Re: 借金クエストV〜執事の花嫁〜 ( No.1 ) |
- 日時: 2013/05/28 22:21
- 名前: 唐笠
- 第一話:だいたいどこの世界もそんな感じ
カモメの声が聞こえる…
ゆりかごのように船室が揺れる……
そんな、何度目かになる目覚め。
「おぉ、目が覚めたかハヤテ」
「おはよう。お父さん」
何も変わらない日常。 きっと、それはいつまでも続くと思っていた。 場所は変わってもいつまでもお父さんと一緒に……
「よう、ボウズ。今日もいい天気だな」
「はい、とってもいい天気ですね」
看板で陽にあたっている僕にそう話しかけてきた人物。まぁ、この船の船長らしいのだが、彼は強面の顔をくしゃりと歪めながら僕に挨拶してきた。 最初こそ怖い人…それこそ、やくざとかなんかの人に見えたが、僕には優しくしてくれるし毎日パンの耳きれをご馳走してくれる心優しい人物である。
「そろそろ船も陸につくからボウズともお別れだな」
「今まで、ありがとうございました」
そういいながら僕はぺこりとお辞儀をする。 この船に乗って約1週間。今までも多くの人と出会っては別れたが、船長さんは殊更よくしてくれたので名残惜しいもでのある…
「まぁ、別れの餞別としてくってけや」
「ありがとうございます」
船長さんからいつものようにパンの耳の切れ端を貰うと、僕はそれを一口でたいらげる。 今日はいつもより少しだけ大きかったが、これも別れの餞別というやつだろう。 船長さんも僕との別れを悲しんでくれているのだと思うと自然に笑みがこぼれてしまう。
それにしてもだ… 今日は日差しも程よく、起きたばかりだというのに眠気が増してくるばかりだ…
うーん………カモメの声が……だんだん…と………おく………
「…………………」
目が覚めるとそこは港だった… ただし、身動きは取れないが……
おかしいなと思い、目線を下に向ければすぐにその答えは出た。 どうやら僕はロープでぐるぐる巻きにされているようである… でも、なぜこんな状況に陥っているのだろう?
お父さんや船長さんはどこに行ってしまったのだろう。 そう考えて辺りを見回すが、そこに見知った人はいない。 というか、そもそもが船上ではないので船長さんが見当たるわけはないのだが…
「あっ、おじさんここはどこなの?」
とりあえず、場所くらいは把握しようと思い、ちょうど前を通りかかった人を呼び止め尋ねてみる。
「どこって、奴隷売り場に決まってるだろ?」
「へぇー奴隷売りって……奴隷売りばぁぁぁぁぁぁ!?」
「なんだ、お前知らないできたのか? そえとも親に捨てられちまったか?」
そう言って笑っているおじさんお声はもう僕の耳には入らなかった。 奴隷売り場ということはすなわちピンチである。 ピンチという事は一刻も早くここから逃げ出さなければいけないのだ。
幸い、僕の売主らしき人は何か用があるのか見当たらない。 逃げ出すならば今が好機なのだが、こう縛られていては逃げ出すにも無理というものだ。
「にははは、そこで君は何をしてるのかな?」
そんな僕の危機的状況を知ってか知らずか、のんきな調子で話しかけてくる人物が一人… 身なりからいいところのお嬢様といったところだろうか…
「いや、その…助けてくれないかな?」
「いいよ〜」
そう言いながら、ロープをほどいてくれる見知らぬ少女。 まさかの一瞬にして危機脱却である… 見てる側としては面白くないことこの上ないだろう。
「あ、ありがと…」
「にははは、困ったときはお互い様だよ〜 だから、私が困ってるときには助けてね〜」
「あっ、うん…」
あいまいな返事だったが、もう会うこともないから大した問題ではないだろう… それにしても、よく笑う人である…
「私の名前はイズミ。気軽にいいんちょさんレッドって呼んでね」
「まるで意味が解りません」
「まぁまぁ、深いことは気にしない気にしない」
「は、はぁ…」
なんとも、まぁ… 憎めないというか掴みどころのない人物である…
「って、こんなことしてる場合じゃないよ! えっと、とにかくありがとね!」
それだけ言うと、僕は全速力でその場から駆け出した。
「ばいば〜い」
後ろからはイズミという名のいいんちょさんレッドののんきな声が聞こえるが、今僕は修羅場にいるのだ。 もし、仮に僕の売主にみつ「あっ、てめぇ!何逃げ出してるんだぁぁぁぁ!」
「殺されるぅぅぅぅぅぅ!!!!」
とにかく全速力で走った。 後ろなんて見てる暇はない。
大丈夫。 お父さんの所まで行けば僕は助かるんだ。 そう信じて僕はひたすら走り続けた
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Re: 借金クエストV〜執事の花嫁〜 ( No.2 ) |
- 日時: 2013/05/30 21:39
- 名前: 唐笠
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第二話:それを運命と呼ぶならば…
スライムのむれがあらわれた。
ハヤテはにげだした!
