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キミとミキ
日時: 2013/10/07 17:46
名前: ネームレス

一日一話投稿で行きます。三話構成です。

ーーーーーーーーーー

ストライク1

「はぁ……はぁ……はぁ……」

息を整える。ボールを握る。足で土の感じを確かめる。

「ほら! ラスイチ!」

「はい!」

練習でも全力で、自分の限界を試すように、足を振り上げ、土を踏み、

「っ!」

投げる!

「シッ!」

バッターが鋭く息を吐き、バットを振り抜く。
カキーン、と音をたてながら、白球は空へ飛んだ。

「あっ!」

そこで気づいた。
打球の落ちる場所に人がいることに……。

「危ない! 避けて!」

「……む?」

その人は何かを考えていたのか、少し遅れて反応する。

「……え?」

呆然とするオールバックの女子生徒。
ダメだ! 間に合わない!

「のわああああ!?」

女子生徒が咄嗟に回避行動に移った。
予想以上に速い動きに少し驚くが、これで女子生徒が避けてくれれば……。

「ふぐっ!」

『…………』

回避した後にボールがバウンドして額に当たる。あまりにも綺麗に当たるもんだから思考が止まってしま……じゃなくて!

「だ、大丈夫ですか!?」

「うぐぐ……痛い」

「あぁ……早く保健室に」

そこで、言葉は止まった。
女子生徒は痛みに耐えてるためしゃがんでいる。その体勢でこっちを見上げたため、上目遣いになっていた。
真っ赤になった額を両手で抑え、小動物のようにかがまりながら涙目での上目遣い。
不覚にも不謹慎にも、可愛いと思ってしまった。

「……そのような気遣いは無用だ」

「え、でも……」

女子生徒は近くに転がっていたボールを拾いこちらに放る。僕は突然のことで危うく落とすところだったが、キャッチに成功した。

「野球部の期待の新人。ポジションは投手。ストレートは140 km/hという脅威の球速に変化球も三つほど使える逸材。そんな者が私に気を使うな。幸い、バウンドしたからダメージはそこまで無い」

「は、はぁ……。て、あれ? なんで僕の事を」

「生徒会の活動で部活動をリサーチした時に調べた」

「……はぁ」

そう言われたら終わりだが、幾ら何でも詳しすぎな気が……。
ん? 生徒会?

「では私は行く。次からは気を付けろ」

「あ、はい!」

そう言って、女子生徒は去っていた。

「…………はぁ」

「おい。何やってんだ」

「わぁ!? すすす、すいません!」

「いや、いいけどよ……。て、あれ花菱美希か」

「花菱……美希?」

「二年で政治家の娘なんだ。生徒会長とも仲が良く、いろいろ問題も起こしてるから有名だぞ? 知らなかったのか」

「……ええ、まあ」

「ふーん……。ま、ほら! 練習続けるぞ!」

「は、はい!」

それが僕の、白皇学院高等部一年野球部所属、田中太郎と彼女の出会いだった。

○◦○◦○◦

「……はぁ」

「どうしたよ太郎。最近元気無いな」

「べっつに〜」

「野球一筋のお前が珍しい」

こいつはモブEX。僕の親友だ。だが、親友だからこそわかる。こいつに僕の事情、僕が花菱美希先輩に恋をしたことを知れば、絶対からかう。

「ふーん。……女か」

まあ、だいたい予想通りだ。だからこそ僕は頭の中に事前に答えを用意できた。伊達に親友名乗ってない。
残念だったなモブEX!

「べべべべべっつにー!!」

「わかりやすいな、お前」

しまった! 全く口が動かなかった!

「くっ、いつまでもお前が勝ち続けられると思うなよ! 次は勝つ!」

「いや、まず前提が違うから。俺ら争ってないから。……で、誰が好きなんだ?」

ぐっ、こいつは……。

「教えないよ」

「ほぅほぅ、教えないよ、か。いる事は決定だな」

僕のバカー!

「……く、モブのバーカバーカ! 絶対教えないもんねー!」

「誰がモブだ!」

よし、このタイミングを逃してはいけない!
僕は怒ったふりして足早に教室を出た。
行った先はテラスだ。別にここがお気に入りというわけでは無い。何となく来ただけだった。だが、人は少なく静かだったのでそのまま居座る事にした。

「……ふぅ。落ち着く」

こういう静かな場所に来ると、教室がとてもうるさく感じるから不思議だ。普段は何でもないのに。

「……花菱先輩」

……はっ!? 僕はなにを!?
あの日から、暇があると花菱美希先輩の事が頭によぎる。モブに言われたとおり、小中学校と大した成績は残せなくとも、野球一筋でやってきた僕には全く経験の無い事に動揺しているのはたしかだ。
で、でも、それじゃあ僕がまるで花菱先輩の事がす、す、……好き、みたいで……

「うわあああああああああああああああああ!!!」

何これ何これ何これ! 体が熱い! ムズムズする!

