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-hope-君に笑顔を、あなたには幸せを
日時： 2012/10/22 07:15
名前： ゆーじ

どうも、初めましての方は初めまして。

名見知りの方はお久しぶりです。

以前までひなたのゆめで好き勝手やらせていただいていた、ゆーじです。

ひなたのゆめが消滅しpixivでやっていこうと思ってたのですが、双剣士さんのお心遣いに感謝しつつ、私もこの止まり木で再び小説を書かせていただくことにしました。

内容は今まで書いていたハヤテ×アテネ小説、『-hope-君に笑顔を、あなたには幸せを』の完全リメイクです。

ひなゆめの頃にも最初の方だけは書き直ししてましたが、それのリメイクです。

でももしかしたら途中から力尽きて、(できたら)ひなたのゆめで書いていたのを丸々コピーし始める可能性もあります。最近書いた回とか特に…。

まあとりあえず最初のほうはなるべくリメイクしていきたいです。
そしてこれを期に今まで忘れ去られて恐らく読んでいただいていた読書さまも忘れていただろう伏線もちゃんと回収できたらなと思います。

…で、これまで読んでいただいていた読書さまなら分かるでしょうが、この小説、オリジナルキャラクターが多くなります。軽く9人はいます。しかも何人かは主役級です。

そして現在パソコンが使えずスマフォから更新しているため、仮に来たらの話ですがコメントのレス返しが出来ません。
出来ませんがコメントはちゃんとじっくり何度でも読ませていただきます。

とりあえず前書きと注意事項はこれくらいです。

では皆さん、改めましてよろしくお願いいたします！

===============================================


ーー僕の時間は止まっている。

止まったままなんだ。

『彼女』を傷つけてしまった、あの雨の日からずっと。

時間は止まっているのに、時だけは無為に流れる。……そして。

あの日から10年経った16歳の冬。

ーーひとつの再会と、ひとつの出会いに、僕の時間は動き出す。







『-hope-君に笑顔を、あなたには幸せを』





12月24日のクリスマスイブ。

寒空の下、負け犬公園と呼ばれる公園のベンチに疲れ果てたように俯いている一人の少年がいた。

名前は綾崎ハヤテ。見た目は女の子のように顔立ちは幼く、華奢な体でも、それは見た目だけ。本来は片腕で、しかも人差し指だけで腕立て伏せが出来るほどの男である。

そんな彼がどうして家にも帰らず、こんな場所で俯いているのか。それは簡単な話だ。

帰る家が『ない』のだ。

帰らずとも両親は心配しない。するどころかつい先程、その両親直々に遠回しに死ねと言っているメッセージつきの生まれてはじめてのクリスマスプレゼントを貰ったばかりである。

ハヤテは手に握られた一枚の紙を再び生気のない瞳で見る。

借用書。156804000円。両親の『あとは任せた☆』という殴りたい衝動に駆られざる得ないメッセージ。その文字が見間違いであることはない。

ハヤテは両親に一億五千万で売られたのだ。両親は実の息子を売った。

下手に動けば自分の臓器を取り出し金にしようとしている借金取りに捕まるし、自宅も差し押さえされている。だから帰る場所がないのだ。

しかも救いのない補足をするならば、ハヤテの両親はどちらも一切働いていない。

ハヤテの学校の学費、家族三人の生活費はすべてハヤテがバイトにバイトを重ね16歳という年齢とは程遠いくらいに重労働をしたから成り立っていた。

更に働いていないだけならともかく、両親は家に引きこもっているわけではなく積極的に外出し、そして積極的に借金を増やしていくのだ。主な理由が博打で。

しかもハヤテが苦労して稼いだ給料もその博打でたった数分で使い果たすものだからハヤテの苦労は底知れない。

その果てがこの借用書だ。使うだけ使って、そして捨てる。まるで家畜だ。


「家畜…ははっ、家畜以下だよ、こんなの…」


ハヤテは自虐気味に笑いながら、雪の降る夜空を見上げた。

前に、こうなることを予期して自分に手を差し伸べてくれた人がいた。

自分のことを想ってくれていた人がいた。

でもその人の気持ちを僕は無下にした。

傷つけた。


「…………」


ハヤテは再び俯く。

前髪で隠れた瞳からは涙が流れ、頬を伝った。


「どうしていつもこうなんだよ…もう嫌だよ…。疲れたよ…誰か…助けてよ…」


ハヤテは言いたくても言えなかった弱味を、ようやく吐き出す。

しかしそれはただの呟きにしかならない。

それを直接聞いて、そして励ましてくれる人はいない。

前はいたのに。今はいない。


『ハヤテ。私とあなたはずっと一緒よ』


アーたん…。

本当はもう一度会って、謝りたかったのにな…。


「………ハヤテ？」

「え…」


凛とした声に呼ばれ、ハヤテは力なく顔をあげた。

自分の前には一人の少女が立っていた。

暖かそうなコートを羽織り、マフラーを巻いている金髪の少女。

漆黒のリボンで髪を束ね、クルクルと巻かれたロール。そして頭の先で跳ねている一本の毛。

格好と外見は少々変わりつつも、ハヤテがその人物を見間違えるわけもなかった。

見開かれた目の隅で溜まっていた涙が伝い、そしてハヤテはようやく口を開いた。


「……アーたん…？」

「ハヤテ…。本当に…ハヤテ…なの…？」


少女は恐る恐るハヤテに近寄る。

近寄り、その冷えきった頬に触れる。


「アーたん…。僕のこと…分かる…？」

「…………ハヤテ…」


ハヤテの問いかけに、少女は顔を歪ませて涙を流す。

そして抱きついた。


「ハヤテぇ！！」


少女はハヤテを強く抱き締めながら泣き始める。

ハヤテは静かに彼女の抱擁に身を託した。

少女の名前は天王州アテネ。

かつてハヤテを絶望の縁から救いだし、そして決別してしまった少女。

ハヤテが傷つけてしまった。

ハヤテの罪である存在である。







――少女との再会に、時計は静かに動き出す。












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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを(リメイク) ( No.1 )
日時： 2012/10/23 11:49
名前： ゆーじ

その後、アテネが落ち着いたところでアテネに尋ねられ、ハヤテはこれまでの経緯と今の状況を包み隠さず話した。

アテネは時折ハヤテの話に眉間に皺を寄せたりしたが、話し終えると呆れたようにため息をついた。


「やっぱり…いつまで経っても変わらないのね、あいつらは」

「…………うん」

「…？ ハヤテ？」


アテネは始終アテネに顔を会わせずに申し訳なさそうに俯くハヤテに気づく。


「どうしたの？」

「僕…やっぱり間違ってたんだね…。あの時、君は正しいことを言ってた。僕はあの後、君の言う通り馬車馬のように働かされただけだった。その果てがこれ…。間違ってたのは僕で、正しかったのは君だ」

「…ハヤテ…」

「なのに僕は、君にっ…」


ハヤテは一度は渇いた涙を再び流す。

後悔と謝罪の涙はすぐに地面に落ちていった。


「いいのよ」

「え…？」


アテネはポケットからハンカチを取り出すと、ハヤテの涙を拭く。

そして目を丸くするハヤテに静かに微笑んだ。


「まったく…泣き虫は相変わらずね。別にそんなこと、怒っても恨んでなんかもいませんわ。むしろ…私が謝りたいくらいですしね」

「えっ…な、なんでよ！アーたんが謝ることなんて…！！」

「ありますわ。あの時、私はあなたに酷い言葉をぶつけてしまった。『ここからいなくなってしまえばいい』と言ってしまいましたわ。それはあなたを相当傷つけてしまったでしょう？だから…ごめんなさい、ハヤテ」

「そんな…そんなの…。だったら僕だって…酷いこと…」


『親がいないからそんなこと言えるんだ』って…。

言ってしまったのに。


「ならお互い様なのよ。私はあなたを傷つけたし、あなたは私を傷つけた。ね？お互い様」

「…………」

「だから、この話はこれでおしまい。分かった？」

「え、で…でも…」

「おしまいなの！いい！？」

「う…うん…」


アテネは睨んだ顔をハヤテに寄せて念を押す。

ハヤテはアテネの押しに下がりつつ、頷いた。


「それよりあなたの借金をどうにかするのが先よ。一億五千万なんて簡単に返せるものではないですわ」

「そうなんだよね…」


ハヤテは改めて親が作った途方もない借金に深いため息をつく。

アテネはその途端に顔を赤くさせ、モジモジと体を揺すりながら言う。


「ま…まあ、その…あなたがよければの話だけれど…また、私のしーー」

『な…なんだお前達は！近寄るな！』

「「え？」」


アテネの言葉を遮るように、夜の公園に少女の声が響く。

ハヤテもアテネもその方向に目をやると、近くの自販機の前に男二人が小さな少女を囲んで何かを話しているのが見えた。

少女の顔を見る限り、知り合いではない。恐らくはナンパだろう。

アテネは呆れた顔でその光景を眺める。


「まだ居たのね…。ああいう輩は…」

「……………」

「まあこういうときは警察に通報するのが一番なわけだけれど…」

「…分かったよアーたん。君がさっき言いかけたこと」

「へ？」


いつの間にか立ち上がって、少女達を凝視するハヤテをアテネは見上げる。

あんな照れながら言ったことをよく理解できたものだ、という気持ちも込めて。

ハヤテはアテネに真剣な表情で振り向き、言った。


「あの子を誘拐して身代金を要求して、借金を返済すればいいんだね！」

「…………は？」

「うん、確かにそうだよね。しかもあそこで助けたら恩ができてやりやすくなる！流石だねアーたん！」

「え、いや…あの…何言ってるの？あなた…」

「じゃあそういうわけだから、行ってくるね！」

「あ！？ちょ…！待ちなさいハヤテ！！違いますわ！全然違いますわよ！？」


アテネの制止もむなしく、ハヤテは少女の元へと駆けていく。

恐らくハヤテも色々なことがありすぎて、もうまともな判断が出来ない状況下なのだろうとアテネは理解する。

理解はするのだが…という複雑な心境でもある。

そんな哀れな男の後ろ姿を見て、アテネは額を押さえながら呆れたように『馬鹿も治ってなかったのね…』と呟くのであった。


===========================================================

はい、既に書き直すよりやっぱ今までのの続きを書きたくなってきました、ゆーじです。

最後の最後でギャグに走りましたが、まあ大体分かるでしょうがこの先は基本こんな雰囲気です。一話と今回の途中までのシリアス？なにそれ美味しいの状態です。

そしてナンパされている少女も、誰だか分かるはず…。

というわけで意味のないあとがきでしたー！

シーユーアゲイン！
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを(リメイク) ( No.2 )
日時： 2012/10/27 17:46
名前： 道草

どぅも★道草です！

ゆーじさん、おひさしぶりです♪

『ひなたのゆめ』が消滅したときはどうなるかと思いましたが、またお会いできて嬉しいです♪

改めまして、よろしくお願いします！

では感想をば。


ハヤテとアテネの再会……互いに傷つき傷つけあった二人。

お互いに謝罪して、無事に仲直りできてよかったです♪

しかし、現実問題ハヤテの借金は解決してないわけで……

アテネはハヤテをまた執事にしようとしていましたが、ここであの事件が発生……アテネ惜しかったですね(笑)


今回リメイク前とけっこう展開変わってましたね。

今後もどうリメイクされていくか楽しみです♪

ではまた！
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを(リメイク) ( No.3 )
日時： 2012/10/28 15:00
名前： ゆーじ


おおおお！スマフォなのにレス返しができるうううう！！

というわけで今回からレス返し復活です！


■道草さんへ


>どぅも★道草です！
ゆーじさん、おひさしぶりです♪

お久し振りです！
この前のチャットではお世話になりました！w


>『ひなたのゆめ』が消滅したときはどうなるか と思いましたが、またお会いできて嬉しいです ♪

いやはやまったくです。
パソコンの次はひなゆめという私の楽しみがことごとくなくなっていくという当時の絶望は忘れません…。


>改めまして、よろしくお願いします！

よろしくお願いします！


>では感想をば。
ハヤテとアテネの再会……互いに傷つき傷つけ あった二人。
お互いに謝罪して、無事に仲直りできてよかっ たです♪


アテネ「まあしないと物語始まりませんしね」

ハヤテ「ぶっちゃけたねー」


>しかし、現実問題ハヤテの借金は解決してない わけで……
アテネはハヤテをまた執事にしようとしていま したが、ここであの事件が発生……アテネ惜し かったですね(笑)


アテネ「ふ…ふんっ、まあ『あの子』の登場もまた物語のスタートラインの内に入ってるのだから仕方ないですわ！」


>今回リメイク前とけっこう展開変わってました ね。
今後もどうリメイクされていくか楽しみです♪


アテネ「アテネたんなんかなかったのよ…」

ハヤテ「もはや黒歴史だからね…」


なるべく完全リメイクを目指します！
道草さん、ありがとうございました！


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「や…止めろっ！」

「なんだよいいじゃんかよ。ちょっとだけだからさぁ」


抵抗する少女の手を男はニヤニヤと笑みを浮かべながら掴む。

その手に少女は少々怯えた顔を見せた。

そして少女が男達の顔を睨んだと同時に、


「神聖な夜にナンパなんかするなああ！！」


ハヤテの拳が男達の顔にめり込んだ。

男達は『げふぅ！』と声をあげながら、吹き飛ぶ。

少女が驚きの表情でハヤテの後ろで一歩下がる一方でハヤテは『まあ僕に限っては絶望の夜だけどね…』と内心で呟く。


「て…てめぇ！何しやがる！！」


吹き飛ばされた男はハヤテに殴られ赤く腫れた頬を押さえながら睨む。

ハヤテはそんな視線を睨み返す。


「言ったままですよ。あなた達、こんなことしてたんじゃフランダースの犬のネロにも顔向けできませんね」

「は…はぁ！？意味わかんねーし！」

「やれやれ…あの時死んだのがネロじゃなくて、あなた達だったら…なんて、ね…？」


ハヤテはあくまでニッコリとした笑顔で言うも、問いかけた時だけは男達をしっかりと目に入れて問いかけた。

男達から見たハヤテのその表情はとてつもなく恐ろしいものだったことは言うまでもない。


「「ひぃいいい！ごめんなさああい！！」」


男達は目尻に涙を溜めながら脱兎のごとく逃げ出す。

それが見えなくなったところでハヤテは男達にも自分自身にも呆れたように鼻で笑った。


「あ…あの…」

「あ…」


後ろからの少女の声にハヤテは、自分は少女を助けるためにここにいるのだと思い出す。

そして振り向き、少女の顔を見る。


「ありがとう。ああいうタイプの奴らには不馴れだったから困っていたのだ、助かったよ」


そう言う少女の顔には見た目相応の笑顔が戻っていた。

アテネと同じく金髪で長い髪を二つに結び、可愛らしいドレスで身を包む少女は少し体を震わせると小さくくしゃみをした。

くしゃみをしたあと、少女は『あ…』と言いながらハヤテを上目遣いで見る。


「だ…大丈夫？こんな日にそんな薄着でいるから…」

「う…うるさいっ！仕方ないじゃないか！！あそこはタバコ臭いしうるさいしで嫌だし、この箱は中身を晒すだけ晒して何もしないし！！」


と、真っ赤な顔で怒鳴る少女は自動販売機を指差した。

ハヤテは自動販売機からゆっくりと視線を少女に戻す。


「なんなのだこの箱は！！あったか～いだなんて言うからこのボタンを押したのに何も起こらない。壊れてるものを放置するな馬鹿者！！」

「い…いや僕に言われても…。それにお金を入れてないなら動かないのも当然だし…」

「お金？カードをタッチするものは見当たらないが」

「いや…普通は小銭だし…」

「こぜに…？なんだそれは。オモチャか？」

「…え？」


不思議そうに首をかしげる少女にハヤテは驚きを隠せない。

どんなに常識知らずな人間でも自動販売機の仕組みくらい分かるし、小銭なんて言わずとも分かる。

なのにこの少女は何一つ庶民の常識を知らない。

これはつまり、


「(こんな小さい子がカード、だなんて言ってるくらいだし、よく見たら凄いドレス着てるし…。この子、もしかしてお金持ち…？)」

「くしゅん！」

「(って、そんなこと考えてる場合じゃないよな…)」


ハヤテは溜め息をついて、寒そうに体を抱く少女に自分が着ていたコートを被せた。

少女は驚いたようにハヤテを見上げる。


「風邪を引いたら大変だから…着てなよ」

「…………ふむ」


少女はコートを凝視しながら、サイズが大きなコートに腕を通す。


「ずいぶん安っぽい生地のコートだな」

「な！？」

「生地は荒いし、ボロボロだし、おまけにサイズはブカブカだ」

「あ…あのねぇ…人に貸してもらってその態度は…！！」

「でも、…暖かい」

「っ！」


少女はハヤテを見上げると、ニッコリと笑う。


「ありがとう。お前には助けられてばかりだな」

「…………」

「そうだな。これだけされていて私が何もしないのは不釣り合いだ。私も何かお礼がしたい」

「お礼…？」

「うむ、なんでも言うといい」

「なんでも…本当に？」

「もちろん！」


何度もこくこくと頷く少女に、ハヤテは本題を思い出す。

本当にお金持ちなら、一億くらいは簡単じゃなくとも庶民よりかは早く手に入るはずだ。


「(もう…やるっきゃない…。こっちだって命が掛かってるんだ…！)」


ハヤテは拳を握り、目をつむり、悪に染まる決意をする。

そんなことなどいざ知らず、少女はニッコリと笑いながらハヤテに尋ねる。


「どうだ？決まったか？」

「……うん、決まったよ」

「そうかそうか！じゃあ言ってみろ！」

「じゃあ言わせてもらうよ」


ハヤテはゆっくりと目をあけて、少女に手を向ける。

そして、


「僕と、…付き合ってほしい」

「うん！………え…？」

「僕は…君がほしいんだ！(※身代金目当てで)」

「……………」


しばらく少女はきょとんとした顔でハヤテを見つめる。

そして数秒黙って、ようやく思考が付いてきたのか途端に顔を真っ赤にさせた。


「ば！？ばばば…バカ！いきなり何を言い出すのだお前は！ふ…ふざけるのも大概に…！」


自動販売機の方へと後ずさる少女に、ハヤテは追い込むように近寄る。

一見して見ればかなり危ない奴である。


「ふざけてない、…命懸けだ。君を一目見た瞬間に…君をさらうと決めていたんだ！(※誘拐的な意味で)」

「………………」


少女は真っ赤な顔のまま、目を逸らすように俯く。


「わ…分かったよ…好きにしろ…」

「……話が早くて助かるよ」

「で…でも、浮気は駄目だからなっ！！」

「え？あ、うん…分かった…」


浮気ってなんのことだ？

そんな疑問が頭を埋め尽くしたが、何より交渉は成立した。

それについては後回しにすることにして、ハヤテは次なる段階に進む。


「じゃあ、お家の連絡先…教えてくれる？」

「あ…あぁ…(もう挨拶か。気の早い奴だ…)」


少女は紙に電話番号を書き、ハヤテに渡す。

ハヤテはそれを握り締め、少女に笑いかける。


「ありがとう。じゃあちょっと待っててね！すぐ戻るからっ」

「ああ…頑張れよ」


颯爽と駆けて行くハヤテの後ろ姿を少女は見送る。

そしてハヤテが見えなくなったところで、静かに手で胸を触れた。


「(びっくりした…まだ心臓がドキドキしてる。…いきなり男から『告白』されるとは思わなかった…。でも…まあかっこよかったし…嫌でもなかったし…良い、かな…)」


もじもじと指先をつつく少女にアテネは呆れたように近寄る。


「まったく…どこの変態よ、あの子は…」

「ん？お前は…？」

「ごめんなさいね、いきなり。でもこれもハヤテのためなの」

「ハヤテ…？ もしかしてアイツの名前か？」

「ええ、綾崎ハヤテ。それがあの子の名前よ」

「ハヤテ…ハヤテか。……名前もカッコいいな…」

「……………」


顔を赤くしながら言う少女にアテネはひとつの予感を覚えた。


「あなた…もしかして――っ！」


尋ねようとした瞬間に、アテネは目付きを鋭くして後ろを睨む。

ナギもアテネの視線の先を見て、表情を険しくした。


「なんですの？あなた達」

「…へへっ、嬢ちゃん達。ちょいと付き合ってもらうぜ…！！」

「なっ、やめ…！！」

「放っ…！……ハヤテ…！！」


クリスマスの鐘の音が鳴る夜。

自動販売機の前にいた二人の少女は姿を消した。

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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを(レス返し追記) ( No.4 )
日時： 2012/10/29 13:11
名前： masa

こちらでは初めましてですね。masaです。


ハヤテは原作同様売られちゃいましたか。まあ、あの屑なら当然ですよね。
ハヤテがあそこまで絶望を感じるのも当然ですよね～。でも家畜って。


アテネとハヤテ再会できましたね。まさに運命の女神が導いた再会、ですね。
アテネとハヤテは和解できましたね。良かったね、ハヤテと言う旦那と和解出来て。

で、ハヤテはアテネと言う(未来の)妻の執事復帰かと思いきや誘拐を企むとは。まあ、追いつめられていたからしょうがないのかな。

原作同様ハヤテはややこしいセリフ回しでナギを誘惑。まあ、ハヤテはかっこいいですから、初対面でもあんなこと言われれば、陥落は難しくないでしょうね。

で、大人しく物語が進むと思いきややっぱりな展開。


まあ、色々あるでしょうけど、大丈夫だよアテネ。ハヤテとアテネの結婚という運命は誰にも変えられないから。







次回も楽しみにしてますね。

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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを(レス返し追記) ( No.5 )
日時： 2012/10/30 20:58
名前： ゆーじ


まどマギの映画、もう一回見に行きたい…。
というわけでレス返し！


■masaさんへ

>こちらでは初めましてですね。masaです。

初めまして！そしておひさしぶりですw


>ハヤテは原作同様売られちゃいましたか。ま あ、あの屑なら当然ですよね。 ハヤテがあそこまで絶望を感じるのも当然です よね～。でも家畜って。


ハヤテ「だってそうじゃないですか」

アテネ「いや…せめてもっといい例えなかったの…？」



>アテネとハヤテ再会できましたね。まさに運命 の女神が導いた再会、ですね。 アテネとハヤテは和解できましたね。良かった ね、ハヤテと言う旦那と和解出来て。

アテネ「にゃ！？///////」


>で、ハヤテはアテネと言う(未来の)妻の執事復 帰かと思いきや誘拐を企むとは。まあ、追いつ められていたからしょうがないのかな。

ハヤテ「ぶっ！つ…妻って…//////」

アテネ「くっ…相変わらずねあなたは…！！////////」


>原作同様ハヤテはややこしいセリフ回しでナギ を誘惑。まあ、ハヤテはかっこいいですから、 初対面でもあんなこと言われれば、陥落は難し くないでしょうね。

私も迫られた(ry


>で、大人しく物語が進むと思いきややっぱりな 展開。
まあ、色々あるでしょうけど、大丈夫だよアテ ネ。ハヤテとアテネの結婚という運命は誰にも 変えられないから。


ハヤテ「決定事項なんですか！？//////」

アテネ「作者でもなく読者さまに決めつけられました！？//////」


=====================================================

降り積もった雪を踏みながら、ハヤテは近くの公衆電話へと向かう。

携帯などと言う現代機器を買うほど綾崎家は裕福でなかった。

人質を一人ほったらかして『娘は預かった』だなんて言われても、という感じだがわざわざ笑いかけながら連れてきて言うのもまた間抜けな話だ。

両親が唯一残したお金、12円の中の10円玉を入れ、子機をとる。

そして少女が書いた電話番号を入力し、作戦は開始だ。


「(まずは軽く挨拶でもしてやろうか)」


ハヤテは今まで生きてきて、自分でも驚くほどに悪人顔で笑いながら鳴り続けるコールを待つ。

そして、それが途切れた。代わりに男性の声が子機から聞こえた。

ハヤテは罠にかかった獲物を見るように笑みを浮かべ、そしてそれを満面の笑みに変えてから言った。


「もしもし、綾崎ですけど♪」


軽い挨拶だった。

ハヤテは笑顔のまま硬直し、汗を雨のように流す。

名乗っておいて何をするのだろう。ハヤテは静かに子機を電話に戻した。


「終わった…なんて馬鹿なんだ僕は…」


そして肩を落としながら電話ボックスから出て、とぼとぼと歩く。


「どうしようアーたん…これじゃあ借金返せないよ…」


ハヤテはアテネに話しかける。

しかし返事をするのは遠くから聞こえるクリスマスの鐘の音だけであった。


「アーたん？」


ハヤテは振り向いて、アテネを探す。

しかしそこにアテネの姿はなかった。


「………え？」


ハヤテは目を見開かせて、口をつり上げる。

もしかして、…置いてきた？

思えばアテネの声も無視して少女のもとに行き、輩を蹴散らし、そして今に至る。

つまりアテネは今、寒空の下、自分を探している――


「ま…ま…」

「あ、あのー…」

「まずいいいい！は…早く行かなきゃ…！！」

「あ…！待ってください！」

「へ？」


背後から呼び止められ、ハヤテは振り向く。

そして横で自転車を引きながら、振り向くハヤテを見て安堵するように微笑む女性と目が合う。


「良かった。あのまま無視されてしまうかと思いました」

「…………」

「あっ！す、すいません、いきなり…！えっと…人探しをしているのですが、この辺りに小さくて二つ結びにしている金髪の女の子、見ませんでした？」


首をかしげる女性に、ハヤテは考える。

金髪の女の子…小さくて、二つ結びに…。


『ありがとう。お前には助けられてばかりだな』

「………………」


ばりばり見ました。

むしろ誘拐宣言してきちゃいました。

ハヤテは少女の保護者らしき女性を前にもはや言葉も出せない。


「どうしました…？ こんな寒い日にずいぶん汗ばんでいますが…もしかして風邪でも…」

「あ！あ！ちがくて！あの！えっと！じ、実は…！！」


その瞬間、二人の横にある車通りのない道路に、珍しく車が一台通りすぎた。

必然的に二人の視線は車に向く。

そして車の後部座席に座る、ふたつの金髪。

アテネと少女の姿を二人は目に焼き付け、風のように走り去る車を見送った。


「………え？」

「た…大変…！あの子ったらまた誘拐されて…！！どうしましょう…今頼れる人なんて誰も…」

「……………」


ハヤテは車が走り去って行った方角をただ睨む。

少女とアテネが一緒に居たのは、恐らく自分が去った後にアテネが近寄ったのだろう。

そんな二人がどこの馬の骨とも知らない男達に誘拐された。ナンパどころの話ではない。

すべての責任は、自分にある。


「……その自転車、借りても宜しいですか？」

「えっ？べ…別に構いませんが…何を…」


ハヤテは女性の自転車の椅子の高さを合わせ、股がる。


「あの二人を助けに行きます」

「な…！馬鹿なこと言わないで下さい！相手は自動車なのに…追い付けるわけ…！」

「大丈夫。業界最速の自転車便と言われたこともあります、絶対に追い付きます」

「で…でも…」

「信じてください。見ず知らずの男のことなんか…信じきれないでしょうけど…」

「……………」


女性はフッと笑うと、自分の首に巻かれていたマフラーをほどき、ハヤテに近寄る。

そして優しくハヤテに巻くと、ニッコリと微笑んだ。


「信じます。あなたの目は、…綺麗ですから」

「…これは…？」

「こんな日に上着も羽織らずシャツ一枚だけだなんて風邪引いちゃいます。お礼の前払いですよ」


ハヤテは笑いながら頷き、ハンドルを握り締め、ペダルに足を置く。


「とりあえずあなたは警察に電話を。あとは任せてください」

「はい。どうか…気をつけて」

「はいっ！！」


その直後、突風のようにハヤテは自転車で走り抜けた。

目をつむり、腕で目元を覆っていた女性が腕を下ろした頃にはハヤテの姿は元々居なかったかのように消えていた。


○ ○



少女とアテネを乗せた車は、夜の道路を独走していた。

そのスピードは法定域を軽々と越えている。

そしてそれを運転する男と助手席に座る男は不適に笑いながら賑わっていた。


「いやぁ、やったっすね兄貴！まんまと成功しましたよ！」

「おうよ！これで借金からもおさらばだ！」

「見てくださいよ兄貴！この嬢ちゃん達の怯えきった顔を…！」


助手席に座る男は手で後部座席にいる少女とアテネを指した。

それと同時に少女は足と腕を組みながら眠そうな顔で視線を窓に向け、アテネは『ふわぁ…』と声をあげながら小さく欠伸をした。

怯えのおの字もない。


「って余裕だなおい！」

「適応力高えな…」


男達の突っ込みに、少女は視線を前に戻す。


「いや…適応力って言うより慣れだからなぁ。またか、みたいな。お前は？」

「まあ私も似たような感じですわね。少なくともあなた達みたいな方々に怯えることだけはあり得ませんわね」

「だよなぁ…」

「なんなんだこいつら…」

「な…なめやがって…！」

「あー、それからお前ら。少し喋るな」

「はぁ！？何で！！」

「何で…だと？」


声を揃えて反論する男達を少女は睨む。

その睨みに男は気圧される。


「何で、なら答えてやろう。空気が汚れるからだ。大切にしろよ、地球は」

「はぁあああ！？なんだテメぇその理由は！」

「言った通りだが？そもそもお前達がその臭い口から臭い息を吐くだけで酸素が汚れた、これは立派な環境汚染だ。これがきっかけで今他の国では私達が想像している以上のことが起こっているかもしれない。
もしかしたらお前のその息で劣悪な環境にいる小さな子供が一人死んでしまったかもしれない。一大事だな」

「な…！」

「大体なんだ。借金だと？この地球上には水一滴でも飲むことすらできない人間がいるというのに何をしているのだ貴様らは。お金もなく日本では簡単に治せる病気で死んでいく人達もいるというのにな。
それで返しきれずに人拐いだなんて恥ずかしいとは思わないのか？どうせ博打かなんかで破綻しただけだろうが、くだらない。そんな理由で借金するくらいなら死ね！少しでもお金があるのなら募金してから死ね！」

「う…うるせえ！ガキに説教される筋合いはない！！」

「私は自分を誘拐した奴らには必ず説教をしないと気が済まないのだ！」

「知るか！さっきからなめやがって…！無傷では返さねえぞ！」

「ふん、私に今ここで指先だけでも触れてみろ。人を呼んでやる！」

「はぁ！？こんな状況で誰が来るってんだ！！」

「来るさ！命懸けで私をさらうと言っていたんだ！呼べば来る！！」

「はっ、なら呼んでみやがれ！こんなスピードに追い付く奴が居たらの話だがな！！」

「くっ…！」


少女は窓に目を向ける。

確かに周りには誰もいない。流れる景色もかなり早い。

確かに、こんなスピードで走る車に追い付ける人間なんて――


「信じることは大切よ」

「え…？」


焦りを見せだす少女の隣で依然として落ち着いているアテネの言葉に少女は振り向く。


「こんなときだからこそ、信じることは大切。私はね、ある一人のお馬鹿さんが来ることを信じてる。見た感じ…成長したのは見た目だけみたいだしね」

「…それって…もしかして…」

「私が誰のことを考えているのか、それはあなたには関係ありませんわ。あなたはただ呼べばいい。今あなたの脳裏にいる人間の名前を。今最も信じている男の名前を、ね」

「……………」


少女はアテネに笑いかけてから力強く頷く。


「ああ、呼んでやるさ！」


そう言って、少女は思いきり息を吸い、そして叫んだ。


「ハヤテえええええっ！！」


その叫びにアテネはフッと笑う。

そして少女に顔を向ける。


「あなたとは、気が合いそうね」


アテネが呟いた刹那、爆走する車のスピードを超えて、横切る影があった。

それは車を軽々と追い越し、離れたところで車に向かい合うようにドリフトする。

その影は、自転車に股がるハヤテであった。


「っ！ ハヤテっ！」

「ふふっ、やっぱりね」

『そこの車！大人しく二人を返――』


ドガぁ！！

そんな音と一緒にハヤテの姿は突然消えた。

しかし車はスピードも変えず、ただ走り続ける。

そして静まり返る車内。

全員の視線は車を運転しながら汗を滝のように流す男に集まった。


「………兄貴、まさか…」

「し…仕方ねえだろうが！いきなり目の前に出るのが…！！」

「ひ…轢いたのか！ハヤテを轢いたのか！？」

「兄貴いいい！殺人はやばいっすよおおお！！」

「う…うるせええええ！」

「あ…あぁ…」

「ちょ！お前！おい！」


男達二人は完全に混乱し、アテネは気絶。少女はアテネを揺すり、車内は大パニックに陥る。

その瞬間、ボンネットに何かが落ちた。

少女と男達が視線を前にすると同時に、フロントガラスに赤い手形がバッと付き、その奥で血だらけなのに笑みを浮かべるハヤテが口を開いた。


「返してくれません？後ろの二人」


軽くホラーな光景に、男達は涙目のまま抱き合い、必死にうなずいた。

その後、車は止まり、程なくして警察が男二人を逮捕した。

車を降りるなり、少女はハヤテに駆け寄った。


「お…おいお前！」

「あ、君か。大丈夫？怪我なかった？」

「ああ…とりあえずお前に比べたら無傷だよ…。もう一人の奴も轢かれたお前を見るなり気絶しただけだしな」

「そっか。良かった…二人に怪我がなくて、本当に…」


ハヤテは心の底から安堵したのか、静かに笑う。

少女は顔を赤らめて、モジモジとしながら目をそらす。


「その…また助けられちゃったな…。お前には本当に感謝して――」


ドサ…。

その音で少女は言葉をやめた。

きょとんとした顔で前を見ると、前に居たはずのハヤテは居なくなっていた。


「ハヤテ…？」


少女はゆっくりと視線を下に向ける。

そして頭から大量の血を流し倒れたハヤテを見て、目を見開かせた。


「は…ハヤテ！？おい！しっかりしろ！！」


ハヤテを必死に揺する少女に女性が一人、背後から駆け寄る。

それは先ほどハヤテにマフラーを巻いた女性であった。


「ナギ！無事でしたか…」

「ま…マリア！どうしよう…ハヤテが…！こいつ、酷い怪我で…」

「え？…あ…。この子、さっきの…」

「こいつは…ハヤテは私を何度も助けてくれたのだ！まだお礼もしてないのに…」

「…………」


女性はポケットから携帯を取り出すと、すぐに電話を掛けた。


「もしもし、クラウスさんですか？少々お願いしたいことが。…ええ、至急お部屋とお医者様の用意と迎えをお願いします。…はい、お嬢様の恩人が大怪我を負ってしまって。…はい、お願いします」


そして携帯を閉じる女性に少女は見上げる。

そんな少女に女性は笑い掛けた。


「お屋敷にお医者様を呼んでもらいました。今から病院に連れていくよりかは早くその子を助けられますよ」

「ホントか！？ 」

「はい」

「そうか…。分かった」


少女は視線をハヤテに戻す。

そして何かを決めたように一人頷いた。


「マリア、こいつの連れがあの車の中で気絶している。そいつも連れていこう」

「え…ええ。どうしたんですか？いきなり」

「私…決めたよ。…何度も助けられた、お礼をすると約束もした。…だから、」


少女は振り向き、笑みを浮かべて高らかに言った。


「この男を、三千院ナギの新しい執事にする！！」


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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを(レス返し追記) ( No.6 )
日時： 2012/10/30 21:35
名前： masa

｢こんにちは作者代理の天王州瑞希じゃ｣


瑞希｢おやおや、ハヤテ君はまぬけじゃな。誘拐を企てて電話したのに開口一番に名乗るとは。捕まえてくださいと言っているもんじゃぞ。
しかし、アテネを忘れていた事を今更ながらに思い出すとは。
で、探しに行こうとしたらマリアちゃんに出会ったか。まあ、原作では誤魔化したが、その暇はなかったか。しかし、良かったのおハヤテ君。お礼の前払いと言う建前があったとはいえ、マフラーを貰って。

ナギちゃんは度胸が据わってるのお、まあアテネもじゃが。それだけでなく、誘拐犯に文句を言うとは。まあ99％言いがかりの様な内容じゃが。
アテネもいい事を言ったのお。信じることは確かに大事じゃ。
でも、ハヤテ君はすごいのお。暴走する車に自転車で追いつくとは。しかも轢かれて大怪我で済むとは。普通なら即死じゃぞ。

原作通りの流れでハヤテ君はナギちゃんの執事になりそうじゃな。



そうじゃ、アテネよ。いくらハヤテ君絡みとはいえ、あそこで気絶するとは情けないのお。鍛えなおした方がよさそうじゃな。


次回も楽しみにしておるよ｣


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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを(レス返し追記) ( No.8 )
日時： 2012/11/02 19:39
名前： ゆーじ


友達にキングダムハーツを借りたはいいけど、英語版だったときの衝撃と絶望←てっきり声優さんバージョンかと思ってた。

というわけでレス返し！


■masaさんへ


＞「こんにちは作者代理の天王州瑞希じゃ」

アテネ「お祖母様…！！お久しぶりですわ！！」

ナギ「だから違えって」


＞瑞希「おやおや、ハヤテ君はまぬけじゃな。誘拐を企てて電話したのに開 口一番に名乗るとは。捕まえてくださいと言っているもんじゃぞ。 しかし、アテネを忘れていた事を今更ながらに思い出すとは。 で、探しに行こうとしたらマリアちゃんに出会ったか。まあ、原作では 誤魔化したが、その暇はなかったか。しかし、良かったのおハヤテ君。 お礼の前払いと言う建前があったとはいえ、マフラーを貰って。

ハヤテ「えへへ、マリアさんのマフラーは暖かかったです♪」

マリア「まあハヤテ君ったら♪」

ナギ・アテネ「「…………」」


＞ナギちゃんは度胸が据わってるのお、まあアテネもじゃが。それだけで なく、誘拐犯に文句を言うとは。まあ99％言いがかりの様な内容じゃ が。 アテネもいい事を言ったのお。信じることは確かに大事じゃ。 でも、ハヤテ君はすごいのお。暴走する車に自転車で追いつくとは。し かも轢かれて大怪我で済むとは。普通なら即死じゃぞ。


ハヤテ「いやぁ、あはは…」

ナギ「ある意味褒めてないぞ」

アテネ「照れるところではないですわね」


＞原作通りの流れでハヤテ君はナギちゃんの執事になりそうじゃな。
そうじゃ、アテネよ。いくらハヤテ君絡みとはいえ、あそこで気絶する とは情けないのお。鍛えなおした方がよさそうじゃな。


アテネ「はう！？お厳しい言葉…！！」



■迅風さんへ


＞うにゃー、お久ーっ♪ 無邪気なエロの塊こと迅風さんなのです♪←


お師匠しゃまあああああ！！おひさしぶりなのですううううう！！

アテネ「……………」

ハヤテ「ダメだよアーたん。そんな嫌なものを見る目で見ちゃ…」

アテネ「だ…！だって！あの方に何度…何度辱めを…！！また何されるか…されるか…！！」

ハヤテ「もー、ダメだよ？せっかく戻ってきてもらったんだから喜ばなくちゃ」

アテネ「うう…ハヤテの馬鹿…」


＞何か感想が極めて久々になってしまい本当、そこ申し訳ない……！！ ええまぁ散々言っている私事な事情ですがね……！！
それはともかく久々の感想に移らせていただくのです！！

いえいえ、そんな気にしないでくださいって！


＞初っ端から色々悲しいねー綾崎は……。もう本当悲しいねぇ……！！ 携 帯電話の代金も無かったとか言う実態も然ることながら『綾崎ですけど ♪』と普通に……！！
何でバカなんだろうね綾崎君よ……天王州さんの意思を何故だか誘拐し て借金返済に至った経緯も相当でしたよ……！！


ハヤテ「あれはもう…色々と思考能力がかくかくじかじかで…」

アテネ「ごまかさないの」

ハヤテ「…はい…馬鹿ですいませんでした…」



＞だけど大丈夫……！！
借金はね。天王州さんに対して綾崎君が〝身体〟で支払えば自ずと返せ ますよ♪ 綾崎君が朝昼晩頑張って〝身体〟で支払えばきっとあっとい う間に返せますよ……♪ さぁさっそく〝身体〟で天王州さんに奉仕し て一日目の夜の仕事を成し遂げようっ！！←別にえっちな意味とかはな いにゃー♪

アテネ「にゃあああああ！！また懲りずにそういうことをおおおお！！/////////」

ハヤテ「そういえば…こういう人だったね、迅風さん…///////」

さすが師匠！私には出来ないことを平然とやってのける！
そこに痺れる憧れるぅ！


＞そして茶髪の女性さん登場……！！ 綾崎君としちゃあ気まずいですよ ね……！！ 今まさに誘拐して色々しようとしていた幼女を捜している のですから……！！ 聖夜に幼女を誘拐して色々していようとしたので すから……！！←別にろりこーんな意図もないにゃー♪


アテネ「……………」

ハヤテ「ちょ！違うよ！誤解だよ…って言うより言いがかりだよ！離れないでよぉー！！」



＞まぁ上記二段の冗談はともかくとしてぇ☆

ハヤテ・アテネ「「(冗談…？)」」



＞……うん、よくよくどうしてこうもたやすく誘拐されていくのかね……。 どっちの少女のヒロインパワーに溢れる金髪美少女、微少女ですねーっ ♪←さり気無く酷い発言

誘拐頻度的な意味ではチョロインですから♪



＞だがそれ以上にマフラーを渡すマリアさんが一番包容力溢れるヒロイン にも見えたのに自分でも驚きですがね……！！


マリア「まあ♪」

ナギ「まあ♪じゃない！！」



＞そしてどっちも緊張感皆無ッ！！
流石と言うくらいに誘拐慣れしてんだねぇ二人揃って！！ まぁ三千院 も天王州さんも両人お金持ちって事で散々狙われてる身の上ですから ね……。

ナギ「ま、日常茶飯事だ」

アテネ「ちなみに私の場合、その後の犯人は皆無傷では逮捕されていませんわ」

ナギ「犯人に何があったんだよ…」

アテネ「そのうち分かりますわ」



＞という事でちょっと天王州さんの慌てふためく顔が見たいので綾崎君 や。ちょいと天王州さんを誘拐して監禁して手籠めにしてみてください にゃ☆←相も変わらない容赦なし
きっと慌てると思うんだ……！！(｀・ω・´)キリッ

アテネ「そりゃ慌てますわよ！！何してるのあなたは！！/////////」

ハヤテ「僕まだ何もしてないよ！？」



＞そして三千院さんの有名な環境汚染うんぬんの語り……！！ 懐かし い……！！
にしても天王州さんの綾崎君へ抱いた印象は良くも悪くも当時と変わっ てないんだね……。安心したような何とも言えぬ様な。しかしまぁ当時 と同じ様に信じていられるって素敵な事ですよねー♪


アテネ「ふん、当然ですわ！」

ハヤテ「なんか照れるね/////」

アテネ「…………。…！？ばっばばば…バカ！勘違いしないでくださいません！？///////////」

ハヤテ「ええ！？あ、う…うん…」



＞という事でさっさと唇奪っちゃいなよ、YOU☆←昔の様な出会いをさぁ 今一度してみよっかぁ！！

アテネ「にゃああああああ！！///////////」

ハヤテ「しっしし…しませんよ！！///////」


＞しかし初対面早々に三千院さんに信じられる綾崎君凄いよね……そして 綾崎を信じると言う意味でもなるほど二人は似通っている――気が合う 部分があるんですね……
という事でさっさと唇奪っちゃいなよ、YOU☆←「天王州さんさぁ早 く」と言わんばかりに。