ベビーニュート、ばくだんベビーがあらわれた。
ハヤテはにげだした!
ドラキーのむryハヤテはにげだした!
とにかく僕は走り続けていた。 なんか魔物に何回か出くわした気がするけど、とにかく走り続けた。
なんの装備も持たない子供の僕が魔物に勝てるとは思えないし、そんなことでタイムロスをしていたら捕まってしまうかもしれないのだ…
そうして走り続けること半日。 ようやく、小さな村らしきものが見え、僕はそこに駆け込むように走っていった。
「サンタローズの村にようry……」
なんか敷居をくぐった瞬間に何か言われた気がするが気のせいだろう。 急に村に入ってきた人に話しかけてくるなど、門番以外あり得ないのだから… 仮にあり得たとして、その人がすべての人にそれをやっていたとすれば、そいつはニート確定である。
うん、あぁいう人にはならないようにしよう。 一度振り返り、その人の顔を確認すると僕はそう決心した。
「さて…これからどうしようかな…」
そう一人、呟いてみるが妙案は浮かばない。 一応、まともそうな村なので、仮に僕を売ろうとしていたやつが追いかけてきても平気だろう。 しかし、それで安心していいはずがない。なんとかしてお父さんを探さなければならないのだ。
しかし見知らぬ村でどうやってお父さんのことを聞いたらいいだろうか? そもそもこの村にいるという確証すらないというのに…
「やっぱり情報を集めるには酒場かな…」
そんな子供にあるまじき知識をもっている僕はさっそく、この村にある酒場を内蔵している宿屋へと向かっていった。 まぁ、情報を仕入れられなくて元々だ。そんな軽い気持ちで宿屋の地下にある酒場に足を踏み入れると…
「いやぁ、やっぱりお酒は美味しいね〜」
「お父さーん!」
まさかのビンゴである。 情報を仕入れるどころかお父さん本人がいたのだ。
その姿を見た僕は嬉しくて思わず抱き着いてしまう。 この大きな身体、独特の酒臭さ。間違いなく僕のお父さんである。
「やぁ、ハヤテ君じゃないか」
「お父さん、僕をおいていっちゃうなんて酷いよ!」
「置いていく? 父さんがそんなことするわけないだろ。 父さんはね、ハヤテ君ならちゃんとここまで来れると判断してテストしたんだよ」
「テスト?」
「そう、テストだ。 父さんの子ならどんな危機的な状況でも逃げ延びる力が必要だからね。 そして、父さんはハヤテ君ならそれができると信じていたんだよ」
子供の僕にはお父さんの言い回しはよく解らなかった。 だけど、『信じてくれている』。それが僕にとっては特別なことのように思えたのだ。 だから、僕はその言葉になんの疑問ももたず、また先ほどまでの苦行も気にならなくなってしまった。
「でも、お父さん。 お酒飲むお金なんてあったの?」
そう、船に乗る前に確認した僕たちの所持金はわずか12G。 そしてお酒が一杯5G。とてもじゃないが買えるはずがないのだ。
「それについては心配いらないよ。 ほら、お金ならこんなにたくさんあるんだからさ」
そう言ってお父さんは、Gがたくさんはいった袋を見せてくれた。 それを受け取って数えてみると、なんと1,684Gもあるではないか… いったいヒノキの棒が何本買えることやら……
「す、すごいよお父さん!」
「ははっ、これはハヤテ君が頑張ってくれたから手に入ったんだよ」
「僕が?」
「そう、ハヤテ君が頑張ればもっと二人で美味しいものも食べれるんだ。頑張ってくれるよね?」
「うん!僕頑張るよ!」
そう、元気よく答えた僕の頭を撫でながら、お父さんはいい子だとほめてくれた。 よく解らないが僕が頑張れば、お父さんも僕も美味しいものが食べれるらしい。 6歳の僕にはその程度の理解で納得してしまったのだ。
「じゃぁ、次はハヤテ君にはお友達を作ってきてもらおうかな?」
「お友達?」
「そう。お友達だ。 この村には狭いながらも何人か子供がいる。その中で一番お金持ちそうな子をここに連れてくるんだ」
「なんでお金持ちなの?」
「だって、お金持ちじゃないとハヤテ君が頑張ったお金を取られちゃうかもしれないだろ? あっ、マスターおかわりね」
「なるほど… じゃぁ、お金持ちそうな子をここに連れてくればいいんだね!」