「ひ、一目惚れとか今時無えよマジで!!」

「ほぅ、何が無いんだ?」

「っ!!!」

ぎゃあああああああああああああああ!!! 誰かに聞かれてたああああああああああ!!!
ばっと振り返ると、そこには女性にしては長身で、黒髪を短く揃え、……どこか意地悪そうな雰囲気を持つ女子生徒がいた。
……どこかで見たことが。……ああ!

「あ、朝風先輩……ですよね?」

「む?よくわかったな」

どうやら当たりのようだ。

「え、ええ。花菱先輩といつも一緒にいるので」

「……“美希と一緒に”、か」

「………………」

全身から変な汗が出る。物凄い地雷を踏んだ感がいなめない。やり直せるなやり直したい。
と、とにかくここは誤魔化さないと!

「こ、この前野球の部活中に間違ってボールをぶつけちゃって、それで花菱先輩の事ははっきり覚えているんでよね。ほ、ほら! 普段気にもしない人と知り合いになると人混みとかで見つけた時目で追っちゃうじゃないですか!」

よし、完璧な言い訳だ!

「一目惚れ、だったかな」

地雷は一つではなかった!

「くくく、ばらされたくなければ私に従うがいい」

何故この人は初対面の人を相手にここまで上から目線でいられるのだろう。
だが、ここで刃向かってもばらされるだけ。従うしか無い……!

「……わかりました。何をすればいいんですか」

「一ヶ月以内に美希に告白してくれ」

「……what?」

「済まない。英語はわからないから日本語に訳してくれ」

「……何ですと?」

「理由はな、実は泉の恥ずかしい動画が我ら動画研究部には大量に保存されてるんだが、私、美希の動画は無くてな。つい先日、そのことで泉を弄っていたら拗ねられてな。機嫌を直してもらうために、手っ取り早く私か美希の恥ずかしい動画でも献上すればいいという考えに至ったのだ」

「……つまり、自分の恥ずかしい動画は嫌だから、僕が花菱さんに告白しているシーンを撮って、代わりにしよう、ということですか?」

「話が早くて助かるな」

「最低だあんたは!!」

先輩とかもう関係無かった。思ったらつい口に出ていた。

「はっはっは、君も告白出来て私も助かる。最高じゃないか! では、頑張りたまえ! 一ヶ月過ぎたらばらすからな」

「ええええええええええええええええええ!!!」

今日僕は、人気の無い場所には、絶対に行かないと決めた。
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Re: キミとミキ ( No.1 )
日時: 2013/10/07 18:32
名前: kull

ども、こんにちわ。kullです。
先日の茶会ではお世話になりました。

美希をヒロインにするのは珍しいですね。展開が気になります。
朝風さんが英語を分からないとか、凄い原作っぽいです。
何よりも「キミとミキ」っていうタイトル、凄いセンスいいなーって感じました!
自分がタイトルつけるとき、結構考えたんですけどテキトーになっちゃって・・。

感想ついでに誤字の指摘を。
「代わりにしよう」が「変わりにしよう」になっています。
お気づきでしたらすいません。
続き、楽しみにしてます。
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Re: キミとミキ ( No.2 )
日時: 2013/10/08 17:17
名前: ネームレス

レス返し
kullさん
こんにちわ!感想ありがとうございます!
こちらこそ、先日の茶会ではお世話になりました!