アテネ「もういやあああ！/////////」

ハヤテ「あ、アーたん！落ち着いて！」



＞にしても車に轢かれても大出血しても生きているとか綾崎はホントに丈 夫だわなぁ……。まぁ天王州さんが気絶してしまっていたり、車内大混 乱だったりするけど……助けられたしよしと考えよう！！
そして最後は原作遵守に三千院家の執事へ……！！
（浮気者めがっ！！）←


ハヤテ「ええ！？心の声が理不尽！？」



＞良かったですね、職に在りつけて……♪ ……さて、三千院家執事として の日々が次回から始まるわけで……天王州さんもいる中で果たしてどう いった日常が巻き起こるか楽しみですね……！！
それでは次回も楽しみにしてます！！ ではぁっ！！


アテネ「は…はあ、やっと終わった…///////」

ハヤテ「初っ端から絶好調だったね…」

ナギ「キャラが出るたびネタが増えるね」

アテネ「にゃああああああ！！」


===============================================


敷地の広さが練馬区の殆どを占めている大豪邸、三千院家にハヤテとアテネは運ばれた。

アテネは部屋に寝かされ、ハヤテは既に待機していた掛かり付けの医者に直ぐさま治療を施された。

屋敷の主、三千院ナギとメイドのマリアはその光景を始終見守った。

頭に包帯を巻き、最後に聴診器での診察を終えて、医者はようやくナギに笑い掛けた。


「だいぶ血は減りましたが命に別状はないでしょう。意識もそのうち戻ります」

「ほ…本当か！？」

「はい。まぁ過激な運動等は控えた方がいい程度ですよ」

「そうか…良かった、本当に…」


ナギは医師の言葉に心底安堵したように笑う。

そしてマリアは医師に頭を下げ、礼を述べた。

それに医師は『お構い無く』と笑いかけてから屋敷を去った。


「…さて」


医師の見送りも済まし、改めてハヤテが眠る部屋に戻ると依然としてハヤテからはなれようとしないナギに顔を向けた。


「じゃあ落ち着いたところで話してもらいますよ。どうして、その…ハヤテ君？…を執事にしようと思ったのか。あとは迎賓館でのパーティーを勝手に抜け出した理由も」

「……………。私とハヤテの二人だけの思い出…とかにしちゃ駄目か？」

「駄目に決まってるでしょう。何言ってるんですか、あなたは」

「むぅ…分かったよ」


ナギは頬を膨らましながらマリアを睨みつつも、諦めた。

そしてナギはハヤテに顔を向けながら話した。


「さっきのパーティーは臭いのと人混みに嫌気が差しただけだ。あんな煙草臭いところに居たんじゃ体に悪い」

「それは仕方ないでしょうに…もぉ。それで？」

「それで…適当に歩いて辿り着いた公園で、変な輩に絡まれて…困っていた時にこいつに助けられたんだ。ドレスしか着てなかったから寒くてさ…そしたら自分が着てたコート…、そこにあるコートを貸してくれたんだ」


ナギはマリアの隣に置かれた椅子に掛けられたハヤテのコートを指差した。

マリアはコートを一瞥した後、再びナギに目を向ける。


「それで、…お礼がしたいって言ったら…その…突然告白してきてな。『君をさらう』って…」

「はぁ………は？…え？さ…さらう…？」

「う…うむ…」


マリアの問いかけにナギは顔を真っ赤にしながら頷いた。


「ま…まあそういうわけだから！私はこいつを新しい執事にすることにしたのだ！！詳しい話はハヤテが起きた後！私はちょっと部屋に戻るから、ハヤテと連れの女のこと頼んだぞ、マリア！」

「はぁ…」


マリアの返事も聞く前に、ナギは部屋を出ていく。

そして残されたマリアは静かにハヤテの方へと顔を向けた。


「(…『君をさらう』…。どうにもいきなり告白なんかするような子には見えませんがね…)」


しかしマリア自身、ハヤテのことは先ほど会話した程度でしか知らない。

ハヤテがナギに告白したか。それを考えるよりも前に、ハヤテ自身の情報が少なすぎる。


「(でもハヤテ君の持ち物はこのコートだけ。…そんな一気に情報が分かるようなものが入ってるとは思いませんが…)」


でも完全に否定はできない。

少し気は引けるが、情報が分からない人間を執事にするわけにもいかない。

マリアはゆっくりとハヤテのコートに手を伸ばし、ポケットに手を突っ込んだ。


「…？」


そして何か紙のようなものを掴み、マリアは手を出す。

手に握られているのは『ハヤテ君へ』と書かれた皺だらけの茶封筒。

マリアはハヤテを一瞥し、一言謝ってから意を決して中身を取り出した。


「………っ！ これって…。まさか、この子… 」




○ ○



「う…ん…？」


アテネはゆっくりと目を開ける。

視界にあるのは見知らぬ場所の天井。

しばらくボーッと天井を見つめたあと、アテネは体を起こす。


「ここは…どこかのお屋敷…？なんでこんなところに…？ しかも私はなんで気を…」


そう呟きながらアテネは自分が覚えている限りの記憶を手繰り寄せる。

確か、ハヤテと再会して…あの子が変なこと言い出して女の子を口説き散らして…そのあと、誘拐されてハヤテが――


「っ！」


アテネは目を見開かせた。

そうだ、自分はハヤテが車に轢かれたショックで気を…。


「ハヤテっ！」


アテネはベッドから降りてから部屋の扉を開け放つ。

そして廊下を走ろうと方向を変えたところで、ハヤテのコートを持ったマリアとはちあった。


「あっ…」

「え…？ 」


しばらくお互いに面食らった顔で見合う。

そして最初に我に返ったのはマリアだった。


「あ、えっと…気分はどうですか？」

「え…ええ、特には…」


アテネはふと視線を下ろし、マリアが持つハヤテのコートを見る。


「あ…あなた、そのコート…！ ハヤテは！？ハヤテをどうしたの！無事なんでしょうね！」

「お…落ち着いてください！ハヤテ君は無事ですから！」

「…………。本当に？」

「は…はい…。一応…。まだ意識は戻りませんが」

「……………」


アテネはゆっくりと糸が切れた人形のように床に座り込んだ。


「あ！だ…大丈夫ですか！？」

「大丈夫…。良かった…生きてて…」

「………………。あなたは、ハヤテ君とはお知り合い…なんですよね？」


その問いかけに、アテネはマリアを見上げ力なく笑って答える。


「ええ。ハヤテは私の……元執事…。10年前にクビにして、今日10年ぶりに会ったの」

「元執事…。って、じゅ…10年前…ですか…？」

「…ええ」


どこか悲しそうに。辛そうに話すアテネにマリアはこれ以上の追求はしなかった。

そしてマリアは手に持っていた茶封筒を一瞥してからアテネにそれを見せた。


「あの、これ…ハヤテ君のコートに入っていたものなんですが…ご存知ですか？」

「……………」


アテネは茶封筒を黙って見ると、急に冷めた表情で顔をそらした。


「もちろん。それはあの子の両親が作った借用書よ。あいつらはハヤテを…自分の息子を売ったのよ。…いつまで経っても最低な奴ら…」

「……………。良かったらハヤテ君がいる部屋に行きますか？詳しい事情も教えて頂きたいんですが…」

「……………」


アテネはマリアを黙って見上げる。

そして目をつむり、静かに立ち上がる。


「分かりましたわ。案内して頂ける？」

「はい。…あ、私はここ、三千院家のメイドのマリアと申します」

「三千院家…？ ………、…よりにもよって…」

「え？」

「いえ。…私は天王洲アテネ。よろしくお願いしますわ」


お互いに自己紹介を終えた二人は静かに廊下を歩き出した。





○ ○



『―――』

『――』


誰かの話し声が聞こえた。

それはどちらも聞き覚えのある声で、時おり自分の名前を呼んでいた気がした。


「…………」


ハヤテは静かに目を開ける。

しばらく朦朧とした意識で天井を見つめると、誰かの話し声がようやく耳に入った。


「――だから…、あっ！ハヤテ！」

「え？あっ…！」


飛び付く勢いで視界に入って来たのはアテネ。その後ろでマリアが小さく微笑んでいた。


「…アーたん…？それに、さっきの…」


ハヤテは体を起こし、改めて二人を見上げた。

そんなハヤテにアテネはおろおろと尋ねる。


「ハヤテ…あなた本当に大丈夫？記憶がない、とか言い出さないでね？」

「うん。それは大丈夫だよ。…ちょっと頭が痛いくらいだから」


アテネを安心させるようにハヤテは頭を押さえながら笑いかける。

その笑みでようやくアテネにも心配の色が消えた。


「お医者様には過度な運動は控えるように、とのことです。まああの出血で生きてる位だし平気でしょうけどね」


マリアはニッコリと笑いかけながら言う。

ハヤテはそんなマリアをキョトンとした顔で見上げる。


「あなたは…」

「ああ、申し遅れましたね。私はマリア。あなたが先ほど助けた女の子…三千院ナギお嬢さまのメイドを勤めています」

「はぁ…」

「あなたが寝ている間に、天王州さんから勝手ながらあなたの大体の事情は伺いました。苦労なさっていたんですね」

「い…いやいや、そんな…お構いなく…」

「それで…なんですが…。ナギから聞いたらあの子、あなたに『君がほしい』と言われたとかなんとか言っているのですが…そのあたり、覚えてます？」

「それは…」


ハヤテはマリアから目をそらす。

少女にそんなことを言った事ははっきりと覚えている。

借金に途方に暮れて小さな少女を誘拐するだなんて、しかもそれを少女の従者である彼女には決して告げてはいけない。

そんなハヤテの心境を察したアテネはハヤテに言う。


「ハヤテ。マリアはあなたの事情を知っている。だからあなたのしたことが咎められるとしても見捨てるような事はしないはずよ」

「アーたん…」


アテネの言葉に同意するように、マリアは笑って頷く。


「はい。私はただあなたの本意を知りたいだけですから。だから話してください、ハヤテ君」

「………………。わかりました…」


ハヤテは頷いて、そしてマリアに話した。

話し終えるとマリアは『なるほど』と呟き、ハヤテを見下ろす。


「最後に確認ですけど…ハヤテ君がナギに気があるわけでは…」

「な…ないです！そんな…犯罪者じゃあるまいし…」

「あぁ…分かりました。……見事に絡まってますねぇ…」

「え…？」

「あ、えーっと…実はですね～。あなたが言ったその『君がほしい』って言葉を、あの子――」

『おお！起きたかハヤテ！！』


マリアはその声に『あー…』と呟きながら苦笑いで言うのを止める。

そして扉を少し開けて顔を覗かせるナギに顔を向けた。

ナギは嬉しそうに笑いながらハヤテに駆け寄る。


「よかった、目が覚めたのだな！お前も！」


ナギはハヤテを見た後に、アテネにも顔を向ける。

その問いにハヤテもアテネも笑って頷く。


「うん、色々ありがとう」

「心配かけましたわね」

「いや、気にするな。無事で何よりだ♪」


ナギの笑顔は本当に嬉しそうで、その笑顔が眩しくてハヤテはナギから視線を逸らした。


「その…さっきはごめん…。血迷ってたとはいえ、君に変なこと言っちゃって…」

「え？……あぁ！あの時か。別に気に病むな。その…初めてだったからビックリしたけど…嫌じゃなかったし…」

「ホントにごめん…」

「そんな謝るな！お前は私の恩人なんだぞ？…まあいい。ハヤテ、お前に提案があるのだ」

「…提案？」


ナギの言葉にハヤテは目を丸くしてナギを見上げる。

そんなハヤテにナギは胸を張りながら笑って、『うむ』と頷く。


「お前のその身体能力を買って決めた。…ハヤテ、私の執事をしないか？」

「…しつじ…？」

「ああ。お前が望むなら部屋も用意しよう」

「部屋…。住み込みってことですか？」

「うむ。あとは…お前。お前もハヤテと一緒のが都合がいいのだろう？」


ナギはアテネに顔を向けて言う。

アテネは目を丸くして『えっ？』と面食らう。


「なんだ？お前はいいのか？」

「え…。……そうね…ハヤテが心配だし…お願いしようかしら…」

「うむ、言われなくても。………というわけでどうだろうか？」

「………………」


ハヤテは少女にただひたすら驚愕していた。

あんな誘拐までしようとした自分なんかに、と。

少女の笑顔が、今のハヤテには輝かしく見えた。


「で…でもナギ？いくらハヤテ君が頑丈でも執事の仕事が出来るかまではまだ…」

「大丈夫です、できます！…ね、アーたん！！」

「…………まあ、あれから１０年も経ちましたからね。あの時よりかはできますでしょう、さすがに」

「うん！」

「……………」


マリアは苦笑いまま固まる。

すべての真実。ハヤテとナギの間にあるすれ違いの真実を知っているマリアを差し置いて、話はどんどん進んでいく。


「ってことは、じゃあ…！」

「はい！お任せくださいお嬢さま！あなたのことはこの僕、綾崎ハヤテが命を懸けてお守りいたします！！」

「うん、よろしくなハヤテ！」


お互いに手を取り合い、笑い合う二人にマリアはもうすべてを諦めた。

『もう…どうとでもなれ』と。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを(レス返し追記) ( No.9 )
日時： 2012/11/02 20:09
名前： masa

どうもmasaです。

暴走する車にひかれて生きてたとは。しかも過度の運動をしなければ大丈夫とは。普通なら即死するのに。ハヤテって人間かな?

ナギよ、結構重要な事を2人だけの秘密にしたいとは、ませてますよね。
まあ、ナギがパーティを抜け出したのは当然ですよね。ナギからすれば面白さなんて0でしょうから。
で、魔女・・・マリアさんはハヤテの状況を飲み込めたみたいですね。まあ、いくら財閥でも1億5千万の借金だなんて驚きますよね。

で、アテネは何事もないようで。まあ、ある種因縁のある三千院家に自分が運び込まれたと聞けば驚きますよね。
開口1番にハヤテの心配をするとは。まあ、旦那さんだから当然かな?

魔女・・・マリアさんはアテネから全ての事情を聞かされましたね。普通ならハヤテの状況を心配しますよね。
で、魔の悪い事に魔女・・・マリアさんが事情を説明しようとした時にナギが戻ってくるとは。
ナギも結構心が広いですね。いくら告白(そう思い込んでいる)されたとはいえ、住み込みの仕事を与え、アテネの同居を許すとは。


まあ、ハヤテが追い出されるイベントが起こらない事を祈りつつ、次回も楽しみにしてますね。





ん?入浴イベントはなかったですね。てっきり、事情を説明し、風呂を勧められたアテネが入ってきたハヤテと出くわす。なんて事を期待してたんですが。まあいいか。


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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを(レス返し追記) ( No.10 )
日時： 2012/11/03 12:38
名前： 迅風

うみゃっ、邪まな無邪気野郎こと迅風なのですー♪←

挨拶矛盾してるねー、邪まな癖に無邪気ってなんやろねーとか思いつつ、さっそく感想に参るとしましょうか、うんぬん！！

感想が通報されてしまったかー児童ポルノだねー気を付けないとにゃー。

まぁそれはそれとして。←へこたれない子になってた私

綾崎君流石ぁ……！！　流れ石と書いて流石ぁ……！！　あれだけ流血して一切、後遺症がないとか流石ぁ……！！　体は何で出来てるんですか？

そして三千院さんと綾崎君の馴れ初めがマリアさんへ筒抜けに……！！

けどもまぁ実際告白にしても「攫う」はあんまり使いませんよねー。ロミオ、ジュリエットみたいに許されざる恋やら相手が監禁されてますね的な状態の壮大イベントならともかく「攫う」は違和感抱きますもんねー……！！

そんなマリアさんが綾崎君の危機的状況を知ったと同期に天王州さんお目覚めだ……！！

目覚めたと同時に即座に綾崎君心配……流石はアテネママ……！！　ハヤテ君心配でならないんでしょうね……。彼がいなくなって以来、毎日毎晩、恋い焦がれて悶々とし続けていたのでしょうし……！！←何故か飛躍した

そしてマリアさんもびっくりの二人の関係。一〇年前に執事うんぬん……一般人ならなおのこと驚愕ものだよ！！　普通から極めて遠のいてるよ二人の関係！！　……執事、それはお嬢様とイチャイチャするお仕事……かっこ、一〇年前かっことじ。

……あの二人、本当、一〇年前に何度キスしてたんだろう……。←知りたそうに

……あの二人、本当、一〇年前に何度キスしてたんだろう……。←大事な事なので二回いう事が大切だよ☆

まぁそれはそれとして意識回復の綾崎君！！　記憶が無くならなくって良かったねー。でもきっといつか無くなるよ、物語の美味しいネタ的に！！←

そして三千院さんへの気があるかどうかの問い掛けには即座に「犯罪者じゃあるまいし」が結びつくんだね……。流石は年上好きの綾崎君さぁ……！！

これで原作通りにマリアさんとお風呂混浴状態だったら、対人関係色々カオスな事になって面白いかにゃーとかは決して思ってないにゃ☆←

しかしタイミング悪く三千院さんが……！！

「初めてだったからびっくりしたけど、嫌じゃなかったし」うんぬんの辺りで「あれ？　何かおかしいような……？」くらいに思えれば未来は変わっていたのやもしれぬがのう……。若者の青春はまこと度し難いものだのう……。←何故かジジイ口調へ

そうして三千院さんの提案で綾崎君が三千院家の執事へとな……！！

良かったのです、仕事に在りつけて……（内心「浮気者めがっ！！」）！！

そして最後にマリアさん……諦めないで……！！　無理やりにでもどうにか……！！　いや、もう間に合わないけどさ……！！　テンポよく話が進むって大変なんだね……。

それじゃあ、次回も楽しみにしてるです♪

それではこれにて幕下しーにゃっ☆
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを(レス返し追記) ( No.11 )
日時： 2012/11/07 23:04
名前： ゆーじ


ハヤテモバゲーが想像以上に面白い。しかしアーたんカードがないのが解せぬ…。

そしてレス返しは後ほど追記します…。

======================================================================


ハヤテがナギの執事として働くことが決定された、その後。

ナギもアテネも部屋に戻ったのを確かめてから、ハヤテは大浴場とデカデカと書いてある表札がある部屋に入った。

銭湯並に広い脱衣所で服を脱ぎ、後で巻き直せばいいということで頭に巻かれた包帯を解く。

そして浴場に続く戸を開けて、まるで温水プールにでも来たかのごとく広い浴場見るなりハヤテは目を輝かせた。


「わあ…！さすがお金持ちの家…風呂もすごい広いや…」


生まれて初めての広い風呂に、ハヤテは喜々として浴槽に浸かる。


「ふわぁ…気持ちいいなぁ…」


そのまま顔を上に向けて、ハヤテは肩の力を抜き切る。

もしかしたらこんな風呂にも入れずに死んでいたかもしれない。そう思うと更に心地のいいものになった。


「………………」


ハヤテは緩んでいた顔を引き締めて天井を仰ぐ。

明日から、自分は執事となる。小さな少女に仕える。


『ハヤテ。私とあなたはずっと――』

「………………」


ハヤテは鼻先まで湯に浸かる。

もう、あんなことにはなってはいけない。

大切な人を、傷つけては――


「………え？」


声が聞こえた。

自分の声ではない。もっとこう…高くて、女の子の声で…なんだかマリアさんの声に似ているような気がして…。

ハヤテは顔を上げる。

そして湯気で隠れていた人影が徐々に現れていき、遂には目を丸くしたマリアと完全に目が合った。

ハヤテと同様に肩の力を抜き切っていたのか、無防備にもマリアはバスタオル一枚で立ち尽くしていた。


「………は…ハヤテ…君…？」

「ま…マリアさ…」


その瞬間ハヤテは瞬時に背中を向け、マリアも瞬時に湯に浸かりハヤテに背中を向けた。

そして訪れる静寂に、二人の顔は徐々に赤くなって行った。


「………(どうしよう…こんなこと初めてだし…気まずい…)」

「あの…ハヤテ…君？」

「は…！はい！？」


マリアの声にハヤテは声を裏返しながら答える。

マリアは横目だけハヤテに向けて言う。


「その…大丈夫なんですか？怪我の方は」

「え…ええ…なんとか…」

「そうですか。そんな怪我をして一日も経ってないのに風呂になんか入って傷が開かないのかなって思っただけです。ホント凄いですね、あなたは」

「…………………」


ぼふっ！！

そんな音をたてて、ハヤテの周りの湯船は真っ赤に染まった。


「きゃああああああ！？ハヤテくーーーーーん！！」


マリアの叫びは深夜の三千院家に木霊した。

こうして夜は更けていく…。



○ ○



翌日。

窓から差し込む朝日にハヤテは目を開ける。

昨日の出来事は現実だったのか。それすらも定かではない。


「あ、ハヤテ君！起きましたか！」


意識を朦朧とさせている所に視界に飛び込んで来たのはマリアであった。

マリアを見た途端に、ハヤテの記憶はフラッシュバックする。

マリアさん。お風呂。そして、


「あの、マリアさん昨日――」

「ずっと！ずーーっと寝てましたが大丈夫ですか？」

「…………、…え？僕ずっと寝てました？」

「もちろん！もう死んでるんじゃないかってくらいに寝てましたよ！」

「………じゃあ昨日のことは夢だったんですかね？」

「そ…そうなんじゃないですかね？」

「なら執事になるって話も…」

「あ、それは現実です」

「ええ！？」

「なので、ハヤテ君が仕事が出来る服をご用意しました。着てくれますよね？」


笑って尋ねるマリアにハヤテは目を輝かせた。

そしてマリアが持ってきていた服を着て、鏡の前に立つ。

ウィングカラーシャツを来て、赤いリボン状のネクタイを絞め、ジャケットに身を包んだハヤテを見るなりマリアは満足そうに笑った。


「よかった。サイズはピッタリみたいですね」

「…………これって、お屋敷にあったんですか？」

「いえ、私が昨夜に仕立て直しました。ハヤテ君が着ていた服のサイズを参考に」


ハヤテは改めて鏡に映る執事服姿の自分を見る。

10年前も似た服を着てアテネの執事として暮らしていたが、服に対する違和感は昔ほどなくなっていて、むしろ様になっている。


「凄いですね…こんな売り物当然の出来の服を一晩で…」

「ふふっ、そんなの褒められたものでもないですよ。……さ、朝一番の大仕事に行きますよ。ナギを起こしに一緒に行きましょうか」

「あ…はいっ！」


歩き出すマリアの後をハヤテは追いかける。

広い廊下を抜け、マリアはひとつの扉の前に立ってハヤテに振り返る。


「まぁ10年前に天王州さんの執事をしていたということなので基礎的な知識はあると思いますからナギのことだけ説明しますね」

「はいっ！」

「ふふっ、…とりあえずナギは朝に強い方ではないので毎朝こうやって起こさなくてはいけません。寝起きも悪いので何か理不尽なことを言ったりしますが気にしないように」

「はぁ…」

「それからあの子は――」

「おいこらマリア！最初に説明することがそれか！！」


背後からの声にハヤテもマリアも振り向く。

そして着替えも済まし、あからさまに不機嫌そうに手を腰に当てながらマリアを睨むナギに顔を向けた。


「あら。随分と早い起床ですね」

「おはようございます、お嬢さま！」


笑顔で挨拶をするハヤテにナギは僅かに顔を赤くして、顔を逸らしながら挨拶を返す。


「おはようハヤテ。マリアの言うことは気にしなくていい。……それよりお前、随分しっかりしたものを着ているな」

「そうなんですよ！これマリアさんが仕立ててくれたんですよ。いやぁ凄いですよねぇ♪」

「……………悪かったな。そんな事もできなくて」

「え？」


首を傾げるハヤテにナギは鼻を鳴らしながらそっぽ向いてハヤテとマリアを掻き分けて、自室に戻った。

二人は呆然と固く閉められた扉を見上げる。


「僕…何かお嬢さまの気に触ること言いましたかね？」

「まぁ…今回ばかりは仕方ないですね」

「はぁ…」

「とにかく、ナギは起きてるみたいなので次の作業に移りましょう。…過度に動かなくて出来る仕事だと……掃除、とかですかね？」


掃除。その単語が出た途端にハヤテは目を光らせた。


「掃除ですね！お任せください！お嬢さまの信頼回復も含めて頑張ります！！」

「期待してますよ。じゃあ部屋の案内を…って、もういない！？」


突如消えたハヤテを見渡して探すも、既に近くにいる気配すらしなかった。

マリアは疲れたようにため息をつく。

そしてナギが入って行った部屋の扉を開ける。


「はぁ…」

「ため息をつくくらいなら人に当たらないで下さいね」

「む…」


ソファーに座るナギはマリアの言葉にムッとしたように口のへの字にする。


「うるさいっ。ハヤテの奴、マリアにデレデレして…、マリアに手を出したら死ぬより辛い目に合わせてやる」

「そんなことを言っている内は振り向くものも振り向きませんよ。ちゃんと話し合わなくちゃ」

「………………」

「まだお互いにお互いをよく知ってるわけじゃないんですから」


ナギは顔を曇らせて俯く。

マリアはフッと笑ってナギに歩み寄る。


「やっぱり必要かな…そういうの」

「ええ。持ってる不満は早めの内に解消するのがいいですよ」

「そう…だな。そうだよな！よーっし、ちょっとハヤテのところ行ってくる！」


立ち上がり、部屋を飛び出していくナギをマリアは笑顔で見送る。

これで二人の間にある誤解は解けるはず――


「マリアさん！お掃除終わったので確認を！」

「………………」


おそらくナギが行った方向とは逆から来たのだろう。

つくづくすれ違う二人にもはやマリアは苦笑いを浮かべるしかない。


「どうしました？」

「いえ、別に…。それより随分早いですね」

「はい！掃除は得意なんですよ！」

「あら、そうなんですか？じゃあどれだけ綺麗になったか楽しみですね」

「お願いします！」


マリアはハヤテの案内の元、掃除したと言う部屋まで行く。

口では言いながらなんだかんだでまだまだ掃除が足りない光景を予測していた分、予想をはるかに上回るほどに綺麗になった部屋を見るなりマリアは目を丸くした。


「これは…随分とまぁ綺麗に…」


窓に近づき、縁を手でなぞって見てもゴミ一つない。

これほど行き届いた掃除をあんな短時間でするのは並の人間にはできないことだ。


「…凄いですね。こういう知識も天王州さんから教えてもらったんですか？」

「…そうですね、でもそれは応用として使っただけなので、ほとんどはバイトでの経験のおかげですかね。いやぁ、掃除のバイトだけは幼い頃から年齢を偽ってやってたのでよかったですよー♪」


痛々しい過去を笑い飛ばしながら話すハヤテにマリアは苦笑いしかできない。

しかしハヤテの実力は理解したのも事実だ。


「じゃあまぁ…他の部屋の掃除も頼んでいいですか？」

「もちろんです！じゃあ行ってきます！」

「ちょっ、ハヤテ君！部屋は私が決めます…って、もう居ない…。……はぁ…」


マリアの重い溜息は、誰にも聞こえることはない。

一方、その溜息の原因はというと、


「…………ここ、どこだろう？」


迷っていた。

この無駄に広い屋敷に来てから一日も経ってない上に、まともな案内もされてないのにもかかわらず一人突っ走ってきたのだから迷うのも当然である。


「まあ部屋の指定もされてないし…適当な部屋を掃除しようかな」


そう呟き、ハヤテは扉を開ける。

その部屋は先程掃除した部屋とは少し違っていた。

本棚に埋め尽くされた壁と、窓際に置かれた机。

そして感じる人の気配。


「この部屋は…結構な頻度で使われてる部屋みたいだな。…ん？」


ハヤテは机の上に置かれたノートを見つける。

三千院ナギと律儀に名前が書かれていることから、ナギの部屋だと判断する。


「お嬢さまのノート…勉強部屋かな？」


主のことを理解しようと、ハヤテはそのノートを開ける。

そして、なぜかメルヘンな衣装を着た強面筋肉質な男性とやる気の無さそうな顔をした星がよく分からない会話を交わす漫画を見た。

しかしハヤテはそれを漫画とは考えずに、


「…絵日記？」


絵日記と判断した。


「い…いかん、いかん！こんなの見てたらお嬢さまがタイミング悪く入って来て色々と厄介なことになり兼ね――」

「おい。人の部屋で何をしている」

「………………」


なり兼ねた。

ハヤテは背後にいるであろうナギに振り向き、ノートを持ったまま弁解する。


「ち…違うんですお嬢さま！こ…これは…！！」

「ぬぁ！？お…お前、そのノート…！！」

「大丈夫です！！見てません！見てませんから！お嬢さまのこの……絵日記は！！」

「な…！え…絵日記…だとぉ…！？」


明らかに怒りのボルテージを上げていくナギにハヤテは『えっ』と呟く。

そして今更ながら、ノートの中身が絵日記ではないのではないかと思い始めたがもう遅かった。


「は…は…ハヤテの馬鹿ぁああ！も…もうここから出て行けぇーーーー！！」




○ ○





日も暮れかけた寒空の下、ハヤテは三千院家の門前に立っていた。

そして約半日ほどお世話になった場所を涙目で見上げる。


「さようなら僕の平穏…短い間、ありがとう…」

「そしてこんにちはァ。おかえり借金の世界へェ？」

「…へ？」


その声にハヤテは顔を横に向ける。そしてヤクザ面の男達と目が合った。

彼らはハヤテの両親が金を借りた会社の組員で、売られたハヤテが彼らから逃げ延びた結果が今までの出来事だったのだ。

そんな彼らが目の前にいて、匿ってもらっていた少女からはクビ宣告された。

つまりはそういうことである。


「………………」


しばらく固まっていたハヤテだが、思考が追いつくと男達に笑いかける。


「あけましておめでとうございます、皆さん♪」

「おぅ、まだ正月じゃねぇけどおめでとう綾崎。というわけで1億5680万4000円のお年玉でも貰おうかな？」

「あはは。やだなぁ、立場が逆ですよー♪じゃあそういうわけで、さようなら」


ハヤテは笑顔のまま歩き出す。

そしてしばらく歩いて距離を離したところで、


「ダッシュ！！」

「させるかボケェ！！」

「はぶっ！！」


逃走を試みたが、結局は男に背中を飛び蹴りされて失敗する。

そして逮捕される容疑者のごとく車に連行される。


「うう…親にも飛び蹴りされたことないのに…」

「ああ、むしろ俺らに飛び蹴りされる側だったぜアイツらは。よかったなぁ、親子一緒に飛び蹴りされて」

「何がどうよかったのか教えてくれません！？」

「まぁそう気を落とすなよ綾崎。大丈夫、ちょろっと内蔵出すだけで心臓は残しといてやるから安心しろや」

「できませんよ！心臓だけで人が生きられると思いますか！？」

「ぐちぐちうるせぇ奴だな。諦めて死ねや」

「嫌だぁーっ！」


ハヤテの叫びも虚しく、車は走り出す。

そんな光景をマリアだけは屋敷の窓から見ていた。

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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.12 )
日時： 2012/11/08 00:39
名前： masa

｢また来たよ。作者代理の天王州瑞希じゃ｣


瑞希｢ふむ、やはりあったようじゃなお風呂イベント。我々の作者はアテネで発生すると思っていたようじゃが、原作通りじゃったようじゃな。
まあ、マリアちゃんの身近な男性はSPの人たちかクラウスさん、帝爺じゃったから、経験がないと焦るのは当然じゃな。
まあ、輸血したとはいえ、大量出血した後、また大量出血したのに生きとるとはさすがハヤテ君じゃな。

まあ、マリアちゃんが誤魔化したのは当然じゃな。自分にとっては黒歴史じゃろうから。
ナギちゃん、そんなことで拗ねてはいかんよ。人には向き不向きがあるんじゃ。一々怒っておったら、どんな関係でも壊れてしまうよ。

で、原作同様迷い、書斎でナギちゃんの漫画を見つけ絵日記呼ばわりか。まあ、人生経験が豊富な私でも分からんじゃろうから、仕方ないのお。
しかし、出て行けと言われて屋敷を出ていくとは。何もクビ宣言したわけではないのに。まあ、ハヤテ君らしいと言えば、それまでじゃが。

で、速攻で借金取りに見つかるとは。自分の運の無さを恨むしかないようじゃな。
捕まってしまったハヤテ君はどうなるのかな?そして、誤解を生んでしまったナギちゃんはどうするのかのお。楽しみじゃ。







おや?私の孫娘はどうしたんじゃ?まあ、寝とるじゃろうが｣



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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.13 )
日時： 2012/11/19 15:19
名前： ゆーじ

モバゲーハヤテはどうしてこうハヤテカードが少ないんだっ！！

というわけで今更ながら前回のコメントのレス返しです。

またスマフォでのコピーができなくなったため、もしかしたらまたレス返しはお休みしてしまうかもしれません…。

もしくはレス返しの手法を変える可能性もあります。
その時はご了承ください…。


■masaさんへ

＞どうもmasaです。
暴走する車にひかれて生きてたとは。しかも過度の運動をしなければ大丈夫とは。普通なら即死 するのに。ハヤテって人間かな?


ナギ「黒光りしてて妙に頑丈でしぶとくて足の速いアイツじゃないか？」

ハヤテ「ええ！？ひどい！」



＞ナギよ、結構重要な事を2人だけの秘密にしたいとは、ませてますよね。 まあ、ナギがパーティを抜け出したのは当然ですよね。ナギからすれば面白さなんて0でしょうか ら。 で、魔女・・・マリアさんはハヤテの状況を飲み込めたみたいですね。まあ、いくら財閥でも1億 5千万の借金だなんて驚きますよね。

マリア「いい加減にしてくださいね♪誰が魔女なんですか？」

ナギ「マリアが笑いながら怒ってる…！」



＞で、アテネは何事もないようで。まあ、ある種因縁のある三千院家に自分が運び込まれたと聞け ば驚きますよね。 開口1番にハヤテの心配をするとは。まあ、旦那さんだから当然かな?

アテネ「ふゆぅ…/////////」

ナギ「っけ！」



＞魔女・・・マリアさんはアテネから全ての事情を聞かされましたね。普通ならハヤテの状況を心 配しますよね。 で、魔の悪い事に魔女・・・マリアさんが事情を説明しようとした時にナギが戻ってくるとは。 ナギも結構心が広いですね。いくら告白(そう思い込んでいる)されたとはいえ、住み込みの仕事を 与え、アテネの同居を許すとは。

ナギ「ふん、まあこれがメインヒロインの核の違いというやつなのだ！」

アテネ「へ～」

ナギ「なんだその関心なさげな反応は！」


＞まあ、ハヤテが追い出されるイベントが起こらない事を祈りつつ、次回も楽しみにしてますね。

ナギ「さーて、今週の新アニメもどんな話か楽しみだ！」

マリア「逃げないでくださいね、ナギ」



＞ん?入浴イベントはなかったですね。てっきり、事情を説明し、風呂を勧められたアテネが入って きたハヤテと出くわす。なんて事を期待してたんですが。まあいいか。

マリア「さ、さーて、今週の新アニメも楽しみですね～」

ナギ「おいこら」



■迅風さんへ

＞うみゃっ、邪まな無邪気野郎こと迅風なのですー♪←
挨拶矛盾してるねー、邪まな癖に無邪気ってなんやろねーとか思いつつ、さっそく感想に参るとしましょうか、うんぬん！！


お師匠さまは無邪気に邪なえっちぃ話をしなさる方だから矛盾はしてません！

もちろんいい意味で！



＞感想が通報されてしまったかー児童ポルノだねー気を付けないとにゃー。

あわわ…ひなゆめ時代の連続コメント通報事件が蘇る…。



＞まぁそれはそれとして。←へこたれない子になってた私


さすが師匠！そこに痺れる憧れるぅ！



＞綾崎君流石ぁ……！！　流れ石と書いて流石ぁ……！！　あれだけ流血して一切、後遺症がないとか流石ぁ……！！　体は何で出来てるんですか？


ナギ「鉄じゃね？」

アテネ「ダイヤモンドという可能性もありますわ」

ハヤテ「あなた方と同じものでしかできてないですよ！！」



＞そして三千院さんと綾崎君の馴れ初めがマリアさんへ筒抜けに……！！
けどもまぁ実際告白にしても「攫う」はあんまり使いませんよねー。ロミオ、ジュリエットみたいに許されざる恋やら相手が監禁されてますね的な状態の 壮大イベントならともかく「攫う」は違和感抱きますもんねー……！！


アテネ「傍から見たらただの変態でしたしね」

ハヤテ「うう…」



＞そんなマリアさんが綾崎君の危機的状況を知ったと同期に天王州さんお目覚めだ……！！
目覚めたと同時に即座に綾崎君心配……流石はアテネママ……！！　ハヤテ君心配でならないんでしょうね……。彼がいなくなって以来、毎日毎晩、恋い焦がれて悶々とし続けていたのでしょうし……！！←何故か飛躍した。


アテネ「ま…まぁ…否定はしませんわね…//////////」



＞そしてマリアさんもびっくりの二人の関係。一〇年前に執事うんぬん……一般人ならなおのこと驚愕ものだよ！！　普通から極めて遠のいてるよ二人の関係！！　……執事、それはお嬢様とイチャイチャするお仕事……かっこ、一〇年前かっことじ。


マリア「……ナギに変なことしないでくださいね、ハヤテ君」

ハヤテ「もちろんですよ！！」



＞……あの二人、本当、一〇年前に何度キスしてたんだろう… …。←知りたそうに
……あの二人、本当、一〇年前に何度キスしてたんだろう……。←大事な事なので二回いう事が大切だよ☆


約580回です！(｀・ω・´)

ハヤテ「////////////」

アテネ「////////////」



＞まぁそれはそれとして意識回復の綾崎君！！　記憶が無くならなくって良かったねー。でもきっといつか無くなるよ、物語の美味しいネタ的に！！←

記憶喪失ネタはハヤテではないですがいつかやるつもりです！

まだ未登場のあの方で！



＞そして三千院さんへの気があるかどうかの問い掛けには即座に「犯罪者じゃあるまいし」が結びつくんだね……。流石は年上好きの綾崎君さぁ……！！


ハヤテ「ありがとうございます♪」

アテネ「褒められてるの？これ」



＞これで原作通りにマリアさんとお風呂混浴状態だったら、対人関係色々カオスな事になって面白いかにゃーとかは決して思ってないにゃ☆←

アテネ「ハヤテ！この人を無邪気と言うなら無邪気という言葉を一度見直す必要がありますわ！！」

ハヤテ「そこまで！？」



＞しかしタイミング悪く三千院さんが……！！
「初めてだったからびっくりしたけど、嫌じゃなかったし」うんぬん の辺りで「あれ？　何かおかしいような……？」くらいに思えれば未来は変わっていたのやもしれぬがのう……。若者の青春はまこと度し難いものだのう……。←何故かジジイ口調へ


マリア「あの子、単純ですからねぇ…」



＞そうして三千院さんの提案で綾崎君が三千院家の執事へとな……！！
良かったのです、仕事に在りつけて……（内心「浮気者めがっ！！」）！！


ハヤテ「だから内心が理不尽！！」




＞そして最後にマリアさん……諦めないで……！！　無理やりにでもどうにか……！！　いや、もう間に合わないけどさ……！！　テンポよく話が進むって大変なんだね……。
それじゃあ、次回も楽しみにしてるです♪

マリア「ホント…大変ですよ…」

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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.14 )
日時： 2012/11/19 15:25
名前： ゆーじ


マリアは双眼鏡を下ろし、後ろで漫画を読んでいるナギの方に顔を向ける。


「どうするんですか？ハヤテ君、今晩にはこの世からおさらばしちゃいそうですよ？」

「ふーん…って、え！？まさか自殺！？」

「いえ。できるならば一生関わり合いを持ちたくはない人達に連れ去られました」

「はぁ？なんでそんな奴らがよりにもよってハヤテをさらうのだ？もっといい金づるが居るだろうに」


ナギの問いかけにマリアは心底驚いたように目を丸くした。


「まさか…知らないんですか？ハヤテ君の事情」

「…？そういえば…そもそもなんでアイツは仕事をあんなに探してたんだ？」


本当に何一つ知らない様子のナギに、マリアは呆れたように溜息をつきながら首を振る。

そしてポケットに入れていたハヤテの借用書をナギに渡した。


「本当にあの子の主を名乗るならハヤテ君のことを何か一つでも調べなさい。そんな、ただ言い寄られて助けられたから執事にするなんて普通だったら有り得ないんですからね？」

「う…うるさいなぁ…。そんな怒らなくたって…」


マリアの説教にナギはうんざりした様子で借用書に目を映す。

そしてそこに書かれた膨大な金額とハヤテの両親がハヤテに当てたメッセージにナギは目を見開かせた。


「な…なんだよこれ…どういうことだよ…」

「ハヤテ君は実の親に売られたんです。家も差し押さえられて、親ももうどこに居るかが分からない。だからあの子がここを追い出されてはいけなかったんです。なのにあなたは…」

「だ…だって、アイツは…！」

「せっかくの自信作を絵日記呼ばわりしたって？そんなのあなたが片付けないから悪いんでしょう？ハヤテ君だって流石に片付いてるものをわざわざ取り出して見るだなんてことしません。机の上に置いてあったのならともかく、ね」

