵な笑顔だった――。
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Re: 紫色の日々 ( No.5 )
日時: 2013/11/27 19:59
名前: 高島屋秋帆


   主人公プロフィール

※ツッコまれても対処できません。


氏名:保科 美幸(ほしな みゆき)

誕生日:4月7日

身長:163cm

体重:48kg

血液型:A


家族
父(安全保障関係業務)
兄(某国陸軍外人部隊)
母(故人)

通学校
都立中野第一高校普通科(1年4組)

免許・資格等
自動2輪(大型)
アマチュア無線2級
乙種第4類危険物取扱者


好き・得意
写真・鉄道(新幹線以外)・園芸・釣り・蕎麦等

嫌い・苦手
他人の話を聞かない輩・甘いもの・新幹線


備考
父や兄の仕事の関係で、12歳過ぎまで日本と中近東や中南米(主に政情不安国)を行き来していた。

桂ヒナギクとは同じ中学の1年先輩・後輩であると同時に、生徒会長・同副会長という間柄。

住民登録していたマンションが老朽化し建て替えられる事になったため、父のつてでムラサキノヤカタに入居した。

甘いものは『水曜どうでしょう』の“ミスター”こと鈴井〇之並みに苦手。

イメージCV:水樹奈々
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Re: 紫色の日々 ( No.6 )
日時: 2013/11/29 19:54
名前: 高島屋秋帆


   ―ムラサキノヤカタ202号室―

「不公平よ!何であなたが私より育ってるのよ?(`Δ´)」
「そう言われましても(-o-;)」

保科美幸は先輩から恨めしげな視線と八つ当たり同然の言葉を投げかけられていた。

千桜からの写メールから一週間。桂ヒナギクはムラサキノヤカタを訪れたのだが、1年ぶりに会った後輩は、身長で自分を追い越していただけでなく、それ以外の部位の成長でも追い越されている事実を目の当たりにし、敗北感に打ちのめされていた。

「身長で追い越してくれたのは許してあげるわよ」

ヒナギクは忌々しげに後輩の胸元を指差した。

「けど、何よそれ!?Cカップってどういう事よ!」
「‥‥‥(苦笑)」
「不公平よ!生まれはたったひと月しか違わないのに」

ヒナギクは3月3日生まれ、美幸は4月7日生まれ。
学年は一つ違うが、誕生日は1ヶ月少ししか違わないし、生まれた時の体重も大差なかった。
それなのに‥‥。

「でも、どうしてそんなに胸のサイズに拘るようになったんですか?」

自分が知るヒナ先輩は、胸の大きさなんかには拘らなかった。

「し、心境の変化よ!」

答にならない答えを返したヒナギクに、美幸はある推測を口にした。

「‥‥もしかして、彼氏が実は巨乳好きだったとか?」
「バカ!ハヤテ君はそんなんじゃ‥‥あ」
「‥‥‥(゚Д゚)」

ヒナギクは、開いた口が塞がらないと言わんばかりの後輩に、自ら墓穴を掘った事に気付いて絶句した。
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Re: 紫色の日々 ( No.7 )
日時: 2013/11/30 17:07
名前: 高島屋秋帆


「ハヤテ君‥‥て、ひょっとして執事のハヤテさんですか?」
「‥‥‥」

目の前のヒナ先輩は顔を茹で蛸のごとく朱に染めて俯いてしまった。

彼氏云々は冗談で言ったのだが、まさかビンゴだったとは‥‥。

それはともかく“質問”を続けよう。

「‥‥でも、まだというのは片想い中なんですか?」
「‥‥散々迷った挙げ句に告白しようとしたんだけど、伝えられなかったのよ‥‥口に出す直前に、好きな人がいるって言うもんだから!」
「‥‥‥‥」

今私の目の前にいる桂ヒナギクは、誰もが憧れ、信頼した生徒会長ではなく、恋に思い悩む等身大の一少女に過ぎなかった。

――で、ハヤテさんの好きな人というのが、ヒナ先輩もよく知っている人で、文字通りの才色兼備、かつ“パフパフ”な人なんだとか。

「でも、ハヤテさんとラブラブになることを諦めてはいないんですよね?」
「一時は凄く落ち込んだけど、お姉ちゃんやライバルに励まされて、何とか気持ちは立て直したのよ」

ライバル?恋敵に励まされた??