自分でも何故美希をヒロインにしたのか……(汗
まあ、面白いと思って書いたので、よろしかったら最後までお付き合いください!
原作通り書けるか凄く不安なのでそう言って頂けると嬉しいです(歓喜
ね、ネーミングセンスいいですか?な、なんか嬉しいです。……パッと思いついたやつだけど(ボソッ

誤字指摘ありがとうございます。直しておきました。
続きはこのあとすぐ!
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Re: キミとミキ ( No.3 )
日時: 2013/10/08 17:18
名前: ネームレス

ストライク2

失念していた。
最近野球に専念出来て無いし、朝風先輩に言われた時は慌てたけど「これはチャンスだ」と思ったのも事実。
かなりポジティブに解釈して、「背中を押してくれた」と考えれば、我慢出来た。
しかし。しかしだ。ここである問題が浮上した。
一ヶ月。ギャルゲー主人公が攻略につかうであろう期間。……いや、ギャルゲーなんて殆ど知らないけど。
兎も角、その一ヶ月にどういう問題があるかと言うと、

「大会が近くて、休む暇が無い!!」

「おーい、グランド走って来い一年生」

大会まで“一ヶ月”。
告白期間も“一ヶ月”。
本来、ここは一目惚れでも何でも告白してふられればいい。そして僕は野球に専念。花菱先輩とは関係が無くなり元の生活に戻れる。それが普通だ。僕みたいな人間が花菱先輩なんて高望みなんだ。
それに、朝風先輩もそういうのを狙ってるのだ。ネタとして仕込んでドッキリ風に仕立てる。ふられても僕のダメージは少ない。朝風先輩に協力したという事にすれば問題ない。
……問題ない、はずだ。
でも、僕の初恋を面白おかしく弄られると思うと、花菱先輩に迷惑がかかると思うと、

「できるかあああああああああああああ!!!」

「おー、今日の太郎は気合入ってるなー」

休み時間も使えればいいが、最悪なことにテストも近く、赤点回避を監督より厳命されている以上、バカな僕は休み時間を勉強に費やさなければならなかった。

「青春のバカヤロオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

「青春してるなー」

あれから二週間。明日はテストなのに、テスト部休は野球部には無かった。

○◦○◦○◦

「テスト疲れたなー太郎!」

「ああ、おかげで沢山練習できたよモブ」

「モブやめろ。というかなんでテスト期間なのに部休が無えんだよ」

「みんな野球が好きだからね!」

これは本当だ。
そもそも、白皇は金持ちの学校だ。将来が決まっているという人も少なくない。その中で好き好んで部活をやる人は、本心から好きな人だ。だからこそ辛い練習に耐えれる。

「答えになってねー」

「え?」

「部休が無い理由が野球が好きって、普通は監督が許さんだろ」

「甘いね。白皇はエスカレーター式、僕みたいな小学校から通ってる子は基本バカ! 偏差値とかは外部生任せだから学校は僕たちエスカレーター組には期待していないのさ! だから頼み込めば練習が許可される!」

「この学校も堕ちたな」

僕もそう思う。だが、おかげで好きな野球ができる。
が、今の僕にはあまりいい事とは言えない。
そう、テスト期間は基本一週間ほど。
何もしないまま二週間、テスト期間で一週間。計三週間。
約束まで、残り一週間となった。

「ギャルゲー主人公でも無理だろ!!!」

「うお!? どうした太郎!?」

一週間で成就する恋……無いな。あってもそいつは主人公だ。決して名前は田中太郎では無いだろう。
ああ、もう少しまともな名前が良かった。太郎って昔過ぎるよ。

「なあ、モブ。お前って一週間で女の人と付き合える?」

「なんだ藪から棒に。……て、好きな人いるんだったな。時間掛けちゃダメなのか?」

「いろいろ事情があってね……」

「ふーん。ま、いいけど。一週間か……俺は三日で付き合ったが」

「お前彼女いたの!?」

「おうともよ!」

「男版ビッチ!?」

「認識ひでえ!? ……で、誰が好きなんだ」

「……誰にも言うなよ」

「おう」

「……花菱先輩」

「……花菱って花菱美希?」

「うん」

「…………」

「…………」

「諦めな」

「モブのバーカ!」

僕は走って部活へと急いだ。

○◦○◦○◦

「今日は休みだ。メリハリも大事だぞ」

…………え?

「部活は無いんですか?」

「うむ。体を酷使し過ぎても壊れるだけだ。ゆっくり休め」

急に宣告された部休。いきなり過ぎて何がなんだか。
でも、これってチャンスでは?
最初で最後の機会なのでは?
そうと決まれば!

「……どこに行こう」

今更ながら、花菱先輩の事何も知らない事に気付いた。
はぁ、どうしよう。

「君、どうしたの」

「へ?」

あれ? 何処かで聞いたことあるような?
振り向くと、ピンクの髪に整った顔。どこか負けず嫌いな雰囲気を漂わす、

「せ、生徒会長」

「ん? ええ、生徒会長桂ヒナギク。君は……一年の田中太郎くんね」

「え!? な、何で僕の名前を」

「生徒会長として、全校生徒の顔と名前を覚えるのは必要な事よ」

どういう記憶力してるの!?