「ぐ…」

「ま、あなたがハヤテ君がもう嫌いと言うのならこの話はこれでおしまい。ハヤテ君はご両親が作った借金のせいでさようなら。そういう流れになりますけど」


マリアはナギにわざと冷たい言葉を浴びせ、ナギに背中を向ける。


「ま…待て！わかった！わかったから！」

「…………」

「こ…このまま終わりはダメなのだ！ハヤテは命の恩人だ…恩人を見捨てるようなことをしては三千院の名の恥だ！」

「じゃあどうするつもりなんです？」


マリアはナギに振り向いて尋ねる。

言うだけ言ってる何も考えていなかったらしく、ナギは言葉に詰まらせる。

それと同時に、部屋の扉が開いた。


「おはようございますわ…」


アテネだった。

今しがた起きたらしく、まだ寝ぼけている。

ちなみに今は夕方である。


「…………おはようございます、天王州さん」

「お前…今起きたのか？」

「朝は苦手なんですの…。ところでハヤテの姿がないようだけれどお使いにでも行ったの？」

「ぐ…」


何も知らないアテネの問いかけにナギは顔を渋らせ、マリアは黙ってナギに目を向けた。

マリアの視線から逃げるようにナギは駆け出す。


「ハヤテに会いたいならお前も来いアテネ！！」

「へ！？ちょ…何を…！！きゃあ！！」


ナギはアテネを引っ張って、部屋から走りさって行った。

残されたマリアはやれやれと言わんばかりに首を横に振るのであった。




○ ○



一方、ハヤテはというと………港に来ていた。

理由はなんとなく分かる。このままだと自分は晴れて人間以下となるだろう。

だってほら、後ろでヤクザの人達が凄い物騒な会話してるしね。


「………………」


ハヤテは男たちに気づかれないように、そーっと動く。

……が、すぐに後から肩を掴まれた。


「おう綾崎。どこ行くんだぁ？」

「ちょっと用事を思い出して…」

「未練はあっても用事はねぇだろ？なぁオイ」

「あははー…。そんなことは決して……」


ハヤテはそのまま男の手を素早く払い、逃げ出す。


「あ！テメ、綾崎ィ！！」


男の怒号を背にハヤテはひたすら全速力で走る。

あの親のために死ぬのだけは絶対に認めてたまるもんか――


「っ！ 」


その瞬間、ハヤテは酷い目眩に襲われた。

そして気づけば自分は地面に座り込んでいた。

立とうとしても身体に力が入らない。


「な…なんで…！！」

「おいおい、怪我人が走り回るもんじゃないぜ？」

「…！！」


振り向けば、額に青筋を浮かべた男が銃口を向けていた。

そして同時にマリアの言葉とともに、自分の状況を思い出した。

自分は怪我人で…そして過度に動き回ってはいけないと――


「往生際が悪いな。いっそここで死ぬか？別に構わないんだぜ？商品がひとつなくなるだけだしな」

「くっ…」


男の指が、引き金に届く。

あれが引かれた瞬間、自分は頭を撃ち抜かれる。

こんなところで死ぬわけには行かないのに――


「そこの殿方。少々よろしいかしら」

「あ？ 」


少女の声に男は振り向く。

その瞬間、少女は剣を振るい男の銃をなぎ払った。


「な…！」


そして少女はそのまま剣の剣先を男の喉元に向ける。

時間は止まり、しばらくの沈黙が訪れた。


「ハヤテ。無事？」

「え…あ、はい…一応…」

「そう、よかった」


少女は安堵の声を上げ、月明かりがその姿を照らす。

明かりで輝く金髪の長い髪と巻毛。それだけでハヤテには誰だかが分かる。

アテネだ。…なぜかオペラ座に居ても違和感がないような謎の仮面で目元を隠した。


「……………」

「てめえナメてんのか！？なんだその仮面は！！」

「な！これには触れないでいただけます！？私だって嫌々なのよ！！」

「嫌なら外せや！」

「だって外すとうるさいんですもの！」

「何をふざけたことを――」


男がアテネに手を向けたと当時にアテネの横をトランプのカードが横切り、そのまま男の額にまっすぐに刺さった。


「にぎゃあああああ！なんか刺さったああああ！！」

「「アニキぃ！！」」


額にトランプが刺さった男は地面に倒れのた打ち回り、部下達は男に駆け寄る。

ハヤテもアテネもその攻撃を唖然と見つめる。


「助けてやろう、綾崎ハヤテ」

「…！ この声…お嬢――」


ハヤテは声が聞こえた方向に振り向き、そして言葉を途切る。

案の定、ナギだと思っていた少女もまたオペラ座もどきな仮面を被っていたからだ。


「………はぁ」

「ちょ…！なんだお前、そのため息は！！やめんか！！」

「あ…すいません、お嬢さま…なんかつい…」

「ついってなんだついって！それに私はお前のお嬢さまではない！！……まねーますく…………あ、そう！マスク・ザ・マネーだ！なぁ、マスク・ザ・ゴールデン！」

「ええ！？ご…ごーるでん…！？」

「………………」


もう色々と噛み合っていないナギとアテネにハヤテはもはや苦笑いしか出来ない。

そして今までのた打ち回っていた男が額にトランプを刺したまま、怒りの形相で起き上がる。


「ガキが…調子に調子に乗りやがって！！」

「…ふん、黙れハゲ！！ハヤテは貴様らなんぞに渡さん！！」

「ハ…！？ テメェ…糞ガキィ…！上等だ！！綾崎を渡さねぇって言い張るんならそれなりのモンは用意してあるんだろうなァ！？」

「はっ、私が何もなしにノコノコとやってくるとでも思ったか？」


ナギは腕を組み、鼻で笑う。

その態度に男は舌打ちをする。


「ちっ。……じゃあ持ってきてもらおうじゃねーか！まずはそのふざけた仮面を取れ！！」

「ふんっ、いいだろう」


ナギは仮面を取り、投げ捨てる。

そして視線をまっすぐに男達に向けた。


「じゃあ持ってきてもらおうか？物によっては殺すぜ？」

「そ…そんな…！彼女は関係ありません！殺すなら僕を！！」

「いい、ハヤテ。黙って見ていろ」

「で…でも…！」

「大丈夫だ。私を信じろ」

「お嬢さま！」


ナギはキャリングケースをアテネから受け取り、男達に一人歩み寄っていく。

そして怖がる様子もなく、ナギは男と向かい合う。


「おいガキ。念のため教えてやるがアイツには一億五千万の借金がある。それを助けるってことはあいつを俺達から一億五千万で買うってことだぜ？分かってんだろうな」

「もちろんだ。だからこうして…持ってきたのではないか」


ナギはキャリングケースを男に差し出し、そのまま開ける。

そして中にぎっしりと詰まっていた札束達が雨のように落ちていく。

その光景をハヤテはおろか男達も目を丸くして見ていた。


「まさか…本物…？」

「当たり前だ。1億5680万4000円、ピッタリ入ってる。確認の必要はない」

「………………」


男は目を瞑り、ため息をつくと後ろに控えていた部下達に横目で言う。


「おい、出た金片付けろ。もうあいつは俺達の商品じゃねえ」

「えっ…いいんですかアニキ！」

「金がなきゃ商品だが、金があるならあいつももう客の一人だ。お前らは客に手を出すのか？」

「…………分かりました」


男は部下達が札束をキャリングケースにしまうのを待ち、それが終わるのを見届けると黙ってナギに背を向ける。


「ガキ。今度はあんたがあいつから金を返してもらうんだな」

「ふんっ。あれはハヤテの借金ではない。…別に要らないさ」

「……へっ、随分な金持ち野郎だよ。あんた」


男は鼻で笑いながらナギにそう言うと、止めてあったリムジンに乗り、港から出ていった。

ナギもハヤテもそれを見届け、ナギは黙ってハヤテの前に歩み寄った。


「あ…あの、お嬢さま…」

「ハヤテ。さっきは怒鳴って悪かった」

「えっ…」


さっきまでのナギは別人だったのではないかと思ってしまうくらいに、ナギは今にも泣き出しそうな顔でハヤテを見ていた。

そんなナギにハヤテは何も言えない。


「あれは全部私が悪かった…。謝るから…だからどうか、私の執事を続けてくれないか…？」

「………………」


その言葉にハヤテはフッと笑って立ち上がる。

そして不安げに自分を見上げるナギに静かに笑いかけた。


「もちろんです。改めて、よろしくお願いします。ナギお嬢さま」

「…………うんっ！」


ハヤテの言葉にナギは心底嬉しそうに笑った。

そんな光景を見守っていたアテネは二人に背を向けて、仮面を取りながら歩く。

そして遅れてやってきたマリアと向かい合う。


「お疲れさまでした、先に帰るんですか？」

「ええ。…しばらくは二人にしておいたほうがいいかと思って」


アテネはハヤテとナギの方へと顔を向ける。

マリアもそれを追うようにして見る。


「あの子なら…きっと大丈夫」

「何が…ですか？」

「あの子ならきっと…私に出来なかったことをしてあげれる。ハヤテを…幸せにしてくれる」

「……………」

「だから、私はそれを見守ることにした。それだけの話ですわ」


そう言い残し、アテネは去って行く。

マリアは横切るアテネを目で追う。

そして嬉しいような、悲しいような。そんな顔をしていたアテネを黙って見送った。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.15 )
日時： 2012/11/19 15:49
名前： masa

どうもmasaです。


ナギって魔女(マリアさん)に教えられるまでハヤテの状況を知らなかったとは。主として情けない。
魔女(マリアさん)の口撃も的確ですよね。完璧な正論尽くしで一切の反論を許さない。確かにナギがちゃんとしていればあんなことは起こらなかったのに。

アテネは相変わらずで。もうお昼位なのに今起きるとは。まあ、起きて早々面倒事に巻き込まれちゃいましたけど。


ってかアテネ達の変装って簡単すぎな気が。アテネはあの独特の縦ロールを崩さないと。そうじゃなきゃ顔を隠してもあんまり意味が無いような。
まあそれはナギにも言えますよね。髪型変えるだけでも雰囲気は変わるのに仮面だけとは。

ってか、やくざの皆さんを随分な物言いで。今の世の中人身売買は重罪なのにハヤテを物のように扱うとは。

で、原作同様ハヤテの借金はナギが肩代わりする事に。ナギを怒らせるイベントが発生しなくて良かったです。

アテネよ、あんなさびしそうな事言ってても内心じゃあ｢本当は私がハヤテを助けたかったのに。あの小娘が｣なんて思ってるんじゃないですか?

まあ何はともあれ、ハヤテが追い回される事が無くて良かったです。


次回も楽しみにしてますね。






あ、そうそう。今さらですけど、ナギ、gooランキングで男性が選ぶ好きなツインテールのキャラランキング第6位入賞おめでとうございます。



そう言えば、10年前のアテネのハヤテって確か2カ月位(ロイヤル・ガーデン内の時間で)一緒にいた中で約580回キスって、少なくても1日9回位キスしてたって事ですよね。さらに言うと、30分に1回。2人してイチャイチャしすぎでしょ。





では。


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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.16 )
日時： 2012/11/26 13:24
名前： ゆーじ


学校の授業が始まるまでの１時間のぼっちタイムを有効的に使ってやる…！！

というわけで溜まっているコメントのレス返しをまとめてやっちゃおー大作戦開始ーっ！！



前回分
　
■masaさんへ

＞｢また来たよ。作者代理の天王州瑞希じゃ｣


アテネ「はわっ！お祖母さま…！お待ちしていましたわ！！」



＞瑞希｢ふむ、やはりあったようじゃなお風呂イベント。我々の作者はアテネで発生すると思っていたようじゃが、原作通りじゃったようじゃな。
まあ、マリアちゃんの身近な男性はSPの人たちかクラウスさん、帝爺じゃったから、経験がないと焦るのは当然じゃな。
まあ、輸血したとはいえ、大量出血した後、また大量出血したのに生きとるとはさすがハヤテ君じゃな。


ナギ「初期のお色気担当はマリアだからな」

マリア「その担当は今でも変わってない気もしますが…」

ハヤテ「いやぁ、それほどでも…/////」

アテネ「褒めてないですわよ」



＞まあ、マリアちゃんが誤魔化したのは当然じゃな。自分にとっては黒歴史じゃろうから。
ナギちゃん、そんなことで拗ねてはいかんよ。人には向き不向きがあるんじゃ。一々怒っておったら、どんな関係でも壊れてしまうよ。


ナギ「ふーんだ！そんなこと知るか！！」

マリア「やれやれ…」



＞で、原作同様迷い、書斎でナギちゃんの漫画を見つけ絵日記呼ばわりか。まあ、人生経験が豊富な私でも分からんじゃろうから、仕方ないのお。
しかし、出て行けと言われて屋敷を出ていくとは。何もクビ宣言したわけではないのに。まあ、ハヤテ君らしいと言えば、それまでじゃが。


ナギ「まったく。誰もクビだとは言ってないだろうにハヤテのバーカ！！」

マリア「自分のことを棚に上げないの！」

ナギ「うぐっ…」



＞で、速攻で借金取りに見つかるとは。自分の運の無さを恨むしかないようじゃな。
捕まってしまったハヤテ君はどうなるのかな?そして、誤解を生んでしまったナギちゃんはどうするのかのお。楽しみじゃ。


アテネ「私の活躍…しかと目に焼き付けてくださいませ、お祖母さま！」

ナギ「おいこら」




＞おや?私の孫娘はどうしたんじゃ?まあ、寝とるじゃろうが｣


ナギ「まぁ寝てたな」

アテネ「はうっ！？」




今回分

■masaさんへ


＞どうもmasaです。
ナギって魔女(マリアさん)に教えられるまでハヤテの状況を知らなかったとは。主として情けない。
魔女(マリアさん)の口撃も的確ですよね。完璧な正論尽くしで一切の反論を許さない。確かにナギがちゃんとしていればあんなことは起こらなかったのに。


マリア「ぼろくそ言われてますが…何か反論は？」

ナギ「………ぐう…」



＞アテネは相変わらずで。もうお昼位なのに今起きるとは。まあ、起きて早々面倒事に巻き込まれちゃいましたけど。


ナギ「昼どころか夕方だよ。どんだけだよお前」

アテネ「うう…」



＞ってかアテネ達の変装って簡単すぎな気が。アテネはあの独特の縦ロールを崩さないと。そうじゃなきゃ顔を隠してもあんまり意味が無いような。
まあそれはナギにも言えますよね。髪型変えるだけでも雰囲気は変わるのに仮面だけとは。


ナギ「時間がなかったんだ。仕方ない」

アテネ「少し遅れてたらハヤテの頭に小さなトンネルができてたところでしたしね」

ハヤテ「嫌だなぁ、その例え…」



＞ってか、やくざの皆さんを随分な物言いで。今の世の中人身売買は重罪なのにハヤテを物のように扱うとは。

で、原作同様ハヤテの借金はナギが肩代わりする事に。ナギを怒らせるイベントが発生しなくて良かったです。
アテネよ、あんなさびしそうな事言ってても内心じゃあ｢本当は私がハヤテを助けたかったのに。あの小娘が｣なんて思ってるんじゃないですか?


ハヤテ「あ、そういえばあの変な仮面は結局なんだったんですか？」

ナギ「（ブチッ）」



＞まあ何はともあれ、ハヤテが追い回される事が無くて良かったです。
次回も楽しみにしてますね。


ハヤテ「いやぁ、本当ですよねー♪」




＞あ、そうそう。今さらですけど、ナギ、gooランキングで男性が選ぶ好きなツインテールのキャラランキング第6位入賞おめでとうございます。


ハヤテ「わぁ、おめでとうございます。お嬢さま♪」

ナギ「ふん、私が6位だなんて他の奴に投票したやつは愚かだな」



＞そう言えば、10年前のアテネのハヤテって確か2カ月位(ロイヤル・ガーデン内の時間で)一緒にいた中で約580回キスって、少なくても1日9回位キスしてたって事ですよね。さらに言うと、30分に1回。2人してイチャイチャしすぎでしょ。


ハヤテ「あ…あの頃はほら…やんちゃだったから…//////////」

アテネ「………//////////////」

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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（レス返し更新） ( No.17 )
日時： 2012/11/29 03:08
名前： ゆーじ


今週のハヤテ(新アニメ)がやばい展開にいいいいっ！！

というわけで本編更新です。

==================================================================



練馬区の殆どを占める大豪邸、三千院家。

その屋敷の主、三千院ナギの執事(仮)の綾崎ハヤテが両親による多額の借金をナギに代わりに支払ってもらった次の日の朝。


「はぁああ！？借金は働いて返すぅ！？」


そんなナギの声が屋敷に轟いた。

ナギの言葉にハヤテは至って真剣な表情で頷いた。


「お…おいおい本気か？だってあの金は元々お前の金じゃないんだろ？」

「確かに…1億5000万なんてお金を作ったのは僕ではなく両親です。でもあんな多額のお金を払ってもらって何もしないのは嫌なんです！」

「私はお前が執事として働いてくれるならそれでいいんだが…」

「僕はよくありません！執事として働いて、それでお嬢さまに返す、それじゃダメですか？」

「…はぁ…」


ナギはやれやれと言わんばかりにため息をついて、ソファーに腰を下ろす。


「もういい…。お前はなんかその辺だけは頑固そうだし、お前の好きにしてやる…勝手にしろ」

「ありがとうございますっ！」


ナギの言葉にハヤテは嬉しそうに笑って頷いた。


「嬉しがるところじゃないからな。これ」


ナギは再びやれやれと呆れたように首を降る。

次にマリアが気まずそうに控えめに手を挙げた。


「あ…あのー…ハヤテ君をナギの執事にするのは私としても助かるので反対することはないんですが…そのことに関して一番伝えるべき人に何も言ってないと言いますか…その一…」

「…？ 伝えるべき人って？」

「クラウスさんですよ。色々とありすぎてあの人に今ハヤテ君がいることすら伝えるのを忘れてて…。まぁ怪我人を運ぶとはイヴの日に電話したので、それがハヤテ君だと分かってくれるとは思いますが…」

「別に構いやしないだろ。決めるのは結局私なんだ。事後報告ならあいつも頷かざるえないだろ」

「………でもクラウスさんからしたら、見ず知らずの男がいきなり主の執事を務めると言い出しているという状況なんですよ？…そんなに上手く行きますかねぇ…」

「………………」


ナギはそこでようやく言葉をなくす。

マリアも困ったように俯き、ハヤテは蚊帳の外。

しばらく沈黙の時間は続いた。


「ま…まぁとりあえずマリアは今すぐにでも電話で伝えろ！あいつも出張かなんかでまだ帰らないんだろ？それまでにハヤテはここの仕事に慣れてクラウスに出来る奴だということを証明すればいい、それで平気だ！」

「だ…大丈夫ですかねぇ…」

「もしものことがあれば私が言うさ。ハヤテもそれでいいな？」

「え…えっと、話がよく分からなかったんですが…」

「大丈夫。お前が気にすることはない」

「はぁ…」


浮かない表情のハヤテ、マリアを余所にナギは笑って両手を叩く。


「うむ！この話はこれで終わり！！…じゃあ私はゲームでもしようかな」


ナギは椅子から立ち上がり、部屋の扉のドアノブを掴み、引く。

そして扉を開けた瞬間に、ナギを待ち受けていたかのように座っていた『獣』にハヤテはギョッとした。

誰がどう見ても虎。しかも毛並みが白いところから見ると、俗に言うホワイトタイガー。

それがなぜ、この屋敷にうろついている…！？


「ん？おお！お前か！！そういえばコイツのことを紹介してなかったな。…なぁハヤテ？」


ナギはホワイトタイガーの隣で膝をつき、その頭を撫でながらハヤテの方へと顔を向ける。

ちなみにハヤテはホワイトタイガーが腰を下ろしている正反対側の一番遠い位置の壁に背中を押し当てている。


「………って、なんだお前。なんでそんな一番遠いところにいるのだ？」

「あ…いや、あの…」

「そういえばご飯がまだだったな。よし、何が食べたい？『タマ』」


名前が色々とおかしいよ！！その図体で猫扱いか！？

ハヤテは心の底からそう叫んだ。


「んー？」


ナギはタマと呼ばれるホワイトタイガーに顔を寄せる。

ああ、そんな自ら朝ご飯になるような行為を…。

ハヤテはもはや血の気もないほど青ざめた顔で、その光景を見る。

見かねたマリアは、ハヤテに近寄り安心させるように笑いかけながら言う。


「大丈夫ですよ、ハヤテ君。確かに見た目は凶暴なホワイトタイガーですが…あれはナギのペット。あの子を襲うことはしませんよ」

「ぺぺ…ペット！？あれがですか！？」

「はい。何をどう間違えたのかは知りませんが…ナギの中であの子は猫。ホワイトタイガー猫という種類の動物にカテゴライズされてるんです」

「た…だから、名前がタマなんですか…？」

「まぁ、そういうことですね」


ナギはタマから顔を離すと、ハヤテを手招きする。


「おいハヤテー！お前もタマと仲良くなるのだー！！」

「え…あの…」

「大丈夫。少なくともナギのいる前で何かする事はありませんよ」

「……………」


マリアの言葉を信じ、ハヤテは恐る恐るタマに近寄る。

そしてタマの前に立って、膝を付ける。


「や…やぁ、タマ。今日からよろしく――」


ハヤテは出来る限り笑ってタマに手を出す。

そして、

――ガブッ。

タマはハヤテの手に噛み付いた。


「………………」

「タマの甘噛みはちょっと気持ちいいんだよなぁ。これでハヤテもタマと仲良しだな！！」

「ずいぶん赤い何かが滴る甘噛みですね…」


ハヤテは苦笑いのまま、素早くタマの口から手を抜いて背中に回した。

きっとナギに対しては本当に甘噛みしているんだろう。

こんな笑顔で話すナギに『思いきり噛まれてるんですが』なんて言うわけにはいかない。

後ろにいるマリアの呆れたような目が背中に痛いのはもうどうしようもない…。


「そうだな。マリアが朝食の準備をしてる間に、ハヤテ！お前はタマと外で遊べ」

「は！？」

「早い内に仲良くなったほうがクラウスの印象もいいだろう。あいつはタマに懐かれてないからな」

「(ええええええ！？)」


これは昨晩以上に死の危機だ。

だってこいつ、目光ってるもの！

獲物を見る目で見てるもの！！


「いや…あの、僕マリアさんのお手伝いを…」

「ガルァ！！」


タマはハヤテの執事服の襟に噛み付き、ハヤテは猟師に捕まった野うさぎのように吊るされる。


「えっ」


そしてタマはハヤテを吊るしながら、部屋を駆け、窓ガラスを突き破り庭に出た。


「ちょおおおっ！？」


タマは宙に浮いた状態で首を振り、ハヤテを振り落とす。

ハヤテは『くっ！』と声をあげ、地面に両手で着地し、バク転しながら改めて両足で着地し、タマと向かい合う。


「おお！タマもハヤテもノリがいいな！」

「ノリで窓ガラス割られたんじゃ洒落にならないんですけどね…。もう…とりあえず救急箱取ってきますね」


割れた窓際からハヤテとタマを見下ろすナギにため息をついて、マリアは部屋を出た。

そしてハヤテとタマはお互いに睨み合う。


「猫扱いされてるだかなんだか知らないけど、あんまり調子に乗るなよ…」

「……………」

「こう見えてもこっちだってお前みたいなのがわんさか居るサファリパークに侵入して餌の肉を強奪したことだってあるんだからなぁ！！」


ハヤテはタマを指差しながら叫ぶ。

苦笑いを浮かべているナギの一方で、タマの眉間の皺は徐々に増えていく。

そして同時に土を蹴って、走り出す。


一人と一匹のゴングが今、頭の中で鳴り響いた。



○ ○



タマがハヤテの手を噛み付いたところをガッチリと目撃したマリアは、現在進行形で傷が増えているであろうハヤテのためにと予め救急箱を用意して、ナギがいて窓ガラスが無残に割れて冷たい風が吹く部屋へと戻る。

戻るなりハヤテの降参を乞うている声とタマの声と物音がマリアを迎え、マリアはため息をつく。


「おお、マリア。おかえり」

「どうしてあなたは止めるという行為をしないんですか？」

「何を言ってるのだ。二人じゃれ合ってるのに邪魔する理由はないだろう」

「………あなたが何を言ってるんですか。よく見なさい？あれがじゃれてるように見えますか？」


マリアはもはやボロボロになりながらタマの下敷きになり、食べられつつある所をかろうじてタマの顔を押さえて抵抗しているハヤテを指差す。


『ちょ…！タマ！！ギブだって！！さっきはああ言ったけど、サファリパークでは逃げてるばっかで虎となんか戦うのなんて初めてだよーっ！！』

「あんな怪我が増えるじゃれ合い聞いたことありませんよ？」

「うっ…」

「それに………あなたにもう一つ教えてあげるべきことがあります」

「え？なんだ？」


きょとんとした表情で見上げるナギに、マリアは無表情かつ冷たい視線で見下ろした。


「あの子達がいる場所…私が育てたシクラメンの花畑なんですよね」

「…………あ」

「綺麗に咲いてたんですけどね」


マリアは静かに視線をタマとハヤテの争いで無残に散ったシクラメンの花畑だった場所に戻す。

その表情は前髪の影で見えない。

ナギはそんなマリアに震えながら話しかける。


「あ…あの…マリア…その…」

「言い訳するくらいなら……下の二人を止めなさい！！」

「ハヤテ！タマ！ストップだ！ストップーーーっ！！」


ナギの涙目ながらの叫びは三千院家に響き渡り、じゃれ合いと言う名の喧嘩はすぐに終わりを迎えた。

その後、割れた窓ガラスの片付けをナギに任せマリアはハヤテの治療に向かった。


「まったくもう…イヴの日の怪我もまだ直ってないのにまた怪我を増やしてどうするんですか？」

「うう…すいません…」

「まぁ今回に関しては私の責任でもありますし…あんまり人のこと言えないんですけどね」


ハヤテは視界の傍らで丸くなって寝ているタマに目を向けながら尋ねる。


「そういえばどうして虎なんかがこんなところにいるんですか？」

「まぁ…ごもっともな話ですよね。…拾ってきた子なんですよ、この子は。親から逸れて死にかけてた所をナギが」

「……………」

「それからはさっきも言ったようにどこで間違えたのか猫にカテゴライズされたこの子は、魚は大トロで肉は最高級肉、週に何度かはマッサージがあったりと人間顔負けの贅沢を覚えてしまっていて、野生に返すどころか動物園に預けるのも心配で…今に至ります」

「…………動物に生活面で負けたのは初めてですよ」

「あはは…。でもタマも分かってますから、ナギを襲うことは絶対にしませんよ。あの日、ナギに出会わなかったら自分がどうなっていたかをね」

「……！」


マリアは救急箱を閉じて、立ちあがる。


「まぁタマも初めて見るハヤテ君にびっくりして噛み付いたんだと思いますし、ナギも襲われたことがないからあんな無茶ぶりをしてしまったんでしょうし…怒らないであげて下さいね」

「それは…もちろんですけど…」

「ふふっ。じゃあ私はナギの様子を見てから朝食の準備をしますから、ハヤテ君も少し休んだら手伝って下さいね」

「は…はいっ！」

「じゃあ、お先に失礼しまね」


救急箱を持って屋敷の玄関へと歩いて行くマリアをハヤテはその姿が見えなくなるまで見ていた。

残されたハヤテは一人、マリアの言葉を過ぎらせる。


「……あの日、お嬢さまに出会わなかったら自分がどうなっていたか、か…。同じなんだな」

「はぁ？お前なんかと一緒にするんじゃねえよボケが」

「……え？」


今の声はどこから聞こえたものだろうか。

知る限りで男の人はこの屋敷では会ってないけど――

ハヤテは声の方向に振り向いた。

そして二足歩行で人間のように立って、こちらを睨んでいるタマと目があった。


「……………」

「ったくよぉ。もう少しでお前を食い殺してやったってのによぉ」

「……………」

「おいテメェ。さっきは調子に乗るなとか言ってたけど、こっちからしたら新入りの分際で調子に乗んなって話だぜぇ？あんま図に乗ってると殺すからなマジで。その粗末な脳みそに記憶しとけよ、貧乏野郎」


タマはそう吐き捨てると、二足歩行のまま去って行った。

残されたハヤテが目を点にして固まっていると、入れ違いでアテネが歩み寄る。


「ハヤテ？何をしているの、こんなところで」

「…………驚いたよアーたん…。お金持ちのペットって喋るんだね…」


真剣な表情で言うハヤテに、アテネは冷めた目でハヤテを見下ろす。


「……………何を言い出すの？あなたは。そんなことあるわけないでしょう？疲れているの？」

「ええ！？違うよ！あの虎！アイツがさっき二足歩行で歩いてしかも喋ったんだよ！！」


ハヤテはタマの後ろ姿を指差しながら言う。

元からそうして歩いていたように、四足歩行で歩いているタマの後ろ姿を。


「って、いつの間にか普通に歩いてる！？」

「……ハヤテ……。あなた、今日はもう休んだら？」

「違うんだよ！そんな可哀想な人を見る目で見ないでよぉ！！」


ハヤテの涙目ながらの叫びは三千院家に響き渡った。

そしてハヤテの言うことを信じる人間は誰もいなかった。






○ ○





屋敷から離れた林の中。

一際高い木の枝の上に立って、双眼鏡で覗く少女が一人いた。

背中には布で包んである太くて長い棒のようなものを担いでいる少女が双眼鏡で見ているものは、三千院家の屋敷の光景と、アテネの姿。

少女は双眼鏡を顔から離すと、双眼鏡を持つ力を強める。


「やっと見つけた…天王州アテネ…！！」


少女は憎たらしそうにそう呟くと、ギシギシと軋んでいた双眼鏡がピシッとひび割れた。


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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.18 )
日時： 2012/11/29 04:05
名前： masa

どうもmasaです。


やっぱハヤテは真面目ですね。自分とは一切関係ない借金を律義に返すとは。
で、やっぱりクラウスさんの扱いは酷い様で。まあ、そう言うキャラだから仕方ないのかな?

早々とタマ登場。まあ原作の今は何だかんだで仲好くなってますけど、やっぱり最初の険悪な関係なようで。ってか、今にして思えば、原作など全てを含めて一番の駄目キャラクラスの1人?じゃないですか、タマって。
まあ、そのダメダメな原因を作ったのはナギですけど。

ってかタマもハヤテと一緒でしょ?いや、さんざん駄目な事を吸収したからハヤテ以下か。つまりはハヤテを馬鹿にする権利は一切無しと。

まあ、今回の一件で一番の被害者は魔女・・・マリアさんですね。
窓は壊されるし、大切に育ててきた花はめちゃくちゃにされるし、ほんと哀れです。

まあ、いきなり動物が話せるだなんて言われても信じる人はいませんよね。本来ならそう言うのはお伽噺とかの世界の話ですから。
あ、でも、タマの言語能力は伊澄のおかげなんですよね。


で、最後に登場した少女はやっぱり、銃火器の達人のあの人ですよね?
あの人絡みの話がどうなるか楽しみです。



次回も楽しみにしてますね。

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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.19 )
日時： 2012/12/02 16:07
名前： 道草

どぅも★道草です！

最近は原作もアニメも急展開で目が離せませんね！
あれからアニメ第一話にどう繋がるのだろう……

それはともかく感想をば。


無事(？)にナギの執事(仮)となったハヤテ(笑)。
本来自分の借金でないのにわざわざ返そうとするハヤテは、やはり律儀というか義理堅いですよね。
まぁそこが彼のいいところですが。


ホワイトタイガーネコことタマとの対決では、まだハヤテは勝てなかったですね。
一方、このころから三千院家におけるマリアの地位は少しも揺らいでいませんが……
タマの衝撃の真実を知るも、アテネに可哀そうな人物とカテゴライズされたハヤテ……ドンマイ♪


そして最後は……待ってました！！
遂に『あの人』の登場か！？
また彼女の活躍が見れると思うと楽しみです♪


ではまた！
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.20 )
日時： 2012/12/09 08:35
名前： ゆーじ

新アニメのやさぐれハヤテ君が好きすぎてどうしよう。

というわけで、前までのこの作品をご覧になって頂いた方からすると、あの方登場です！


==================================================

人語を話すホワイトタイガー、タマとの衝撃的な出会いを果たした翌日。

ハヤテは三千院家の玄関ロビーを掃除していた。

その傍らで丸くなっていたタマは大きなあくびをすると、休日のオヤジのようにあぐらをかきながら座る。


「それにしても平和だねぇ…。こんだけ平和だと逆に不安になるってもんだ」

「…………」


ハヤテは掃除をする手を止め、ジト目で振り向く。


「当たり前のように喋るなよ…虎のくせに」

「ああん？虎だから喋っちゃいけねぇってのかぁ？」

「いや、虎は普通喋らないし。大体なんでさっきから僕に付きまとってるんだよ」

「そんなの決まってんだろ？お前を食い殺すタイミングを伺ってんのさ。野生の常識だぜ？」

「お前に常識を語られる野生の動物達に同情するよ」

「んだとテメェこらぁ！！俺っちのどこが野生じゃねえってんだ！！」

「野生の動物は大トロも最高級肉もマッサージも食べないしされないんだよっ！！」


ハヤテとタマは互いに睨み合い、言い合う。

やがてタマからプイッとそっぽ向き、また丸くなる。


「けっ。お前なんてさっさとクビになっちまえ、借金執事が」

「まったく…」


ハヤテもまた口をへの字にしてそっぽ向き、掃除を再開する。

そして同時に玄関の重い扉が開いた。


「えっ？」


ハヤテは目を丸くして前を見た。

今日はマリアもナギも屋敷内にいる。入ってくる人間に覚えがなかった。

徐々に開いていく扉の隙間から長身で執事服姿の年長の男性が屋敷に足を踏み入れる。

やがて、男性とハヤテの目が合った。

男性はハヤテと視線が合うなりしきりに眉間に皺を寄せた。


「………少年。貴様、この三千院家の玄関で堂々と何をしているのかね？」

「え？えっと…掃除、ですけど」

「掃除。……持つものが違うのではないかね？ お嬢さまを掃除する道具はその箒に仕込まれているのか？」

「ええ！？いやいや！そんなどうして僕がお嬢さまを掃除しなくちゃいけないんですか！！」

「貴様がお嬢さまの名を軽々しく口にするな！！………問答無用だ、お嬢さまの前に突き出してやる！！」


男性は早足でハヤテに近づくと、ハヤテの腕をおもいきり掴む。

その力はかなり強く、振りほどけそうな気配はない。


「来い！この不審者が！！」

「ちょ…！話を聞いてくださいよっ！！」

「うるさい黙れ！！」


男性に手を引かれながら、ハヤテはナギがいる部屋へと連れて行かれる。

男性は扉を開け、その音にナギとマリアは同時に振り向く。


「おお、クラウスか。おかえり」

「おかえりなさい、クラウスさん」

「このクラウス。ただいま戻りました、お嬢さま」


クラウスと呼ばれる男性は、ナギに向けて礼儀正しく頭を下げる。

そして頭を上げるなり、ハヤテの手をおもいきり引っ張り、自分の前に突き出した。


「ところでお嬢さま。この不審者、堂々と屋敷内で掃除をしていたとかぬかしていましたが、どうしたらよろしいですかな？」


クラウスの問いかけにナギとマリアはお互いに顔を見合わせて、苦笑いで答える。


「どうしていいかって…マリアの電話のこと忘れたのか？そいつが私の新しい執事の綾崎ハヤテだよ。イヴの日に怪我人として引き取ってそれから執事として雇ったんだ」

「なんと！こんな貧乏臭い顔の男がお嬢さまの執事！？」

「はうっ！？」


クラウスの言葉にハヤテは大きな槍にでも貫かれたかのごとく胸を押さえる。


「いけません！いけませんぞお嬢さま！！こんなどこの馬の骨とも知らない貧乏そうで不幸そうな男が執事だなんて！！」

「うるさいなぁ！ハヤテには誘拐された所を命がけで助けてもらったんだ。礼をするのは当たり前じゃないか！！」

「だからと言ってもっといい人選があったでしょうに！！こんな金に縁が無さそうな男じゃなくたって…！！」

「いいではないか！そこが愛らしくて！！」

「愛らしさを求めるならハムスターでもお飼いになられて下さい！！」

「ハムスターなんか小さすぎる！ハヤテのがよっぽど可愛いね！！」

「一体なんの話をしているんですか…」


マリアの呆れながらの突っ込みに、言い争いは一旦止まる。

それを見届けたマリアは次にハヤテの方へと振り向く。

そして部屋の隅で体育座りをして蹲っているハヤテに苦笑いを浮かべる。


「あ…あの、ハヤテ君。二人とも悪気はないので…ね？」

「僕なんて…どうせ僕なんて…」

「はぁ…。少しは言葉を選んでくださいよ、二人とも…」


マリアはナギとクラウスに向き直り、言う。

ナギは反省しているのか表情が少し曇っているが、クラウスは相も変わらず納得していない顔で睨んでいる。

そしてクラウスは人差し指でメガネを押し上げる。


「まぁ、イヴの日から今日までナギお嬢さまとマリアの他に居候がいたことだけは認めましょう。あの男だけなのですかな？」

「いや。あともう一人、女がいる。天王州アテネっていう奴だ。…多分寝てる」

「…………マリア。申し訳ないが起こしてきてもらえるかね？」

「…分かりました」


クラウスの命令でマリアが部屋を出てから数十分後。

ようやく半分寝ぼけた顔をしているアテネを連れて来た。


「………おはようございますわ…」

「だからお前…もう昼過ぎだってば」

「昼間に起きれればマシな方ですわ。…ところでハヤテは何をそんなに丸くなっているの？」

「触れないであげて下さい、天王州さん」


首を傾げるアテネにそっと背中を押してハヤテから少し遠ざけるマリアに、アテネは更に首を傾げる。

そしてクラウスはアテネを見るなり再び人差し指でメガネを押し上げる。


「…………ではこの二人がイヴにお嬢さまが拾ってきた居候だと？」

「………まぁ、拾われたのは事実ですわね。天王州アテネと申します、よろしくお願いしますわ」

「蔵臼征史郎だ。よろしくお願いしますぞ」


アテネとクラウスは至って普通に挨拶を交わす。

そしてクラウスは次にハヤテに視線を向ける。


「それで、なんの自己紹介もしないつもりなのかね？少年」

「え…？あっ」


ハヤテは慌てて立ち上がり、クラウスに向かい合う。


「ナギお嬢さまの新しい執事を務めさせて頂いている綾崎ハヤ――」

「気安くお嬢さまの執事を名乗るな若造が！！」

「ええ！？なんか僕だけ態度ちがくないですか！？」

「ふんっ。貴様が執事だと誰がいつ認めた。ここに住んでいることだけを認めたのだ馬鹿者が」

「ええー…」


そんな二人の会話にマリアは苦笑い、ナギは不愉快そうに腰に手を当てながら言う。


「いい年齢のオッサンが何を子供みたいなこと言っているのだ！！私がハヤテがいいと言ったならそれでいいではないか！」

「いいえ、これだけは認めることはできません！！この男、どう見てもただの庶民ではないですか！」

「だからどうした！庶民が執事じゃいけない決まりでもあるのか！」

「あるに決まっているでしょう！執事はお嬢さまを導き守る高貴な存在です。こんな経験のけの字もなさそうな一庶民には務まりません！！」


クラウスの言葉にアテネは顎に手をつけて何かを考えるように黙ると、ハヤテの方へと顔を向けた。


「ハヤテ。あなた10年前に私の執事をした頃はなかなか手際良かったですわよね？」

「え？そ、そう？」

「ええ。飲み込みも早くて」

「そうですね～。一昨日に掃除を頼んだ時も完璧でしたしねぇ。料理も美味しかったですし。そういえば今日はナギを起こすのを頼みましたが…ずいぶん早い目覚めでしたよね？」

「ん？…あぁ。今日はなんかすぐに目が覚めてな。ハヤテが起こしてくれたからかな？」


アテネ、マリア、ナギの視線は一斉にハヤテに向く。

そしてしばらく見つめ続け、ハヤテが『え、あのー…』と戸惑い出した頃に三人は次にクラウスを見る。

再びしばらく見つめ続け、ナギは両手を叩いた。


「うん。ハヤテは私の新しい執事だ。決定」

「まぁ妥当ですね」

「むしろそうじゃない理由がわかりませんわね」

「そうだよな。よし、じゃあ解散！」

「なわけありません！勝手に話を進めないで下さいお嬢さま！！」


クラウスの突っ込みにナギはうんざりした顔でクラウスに向き直る。


「なんだようるさいなぁ。ハヤテを追い出す要素がひとつもない。諦めろよ」

「そんなの口から出任せです！！前もって脅してそう言うように仕向けただけかもしれませんぞ！！」

「お前の中のハヤテはどんだけ嫌な奴なんだよ…」


是が非でも認めないクラウスと、若干面倒くさがってきているナギ。

話が進まない二人を見かねて、マリアは溜息をつきながら提案する。


「なら実際に試してみればいいのではないですか？」

「試す？」

「ええ、ハヤテ君の実力が本物かどうかを試せばいいんですよ。いわば実力適性試験…ってところですかね？」

「………なるほど、それは名案だな」

「それって家事とかをやればいいってことですか？」


ハヤテの問いかけにマリアは『そうですね～』と、考えるように顎に手をつけながら目を上にやる。


「家事だけではクラウスさんは認めないでしょうから、まぁ空中からパラシュートなしで生きて降りるくらいのことをしないと…」

「え″…？」

「そうですな。執事たるもの煮えたぎるコールタールのプールに入るくらいのことはしてもらわないといけませんな」

「いやいやいや…」

「そうね。ハヤテならきっと腹を好かせた肉食獣相手でも生きて帰れそうですわね」

「無理だよ！食われるよ！！」

「よーし！その勝負乗ったぞクラウス！！」

「僕の意見は！？」


ハヤテの突っ込みも虚しく、話は勝手に決定の道を辿った。

ナギの了承にクラウスは人差し指でメガネを押し上げる。


「分かりました。では今から準備をして参ります」

「うむ！槍の雨でもなんでも持ってこい！！」

「いや…！だから僕の話を少しは聞いて…！！」


クラウスはハヤテに目もくれず部屋を出ていく。

無慈悲に固く閉まった扉に手を伸ばしていたハヤテは諦めたように下ろした。


「ま、そいういわけだから頑張れよハヤテ！」

「無理ですよ！大体、本人差し置いて勝手に話進めないで下さいよ！！」

「そう怒るなよ。大丈夫、私はお前を信じてる、お前は私の執事に相応しい男なんだから」

「……………」


笑顔で言い切るナギにハヤテは何も言えない。

そしてアテネもまた驚いたように目を丸くした。


「あの子…随分ハヤテを信用しているのね。まだ出会って一週間も経ってないのに」

「そうですね、私も驚いてます。…でも、ハヤテ君を信じきれるのは分かる気がします。…私も会って間もないあの子を信じちゃいましたしね」

「……………」

「人見知りのあの子があそこまで他人に心を開くことはそうありません。あんなに楽しそうに笑うのも久々ですしね…。相当嬉しかったんでしょうかね、ハヤテ君に出会えて、そして助けてもらえたことが」

「…………。そう」


マリアの言葉にアテネは静かに目を細めた。

そして数時間後。試験の準備が出来たとの知らせと共に、クラウスはハヤテ、ナギ、マリア、アテネを連れて部屋へと案内する。


「では少年。これがお前の適性試験の相手だ！！」


クラウスは扉を開け放つ。

ハヤテは緊張気味に息を呑み、自分を待つ相手をその眼に映す。

オレンジ色の円柱から生えた手足と、天辺についたアンテナのようなもの。そしていかにも安いロボットアニメの脇役にでも居そうな顔。そんな物体が電子音をやたらと鳴らしながら佇んでいた。