「ハヤテ君が白皇に編入する前に通っていた高校のクラスメイトだった子。一度告白して振られたらしいけど、まだ気持ちは揺るいでないの。私なんかより強い子よ」

三角関係ならぬ四角関係か‥‥。
しかし、脱落しかかったライバルを励まして引き戻すとは、面白い人もいるものだ。

「‥‥で、ハヤテさんはその“パフパフ”な彼女と付き合ってるんですか?‥‥私にはハヤテさんが“そっちの”リア充には見えませんけど」
「後で本人に訊いたら、振られたと言ってたけど‥‥」
「けど?」

いつも歯切れ良い先輩らしからぬ、含みのある言葉だ。

「彼女の叫びを聞いたの。『ハヤテ、助けて!』という悲痛な叫びを‥‥。彼女の気持ちがハヤテ君から完全に離れたとは思えない‥‥」
「‥‥‥‥」

“その場に”いなかった私に何が言えるというのだ?
しかし――。

「それで、ハヤテさんを諦めるんですか?先輩は」

ハヤテさんと元カノとの間にどんなやり取りがあったかは知らない。
でも、それは当事者同士の事。ヒナ先輩やライバルさんには何ら関係ないはずだ。

「ハヤテさんと元カノさんの間に何があったかは知りませんけど、それで先輩がためらったり諦める必要はないでしょう?」

何より、ライバルさんは一度砕けながらも徹底抗戦中(?)というじゃないか。
不戦敗なんて、ヒナ先輩には似合わない。

まあ、恋愛経験がない私に言えるのはこの位しかない。

「も、もちろんよ。私はまだ宣戦布告すらしていないんだもの。戦わずして尻尾を巻いて逃げるなんてみっともない真似はしないわ!」

――誰に宣戦布告するんだろう‥‥?
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Re: 紫色の日々 ( No.8 )
日時: 2013/11/30 19:44
名前: 高島屋秋帆


連投です。
ここからはアーたん入居編になります。

  ――中野一高生徒会室――

「‥‥というわけだ。急で済まないが、君が白皇(学院)に行ってもらいたい」

2年生ながら名門・中野一高の生徒会長を務める水原 治利は銀縁の眼鏡を光らせながら、目の前に立つ保科美幸に告げる。

「それは構いませんが、約束の時間は?」
「15時30分だ。あちらさんから守衛には話を通しておくとのことだ‥‥資料はここに」
「わかりました。白皇学院に行ってきます」
「ん、頼んだよ」

――なぜ、1年生の美幸が白皇学院に赴くのかというと、定期的に行っている学校間交流行事の下打ち合わせのためだ。

本来なら副会長クラスが赴くべきなのだろうが、校内に流行っている風邪で副会長と書記が登校不能になったため、白皇学院の生徒会長とパイプがある保科美幸に白羽の矢が立った次第。

(‥‥資料まとめの手伝いのつもりだったのに、なんで役員の代理になったんだろう‥‥?)

昨年秋、1年生ながら生徒会長に就任し、変人揃いの生徒達のリーダーシップをとる水原だ。後継者育成というには時期尚早に思えるが、何らかの考えがあっての事だろう。

(何はともあれ、交流行事は成功させなければならない‥‥)

生徒会長の思惑は置いても、両校の交流行事が成功するに越した事はない。
美幸は、資料を入れた封筒を抱えて自らの教室に向かった。


 ――15時過ぎ、白皇学院正門前――

自転車から降りて門前に立つ濃紺のセーラー服の少女は、その容姿から、下校する生徒、特に中・高等部の少なからぬ男子から視線を向けられた。

「‥‥‥‥」

少女――保科美幸は、目の前に広がる白皇学院の威容に心奪われ――た様子はなく、富裕層の子弟達からの視線も意に介さず、声をかけてくる男子を当たり障りなくあしらう。

壮麗な門柱を見回し、さりげなく取り付けてあるカメラ付インターホンのボタンを押すと、学院の総合事務室に繋がった。

来意と高等部生徒会に用事がある旨を伝えて待っていると、やがて奥から何かに乗った女子生徒が近づいてきた。

「‥‥セ〇ウェイ?」

白皇学院の敷地はバカげた程に広く、構内移動のトラム(電車)やシャトルバスがあるとは聞いていたが、セグ〇ェイまで導入しているのか?