「それより、君こそ何か迷っているようだけど、悩み事?」

「……え?ああ、ちょっと恋の悩みという……か……」

僕のバカァ! 何で正直に言っちゃうのさ!

「へぇー、恋ねえ」

「あ! いえ大丈夫です! 生徒会長に相談する事の程では!」

「でも、困ってる生徒は見過ごせないわ」

「だ、大丈夫です! それに、生徒会長って誰とも付き合ったことがないって噂ですし!」

…………あ。

「へ、へぇー、それって私に経験が無いから役に立たないっていうことかしら?」

地雷踏んだー! 何回踏めば気が済むんだ僕は! そしてやっぱりプライド高かったよ生徒会長!

「本当はいつでも相談してねって言うつもりだったけど、やめたわ。来なさい、あなたの恋の悩み解決してあげるわ!」

「え? いや、ちょ、あああああああああああああああああああああああ!!!」

生徒会長はとても力が強かったですby野球部期待の新人

○◦○◦○◦

「へぇー! 美希にねー!」

何で人物名まで教えてんだー!!
たしか花菱先輩と生徒会長って親友なんだよね。「あなたなんかに美希は任せられない!」とか言われたらどうしよう!?

「美希もなかなか隅に置けないわねー」

……て、あれ? なんか笑ってるぞ?
女の人はコイバナ好きとか言うけどそういうこと?

「じゃあ私はあなたと美希をデートさせればいいのね」

「何ですと!?」

気がマッハ過ぎる!

「美希は自分を引っ張ってくれるような人が好きなのよ。だから、ここはデートでもして男らしいとこ見せちゃいなさい」

「お、男らしいって……」

そもそも話した事だってたった一度だし、デートって言っても一週間以内だ。チャンスがあるとすれば週末(その代わり野球部を休むという禁忌を犯すことになる)。
そんな僕が、で、デート? あの花菱先輩と?
というかそもそも、

「すぐにデートさせるって付き合った事の無い人の発想みたい」

「何ですって!?」

「ひぃっ!?」

心の声がー!?

「私は白皇生徒会長桂ヒナギク! 生徒の悩みは絶対に解決してみせる!」

「も、もしふられたら?」

「……野球の練習に付き合ってあげる」

まさかのノープランだった。
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Re: キミとミキ ( No.4 )
日時: 2013/10/09 19:06
名前: ネームレス

ストライク バッターアウト

しゅ、週末だ。
まさか、本当にデートする事になるとわ……。

「僕、もう死んでいいかも……」

「ふむ、それは困るな」

「っ!?」

あ、あれ〜? 幻聴かな〜? たしか待ち合わせ30分前に来たはずなのに花菱先輩の声が聞こえる……。

「せっかくの休日が無駄になってしまう」

「は、花菱先輩!?」

ほ、本物!?

「な、何で……。まだ30分前……」

「何を言っている。待ち合わせ時間ちょうどではないか」

そう言われて時計を確認する。ほ、本当だ。

「済まないな。貴重な練習時間を削らせてしまって」

「は、ははは。大丈夫ですよ。野球休むって言っても許可はもらいましたし、せいぜい手足が震えて視界が狭くなり意識が朦朧としてちょっと発作が起きるぐらいですから」

「それを人類は大丈夫とは言わない気がするな。……ほら、行こう」

ああ、本当に夢みたいだ。

○◦○◦○◦

遡ること部休の日。

「美希ー。いるー?」

「ん?どうしたヒナ」

「ちょっと会ってもらいたい生徒がいてね」

「私にか?」

「そうよ。入ってきて」

「こここ、こんにちわ!」

動画研究部部室。会長に連れて来られたのは花菱先輩が入っている部活の部室だった。そこには短いツインテールの活発そうな先輩と、僕を現在の窮地に陥れた朝風先輩がいました。

「この生徒、知ってる?」

「ああ、野球部の田中太郎くんだろう? それがどうしてここに?」

名前を呼んでもらえた!! フルネームだけど!!