「………。えーっと、あの…カゲウスさん…でしたっけ？」

「クラウスだ！勝手に影薄そうな名前をつけるな！！」

「すっ…すいません！」

「まったく…。それで何かね、少年」

「い…いや、あの…あれ、なんですか？」


ハヤテは自分たちの目の前に立つ物体を指差す。

その問いかけにクラウスは鼻で笑ってから人差し指でメガネを押し上げる。


「見てのとおりだ。あれこそ人類が生み出した新たな可能性。…介護ロボのエイトだ！！」

「は…はぁ、介護ロボ…ですか…」

『ヨロシクオネガイシマス、アヤサキハヤテサマ』

「あっ、こ…こちらこそ…」


ハヤテはエイトに頭を下げる。

そしてその隣をナギが横切り、エイトの前に立つ。

ナギはエイトの顔をジッと凝視する。その眼はどこか不満そうに。


「お嬢さま？」

「……介護ロボねぇ…。人型ロボットが増えてるってのに…こんなワンパターンな奴がねぇ…」


ナギの中のロボットとエイトは全然違っていたらしく、ナギはとことん不満そうな表情でエイトを見る。


「で、ですがお嬢さま。そこのロボはある意味では人間以上に見た目以上の働きをするというか…」

「はぁ？こんなブサイクがハヤテに勝つって？ないない！あり得ないってそれだけは！」

『！？』

「大体こんなのに介護されたら逆に死にたくなるって！クラウスのことだからどうなるかと思ったけど大した事ないじゃん。ハヤテ、ボッコボコにしてやれ♪」


ナギは笑顔でハヤテに向けて親指を立てる。

そんなナギに苦笑いを浮かべたのも束の間。背後で拳を振り上げるエイトにハヤテは即座に駆け出した。


「お嬢さま！！」

「え…？」


ナギはそこでようやく後ろを振り向く。


『黙ってれば好き放題言いやがって…いい加減にしろーーっ！！』

「…っ！」


エイトが拳を振り下ろしたのと、ハヤテがナギを抱いて避けたのは同時の出来事だった。


『ちっ…外したか』

「お嬢さま！お怪我は！？」

「だ…大丈夫…ありがとうハヤテ」


顔を赤くしながら答えるナギにハヤテは安堵の息を漏らす。

そしてエイトを睨みつけながら、ナギを自分の後ろにやる。


「カゲウスさん。お嬢さまを攻撃しようとした自称介護ロボのこいつ相手に結局僕はどうすればいいんですか？」

「だからクラウスだと…！」

「まぁ今の状況的にハヤテ君に反抗できる権利はありませんよねぇ、クラウスさん」

「うっ…」

「見たところ暴走しそうな勢いですが、そういう時の対策はあるんですよね？」

「えっと…確かにコマンドを○○↑↓→……」

「ハヤテくーん、ぶっ壊せば合格だそうですよー♪」

「ちょ…！マリア！！」


やっぱりそうなるとは思ってたよ…。

ハヤテはそんなことを内心で呟きながら溜息をつく。


「とりあえずお嬢さまは危ないのでマリアさんの所に居てください」

「う…うんっ」


ナギがマリア達のところに戻っていくのを見届けてから、ハヤテは改めてエイトと対峙する。


『貧乏野郎の分際で俺に勝てると思うなよ…！』

「ふっ、介護ロボが一体どう戦うって――」


ハヤテの言葉の最中にエイトは体を開けて、銃弾を乱射した。


「ええええ！？」


ハヤテは慌てて部屋を走って弾を避ける。

壁に穴は開き、窓ガラスは割れ、絨毯は火薬まみれになっていく部屋をマリアとアテネ、ナギは無表情で見守り、クラウスは大汗をかきながら見届ける。


「随分とまぁ介護とは程遠いロボットですわね」

「そうですねー」

「程遠いどころか別物だろ、あれ」

「その辺どうなんですか？クラウスさん」

「そ…それは…その…あの武器で日本の人口の年齢層を均等に…」

「それもう介護じゃないだろ」


と、クラウスが集中攻撃されてる中、逃げ回るハヤテにエイトは余裕そうに笑う。


『逃げ回れ、逃げ回れ貧乏野郎！くくくっ！！』

「くそっ…こいつ…！！いい加減にしろーーっ！！」


ハヤテはエイトに向かって走り、眼前で飛躍するとシュートするかのように思いきりエイトを蹴り飛ばす。

蹴り飛ばされたエイトは窓ガラスを破り、庭に落ちていく。


「くっ…！ こんな事で勝ったと思うなぁ！！」


しかしエイトは手を出すと、その手首の部分を伸ばし室内にいたアテネを掴む。

そしてアテネを掴んだまま引っ張る。


「ひゃああっ！！」

「アーたん！！」


一緒に庭に引きづられて行くアテネを追って、ハヤテは窓から飛び降りる。

そして再びエイトと対峙した頃にはエイトは余裕の笑みを浮かべながらアテネをハヤテに見せつけた。


『これ以上動いたらこの女がどうなっても知らないぞ？くくくっ！！』

「ハヤテ…！！」

「アーたん！…くそっ…！」


アテネを人質に取られている以上、下手には動けない。

そう思った刹那、背中に布に覆われた長細いものを背負った少女が一人、ハヤテとエイトの間に舞い降りた。


『なっ…！』

「えっ…」


少女は素早く刃が長いナイフを数本取り出すと、エイトのアテネを掴む手首に向けて投げる。

ナイフはエイトの固い手首部分をいとも簡単に切り刻み、アテネは倒れかかる。


「あっ…！」


しかし少女が空かさずアテネの服の襟部分を掴み、自分の後ろに引っ張る。

そして背中に背負った布に覆われたものを前に向け、その布を取り、姿を表したRPGの銃口をエイトに向けた。


「あれは…！」


少女の行動にいち早く気づいたハヤテは後ろから遅れてやって来たナギ達に振り向く。


「皆さん伏せて！！」


ハヤテはそう叫んでから一目散にナギに駆け寄り、守るように抱き寄せた。それと少女がトリガーを引いたのは同時だった。

発射されたロケットは真っ直ぐエイトに行き、その後大きな音と爆風をたてながら爆発した。

エイトの破片と一緒にくる爆風が止むと、ハヤテもナギもゆっくりと目を開ける。


「お嬢さま。破片とか当たりませんでしたか？」

「う…うん、私は大丈夫だ。お前こそ大丈夫か？」


ナギの問いかけにハヤテはニッコリと笑う。


「大丈夫ですよ。お嬢さまに怪我がなくてよかった」

「………うん」


そんなハヤテにナギも照れたように笑う。

そしてマリアとクラウスはそんな二人を見ると、マリアはクラウスに笑いかける。


「ハヤテ君の瞬時な判断がなかったら今頃私達切り傷だらけだったかもしれませんね、クラウスさん」

「………………」


クラウスは気まずそうにメガネを押し上げると、立ち上がる。


「まぁ次の執事が決まるまではお嬢さまの執事を名乗ることを許してやろう」

「もぉ。…あ、部屋の修理とあれの後片付けはクラウスさんの実費でお願いしますね」

「え！？」

「消防車も早急に呼ばないと…お願いしますね、クラウスさん」

「う…うぅ…」


クラウスは渋々といった様子で電話をかける。

そしてマリアは大きく燃え上がる炎を見据えるハヤテとナギに歩み寄る。


「あいつ…アテネを助けた、んだよな？」

「ええ…。トリガーを引く前に彼女を自分の後ろにやりました。…きっと、そうだと思います」

「じゃあ、あの方は天王州さんの…お知り合いなんでしょうか？」


ハヤテ達が話し合っていると、しばらく炎をじっと見ていた少女はアテネに振り返る。

そしてアテネもまた目を丸くして少女を見上げた。


「あ…あなた…。………な………奈、緒…？」


奈緒と呼ばれた少女は、ただただ静かにアテネを見下ろした。

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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.21 )
日時： 2012/12/09 10:46
名前： masa

どうもmasaです。

ついに登場ですか。カゲ・・・クラウスさん。ってか冷たすぎでしょ。いきなり話も聞かずに連行とは。訴えたら誘拐未遂とかで裁かれそうですよね。

しかし、クラウスさんも随分ないい様ですよね。確かにハヤテは不幸ですけど、執事としては優秀なのに。
で、やっぱり寝てたアテネ。確かひどい時は夕方までボーとするって言ってましたからね。
ってかクラウスさんは言ってたこと全部できるんでしょうか?まあ無理でしょうね。

で、エイト登場っすか。まあ、あの風貌じゃナギがあれだけ罵倒するもの当然すよね。今じゃ超リアルな人型ロボットがあるのに、あれじゃあねえ。
ってかあのレベルの罵倒できれてたら介護は務まらないでしょ。口煩いご老人もいるのに。

魔女・・・マリアさんも流石。話も聞かずに壊せとは。
ってか銃火器搭載って。銃刀法違反でしょ。
で、アテネを人質って、益々介護ロボットじゃないでしょ。これじゃ犯罪ロボットですよ。
で、ピンチと思いきや助っ人登場。そのおかげで難を逃れましたか。

まあ、修繕費は魔女・・・マリアさんの言う通りクラウスさん持ちなのは当然ですよね。


ようやく登場した奈緒さんがどう物語に絡んでいくか楽しみにしてますね。




では。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.22 )
日時： 2012/12/09 18:40
名前： 道草

どぅも★道草です！

いや～、やさぐれハヤテ君一体どうなるんでしょうね？
個人的にはナギの号泣シーンも好きですが。

それはともかく感想をば。


クラウ……じゃなかった、カゲウスさん。完全にハヤテのこと信用してませんね。
まぁ彼の出番もそのうち激減するでしょうし、それまでハヤテ頑張って耐えてください★


一方で、他の人達からの信頼は絶大でしたね。
なんだか微笑ましかったです♪


なんだかんだでエイトと対決。
アテネを人質にとるとは……許せん。ハヤテ、スクラップにしてしまえ！！


……と思ったら、あの方が見事に実現してくれました！！！
待ってました、奈緒さん！！
ピンチに颯爽と現れる姿がカッコよかったです！！
次回もホント楽しみです♪


ではまた！
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.23 )
日時： 2012/12/25 17:13
名前： ゆーじ

アニメ最終回マジやべえええええ！！

ネットじゃ荒れ放題ですが私の中では劇場版も超えましたよ！

素晴らしい！シンさまイケメン！ハヤテもイケメン！シドウもイケメン！

イケメンパラダイスはここだったんだよ！

来年のアニメも楽しみです☆

というわけで今年最後の更新レッツゴー！

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少女の細く、長い髪は燃え盛る炎に揺れる。

アテネは信じられないものを見る目で少女を見上げ、そして名を呼ぶ。


「奈緒…あなた、どうして…」


奈緒(なお)。

そう呼ばれた少女は、静かにアテネに体を向けて歩み寄る。

そして、


「『どうして』じゃねえだろ、この金髪ドリルがぁ！！」

「ひゃうっ！？」


おもいきり叩いた。

その突っ込みと叩く威力には積年の恨みのようなものが見えた。

涙目で頭を擦るアテネに、少女は指を指す。


「やーーーっと見つけたんだからねぇ！？イヴの日から突然いなくなりやがって、どんだけ探したと思ってんのよ！！」

「ご…ごめんなさい…。色々あって忘れてて…」

「『忘れてて』でもないわ、ドアホぉ！！」

「ひんっ！」


大声で罵る少女にアテネは耳を押さえる。

そんな光景に見兼ねたナギは二人に歩み寄る。


「おい、お前。アテネの知り合いなのか？」

「あん！？あんたみたいなチビに関係ないでしょ！！」

「なっ…！？」


ナギは少女の言葉に怒鳴りかけるも、なんとか堪える。


「…………か、関係はある。どこの馬の骨とも知らない変な女に庭を燃やされた。その罪はお前がアテネの知り合いか知り合いじゃないかで変わる。………分かったらさっさと吐け、この馬鹿女！！」

「はぁん？……上等じゃない。その喧嘩買ってやるわよ？おチビさん」

「日本語が通じなかったのか？……はっ、とことん馬鹿だなお前」

「ちっ…ぶち殺すわよ？あんた」

「やれるもんならやってみろよ、このバーカ！」


互いにヤクザ顔負けの顔で睨み合う二人にハヤテが間に入る。


「ちょ…！状況が悪化してますよ！！ とにかく、僕達はあなたに話があるだけなんですよ！だからとりあえずお屋敷に来てもらえますか？」

「………………」


少女はしばらくハヤテを睨むと、目を瞑り大きくため息をつく。


「…………ご飯と風呂」

「え？」

「山盛りのご飯と温かい風呂の準備しなさい。今すぐ！早く！！じゃないとあんたのその青い髪が真っ赤に染まるわよ！！」

「は…！はいっ！！」


指を指しながら言い放つ少女にハヤテは走って屋敷に戻る。

アテネはそんな少女にしかめ面で言う。


「あなたは…！ハヤテに何を言っているの！！」

「………ハヤテ？ 何、あの人がハヤテなの？」

「そ…そうよ。あの子の名前は綾崎ハヤテ」

「…………。ふーん。綾崎ハヤテねぇ…」


少女は既に屋敷の中に姿を消したハヤテが向かって行った方向を見つめる。

その姿を見たナギには、どこか懐かしがっているような表情に見えた。



○ ○



その後、ひとまず風呂の準備を済ませたことを告げると少女は喜々として風呂に飛び込んで行った。

その間にもう一つの頼まれごとである食事の準備をしていると、台所の椅子に座って腕を組むナギが不愉快そうに言う。


「まったく…人の家の一部を焼け野原にした奴にどうしてハヤテがここまでしなくてはならないのだ！」

「………それについては代わりに謝りますわ。後先見ないで突っ走る子だから…」

「そもそもアイツはなんなのだ！名前、素性すべてが謎だ！！」

「ま…まぁまぁお嬢さま…。ここは彼女の話を大人しく聞きましょうよ」


ガスコンロの火を止め、台所に向けていた体をアテネ達の方に戻しながらハヤテが言う。

ナギはハヤテの言葉に口をへの字にして黙り込み、アテネを見る。

アテネは紅茶を啜り、カップをソーサーに戻す。


「あの子の名前は奈緒(なお)。私の…ボディーガードを務めてくれているの」

「ボディーガードは主を叩かないと思うが」

「そ…それは、ほら…。あの子やんちゃだから…」

「その辺のガキ大将かよ…。………まぁいい。そのボディーガードが遥々この三千院家に来たのにも理由があるんだ。あいつの風呂が終わるのを待つとしよう」











「うっまーっ！！何これ！？この世の食べ物の美味しさなの！？」


奈緒はハヤテとマリアが作ったテーブルを埋め尽くす料理達を食べて、目を輝かせた。

そんな彼女にマリアは次々と料理を運び、ハヤテは飲み物を注ぎ足す。

その光景をナギは呆れたような目で見る。


「あんなに作ったのにもう半分ないとか…どんだけ腹減ってたのだ、お前…」

「うっさいわねー。そりゃ半週間も何も食べてなきゃ腹も減るっつーの！あと少し遅かったら行き倒れしてたくらいよ」

「だからって食い過ぎではないか？」

「育ち盛りの女の子はいっぱい食べるもんなの。好き嫌いしてるからそんなちっさいのよあんたは」

「出会って間もない奴にそこまで言われる筋合いはないわ、バーカ！」

「やっかましいちびっ子ねぇー、ったく。………あ、これおかわり♪」


そして皿を差し出す奈緒に、ハヤテは苦笑いで受け取った。

奈緒が出された料理をすべて食べ尽くしたのはそれから間もない時間だった。


「はーっ。お腹いっぱい！このまま寝れたら最高ねー♪」

「寝るのは構わないけれど…あなたがここに居る理由を話してからにしてもらいわすわよ」


今まで目を瞑って黙っていたアテネが、鋭い視線で奈緒を睨みながら言うと、奈緒もまた緩んでいた顔を引き締めてアテネを睨む。


「ここにいる理由って…あんたねぇ、あんたがこの屋敷に居て、私が来たってことの意味が分からないほど馬鹿じゃないでしょ？」

「…………。分かっていますわよ…」


やれやれと言わんばかりに言う奈緒に、アテネは曇った表情のまま俯く。

奈緒はアテネを見るなり溜息をついてからナギ、マリア、ハヤテを見据える。


「自分の屋敷があるっつのに、こんな屋敷に我が物顔で住み着いて…まったく。……とにかく！私はあんたに言いたいことが山ほどあるけど、ここで全部吐き出すほど無礼な人間じゃないの。だからさっさと帰るわよ！」

「あっ…！」


奈緒はアテネの手首を掴んだまま歩き出す。

しかしハヤテは奈緒を慌てて呼び止める。


「ま、待ってください！そんな、いきなり連れて帰らなくても！！」

「…何。これは私達天王州家の問題よ。三千院家のあんたらには関係ないの」

「で…でも…！」

「アテネをここに連れてきたのは私だ。…まったく関係ないことはない。お前が今すぐ連れて帰ろうとする意味を聞く権利くらいはあるはずだが？」


ハヤテに助け舟を出すように奈緒を睨みながら言うナギに、奈緒は舌打ちする。

そして面倒臭そうに頭を掻いて言う。


「まぁ確かに今、この場で連れ戻す必要はないわ。むしろ乗り気じゃないこいつを引きながら帰るのは絶対疲れる」

「だったら…！」

「でも、それはただ屋敷に主がいないという意味ではの話。私個人からしたら引きずってでも連れ戻してやりたい気分なの」

「それは何が違うのだ？」

「『連れ戻さなければならない』か『連れ戻したい』かの違いよ。無理矢理でも連れ戻さないと私の不満は解消されないの」

「不満って…どういうことですの？私…あなたに何かした？」


首を傾げながら尋ねるアテネに、奈緒はフッと笑う。


「……何かしたどころか…しまくってるわよ！！」

「へっ！？」


いきなり怒鳴る奈緒にアテネは面食らう。

奈緒は怒りと呆れが混じったような引きつった笑みを浮かべながらアテネに顔を向ける。


「あんたさぁ、あのイヴの日の夜…いきなり散歩に行くとか言い出したでしょ？付いてくっつったら『一人にしろ』とか言い出して…それだけで私の存在意義否定されたみたいで腹立ってたわけよ。その『一人にしろ』パターン、昔からよくあったし余計にね！！」

「だ…だって一人になりたかったから…」

「んなもん部屋に行け！引きこもってろ！！」

「ひんっ！」

「それによ！それで散歩に行ったと思ったらいつまで待っても帰ってこない！一晩経っても連絡もなく帰ってこない！テレビつければ誘拐事件があったとか言い出す始末！！こりゃ大変だって思うわけよ！すぐに探しに出たわよマキナ君と一緒に！！」

「うぅ…」

「それで2日かけて探し出したと思ってしばらく監視してれば…してれば…！！男とイチャイチャしてやがって、この乳魔神がぁ！！」

「ち…！乳魔神ってなんですのよ！ていうかイチャイチャなんかしてませんわっ！！」

「黙れっ！」

「はうっ！」


奈緒は呆れた顔で立ち尽くすナギ、ハヤテを睨む。


「今の話、嫌でも聞いてたでしょ！？こういうわけだから私はこの乳魔神を引きずって屋敷に帰って愚痴大会の始まりよ！！納得した！？」

「い…いや…なんかもう、話がよく分からなくなってきた…」

「怒りの焦点はハヤテ君と仲良くしてたこと、みたいですねぇ…」

「はっ。当たり前でしょ。こちとら三日三晩ひたすら探し続けてきたってのに呑気に寝てたりしてやがってたのよ？撃ち殺してやろうかと思ったくらいよ」

「お前ボディーガードだろうが…」


奈緒は『ふんっ』と鼻を鳴らすと、ハヤテを睨む。


「これで分かったでしょ？私はこいつを連れ帰る。いいわね？」

「で…でも…！」

「………あーもーめんどくさいなぁ…！」


奈緒は頭を掻き毟ると、ビシッとハヤテを指差す。


「あなた執事でしょ？大方そこのちびっ子の」

「え…えぇ。そうですが…」

「なら執事であるあなたに、少し真面目な話をしてあげる。………こいつは天王州家のたった一人の後継者なの。他に候補はいない。だからもしアテネが死んだら天王州はそれで終わり。数年もすれば存在すら忘れ去られる。そこまではいいかしら？」


奈緒の問いかけにハヤテは黙って頷き、その反面アテネの表情は徐々に曇っていく。


「そして天王州家の遺産、財産はここ三千院家にも及ぶ。だからそれを狙ってアテネを殺そうとする輩の数も三千院家並み。そのために私や執事のマキナ君っていう…ちょっと今迷子中のお馬鹿さんがいるの」

「え…ちょっ、迷子って…！まずはマキナから探すべきじゃありませんの！？」

「横から口挟まないでよね。あの子はその辺のハンバーガー店にいるでしょ？」

「そ…そんな適当な…！」

「話が逸れたわ。……とにかく、今まではそうして来たの。でもそのマキナ君は絶賛迷子中で今は私一人で撃退しないといけないの」


奈緒の『分かる？』という視線にハヤテは頷く。


「でも、さすがの私も一人で大人の男を何人も相手にするのは少し無理がある。それに加えてもし奴らがここを襲って来たとして三千院家だってバレたらどうする？三千院家の財産を狙い始める。被害が増えてそこに居るチビもメイドさんも巻き込まれるの」

「……………」

「その場に居合わせたら、あなたはどっちを守る？主であるお嬢さまか、たかが幼馴染の居候か。あんた見た目がお人好しそうな上に優柔不断そうだからね、片方を選ぶ事はしないはずよ。
でもその迷ってる間にどちらかが死んだらどうする？アテネが居たから輩が来た。大事な人が二人もいたから一人が死んだ。居なきゃこんなこともなかった。…つまりアテネはあなたを不幸にする。あなたの大切な人を奪うのは、アテネになるの」

「…っ！」


アテネは奈緒の言葉に体を震わせて自分を抱く。


「分かってくれたかしら？あなたがそうならないように私はアテネを連れて帰る。……今までこいつが世話になったわね」


奈緒は俯いて黙り込むハヤテを見据えてから、アテネの背中を押してナギ、マリアに背を向ける。


「………待って下さい」


しかしハヤテの呼び止める声に、その足を止めた。

奈緒は振り返り、冷たい視線でハヤテを睨む。


「何？」

「今の話は…あくまで仮の、しかも最悪を想定した話です。…そうならないようにすれば、彼女が帰らなければならない理由にはなりません」

「え…」

「……………」


アテネは目を丸くしてハヤテに振り向き、奈緒は徐々に顔をしかめて行く。


「何が言いたいの？」

「僕が彼女も守ります。マキナさんの代わりを僕が務めます」


奈緒は呆れたようにあからさまに溜息をつくと、ハヤテを睨む。


「あんた分かってんの？あんたの本業はお嬢さまを守ることでしょ？こいつ一人のために職務放棄するつもり？」

「違います。お嬢さまを守って、彼女も守ります。そうすればどちらかが死ぬこともありません」

「馬鹿じゃないの？同時に二人も守れるわけないでしょ？あんた死ぬわよ？」

「守りきれるなら、僕はそれで本望です」


ハヤテはニコッと笑って、奈緒に言いきる。

奈緒はそこでようやくハッとしたように目を丸くした。


「待ちなさいハヤテ！あなたは何を言い出すの！！」

「変なことを言ったつもりはないよ」

「あなたは…！あなたは三千院さんだけを見ていればいいのよ！私なんかを守る必要は…！！」

「あるよ。ないなんてことは、絶対にない」

「…っ！」


ハヤテは微笑みながら目を瞑って自分の胸に手を添える。


「お嬢さまは僕の命の恩人で、君も命の恩人だ。二人がいたから僕はここに居る。こうして生きて、心臓が動いてる」

「………………」

「もうとっくに死んでたはずなんだ…でもそれを助けてくれたのが二人なんだよ。僕はその二人に何かしたい。助けてもらった恩を返したい。…誰かに殺されるのも、見殺しにするのも…絶対に嫌だ。だから助けてもらったこの命を犠牲にしてでも…僕は守りたい、助けたいんだ」

「ハヤテ…」


アテネは俯く。

そしてナギは腕を組んでフッと笑った。


「助けてもらった恩を返すというのは人として当たり前。恩返しという体でアテネも守るということだけは許可しよう。…だが、私にとってのお前もまた命の恩人だ。そんな簡単に命を犠牲にするだなんて言うものではないぞ、ハヤテ」

「…はい。ありがとうございます、お嬢さま」


ハヤテはナギにニコリと笑いかけて頭を下げる。

そして改めて奈緒に向き直る。


「…僕の話は、ご理解いただけましたか？」

「………ええ。自分がアテネを守るから、連れ帰るなと言いたいわけでしょう？」

「はい」

「……………。言わせてもらうけど、守るって言うからにはちゃんと守ってもらうし撃退もちゃんと最後まで付き合ってもらう。あんたのご主人さまが一切関係ないことでも文句は言わせないわよ」

「それで、彼女を連れ戻さないと言うのなら…喜んで」


ハヤテはニッコリと笑って言いきる。

奈緒はハヤテをしばらくジッと睨むと、大きく溜息をついて椅子に腰を下ろした。


「はーあっ、なんか馬鹿馬鹿しくなってきた。好きにしなさいよ、もう」

「ありがとうございます」

「ふんっ」


笑って礼を述べるハヤテに奈緒はそっぽ向く。


「ま、多少不本意な一面もあるが…ここで突然お別れっていうのも不燃焼だし、これが一番丸く収まる方法ってわけだな」

「そうですね。……あ、でも天王州さんが引き続きここで暮らすとなると…奈緒さんはどうなさるんでしょう？ボディーガードですし守るべき人が居ない場所で暮らしてても意味ないですよね？」

「………………」


マリアの呟きに、奈緒は眉間にシワを寄せる。


「…何。私も一緒に住めって言いたいわけ？」

「その方が効率はいいと思いますよ？天王州さんもそばにいるわけですしね」

「……………。べつに……そっちがいいなら…それでもいいけど…」

「いいに決まってるじゃないですか。ねぇナギ？」


マリアはナギに顔を向ける。


「む…。ま…まぁ、焼け野原にした庭を修復をさせるくらいのことをしないと気が済まんからな！特別に許可してやろう」

「ちっ、調子のんじゃないわよチビが」

「なんだとぅ！？」


睨み合うナギと奈緒に、それを苦笑いで見守るマリア。

そのそばで未だに表情を曇らせて俯くアテネにハヤテは近付く。


「アーたん。何をそんな顔してるのさ」

「………ハヤテの馬鹿。あんなこと言わなくてもよかったのに…私になんか何もいらないのに…」

「何回も言わせないでよ。僕は君に恩返しがしたいだけなんだから」

「そんなこと言ったら…私だって…」

「いいんだよ、別に。アーたんが笑ってくれれば僕はそれでいいんだから」

「………………ハヤテの、馬鹿…」


『ありがとう』

アテネはハヤテにも聞こえないくらいの小さな声で、そう呟いた。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.24 )
日時： 2012/12/25 17:57
名前： masa

｢天王州瑞希じゃ｣


瑞希｢ふむ。アテネが驚くのも無理はないのお。何せ家にいるはずの奈緒ちゃんがいきなり来たんじゃから。まあ奈緒ちゃんが怒るのも無理はないかな。でも、出会い頭にナギちゃんやハヤテ君に喧嘩を売るのは良くないよ。いくらそれなりの理由があってもね。

奈緒ちゃんの言い分も確かじゃな。アテネの命を狙う輩は沢山おる。しかもそいつらは意外と情報通じゃ。アテネを狙ったついでにナギちゃんも狙う。そう言う輩には一石二鳥じゃろうからな。とはいえ、アテネの言い分や周りの意見を聞かんのは良くないのお。
まあでも、ハヤテ君の説得で留まる事になったがな。
ふむ。こちらのハヤテ君もかっこいいのお。どちらかをえこひいきせず、アテネもナギちゃんも守るか。頑張りなさい応援しておるよ。

次回も楽しみにしておるよ。




ふと思ったんじゃが、奈緒ちゃんなら食没を修得できる気がするんじゃが、無理かな?




そうじゃ、アテネの幼少期の写真をたくさん納めたアルバムを持ってきたんじゃ。ハヤテ君にあげるから大切にしておくれ｣


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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.25 )
日時： 2012/12/26 19:21
名前： 疾球





どうも
はじめましてｏｒ久し振りです！
疾球です！


まあ感想にー

奈緒は破天荒ですね……
相変わらずハヤテ殺すとか　
物騒だなあ

　
今回のアテネいいですね
デレが特に



次回も楽しみにしてます
ではまたーーー
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.26 )
日時： 2013/01/07 09:57
名前： ゆーじ


皆さん明けましておめでとうございます！

去年は年の初めから終わりまでずっとハヤテづくしでハヤテ的な意味では最高の年でしたね！

今年もハヤテ尽くしな年でありますように。

というわけで今年もよろしくお願いします！

………では溜まりに溜まったレス返しをば。



前々回分。　

■masaさんへ

＞どうもmasaです。
やっぱハヤテは真面目ですね。自分とは一切関係ない借金を律義に返すとは。
で、やっぱりクラウスさんの扱いは酷い様で。まあ、そう言うキャラだから仕方ないのかな?


ナギ「だってクラウスだもの」

マリア「クラウスさんですからねぇ…」

アテネ「新アニメに出られただけマシな方ですわ」

奈緒「アテネの場合はただの嫉妬だよね」

ハヤテ「まぁしょうがないですよね…」



＞早々とタマ登場。まあ原作の今は何だかんだで仲好くなってますけど、やっぱり最初の険悪な関係なようで。ってか、今にして思えば、原作など全てを含めて一番の駄目キャラクラスの1人?じゃないですか、タマって。
まあ、そのダメダメな原因を作ったのはナギですけど。


タマ「んだとコラぁ！俺っちをそのカテゴリーの中に入れんじゃねえ！！」

ハヤテ「まぁ…後のことを思うとお前はマシなほうだけどな…」




＞ってかタマもハヤテと一緒でしょ?いや、さんざん駄目な事を吸収したからハヤテ以下か。つまりはハヤテを馬鹿にする権利は一切無しと。


ハヤテ「ふっ…」

タマ「ふっ…じゃねえよテメぇ！！」



＞まあ、今回の一件で一番の被害者は魔女・・・マリアさんですね。
窓は壊されるし、大切に育ててきた花はめちゃくちゃにされるし、ほんと哀れです。
まあ、いきなり動物が話せるだなんて言われても信じる人はいませんよね。本来ならそう言うのはお伽噺とかの世界の話ですから。
あ、でも、タマの言語能力は伊澄のおかげなんですよね。


伊澄だって決まったわけじゃないですけどねー…。
まぁ可能性は高いですが。


＞で、最後に登場した少女はやっぱり、銃火器の達人のあの人ですよね?
あの人絡みの話がどうなるか楽しみです。
次回も楽しみにしてますね。


奈緒「なんか過ぎてから見ると凄いシュールよね」

アテネ「パソコンがないからと溜めた作者のせいですわ」



■道草さんへ

＞最近は原作もアニメも急展開で目が離せませんね！
あれからアニメ第一話にどう繋がるのだろう……


いやぁ面白かったですねー、新アニメ！
最終回好きすぎですよー♪


＞それはともかく感想をば。
無事(？)にナギの執事(仮)となったハヤテ(笑)。
本来自分の借金でないのにわざわざ返そうとするハヤテは、やはり律儀というか義理堅いですよね。
まぁそこが彼のいいところですが。


ハヤテ「ちょっと！なんですかその（笑）は！！」

ナギ「ま、そこがハヤテのいいところだ！」

アテネ「否定はしませんわね」



＞ホワイトタイガーネコことタマとの対決では、まだハヤテは勝てなかったですね。
一方、このころから三千院家におけるマリアの地位は少しも揺らいでいませんが……
タマの衝撃の真実を知るも、アテネに可哀そうな人物とカテゴライズされたハヤテ……ドンマイ♪


ハヤテ「ドンマイ♪じゃないですよー！！」



＞そして最後は……待ってました！！
遂に『あの人』の登場か！？
また彼女の活躍が見れると思うと楽しみです♪


奈緒「お楽しみにー♪」



前回分


■masaさんへ


＞どうもmasaです。
ついに登場ですか。カゲ・・・クラウスさん。ってか冷たすぎでしょ。いきなり話も聞かずに連行とは。訴えたら誘拐未遂とかで裁かれそうですよね。


クラウス「そこまで！？」

ナギ「そこまで」



＞しかし、クラウスさんも随分ないい様ですよね。確かにハヤテは不幸ですけど、執事としては優秀なのに。
で、やっぱり寝てたアテネ。確かひどい時は夕方までボーとするって言ってましたからね。
ってかクラウスさんは言ってたこと全部できるんでしょうか?まあ無理でしょうね。


マリア「まぁパラシュートなしで空から飛び降りたら、もうただの肉塊ですよねぇ」

ハヤテ「待ってください。それをやらせようとしたんですか！？」



＞で、エイト登場っすか。まあ、あの風貌じゃナギがあれだけ罵倒するもの当然すよね。今じゃ超リアルな人型ロボットがあるのに、あれじゃあねえ。
ってかあのレベルの罵倒できれてたら介護は務まらないでしょ。口煩いご老人もいるのに。


ナギ「まったく。ちょびっ○を見てみろ！あれの登場人物の半分くらいはロボットだぞ！なのにこの差はなんだ！！」

エイト『俺に言うな！！』



＞魔女・・・マリアさんも流石。話も聞かずに壊せとは。
ってか銃火器搭載って。銃刀法違反でしょ。
で、アテネを人質って、益々介護ロボットじゃないでしょ。これじゃ犯罪ロボットですよ。
で、ピンチと思いきや助っ人登場。そのおかげで難を逃れましたか。
まあ、修繕費は魔女・・・マリアさんの言う通りクラウスさん持ちなのは当然ですよね。
ようやく登場した奈緒さんがどう物語に絡んでいくか楽しみにしてますね。


奈緒「ふふふん♪」




■道草さんへ

＞いや～、やさぐれハヤテ君一体どうなるんでしょうね？
個人的にはナギの号泣シーンも好きですが。

やさぐれハヤテ君、もといナギ父イケメンでしたねー♪



＞それはともかく感想をば。
クラウ……じゃなかった、カゲウスさん。完全にハヤテのこと信用してませんね。
まぁ彼の出番もそのうち激減するでしょうし、それまでハヤテ頑張って耐えてください★


ナギ「むしろもう激滅するんじゃないか？」

クラウス「しません！してたまりますか！！」



＞一方で、他の人達からの信頼は絶大でしたね。
なんだか微笑ましかったです♪


ナギ「ハヤテだからな！」

アテネ「ハヤテですしね」

マリア「ハヤテ君ですからね」

クラウス「………」



＞なんだかんだでエイトと対決。
アテネを人質にとるとは……許せん。ハヤテ、スクラップにしてしまえ！！
……と思ったら、あの方が見事に実現してくれました！！！
待ってました、奈緒さん！！
ピンチに颯爽と現れる姿がカッコよかったです！！
次回もホント楽しみです♪


奈緒「ハヤテ君かと思った？残念、奈緒ちゃんでしたー♪　いやぁ人気者は辛いね～」

ナギ「オリキャラが出揃った頃にオリキャラ人気投票とかしたらどうなるんだろうな、この小説」

アテネ「当分先の話ね」



今回分


■masaさんへ


＞｢天王州瑞希じゃ｣


アテネ「あああ明けましておめでとうございますお祖母様！！」

奈緒「…誰？」

ナギ「気にするな」



＞瑞希｢ふむ。アテネが驚くのも無理はないのお。何せ家にいるはずの奈緒ちゃんがいきなり来たんじゃから。まあ奈緒ちゃんが怒るのも無理はないかな。でも、出会い頭にナギちゃんやハヤテ君に喧嘩を売るのは良くないよ。いくらそれなりの理由があってもね。


奈緒「見ず知らずの婆さんに説教される筋合いないんだけど」

アテネ「お馬鹿！！お祖母様になんて口を…！！」

奈緒「（うわぁ、めんどくせえコイツ…）」



＞奈緒ちゃんの言い分も確かじゃな。アテネの命を狙う輩は沢山おる。しかもそいつらは意外と情報通じゃ。アテネを狙ったついでにナギちゃんも狙う。そう言う輩には一石二鳥じゃろうからな。とはいえ、アテネの言い分や周りの意見を聞かんのは良くないのお。
まあでも、ハヤテ君の説得で留まる事になったがな。
ふむ。こちらのハヤテ君もかっこいいのお。どちらかをえこひいきせず、アテネもナギちゃんも守るか。頑張りなさい応援しておるよ。


ハヤテ「はい！頑張ります！」

アテネ「お祖母様のお言葉…心強いですわ！」

奈緒「アイツ何？頭でも打ったの？」

ナギ「触れてやるな」



＞ふと思ったんじゃが、奈緒ちゃんなら食没を修得できる気がするんじゃが、無理かな?


奈緒「食事に没頭できるとか素晴らしいじゃない！！ばーさん、あんたいいこと言うわね！！」

アテネ「だからお祖母様に…！」



＞そうじゃ、アテネの幼少期の写真をたくさん納めたアルバムを持ってきたんじゃ。ハヤテ君にあげるから大切にしておくれ｣


アテネ「いやああああ！！見ちゃだめぇえええ！！///////」

ハヤテ「アーたんかわいいねー♪」

奈緒「素で楽しんでるよこいつ…」



■疾球さんへ


＞どうも
はじめましてｏｒ久し振りです！
疾球です！

お久しぶりです！！



＞まあ感想にー
奈緒は破天荒ですね……
相変わらずハヤテ殺すとか　
物騒だなあ


奈緒「てへぺろ☆」

ハヤテ「それで誤魔化せてると思ってるんですか！？」


＞今回のアテネいいですね
デレが特に

この小説のアテネさんはデレデレなので！





masaさん、道草さん、疾球さん今年もよろしくお願いします！
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（レス返し更新） ( No.27 )
日時： 2013/01/11 21:20
名前： ゆーじ


「ハヤテ君！ハヤテくーん！！」

「はーい！」


青く澄み渡る冬の空の下に佇む三千院家で、マリアに呼ばれたハヤテは走ってその場所に向かう。

着いた場所は台所。入るなり小さな紙を持ったマリアが笑って迎えた。


「さすが。早いですね」

「呼ばれましたから。…それで、何か御用でしょうか？」

「はい。実は紅茶の葉を切らしてしまいまして…道を覚えるついでに買ってきて頂きたいんですよ」


マリアは机に置かれた缶の容器を持ってハヤテに見せる。


「紅茶の葉…ですか？」

「ええ。今日誰かが来るってわけじゃないんですが…来た時に切らしてるというのは流石に失礼なので、前もって用意しておくべきかと思って」

「なるほど…」

「いつもお世話になっているお店だから一緒に行って顔を覚えてもらうつもりだったんですが、どうも今手が離せなくて…。地図だけ書いたのでお願いしますか？行く事だけは伝えておきますから」


マリアはハヤテに持っていた紙を手渡す。

ハヤテは軽く目を通し、紙を胸ポケットに入れて力強く頷いた。


「お任せください！このメーカーでいいんですよね？」

「はい」

「わかりました！じゃあ行ってきます！」

「ありがとうございます、ハヤテ君。行ってらっしゃい」

「はいっ！」


ハヤテはマリアの見送りを背に勢いよく台所を飛び出す。

しかし玄関に向かう途中の廊下で菓子を食べながら歩く奈緒とはち合う。


「あら、執事君」

「あ、奈緒さん！ おはようございます」

「おはよう」


奈緒は挨拶返すと持っている箱から菓子を取り出し口に入れる。


「何食べてるんですか？」

「パッキー(アニメ二期最終回参照)。食べる？」

「い、いえ…。これから買い出しに出かけるので…」

「買い出し？出かけるの？」


何故か目を丸くして尋ねる奈緒にハヤテは頷く。

奈緒は何かを考えるようにハヤテから目を逸らすと、急にハヤテに背を向けた。


「ちょっと外で待ってて。私も行く」

「え」

「そんな時間かけないわよ！」


奈緒はハヤテの回答も待たずに昨日ナギに案内された自室がある方へと走る。

その姿はハヤテが声をかける前に長い廊下の彼方へと消えて行った。

ハヤテは溜息をついてからひとまず言われた通りに玄関で待つことにした。


「お待たせ」


玄関について間もなく背中に細長い布に包まれた何かを背負う奈緒が到着する。


「じゃ、行きましょ」

「はぁ…」


ハヤテは奈緒の思うがままについて行く。

歩くたびにガチャガチャと音を鳴らす奈緒の荷物がハヤテは気になって仕方がなかった。


「あの、奈緒さん。その荷物は？」

「んー？……まぁ念のためよ念のため」

「はぁ…。それで、中身は？」

「銃」

「………………」


あっさりと言い切る奈緒の一方でハヤテはしばらくその言葉を理解するのに時間をかけた。

じゅう？十？いや、それは荷物じゃないし…獣？いやいやないない。じゃあじゅうって…え、まさか…銃…？


「まぁ詳細に言うならライフルかな。対物ライフルってやつ？」

「え…え、えええ！？ちょっ、なんでそんなもの持ってるんですか！！捕まりますよ！？」

「ねー。ホント日本ってその辺厳しいわよね～。海外なんて余裕で銃撃戦なのに」

「いやいや！僕が言いたいのはそういうことじゃなくて…！！」

「ま、あっちだってアテネの命狙ってるわけだし…死なないだけマシってやつ？」

「なんでそんなこと平気で言えるんですか！人の命がかかってるんですよ！？」

「…っ！」


ハヤテの言葉に奈緒はハッとしたように目を見開く。

そして静かにハヤテから顔を逸らした。


「………別に、私そういうの気にしないから」

「もぉ…。いくら彼女が大事だからってそこまで言わなくたって…」

「あーもーうるさいなぁ！！あんたなんかに分かる日は…、ッ！」


奈緒はハヤテに向いていた視線を後ろにやる。

その眼はかなり鋭い。


「………3人くらい、ですね」

「え？」


静かに呟くハヤテに奈緒は目を丸くして見上げる。

ハヤテもまた視線を鋭くして前を睨んでいた。


「………あんたにも分かるのね、そういうの」

「殺気立ってる人には慣れてますから」

「そう、なら話は早いわ。…………あいつらちょくちょく私のことマークしてた奴らなの。アテネを探してる時からずっと監視されてた。いい加減うんざりしてきたのよね」

「どうするんですか？」

「主が危険に晒される前に片付けるのが私のモットー。……人気の少ない場所に追い込んで潰す！…………執事君、私に合わせてね」

「え？」


ハヤテに説明する前に奈緒は大きく息を吸い込む。

そして


「あーっ！もー、このあんたのお坊ちゃんに買った超高級バット重ーい！！あんた男なんだから持ちなさいよねー！！」


そう大声で言いながら奈緒は背負っていた布に包まれたライフルを押し付ける。

そして肩を回す。


「あー重かった。じゃ、坊っちゃんが待ちくたびれてるだろうから早く行きましょ。走るわよ！全力で！！」

「えっ、あ、はいっ！！」


最後の最後でようやく奈緒の演技の意味に気付いたハヤテはすでに走り出している奈緒を追うように駆け出す。

そしてしばらく走り続けた所で奈緒はポケットから携帯を取り出して地図を開き、ハヤテに投げ渡す。


「その公園に行って！二手に分かれてあいつら全員引きつけるの！！分かった！？」

「は…はいっ！」

「よし、じゃ…また後で！！」


タイミングよく現れた分かれ道にハヤテと奈緒はそれぞれ違う方向を走る。

そして追いかける男達は迷わず全員が奈緒と同じ方向に曲がった。


「ありゃー。まぁあっち追いかけても意味ないもんねぇ…。ふんっ、上等。全員引きつけてやるわよ…！！」


奈緒はそう吐き捨て、ひたすら目的地まで走り続けた。




○ ○




男達が人気の少ない広い公園に着いた時には、彼らの標的である少女の姿はなかった。

公園に入る姿はこの目で見た。どこかに隠れているのは確実。

お互いに顔を見合わせて頷き合い、男達は静かに別れる。その手には黒く光るピストルもある。

そして一人が茂みに近寄った。……その刹那、茂みから腕が伸び男の首を絞める。


「ぐっ…！！」

「あんた戦場ってもんを分かってない…素人ね」


奈緒は男の首を腕で締付けながら耳元で囁く。

次に持っていたピストルを投げ捨て、自分の足に巻かれたホルスターから自前のピストルを男の頭に突きつける。

茂みが揺れる音を躊躇いもなく鳴らしながら一歩踏み出し、他の男たちの視線を集める。


「貴様…！！」


一斉に自分に銃口が向いても、奈緒は表情一つ変えない。

それどころか男と共に一歩ずつ近づいていく。


「こいつが大切なら武器を下ろしなさい。私は本気よ？」


ニヤリと笑ってみせる奈緒に男達は顔を見合わせて、同時に奈緒に向けていた銃口を下ろす。

それが真の狙いだとは知らずに。


「お利行さんは好きよ？………じゃあ、これはお返しねッ！！」


奈緒は男を離し、背中を軽く押してから思いきり背中を蹴り飛ばす。

驚いた男達の隙を見逃さず、奈緒は駆け出し男の一人の顔を飛び蹴る。

両膝と手を付いて着地した奈緒は後ろから襲いかかる男を手をついた状態で足だけを伸ばし蹴り飛ばす。

そのまま綺麗にバク転し、立ち上がる。

そしてトリガーに手をかけた状態でピストルをクルクルと回しながら倒れ伏す男達に銃口を向け、躊躇いなく発砲する。

男達に銃弾が『刺さっている』のを確認すると、そこでようやく奈緒は大きく息を吐いた。


「ま、こんなもんかな」


公園を見渡す。ハヤテが来ている気配はない。


「なんか、来る前に終わっちゃったなー。…まぁあんまり使えそうになかったし丁度良かったかな…」


再びため息をついて、一歩を踏み出す。

それと同時に感じた激しい痛みに奈緒は地面に倒れる。

痛みに耐えながら見下ろすと、地面についた足からは大量の血であふれていた 。


「な…。よりにもよって…！！」

「それを狙ったに決まっているだろう」

「…！！」


前から聞こえる声に、奈緒は足に向けていた顔を戻す。

そしてピストルを持った男がニヤつきながら奈緒を見下ろしていた。後ろには数人の仲間達も連れている。


「こんな素人の雑魚達と勘違いするとは、お前も堕ちたな天王州」

「……その言いっぷり…私をマークしてたのはあんた達？………はっ、道理であっさりすぎたわけだ…」

「そういうことだ。噂によれば執事は消息不明だそうだな。つまりお前をここで始末すれば後はお前の主を片付けるだけというわけだ」

「…………………」


奈緒を囲む男達全員が奈緒に銃口を向ける。


「死んでもらうぞ？小娘」

「くっ…！」


逃げることは不可能。もう、死ぬしかない。

奈緒は死を覚悟し目を固く瞑る。

その瞬間


「ぐぁっ！！」

「ぐっ！！」

「がっ！！」


男の背後で銃口を向けていた仲間達が時間を置いて声を上げた。

男は驚いた様子で振り向く。

見れば仲間達が持っていたピストルはすべて男達の足元に落ちている。


「何してやがる！！さっさと拾え！！」

「は、はいっ！！」


ピストルを拾おうとする男達を弄ぶかのように、地面に落ちたピストル達はまた仲間達から押されたかのように離れる。


「もういい！俺がやる！！」


男は銃口を改めて奈緒に向ける。

しかしその銃もまた弾くように男の足元に落ちた。


「ぐ…く…くそ！死ねえええ！！」


懐からナイフを取り出し奈緒に振り下ろす。

今度こそ死ぬ…！そう思った刹那、奈緒の前に何かが立ち塞がりナイフの刃を受け止めた。


「な…！」


奈緒はその見覚えのある後ろ姿に目を見開かせる。

ライフルを横にして持ち、ナイフを受け止めてたハヤテはそれを振り払いガラ空きとなった男の腹に蹴りを入れる。


「ぐはっ！………がっ！！」


仰向けに倒れる男に空かさずライフルの銃口を向ける。


「あなた方の負けです。天王州家の遺産は諦めてください」

「て…てめえなんかの指図を受ける理由がねえな！」

「まぁそうでしょうね。でもその変な意地で命を落とすのは誰でしょう？」


カチャと音を出しながら、ハヤテはライフルを軽く動かす。

銃口が向けられてる以上、一見無意味な行為も脅しが含まれているのは男も分かっている。

男は舌打ちをすると、丁度ハヤテの真後ろに立つ自分の仲間に目伏せする。

それを悟った仲間の一人は音を立てないようにピストルを拾う。


「大体てめえ何もんだ！知ってる情報と違え！！」

「ええ。僕もこんな状況は初めてです」

「なるほど、新入りってことか。………何も分かんないくせに一丁前にしゃしゃり出たことを後悔すんだな素人がぁ！」！


男が叫ぶと同時に、ハヤテの後ろにいた仲間はピストルをハヤテに向けた。


「執事君、危な…！！」


ーーパァン！

引き金は引かれた。

しかし銃口から煙が上がっているのは仲間のピストルからではなかった。

むしろ上がっているのはその反対側にいる人物が持つピストルから。

そしてその煙が上がっているピストルを仲間に向けているのは、紛れもなくハヤテであった。


「あ…ぁ…」


目が大きく見開いた仲間の頬からは血が伝い、やがては糸が切れたように地面に座り込んだ。

ハヤテはゆっくりと同じく目を見開かせて硬直している男を見下す。


「……天王州家の遺産は諦めてください。三度目は言いませんよ？」

「ぐ…く…！た、退散だ！！」


男は仲間を引き連れ、走り去っていく。

それを見えなくなるまで見届けると、ハヤテは持っていたライフルとピストルを地面に落とした。

そして奈緒の前まで近付くと膝をつき、ポケットからハンカチを取り出して折りたたむと奈緒の足の傷口に添えた。


「すいません…合流してればこんなことには…」

「べ…別にこんなの慣れっこよ。ていうか、あなたいつからここにいたの？」

「奈緒さんがさっきの人達に囲まれてる時に着いたんです。下手に出るよりかは遠くから状況を変えてから出たほうがいいと思って…」


申し訳なさそうに話すハヤテに奈緒は目を丸くした。


「ま…まさかあいつらの銃を撃ち落としたのって…」

「え？……あぁ、僕があれを使って…」


ハヤテは後ろを向いて先ほど男に突きつけたライフルを一瞥した。


「……………。あなた…何者なの…？いつ、そんな、銃の使い方なんて…」

「ま…まぁ昔に色々ありまして…」


ハヤテは苦笑いで話を誤魔化すと、表情を曇らせる。


「それより…どうするんですか？あの…その…ご遺体達は…」


そう言って、ハヤテは先ほど奈緒が倒した男達を見据えてから奈緒に顔を向ける。

その問いかけに奈緒は不思議そうな顔で首を傾げた。


「い…いや！だから…！！」

「……………あー！なるほど分かった！あんた勘違いしてるのよ」

「へ…？」


目を丸くするハヤテに、奈緒はウエストポーチに手を突っ込むと銃弾を一つ取り出した。

それは先端に針が刺さっているもので、その見覚えのないものにハヤテは首を傾げる。


「これが私があいつらに撃った弾。体には貫通するんじゃなくてこの針が刺さるだけで死ぬことは絶対にないの」

「じゃ…じゃあなんで全員倒れて…」

「これ、即効性の睡眠薬が中に詰まってるの。この針が銃で撃った勢いで刺されば忽ち体に一瞬にして薬が効いて倒れる。…ただそれだけ。分かったらそんな顔しないでくれる？」