(お金持ちの考える事はさっぱりわからないな‥‥理解する気もないけど)

空いた口が塞がらないとは正に目の前の光景だったが、

「‥‥千桜さん?」

セグウェ〇に乗ってきたのは生徒会書記の春風千桜。
美幸はこちらに気付いて手を振る彼女に向かって一礼した。

「代理の人が来ると聞いていたが、まさか君だとはな」
「済みません。役員が軒並み戦線離脱してしまいまして‥‥」

生徒会室がある時計塔まで、千桜と美幸はそれぞれ〇グウェイと自転車を走らせる。

生徒会役員と一緒とはいえ、キャンパスで自転車を漕ぐセーラー服の女子高生は異彩を放っていた。
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Re: 紫色の日々 ( No.9 )
日時: 2013/12/01 11:19
名前: 高島屋秋帆

 ――ムラサキノヤカタ――

「――――」
「――――!!」

私の目の前でヒナ先輩とハヤテさんが痴話‥‥もとい、論点が噛み合わない口論を繰り広げている。

口論といっても、ハヤテさんへの好意が見え隠れしているヒナ先輩の言い分を、当のハヤテさんが全く理解しないで返すものだから、イラついた先輩が一人で空回りしているだけ。

とはいえ、事の内容を知らない人からすると痴話喧嘩にしか聞こえまい。

しかし、私はこれで確信した。
綾崎ハヤテさんは女の敵。
それも最悪の部類だと――。


  ――約1時間前、白皇学院――

「ごめんなさい、美幸。お姉ちゃんがぶち壊しにしちゃって‥‥」
「いえ、私も兄の事で身に覚えがありますから‥‥」

生徒会室では殆ど打ち合わせにならなかった。

千桜さんとともに練馬名物と化したムダに高い時計塔の最上階にある高等部生徒会室に行くと、そこにはヒナ先輩と、ここの教師だという姉の雪路さん、先輩と長い付き合いの友人である花菱さん、朝風さん、瀬川さんがおり、雪路さんの恋愛と年齢の問題について議論の最中だった。

呆れ顔で聞いていたヒナ先輩が千桜さんと私に気付いて話を止めようとした時、雪路さんが、

「若くて魅力的でも、好きな男がいないんじゃ、ムダ魅力だろうが――!!」

とヒナ先輩を指差しながら言ったものだから、

『あんたら全員出てけ―――!!!』

とうとう大噴火した。

学校では話にならないと判断したヒナ先輩はムラサキノヤカタで話をしようと提案してきたので、私も会長に連絡して了解をとり、家路につくことにした――。
「あれ、ヒナギクさんと千桜さんに、美幸さんじゃないですかー!」

私達の背後からハヤテさんの声がした。

「‥‥‥‥」

ハヤテさんに向き直った先輩の目があまりに胡乱げだったのか、どうしましたかと訊くハヤテさんに対する先輩の答には僅かに苛立ちが含まれていた。

(ハヤテさん鈍っ!)

と思った時、視界を綺麗な金髪の頭部が横切り、そのままヒナ先輩にドンとぶつかった。

「え?」
「??」

先輩にぶつかったのは年の頃6〜7歳位の女の子。
赤みを帯びた大きな瞳と、両前サイドの縦ロールが印象的な子だ。

「何?この子‥‥?」
「どこから来たんだろうな‥‥?」

ヒナ先輩達には見覚えがないようだが、ハヤテさんもまた茫然と女の子を見ていた。
そこへ朝風さんと瀬川さんが来る。

「ヒナ、その子は?」
「ひょっとして、ヒナちゃんの子供ー?」

当然、先輩は知らないと答える。

朝風さんが件の子に、どこから来たのかと尋ねると、彼女は、気がついたらここにいたと言う。

瀬川さんが、私達がママを探してあげると言った時だ。
女の子は突然ヒナ先輩を指差して

「ママ!」

と言うものだから、一拍置いて、一帯に驚愕の叫びが谺した。
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Re: 紫色の日々 ( No.10 )
日時: 2013/12/03 20:28
名前: 高島屋秋帆