カウンター越しにお酒のおかわりを貰うお父さんの話に僕はただ感心するばかりだった。 お父さんは先を見越してるし、僕の事を信頼してくれてるし本当にいい人である。そう思っていたのだ…
「じゃぁ、いってきまーす!」
だから僕もそんなお父さんの力になりたい。 そして僕にはそれができる。そんな高揚感の中、僕は酒場を飛び出していった。
「お金持ちそうな人、お金持ちそうな人…」
酒場を飛び出してから早10数分。子供は何人か見かけたが、どの子も似たか寄ったかの恰好であり中々目当ての人物は見つからなかった。 そういえば、港で僕を助けてくれた……名前なんだっけ?
えっと………そうだ! たしか『いいんちょさんレッド』とかいう名前だったはずである。 その子なら確かにお金持ちそうだったから、あそこで友達になっておけばよかったかなぁ…
そんなことを考えながら、歩いているとついに村はずれまで来てしまった… 10数分で村はずれについてしまうとは、お父さんの言っていた通り小さな村なのだろう。 後は、洞窟があるだけであり、さすがにこの奥に人が住んでるとは考えづらいから引き返そう。
そう踵を返そうとすると、洞窟の前にいる一人の女の子が視界に入った。 真昼だというのに煌びやかに見える金の髪。他のみんなとは違う上等の生地でできたドレス。 間違いなくお金持ちであることが遠目でも判断できた。いいんちょさんレッドと比べても遜色はないだろう。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
目当ての人物を見つけた僕はさっそく声をかけてみる。
「ん? お前はいったい誰なのだ?」
その声に応じて振り向いた女の子。
この偶然にも思える出会いがのちに僕の運命を大きく変える事となるなどとは、僕はまだ知る由もなかった…
続
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Re: 借金クエストV〜執事の花嫁〜 ( No.3 ) |
- 日時: 2013/05/31 22:13
- 名前: 唐笠
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第三話:勘違い
「ぼ、僕はハヤテだよ?」
どことなく不機嫌そうな女の子に気圧され、少し及び腰になりながらそうこたえる僕。 もしかして、僕はなにか彼女の機嫌を損ねるようなことを言ってしまったのだろうか?
「そうか…じゃあな」
「ちょっと待って!」
そんな僕に対してそっけない返事を返しただけで、立ち去ろうとした彼女の手を僕は思わず掴んでしまう。 当然と言うべきか、この後のことを考えているわけもないのに…
「お前はなんだ? 私に何か用でもあるのか」
明らかに先ほどより不機嫌指数が上昇している… このままでは友達などなれるわけないだろう……
「えっと… 用というよりは、その……ちょっと…」
「えぇい!私は忙しいのだから離せ!」
そう言って無理やり手を振りほどく彼女。 同じ年くらいの女の子と接するのは久しぶりだったが、女の子とはこんなに強いものなのか… それは、僕の中で一つの(間違った)知識が確立された瞬間であった。
「忙しいって言ってもボーっとしてただけだよね!」
「違う! 私はこの洞窟に入らねばならんのだ!」
事実を言ったら余計に怒られた… なんかどんどんと目標から遠ざかってる気がするよ……
「って、洞窟に用でもあるの?」
「まぁな… その…あれだ……ケガをした父のために薬草をとってこねばならんのだ…」
そう言う彼女は伏し目がちになると、明らかな不安の色を見せた。 しかし、それも無理はないだろう。いくら街の中にある洞窟と言えども、整備もされてなければ魔物も住んでいる。 そんな中で一人、薬草をとりに行くなど子供がすることではない。
「ところで一つ聞いていい?」
「店で売ってる薬草とは種類が違うからな」
「なんでもありません」
まさかの読心術である。 そうか、きっと彼女は読心術を始めとした呪文をつかえるから、魔物とも対等に渡り合えるのだろう。 だから、一人で洞窟に行こうとしたに違いない。
なーんだ。なら、僕がいなくても安心だよね。
………って、それじゃ話が終わっちゃうじゃん!