「……………………」


溜息をつきながら言う奈緒に、ハヤテは安堵してニッコリと笑った。


「良かった。奈緒さんにそういうことはして欲しくなかったので」

「………………」

『やっと笑ってくれたねっ』


奈緒はゆっくりと目を伏せて、ハヤテから顔を逸らした。


「本当…お人好しね」

「あはは…よく言われます…」

「………変わってないのね。昔から」

「え？今、なんて…」

「ううん」


奈緒は首を振って、ハヤテに笑いかける。


「帰ろう。私もう疲れちゃった」

「え…あ…。そ、そうですね。じゃあ奈緒さん、乗ってください」


ハヤテは奈緒に背中を向けて膝をつく。

奈緒は最初は目を丸くするも、やがてフッと笑ってハヤテの背中に体を託した。

立ち上がり、奈緒を背負ったまま歩き出すハヤテの背中に奈緒は全身の力を抜いて顔をつける。


「…………ねぇ、あなたの名前…なんだっけ」

「ハヤテですよ。綾崎ハヤテです」

「………ハヤテ…ハヤテ君、か。…ハヤテ君…」

「…………」

「助けてくれて、ありがとう…」


囁くように言う奈緒に、ハヤテは笑って空を見上げた。


「どういたしまして」













ちなみに


「あら。ハヤテ君、おかえりなさい。……それで紅茶の方は？」

「あ…」


外出の本来の理由であった紅茶の買い出しはすっかり忘れていた。


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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.28 )
日時： 2013/01/11 23:30
名前： masa

｢天王州瑞希じゃ｣


瑞希｢奈緒ちゃんがハヤテ君のお使いに一緒に行ったのは興味本位じゃろうな。まあ、退屈してたというのもありそうじゃが。
奈緒ちゃんの念のための保険が今回重要な役割を持ったのお。
まあハヤテ君が色々と言いたいのは当然じゃな。十分すぎるぐらいに銃刀法違反じゃからな。

流石はハヤテ君じゃな。奈緒ちゃんと同じくらいのタイミングで敵に気がついたんじゃからな。
二手に分かれた事が重要な意味を持ったのお。まあ、敵も甘く見たという所じゃな。

敵の作戦も中々と言えるかもしれんな。弱いもので奈緒ちゃんの油断を誘い、隙をついて足に怪我を負わせるとは。
ハヤテ君の援護が間に合ってよかったよ。でなければ奈緒ちゃんは死んでいたじゃろうから。
しかし、ハヤテ君はすごいのお。難しそうな銃を軽々と扱うとは。奈緒ちゃんが驚くのも無理はないのお。
まあ奈緒ちゃんは殺しをしてなかったようじゃな。我々の作者は一瞬ノッキングしたかの思ったそうじゃが、たんに睡眠薬じゃったか。
そう言えば、奈緒ちゃんとハヤテ君は昔会ってたんじゃったっけ。
奈緒ちゃんを迷いなくおぶるとは普通なら肩を貸す程度じゃったろうに。

ハヤテ君が本来の目的を忘れたのは当然じゃな。色々ありすぎたみたいじゃし。




次回も楽しみにしておるよ。ではな｣

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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.29 )
日時： 2013/01/14 23:20
名前： 道草

どぅも★道草です！

遅ればせながら、あけましておめでとうございます！！
では今年初の感想をば。


相変わらずパッキー好きですね奈緒さん。
いやまぁそんなことはともかく、なぜハヤテの買い出しに付き合う気になったのか個人的に気になります……


そして出かけた先ではアテネを狙う刺客たちと戦闘……
奈緒さんもすごいですが、彼女も驚くほどのハヤテの手際も見事でしたね！！
ハヤテも意外と容赦ないところあるからなぁ……


ハヤテにおんぶされながら、奈緒さんもいろいろと思うところがあるんでしょうね……
これから二人の関係がどうなっていくか楽しみです♪


今年もゆーじさんの話、楽しみにしてます！！
ではまた♪
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.30 )
日時： 2013/01/19 19:53
名前： ゆーじ

ハヤテ35巻素晴らしー！

絵コンテのハヤテ君マジ化け物すぎて惚れた…！！

そしてレス返しはスマフォでコピー出来なかったので、しないか後ほどパソコンを借りた時に追記するかのどちらかになります。すいません…

=============================================================



三千院家の広い庭を抜け、カツカツと足音を立てて歩いてきた一人の少女は、眼前にある大きな屋敷を見上げる。

しばらく屋敷を見据えると、少女は視線を前に戻して、再び歩き出す。

そして大きな扉に手を添えて、ゆっくりと扉を開けた。



○ ○



「…？」


テーブルに置かれたカップに紅茶を注いでいたマリアは、不意に部屋の扉の方へと顔を向けた。

ソファーに座って漫画を読んでいたナギは漫画から顔を上げる。


「マリア？どうかしたのか？」

「いえ…。なんか玄関の扉が閉まった音がしたような…」

「ハヤテが庭掃除を終えただけだろ。気にし過ぎだ」

「いえ…でも、ハヤテ君にしては随分と荒々しいような気がして…」

「考えすぎだよ。大体年の瀬にわざわざこんなところに来る暇人が居るわけーー」

「くぉらナギーーーー！！」


乱暴に扉を開け放ったと同時に叫び散らす少女にナギもマリアも目を丸くして振り向く。

そしてナギは少女を見てさらに驚く。


「さ…咲夜！？なんでお前こんなところに…！」

「なんでもかんでもあらへんわぁ！どういうことか説明せんかアホたれ！！」

「はぁ！？なんのことだ、なんの！！」

「とぼけても無駄や！！」


咲夜と呼ばれた少女は鬼のような形相でナギに歩み寄ると、ギロリと睨みつける。


「前から約束してた年末の旅行、いきなりドタキャンするってどういうことやぁ！！」

「ああ…そのことか…。あれは仕方なかったのだ！いきなり予想外に忙しくなったんだ！暇人なお前と違って！」

「誰が暇人やぁ！こっちだって色々と忙しかったわ！！」

「ま…まぁまぁ咲夜さん、落ち着いてください！そんなナギと喧嘩しに来たわけではないのでしょう？」


見かねたマリアが仲裁に入るが、少女はマリアを睨みつける。


「いいやマリアさん！確かに喧嘩しに来たわけやない！！でも前からの約束をいきなりドタキャンされて何の理由も説明されてないのは納得行かへん！！」

「『説明されてない』って…あなた何も言ってないんですか！？」


マリアの問いかけに、ナギはバツの悪そうな顔で目を逸らしながら頭をかく。


「なんや！ウチだけ仲間はずれか！！それが自分のやり方か！見損なったでナギ！！」

「そこまで言われる筋合いはない！！…あーもーわかったよ！説明してやるからまずは頭冷やしてそこ座れ、このバカ咲夜！！」

「なっ…！……………ぐ、ま…まぁ説明するってんならしゃーない。聞いたるわ」

「ふん」


その後、お互いにソファーに向かい合うように座り、ナギは少女にすべてを話した。


「なるほど？つまり新しい執事が来たからドタキャンしたと言うわけかいな」

「まぁまだこの屋敷にすら慣れてないのにいきなり海外なんか行ったら身体が持たないだろうからな、あいつの場合」

「ふん、随分優しいやん。お気に入りってことかいな。………………よし、分かった」


少女は頷くとソファーから立ち上がり、ナギを見下ろす。

ナギはカップを片手に怪訝な目で少女を見上げる。


「その執事の実力、この愛沢咲夜さまが直々に試したる。マリアさん！その執事この部屋に呼んでや！」

「わざわざ外にいるハヤテを呼ぶ必要はない！お前がハヤテのところに行け馬鹿者！」

「嫌や！ウチはここで確かめる！！」

「な…何をそこまでこの部屋にこだわるのだ…」

「外寒い！！」

「死ね！！今すぐ！」

「………ハヤテ君、呼んできますね」


マリアは苦笑いを浮かべたまま部屋を出ていく。

そして数分後、ハヤテを連れて戻ってきた。


「えっと…何かご用でしょうか、お嬢さま」

「わざわざ悪いなハヤテ。…そして用があるのは私ではないのだ」

「はぁ…」


ハヤテは視線をナギからジッと自分を睨みつけている少女に移す。

少女はハヤテを睨みながら、近寄る。


「はぁん？こいつが自分の執事かいな」

「ああ。お前が耐え切れなかった外の寒さも我慢して庭掃除をしていたのだ、ちゃんと謝れよ」

「自分、名前はなんて言うん？」

「綾崎ハヤテ…ですけど…」

「顔だけやなく名前も貧相やなぁ！大豆大好き豆太郎くらいの名前にせなこの業界は売れんで！！」

「え…ぎょ、業界…？」

「その名前のほうが売れねーよ！大体人の名前を漫才の世界で評価すんな！！」

「なんやと！？コンビ名は覚えやすくてなんぼや！！」

「だから漫才師としてハヤテを見るなぁ！！」


睨み合うナギと少女に、ハヤテは戸惑い気味にマリアに顔を向ける。

マリアもまたハヤテの心境を理解し、無言の問いかけに返す。


「彼女は愛沢咲夜さん。ナギの幼馴染で漫才が大変好きな方なんです」

「なるほど…その言葉でなんとなく理解できました」


ハヤテの苦笑いにマリアも同じく苦笑いで返す。


「それでや、豆太郎！」

「は、はいっ！」

「だから豆太郎じゃねーよ！ハヤテも返事すんな！！」

「自分には漫才師としてインパクトが足りなさそうや！わかるか！？インパクトや！！」

「は…はぁ、インパクトですか…」

「だから漫才師じゃ…！！」

「ナギ。とりあえず黙った方が無駄に疲れるだけですよ」

「むぅ…」


肩に手を置きながら言うマリアにナギは口をへの字にして黙る。

それとはお構いなしに咲夜の話は続く。


「そう、インパクト！例えば…親に捨てられて多額の借金背負ってたり、その借金のおかげで強面ヤクザに命狙われたり、車に撥ねられたり、肉食獣と死闘を繰り広げたり、物騒な武器使いこなせたり…！そんなインパクトが自分には足りん！！」

「えっと…その辺、全部やったんですが…またやらなきゃダメなんですかね？」

「え！？………ま、まさか自分…存在自体がもうお笑いの類の人間か！？」

「……それは褒め言葉だと受け取っておきます」

「い…いいや！それでもや！！それでもダメや！！こうなったら…！！」


咲夜はどこからかハリセンを取りだし、刀を持った侍のように構える。


「ウチが直々に叩き込んだる！！」

「ええ！？」

「いくで、豆太郎ーっ！」


咲夜はハリセン片手にハヤテに襲いかかる。


「させるかぁ！！」

「へぶんっ！！」


しかしナギの飛び蹴りによってそれは阻止された。

倒れ伏せる咲夜にナギは肩で息をしながら睨みつける。


「いい加減にしろ！お前の勝手な自己満足にハヤテを巻き込むな！！」

「ぐ…。くっ！さすが未来の相方…容赦ないツッコミや…！」

「誰が相方だ誰が！！」

「まぁ今日のところはこれで勘弁しといたる。せやけど諦めるわけやあらへん！次こそはそこの貧乏執事を笑いの世界に連れ込んだる！！」

「させるか、このバーカ！！」

「ふっ、じゃあなナギ！また来るわ！」

「一生来んな！！」


ナギの罵倒も耳に入れず、咲夜は風のように走り去る。

開け放たれた扉をハヤテとマリアは丸い目で見つめ、ナギは疲れたように溜め息をついて頭を掻く。


「まったく…なんだったのだ、アイツは…」

「……………。もしかしたら…ハヤテ君を見に来たのかもしれませんね」

「え？」

「僕を、ですか？」


目を丸くするハヤテとナギにマリアは笑って頷く。


「ナギの新しい執事がどんな人なのか。幼馴染としては気になるところだと思いません？」

「む…まぁ、私があいつの立場だったら気になる…とは思うが…」

「そういうことです。まぁもしかしたら別の理由かもしれませんが、少なくともそれは含まれてると思いますよ？愛されてますね♪」

「………ふん。めんどくさい奴め」


顔を赤くしてそっぽ向くナギに、ハヤテとマリアは笑い合う。

そして玄関から出て、中庭を歩く咲夜は不意に立ち止まる。


「…………あのナギがあそこまで出会って間もない人間に懐くとはなぁ」


呟いてから振り向いて屋敷を見つめる咲夜の顔は笑っていた。

その笑顔は嬉しそうに。


「綾崎ハヤテ…あいつに決まりや！」


咲夜は上機嫌な様子で再び歩みを進めるのであった。



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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.31 )
日時： 2013/01/19 20:44
名前： masa

どうもmasaです。

フム。咲夜か。この小説では初めてですね。

まあ、誰だって、いきなり約束をドタキャンされて、しかも一切説明が無きゃ怒りますよね。ってかいきなり道場破りみたいな登場しなくても。

で、何だかんだで随分と無茶な要求で。ナギの言い分の方が正しい気が。まあ、咲夜も一応はお嬢様ですから使用人の方が折れる方が妥当かも。

やっぱりな展開でハヤテは巻き込まれる事に。ってか咲夜の芸名は絶対に売れないでしょ。そんな芸名じゃ先輩芸人に｢君はお笑いのなめてるのか｣と怒鳴りそうなほどサブい芸名でしょ。
まあ、関西の人は一般人であってもお笑いにきびいしいみたいですから咲夜がああいうのも当然かもしれないですよね。

ってか、ハヤテはお笑いに向かない気が。ハヤテの場合、｢すべらない話｣ではなく｢リアルすぎて笑えない話｣になる気が。

まあ咲夜が何する気かは分かりませんが、良くない事という予感は当たる気がします。




次回も楽しみにしてますね。

では。

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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.32 )
日時： 2013/02/05 11:47
名前： アーたん大好き

はじめまして、初投稿ですのでよろしくお願いします。

改めて、やっと、やっと追いつきましたーーーー！はじめにゆーじさんの小説を見つけてからここまでたどり着くのに随分と時間がかかってしまいました。

アテネに関する小説は少なかった中でゆーじさんの小説を見つけて感動しました！アーたんが可愛い！おもしろい！

これからも書き続けてください。俺も勇気出ますから！

だいぶ関係のない話になりましたが感想は、リメイクですか、いいですね、でも続きも見たい気もします（笑）

これからもできる限りコメントしていきたいのでよろしくお願いします。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.33 )
日時： 2013/02/06 03:34
名前： ゆーじ


12月31日。大晦日。

すでに夕食を済ませ、自室にてノートパソコンをしているナギの隣で、マリアは窓から見える夜空を見上げる。


「今年もとうとう終わりですね」

「ああ、なんか最後の最後で長く感じた一年だったな」

「それってハヤテ君達のことですか？」

「それ以外にあると思うか？………ハヤテと会わなかったら我々は今頃咲夜とスイスだ」

「まぁいいんじゃないですかね？日本で過ごす年末年始も。なんならお祖父さまのところに行くのも…」

「嫌だね。何が悲しくてあのジジイの顔を見ながら一年を終えて、そして始めなきゃいけないのだ。………こういう日は自宅でゆっくりガキ○でも見ながら除夜の鐘を聞くのが一番………、…？」


ナギはネット画面にあるニュース広告の記事の一つを見つけ、クリックする。

そこには『恋人と更に仲良くなるには…』と書かれたタイトルと共に、『朝日などのロマンチックな場所に行くと効果覿面！』と書かれている。


「………………いいわけないな」

「え？」


ナギは突然立ち上がり、部屋を飛び出して行った。

残されたマリアは開きっ放しにされたノートパソコンの画面を覗き込み、『…あぁ』とどこか察したように声を上げた。




○ ○



一方ハヤテの自室。

勉強机の椅子に腰掛けるハヤテは、体を伸ばして大きく息を吐いた。


「はぁー…。今年も色々あったけど無事に生きて年越しできそうだなぁ…！」


ハヤテの呟きに、アテネは持っていた湯呑みに入るお茶を啜ると笑いかける。


「お疲れさま、ハヤテ」

「うん、アーたんもお疲れさま」

「私なんかあなたと会うまでは特に何かしていたわけではありませんわ。ねぇ奈緒」


アテネは隣で、ハヤテのベッドに座る奈緒に笑いかける。

奈緒は目を瞑り、溜息をつく。


「まぁ仕事もしない、外にも出ないのニート状態だったしね。…てかおかしくない？生きて年越しできるって」

「今までそう思わざる得ないような毎日だったんですよ」

「そうよ。ハヤテは大変だったのだから、あまり迷惑かけないようにしないとダメですわよ、奈緒」

「……………私もほぼ毎日あんたのために命かけて戦ってたんだけど」

「あはは…」


と、ハヤテ、アテネ、奈緒は完全に肩の力を抜いてリラックスモードで談笑に浸っていた。

そんな中、部屋の扉が思い切り開け放たれた。


「ハヤテ！一緒に朝日を見に………むっ！」


開けるなり言うナギは言い終える前に、アテネと奈緒を見て口をへの字に曲げる。


「あら、ごきげんよう三千院さん」

「お前達…こんなところに集まって…」

「だってこの屋敷、暇だし。……ハヤテ君、今度私の荷物運び付き合ってよ」

「あ、はい。構いませんよ」

「構えよ！お前の主は私だぞ！！」


突っ込むナギに奈緒は面倒くさそうに目を細めてナギを睨む。


「年の瀬までうっさいガキンチョねぇ…大体何？朝日がなんだって？」

「東スポならありますが…」

「新聞じゃねぇよ！そっちの朝日じゃなくて、日の方だよ！！初日の出！！」

「日の出、ですか？」

「そうだよ。お前と見に行きたかったのに…。……はぁ、もういい。私はガ○使でも見に……」

「待ってくださいお嬢さま！！」


肩を落として背を向けるナギの肩をハヤテは掴む。

そしてハヤテは、振り向かせたナギの両肩を改めて掴む。

ナギは目を丸くしつつ顔を赤くしてハヤテを見上げる。


「え、は…ハヤテ…？」

「初日の出…行きましょう！せっかくですし」

「……………ほ、ホントか？一緒に行ってくれるか？マリアにも内緒でだぞ？」

「もちろんです♪じゃあ早速準備しましょうか！」

「うんっ！」


ナギは無邪気な笑顔で大きく頷く。

…………が、その輝かしい笑顔もつかの間の出来事。敷地内の車庫に着く頃には笑顔だったナギの顔は不機嫌極まりないものになっていた。

ナギからしたら不機嫌なのも当然のことだ。

なぜなら…


「んー。三人を乗せるとなると…どうしよう？」

「この屋形車とかいいんじゃない？自転車に取り付けたら？」

「でも派手じゃ……。でも車なんて運転できませんし、これしかないですよね…」

「じゃー決まりね。ほらアテネ、早く乗って！」

「え…ええ…」

「じゃあお嬢さまも早くお乗りになってください」

「乗るかぁーーー！！」


ナギの全力の叫びにハヤテは目を丸くして、アテネと奈緒はすでに乗り込んだ屋形車から顔だけを出す。


「ええ！やっぱり屋形車は派手ですか？」

「ちげーよ！そういうことじゃねーよ！なんであいつらまで一緒なんだよ！！」

「え…だって、行きたかったんですよね？『皆で』一緒に初日の出を…」

「誰がいつ皆でって言ったよ！！こいつら連れて行くならマリアに内緒にする意味ないだろ！！」

「まぁ確かにマリアさんに秘密にする理由はありませんよね…。なんで内緒にしようと思ったんですか？」

「うるさーーーい！！………ふんっ、もう知らん！好きにしろ！」

「はぁ…。あ！ならもう、マリアさんも誘っちゃいましょうか！」

「勝手にしろ！ハヤテのバーカ、バーカ！！」


その後、腕を組んでそっぽ向くナギに首を傾げながらもマリアを呼びに行き、結局リムジンにて九十九里浜に向けて出発した。


「初日の出なんて見るの初めてだから楽しみですねー♪」

「僕も大晦日はバイトしてたら年越してたってことが殆どだったので楽しみですよー♪」

「いや…そんな悲しいエピソードを笑顔で言うのはどうかと…」


ニッコリと笑いながら一切笑えない過去をあっさりと語ってしまうハヤテにマリアの晴れた笑顔は乾いていく。

そしてマリアは、リムジンに乗り込んでからそっぽ向いて窓の方に顔を向けたきりしゃべりもしないナギに顔を向けた。


「マリアさんを呼びに行く頃にはあんな感じだったんですよ。僕、何か悪いことしましたかね？」

「……………。まぁ、海に着けば機嫌も直るでしょうし放っておいてあげてください…」

「はぁ…」


マリアは、ナギが先程ネットで見ていたものを実践しようとしたがハヤテの鈍感で二人きりどころか全員揃って向かう羽目になった事に対して拗ねているのだろうと悟り、溜息をつく。

そしてうたた寝し始めるアテネの額にデコピンをし続けるという悪戯を始める奈緒を眺めている内にリムジンは九十九里浜に到着した。


「わはー！夜の海だなんて初めてー♪」

「あうう…おでこが痛い…」


上機嫌気味な奈緒と涙目で額を擦るアテネがリムジンから降り、マリア、ハヤテもリムジンから降りる。

そしてマリアは未だそっぽ向くナギを呼びかける。


「ナギ。ほら、海に着きましたよ？」

「………………」


マリアの呼びかけにナギは心底不機嫌そうな顔で振り向く。

マリアは横に一歩避けて、ナギに景色を見せる。


「あ…」


ナギは海を見るなり目を丸くして、引き込まれるようにリムジンから降りて、砂浜まで走って行く。

そして海辺で立ち止まると、途端に両手を上げて


「おおおお！海だぁ！！」


と、叫びだした。

その顔はつい先程まで口をへの字にしていたとは思えないほどに晴れ晴れしく笑っていた。


「海だぁ！！」

「海ー！」


次第には奈緒も参加し、並んで手をあげながら叫ぶナギと奈緒にアテネは呆れたような目で見る。


「こんな時間にバカ元気な子たちですわね…。夜の海にそこまで惹かれるものがあるのかしら…」

「さぁ…」

「まぁ不機嫌が上機嫌になる程度にはあるんじゃないかと…」

「分かりませんわ…あの子たちの思考が…」

「あはは…」


やれやれと言わんばかりに首を横に振るアテネにハヤテとマリアは苦笑いを浮かべる。

そして話を切り替えようとマリアは、手を叩く。


「ま、まぁとにかく日の入りはまだみたいですし寒くないように温かい飲み物でも買いましょう。近くに自動販売機もありましたし」

「そうですね」

「なら私も行きますわ」

「じゃあ三人で行きましょうか」


ニコリと笑うマリアに、ハヤテとアテネは頷き、歩き出す。

そして自動販売機の前に到着し、缶コーヒーを5本買ったところでマリアは、腕時計を見る。


「あら、缶コーヒーを買っていたら年が明けてしまいまたね」

「え？………あ、ホントですね」

「呆気ない年越しでしたわね」

「ふふっ、まぁそう言わないでください。……とにかく。あけましておめでとうございます。ハヤテ君、天王州さん」


ニッコリと笑って言うマリアにハヤテもアテネも笑って返す。


「あけましておめでとうございます、マリアさん」

「あけましておめでとう。今年はお世話になりますわ」

「こちらの台詞です。今年もよろしくお願いしますね」

「はい！よろしくお願いします！」


マリアは再びニコリと笑うと、くるりと回って二人に背を向ける。


「さ、ナギと奈緒さんのところに戻りまょう。そろそろ叫び疲れて休んでるでしょうし」

「そうですね」


ハヤテ、マリア、アテネはそれぞれ手に缶コーヒーを持ちながら、ナギと奈緒が居た場所まで戻る。

しかしそこに二人の姿はなく、浜辺にある大きめの岩があるのみであった。


「「「………………」」」


ハヤテとマリアは顔を見合わせ、岩に近寄る。


「お嬢さま、奈緒さん？缶コーヒー買って…、あ」

「どうしました？ハヤテ君」

「見つかりましたの？」

「いや…見つかるには見つかったんだけど…その…」


ハヤテは困ったように笑いながら岩の下を指さす。

マリアとアテネはその指を追うように視線を下に向けると、寒いのにもかかわらず岩に寄りかかり二人寄り添って寝ているナギと奈緒を見つけた。

その姿に、マリアは目を丸くして口に手を添え、アテネは呆れたように目を細めた。


「休むどころか寝てますわ…」

「ま…まぁ休んでるといえば休んでるけどね…」

「…………………」

「どうしましょうか。起こした方がいいですよね？マリアさん」


ハヤテの問いかけに、マリアはしばらく黙って考え込むと、ハヤテに笑いかけた。


「いえ、ナギが寝てるのなら都合がいいです。このままヘリの準備をしてもらいましょう」

「え、ヘリですか？帰るだけならさっきのリムジンでも…」

「帰るは帰りますが屋敷ではない場所に帰ります。ヘリじゃないといけない場所なんですよ」

「それって…」

「三千院家の本邸。ナギのお祖父さまがいらっしゃるところに新年の挨拶も兼ねて行こうと思います。起きてる時に言っても嫌がるだけですしね」

「な…なるほど…」

「じゃあ今すぐ近くまで来てもらうように連絡しますから、二人はゆっくりしてて下さい」


マリアはポケットから携帯を取り出し、屋敷の人間に電話をかけた。

そしてその封十分後、ハヤテ達とは少し離れた位置でヘリが着陸した。

ハヤテはヘリが起こす風に打たれながら唖然とした表情でそれを見上げる。


「は…早い…」

「まぁこうなるかもしれないと前もって準備はしていたので。…………じゃあハヤテ君、ナギをお願いします」

「あ、はい」

「じゃあ奈緒は私が持っていきますわ」

「一人で大丈夫？」


既にナギをお姫様抱っこの状態で抱きかかえながらハヤテは、アテネに尋ねる。

そんなハヤテをアテネはじろりと睨む。


「私、そこまで貧弱者じゃありませんわ。女の子の一人くらいは担げますし、この子は見た目と食欲の割に軽いから平気ですわ」

「そ…そう…。無理はしないでね」

「ふんっ」


アテネは鼻を鳴らしながらそっぽ向き、奈緒を背負う。

そして多少ふらつきながらもゆっくりと歩き出すアテネにハヤテは、苦笑いを浮かべながらマリアとともに後を追うようにヘリへと向かった。



○ ○



全員がヘリの中に乗り込んだことを確認し、マリアの指示でヘリは離陸する。

どんどんと離れていく地上の景色をハヤテは興味深そうに窓から見下ろす。


「結局、初日の出は見れませんでしたねぇ」

「…そうですね」

「…………。ハヤテ君、なんだか楽しそうですね？」

「え！？い、いや…こういうの初めてだったので、つい…」


マリアの問いかけにハヤテは少し慌てつつ顔赤くして笑う。

そんなハヤテにニコリと笑いかけ、マリアは言う。


「ふふ、好奇心旺盛なのはいいですけどお祖父さまに会うのに徹夜状態なのはよろしくないのでハヤテ君も少しは寝て下さいね。たぶん朝くらいまでの長旅なので」

「そんなに遠い場所なんですか？」

「ええ。まぁ人里からは完全に孤立した場所にあるので」

「そうなんですか…。じゃあお言葉に甘えさせてもらいます」

「…はい。私もそろそろ眠くなってきちゃったので、お先に失礼しますね」

「はい。おやすみなさい、マリアさん」


笑って言うハヤテに笑い返し、マリアはゆっくりと目を瞑る。

それを見届け、ハヤテは窓を眺めながら黙っていたアテネに顔を向ける。


「アーたんは寝ないの？」

「………私はまだ平気ですわ。あなたも寝てしまいなさい、ハヤテ」

「そう…。じゃあ、おやすみ。アーたん」

.…………」


アテネはゆっくりと振り向き、微笑する。


「ええ、おやすみ。ハヤテ」

「………」


アテネは目を瞑り、やがてすぐに寝入ったハヤテを見届けてから再び窓に顔を向ける。


「………三千院家本邸…。三千院…帝…」


うわ言のように呟き、アテネは静かに目を細めた。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.34 )
日時： 2013/02/06 13:21
名前： masa

どうもmasaです。

なるほど、初日の出すか。確かにムードは満点ですよね、2人きりなら。

ハヤテとしてはアテネと奈緒さんを誘ったのはナギを想っての事でしょうね。真の意図には流石に気がつきませんでしたけどね。
皆で行けば楽しいだろうという考えだったんでしょうけど、ハヤテには単刀直入にはっきり言わないと。鈍感王のハヤテには通じないよ。

原作と、確かリメイク前は自転車で行って、魔女・・・マリアさんは置いてけぼりだったのに、車で行ったんですね。まあ、安全面とかは万全でしょうけど。

で、ナギはやっぱ子供ですよね～。夜とはいえ海でテンションあがるとは。ほとんど泳げない自分には考えられないかも。
ってか、ナギはともかく、何で奈緒さんまで?まあ、子供っぽいところがあるから納得か。

で、やっぱりナギは寝ちゃいましたか～。まあ、子供には眠たい時間帯ですよね～。波の静かな音まで加われば確実ですよね～。

ってか、アテネの事を心配してたけど、アテネはハヤテより遥かに強いんだから、奈緒さんぐらい運べるでしょ。奈緒さんが100kgオーバーなら分かんないけど。

帝とアテネ。原作上では共犯と言っていた2人が出会ったとき、どうなるか楽しみです。


では。

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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.35 )
日時： 2013/02/06 19:20
名前： デス

どーも初めまして。『シロクロ』を執筆しておりますデスという者デス。


ﾊﾔ「うぃ～ッス。『こっちの』綾崎ハヤテです」

ﾅｷﾞ「どうも、『こっちの』三千院ナギです」


この度初めて感想を書いたわけですがゆーじさんの作品は前々から読ませて頂いておりました。なんてったって私の大好物、ハヤアテ小説ですからね！

ですがただ単にそれだけの理由で読んでいる訳ではありません。ゆーじさんの文章力がとても高く、読んでいて苦じゃない、寧ろ楽しいと感じるからです。本当に凄いと思います、お世辞ではなく。状況が分かりやすいですし、地の文やセリフ等のスペースの取り方も上手いと思います。これ程クオリティの高い小説を読まないのは嘘だなと考えますよ私は。

そんなこんなでこれからも頑張ってください！


ﾊﾔ「おい、何勝手に終わろうとしてんだ」

ﾅｷﾞ「私達にも喋らせなさいよ！」


え～～、でもお前ら毎回毎回他所の作品の感想ページで痴話喧嘩始めるじゃん。そういうの作者さん達に失礼だし、第一私がもう飽きてるんですけど。


ﾅｷﾞ「何その言い草！あなたが無断で度々私達を感想ページに引っ張り出すからでしょうが！」

ﾊﾔ「そうだぜ。大体こんな弄りたくなる顔した女が隣にいるんだぞ。そりゃ虐めるよ」

ﾅｷﾞ「そうっ！！ハヤテがそうやって毎回毎回私にケンカを売るのが悪いと思うわ！ってゆーか弄り
　　たくなる顔って何？！」

ﾊﾔ「なんつーの？真性のドMヅラ？」

ﾅｷﾞ「それ私と同じ容姿した『向こうの』アテネさんにも失礼でしょうが！」


いやもう既に痴話喧嘩になってるし！スゲーなお前ら！トムとジェリー並みに絡んだら速攻ケンカすんだな！


ﾊﾔ「誰が猫と鼠だバカヤロー。オレ達の場合はボクサーとサンドバッグだろうが」

ﾅｷﾞ「それ完全に上下間系出てますけど？！私手も足も出ないどころか生物ですらありません
　　けど？！」

ﾊﾔ「ほらな、オレは何も言ってねーのに自分が弱い方の立場だと無意識に認識してる辺り根っから
　　のドMだろ」

ﾅｷﾞ「！ぁ・・・・・・・ぅ～～//////」


・・・なんかすいません。結局こいつらこんなんです。SMバカです。『そちらの』ハヤテとアテネはこんな爛（ただ）れた関係にならないように気を付けてね。

それでは！
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（本編更新） ( No.36 )
日時： 2013/02/07 22:24
名前： ゆーじ


■masaさんへ


＞「天王州瑞希じゃ」
瑞希「奈緒ちゃんがハヤテ君のお使いに一緒に行ったのは興味本位じゃろうな。まあ、退屈してたというのもありそうじゃが。

奈緒「あのー、皆誤解してるみたいだから言うけど…私がハヤテくんに付いて行ったのは、私をストーキングしてた奴らを撃退するためよ。ひまつぶしでもなんでもないっつーの！」

アテネ「もう…。もう少し違う言い方はないの？」


＞奈緒ちゃんの念のための保険が今回重要な役割を持ったのお。
まあハヤテ君が色々と言いたいのは当然じゃな。十分すぎるぐらいに銃刀法違反じゃからな。


ハヤテ「十分どころかもろですけどね…」

奈緒「テヘペロ☆」



＞流石はハヤテ君じゃな。奈緒ちゃんと同じくらいのタイミングで敵に気がついたんじゃからな。
>二手に分かれた事が重要な意味を持ったのお。まあ、敵も甘く見たという所じゃな。


ハヤテ「慣れてますから♪」



＞敵の作戦も中々と言えるかもしれんな。弱いもので奈緒ちゃんの油断を誘い、隙をついて足に怪我を負わせるとは。
ハヤテ君の援護が間に合ってよかったよ。でなければ奈緒ちゃんは死んでいたじゃろうから。


奈緒「まったく。私としたことが油断したわ」

ハヤテ「間に合ってよかったです♪」


＞しかし、ハヤテ君はすごいのお。難しそうな銃を軽々と扱うとは。奈緒ちゃんが驚くのも無理はないのお。
>まあ奈緒ちゃんは殺しをしてなかったようじゃな。我々の作者は一瞬ノッキングしたかの思ったそうじゃが、たんに睡眠薬じゃったか。


奈緒「…リメイク前は余裕で殺してたけどね」

ハヤテ「え！？」


＞そう言えば、奈緒ちゃんとハヤテ君は昔会ってたんじゃったっけ。
奈緒ちゃんを迷いなくおぶるとは普通なら肩を貸す程度じゃったろうに。

まぁぶっちゃけそういう設定なんですが、まだ本編内で明かしてないことは言わないでくださいね…ネタバレになるので。



■道草さんへ

＞遅ればせながら、あけましておめでとうございます！！
では今年初の感想をば。


はい！超今更ながらあけましておめでとうございます！！



＞相変わらずパッキー好きですね奈緒さん。
いやまぁそんなことはともかく、なぜハヤテの買い出しに付き合う気になったのか個人的に気になります……

奈緒「だーって美味しいんだもん！ほら、最後までチョコたっぷり♪」

ナギ「それはTO○POだ」



＞そして出かけた先ではアテネを狙う刺客たちと戦闘……
奈緒さんもすごいですが、彼女も驚くほどのハヤテの手際も見事でしたね！！
ハヤテも意外と容赦ないところあるからなぁ……

奈緒「おじょーさまのためなら幼女相手にも口は悪いし、車のドア取り壊すし、誘拐犯は振り回すしね」

ハヤテ「奈緒さんも同じようなものでしょ…」


＞ハヤテにおんぶされながら、奈緒さんもいろいろと思うところがあるんでしょうね……
>これから二人の関係がどうなっていくか楽しみです♪
今年もゆーじさんの話、楽しみにしてます！！
ではまた♪


奈緒「なっ、何よ！期待してんじゃないわよ！これそういうジャンルじゃねーから！」

ハヤテ「わわ、わかってますよ！！/////」



■masaさん

＞フム。咲夜か。この小説では初めてですね。
まあ、誰だって、いきなり約束をドタキャンされて、しかも一切説明が無きゃ怒りますよね。ってかいきなり道場破りみたいな登場しなくても。


咲夜「しゃーないねん。ナギのせいでうちの予定はぐちゃぐちゃや！！」

ナギ「知るか、んなもん！！」


＞で、何だかんだで随分と無茶な要求で。ナギの言い分の方が正しい気が。まあ、咲夜も一応はお嬢様ですから使用人の方が折れる方が妥当かも。


ナギ「そうか。使用人も大変だな、こんなめちゃくちゃな主人の従者だと」

咲夜「マリアさんも自分だけには言われたくなかったと思うで」


＞やっぱりな展開でハヤテは巻き込まれる事に。ってか咲夜の芸名は絶対に売れないでしょ。そんな芸名じゃ先輩芸人に「君はお笑いのなめてるのか」と怒鳴りそうなほどサブい芸名でしょ。
>まあ、関西の人は一般人であってもお笑いにきびいしいみたいですから咲夜がああいうのも当然かもしれないですよね。

咲夜「笑いに関してはウチはうるさいで！」

ナギ「うざいくらいにな」


＞ってか、ハヤテはお笑いに向かない気が。ハヤテの場合、「すべらない話」ではなく「リアルすぎて笑えない話」になる気が。


ハヤテ「そんなことないですよ？ただ小学校時代の…」

ナギ「その時点で笑える予感がしねーよ！！」


＞まあ咲夜が何する気かは分かりませんが、良くない事という予感は当たる気がします。

この小説をリメイク前から読んでいただけてる方なら、予測はできることなんですがねー、一応。
ヒントは後輩です！(笑)



■アーたん大好きさん

＞はじめまして、初投稿ですのでよろしくお願いします。

はじめまして！ありがとうございます！



＞改めて、やっと、やっと追いつきましたーーーー！はじめにゆーじさんの小説を見つけてからここまでたどり着くのに随分と時間がかかってしまいました。

おおう！？その言い方はもしや過去の黒歴史まで読破済みの方…！？



＞アテネに関する小説は少なかった中でゆーじさんの小説を見つけて感動しました！アーたんが可愛い！おもしろい！
>これからも書き続けてください。俺も勇気出ますから！

まぁ確かにハヤアテ小説は少ないですよねー…。大体ヒナギクかナギに行っちゃいますし。

ありがとうございます！この小説のアテネはキャラが壊れない程度に壊れていますからね！(え
一応ひなゆめでの積み重ねが消えたのが悔しいので少なくとも追いつくまでは書き続けるつもりです！