――ああ、事態は急速にグダグダ化する一方だ。

今この場にいるのはヒナ先輩、ハヤテさん、千桜さん、瀬川さん、朝風さん、そして先輩をママと呼ぶ金髪の幼女と私の7人。

呆気にとられるヒナ先輩をよそに、朝風さんと瀬川さんが悪乗りして事態をかき回し始めた。

「皆の者ー、我らが生徒会長が子供を産んだぞー!」
「バカ!そんなわけないでしょ!!」

先輩は当然即座に否定し反論するが、些か冷静さを失っていたか、うっかり口を滑らせた。

「大体、私は出産はおろか、妊娠するような行為もした事ないわよ!」

これに朝風さん達が食いつかないわけがなく、先輩も一層いきり立つもので、事態は泥沼化の一途を辿った。

そこにハヤテさんが口を挟む。

「ヒナギクさんがママだとすると、パパは誰ということになるんでしょうね?」

――悪気はないんだろうけど、どうもハヤテさんは今一つデリカシーに欠けると思った。

果たせるかな、女の子は少し時間を置いてから指差した。ハヤテさんを。

先ほどを上回る叫びが谺した。

「ヒナがママで‥‥!」
「ハヤ太君がパパァ!?」
「バカ、そんな訳ないでしょ――!」

女性陣がグダグダになる中、

「そんな‥‥ヒナギクさんと僕の間に女の子が‥‥」
「そっちも悪乗りするなぁ!」

よせばいいのに、ハヤテさんも火に油を注ぐような事を言うものだから、ヒナ先輩の顔に青筋が浮かび始めた。

これはいけない。先輩の安全弁が吹っ飛んでしまう――。

「で、ハヤ太君はいつあの子をヒナと作った?」
「多分、あの時‥‥」

“プチッ”

何故かはわからないが、先輩は右手で水晶のような剣を握り、それを振りかぶる。

“ガッ!”

私は即座に先輩を背後から羽交い締めにし、千桜さんも両手で剣を押さえつけた。

「先輩、そんなの使っちゃダメですよ!!」
「離しなさい、2人とも!このデリカシーゼロの鈍感男に、せめて一太刀浴びせないと気が済まないのよー!!」
「バカな事言うな!生徒会長が得物でしばき倒したら問題になるぞ!‥‥綾崎君の裁きはアパートでもできる!」

――千桜さんも意外とアバウトだ。

その様を見た朝風さんと瀬川さんはというと

「お離し下され、武士の情け、武士の情けをー!」
「お静まり下され、電柱(殿中)でござる!電柱でござるぞ――!!」

松の廊下ごっこを始める始末だった。

本当に打ち合わせができるんだろうか‥‥。
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Re: 紫色の日々 ( No.11 )
日時: 2013/12/28 22:22
名前: 高島屋秋帆


「――――」
「――――」

(‥‥妾(わたくし)は一体、何をしてゐるのであらうか?)

ゆっくりと歩を進める保科美幸の右隣には金髪緋眼の少女、もとい幼女が。

――白皇学院でひと騒ぎあった後、一同(ハヤテ,ヒナギク,アリス,美幸)はムラサキノヤカタに場所を移した。

“修行”という訳あり臭プンプンなアリスの入居は、霞 愛歌が持たせた推薦書もあってすんなり叶ったが、“ママ”役を仰せつかったヒナギクは入居を拒み、アパートを飛び出してしまった。

ハヤテは、アリスの強い要請もあってヒナギクを説得すべく後を追って行ったのだが、その間の時間潰しを兼ねて、ムラサキノヤカタ付近の地理を把握したいとアリスが言うので、手が空いていた美幸がお伴することになった。

正確に言えば、美幸には済ませるべき用事があったのだが、もう一方の当事者たる桂ヒナギクが行方不明中のため、手持ち無沙汰だったのだ。

(それにしても、この子は一体‥‥)

2人は散策しながら話を交わしていたが、美幸はアリスに内心驚嘆していた。

6歳というが、ともすれば年長者と話しているのではないかと思ってしまうのだ。

(黒服のおっさん達に小さくなる薬でも飲まされたのかな?)