「ちょっと田中くんの悩み事を聞いてね、解決のために美希の協力が必要なのよ」

「は? 私がか?」

「うん。だから、悪いんだけど週末に二人で出かけてくれる?」

「ま、待て! 何故私がそんなことを!」

きっとこの時の僕は死んだ魚の目をしていただろう。

「普段から生徒会の仕事ほっぽり出して遊んでるんだから、このぐらいしてあげてもいいでしょ?」

「い、いやだが」

「生徒の悩みを解決するのも生徒会の仕事よ」

「……いいだろう。ただし条件だヒナ」

「……やっぱりそうなるのね」

「田中太郎くんと出かける代わりに、今度ヒナにはコスプレをしてもらう! 勿論写真込みだ!」

何それ! 超見たい!

「え!?」

「ふふふ、どうしたヒナ。まさか、生徒会長とあろう者が、我が身可愛さに生徒を見捨てるつもりでは無いだろうな」

「……ふ、ふざけないで! いいわ、やってやろうじゃない!」

僕はもしかして、とても大変な事をしてしまったのだろうか。

「メイド服は基本だよね〜」

「うむ。我が家には巫女服もあるな。それも持ってこよう」

「あ、私の家にはアニメのコスプレ衣装いっぱいあるよ!」

「ほほう……それは是非とも見たいものだ」

そして、後ろでは何やらとても怪しげな会議が行われていた。

○◦○◦○◦

そんなこんなで現在に至る。

「で、君の悩みとは何なんだ?」

「え!? あ、え〜と……ひ、秘密です」

「……まあいい。私と出かければ解決するんだな?」

「あ、はい」

「なら行こう」

「え? あ、ちょっと待ってください花菱先輩!」

花菱先輩はスタスタと歩いて、僕はそれを後ろから追いかける。
まさか、こんな事になるなんて。
この時間が、少しでも長く続きますように。

○◦○◦○◦

「て、いきなりなんつー買い物してるんですかー!!」

「ん? 別に服やアクセサリー類を買っただけではないか」

たしかに、言葉の上では合っている。だが、その値段が凄かった。案の定荷物持ちなのだが、部休とは別の意味で手足が震えていた。
白皇に通う以上、うちも一般家庭からしたらかなりの金持ちではあるが、やはり政治家の娘は格が違った。

「普段からこういう風に買ってるんですか?」

「いや、無駄使いはたまにだな」

「む、無駄使い……」

格どころかスケールも違った。
きっとこの買った物の中には殆ど日の目を見ずに終わるのもあるのだと思うと、少し悲しくなった。

「さて、次は何処に行く?」

「あ、はい。え〜と」

これ以上無駄使いされても僕の心臓に悪い。だったら長時間いれて飽きない所。だったら……

「遊園地はどうでしょう!」

「まあ、今回は君のためのお出かけだからな。いいだろう」

「では行きましょう」

そう言って、僕はなけなしの勇気を振り絞って、手を繋ごうと差し出す。

「……袋を差し出されてもな」

MISS! 僕の両手は荷物で埋まっていた!

「あ、えーと」

「ふう、まず肩の力を抜け。さあ、行くぞ」

「あ、また! ちょっと待ってくださいよー!」

は、恥ずかしい……。荷物を差し出すとか……。
でも、やっぱり僕なんかと出掛けてくれるのは、嬉しい。
でも置いてくのはやめて!!

○◦○◦○◦

そして、僕はこの日、とても楽しい時間を過ごした。お化け屋敷で僕を驚かしにきたり、昼食を買ってきてくれたと思ったら、実は自分の分だけだったり、いろいろイタズラは仕掛けられたけど、とても楽しい時間だった。
そして、その時間は僕にとっては麻薬のようなものだった。
野球が好きだけど、野球よりも熱中してしまいそうで、怖くなった。
だから、僕はこの日、告白をする事に決めた。
まず100パーセントふられる。でも、そうでもしなきゃ自分の気持ちが諦められないから。
僕は、その背中に声をかけた。

「花菱先輩」

「ん? どうしたんだい」

「好きです」

きっと、僕は明日から勘違い野郎の汚名を背負うことになる。
だって、身の程も知らずに、花菱先輩に告白してるのだから。しかも、花菱先輩からしたらたった数時間の付き合いなのだ。
だから、ここで酷い言葉をかけられても……

「済まない」

「……え?」

だが、「済まない」と言われるのは予想外だった。
ここは笑われてもしょうがないのに。花菱先輩は、とても辛そうな顔をしていた。
たった数時間の付き合いでしかない、僕に。