＞だいぶ関係のない話になりましたが感想は、リメイクですか、いいですね、でも続きも見たい気もします（笑）

ひなゆめでの続きの話ですか？
私もせめてルカ編は終わらせたかった…orz


＞これからもできる限りコメントしていきたいのでよろしくお願いします。

ありがとうございます！
春休みに入ると本格的にパソコンがないからレス返しが出来ませんが、よろしくお願いします！


■masaさん

＞なるほど、初日の出すか。確かにムードは満点ですよね、2人きりなら。
ハヤテとしてはアテネと奈緒さんを誘ったのはナギを想っての事でしょうね。真の意図には流石に気がつきませんでしたけどね。
皆で行けば楽しいだろうという考えだったんでしょうけど、ハヤテには単刀直入にはっきり言わないと。鈍感王のハヤテには通じないよ。

ナギ「そうなんだよなぁ…ホント鈍感王だよお前…」

ハヤテ「はぁ…」



＞原作と、確かリメイク前は自転車で行って、魔女・・・マリアさんは置いてけぼりだったのに、車で行ったんですね。まあ、安全面とかは万全でしょうけど。

ぶっちゃけると、さっさと帝回を終わらせて伊澄とかを出したいがための短縮です(オイ


＞で、ナギはやっぱ子供ですよね～。夜とはいえ海でテンションあがるとは。ほとんど泳げない自分には考えられないかも。
ってか、ナギはともかく、何で奈緒さんまで?まあ、子供っぽいところがあるから納得か。

奈緒「えっ、夜の海ってテンション上がらない？」

ハヤテ「別に…」

アテネ「特には」

奈緒「えー！？あんたらつまんない性格してるわねー！」

アテネ「………なんなのこの子、腹立つわね…」

ハヤテ「まぁまぁ…」


＞で、やっぱりナギは寝ちゃいましたか～。まあ、子供には眠たい時間帯ですよね～。波の静かな音まで加われば確実ですよね～。
ってか、アテネの事を心配してたけど、アテネはハヤテより遥かに強いんだから、奈緒さんぐらい運べるでしょ。奈緒さんが100kgオーバーなら分かんないけど。

奈緒「はぁ？何言ってんのあんた？」

アテネ「だ、だから言葉を選びなさい！！」


■デスさん

＞どーも初めまして。『シロクロ』を執筆しておりますデスという者デス。
ハヤ「うぃ～ッス。『こっちの』綾崎ハヤテです」
>ナギ「どうも、『こっちの』三千院ナギです」


ナギ「ハヤテがぐれてる！？」

ハヤテ「お嬢さまが敬語を使ってる！？」

アテネ「ていうか見た目が私！？」


＞この度初めて感想を書いたわけですがゆーじさんの作品は前々から読ませて頂いておりました。なんてったって私の大好物、ハヤアテ小説ですからね！

ですがただ単にそれだけの理由で読んでいる訳ではありません。ゆーじさんの文章力がとても高く、読んでいて苦じゃない、寧ろ楽しいと感じるからです。本当に凄いと思います、お世辞ではなく。状況が分かりやすいですし、地の文やセリフ等のスペースの取り方も上手いと思います。これ程クオリティの高い小説を読まないのは嘘だなと考えますよ私は。


いやん、べた褒めじゃないですかちょっとー！そこまでの価値ないですよこれ！

ト書きなんて同じようなことしか書いてないし、むしろト書きが成り立ってないしクオリティなんて下の下だし…。

でもありがとうございます！！


＞そんなこんなでこれからも頑張ってください！

はい、頑張ります！



＞ハヤ「おい、何勝手に終わろうとしてんだ」
ナギ「私達にも喋らせなさいよ！」
>え～～、でもお前ら毎回毎回他所の作品の感想ページで痴話喧嘩始めるじゃん。そういうの作者さん達に失礼だし、第一私がもう飽きてるんですけど。

ナギ「お前が飽きるなよ！」

ハヤテ「気まぐれな方なんですね、デスさんは…」



＞ナギ「何その言い草！あなたが無断で度々私達を感想ページに引っ張り出すからでしょうが！」
ハヤ「そうだぜ。大体こんな弄りたくなる顔した女が隣にいるんだぞ。そりゃ虐めるよ
ナギ「そうっ！！ハヤテがそうやって毎回毎回私にケンカを売るのが悪いと思うわ！ってゆーか弄り
>　　たくなる顔って何？！」
>ハヤ「なんつーの？真性のドMヅラ？」
>
>ナギ「それ私と同じ容姿した『向こうの』アテネさんにも失礼でしょうが！」


ナギ「ぱっと見、ぐれたハヤテと口調が少し普通寄りになったアテネの喧嘩だな」

アテネ「色々貴重な光景ですわね」

奈緒「でもナギなんでしょ？よかったわねー、これであんたも乳魔神よ」

ナギ「うっさいわ！」



＞いやもう既に痴話喧嘩になってるし！スゲーなお前ら！トムとジェリー並みに絡んだら速攻ケンカすんだな！
>ハヤ「誰が猫と鼠だバカヤロー。オレ達の場合はボクサーとサンドバッグだろうが」
>ナギ「それ完全に上下間系出てますけど？！私手も足も出ないどころか生物ですらありませんけど？！」
>ハヤ「ほらな、オレは何も言ってねーのに自分が弱い方の立場だと無意識に認識してる辺り根っからのドMだろ」
>ナギ「！ぁ・・・・・・・ぅ～～//////」


ナギ「頑張れよ私！不良ハヤテに負けんな！」

ハヤテ「ていうか不良呼ばわりってなんか失礼なんじゃ…」

奈緒「こっちのあんたは原作基準過ぎて普通だもんねー。私はあっちのハヤテ君のが接しやすそうね」


＞・・・なんかすいません。結局こいつらこんなんです。SMバカです。『そちらの』ハヤテとアテネはこんな爛（ただ）れた関係にならないように気を付けてね。
それでは！


アテネ「なりませんわよっ！！ねえハヤテ！？」

ハヤテ「え！？う、うん…そうだね…」

奈緒「ハヤテ君はMに見せかけたドSっぽいけど、アテネはなんかハヤテ君限定でドMになりそうね」

アテネ「にゃ！？/////」



masaさん、道草さん、アーたん大好きさん、デスさんありがとうございました！
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを（レス返し追記） ( No.37 )
日時： 2013/02/11 17:33
名前： ゆーじ

何かうるさい音と謎の浮遊感。そしてやけに差し込む朝日に目覚める。

見覚えのない景色。屋敷の部屋じゃない。目を逸らすと、向かい側にハヤテとアテネがいる。

ハヤテは俯いて寝息を立てて寝ている。アテネは窓を見ているがその顔は前髪で見えない。

両隣を見ればマリアと奈緒も同じように寝ている。

ふと窓を見る。生い茂る木々と地平線の向こうまで広がる草原。そして見覚えのある…むしろ見たくもない大きな建物。

あれは…そう、あの屋敷はーーー


「ああああああああああ！？」


窓に張り付きながらのナギの叫びに、ハヤテは飛び起き、マリアと奈緒も目を擦りながら起きる。


「どうしましたか、おじょーさまっ」


ナギに一番に様子を確認するハヤテだが、なんだかんだでまだ寝ぼけ気味である。


「何ようっさいわねぇ…最悪の目覚まし…」

「ナギ。どうかしましたか？」


マリアの問いかけにナギは見開いた目で振り向く。


「どうしたもこうしたも！！なんなのだこれは！なぜ私の目にあの屋敷が映っているのだ！！」

「なぜ…？あら、なんででしたっけ…？」

「いやいや…マリアさんが都合がいいからってこうしたんですよ…？」

「ああ！そうでした、そうでした。寝起きだから頭が働いてませんね。…そういうことです♪」

「どういうことだぁーー！！」

「ま、まぁまぁ落ち着いてくださいよ、お嬢さま。ほら、見えるってことはもうすぐなんですよね、お祖父さまの本て………」


ハヤテは窓に目を向けながらナギを宥めようとしたが、目に映った本邸を窓に張り付いてまで見る。


「…………ここ、遊園地でしたっけ？」

「クソジジイの本邸だ」

「お祖父さまのご職業は王さまか国王か何かなんですか？」

「石油王。王ではあるな」

「いや、職業じゃねーからそれ」


ハヤテの問いかけに不機嫌そうに返答するナギに、奈緒は冷静に突っ込む。

ハヤテは未だ信じられないという顔で、再び窓から見えるそれを凝視する。

その、緑の丘の上に立つ、まるで某ランドのシンデレラ○のような。童話などによくあるお姫様だか王子様だかが住むお城のような、そんな建物。

ていうか、日本国内の光景かよこれ。


「ふぅ。まぁここまで来たからには挨拶くらいはしてやるか」

「それがいいですよ」

「…ふん。ハヤテはくれぐれも気をつけろよ」

「へ？何がですか？」


ナギは頬杖をつきながら、ハヤテに真剣な表情で言う。


「あのクソジジイは私でさえも何を考えてるのか分からん。もしかしたら変な事を吹き込まれるかもしれない。どのみち何を言われても聞く耳は持つな」

「は…はぁ…」

「お前らもだ」


次にナギは奈緒とアテネに顔を向ける。

奈緒はまさか自分に来るとは思ってなかったので、面食らった顔で自分を指さす。


「えっ、私達も？」

「当たり前だ。どちらかと言えばハヤテより天王州家のお前たちの方が心配だ」

「大丈夫よ、あんたのジーさんが誰だか知らないけど、どのみち接点なんかないんだから。ねぇアテネ」


奈緒は、依然窓に顔を向けるアテネに問いかける。

必然的に全員の視線がアテネに集まるが、アテネは微動だにしない。


「なんだ、機嫌でも悪いのか？」

「ここに座ってからずっと窓見てましたが…」

「ええっ、もしかして寝ないでずっとですか？」


小声で会話を交わしたあとに、全員が再びアテネに顔を向ける。

そしてしばらく沈黙が続くと

ーーかくっ

窓を見ていたアテネの体勢が崩れた。


「って、寝てんのかよ！紛らわしいなおい！！」

「こいつが寝ないで朝迎えるとか無理だと思った。逆に安心したわー」

「ま…まぁ彼女らしいといえばらしいですけどね…」

「あはは…」

「まったく…まぁいい、とにかくハヤテは本当に気をつけろ。いいな？」

「は…はい…」


それきり、再びそっぽ向いてしまったナギをハヤテはじっと見つめる。

彼女が住んでいるあの屋敷は充分に広い。そんな屋敷の本邸があんな城のような建物だという事は、三千院ナギという少女は…僕が想像していたよりも――


「「「おかえりなさいませ、ナギお嬢さま！！」」」


大金持ちのお嬢さまだったのだ…。

ヘリから降りてから屋敷の玄関扉までの道の両側に陳列した使用人たちの出迎えにハヤテは心の底からそう思った。

その一方でナギは呆れたような顔で適当に受け答え、溜息をつきながら歩き出す。

元々使用人嫌いなナギからしたら大迷惑な行為である。


「マリアさまもおかえりなさいませ」

「いえ、皆さんいつもお疲れ様です♪」

「はーっ、使用人がいるってこんな感じなんだー」

「天王州家は使用人がいないんですか？」

「うん。私とマキナくんだけ」

「そうなんですか…」

「おいお前。ちょっと待て」

「へ？」


ナギを先頭に屋敷まで歩いて行くと、扉の前で腰に手を当てながら立ちはだかる咲夜を前にナギは止まる。


「よぉ、ナギ。ずいぶん遅かったやないか」

「………なぜお前がここにいる、咲夜」

「いややわー。ウチかて三千院家の親戚やないか」

「知るかっ！おいハヤテ！この漫才バカを軽く捻って…ってあれ？」


ナギは振り返っても姿が見えないハヤテを辺りを見渡して探す。

しかし見えるのは無駄に綺麗な景色と使用人の道、そしてマリアとアテネを背負う奈緒の姿だけ。


「…ハヤテ？」

「不審者扱いされて捕まってるんとちゃう？」

「いやいや、そんなまさか…」

「お嬢さま、少々時間をよろしいでしょうか？」

「ん？なん――」


使用人の一人に呼びかけられ、振り向くなりナギは硬直した。


「ヘリから不審者が一人出てきて、しかもナギお嬢さまの執事を名乗っているのですが…どうすればよろしいですか？」

「………………」


ナギは使用人の隣で縄で縛られて涙目で助けを乞う視線で見るハヤテに、言葉を失う。

しかも後ろでは咲夜が『ホンマかいな…』と呟いている。

ため息をついて頭を掻き、ナギは言う。


「…そいつは私の新しい執事だ。不審者じゃない」

「ええ！？こんな貧相で不幸そうな顔の少年がですか！？」

「……すいませんね。貧相で不幸そうな顔で」


戸惑いながらハヤテを見る使用人に、ハヤテは顔を不機嫌にさせてそっぽ向く。


「えっ、で…ですが、しかし…え…ええ…？」

「いいから…とりあえずその縄を解け！！」

「は…！はい！」


ハヤテの誤解も解き、縄を解いてもらったところで一同は屋敷内の一室に案内された。

そして部屋に着くなり咲夜と奈緒は笑いだし、ハヤテは部屋の隅で体育座りをして蹲った。


「あははははっ！ちょっと勘弁してよハヤテ君！普通不審者扱いなんかされる！？あはははははっ！！」

「そうやで借金執事！その辺の売れない芸人よりおもろかったで！傑作や…！！」

「こ…こらお前ら！笑ってやるな！！」

「………いいんですよお嬢さま…。こういうの、慣れてますし…」


ハヤテは埋めていた顔を上げ、涙目のまま振り向く。


「でも…そんなに僕、不幸そうに見えますか…？」

「「「「見える」」」」

「そこは満員一致ですか！！」


ハヤテは再び体育座りしながら俯き、すすり泣く。


「うう…もういいですよ…。そうやって不幸そう不幸そうって言われながら生きてやりますから…」

「ま…まぁそう言うなって。それも自分らしさではないか」

「不幸そうなのが自分らしいなんて嫌です…」

「そう気を落とすな。…ほら、外でも歩いて気分転換とかしてこい！…な！」









そして気づいた頃にはハヤテは、一面緑の景色の中に一人風に吹かれながら座って黄昏れていた。

その目は依然濁っている。


「………不幸そうな顔の人間がいるってことは、幸運そうな顔の人間もいるってことだよなー…。どんな顔なんだろうなー…これでもかってくらい幸運な人なんだろうなー…」


呟いて、ハヤテは項垂れて溜息をつく。


「おや？お主は…誰じゃ？」

「え？」


背後から聞こえる穏やかな声に、ハヤテは振り向く。

ハヤテの後ろには小柄な老人が一人立っていた。

落ち込んでいたとはいえ、まったく気配に気づかなかったことにハヤテは内心で驚く。

老人はハヤテの隣まで歩み寄ると、腰を下ろす。


「お前さんは何者じゃ？執事服を着ているが、この家の者ではなかろう」

「あ…ぼ、僕は…綾崎ハヤテです。…貧相で不幸そうな顔ですけど…一応執事です…ナギお嬢さまの…」

「ほう…？ナギの、か。ならばお主が新しい執事か」

「えっ…」


ハヤテは目を丸くして老人に顔を向ける。


「お爺さん…信じてくれるんですか？使用人の人達は何回言っても信じてくれなかったのに…」

「ほっほっほ。何、ここの使用人というものは仕事に力を注ぎすぎてやや頭が硬くなっておるからの。許してやってくれ」

「はぁ…」

「それにワシは人を心の目で見て判断する。不幸そうだろうがお主が嘘をついていないということはすぐ分かるよ。使用人の者たちが信じなくとも、ワシはお主を信じるよ」

「…………………」


ハヤテはしばらく面食らうとニッコリと老人に笑いかける。


「あ、お爺さんちょっとおボケが始まってたりしてますか？」

「それが慰めてやった者に対する態度なのか？」


ハヤテは青筋を立てる老人に謝る。

しかし老人はそんなこと初めからなかったかのように話を変える。


「して、なぜお主がナギの執事なのじゃ？どういう経緯であやつに出会った」

「経緯ですか？経緯は…借金でしたね。1億5000万の」

「ほう…見たところそんな奴には見えんが？」

「違います。僕のじゃなくて両親のなんですよ」

「両親…とな？」

「ええ。僕の両親、ほんと駄目人間で…今まではずっと僕や兄が働いて稼いでたんです。その果てが人身販売で僕を売って…本当に、どこまでも駄目な人達でしたよ」

「………………」

「でもそんな時にナギお嬢さまに出会って…肩代わりしてくれたんです。だから僕は命を救ってもらったお礼に40年かけてそれをすべて返済するんです。感謝してますから」

「なるほど。分かった」

「分かってくれましたか？じゃあ…僕そろそろ戻りますから、お爺さんも寒くなる前に戻ってくださいね」


ハヤテは老人に笑いかけ、そのまま老人を背に歩き出す。

穏やかだったはずの老人がニヤリと笑みを浮かべているのも知らずに。


「つまりは…お前の人生は無意味である、ということじゃな？」

「………え…？」


その言葉に、ハヤテは目を丸くして振り向く。

見れば先程まで座っていた老人は立ち上がり、不敵に笑いながらこちらを見ていた。


「お爺…さん…？」

「ナギの奴…つまらない男を選びおって。まぁ期待などはしていなかったがの」

「……………僕の人生が無意味って…どういうことですか…？」

「言ったままの意味じゃ。お前の人生は無意味。それをこのワシ、『三千院帝』が保証してやろう」

「三千院って、まさか…！」

「ふん、どうやら勘も相当鈍いようだの。まぁいい。お前の人生は無意味だが、それでも価値があるものにしたいと言うならば…これを渡そう」


帝はポケットから何かを取り出すと、ハヤテに投げ渡す。

ハヤテはそれを受け取り、手を広げて見る。

その、青く輝く石のペンダントを。


「…これは…飛行石？」

「違ぁう！それは道標じゃ！！」

「ラピュタへのですか？ 」

「違うわ！！……ごほん、それは道標。お前が自分の人生が無意味ではないと言うのであれば、それをこの先、無くさず、奪われず、壊されず、肌見放さず持っているといい。そして来たる日まで持ち続けたならば、必ずーー」

「ラピュタに行ける？」

「そう、行ける………って、行けないわ！！……………。必ず道は開かれる。お前が進むべき道がな」

「僕の、進むべき道…？」

「それは恐らく二つに分かれるじゃろう。どちらを選ぶかはお前次第」

「…………………」

「精々来たる日まで頑張ることじゃな。綾崎ハヤテ」


帝は最後に再びハヤテに不敵な笑みを見せると、立ち尽くすハヤテを背に立ち去った。

ハヤテはその後ろ姿を呆然と眺めていた。



○ ○



「孫娘よ、三千院家の遺産がほしいか」

「人を散々待たせてやっと来たと思ったら第一声がそれかクソジジイ」


帝に詰め寄られながらナギは呆れた顔で帝を睨む。

しかしすぐに読んでいた新聞に目を落とす。


「まぁ遺産よりお前がさっさと死んでくれる方が嬉しいけどな」

「マリアぁ！ナギが…！孫娘がワシをいじめる！」

「いじめてねーよ！お前のが散々いじめてるだろこのジジイ！！」

「まぁまぁナギもお祖父さまもお互いさまなんだから落ち着いてくださいね♪」

「「…………………」」

「お互いさまなのは認めるんだ！」


マリアの言葉で同時に静かになるナギと帝に奈緒は突っ込みを入れる。

その声に帝は奈緒に振り向く。


「うん？なんじゃお主は。見ない顔じゃな」

「えっ？」

「おい、クソジジイ。そいつは色々あって今は私達と一緒に別宅で暮らしてる天王州家の者だ。…あんまり変な目で見るな」

「ほう…天王州家とな？見たところ令嬢ではないようじゃが」

「その令嬢の従者だ。主は隣の部屋で爆睡中だ」

「なるほどのぅ…。人様の家で寝るとは…あの娘も随分と丸くなったものじゃ」

「…？(この爺さん…アテネを知ってるの…？)」

「まぁいい。それより遺産の話に戻すぞ、孫娘」

「ふん。まぁ辞世の句程度には聞いてやろう」

「というより、どうしていきなり遺産の話になるのですか？」


マリアの問いに帝は『うむ』と言ってから、ナギを見る。


「このままでは…ナギが死ぬことになる」


ドカァ！！←ナギが力の限り帝を殴った音。


「さーて、どうして私が死ななくてはならないのか簡潔に説明してもらおうか。ボケです、だなんてボケは通じないぞ？なぁ咲夜」

「説明する前にジーちゃん死にそうやけどな」

「ぐふぅ…死んだ婆さんが見えたぞ…」


帝はフラつきながらも立ち上がり、窓辺に近寄って空を見上げる。


「考えてもみろ孫娘。ワシももう長くない。ワシが死んだら遺産は誰が継ぐかでもめるであろう。よくある遺産相続のいざこざじゃ」

「まぁ常識的に考えればお前と血が繋がる私が継ぐんだけどな」

「しかし13歳であるお前が継ぐには多すぎる金じゃ。納得しない親族も数多くいる」

「ふん、金に目が眩む強欲な奴らが。そんな奴らは孤島の中で惨殺でもされてうみねこに鳴かれればいいのだ」

「そうならないよう、ワシは考えた。ある条件を満たせば…例え親族ではなくとも、その人間に遺産を渡そうと」

「ほう…？それで、その条件というのは？」

「うむ。その条件というのはーー」






『ごめんなさい…私の負けです…。認めますから…。だから…どうか許して…』






「…………と、ナギに泣きながら謝らせる。という条件でーー」


ドカァ！！！！！←ナギが力の限り帝を殴った音。


「そうかそうか分かったよ。お前はあれだろ？その残り少ない人生を今ここで終わらせたいと、そう言いたいんだろ？言ってくれればすぐに実行できる適任者がここに居るんだよ。なぁ奈緒」

「実行する前にジーさん死にそうだけどね」

「ぐふぅ…。しかしこれはお前が遺産相続で死ぬことがないようにした結果で…」

「私が死のうがなんとも思わない奴がここぞとばかりに孫想いのジジイを装うなバーカ！そんなことを言うくらいなら死んだほうがマシだっ！！」


ナギは帝に怒鳴り散らすと、部屋のドアノブを掴む。


「ナギっ、どこに行くんですか？」

「ハヤテを探す！見つけ次第さっさと帰るんだ！！だから来たくなかったんだよ、こんな所！！」

「……………忘れるでないぞナギ」


帝の言葉にナギは振り向く。

今さっきまで突っ伏していたはずの帝は、元からそうしていたように堂々と立ち上がってナギに不敵な笑みを向けていた。


「今の話はすでに親戚どもに伝えてある。早い者はお前にその言葉を言わせるべく動いているぞ？」

「…ふんっ。上等だ。私はそんな奴らに涙など見せないっ！！」


言い放ち、ナギは部屋を出ていった。






○ ○





ハヤテは先ほどと変わらず座り込み風に吹かれて黄昏れていた。

しかし考えていることは先程とは違っていた。


「……僕の人生が…無意味…」


今まで、生活や親が増やしていく借金や働くことしか考えていなかったから自分の人生のことなんか考えたこともなかった。

言われてみれば働かない両親の代わりに働き続けて、学校に行っているのもよくよく考えればただの負けず嫌い。

学校に行っても、友達も作らず結局は働いてばかり。青春のせの字もなかった。

心の底から楽しいと思えたのはアテネと居た頃だけ。

果ては両親に売られ、生涯の半分を借金の返済に費やす始末。無意味と言われても仕方ないのかもしれない。

返済自体は自分が言い出したことだし、自業自得なのかもしれない。しかし元を辿ってもその金はハヤテ自身には全く関係ない金なのだ。

生まれたその日から両親に働かさせられることを強いられ、結局は捨てられた。

もう、自分が今ここにいる理由や意味さえ分からなくなってくる。


「僕は…結局、何がしたいんだろう…」

『必ず道は開かれる。お前が進むべき道がな 』

「僕の…進むべき、道…」

「ーーハヤテっ！」

「っ！」


背後からの声にハヤテは少々驚きつつも振り向く。

見れば、ナギが小走りで駆け寄って来ていた。


「…お嬢さま…？」

「やっと見つけた…探すのに手間取ったぞ」

「すいません…適当に歩いてたので、こんなところに…」

「いや。歩いていろと言ったのはこっちなのだ、気にするな。……じゃあ早速だが帰るぞ」


ナギはハヤテの袖を引っ張る。


「え？帰るって…もう帰るんですか？」

「ああ。もうあのジジイには付き合いきれん」

「……………」


ナギの言うジジイというのは、恐らくは三千院帝のことだろう。

ハヤテの脳裏に再び言われたことが過る。

そしてその刹那、ハヤテは目をカッと見開かせて素早くナギの肩を抱いて横に避けた。

それと同時にハヤテがいた位置に日本刀が振り下ろされた。


「…このギルバートの攻撃を避ケルとは…アナタ中々やりマスネー」


その日本刀を持ちながら、不敵に笑う外人の男性を見るなりナギは舌打ちをする。


「ちっ…これがジジイの言っていたことか…」

「どういうことですか？あの胡散臭い外人の方は一体…」

「あいつはギルバート。…下手をしたら三千院家の遺産をすべて相続するかもしれない男だ」

「遺産を相続って…それは血縁者であるお嬢さまが継ぐんじゃ…」

「ああ。私もそう思っていたが…どうやらアイツを含む親戚達はそれを快く思っていないらしい…」

「フフフ、そういうことデース。というわけで僕のために泣いて謝ってくだサーイ！」

「ざけんな、バーカ！！」


ギルバートの要求にナギは即答する。

ショックを受けるギルバートの一方で、ハヤテは目を点にする。


「泣いて…謝る…？」

「あっ…！ハヤテ、それは…！！」

「なんデスカ？アナタ知らないのデスカー？ナギお嬢サマを泣かせば遺産が貰エルという話を」

「え…えぇ、まぁ」

「しょーがない人デスねー！特別に教えてあげマス。お嬢サマをこう…『許してくだサーイ。お願いしマース』と泣かせつつ言わせれば三千院家の遺産は我がモノに！そういう話なのデース！」

「…っ！！」


繋がった。

心の中でハヤテはそう呟く。

見つけた…僕の…進むべき道。


「ではナギお嬢サマ！改メテ…ボクのために泣イテ謝ッテクダサーイ！！」

「するかぁあああ！何度を言わせんな！！帰れ！アメリカに帰れ！！」

「そうデスか…ならば仕方ありませーン…」


ギルバートは立ち尽くすハヤテを見て目を光らせ、日本刀を構える。


「口で駄目ナラ力ヅクで行クまでデース。帝サマからはそこの執事を倒セバお嬢サマは泣クかもしれナイと教えていただきマシタ。だからソイツを倒シテ、遺産を我がモノにしマース！！」


剣を構えて走り出すギルバートにハヤテは何もしない。

気付いていないと思いこんだナギは必死にハヤテの名を呼ぶ。


「ハヤテ…！逃げろ！危ないっ！！」

「死にナサーイ！！」


ギルバートは日本刀を振り下ろす。

その振り下ろした剣の刃を、ハヤテは手で掴み止める。


「っ！」

「ナニ！？」


ハヤテは血を流しながらも刃を掴む力を強め、次にもう片方の手でギルバートの顔をガシッと掴む。

そしてゆっくりと顔を上げてギルバートを射抜くような目で睨む。


「あなた達の醜い争いに…お嬢さまは巻き込ませません。お嬢さまは泣かせないし、僕もやられない。…それだけは覚えておきなさい…」


力の篭った声で言うと、ハヤテは一度手を離し、すぐに拳を作りそのまま思いきり下からギルバートの顎をめがけて突き上げた。

食らったギルバートは宙を舞い、そして地面に倒れた。

ナギはしばらく硬直するも、すぐに我に返りハヤテに駆け寄った。


「ハヤテっ！」

「…お嬢さま。大丈夫でしたか？」

「それはこっちの台詞だ！お前…血が…！」


ハヤテは忘れていたように刃を掴んだ方の手のひらを見る。

手のひらの中央に血に塗れたパックリと開いた横一本線を見て、ハヤテは笑う。


「大丈夫ですよ、こんなの。どうってことないです」

「いいわけあるかっ！手を出せ！ハンカチがあるからとりあえず止血しなきゃ…！」


ナギはポケットからハンカチを出しハヤテの手のひらの傷を押し当て、締めていたリボンを解いて巻きつける。

そしてそっと触れて、表情を曇らせて俯く。


「ごめん…私のために…」

「お嬢さま…」


ハヤテはフッと笑ってナギに目線を合わせるように膝を折って、ナギの手に触れる。

ナギはハッとしたように前を見る。


「主を守るために怪我をするのならば…執事としては本望ですよ。怪我一つであなたを守れたんですから」

「ハヤテ…」

「お嬢さまは、僕が守ります」

「えっ？」


目を丸くするナギにハヤテはニコッと笑いかける。


「あなたを泣かせようとする奴らから…あなたを守ります」

「………………」

「ようやく見つけた僕の道…わかってくれますか？」


ハヤテは笑いながら首を傾げる。

面食らっていたナギは、徐々に顔を赤くさせ、次第には頭から湯気を出しながら俯く。


「そ、その…あの…。……よ……よろしく…お願い…します…」

「……はいっ♪」


ハヤテは、ひとつの道を見出した。

それを祝福するかのように、風が一陣吹きつけた。






○ ○





「………ね。………てね！……………アテネ！」

「ふわ…？」


アテネは目を覚ます。

視線を横にすると、仏頂面の奈緒がジッとこちらを見下ろしていた。


「奈緒…？」

「やっと起きた？……屋敷に帰るってさ」

「………………」


奈緒が退き、アテネは体を起こす。

眠そうに目を擦り、黙って待つ奈緒に顔を向ける。


「起こしてくれてありがとう。ハヤテ達を待たせているのでしょう？早く行きましょう」

「……ん」


ベットを整え、部屋を出て廊下を歩く。


「ここ三千院家の本邸なんだってー。あたしギリシャの別邸思い出しちゃった」

「………そうね。見た目はあまり変わらないものね、あそことここでは」

「そうそう。ま、外国である分あっちのほうがぽいけどね」

「………………」


アテネは立ち止まる。

気付いた奈緒も足を止めて、振り返る。


「アテネ？どうしたの？」

「…………ごめんなさい奈緒。先に行っててもらえる？」

「は？なんで」

「さっきの部屋に忘れ物をしたみたい。すぐに追いつくから」

「…………そう。分かった。ただでさえ待たせてるんだから…早く来なさいよね」


奈緒はどこか心配そうにアテネを見ながら、先に歩いて行く。

その後ろ姿を微笑しながら見送り、姿が見えなくなったところで目をつむり息を吐く。


「…………」


そして目を鋭くさせて、横目で睨む。

自分の背後に立つ、三千院帝を。


「久しいのアテネ」

「………ええ、お久しぶりですわ。三千院帝」


アテネは振り返り、改めて帝と対峙する。


「随分と大きくなったの。昔はあんなに小さかったお前が」

「あなたはあまり変わりなさそうですわね」

「聞いたぞ？今はナギ達と一緒に住んでいるそうじゃな」

「ええ。三千院さんには感謝していますわ。……本当にね」

「従者も居るようだし…幸せそうじゃな」

「…自分でも驚いていますわ」

「……………『会いたい奴』には会えた、ということか？」

「…………………」


ニッと笑いながら尋ねる帝に、アテネは答えない。


「まぁよい。………しかし忘れるでないぞ？お前は罪人だ。人を傷つけることしかできない罪深き人間。その幸せがいつまでも続くとは思わないことだ」

「ふっ、何を今更。………そんなこと、百も承知よ。………私に話はありませんわ。皆を待たせているの、行かせてもらいますわ」

「うむ。引き止めて悪かったの」

「…………ふん」


アテネは鼻を鳴らして歩き出す。

帝はジッとその後ろ姿を見つめる。


「……アテネがいる限り…お前の不幸が止まることはないぞ？何せ奴は『呪われている』からの。……その真相もいつかは分かるはずじゃ。道標を持ち続けていればな。…………のう？綾崎ハヤテ」




時計の針は、また一刻と時を刻むーー







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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.38 )
日時： 2013/02/11 19:01
名前： masa

どうもmasaです。

三千院本邸の話ですか。まあ、半ば無理やり連れて行ってもあれだけ文句言ったんですから、起きているときに言ったら絶対に行かなかったでしょうね。

ってか使用人の人たちは駄目な人達ですよね～。確かめもせずハヤテを捕まえて、挙句にナギの言葉を信じないとは。つまり｢何でこんな小娘の言う事を信じなきゃいけないんだ｣とか思ってる証拠でしょうね。

まあ、ハヤテが不幸なのは仕方ないでしょ。全員一致でその事を言うのは当然と言えば当然ですね～。

そう言えば、帝とハヤテのくだりは原作に比べれば短かったですね。まあ、ほとんど漫才に費やされてた気がしますが。
まあ結局は例の石を貰ったみたいですけどね～。

で、帝はナギを大切にしたいのか殺したいのかどっちなんでしょうね～。負けず嫌いのナギがあんな事絶対に言う訳ないのに。ってか言ったら言ったで、沖縄で大雪が降りますよね。積雪100m位の大雪が。

まあ、ナギとハヤテのくだりはほぼ、原作通りで安心しました。照れてるナギも可愛かったです。

アテネと帝のくだりはやっぱ後々の伏線何ですか?まあ、きっとそうだと予想してますが。
もし原作通りなら帝の言葉は意味が分かりますけど。
まあ、その辺は楽しみにしておきますよ。


次回も楽しみにしてますね。







そう言えば、奈緒さんが美食屋になったら、コンビに誘う料理人は誰にするんでしょうね?奈緒さん、教えて。






では。

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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.39 )
日時： 2013/02/11 20:22
名前： アーたん大好き



どうも、アーたん大好きです♪

いや〜最近の楽しみがゆーじさんの小説を見ることとアーたんの絵を描くことくらいになっってきてますね～（笑）

そんな訳で感想は～♪

遂に三千院帝が出ましたね～。お前の人生は無意味なんて言われた言葉が出ませんね～。これからいったいどんな形で出てくるのか楽しみですね～。

〜今回のアーたん〜
窓を見ているアーたん、これから出会う三千院帝のことを考えているのか．．．っと思ったら寝てるんかい！でもそこがアーたんらしいですね～♪

そして帝との対峙！帝もまさかアーたんがあんなに大きくなるとは思っても見なかったでしょうね～（胸が）私も驚きましたよ～（胸に）

まあそこはおいといてまさか呪われているのはアーたんなのか？！これは謎の伏線の予感♪先が楽しみです♪


では今回はこの辺で♪ゆーじさん、次も楽しみにしています♪

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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.40 )
日時： 2013/02/12 23:20
名前： 疾球
参照： http:/　




どうもです
かなりお久な疾球です！
とりあえず感想にいってもよろしいですか？



なるほど時系列的には
正月辺りということで
帝の家に帰っているところだったんですね
にしてもアテネは緊張感がなくなったというか……


相変わらず帝とハヤテのやりとりはあれですね、
ハヤテが一方的にボケまくる……
突っ込みお疲れさまです
　　

満員一致でハヤテのことを
不幸って言うのはね‥……（温かい目


ハヤテそのうちいいことあるよ
（きっと


最後は凄くシリアスですね
意味深な感じが凄く気になります


では次回も楽しみにしてまーす

ではまたー
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.41 )
日時： 2013/02/16 15:16
名前： ゆーじ

レス返しですが、今までは学校のパソコンを使っていたのですがその学校も春休みに入ってしまい使えないので、パソコンを買うまでしばらくお休みします。
返せない分、何度もコメントは拝見しますので、ご了承ください！

=================================


「ハヤテ君！ハヤテくーん！」

「はーい！」


三千院家本邸から帰って来た翌日。

いつものように屋敷内を掃除していたところでマリアに呼ばれたハヤテは、すぐさまマリアがいる台所へと向かう。


「はい、なんでしょうマリアさん！」

「紅茶の葉を買ってきていただきたいんですけど…」

「…？ 紅茶の葉って前に頼まれましたよね？もうなくなっちゃったんですか？」


きょとんとした顔で言うハヤテに、マリアは目を細めて睨む。


「確かに前に頼みましたけど…忘れたんですか？忘れて帰ってきちゃったでしょう？あなた」

「……………。あ！あー、そうでしたね、そういえば！」


睨みつけるマリアにハヤテは苦笑いを浮かべながら頭を掻く。

そんなハヤテに、マリアは『もぉ』と呆れたように呟く。


「じゃあまぁ、そういうわけですから今度こそちゃんと買って帰って来て下さい。今日はお客さまもいらっしゃいますから」

「え？誰かいらっしゃるんですか？」

「はい。ナギのもう一人の幼馴染の方と…その護衛を務めている子の二人が。まぁ二人とも紅茶より緑茶を飲む人達なんですけど…咲夜さんもまだ居ますしね」

「お嬢さまの、ですか…。分かりました！じゃあ早速行ってきますね！」

「はい。……って、ああ！ハヤテ君、ちょっと待って下さい」

「へ？」


ハヤテを呼び止め、台所を飛び出すマリアをハヤテは立ち尽くして待つ。

5分ほど待ったところで、マリアはコートを腕にかけながら戻ってきた。


「三千院家の者だと分かりやすいようにと取り寄せました。今日からはこれを着て出かけてください♪」

「はぁ…」


マリアはニッコリと笑ってコートを差し出し、ハヤテは受け取る。

そしてコートを着てみたところで、ハヤテは目を丸くしてマリアを見る。


「あの…このコートって、もしかしてカシミアじゃあ…」

「あら、よく分かりましたね。カシミアですよ？100万円ほどの」

「ひゃく…！？」

「ええ、そうですよ？そんなに驚くことですか？」

「いやいやいや驚きまくりですよ！僕の三年分の人生がこのコート一着に詰まってますよ！」

「そうなんですか？別にいいですけど…。まぁ価値が分かるのならば、汚してはいけないことも分かってますよね？」

「え？」

「そのコートが100着あればハヤテ君の借金なんて大体払えるんですから、絶対に汚さないでくださいね♪」

「………………」


今日だけはマリアさんの笑顔が怖く見えた…。




○ ○




「お嬢さま！伊澄お嬢さまぁー！！」

「どこにいらっしゃいますか！いたらお返事をー！！」


日本を連想させる屋敷の縁側を黒服の男達は少女の名前を叫びながら駆け回る。

その足音と声は大きく、麩越しでもはっきりと聞こえる。

男の一人が走りながらその騒ぎから一際離れた位置にある一室に繋がる麩の前まで行くと、躊躇いなく開け放つ。


「大変だ祐真！伊澄お嬢さまがまたーー」


開け放つなり男は部屋の中央に敷かれた布団の中で横になっている長髪の少年を呼びかける。

少年はゆっくりと起き上がり、しばらく俯いてからギロリと鋭い視線で男を睨む。


「ぅ…」


その襲われそうなくらいの視線に男は一本後退する。


「伊澄がなんだって…？」

「えっ？あ…あぁ」


視線のわりには至って普通な質問に男は一瞬面食らうも、すぐに切り替えた。


「伊澄お嬢さまの姿がない。恐らくまた迷子になって変なところにいる可能性が高い」

「…っち…またかよあのガキ…」


少年は面倒くさそうに舌打ちをして頭を掻く。


「どうする？一応こういう場合はお前の指示がないと我々は動けない」

「んなこと今更言わなくたって分かってんだよ」


少年は立ち上がり、机の上に置かれた髪止めを持ち、その長い髪を縛る。


「すぐに準備する。お前らはやかましいから外で大人しく待ってろ」


そうして少年は長い髪を揺らしながら、部屋を出た。





○ ○





ハヤテは木々が生い茂る公園の道を肩を落としながら歩く。

それは落ち込んでいるからというよりは疲れ果てているためと言った方が正しい。

屋敷からこの公園までの数分の間に、タコ墨を吐くタコを乗せたトラックは横転、自転車でそばを運ぶ老人との衝突(中身は無事)、看板塗装に使うペンキ缶の落下など中々にスリリングな時間を過ごしたからと言えばそれまでである。