何しろ、初めて握手した時、

「‥‥相当
荒事を経験してらっしゃるのね?」

と言ってきたのだ。

身に覚えがあり過ぎるだけに、咄嗟に返す言葉が見つからなかったが、だからこそ自分をお伴にしたのだろうか?

ひょっとしたら、アリスも年齢に似合わず血の匂いを嗅いできたのかも知れない。

(この子自身から悪意や邪気は感じないけど、気は緩めないに越した事はないな)

高台に来て一休みしようとした時だ。

「‥‥ん?」

左手から白皇学院の女子高生が一目散に走ってきた。

「‥‥ヒナギクさんよね」
「‥‥(説得に)失敗したみたいですねぇ」

桂ヒナギク1人で駈けてきたのが、2人の間に何があったかを雄弁に語っていた。

「ホントにもう!」

ヒナギクは2人から10mも離れていない所で立ち止まると、顔を上げてまくし立て始めた。

「ハヤテ君てばホンットーにバカなんだからッ!!」

(先輩、ぶっちゃけちゃったよ)

すぐ近くに自分達がいる事に全く気付いていない。

「白皇の生徒会長も恋する乙女なのね」
(ヒナ先輩も立つ瀬がないよね‥‥)

ヒナギクの“暴走”は止まらない。

「どうして私はハヤテ君を好きになっちゃったのよっ!!」

本音駄々漏れを通り越して筒抜けだ。

聞いているのが自分達だからまだいいが、生徒会長が借金執事に片想いだと白皇学院の生徒が知ったら大騒ぎになる。

ましてや、この辺りは白皇学院のお膝元。
ややこしい事になる前に止めた方がいいだろう。

美幸はわざとらしく咳払いした。

「あなた達、いつからここに!?」
「先輩、私達の方が先に来てたんですが‥‥」

顔色を茹で蛸にして詰問するヒナギクに美幸は冷静に反論したが、アリスは


「一言一句、しっかり聞かせていただきましたわ♪」

ミステリアスな微笑をたたえて言い放つのだった。
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Re: 紫色の日々 ( No.12 )
日時: 2014/01/08 15:30
名前: ささ

高島屋秋帆さん、お久しぶりです。
あのヒナギクがこうも無防備だとは
それと、美幸をピシャリと警戒させる?アリスも凄いな〜。
少しぐらぐらですが失礼します。
これからも頑張ってください。
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Re: 紫色の日々 ( No.13 )
日時: 2014/01/18 19:19
名前: 高島屋秋帆


ささ様、コメント有難うございます。
グダグダですが、宜しくお付き合いいただければ幸いに存じます。




――19時、ムラサキノヤカタ――

帰ってきた千桜さんが段ボール箱を抱えるヒナ先輩と私を見てキョトンとした顔になった。

「‥‥ヒナも住む事になったのか?ここに」
「‥‥まあ、成り行きで‥‥」

ヒナ先輩はイマイチ釈然としない表情だが、ここに住む事を本気で嫌がっていたわけではないのだから問題はあるまい。

そして、白皇学院の生徒会長を手玉に取った当のお姫様は――。

「難しく考えないで、楽しんだ者勝ちですわよ」
「‥‥‥‥」

恨めしげなヒナ先輩の視線を見事にスルーし、涼しい顔で仰せになった。

憮然としていたヒナ先輩の表情が綻んだのは、額の一部が白い黒猫が来た時だ。

「久しぶりね、シラヌイ♪」
「ニャー♪」

ヒナ先輩がシラヌイと呼んだその子猫は、3ヶ月程前に、生後間もなく捨てられていたのをヒナ先輩が拾ったのだが、お義母さんが猫アレルギーで飼う事ができず、ナギさんが引き取って三千院家のペットにしたのだとか。