「君が悩んでいたのは、そういうことだったのか」

「あ、その」

「君の気持ちには、答える事は出来ない」

「……で、ですよねー! ぼ、僕も何を勘違いしてたんだろ! ああー、恥ずかしい! すいません、こんなことにわざわざ付き合わせちゃって……」

「違うんだ!!」

それは、何と言えばいいのだろう。
怒り? 悲しみ? 悔しさ?
いったい、彼女の言葉には何があるんだろう。

「君に、失恋をさせてしまって、済まない」

「…………え?」

「私には、好きな人がいるんだ」

ガツンと、頭を殴られたような気分だった。
でも、花菱先輩の言いたいことは、これじゃないと思った。

「私は、自分の恋愛に逃げてるんだ。絶対叶わない、そうわかっているから、行動出来ないでいるんだ。諦めようとせず、ずっと今の関係を繋げているんだ。君みたいに動こうとせずに、楽をしてるんだ。ずっと見上げてるだけなのに、なのに自分から歩み寄ってくれた君に、こんな答えしか返せなくて、本当に済まない」

……何と無く、わかった。
きっと、この人は好きな人の事を思い続けてきたのだ。
だからこそ、失恋から逃げている自分が、僕に失恋させる事に罪悪感を……。

「……ふざけないでください」

「……え?」

でも、僕は許せない。

「ふざけないでください! そんな気持ちでふらないでください! 告白する方は、ふられる覚悟で告白してるんです! 自分の思いを! 相手との関係をはっきりさせるために告白するんです!! なのに、そんな風に断られたら、僕は諦めきれないじゃないですか。希望を持っちゃうじゃないですか。だから、はっきりふってください。カッコ良く、コテンパンにしてください」

もう少し頑張れば。もう少し押せば。もう少し長く付き合えば。花菱先輩の言葉は、そういう誘惑を植え付けるのだ。
悪意が無いのはわかってる。罪悪感を持ってくれてることもわかってる。
だから、はっきりとふってほしかった。
自分にために、花菱先輩のために。

「……ふ、ふはははは!」

「……は?」

え? きゅ、急に笑い出したぞ?

「き、君はマゾなのか? はっきりふってくれとは……普通頼まんだろう」

「え? あ、その」

「まあ、確かに、好きでもないのに期待を持たせるのは間違っているな」

そう言うと、花菱先輩は何処かスッキリした笑顔で、言った。

「私には好きな人がいる。だから君とは付き合えない」

「……はい」

……きついな、これ。
あーあ、初恋、失恋で終わっちゃったなー。……ほんとに。

「……だから、これは君限定だ」

「……え?」

「先ほど言った事だよ。あれは、君限定だ」

先ほどというのは、僕が怒る前の事だろう。
でも、それは。

「……違います」

違う。

「……僕の恋は、叶いました」

「……何を言っているんだ?」

「僕の恋は、始まって、そして好きな人によって、終わりました」

「だから、世間一般では、それが叶ってないと言うのだろう?」

「じゃあ、僕は特殊なケースですね」

僕の思いは報われた。

「僕は、あなたと同じくらい、野球が好きです。だけど、あなたに恋してから集中出来ず、内心青ざめる勢いでした。そこで、僕は思い切って告白したんです。最初からふられると思って。でも、違ったんです。花菱先輩はたった数時間の付き合いの僕に謝ってくれた。嬉しかったんです、気にかけてくれたことが。そしてその後も、ちゃんとふってくれました。だから、僕は傷付かず、あなたを諦められる。あなたの優しさが、僕を傷付けずに僕の恋を終わらせたんです。だから、その、花菱先輩に恋できて、僕は本当に良かったと思ってます」

「……君は」

泣きそうだったのは、もう遠い昔のようだ。
花菱先輩の優しさが、嬉しかった。
好きな人に、優しくされたのだ。それで十分だった。
だから、

「真に勝手ながら、あなたに恋をしたこの一ヶ月! 今まで、ありがとうございました!!」

これが僕の、精一杯。

「……そうか」

「はい。じゃあ、僕はこれで」

「まあ待て」

…………はい?

「何をカッコ良く終わらせようとしてるんだ? 普通の終わり方を、面白さを常日頃から目指している動画研究部の一員たる私が許すとでも?」

「え? 何この急展開」

「実はな、私は野球に興味が無い」

「ええぇ!?」

凄いショックだ。

「ルールも知らんしやってて何が面白いのかもわからん。ボール投げて打つだけの運動に何の意義があるのか私には全く理解できない」

なに!? 何なのこの罰ゲーム!? 俺のライフはもう0だよ!?