そう一人、心中でノリツッコみをした僕は、どうしたら彼女と友達になれるか考えをめぐらした。
友達になるには、まず相手に好感を持ってもらうことが大事だ。 だが現状、彼女からの僕への好感度は0。もしくはマイナスであろう。 要するにはそれをひっくり返せるだけの、なにかが必要ということである。
しかし、あいにく僕はお父さん以外とはそれほど深く関わったことがないため、その方法が解らない。 となると、参考になるのはお父さんだけであるが、そのお父さんもあまり人と関わってるとこを見たことがないのだ… 結局のところ最終手段として導き出された答えは『僕の好きな人、すなわちお父さんのように接する』である。
※この間約0.7秒。
「僕、信じてるから!」
「はぁ?」
どうやら、彼女の心には響かなかったらしい…
「君が頑張ると、お金が手に入るんだ!」
「お前、頭大丈夫か?」
おかしい… 僕にはあんなに響いた言葉だというのに、彼女はまったく動じていない。 というより、むしろさらに好感度を下げている気がしてならない…
こうなったら、そのままお父さんの言葉を使うのはよそう… なおかつ、僕の目的と一致しそうな言葉は………
「僕と(お父さんのところまで)付き合ってください! ずっと(お父さんと)一緒にいたいんです!」
そう言い、僕はさっと手を差し出す。 これで無理なら、もう僕に策はない…
「ば、ばか! い、いきなり何を言い出しているのだお前は!」
「本気なんだ! 一目見た時から君しかいないと思っていた!」
先ほどとは明らかに違う反応。 『友達』になれるのも、あともうひと押しと踏んで、僕は本気の想いを伝えた。
「わ、わかった… で、でも!父が許してくれるかわからないし… 第一、その父のために薬草をとりにいかねばならんのだ!」
「なら、僕も手伝うよ。 だって、僕たちの仲(友達)じゃないか」
「あ、ありがと…」
そう言いながら、僕の手を握り返す彼女はどことなく恥ずかしそうであった。 かく言う僕も初めての友達作りで恥ずかしくもあるのだが…
それにしても、やはり彼女も一人では心細かったのだろうか? いくら魔法をつかえると言っても、そういうものであろう。 その力になれるのだとしたら、これはさらに『友達』への前進となるだろう。
「ナギだ。よろしく頼む」
「ハヤテだよ。よろしくね」
それだけの短いあいさつを済ませると僕は、ナギの手を引き洞窟へと入っていった。
続
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Re: 借金クエストV〜執事の花嫁〜 ( No.4 ) |
- 日時: 2013/06/18 20:35
- 名前: 唐笠
- 参照: http://gree.jp/?mode=blog&act=view_per_entry&user_id=53442249&urn=urn%3Agree%3Ablog%3Aentry%3A664049441&gree_mobile=5d0ae0b5423bbbe09c48c29856906b67
- お久しぶりです。
PCが潰れていて何もできなかった唐笠です(^-^; では、さっそく本編に
第四話:冒険でしょ!でしょ!
「でやぁ!」
「キーーー」
先ほど拾ったヒノキの棒でたたかれた、ドラキーというコウモリ型の小型モンスターが断末魔の叫びをあげる。 そのままドラキーは地面に突っ伏すと、次の瞬間
ボワンッ!
という、音とともに金貨に変わったのだ…
「えっ…なんで…」
「なんでって、モンスターを倒したからに決まってるだろ?」
うん、さっぱり意味が解らない。 なんでナギは『こんな当たり前にことも知らないの?』という風に言うのだろうか? 普通に考えて、生き物が金貨に変わるなどおかしいではないか…
「お前、今すべてのRPGを敵に回したよな…」
「えっと、そんなこと言われても……」
そもそもRPGとはなんのことだろうか? もし仮に『ロール プレイング ゲイ』の略だとしたら敵に回したところで何の問題もないだろう。 というか、むしろそんなものの仲間になどなりたくはない。
「っと、階段があるけど、目当ての薬草はこの下かな?」
そんなことを考えながら歩いていると、洞窟を下に下る階段を見つけ指をさす僕。 階段など自然にできるわけないのだから、少しは整備してあるのだろうか?