それでも自分を最初に拾ってくれた人を覚えているのか、シラヌイはヒナ先輩になついていた。

「‥‥でも、結果オーライじゃないですか」
「‥‥何がよ?」

先輩は相変わらず仏頂面だ。

「経緯はどうあれ、ハヤテさんとの距離を縮めるチャンスじゃないですか」

「ば…!何言ってんのよ!!私はあの子の修行に付き合っ」
「顔を赤くされては説得力皆無です」

先輩は強く否定するが、茹で蛸みたいな顔色では何の説得力もない。

「ほ、ほら美幸!口より手を動かしなさい!!」
「了解です(笑)」

日頃がシャープなヒナ先輩だけに、ハヤテさん絡みではもうグダグダ。
先輩には悪いけど、見てて楽しい。

ハヤテさん、期待していますよ‥‥?
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Re: 紫色の日々 ( No.14 )
日時: 2014/02/16 22:21
名前: 高島屋秋帆


零細物書きらしき者、高島屋でございます。
だいぶ間を空けてしまいました‥‥。


色々とドタバタの末に桂ヒナギクが入居した翌日――。

朝5時。
目覚ましアラームの音と共に、桂ヒナギクは目覚めた。

しばし部屋を見回し――。

「そっか、ナギのアパートよね、ここは」

見慣れない光景に一瞬だけ戸惑ったが、すぐ己が置かれた状況を把握した。

住まいが変わると、しばらくは慣れないとも言うが、昨夜はぐっすり眠ってしまった。
それもこれも同居人と鈍感執事のせいだ。

それはともかく。

「お姫様はまだ夢の中ね‥‥」

この状況を造った張本人その1は、執事に造らせたという押し入れの中の御寝所でお休みだ。

『私は朝が大変弱いので、ご自分のペースでお過ごし下さい』

前夜、彼女は寝る前にそう言っていた。
故にヒナギクは実家にいる時からの日課の準備に入った。

10分後、トレーニングウェアに着替えたヒナギクは一階に降りる。

「おはようございます、ヒナギクさん♪」

“ドキン!”

少女の心拍数が少し上がった。

「おはよう、ハヤテ君」

普段の口調より上ずっていないだろうか等と思いつつ、鈍感執事こと綾崎ハヤテと挨拶を交わす。

ふと、靴箱の上にある入居者名を書いた木札を見ると、一つだけ不在を示す赤文字に変わっていることに気づいた。

「あら、美幸は?」
「15分前、ランニングに出られましたよ」
「そうなの?」

自分は結構早起きだと思っていたが、後輩がもっと早起きだとは思わなかった。

――まあ、美幸には美幸の、自分には自分のペースがある。
ヒナギクは気持ちを切り換えると、いってきますとハヤテに言って走り出した。

(‥‥好きな人に見送られて朝のランニングに出る、か。これはこれで悪くないわね‥‥)

すったもんだはあったが、入居した以上は精一杯楽しもう。ついでにハヤテとの距離も縮めようと決意する桂ヒナギク16歳と2ヶ月であった。

――一つ屋根の下で、一気に最後まで攻略してしまおうとまで決心できないのが今の彼女の限界なのだが‥‥。
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Re: 紫色の日々 ( No.15 )
日時: 2014/04/10 23:56
名前: 高島屋秋帆

ご無沙汰しております。
ナマコより遅い物書きっぶりをさらしており
ますが、視界の片隅にでも留めていただけれ
ば幸いです。




中野区内の国際電話がかけられる電話ボックスに保科美皐の姿があった。
美幸はボックス内を見渡しながら電話機の周囲を素早く探り、不審な点がないのを確認すると頷き、受話器を持ってダイヤルボタンを叩く。

──美幸です。朝方にごめん。父さん。

『構わんさ。首尾はどうだ?』

──予想外の事態もあったけど、問題はないよ。

『予想外?』

──中学の生徒会でお世話になった先輩が住人になったんだ。

『・・・ひょっとして、あのプリチーナイチチちゃん?』

──それ、是非あの人の目の前で言ってよね。私、喜んで父さんを生け贄にしたげるから。

『マテ。親を犠牲にするのか?』

──私の人生が豊かになるなら、喜んで父さんを売るよ♪
・・・・まあ、それは後の楽しみにするとして、先輩とー緒に面白い子も入居したんだ。

『ほう、どんな子だ?』

──白皇学院の理事長さん似の女の子。
もっとも、天王州アテネ本人は常に命を狙われているし、科学では説明がつかない能力を持ってるから、あるいは周囲を欺かなければならない何らかの理由で幼い姿になったたのかも知れないね。

『そうか。そっちも注意するぺきだな』

──それで、大家さんはともかく、当主は放置しといていの?