「だが、一生懸命な君を見ていて気が変わった。ほーんのちょっとだけだがな」

「……え?」

「田中太郎。私に、君のプレイで野球に興味を持たせてみろ。私が野球を好きになったら……まあ、出来る範囲で願いを叶えてやるのも吝かではない」

脳が、少しずつその意味を理解していく。

「…………え、えええええええええ!! ほ、本当ですか!?」

「ああ、本当だ」

「じゃあ、今日みたいにデートするのも!?」

「ああ、やってやろう」

「やったああああああああああああああ!!!」

神様! ありがとう!!

「だが、今まで全く野球に触れなかった私に興味を持たせることが出来るかな?」

「やってやりますよ!!」

「君は本当に野球が好きなんだな」

「はい!!」

こうして、僕の初恋は幕を閉じた。少しほろ苦い記憶だけど、僕はきっといつか、この約束を叶えてみせると、誓った。

○◦○◦○◦

「……ほう」

「美希ー。何見てるのー」

「いや、ちょっとな。約束の確認だよ」

「ふーん。……いいけど、生徒会の仕事も」

「おっと、用事を思い出した! さらばだヒナ!」

「あ! もう、相変わらずなんだから」













『ーー白皇学院が夏の甲子園全試合ノーヒットノーランを達成するという歴史的快挙を達成しました。この伝説の立役者、田中太郎選手はインタビューには『約束のおかげです』と答えており、今後の彼の活躍に注目が集まります。では、次のニュースで−−』

ーーーーーーーーーー

小説はこれで終了です。
理沙がどうなったのか、ヒナギクのコスプレなど、やってないこともありますがご了承ください(汗
それでは、ここまで読んでいただいてありがとうございました!
この作者は、誤字脱字の連絡を歓迎しています。連絡は→[チェック]/修正は→[メンテ]
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Re: キミとミキ ( No.5 )
日時: 2013/10/09 23:45
名前: 大和撫子
参照: https://lobi.co/invite/oIu7



どうも、大和撫子です。小説掲示板でははじめまして。今回の美希の話、田中太郎になったつもりで読ませてもらいました。誰にでもある切ない恋の話ですが結果的にハッピーエンド?となって切ないまま終わらせないところが良かったです。


さて、内容の感想ですが、やっぱりハヤテのごとく!に出るキャラクターは他の一般人から見ると全員レベルが高いんでしょうね。ただ出てくる人達が全員可愛いから気づきにくいんですよね。美希だってきっと生徒達からの人気も高いですよ、田中太郎みたいに恋をする人も多いと思います。

デートのシーンではやっぱり距離が離れている感じがありましたね。でもたとえ全くこちらに気がなくても好きな人と一緒に遊ぶのはいいですよね、太郎も距離が遠いとわかっていてもとても楽しかったことでしょう。太郎が手を繋ごうと思ったら変な勘違いをされたあたりが個人的にはツボでした。

美希が済まないと言った後に怒った太郎は私には主人公のように輝いて見えました。曖昧な返事ではなくキッパリと振ってほしいと言ったことは素晴らしいなぁと、一縷の望みも消してほしいと願った太郎は男らしかったですね。個人的な見解ですが太郎が告白できたのは美希とであって日が浅い事もあると思います。美希が関係が壊れるのが怖いと言うのは当たり前のことです、告白して失敗したら何気なく過ごした他愛のない日々すらも送れなくなってしまう、告白する前の関係に戻るのは難しいでしょう。一緒にいる時間が長ければ長いほど一歩が踏み出せなくなるのです。関係が壊れるのを恐れるのです。すみません、あんまり関係なくなってきましたね。

恋の力は素晴らしいですね。なんせ甲子園で全試合ノーヒットノーランをやれるくらいですから(笑)太郎の出した約束の答えは自分が頑張って結果を残す事で美希にも野球に興味を持たせようということでしょうか。いつか美希が野球に興味を持ってくれる事を期待しましょう。

後半の感想ばかりになってしまいましたが絶妙なタイミングで現れる理沙や力の強い生徒会長も面白かったです。


最後によくわからなかったのが美希が君限定だと言っあたりです。読み切れなかった私に説明をしてくれると助かります。


感想というかよくわからないものになってしまいました。乱文失礼しました。
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Re: キミとミキ ( No.6 )
日時: 2013/10/10 01:41
名前: kull

どーも、kullです。執筆お疲れ様です。

3話構成だからなのか、展開に無駄が無く最初から最後までサクサクと読めてとても読みやすかったです。
太郎の告白が普通にOKされたり、また普通に振られたりするだけではないという展開が予想外でとても面白かったです。