「えっと… たしかに下に行かんと生えてないと言うが、も、もしかしたら上にもあるかもしれんぞ!」
「でも、もう突き当たりだよ?」
そう、この層は現地点で行き止まり。 通ってきた経路もほぼ一本道であり引き返す意味は薄いだろう。
「う、うるさいな! まだぜんぶ探しきっていないんだから、この層で探すぞ!」
どうやらナギは頑として徹底探索を譲らないようだ。 まぁ、この層で見つかるならそれに越したこともないからよいだろう。
10分後
「ねぇ、やっぱり下行こうよ…」
「いや、まだあっちの通路に行ってないだろ」
そう言ってナギが指差したのは、水路を挟んで見える向こう岸の通路。 しかし、水路自体中々の深さでありとても子供が歩いて通るような場所ではない。
「さ、さすがにあれは無理じゃないかなぁ…」
「うるさい!私はあっちで探すのだ!」
僕の制止も聞かず、水路に足を踏み入れるナギ。 と思ったら、その動きが直前で止まった。 よかった…さすがに間近で深さを見て思いとどまってくれたらしい。
「なぁ、ハヤテ。スライムってたしか水色だったよな?」
「あっ、うん。水色だけどどうしたの?」
スライムというのはゼリー状の間抜けな顔をした生き物であり、先ほど戦っていたドラキーよりも弱い魔物である。 というか、ぶっちゃけ魔物の中でキングオブ雑魚だろう。しかし、そんなキングオブ雑魚でも世界征服をたくらんでいるのだから、世の中とはわからないものである。
「しかし、あいつを見てみろ。 なんか知らんが、あいつは銀に輝いているぞ」
ナギが指差す先、すなわち水路の向こう側に僕も視線を移すと、たしかにそこには銀色のスライムがいた。 しかし、銀なところ以外は普通のスライムと何ら変わりなく、やはり間抜けな顔をしているのだ。
「珍しいスライムだね」
「もしかしたら突然変異かもしれんな」
「でも、スライムをわざわざ向こう岸まで倒しに行く必要はないよね」
「あぁ、あんなバカそな顔をしているやつを相手にしてたら、バカがうつるのだ」
「じゃあ、下行こうか」
「そうだな………って、のせられてたまるかぁぁぁぁ! 私はいかんぞ!絶対に下になんか行かんからな!!」
顔をそっぽに向け、僕の話など聞かないアピールをするナギ。 なんでこんなに下に行きたがらないんだろう…
「ねぇ、下に行かないと薬草見つからないよ?」
「イヤだと言っているのが聞こえんのかお前は!」
必死に抗議するその声だけを聴けば怒っているように聞こえるが、不安の色が感じ取られた。 もしかしたら、下に一度行ったことがあって怖い目にでもあったのだろうか? もし、そうだとしたなら頑なに行きたがらない理由にもなるはずだ。
「大丈夫。 僕がついてるから……だから、一緒にいこ?」
洞窟に入る時のように、ナギの手を握ると僕は優しく諭すように言った。 その手から伝わるのは温もりだけじゃない。やはり、なにかが恐いのか震えも確かに感じ取られた。 それでも、僕は進まなければいけないんだ。ナギと『友達』になるために…
一歩僕が歩みを進める。 ナギがその後を着いてくる。 よかった…どうやら、着いてきてくれるようだ。
「ありがと、僕を信じてくれて」
「べ、別にお前を信じたわけではない! ただ、お前一人じゃ不安だろうから着いてきてやってるだけなのだ」
そっぽ向きながらそう言うナギの手は、僕の気のせいか先ほどより熱くなってきてる気がした。 下に行くことへやはり緊張があるのか、それともそれ以外の何かなのか僕にはわからない。 解らないけれど、この繋いだ温かな手はお父さんのそれとは違う『特別』を感じた気がしたのだ。
そんな不思議な気持ちを抱きながら、僕とナギは階段を下って行った。 そして、ついに下の層までやってきたのだが、これが思った以上に明るいのだ。 通常、洞窟は奥に行くほど陽の光が届かないのだから暗くなる。それは下へ向かう際にも言える事だ。
なのに明るいとはどういうことかと思い辺りを見回すと、洞窟の中心に光の柱が立っているのだ。 それは洞窟の天井から差し込む陽光であり、洞窟の中心に開いている大きな穴から差し込んできているもだった。 しかし、上から下まで一直線に穴が開いてるという事は……
「誰かつぶされてたりしてな…」
「いや、そんな不吉なこと言わないでよ…」
僕の考えを代弁するかのように呟いたナギに僕はひきつった笑みを浮かべた。 さすがに、洞窟を上から一直線に割った岩が落ちてきたらその下敷きになった人は生きていないだろう…
「そ、それにしても案外明るいんだな…」
そんな僕の心配を知ってか知らずか、ナギはほっと安堵したようにつぶやく。 そして強く繋がれた手もわずかなら緩まった。なるほど…
「暗いのがこわかブベラァ!」
ナギの こうげき! ハヤテに 4のダメージ!