『ああ。お罰の目の前で倒れでもせん限り、どうなろうとスル一しろ』

──わかった。

通話の内容は次第にきな臭くなってきたが、美幸はいつもの温和な表情を崩さない。

『それはそうと、《隼》と《種馬》は元気にしてるか?』

──前者はともかく、後者はまだ脱け殻同然だね・・・・。あれからまだ幾らも経ってないもの。無理ないよ。

『・・・・是非もなしか。眠いからそろそろ切るぞ』

──葉巻はもう吸わないでよね。臭いし似合わないんだから。

電話を終えた美幸はいつもどおりの歩調でボックスを後にした。

……大事な話は公衆電話か直接会うのが安全。

インターネットやEメール、携帯電話の類いは発祥がとある超大国。
それを用いて伝えられるデータはあの国に睦抜け同然だ。

同盟国元首の携帯電話を盗聴するのだ。一般国民間の通信を傍受盗聴する事に罪悪感など持つわけがない。

ゆえに、場数を踏んだ外交官は任地での公衆電話の場所を必ずチェツクする。
美幸もまた、父や仲間から何度となく敦えられ、実行してきた。

と、ポケットのガラケーがメール着信を告げる。

メールはハヤテからだ。

『夕食のメインはチキンカレーですが、甘辛どちらをご希望ですか?』

美幸はすかさず返信する。

『激辛でお願いします』
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紫色の日々番外?編@ ( No.16 )
日時: 2014/08/17 23:32
名前: 高島屋秋帆

御無沙汰しております。

なかなか進まず、放置プレイしておりました。

苦肉の策で番外?編を投下します。
時系列はアニメ三期、ナギお嬢様ご一行がラスベガスに到着した頃になります。



アメリカ西海岸、オークランド国際空港

オークランド国際空港はサンフランシスコ国際空港の北にあり、アメリカ国内や近隣諸国との間を結ぶ航空機が発着し、長距離便が発着するサンフランシスコ空港を補完しているのだそうです。

「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」

そんなオークランド空港の一角に、貨物機が多く待機しているんだけど、私たち──ヒナさん、ルカ、ルカのマネージャーの集さん、私こと西沢 歩は呆然と佇んでいます。

「あの‥‥美幸ちゃん?」
「はい?」

絶句している他の3人を代表する形で、私は隣にいる保科美幸ちゃんに、さっきから頭にある疑問をぶつけます。

「‥‥私たちが乗る特別チャーター便って、あれ?」

私は20メートルほど向こうに止まっているプロペラ機を指さしました。
操縦室のすぐ後ろにあるドアが持ち上がり、そこにフォークリフトが荷物を載せたカゴを持ち上げながらゆっくりと接近しています。

機体側面には楕円形の窓が幾つかあるけど、大半はブラインドがおろされています。

「ええ、これでルカさんの荷物と一緒に(ラス)ベガスに飛びます」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「!!‥‥‥‥」

当然でしょと言わんばかりの美幸ちゃんの答に、私たちは固まりました。
ヒナさんに至ってはこの世の終わりと顔に大書きされているほど。

「これは貨客混載機で、内側の壁を移動できるんです。定員は44人ですが、今日は12人+貨物の混載仕様です。しかも積み荷にはルカさんのライブ用の荷物もあるから一石二鳥です」

半泣きのヒナさんは恨めしげな視線をかつての片腕に向け、ルカと集さんはしょうがないと言う表情です。

「何でこうなっちゃうわけ‥‥?」

無敵の生徒会長閣下は単なる駄々っ子と化しています。

操縦室の窓から顔を出したパイロットと二言三言交わしていた美幸ちゃんがこちらに走ってきます。

「じゃ、乗り込みましょう」

美幸ちゃんに続いて私たちは搭乗口がある機体後部に向かいました。

──ホント、何でこうなったんだろうね?
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