「はぁ…。なんでどれも液体系ばっかなんだろう…。カシミアに付いたら取れないタイプってなんだよ…」


ハヤテは自分の不幸さに改めて溜息をつく。

そしてふと視線を逸らすと、自動販売機の前に立ち尽くす少女を見つけた。

普段ならなんともない光景なのだが、綺麗な和服を身に纏うその少女の姿にハヤテはつい見とれた。


「(今時和服を着る女の子も居るんだなぁ。…どこかのお嬢さまなのかな？)」


ハヤテが少女を見つめていると少女は懐に手を突っ込み、そこから御札を取り出す。

そしてその御札を、自動販売機のお札を入れる挿入口に入れた。


「えっ」


もちろんの事ながら、御札は挿入口から戻って来る。

少女はそれを見据えて、口を開く。


「この機械…壊れています」

「(ええええ…！？)」

「…？」


少女は振り返り、唖然としているハヤテを見る。


「どなた…ですか？」

「えっ、あ…いや、僕は…」

「この機械…故障していますよ。早く直さないと…」


自動販売機を指さしながら言う少女に、ハヤテは苦笑いを浮かべながら言う。


「いや…今その御札を入れた所には、お札を入れるのであって御札を入れるわけじゃ…」

「まぁ大変。知らない人と話してはいけないと言われていたのに、話してしまっています。どうしましょう？」

「……………話しかけられた身としてはどうすることもできませんね…」

「でも困っていたところを助けてくれた優しい方ですから、きっと皆さん許してくれます」

「そ…そうですか、それは良かったです…」


ハヤテは作り笑いを突き通しすぐに少女から顔を逸らす。

直感した。この少女に関わると絶対ろくな事にならない。

下手したらこのコートを汚す以上の事になりかねるかもしれない。


「それにしても…自宅で散歩をしていたつもりがいつの間にかこんなところに…。外のことはよく分からないので…どうしましょう…」


少女は見るからに迷子になって困っている。

自宅からここまで来た自覚がないというのもおかしい話だが、なんとなくつい先ほどまでのやり取りを見る限り納得もできそうなものだ。

ハヤテの嫌な予感は徐々に強くなっていく。

今すぐ困っている少女を見捨て、自分のやるべきことに集中ーー


「あの…良かったら僕が住んでる所まで送りましょうか？」


できるわけもなかった。


「え…？」

「こんな寒空の下で彷徨うわけにも行きませんし、とりあえず電話を使って迎えに来てもらえばいいと思いますよ」

「そんな…いいんですか？」

「ええ。困ってる子を見捨てるわけには行かないので…」

「…………………」


少女はしばらくハヤテを見つめると、不意にニコリと笑う。


「ありがとうございます。あなたみたいなお優しい方こそ、ヒーローには相応しいですね」

「え？ヒーロー？」

「いえ。友達が見つけたと言う人が、あなたみたいなお優しい人だといいなと思っただけです」

「はぁ…」

「では、どうかご案内お願いします」

「あ、はい。じゃあ…」


ハヤテは少女に手を差し伸べる。

少女もそれに応えて手を差し出す。


「待ちやがれ！！」


しかし、公園中に響き渡るほどの罵声にハヤテも少女も振り向く。

視線の先には、黒服でサングラスを身につける男達を後ろに率いた少年が鋭い視線でハヤテを睨んでいた。

男達と少年の手には鞘に収まった日本刀が握られている。


「(な…なんだこの人達…見るからに…怪しい…！！)」

「おいてめぇ。命が惜しいならそのガキから今すぐ離れろ」

「…！」


ハヤテは横目で少女を見る。

少女はどこか不安そうな表情でハヤテを見上げる。


「あ…あの、あの人達は…」

「………(この顔…どう見てもあの人達に怯えてる…。きっとこの子のことを狙ってる奴らなんだ…！)」

「私の知りあーー」

「大丈夫」

「え？」


ハヤテは少女に笑いかける。


「僕が守るよ、あいつらから君を」

「え、ち…違います。あの人達はむしろ私を守る側の…」


オロオロしながら話す少女の言葉に耳も傾けずに、ハヤテは少年達を睨む。


「断ります。目の前で女の子をみすみす誘拐なんかさせません！」

「…それはこっちの台詞なんだよ。いちいち探すのめんどくせぇから帰ったら首輪とリード付けて柱にでも結びつけて、どこにも行けないようにしてやるからな！！」

「…そ、それは困ります…。私は犬じゃありません…」


怒鳴りつける少年に、少女は表情を曇らせて言う。

その言葉に少年は『そういう意味じゃねえよ…』と呆れたように呟く。


「ちょ、ちょっと！小さな女の子相手に何させる気ですか！！」

「うるせえ！てめえなんかに関係ねえ！さっさと失せろ！！」

「そこまで聞いて失せる人の方が少ないに決まってるでしょ！！」

「ちっ…いちいちめんどくせぇ奴だなぁ…！！」


少年は持っていた日本刀を鞘から抜く。

それに合わせるかのように後ろの男達も日本刀を抜く。


「お前ら手加減は無用だ！あの誘拐犯をぶちのめせ！！」


少年と男達は一斉に刀を構えて駆け出す。


「な…！ぐっ…しっかり掴まってて！！」

「えっ…、ひゃっ…！」


ハヤテは苦し紛れに少女を抱きかかえ、飛翔して逃亡する。

少年は足を止め、ハヤテが逃げた先を見上げる。


「くそっ、逃げやがったあいつ！！」

「ど、どうする祐真！あの少年どこに伊澄お嬢さまを連れて行くか…！！」

「うるせぇ！そんなの追いかけてぶっ殺せば済む話だ！！…貸せっ！」


少年は男の一人から日本刀を奪い取り、怒りの形相のままハヤテが逃げた方向へ走り去って行った。




○ ○






ベッドの上でナギは窓を見上げながら惚けていた。

惚ける理由はただひとつ。

昨日の三千院家の本邸で、ハヤテに言われたこと。


『あなたを泣かせようとする奴らから、あなたを守ります』

「……………………ふへっ」

「気持ち悪いわぁーーーーっ！！」


バコーン！と咲夜はナギの頭をハリセンで叩く。

ナギは頭を抑えて丸くなると、涙目で咲夜を睨む。


「ーっ！ 何するのだ馬鹿咲夜！！どこから湧いて出た！！」

「いつからも何もずっと居たわ！昨日ジーちゃん家から帰ってきてからずっと居たわぁ！！」

「え、あれ。そうだっけ？」

「アホぉ！どんだけ自分の世界入ってたんや！何度呼んだと思ってんねん！！」

「知らん」

「我に返った途端、冷静になるなぁあああ！！」


咲夜は『ったく…』と呟いて腕を組む。


「それよか、自分もさっさと着替えたらどうなん？今日は伊澄さん達来るんやろ？」

「あー…そういえばそんなこと言ってたな」

「しっかりせえな…。今日は兄ちゃんも一緒やし迷子になることもないから、もうそろそろ来るんとちゃうん？」

「もう来たわ」


呆れたように言う咲夜の背後に立ち、そう言う和服の少女に、ナギも咲夜も思考が追いつかずに硬直する。

そして5秒経ったところで、ナギは目を丸くし、咲夜は飛び退いた。


「のわっ！？伊澄さん、居たんなら言わんかい！びっくりしたわ！」

「伊澄！ 予想以上に早かったな！」


立ち上がり駆け寄るナギに、伊澄と呼ばれる少女はニコリと笑う。


「ええ。とても優しい方に送ってもらったの」

「優しい方？兄ちゃんとちゃうの？」

「男の方…。祐さまと同い年くらいのカシミアのコートを着た方に、迷っていた所を助けてもらったの」

「カシミア？………ならハヤテではないな」

「いえ。カシミアのコートを着せたのでハヤテ君ではないでしょうか」

「そうか…ならハヤテだな。…………って、マリア！？いつの間に！」


いつの間にか少女の隣に立つマリアにナギは驚く。

そんなナギに笑いかけるマリアの一方で、咲夜は顎に手を当てながら黙り込む。


「………まずいんとちゃう？」

「へ？何がだ？」

「だって本邸の使用人達に不審者扱いされるくらいの不幸っぷりやで？そんな奴がカシミアのコートなんか着たら、もう歩く疫病神レベルになるんとちゃう？何しに出かけたかは知らんけど無事に帰ってくるとは思えんけど」

「…………………」

「やっぱり汚すなと脅したのはいけませんでしたかねぇ？」

「少なくともコートがそのままの状態で帰ってくる可能性は少ないと思うでマリアさん」

「ですよねぇ…」


咲夜は次に少女に目を向ける。


「そんな奴と伊澄さんが話してた所を見た兄ちゃんは誘拐犯と見間違え、借金執事も借金執事で逃げ出すもんやから状況は悪化。不審者綾崎ハヤテの逃亡劇の始まりや」

「そ、そうなの…か…？」

「伊澄さん。その優しい方はどんな顔やったか？」

「………祐さまみたいに、可愛い顔をしている方だったわ。ナギの執事だと言っていたし」

「間違いなくハヤテ君ですね」

「間違いなく借金執事やな」


咲夜とマリアは見合って頷き合う。

そして少女は口元を隠したまま、目を細める。


「…そうですか…あの方がナギの新しい執事さんなのですか。………良かった」

「…？ 何が良かったのだ？」

「いえ。………とにかく、もし本当にナギの執事さんだったなら…咲夜の言う通り誤解して祐さまはその方を血眼で探しています。…今日の祐さまは、怖い日です」

「伊澄さんが居ないからとSPに叩き起こされて機嫌が悪いんやろな。…兄ちゃんの性格を考えると…本当にやばいでナギ」

「ふ、ふんっ。ハヤテならあんな奴相手なら余裕だ！むしろあいつのことを心配するんだな！」


ナギは鼻を鳴らして、部屋から出る。

扉を閉め、ナギは表情を曇らせながら上を見上げた。


「ハヤテ…ちゃんと無事に帰ってくるのだぞ…」



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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.42 )
日時： 2013/02/16 15:40
名前： masa

どうもmasaです。

魔女・・・マリアさんは容赦なしですね。高いと分かっててカシミヤのコートを着させるとは。そんなに汚してほしくなかったら渡さなきゃいいのに。そこが魔女か。

ん?100万円のコート100着で借金返済可能?無理でしょ。ってか5000万ほど足りないでしょ。


で、ハヤテはやっぱりな展開で。でも、落ち着いて考えると、ペンキはともかくソバツユと蛸墨はたとえついても落ちるでしょ。

で、伊澄に出会いましたか。まあ、相変わらずボケまくってますね。漢字が一緒とはいえ、おさつを入れるところに御札を入れるとは。咲夜だったら｢違うわボケー｣と言いながらハリセンで叩きそうですけど。
ってか散歩してたのにいつの間にかそとって。景色が変わったら分かるでしょ。極度の方向音痴の自分でも理解できないですよ。

まあ、結局は騒動に巻き込まれる事に。困っている人をほおっておけないハヤテならではの巻き込まれ事件ですね。
ってかお互いに目的を言い合ってから戦闘すればよかったのに。ま、面白いからいいか。


で、ナギは照れまくってたんですか。きっと寝てないでしょうね。ま、好きな人間にあそこまで言われたら無理もないか。
多分アテネが言われた立場だったらハヤテの顔を見るたびに逃げるかアホ毛で攻撃するでしょうね。


騒動に巻き込まれたハヤテがどうなるか楽しみです。

では。





ん?アテネは?　まあ、寝てたでしょうね。ハヤテと結婚する夢を見ながら。


Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.43 )
日時： 2013/02/20 11:31
名前： ゆーじ



誰もいない住宅街の電柱の陰から、ハヤテは静かに顔を出す。

そして周りに誰もいないことを確認する。


「……よし、居ないな」


一回こくりと頷いて、電柱から出る。


「はぁ…なんでこんな忍者みたいなことしてるんだろう…」


肩を落としながら歩くハヤテは先程以上に疲れた顔をしている。

しかしハヤテは首を振り、拳をぐっと握る。


「でも女の子はさっき三千院家に届けたし安全だ！僕も早く買い物をして屋敷に――」

「帰らせるかよ…」


地の底から聞こえるかのようなどすの聞いた声に、ハヤテはひとつの予感を覚え硬直する。

そして小刻みに動きながら、声の主を見る。


「もう逃さねえぞテメェ…」


ハヤテの後ろには案の定肩で息をする少年がいた。

少年はハヤテを見ながら笑っているが目は見開いていて完全に笑ってるとは言い難い。

そんな少年にハヤテは引きつった笑みしか浮かべられない。


「………………」


ハヤテは黙って前を向くと、そのまま全速力で逃げ出した。


「なっ！？てめぇ逃げるんじゃねぇ！！」


少年も空かさず追いかける。


「嫌ですよ！もう目が笑ってないですもん！」

「元から笑ってねぇ！！」

「じゃあ尚更ですよ！！」

「この野郎…逃さねぇって言ったろうが！！」


少年は先ほど男から奪った日本刀を地面に突き刺し、高く飛び上がり、塀の上を駆け、ハヤテを追い越したところで塀から飛び降りる。

そして立ち止まったハヤテに、自分の日本刀を抜き、向ける。


「観念しろ。この誘拐犯が」

「くっ…！」


一歩踏み出す少年に、ハヤテは後ずさる。

その途端、背中に地面に突き刺さった日本刀が当たる。


「…っ！」

「抜けよ。これで俺に勝ったら見逃してやる。…負けた場合は…どうなるか分かってんだろうな？」

「な…！しょ…正気ですか！？こんな町中で…！！」

「だからどうした。それにお前は出てきたんだろ？『誰もいない』この道に」

「…！」


ハッとしたように目を見開かせるハヤテに少年はニヤリと笑う。


「そういうことだ。覚悟しやがれっ！！」


少年は刀を構え、駆け出す。

その動きは素早く、逃げるのは無理だと悟ったハヤテは咄嗟に背後の刀を抜いて、少年の一振りを受け止める。

少年は一瞬意外そうに目を丸くするも、すぐに鋭く細める。


「ふん…どうやら初めて触るもんでもないみたいだな。だが甘いっ！！」

「なっ…！？」


少年は刀を振り払い、ハヤテは後ろに弾かれる。


「ぐ…(この人、早いし強い…。昨日の外人とは比べ物にならない…！このままじゃ本気でやられる…！！)」

「これで終わりだっ！！」


少年は空かさずハヤテに向かって駆け出し、刀を振り上げる。

そして振り下ろしたと同時にハヤテはコートを脱ぎ、少年に投げる。


「ちっ…姑息な真似を…！！」


視界を遮られた少年はすぐにコートを切り払う。

しかし切ってようやく見えるようになった視界の中にハヤテは居ない。


「な…あいつ、どこに…！！」


少年は辺りを見渡し、ハッとしたように目を見開かせ、後ろを振り向く。

少年が振り向くと同時に、少年の後ろに回り込んだハヤテは刀を振り下ろした。


「…！！」


しかし、その刃は少年の眼前で止められた。

少年はしばらく面食らった顔で硬直すると、やがてハヤテをジッと睨む。


「…なんで止めた」

「なんでって…僕にその気はありませんでしたし…」

「……………はぁ」


少年は目を瞑り、深くため息をつくと持っていた日本刀から手を離し、地面に落とす。


「これが本当の殺し合いなら俺はもう頭を斬られて死んでる。…おまえの勝ちだ」

「…はぁ…」


少年から敵意や殺意が消えたのを確認すると、ハヤテも持っていた刀を下ろす。

少年は刀を鞘に戻すと、ハヤテに顔を向ける。


「一応聞くが…お前、あのガキに何しようとしてた？」

「ひ…人聞きの悪い言い方しないでくださいよ！僕はただあの子が迷子だって言うから、今住んでる所まで送って迎えに来てもらえばいいって提案して…それで…」

「……………。なんで自動販売機の前でそんなやり取りしてた？」

「あの子が…自動販売機のお札を入れる所に御札を入れて、壊れてるだなんて言い出すものだから放っておくわけには行かないなぁと…」

「…………………」


少年は手で顔を多い、深くため息をつく。

それだけでハヤテには少年の苦労を察することができた。


「あ…あの、もし良かったらお名前教えて頂けませんか？……僕は綾崎ハヤテです。三千院家で…執事をしています」

「三千院家…？ ならお前、あのチビの新しい執事か？」

「えっ…お嬢さまを知ってるんですか？」

「あいつとさっきのガキ…鷺ノ宮伊澄は幼馴染の友達だ。暇さえあれば互いに互いの家に遊びに行ってる」

「そ…そうだったんですか…」


ハヤテは知らなかったとはいえ、伊澄を三千院家に送ったのは間違いではなかったのだと確信する。


「なら…あなたは伊澄さんのお兄さん、なんですか？」

「…ふざけんなよ…」

「えっ」


ハヤテの問いかけに少年はキッと殺意すらある視線でハヤテを睨む。


「冗談じゃねえ。あんな奴と血が繋がってるだなんて嘘でも言うな、反吐が出る」

「えええ！だ…だって、じゃあ…」


少年はそっぽ向き、しかめ面で目を瞑り、短く息を吐く。


「俺の苗字は御崎だ。御崎祐真(みさき ゆうま)。……伊澄とは兄妹じゃない」

「『とは』ってことは…兄弟はいるんですか？」

「妹と弟が咲夜のところに居る。……軽く9年は一緒だからな、ある意味じゃ俺もお前んとこの連中とは幼馴染だ」

「そうなんですか…」

「色々あって、今は伊澄の護衛を努めてる。人間はあいつの専門外だしな」

「(人間は…？)」


祐真の言い回しにハヤテは疑問を浮かべる。

それを問おうと口を開けたと同時に、祐真はハヤテに背を向けた。


「立ち話もなんだ。……元々三千院家には行く予定だったんだ、さっさと帰るぞ」

「え？」


目を丸くして首を傾げるハヤテに、祐真は振り向く。


「今日客人が来るって話されなかったのか？」

「されましたけど…。だから紅茶の買い出しも任されましたし…」

「その客は俺と伊澄だ。……買い物があるならさっさと買いに行くぞ」

「……付き合ってくれるんですか？」

「ああ、元々状況をややこしくしたのは俺だ。こうならなかったらお前も今頃は紅茶を買って戻ってる頃だろ」

「………………」


言うなり歩き出す祐真の後ろ姿をハヤテは立ち尽くして見据える。

そしてどこか嬉しそうに笑って、駆け足で追いつく。


「ありがとうございます、祐真さんっ」

「…っ！」


ハヤテが名前を呼んだ瞬間、祐真は目を見開かせて驚いた様子でハヤテを見下ろした。


「えっ…や、やっぱり名前呼びは駄目でしたか…？」

「………………いや…別に構わない…」


不安げに表情を曇らせるハヤテに、祐真は逸らすように視線を前に向けて歩き出す。


「ただ祐真って呼ぶな。……それ以外の呼び方で呼べ」

「え、じゃあ…祐、とか？」

「それでいい」


それきり黙って歩く祐真に、ハヤテは首を傾げながらも後を追う。

しかし立ち止まり、振り向く祐真にハヤテも止まる。


「えっ、今度はなんですか？」

「……そこのゴミは拾って行かないのか？」

「…？ ゴミ…？」


ハヤテは後ろを振り向く。

そこには地面に野ざらしにされた、無残に切り刻まれたカシミアのコートだったものだけが残されていた。

ハヤテはしばらくそれを見下ろすと、やがてはクワッと目を見開かせた。


『まぁ価値が分かるならば、汚してはいけないことも分かってますよね？』

『そのコートが100着あればハヤテ君の借金なんて大体払えるんですから、絶対に汚さないでくださいね♪』


そして蘇るマリアの言葉と笑顔。

これは汚すどころの話ではない。もうただの高級な布切れだ。


「あ…あああああ！！なんで！？どうしてこんなことに！？」

「お前がそれ使って俺の視界遮ったんだろうが」

「知りません！そんなこと知りません！！」

「自覚なしかっ！」


ハヤテはふらふらと元コートに近寄り、糸が切れた人形のように落ちるように座り込み、手をつく。


「どうしよう…このままじゃ僕…クビになる…」


ぽろぽろと涙を流すハヤテに、祐真は気まずそうに頬を掻きながら目を逸らす。

使ったのはハヤテでも、手で払うという手段もあったのに躊躇いなく切り捨てたのは祐真であることに変わりはない。

祐真は面倒臭そうに舌打ちすると、溜息をつく。


「マリアには俺から言って許してもらってやる！だから男がメソメソ泣くんじゃねぇ！！」

「……ぐす……本当ですか…？」

「はっ、それでも駄目でお前がクビになったら鷺ノ宮家で執事でも何でもやらせてやるよ。とにかくさっさとその布切れ拾え！」

「………はい……」


ハヤテは涙目のまま、元コートに手を伸ばす。

その途端、背後からの突風に、コートはひらひらと空を飛んでいく。

ハヤテが伸ばした手の先にはもうアスファルトがあるだけ。


「「………………」」


もはや二人とも言葉も出ない。

ハヤテはゆっくりと立ち上がり、今にも泣き出しそうな顔で祐真に振り向く。


「どうしましょう…」

「さっさと追えよ！！」

「はっ、はい！」


コートを追って二人がたどり着いた先は、先ほど伊澄と出会い祐真と対峙した公園であった。

そしてコートは、木の柵に囲まれた池の隣に生えた、池の方に大きく曲がった木の枝に引っかかっていた。


「ちっ、めんどくせぇところに引っかかりやがって…」

「取ってきます！」


ハヤテは柵を踏み台にして、木の枝の太い箇所に飛び乗る。

コートはハヤテの目の先にある、細い枝の先端に引っかかっている。

立って渡りながら取るのは困難だ。


「……………」


ハヤテは座り、枝に跨りながら少しずつコートとの距離を縮める。

そして手を伸ばし、コートを掴んだ。


「っ！ やった！取れ――」


――ボキッ。

枝が折れ、ハヤテは声も上げずに池に落ちる。

その課程を静かに見ていた祐真は何も言わず、柵に手をかけて池を覗き込む。

やがて無言で池から頭を出すハヤテを見下ろす。


「お前、見た目以上に幸薄いな」

「…………よく言われます」





○ ○




三千院家の玄関ロビーで、扉をあけて外を見て、ロビーを右往左往するを繰り返すナギに、咲夜は呆れた顔で言う。


「ナギ。少しは落ち着いたらどうや？いくら兄ちゃんでもそこまではしないことくらい分かってるやろ？」

「う…うるさいっ！別に祐真とのことで心配してるわけじゃない！……こんなに遅いんだ…。もしかしたらこんな真冬の空気で冷え込んだ池に落ちて全身びしょ濡れかもしれん…！そうなったら風邪を引いてしまう！」

「そこまで不幸じゃ…ないとは言い切れんところが悲しい奴やな…」

「だろう！？念のため風呂は沸かしたし部屋も暖めた…。あとはハヤテが帰ってくればいいだけなのだ！」


泣き出しそうな顔で扉を見つめるナギに、伊澄は静かに近寄る。


「ナギ。大丈夫、きっとハヤテさまは無事に帰ってくるわ」

「伊澄…」

「あんなにナギのことを笑って教えてくれた方だもの。そう簡単に居なくなったりはしないわ。だから信じてあげて、ハヤテさまを」

「……………」


ニコリと笑いながら言う伊澄に、ナギは俯く。

そして笑って伊澄を見る。


「そうだなっ！私が信じないで誰がハヤテを信じるのだ！…私は…ハヤテの主なんだからっ！」

「ええ」

「ところで伊澄。ハヤテが私のことを言っていたと言ったが、どんな事を言っていたのだ？」

「え…？そうね、確か……………ワガママで、引きこもりの困ったさんだと…」

「………………」


伊澄の言葉にロビーの空気が凍る。

そんなことも知らずに玄関扉のドアノブが回り、ハヤテが顔を覗かせる。

ナギは一目散に扉に駆け寄り、そして


「あ、お嬢さま…ただ今戻り――」


バタンっ。

扉を閉めた。


『………え！？なんで！？なんで閉めるんですか、お嬢さま！？』

「うっさい！ハヤテのバーカバーカ！お前なんかずっとそこに居ろ！！」

『ええええ！？』


ナギは、ふんっ！と鼻を鳴らしながらそっぽ向くと早足でロビーから立ち去り、自室に戻り、あからさまに思いきり扉を閉めた。

マリア、咲夜、伊澄はそれを見送り、伊澄は二人に顔を向け人差し指を立てながら言う。


「でも、可愛くて優しい子だとも言っていましたよ」

「言うのが遅いわぁ！！」

「そういうことは先に言うべきだと思いますよ…」


そんな伊澄に咲夜はハリセンで叩き、マリアは苦笑いで突っ込む。


「うう…お嬢さま…なんですかぁ…」

「ほんと、幸薄だなお前…」


そして閉め出されたハヤテは啜り泣きながら体育座りをし、祐真はそんなハヤテを呆れつつ同情の目で見ていた。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.44 )
日時： 2013/02/20 14:21
名前： masa

どうもmasaです。

やれやれ。街中でいきなり決闘っておかしいでしょ。
まあ、おかしさで言えば、仕掛けた祐真が9.999割悪くて受けたハヤテも0.001割悪いけどね。

まあ、流石はハヤテと言うべきですよね。奇襲を使ったとはいえ、かなり強い祐真を倒したんですから。まあ、厳密にいえば、負けを認めさせた、ですけど。

まあ、矛盾を突く様で悪いんですけど、最初っから話し合いで初めて決着がつかなかったら決闘と言う形にすれば良かったのでは?
まあ、頭が悪そうな祐真には無理か。

で、結局コートは細切れに。そして飛ばされて池にダイブ。不幸の連鎖を巻き起こすのは流石と言うべきですね。
ってか只の布切れの集合体みたいな状態だったら、集めても意味がないのでは?まあいいか。

ってか、褒めてたところを先延ばしにした伊澄も要因とはいえ、ナギも怒りすぎでしょ。いくら真実を言われたからって。
そんなんで怒ってたら、新聞は世界中から消滅するし、テレビもニュース流せないし、コ○ンも連載打ち切りになるでしょ。ホント、ナギは子供ですね。



そう言えば、この時点ではまだ疑問ですよね。初対面に近い人物に名前、しかも渾名に近い呼び方を許可するとは。何ででしょうね?





次回も楽しみにしてますね。

では。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.45 )
日時： 2013/02/22 14:00
名前： 李薇


どうも、李薇です♪

こちらの掲示板では初めまして、ですねゆーじさん！

さて…受験とかであまりコメを書けなくなってしまい、しばらくこれなかったせいでなかなか感想を書くに踏み切れなかったチキンな私ですが…←

祐真くんが出て来たら書こう…！　と決めていたので１話遅れてはしまいましたが、とりあえず今回分の感想を書きたいと思います！

ってなわけで感想ですが、冒頭は前回の続き…住宅街の電柱の陰から様子を伺うハヤテから。

しかし、こんな忍者のようなことをしなくてはいけないとは…ハヤテは本当大変ですよね…
まぁ、お人好しで優しい性格故にこういう事になるのが彼の良いところな訳ですが…！

伊澄を屋敷へ届けたし、あとは買い物をして帰ろう！　と決意したところへ祐真くんが…！

そしていきなりの街中での決闘…！　しかも日本刀…！

さて、ハヤテはまぁ日本刀の扱いにも長けていますが…、流石祐真くんも強いですね…！　護衛をしているだけのことはあります…！

そこでハヤテはコートを使って視界を遮って後ろに回り込む戦法を使って見事負けを認めさせましたね…！　流石です…！

ここで祐真くんも刀を止めたハヤテが誘拐犯ではないんじゃないか、と思ったんでしょうね
伊澄に何をしようか聞いてましたが…うん、改めて伊澄が自販機の前で何をしていたか聞くと祐真くんの苦労がわかりますね…！

さて、ようやく２人が自己紹介を…！
祐真くんがマリアさんの言っていたお客さんの１人であることも分かり、誤解もとけて良かったです…！
そしてチラッと出てきた妹の方の登場も待ち遠しいですよ♪

そして状況をややこしくしてしまったお詫びも兼ねて、祐真くんも紅茶の買い物に付き合ってくれるようですね…！　何だかんだ優しいですよね♪

ここで祐真、とは呼ぶなという本人のお達しがあったのでハヤテは祐、と呼ぶことになったわけですが…まぁ色々な事情はありそうですが、呼び捨てを許可したのはある程度ハヤテを認めてくれたからこそ、なのかな…？

そして気づくカシミヤのコートの存在……あー、そういえば目くらましに使ってましたねハヤテくん…！
でも、祐真くんも一緒に謝ってくれるみたいで良かったですよ！　やっぱり祐真くんなんだかんだで優しいですよね♪

まぁ、このシーンの後に風に飛ばされ、木に引っ掛かり、池に落ちるとは思いませんましたけどね…！
ホント不幸が連鎖してるやハヤテくんは……！　そういや、王玉持ってますしね…←祐真くんの登場で帝編でもらった王玉をちょっと忘れてた私ｗ

さて、場面はうつって三千院家…！　ハヤテがようやく帰ってこれたわけですが………伊澄も可愛くて優しいの部分を早く教えてあげて…！
もしくは、ハヤテがあと１０秒くらい扉を開けるのが遅ければ…！　これもなんか色々不幸な感じになってますよね…

さて、池で濡れたのに締め出しをくらったハヤテくんに待つ運命は…！

ってなわけで、次回も楽しみにしています♪　…なんか久々に感想書いたらまとまりがない文になってしまって申し訳ない…
どちらにせよ今後も祐真くんの活躍、そして妹さんの方の登場も楽しみにしています！

それでは、またー♪
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.46 )
日時： 2013/02/23 11:25
名前： 天照


お久しぶりですゆーじさん、天照です♪

いやー、なんかしばらく感想書かなくなったら「今更入りにくいな……」みたいな後ろめたさがあったんですが思い切って書きます。祐真君も出てきましたし♪

とりあえず、止まり木でもまた会えてうれしいです。ほんとひなゆめなくなったときの絶望感は……

なんか辛気臭くなりそうなので、感想始めますね


まあとりあえず……二人とも落着きましょう。街中でポン刀出してたらもはや誘拐犯通り越してますからね!?

しかもなんか熱い戦い……ますます街中じゃなかったら、って悔やまれますよ。


しかしここでコート投げなきゃ問題なかったんじゃね？　と思わず考えてしまいましたが投げなきゃ死合になってたから仕方ないですね。

まあ祐真君の気持ちもわかりますよ、あの伊澄さんですからね……（オイオイ）

そして買い物に付き合ってくれる祐真君……なんかんだ言って優しいですよね本当に……


でもい結局コートは大破……どっちの選択肢選ぼうが結末が同じ（ＢＡＤ）なのは流石綾崎クオリティー！！

にしてもナギ……あと少し……もう少し話を最後まで聞いて下さい……！

にしても今回伊澄さんのせいで散々な目にあってるハヤテですね……最後はナギが原因ですけど……

なんかごちゃごちゃした感想になってますね……書きたいことはたくさんありますがすいません。

次回も楽しみにしてます。ではまた♪


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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.47 )
日時： 2013/02/24 22:51
名前： 道草

どぅも★道草です！
ご無沙汰しております。久しぶりに感想書かせていただきます！


奈緒さんに続き、遂に登場しましたね祐真！待ってましたよ♪
しかし……寝ているところを叩き起こされ、毎度の伊澄の迷子にいらだっていたとはいえ
白昼堂々日本刀で斬りかかるとは……血の気多いですね。敵には回したくないタイプです。


今回はコートを身代わりにした作戦でハヤテに軍配が上がりましたが、
ガチでやりあったら一体どちらが強いのか……
まぁ、何はともあれ和解できて良かった！
買い物に付き合ってくれるという祐真を追いかけるハヤテが、なんだか微笑ましかったです♪


しかし忘れてはいけないハヤテ君の不幸スキル……
やはりというべきか最終的にナギに閉め出されてしまいましたね……
祐真が同情するのもわかります。


さて、コートもなくずぶ濡れの状態で寒空の下放置されたハヤテがどうなるのか……
だいたい予想はつきますが楽しみにしてます♪
ではまた！
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.48 )
日時： 2013/02/27 15:56
名前： ゆーじ


ルカのアルバムが届くのが楽しみでござる。

レス返しはできませんが、masaさん、李薇さん、天照さん、道草さんコメントありがとうございます！

そして李薇さん、天照さん、道草さんお久しぶりでーーーっす！！←ハイテンション

というわけで、本編レッツゴー！

===============================================


ナギの怒りが静まったのを見計らい、マリアは一人硬く閉ざされた玄関扉を開ける。

左右を見て、まず扉横の壁に寄り掛かっていた祐真を見てギョッとする。


「ゆっ、祐真君！？遅いと思ったらこんなところに…！ずっとハヤテ君に付き添ってたんですか？」

「こうなったのも元を辿れば俺と伊澄のせいだ。自分だけ中に入るわけには行かねえだろ」


祐真は視線をマリアから逸らし、壁に背を付けて祐真が着ていた上着を羽織りながら座り込んで蹲るハヤテを見下ろす。


「それに…放っておくわけにもいかなかったしな」

「…ハヤテ君？」


マリアは一切喋らず、ただただ蹲るハヤテに近寄り、膝を地面につける。

肩を揺すり、何度か呼びかけたところでハヤテはゆっくり顔を上げた。


「マリア…さん…？」

「ハヤテ君、もう入って大丈夫ですよ。………どうしました？なんか顔が真っ赤ですけど…」

「マリアさん…すいません…僕………」


ハヤテは力尽きたようにマリアに倒れかかる。

マリアは驚いたように目を見開かせて顔を赤くするが、すぐに異変に気付き、ハヤテを押し離して額に手を当てる。


「…っ！ 大変…凄い熱！すぐに運ばないと…！」

「俺が運ぶ。お前は寝かせる準備をして来い！」

「はっ、はい！」


マリアはすぐさま立ち上がり、屋敷に駆け込む。

祐真はハヤテをお姫様抱っこの状態で抱き上げ、続けて屋敷に駆け込んだ。



○ ○



客室のベッドを、ナギ、アテネ、咲夜、伊澄、奈緒、祐真が囲む。

そのそれぞれ違った思考が含まれた視線の先には、マリアによって冷たいタオルを頭に乗せられたハヤテがいた。

その顔は赤く、呼吸も乱れ、かなり苦しそうにして寝ている。

マリアはそんなハヤテが寝ているベッドの布団を少しめくり、脇に挿された体温計を抜き取り画面を見る。


「ま…マリア、ハヤテの様子は…どうなんですの？」

「…………38.9度。……大丈夫、ただ体を冷やしたのが原因の風邪ですよ」


不安で押し潰されそうな表情で尋ねるアテネにマリアは安心させるように笑いかけながら言う。

その言葉にアテネはようやく安堵したように笑って胸を撫で下ろした。


「………マリアさん…すいません…ご迷惑をおかけして…」


ハヤテは目を開けて、マリアに謝る。

そんなハヤテにもマリアは笑いかけて、額に乗せられたタオルに手を添える。


「大丈夫ですよ、ハヤテ君。ハヤテ君が謝ることはなんにもありません。コートのことも祐真君から聞きました。伊澄さんを送り届けてくれてありがとうございます」

「……マリアさん…」


ハヤテは感激したように笑い、目尻からは涙が伝う。


「ハヤテ君が気に病む必要はありませんよ」


マリアはハヤテにニコリと笑いかけると、自分の背後で気まずそうな顔で目を逸らすナギに目を細めて横目で見る。


「………まぁ、事実を言われて逆上して、自分自身で危惧していた状況に立たされていたハヤテ君を3時間もこの寒空の下閉め出していた何処かの誰かさんがどう思っているかは謎ですが」


マリアの遠まわしな言い方にナギは絶句し、周りも自分を見ていると気づくと慌てながら言う。


「わ…！私だって悪くないぞ！だって…本当にそんなびしょ濡れだったなんて思わなかったし…」

「例えびしょ濡れじゃなくても、こんな寒いのにコートもないんじゃ大して状況は変わんないでしょ」


やれやれと言わんばかりに言う奈緒にナギは『うるさいっ！』と一喝する。


「だ…大体祐真はハヤテが風邪を引いたのを気付いてたのなら、なぜそれを伝えないのだ！お前は3時間ハヤテが弱っていくのを見ているだけだったのか！」

「責任転嫁してんじゃねーよクソチビ。………閉め出されたのが全部自分の責任だと思い込んで許しが出るまでは入らねえって言い張ってたんだよ。上着貸しただけマシな方だ」

「ありがとうございます祐真君。全部ナギのせいなのにあなたまで巻き込んでしまって…」

「ぐぅっ…！！」

「寒かったでしょう？あとでお風呂使って下さい」

「ありがたく使わせてもらう」


確実かつ的確に自分を責めているマリアに、ナギは後ずさる。

咲夜は呆れたようにナギに目を向ける。


「ナギ。…いくらウチでもこればかりは庇いきれん。素直に謝ろうや」

「うっ、うるさいっ！じ…自分に身に覚えがないのなら責任なんか感じる必要がない！これはハヤテの思い込みが招いた結果だ！」


ナギの言葉にマリアはハヤテを見る。


「…………ハヤテ君、可哀想に…。なんにも悪くないのに…」

「哀れよねぇ。ここまで言われても忠義誓っちゃった以上、命かけてでも守んなくちゃいけないんだもん。いっそアテネに乗り換えちゃったら？まだ数倍マシなほうよ、アテネのほうが」

「ハヤテ…貴方がいいなら私はいつでも平気よ？」

「そこ！普通に説得始めんな！！」


ナギの突っ込みも空しく無視され、伊澄はハヤテに歩み寄る。


「ハヤテさま…どちらを選ぶかは私には分かりかねますが…。少なくともトドメをさしたのはナギであろうとも…」

「ぐはぁっ！」

「その状況を作り出したのは紛れもなく私や祐さま…。祐さまは謝ることを知らない方なので代わりに謝ります。申し訳ありませんでした…」


頭を下げる伊澄にハヤテは困ったように笑う。


「そんな、謝らないでください伊澄さん…。それに僕は借金もあるし…何よりお嬢さまが大切だから…だから乗り換えなんかしませんよ」

「………ハヤテ…」


笑って言いきるハヤテにナギは顔を赤くする。

更に顔を赤らめて俯くナギに奈緒は、なおさら呆れたように首を降る。


「はーあ。かっわいそーに。ここまで言われてんのにねぇ。報われないハヤテ君。涙出て来ちゃった」

「ハヤテ君…」


マリアと奈緒の同情の目にハヤテは苦笑いを浮かべる。

そして耐えかねたナギは涙目ながらに怒鳴り散らす。


「こらー！いい加減にしろー！お前ら人をいじめて楽しいか！？」

「いじめてないし。事実だし」

「うるさーーーーいっ！！」

「ていうかあんたこそいい加減にしなさいよ。…あんたのそのワガママが、こうして人を一人病気にしてるのよ？その辺自覚持ちなさいよ！！」

「ぐっ…！」


ナギは指を差しながら追い詰める奈緒に、後ずさる。

そして何か言いたげに口を開けるも、すぐに閉じ、顔を逸らす。


「…………ま…まぁ、その…確かに私が悪い所もある、のかもしれない…そこは謝る」

「かもじゃなくてそうなんだっつの」

「だ…！だから、侘びも兼ねて…私はハヤテを看病する！！…そうだな…風邪と言えばお粥だ。まずはハヤテにお粥を作ることから始めようと思う！！」


胸を張って宣言するナギに、マリア、咲夜、伊澄、祐真の中で電撃が走る。

そんな四人にハヤテ、アテネ、奈緒は首を傾げる。


「よーし、そうと決まれば早速行くぞ！待ってろよハヤテ！！」

「は…はい、楽しみにしておきます…」


ハヤテの返事に満足げに笑うと、ナギは部屋を飛び出していく。

一同はそれを見届け、そしてハヤテに顔を向けた。


「……ちゃんと成仏しろよ」

「なんで僕死ぬ前提なんですか！？」

「いや…死ねるだけまだ楽かもしれんで…。下手したら永遠に苦しみ続けることにもなりかねん…」

「ええ！？」

「ハヤテさま。頑張って下さいね」

「ちょ…！ま、マリアさん？どういうことですか！？」


慌てながら尋ねるハヤテに、マリアは溜息をつく。


「こう言ってはあれですが…ナギの料理は食べれるものではありません。例え見た目が普通でもどこかで味付けを間違えている、そんな感じなんです。それに困ったことに味見という事をしないので、本人は料理が得意だと思い込んでいます」

「あれの場合、塩と砂糖を間違えるだなんてのはまだ可愛い方だしな」

「どんなゲテモノ粥が来るかわからん…一応胃薬を飲む用意はしといた方が身のためやで、借金執事」

「え…えぇー…」



○ ○




台所のキッチンの前に立つナギを、偶然にも通りかかったタマは、ナギに気付く。


「(お！お嬢じゃねーか。こんなところに居るなんて珍しいな)」


タマは嬉しそうな顔で台所に足を踏み入れ、ナギの足に顔を擦り寄せる。

ナギは驚いたように肩を上げる。


「っ！？ ……って、なんだタマか。…悪いが邪魔しないでくれ、ハヤテのためにお粥を作らなければならないのだ」

「にゃあ…？(借金執事にお粥…？なんだ？アイツ風邪でも引いたのか？へへっ、いい気味だぜ。そうだな、この際とことん邪魔してあいつの風邪を悪化させて…)」

「………。ところで、お粥ってなんだっけ？」

「(って、そっからかよお嬢！！)」

「ん？何だタマ。そんな『そこからかよ！』って言わんばかりの顔は」

「にゃ…にゃあ…」

「ふむ。気のせいか」


苦笑いで誤魔化したタマに、ナギはなんの疑いも見せずに再び台所に体を向けた。

それと同時にタマは呆れたような視線でナギを見る。


「……あ、そういえば漫画にあったな。お粥は米だ。米を使うのだったな」


ナギは小走りで米びつから米を取り出し、土鍋に入れる。

水を入れ、火に掛けて沸騰するのを見守る。


「ふむ…あとは味付けか…。漫画には塩味って書いてあったな」

「(そうだお嬢。それで塩を砂糖と間違えず、正しい分量で入れればもれなく美味しい粥が――)」

「よし！違った味付けをしよう！その方が食べごたえもあるさ！」

「(お嬢ォーーーっ！！)」


タマの突っ込みもナギには届かない。

ナギはキッチンを見渡し、調味料を探す。


「せっかく作るのだし、こう…変わった味付けにしたいな。どうしようか…」

「(お嬢…それが料理ベタな人が最初に陥る間違いだぜ…)」

「お！あれにするか！」


ナギは手を伸ばし、それを掴む。

その長細いプラスチックの容器に入った、『油！！…汚れがよく落ちる食器用洗剤～ハーブの香り～』と書かれたラベルが貼られたそれを。


「(もはや調味料でもねぇ！ていうか強調するとこそこじゃねーだろ！！)」

「うんうん！じゃあこれをオリーブオイルが大好きなもこ○ちのごとく注いで…。お、酢って体に良かったな、じゃあこいつも入れて、そして塩も味が薄くならないようたっぷり入れるっ！！」

「(あああ！止めろお嬢ぉー！それ油じゃないから！しかもお粥に普通は酢なんか入れないし、塩もそんな山盛りに入れる必要ないからぁ！！泡立ってるよ！お粥を作ると出てくるのとは違う泡がブクブク立ってるよ！！)」

「うむ！とても美味そうに出来たではないか！…ふふふ、待っていろハヤテ！これでお前の風邪もイチコロなのだー！！」


ナギは火を止め、土鍋に蓋をし、トレイに土鍋とレンゲを乗せて喜々としてキッチンを飛び出していく。

タマはキッチンから顔を出し、ナギの後ろ姿を見送る。


「(俺が邪魔する前にお嬢の手によって良くなる兆しはなくなりそうだな借金執事…。お前の命がイチコロにならないことを祈るぜ…)」


タマは目を瞑り、手を合わせる。

その後ろの物陰から、奈緒は静かにナギの後ろ姿を見据えた。



○ ○



伊澄達、客人の部屋の案内をしにと客室から離れるマリアから看病を引き継ぎ、アテネはハヤテの額に手を触れる。

そしてもう片方の手で自分の額に手を当てると、頷いて笑う。


「さっきよりかは熱も引いてるみたい。明日には治りそうね」

「うん、僕もだいぶ楽になってきたよ」


アテネの笑みにハヤテも体を起こし、笑って答える。


「ハヤテ。お腹とか減ってない？なんなら私が作りますわよ？なんだか皆さんの反応を見る限り、三千院さんのお料理は期待しない方がいいみたいだし…」

『そいつは聞き捨てならないなぁアテネ！！』

「む…」


扉越しから聞こえる自信有りげな声にアテネは口をへの字にする。

途端に扉が開け放たれ、土鍋が乗せられたトレイを持つナギが姿を表す。


「誰の料理が期待しない方がいいだってぇ？それはこの三千院ナギが愛情込めて作った神なるお粥を食べてから言うのだな！！」


ナギは自信たっぷりに笑いながら歩み寄り、アテネに土鍋を見せつける。


「………。まぁ、見た目はふつ………うっ…」


アテネは土鍋の蓋を開け、覗き込むなり苦い顔をする。

そして顔をしかめながら、扇子を広げ、口元を隠す。


「なんか変な臭いがするのだけれど…」

「バカ言え！そんなわけないだろうが！…まったく。さぁアテネのことは気にせず食べるがいい、ハヤテ！」

「は、はい…」


ナギの後押しに押されるがまま、ハヤテはレンゲを取る。


「ハヤテ、その…石鹸のような臭いもしましたし、あまり食べないほうが…」

「なっ、失礼な…！」

「あはは…大丈夫だよ、アーたん。流石に石鹸なんか入ってるわけないよ」

「ふん、当たり前だ！」


胸を張って言い張るナギと心配そうな目で見るアテネを横目に、ハヤテはレンゲでお粥をよそい、一口入れる。


「ほら、普通のおか…、！？」


しかし、口に入れた瞬間に全身に落雷が落ちたかのような刺激が走った。

完全に火が通ってない米と、間違った塩加減。微妙に感じる酢の味。

そして何より、………アテネが言った通り、鼻を突く食器用洗剤の臭いが酷い。


「……………」


とても人間が食べるものの味ではなかった。

しかしハヤテはヒビが入るほどの力でレンゲを握り締めてようやく一口目のその味に耐えることができた。


「は…ハヤテ？大丈夫…？」

「どうだ？美味しかったか…？」


ナギとアテネの、味に対する不安と自分の身を案じる目が突き刺さる。

味はともかくとして、ナギ本人に悪気がないのは分かりきっている。

下手に不味いと言ったら、せっかく作ってくれた少女の心を踏みにじってしまう。

ハヤテは精一杯の力を振り絞り、ナギに笑顔を向ける。


「と、とっても…美味しいですよ！」


男には貫かなければならない意地があるという言葉は、まさに今この時のような時のことなんだろうとハヤテは内心で呟いた。


「っ！ ほ…ホントか？美味しくできたか！？」

「え、えぇもちろんですよ！とっても美味しいですよ！この…えっと…お酢の酸味とか！」

「酢！？」


背後でアテネがツッコミを入れるのも無視し、ハヤテはナギに笑顔を向け続ける。


「そうか！それなら良かったのだ！…よし、まだまだお粥はたっぷりあるぞ！たんと食え！な！」

「え…えぇ…」


ナギの二口目を急かす期待の目に、ハヤテの笑顔はようやく渋る。

そんなハヤテにアテネは耳打ちする。


「あの、ハヤテ？こう言ってはあれだけれど…本当に美味しいの？酢が入ったお粥なんて初めて聞きましたけど…」

「うん。……正直食べきれる自信がない…」

「やっ…やっぱり…！止めなさいハヤテ！それを食べてはいけませんわ…！」

「ううん、食べるよ。食べないといけないから…」

「そんな…どうして？」

「嬉しかったから…こうしてお嬢さまが僕のためにお粥を作ってくれたことが。…味はともかく」

「ハヤテ…」

「だから大丈夫。ありがとう、心配してくれて」


ハヤテは本心の笑顔をアテネに向けるとレンゲを握り直して、改めて粥に向き直る。

そして目を瞑り、覚悟を決めてレンゲでよそおうとした瞬間、


「はーい、しっつれーい」


と、奈緒が扉を蹴り開けて、部屋に入り込む。


「なっ、奈緒！？何の用だ！」


警戒するように身構えるナギも無視して、ハヤテに歩み寄る。

そしてハヤテの前に置かれた土鍋と、少々青ざめた顔で唖然と自分を見上げるハヤテを見るなりわずかに目を細める。

次にナギを横目で見て、目を瞑る。


「………………あ！何あれ！」


途端に目を開けて、窓を指差す。

ナギは釣られて窓に目を向ける。

それを見計らい、奈緒は自分の背中に回して持っていた土鍋とハヤテの前に置かれた土鍋をすり替えた。


「「…！」」


目撃したハヤテとアテネは目を丸くして奈緒を見る。

そんな視線に奈緒は冷めた目で返す。


「言ったら殺すから」

「奈緒さん…あの…！」

「なんだよ、何もないではないか」


ハヤテが言いかけた所で、ナギは窓に向けていた顔を戻す。

奈緒はフッと笑うと、頭の後ろに手を回してにっこりと笑う。


「あっは♪ 気のせいだったみたいごめんねー！ っつーわけでほらハヤテ君、冷めないうちにお粥食べなさいよ！ナギが作ったお粥をさ！」

「奈緒さん…」

「さっさと食えっつーの！」


奈緒はハヤテからレンゲを取り上げ、お粥をよそい口に押し込む。

しばらく咀嚼したところで、ハヤテは目を見開かせた。

柔らかいご飯とあっさりとしていて、それでいて薄すぎない塩味。

口の中に広がる優しい味に、ハヤテは思わず涙を流した。


「わっ！？お、おいハヤテ！何を泣いているのだ！！も…もしかしてほんとうは美味しくなかったのか？」

「違うんです…。美味しいです、凄く…。とっても…美味しいです…」

「ハヤテ…」

「……………ゆっくり味わって、そんな風邪治しちゃいなさいよ」


静かな口調で言い、奈緒は一同から背を向け、部屋を出る。

そして扉を閉め、寄りかかる。


「……………………美味しくできてよかった」


呟きながら歩き出す奈緒は、どこか嬉しそうな顔であった。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.49 )
日時： 2013/02/27 16:51
名前： masa

｢天王州瑞希じゃ｣


瑞希｢やっぱりハヤテ君は風邪をひいてしまったか。まあ、寒空の元でしかも濡れておったからのお。これで風邪をひかないほうがおかしいかもしれんな。

しかし、ナギちゃんは相変わらずじゃな。いくら怒ってたとはいえ、3時間も放置するとは。しかも責任転換までしようとするとは。まあ、祐真君は悪くは無いな。むしろ善人じゃな。寒いのにコートを貸し、最後まで付き合ったんじゃから。

まあ、ハヤテ君も考えた方がいいかもしれんな。借金ならアテネが支払うじゃろうし、恩に関してはアテネの方が大きいじゃろうしなあ。

ナギちゃん、皆は君を苛めてはおらんよ。ただ単にニュースの様に事実を羅列しておるだけじゃ。君はニュースにも怒るのかい?
で、料理か。そこに関してはこっちのナギちゃんを見習ってほしいのお。

料理に関してはやっぱりな展開じゃな。ってかあの洗剤の文字は油以外は見えてなかったのかな?いい目医者を紹介しようか?それか脳外科かな?