「誰がそんなもの恐いと言った!」
まさか言い終わる前に理不尽にも拳をくらうとは思わなかった… というか、そもそも攻撃されるとも思っていなかったわけだが……
「いきなりひどいよ…」
「うるさい! いいか。私は暗闇なんて恐くないし、一人で薬草だって取りに行けるんだからな!」
そう言い、なぜだか怒ってしまったナギはどんどんと先を歩いて行ってしまう。 いや、本当に僕は何かをしたのだろうか…
「ちょっと待ってよ!」
しかし、考えていてもらちが明かないため僕はナギの背中を追いかけるように走り出した。
あれからさらに10分ほど歩き、ある程度魔物との戦闘にも慣れ始めた頃だった。
――オ――オ―――オ―
どこからともなくうめき声のような声が聞こえてきたのだ。
「は、ハヤテ…これってもしかして…」
「うん…もしかしたら、いままでよりも強い魔物いるのかもしれない…」
ヒノキの棒を構えた僕は小さくうなずくと、ナギを護るように前に出る。 どうやら、その声はこの先の曲がり角から聞こえてくるようである。
高鳴る鼓動を抑え、そっと影から覗いてみるとそこには大きな岩から亀のように顔と手足が生えた生き物がいるではないか… しかも、強さを象徴するかのように頭からは二本の角まで生えている…… 今までこんな魔物など見たことがない。もしかしたら、この洞窟の主なのだろうか? そんな緊張感の中、魔物の顔が突如としてこちらへと向いたのだ。
「「ひゃぁ!?」」
思わず二人して声をあげてしまった。
「お、おい! お前が情けない声を出すから気付かれてしまったではないか!」
「そ、それはナギだって一緒でしょ!」
「というか、言い合ってる場合ではない!逃げるぞ!」
「う、うん!」
一瞬の口喧嘩を経て、僕たちは即座に回れ右をする。 運がいいことに亀型だから速さはそこまでないだろう。子供の僕たちでも逃げおうせるはずだ。 そう、状況を(無駄に)整理し、走りだそうとした瞬間だった。
「そこの子供たちよ… 少し、助けてくれないか?」
亀がしゃべったのだ… この世に人語を解するカメが亀の王様K以外にいたとは新発見である。
「いや、そういう無駄な考えはいいから助けてよ… 私はただ単に岩に押しつぶされてるドワーフだからさ…」
「だな… いい加減助けてやるか…」
「あっ、ナギ気付いてたんだ… 僕はまじめに気付かなかったよ……」
「お前、バカだろ?」
そんな会話をしながら僕たちは岩を押し、ドワーフのおじさんを……
「ゲフッ!」
顔の方に岩を押してしまった…
「まぁ、これはもはやお決まりだな」
「君たちはおじさんを殺すつもりかい?」
「いえ… その…すみません…」
そう謝った後、すぐに僕はちゃんと岩をどかしおじさんを助けてあげた。 そして…………
「面倒だから中略な←」
「えっ!?」
「とにかく、おじさんから薬草を貰ったのだ!」
うん… どうやら、そうらしい…… それで納得するしかないのだろう。
こうして無事に薬草を手に入れた僕たちは、サンタローズの洞窟から出たのであった。
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