大和撫子さんも書かれていますが、怒ったときの太郎はとてもかっこよく見えました。
ただ曖昧にされて終わるのではなく、ちゃんと振ってくれ、と言った太郎は男らしかったです。

作中では描かれませんでしたが、個人的にはヒナギクが野球の練習に付き合うところが気になりましたww
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Re: キミとミキ ( No.7 )
日時: 2013/10/10 22:53
名前: ネームレス

レス返し
大和撫子さん
こんばんは! 感想ありがとうございます! そうですね、今回は数ある女性キャラの中で美希を選んだので、美希ならではのエンディングを考えました。面白かったら幸いです。
ハヤテのごとく! のキャラは本当に美少女揃いですよね。僕は伊澄押しですが、美希もこうやって書いてるとどんどん可愛く見えてきましたw田中太郎も一目惚れです。
デートのシーンは、まあ理由を上げればキリが無いのですがあまり濃い内容に出来なかったのが少し残念ですね。でも、あのギャグで笑っていただけたなら一安心です。
田中太郎が怒るシーンは結構頑張りました。感情を爆発させる、をイメージして頑張って書いたのですが、心には届いたでしょうか?俺自身、まさか田中太郎にあそこまでのスペックがあるとは思いもよりませんでした……。(注:作者です)
そしてなんか、俺よりも作品見てらっしゃいますね!?(注:しつこいようですが作者です)
このようによく見てくれている読者がいてくれて感激です!
最後のニュースですが、ここは思い切ってゲームのような記録を出させてみました。物語はここで終わりですが、もしかしたら未来の一つの可能性として、田中太郎と美希がくっつく未来もあるかもしれませんねw
理沙やヒナギクも、やはり美希のストーリーでは必要不可欠な人物でしたので、使い時探すのに苦労したんですよねw泉涙目。
大和撫子さんの疑問ですが、美希は田中太郎をふる前に、
「私は、自分の恋愛に〜中略〜こんな答えしか返せなくて、本当に済まない」
という返事をしています。なので、美希が言った君限定と言うのは、その答えを言うのが、もっと言えばかっこ悪い姿を見せるのが君で最後、という意味です。わかりにくかったらすみません。
最後に、大和撫子さん。ありがとうございました!!

kullさん
二度目の感想ありがとうございます!
読みやすいと言っていただき本当に良かったです。個人的にはもう少し足したかった箇所もありますが(汗)。
大和撫子さんの方でも言いましたが、やはりヒロインならではのエンディングをと思いまして、二転三転させてみました。美希ならやっぱり、叶わない恋の悲しさを知っていることがエンディングの鍵だと思ったので、フルに活用しました!
そして田中太郎ですが、やはりここまでのスペックがあるとは(ry。
作中で放置されている事といえば、理沙がどうなったのか。ヒナギクのコスプレ。約束の野球練習。全部読者の皆様のご想像にお任せします!いや、別に面倒だからじゃないですよ?
何だかんだでエンディングを迎えれましたこの「キミとミキ」。少しでもこの小説を読むことで有意義な時間を過ごせたならこちらも書いた甲斐があります。
それではkullさん。ありがとうございました!!

誤字指摘してくださった方々もありがとうございました!
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Re: キミとミキ ( No.8 )
日時: 2013/11/03 01:07
名前: Hina2

こんばんは〜!!ネームレスさん。Hina2です。

この場では、初めましてになるのかな?

では、感想を書かせて頂きます。

まず最初に、感想書くの、遅くなってすみませんでした。

もっと前から書けば良かったと後悔しています。

そして次に、完結おめでとうございます。

田中太郎君の心情や人柄が、詳しく書かれていたので、

オリキャラでは、ないような気がしました。

そして最後に、これからも、

小説の執筆をお互いに頑張りましょう!!

長々とすみません。では、失礼します。
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Re: キミとミキ ( No.9 )
日時: 2013/11/03 09:06
名前: ネームレス

レス返し
Hinaさん
本当に感想がwはい、この場では初めましてですね。感想ありがとうございます!
いえ、感想は書くの自由ですからいつでも大丈夫です。……説得力は無いと思いますが。
はい! 完結って終わり方凄く悩むんですよねwかなり迷ったラストなので感動していただければ幸いです。
田中太郎のスペックが(ry。
では最後に、これからもどんどんハヤテの小説書いていきます!良かったら見て行ってください!
ありがとうございました!
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