奈緒ちゃんは超ファインプレーをしたのお。ナギちゃんのダメダメ料理をまともな物にすり替えたんじゃから。まあ、そうでないと、ハヤテ君は風邪の菌ごと死んでしまったじゃろうから。


さて、次回も楽しみにしておるよ。



おや?奈緒ちゃんはあの御粥?はどうしたんじゃろう?まあ、タマに食べさせたという事はなさそうじゃし、捨ててしまったのかな?｣






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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.50 )
日時： 2013/03/04 21:04
名前： ゆーじ

ポリポリポリ――

そんな何かを歯で砕くような音に、ハヤテは目を覚ます。

昨日からの身体のだるさや熱さ、息苦しさや頭痛は感じられない。

額に乗せられていたタオルも体を横向きにして寝ていたからか枕元に落ちていた。


「起きた？」

「え…」


背後から聞こえる声に、ハヤテは首を反る。

反るなり大きな背中がハヤテの目に映り、視線を上に向けてようやく背中の主が判明できた。


「…奈緒さん？」


ハヤテが呼びかけると、奈緒は静かにハヤテに顔を向ける。

その口には棒状のチョコ菓子が咥えられている。


「風邪はもういいの？」

「え。…そ、そうですね…」


ハヤテは自分の額に手を当てる。

それを見た奈緒は呆れたようにため息をつく。


「あんた馬鹿なの？自分で自分の体温を触って計ったって分かりゃしないわよ」

「あうっ」


軽く叩くように自分の手をハヤテの額に押し当て、もう片方の手で自分の額に手を当てる。

その状態のまましばらく黙り込み、目を瞑って手を離した。


「………うん、下がってる。あの高熱を一晩で下げる人間はそういないわね」

「あはは…。皆さんの優しさのおかげですよ、ありがとうございます」


ハヤテは体を起こし、ニッコリと笑って奈緒に言う。


「はっ、私に礼を言う必要はないわよ。私何もしてないもん」

「そんなことないですよ。昨日のお粥、美味しかったですよ」

「あれはマリアさんが見兼ねて作ったのを私が届けただけ。私が作ったもんじゃないの」

「じゃあマリアさんに伝えておいて下さい、美味しかったって」

「……………ふん、言っといてやるわよ」


不機嫌そうに答えて、またチョコ菓子を咥える奈緒にハヤテは笑う。


「そういえば…どうしてここにいるんですか？」

「別に。部屋はつまんないし、部屋の外はナギの友達がいて居心地悪いしで暇つぶしがてらここに来ただけ。アテネの奴は爆睡してるから相手にならないし」

「僕も今まで熟睡してましたけど…」

「ハヤテ君はそのうち起きるって確信があったもん。あの爆乳女は絶対に起きないからね」

「はぁ…」

「だからハヤテ君の寝顔見て楽しんでたの。ホント顔だけ見れば女の子よね、あんた。女物の服とか普通に似合うんじゃないの？」

「勝手に人の寝顔を見ないでください！！」


顔を赤らめながら声を荒げるハヤテに奈緒は無邪気に笑いながら、立ち上がり、くるりと回ってハヤテに体を向ける。


「ま、ハヤテ君はもう仕事に行くみたいだし…私はアテネのところに悪戯でもしに行くわ」

「そんな捻くれたことしないで普通に皆さんのところに行けばいいじゃないですか…」

「私はあんたと違って今居る客人と仲良しってわけじゃないの。お互いのためよ」

「もぉ…」

「じゃ、そーゆーわけで…ばいばーい」


背を向けて、手を振りながら部屋から出ていく奈緒をハヤテは扉が閉まるまで見続けていた。

そして扉が閉まるなり溜息をついた。



○ ○



それからハヤテは自室に戻り、寝間着からいつもの執事服に着替え、マリアやナギが居るであろう客室に足を運んだ。

中からはわずかに話し声も聞こえる。ハヤテはゆっくりと扉を開けて、部屋に入った。


「あら、ハヤテ君。おはようございます」

「おー借金執事！無事に生き残ったみたいやな！」


部屋に入るなり、気が付いたマリアと咲夜が笑いかける。


「もう体調は平気なんですか？」

「はい。ご心配おかけしました」

「いえ、ああなるまで放っておいたのは私達ですから。…とにかく良かったです」

「ありがとうございます」


ハヤテとマリアはお互いに笑いあう。

そんな時、横から女性が一人歩み寄る。


「あなたがナギお嬢さまの新しい執事の綾崎ハヤテさんですか？風邪も直ったみたいで良かったです」


と、微笑みながら言うマリアとは違った作りのメイド服を身に纏う眼鏡をかけた女性にハヤテは目を丸くする。

マリアは『ああ』と思い出したように声を上げると、女性に手を向けた。


「ハヤテ君は昨日は夕方から寝ていたので知らなかったでしょうけど、…こちら、昨日の晩にいらした貴嶋サキさんです」

「貴嶋サキです。よろしくお願いいたします、ハヤテさん」


サキはマリアの紹介に両手を前にして、深々と頭を下げる。


「は、はい。綾崎ハヤテです、よろしくお願いします…」


釣られてハヤテも頭を下げる。

マリアはくすくすと笑って、今度は室内のソファーに手を向けた。


「サキさんは一緒にいらした橘ワタル君の専属メイドなんですよ」

「橘ワタル君…ですか…」


ハヤテはマリアの手の先が指す方向に目を向ける。

そしてワタルらしき後ろ姿がわずかに見える豪華なソファーの向かい側で、これまで見てきた以上に仏頂面で睨みつけながら座るナギが発する物々しい雰囲気にハヤテは固まる。


「昨日からあんな感じや。…ホント仲悪いからなぁ、あの二人」


咲夜が隣でやれやれと言わんばかりに呟く。

そしてナギはテーブルに置かれたティーカップを手に持ち、ワタルを睨みつける。


「…新年の挨拶が済んだならさっさと帰ればいいのに何を一晩過ごしているのだ？お前は。こんなことしていては儲かる店も儲からないぞ。ま、元々儲からないけどな」

「うるせーよ。サキが新年の挨拶に行こうとか言い出したんだよ。店は一昨日から正月休みだ」

「ふん。そんなことで休んでいたら今に潰れるぞ、あんなところ」

「余計なお世話だ！」


ナギは鼻を鳴らして紅茶を啜る。

そして不意に視線を逸らし、ハヤテの存在に気付くと途端に表情を晴らした。


「ハヤテ！風邪はもういいのかっ？」

「あ、はい…」

「そうかそうか！それなら良かったのだ！………こらワタル！ハヤテに挨拶しないか！」

「てめえに指図される筋合いはねえんだよ」


ワタルは渋々立ち上がり、振り向いてハヤテに体を向けた。


「…橘ワタル。よろしく」


ポケットに手を突っ込みつつ、ワタルは無愛想に挨拶を交わす。

ハヤテは作り笑いを浮かべながら、あのくらいの男の子にはありがちな生意気さだなーと内心でつぶやく。


「綾崎ハヤテです、よろしくお願いします。…それで、ワタル君はお嬢さまとはやはり幼馴染とかなんですか？」

「あっ、それは…！」

「…………」


ハヤテの問いかけに焦るナギと、更に不機嫌そうな顔になるワタルにマリアは苦笑いを浮かべる。

しかしその状況をむしろ楽しんでいる咲夜は不敵に笑う。


「確かに幼馴染や。…でもなぁ？あの二人は幼馴染よりも深い仲でもあるんやでぇ？」

「深い仲…ですか？」


親友にしては、あんまり仲が良さそうにも見えない。

ハヤテは答えの要求も兼ねて、咲夜を見下ろす。


「実はなぁ、あの二人は…」

「ば、バカっ！言うな！」

「許嫁同士ですよ」

「え？」


じらす咲夜の代わりにマリアはあっさりと言いきる。

咲夜の『そりゃないでー！』という残念そうな呟きにを聞き流し、マリアに顔を向ける。


「い、許嫁って、いわゆる婚約者が云々の…あの？」

「ええ」

「へぇ、やっぱりお金持ち同士ってそういうことあるんですねー」

「ちがーう！！」


感心するハヤテに、ナギは駆け寄る。


「違うのだハヤテ！い、婚約なんてお互いに望んでないし…！ジジイが勝手に決めたことであって私達は一度も納得したことなんか…！」

「はぁ…。でもやっぱり凄いですよ。その歳でもう生涯を共にする彼氏がいるっていうのは。さすがお嬢さまですね♪」

「………………」


ハヤテは純粋にそう思って笑顔で言ったはずだった。

しかしナギの中限定で、ハヤテはナギに惚れていることになっている。

だからハヤテ自身が言ったその言葉も、ナギの脳内では


『婚約者が居るなんて聞いてないですよ！浮気は許さないって言ったのはお嬢さまなのに…！酷いです！見損ないました！』


……と、言うように捉えてしまう。


「(い…いかん！ハヤテがとても怒っている…！病み上がりだというのにこの仕打ちだ、怒るのも当然じゃないか…！)」


焦りつつ考え込むナギの一方で、ハヤテは『あれ』と呟くとマリアに顔を向く。


「でもお嬢さまが嫁いでしまったら、三千院家は継げないんじゃないんですか？」

「それはご心配なく。嫁ぐのはナギではなく…」

「あ！ワタル君ですか！」

「嫁がねえよ！！」


ハヤテが理解したと同時に突っ込むワタルに、ハヤテは落ち着かせるように笑いかける。


「そんなこと言っちゃいけませんよ？それに人生、贅沢してはいけません。…こんなに可愛い女の子がお嫁さんになるのなんて、そうそうありえることじゃないんですよ？」

「はっ！こいつが可愛いだぁ？こんなワガママで自分勝手で引きこもりで自分が世界で一番偉いとか思い込んでる漫画馬鹿を見て可愛いと思ったことなんか一度もないねっ！！」

「んだとこらぁ！誰かワガママで自分勝手で引きこもりだぁ！！」

「ああ！？なんだよ全部事実だろうがぁ！！」


やがて始まる物の投げ合いにマリアは苦笑い、ハヤテは満面の笑み、サキは戸惑い、咲夜は大爆笑する。


「いやぁ、さすが許嫁。仲がよろしくて微笑ましいですねー♪」

「あれが微笑ましいなら眼科か脳外科への通院をオススメしますよ？」


ナギとワタルの手により物が投げられ壊れていく中、扉がガチャりと開く。

開けた主はワタルの姿を見るなり、微笑んだ。


「おはよう、ワタル君」


その透き通った声に、ワタルは手を止め、硬直した。

ナギはふんと鼻を鳴らして手に持っていたものをテーブルに置いた。

ワタルは壊れかけのロボットのように小刻みに動きながら、振り向く。



そしてニッコリと笑う伊澄にワタルは顔を真っ赤にした。


「あ…や…、い…いす…み………」

「でもなんだか散らかっているように見えるけれど…もしかしてナギと喧嘩でもしたの…？」

「！」


まぁ『ように見える』ではなくかなり散らかっているのは言うまでもない。

そんな突っ込みもさせる暇もなく、ワタルは俊敏に移動し、ナギの隣に立つと、その肩を抱いた。


「お、おいおい寝ぼけてんのか伊澄！俺とナギがそんな喧嘩なんかするわけないだろー？な、ナギ！」

「寝言は寝て言え」

「まったく、お前まで寝ぼけてんのかよナギー！勘弁してくれよー！」

「むしろ死ね」

「あーもう駄目だなこいつは！育つわけでもないのに寝てるよ！困ったもんだぜ！」

「殺すぞ貴様」


まったく噛み合ってない二人を見て、伊澄は『なら良かった』と笑って言う。

そしてもちろんのことながら、ハヤテはその光景を目を点にして見ていた。



「あのー…なんですか？あの茶番」

「あはは…まぁそう言わないであげて下さい…」

「実際茶番だろ。まったく、毎度毎度怖気が走る」


ワタルと伊澄を残し、ナギは疲れたように歩み寄る。


「なんやナギ。もうワタルのフォローはしてやらんの？」

「ふん、振り向かせたいのなら自力でやらなければ意味もないだろう。甘やかすのは好きではないのだ」

「自分にだけは甘いってやつかいな？」

「うるさいっ！私は私にも甘くない！！」

「はっ…」

「鼻で笑うな！！」


ナギは咲夜を睨みつけるも、咲夜は一切気にしていない様子で口笛を吹き始める。


「あの…振り向かせるってどういうことですか？」

「うん？……あぁ、まぁお前はワタルとは初対面だからしょうがないか」

「え？」

「好きなんだよ、ワタルは。伊澄のこと」

「……………」


穏やかな口調で言いきったナギにハヤテは目を丸くする。


「え？だって…ワタル君ってお嬢さまの許嫁じゃ…」

「さっきも言ったろ？元々はあのクソジジイが勝手に決めて、ワタルの両親も三千院家の財産目当てで引き受けた。私やワタルの意思はどこにもない」

「そんな…！」

「あいつ自身は伊澄と結婚したほうが私と結婚するよりかは幸せになるだろう。私としても二人が両想いになれば婚約も破棄されるから丸く収まるし。だがいかんせん伊澄は鈍感だからワタルの想いには気づかない」

「……なんだか、ワタル君も可哀想ですね…」

「そんなことはない。ワタルだって分かってるんだ。付き合いが長ければ長いほど…その人の想いがどこにあるかって事くらいは」

「……………」


ハヤテは改めてワタルと伊澄の横顔を見る。

しばらく楽しそうに談笑していた二人だが、ふと伊澄がこちらに顔を向けるとゆっくりと歩み寄ってきた。


「ハヤテさま、おはようございます」

「おはようございます、伊澄さん。…………あれ？そういえば祐の姿が見えませんけど…」

「祐さまはとても朝が苦手な方なので、無理やり起こすと大変怖くなってしまいます」

「ああ…なんだか凄いそういう感じの人っぽいなって思ってました…」

「はい。……ハヤテさまはもうお体は平気なんですか？」

「ええ、伊澄さんにも心配おかけしましたね」

「いいえ。ハヤテさまがお元気になられて…良かったです」


ニコリと笑う伊澄の横顔を見て、ワタルは『あ…』と小さく声をあげた。

自分のことのように嬉しそうな笑顔、わずかに赤く染まった頬。

それはただの知り合いの男に向ける笑顔ではない。


「………………」


ワタルは一瞬目を逸らすが、目を力強く瞑り、グッと拳を固める。

そして大きく息を吸い込み、


「おい、執事！！」

「へ？」

「お前ナギの新しい執事だったな。昨日は風邪引いてたんだってなぁ？」

「え…えぇ、まぁ…」

「そんなひ弱な奴にナギを任せられるか、この俺が試してやるよ…。一応なりとも許嫁だしな」

「ええー…何お前…気持ち悪いぞ？」


芋虫を踏んだ後のような顔で言うナギにワタルは『うるせぇ！』と一喝する。


「とにかく！！朝飯前にちょっと決闘でもしようじゃねーか、なぁ？」

「…………。お金持ちの朝って決闘がスタンダードなんですか？」

「ああそうだ。庶民のお前にはわかんねえだろうがな」

「お前も今じゃ庶民だろ」

「だからうるせぇ！とにかく移動しやがれ！！」



○ ○



その後、ワタルに鋭い敵意むき出しの目で睨まれつつ庭へと出るなり、ワタルは途中で見つけたサーベルをハヤテに向けた。


「覚悟しろよ、この貧乏執事が！」


そんなワタルにハヤテは苦笑いを浮かべ、その後ろでナギ、伊澄、咲夜と、ナギとワタルの喧嘩の音で起されて不機嫌になっている祐真が傍観している。

ちなみにマリアとサキは朝食の準備である。


「ほら、どうした来いよ！怖気づいてんのか！？」


サーベルを構えて手をクイクイと動かして挑発するワタルにハヤテはふと考える。

この決闘は恐らくはワタル君が伊澄さんに良い所を見せたいからとかその辺の理由でのことだろう。

ならここで…僕が負けたふりをすればーー


『まぁ、凄いわワタル君。あの祐さまにも勝ったハヤテさまに勝つなんて！』

『ははっ、大した事ねーよこんな奴！それよりも伊澄、実は俺…』

『ワタル君…実は、私も…』

『伊澄…！』


そして結ばれる二人。

解消されるお嬢さまとワタル君の婚約。


『ありがとうハヤテ！お前のおかげで私は幸せに暮らせるのだ！』

『ハヤテ君、すごいです！見直しました♪』

『お手柄ですわハヤテ。良くやったわね』

『へー、やるじゃんハヤテ君！私びっくりしちゃった』

『ハヤテ！お前は私の…最高の執事なのだっ♪』


ーーなんてことになるのではないだろうかっ！

ふふふ、これは行ける…！


「………ハヤテさま、楽しそうに笑ってるわね」

「うむ！ハヤテの中の男の心が決闘という言葉に反応して目覚めているのだ…！」

「……………しょーもない妄想して一人ニヤけてるだけとちゃうの？」

「多分そうだと思うぞ」


外野の会話にも構わず、ハヤテはサーベルを握る。

そうと決まれば作戦開始だ！！

見ていて下さいお嬢さま！この綾崎ハヤテ、一世一代の大芝居をご覧に入れましょう！


「うおらあああ！くらえええ！」

「(あ、でも…)」


ワタルは振り上げていたサーベルをブォンと下ろす。

……が、ハヤテはそれを呆気なく人差し指と中指で挟んで止める。


「(やっば刃物は危ないよな)」


そしてそれを更に呆気なく取り上げ、投げ捨てる。

訪れるしばらくの沈黙のあと、


「うぐっ…！」


ハヤテは胸を押さえて、膝をつく。


「えっ？何やってんの？お前」

「や…やりますねワタル君…僕の負けです…」

「え？俺が勝つ要素どこ？え？」

「あとは…お幸せに…」


ドサ…とハヤテはうつ伏せに倒れる。

そして再び訪れる沈黙。

ハヤテに集まる視線は全て呆れたものだった。………約一人を除いては。


「まぁ…素晴らしいですハヤテさま…。ハヤテさまに喧嘩を売った時点でワタル君の負けは決まったようなものなのに…そんなワタル君に気を遣って演技までして勝たせるだなんて…ハヤテさま、お優しい…」

「え！？ちょ！違いますよ伊澄さん！！」


予想外の方向に突っ走る伊澄にハヤテは体を起こし、弁解する。


「わ…ワタル君は本当に強くて僕なんか足元にも及ばなくて…」

「ぐす…」

「へ？」


背後から聞こえる嗚咽にハヤテは振り向く。

そこには涙をポロポロと流すワタルの姿があった。


「え！や…！あの、ワタル君！？」

「ぐす…いつか絶対…ぶっ飛ばしてやる…ぐす…」

「えーっと…」

「その時まで…！覚えてやがれ、馬鹿やろーー！！」


吐き捨て、ワタルは走り去って行った。

ハヤテは延ばした手も空しく立ち尽くす。

そんなハヤテに傍観していた四人が歩み寄る。


「お前…いくらなんでもあれはないだろ…」

「さすがにあれはないで、自分…」

「お前、絶望的に演技下手くそだな」

「や…やっぱりもう少しマシな方法にすれば良かったですかね？」


ハヤテの問いかけに全員が頷く。

そこで初めてハヤテは肩を落とす。


「………あとで謝りに行きます…」

「いや、こういうのは日をおいた状態で行った方が傷も癒えやすい。時間が経ってから行くのがワタルのためでもある」

「………分かりました…」


こうして、罪悪感とともに長く感じた朝の出来事は終わりを告げた。


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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.51 )
日時： 2013/03/04 22:58
名前： masa

どうもmasaです。

どうやら、ハヤテは無事に風邪が治ったみたいですね。よかったよかった。
ってか奈緒さんも素直になればいいのに。せっかくお粥を自分で作ったのに適当に誤魔化したり、ハヤテの寝顔を見たくてハヤテが寝てた部屋にいたのに、誤魔化しちゃったんですからね。

ワタルとサキさん登場ですね。原作みたいな派手な登場とまでは行きませんでしたね。
やっぱりな展開でナギとワタルは喧嘩へ。ってかナギとまともに接している異性って今のところハヤテだけな気が。祐真ともワタルとも仲は険悪ですし。

で、ナギはハヤテに許嫁の一件を知られてある筈の無い誤解を。まあ、別にいいんだけどね。
で、ハヤテと伊澄が親しそうにしているのを見てやっぱりな展開に。ってかいくら金持ちでも決闘を朝からやる家って無いでしょ。ハヤテも受け入れるなよ。

で、決闘はやっぱりな展開へ。
ハヤテの場合、演技が上手い下手以前な気が。態と負けるなら、体のどこかを切られればよかったのに。そうすれば｢急所に運よく当たった｣とかいう誤魔化しもできるのに。やれやれ。

まあ、この先どうなっていくか楽しみです。


それより、鈍感な相手には好意に関しては直接言うしかないのに。ねえ、ワタルに奈緒さん。






そう言えば、この時点では不思議は無いにしろ、話が進んだ原作の現在では、このやりとりには不可思議な部分ですよね。




では。





あ、そうだ。
ハヤテ、原作36巻限定版の表紙を見て、どういう感想を持った?教えて。



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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.52 )
日時： 2013/03/15 17:36
名前： ゆーじ


あの日。

もう全てがどうでも良くなってしまったあの日。

自分なんて居なくなればいいと思ったあの日。

私は、あなたが差し出した小さな手に救われた。










日も暮れ、夕飯の準備と片付けも終え、ようやく一日の仕事を終えたハヤテは、疲れを汚れと一緒に風呂で落とした。

そして肩にタオルをかけて、部屋に戻る。


「はぁ、いいお湯だーー」

「あ、おかえりー」

「……………」


部屋の扉を開けるなり、いつも自分が使っているベッドの上に仰向けになり足を広げた状態の奈緒と目が合う。

ロングスカートタイプの寝間着の裾から覗かせる足首はとても細く、肌白い。

ハヤテはしばらく硬直しながら瞬きを繰り返した後、顔を真っ赤にしながら口を開け、目を見開かせる。


「奈緒さんっ、ななっ…なんて格好してるんですか！！は、はしたない…！」


ハヤテはそのまま顔を真っ赤にして奈緒に背中を向ける。


「何よ。なんか文句あるの？この奈緒ちゃんの美脚を見れるなんて相当ついてるわよ？あんた」

「止めてください！！女の子でしょ！？」

「つまんないのー。ル○ンダイブでもしてくることを期待してたのにー」

「しませんよっ！」

「もー、ホントつまんなーい」


奈緒は上げた足を落とすようにベッドに下ろす。

その音にハヤテはゆっくりと横目で見ると、奈緒は未だ仰向けのまま黙り込んでいる。


「…奈緒さん？」

「………ねぇ。ハヤテ君は…昔、アテネと居たんだよね？」

「え？」


唐突すぎる質問に、ハヤテは振り返る。

奈緒は何も言わない。

そんな奈緒にハヤテは顔を逸らす。


「ええ…短い間、でしたけど…」

「短くたって…その一緒にいた期間はそれだけ充実してたんでしょう？ひとりぼっちだったあいつにとって、あんたの存在はとても大きかったはずだしね」

「……まぁ…」


奈緒の言う充実と、ハヤテの頭によぎる充実の内容は違うだろう。

少し赤く染まった頬を掻きながら、ハヤテは目を逸らす。


「気にならない？」

「え？」

「そのひとりぼっちのお嬢さまが、ボディーガードなんて大層な従者をいつ見つけたのか、とかさ」

「……それって…」

「…そ。私とアテネがどうやって出会って今に至るか。あなたには話すべきだって思ったの。……ま、余計なお世話だって言うなら言わないけど」


奈緒は体を起こし、軽く笑いながら言う。

そんな奈緒にハヤテは首を振る。


「いえ。奈緒さんがいいと言うのなら…聞きたいです。……聞かせてください」

「…………ふふっ。そこまで真面目な顔して聞くような内容じゃないわよ」

「え？」

「これはね…優しい女神さまが、醜い犯罪者に手を差し伸べて、そばに置いてくれた、……そんな話よ」



○ ○




ーーそれは今から10年前の話。

その日もぎいぎい…とブランコの鉄と鉄が擦れる音か公園を満たしてた。

空はすでに暗く、公園を照らすのは外灯の明かりだけ。

そんな中、私は一人ブランコに座っていた。

朝から今までずっとここで座っていた。

遊びに来た子供達の退けと言う視線も睨み返してやった。

………私の家族は私と両親の三人家族。

でも私はそれを家族を思ったことはない。

物心ついた時には既に仲が悪かった両親。

かつてはただの口論だった。でももう最近では取っ組み合いにまでなっている。

私はその影で座り込んでいるしか出来なかった。耳を必死に塞いでるしかできなかった。

だから私は…逃げ出すように家を出た。家にさえいなければ両親の声も聞かずに済む。こんな状況で食欲なんか湧くわけもない。

夜に帰って冷蔵庫の中身を食べる程度で、なんだかんだ毎日過ごせてた。

ただ無意味にブランコに座って日々を過ごしていた。…その日までは。


「ねぇ、そこで何してるの？」


不意に話しかけられた。

目だけを向けると、男の子が一人…不思議そうに私を見ていた。

今まで話しかけてくる奴らはいっぱい居たけど、私のことを聞いてくるのは初めてだった。…でもそれだけ。


「………ブランコに座ってるだけよ」

「誰か待ってるの？」

「別に」

「じゃあなんでこんな時間に一人でいるの？」

「時間潰してただけよ」

「どうして？お母さんやお父さんが心配してるよ？」

「…っ…」


質問攻めに私は苛立っていた。

だから、ブランコから立ち上がって、そいつを睨みつけてやった。


うるさいのよさっきから！あんたなんかに関係ないでしょ！？」


そう言うと、彼は酷く怯えた様子で後ずさった。

そして縮こまって、下を向いた。


「ご…ごめんなさいっ…ごめん…」


今にも泣き出しそうな顔。

よく見れば、服も体もボロボロの傷だらけだ。

…私が悪いみたいで、嫌だった。


「……はっ。分かったならさっさと帰んなさいよね、生憎他人に心配されるほどヤワじゃないの」


私は逃げるように男の子を横切って公園から立ち去った。

その子が後ろでジッと私を見ているようで、気持ち悪かった。






帰宅し、家の玄関を開けた瞬間から何かが床に落ちる音が家を満たした。

この家にまだ落ちて壊れるようなものが残っていたのかすら思う。

リビングの扉を開けると、珍しいことに一人いなかった。

事実上、母親である人が一人机の上で頭を抱えているだけだった。

机から滴る水を見るに、今の音は花瓶が倒れた音だろう。


「………………」


私はその人の後ろを通り過ぎ、いつものように冷蔵庫から食べ物や飲み物を取り出して部屋に逃げ込んだ。

………その日はやけに食が進まなかった。



○ ○



翌日。

私はいつものようにブランコに座っていた。

子供はもうブランコに近寄ろうともしない。

代わりに子供を連れてきた母親同士が固まって、私を見ながらコソコソ話をしているのが目立った。


「………ふん、あんたらには分からないでしょうよ、私のことなんか」


分かってもらうつもりもない。

私はいつもの毎日に戻ろうとした。…その時までは。


『あっ、いた』


なんて声と一緒に、近付いて来る足音。

その足音は私の前まで来ると、止まった。


「………………」


私は睨むように、前にいる奴を見る。

見覚えのあるボロボロの男の子がそこにいた。


「………またあんた？今度は何」

「えへへ、まさかと思ってきたらホントに居たからびっくりしたよ」

「答えになってないんだけど」

「今日はバイト休みなんだ。だから会いに来たの」

「ストーカーね」

「すとーかー？何それ」

「…………………」


本気できょとんとした顔で首を傾げる男の子。

…やりずらい。


「ねぇ、お話しようよっ」

「なんで」

「僕がしたいから」

「嫌よ。なんで見ず知らずの奴なんかと…」

「そんなこと言わずに、行こうよっ」


男の子はニッコリと笑いながら、私の手を取る。

その瞬間、私は彼の手を振り払った。


「触らないでよ！」

「あ…」

「なんなのよ昨日から！私に付きまとわないでよ！！言ったでしょ！？あんたなんかに関係ーー」


ぐー。

その音が鳴った途端、世界に静寂が包まれた気がした。

面食らう男の子と、徐々に顔を赤くしていく私。


「………もしかして、お腹減ってるの？」

「へっ…！減ってない！減ってないわよ！！」


首を傾げる男の子に、私はお腹を抱えながら逸らす。


「でも今お腹…鳴ったよね？」

「その辺のガキンチョが鳴らしたんでしょ！私じゃないんだから！！」

「でも…」

「うるさいっ！もう帰る！！」

「あ…」


私は逃げるように公園から走り去った。

………珍しいことに、その日は私以外誰も帰って来なかった。




○ ○




翌日。

いつものように公園に足を運んだ私は、いつものブランコを見るなり足を止めた。

この時間はまだ誰もいない公園。

なのに居る先客。……しかも見覚えがある。


「…………何、人の特等席取ってんのよ」

「あ、おはよう。えへへ、今日もバイト休みなんだ」

「だから答えになってないっつーの！！」

「ここにいれば来るかなって思ったんだよ」

「ほんとストーカーね。将来捕まるんじゃないの？」

「捕まるような事はしてないよ？」

「してるのよっ！！」


男の子は始終分からないと言わんばかりの顔で首を傾げながらも、ブランコから退く。

私は構わず、いつものようにそこに座った。


「……で？あんたは何がしたいのよ」

「だからお話したいだけだよ」

「嫌って言ったでしょ？人の話は聞きなさいよね」

「じゃあ一緒に食べようよ」

「は？何を」

「おにぎり」


男の子はニッコリと笑いながら、手に持っていた小さなバックを見せる。


「今日もお腹が鳴らないように頑張って作ってきたんだっ」

「だっ、だからあれは私じゃないって…！！」

「ここはご飯を食べるところじゃないから、ほら。あっち行こうよ」


男の子は、私の手を取り歩き出す。

昨日みたく振り払う隙もなく、私は男の子に引っ張られるがまま近くのベンチまで連れて来られた。

私が座るのを見届けて、その後に男の子は隣に座る。

そしてバッグからアルミホイルに巻かれた小さなおにぎりを取り出すと笑って私に差し出した。


「はい、いっぱい作ってきたからいっぱい食べてねっ」

「………ふん、まぁ一つくらいなら食べてやるわよ」


受け取り、アルミホイルを捲り取って、口に入れる。

程よい暖かさと塩加減、ご飯の固さがなんとも言えない美味しさを出している。

中に何も入っていないシンプルなものだが、決して飽きが来ない。

そんなおにぎりだった。


「……………」

「美味しい？」

「………、…っ！…ふ、ふん。こんなご飯の集合体、猿でも作れるわよ。ちょっと美味しくできたからって図に乗らないことね！」

「あ、美味しかったんだ。良かった♪」


嬉しそうにニッコリ笑う男の子。

本当に気に食わないやつだ。


「ふんっ、もう一個もらってやるわよ！！」

「そんなガツガツ食べると喉に詰まらせちゃうよ。………はい、お茶もあるから♪」

「あんたは母さんかっ！！」



その後、男の子のおにぎりを3つほど食べて私のお腹は満たされた。

2つほど残ったが、それは男の子が食した。

それからはどこか気まずくて黙り込んだ。

男の子は気にしていない様子で、いつものように遊びに来ていた親子をボーッと見ていた。


「…………ねぇ」

「…え？何？」

「その…あんた昨日からバイトバイトって言ってるけどさ…。それってアルバイトのことでしょ？そういうのってもっと大人になってからじゃないと出来ないんじゃないの？」

「………………」


私の問いかけに男の子は今までとは違う、どこか悲しそうな笑みを浮かべた。


「うん、本当は…そうなんだけどね」

「なんで？あなた私と同い年でしょ？どうしてそんな子が働いてるの？両親はいないの？」

「いるよ。父さんも母さんも…ちゃんといる」

「じゃあ…どうして…」

「……働いてないんだ、どっちも」

「…っ！」


その言葉に、心臓が一際大きく鼓動した。


「なんて言うのかな…。働いてくれないんだ。それが当然だって思ってる…って言うのかな。自分達は働かないくせに、お金を欲しがってるの。だから僕や兄さんが代わりに働いて、毎日暮らしてるんだ」

「…………」


彼の両親の話は、とても私の家のあの二人のことを思い出さざる得なかった。

一丁前に毎日飽きもせず喧嘩ばかりしているけれど…実質あの二人も働いていないだろう。

でも食材は尽きたことがない。もし尽きているのなら私はこうして生きていないはず。…その辺が少し不思議な家だ。


「改心させようって思ったことないの？」

「え？」

「その両親を改心させて、やり直したいって思ったことないの？」


私はとうに諦めたこと。

似たような境遇の彼なら、もしかしたら…。


「あるよ」

「…っ！」

「一度だけ。……自分が変われたんだから、あの二人にだって可能なはずだって…思った。実際言ったよ。………でも、根が腐ってるものに何をしても無駄なんだよ」


男の子は俯いた。

そして膝の上に置いた手は、強く握られていた。


「そのせいで……僕は…、………たんをっ………」


震えた声は何を言っているのかはよく聞こえなかった。


「……あなたも、辛いのね」

「……………」

「私と………同じだ」

「えっ…」


私は彼から逃げるように家に帰った。

…………その次の日は雨だった。

これじゃあ外に出られない。

私は一日中、窓からの景色を見ていた。

コンクリートの道や家の屋根に打ちつける雨の音。

その道を覚束ない足で歩く見覚えのある子が不意に視界に映った。

あの子だ。こんな雨の日なのに、ビール瓶に敷き詰められたプラスチックの箱を持ってる。

見るからにあんな小さな子供が持てる重さを超えてるはずなのに。

その証拠に、彼は時折箱を下ろして手のひらを振ったり、息を吹きかけたりしている。

私には彼の顔に伝う雨が涙のように見えた。



○ ○



翌日。

今度は公園の前で彼とはち会った。


「……………あんたも暇人よね」

「えへへ」


もう何を言うまい。

私は男の子を置いて歩いて、雨で濡れていないブランコを探すとそこに座った。

男の子は、私の前に立つ。


「…ねぇ、僕なりに考えてみたんだ」

「何を？」

「君のこと。どうしていつもここに居るのか、とか」

「…………それで？結論は出たの？」

「うん。…一昨日に確信が持てた。…だから、こうしようって思ったんだ」

「こうしようって、何…、っ！」


男の子は突然手を差し出してきた。

私は彼の顔を見上げる。彼の顔は笑っていた。


「もし辛いなら…僕の所においでよ」

「……え…？」


その言葉の意味が分からなかった。

何を言っているの？この子は…。


「もしかしたら、僕の両親が君にも働かせようとするかもしれないけど…その時は僕が守るから。兄さんもきっと歓迎してくれる。だから…おいでよ」

「……………」


私は男の子の手のひらを見た。

とても同い年の男の子の手とは思えないほどに、傷だらけで肉刺だらけだった。

その痛々しい手のひらを見て、……私は吹き出してしまった。


「えっ、何か変なこと言ったかな？」

「変なことだらけよ。他人のことばかり気にする前に自分のこと気にしなさいよね」


昨日の姿を見て、そんな気がしていたから。

私は一応と思って持ってきていた絆創膏をポケットから取り出すと、そのボロボロの手のひらに貼りつけた。


「…本当に、変なことばっかり言うんだから。…あんたみたいなお馬鹿さん、初めて」

「………………」


男の子は私の顔をしばらく見つめると、ニッコリと笑う。


「やっと笑ってくれたねっ」

「えっ？」

「今まで全然笑ってくれないから、そういう子だと思ってたけど違かったね。…君の笑顔が見れて、嬉しいよっ」


笑って言いきる彼に、私も笑う。


「何それ。意味わかんない」

「えー？分かるよ！」

「分かんないわよっ！分かんないけど………ふふっ、面白いっ」


それからの毎日は、彼に会うのが楽しみで公園に行くようになった。

私が早く着くと、まだ来ないかなって思いながらいつも待ってた。

彼が先にいると、見ただけで嬉しかった。

笑ったのなんていつぶりだろう。毎日が楽しかった。

…………………でも、そんな毎日はいつまでも続かなかった。

突然、彼は全く来なくなってしまったのだ。

最初はバイトが忙しくなってしまったのだと思っていた。

でもその考えはすぐに頭の中から消えた。

代わりに、私のことが嫌になって来なくなってしまったのだという考えは…いつまでも私の頭の中を満たしていた。

悲しくはなかった。もともと夢のような出来事だったんだ。

彼だって一日でも仕事を怠れば、それは全て自分に降り掛かってしまう。

私なんかに構っている暇すらなかったんだから。


「………最後まで名前、聞けなかったな…」


また一人、ブランコに佇む毎日が始まった。



○ ○



その日も結局彼は来なかった。

不気味な曇り空の下、私はいつものように家に帰った。

再び訪れた『いつも』は、その瞬間終わりを告げた。


「……ぇ……」


玄関に入った途端に視界に広がる、倒れ伏した男性。

ピクリとも動かない。

恐る恐る近づいて、揺する。


「あの…大丈夫…ですか…？」


少し揺すると、手に何か生ぬるい液体のようなものが付いた。

男性から手を離し、それを見る。

手のひらは真っ赤な液体に染まっていた。


「ひっ…！！」


自分の手をひらを見下ろしながら、一歩下がる。

その途端、リビングの方からパァン！！という音が響いた。

男性の死体を避けて、小走りでリビングの扉の前に行って開ける。

開けた瞬間、手に付いたものと同じ液体を散らしながら、目の前で知らない男性が倒れた。

倒れた拍子に、私の足元に黒くて硬いものがぶつかった。

拾ってみてようやく理解する。

テレビでよく見る、人を撃つ道具だ。


「お前…」

「…っ！」


どこか疲れたような声に見上げる。

そこには私と同じものを持った、父親がぼんやりとした目で私を見下ろしていた。

違うところといえば、持っているものから煙が上がっているところだ。


「そうか…ははっ、忘れてたよ…お前もいたんだったな…」

「……お…とう…さん…？」

「なぁ…お前も一緒に行こう…そうすれば、全部元通りだ…」


そう言って、不気味に笑いながら煙のがあるそれを向ける。

このままじゃ殺される。

私は咄嗟に目を瞑って、手を前に向けた。

ーーパァン！！


「………？」


訪れた静寂に、私は目を開ける。

ここはもう、死んだあとの世界？

恐る恐る前を見ると、煙を上げたそれを前に向けている私の手と、その先で前に倒れる父の姿。


「……え…？」


倒れた父の周りには赤い液体が溢れ出てくる。

父の後ろで立ち尽くしている、母は何も持っていない。

周りには私と母以外誰もいない。

状況を理解するのは簡単だった。

お父さんは死んだ。殺された。

ーー誰に？

……私に。


「あ…あぁああ……っ…！」


頭を抱えて蹲る私に、お母さんはゆっくりと近付き、私の前で膝を付く。

そして、そのまま私を抱き寄せた。


「…っ！」

「………大丈夫…泣かないで…」


優しく、あやすように囁くと、私を離す。

そして、私がお父さんを撃ったものを持つ手を持ち上げると、それを自分の体に向けた。


「…！」


その意味がすぐに分かった私は、見上げる。

お母さんは穏やかな顔で笑っていた。涙を流しながら。


「……ごめんね…」

「ダメッ！止めて……！！」


ーーパァン！！

無慈悲な音と一緒に、お母さんは後ろのめりで倒れた。

先ほどまで私が抱き寄せられていた体は赤く染まっている。


「……ぃ…や…、……いやぁ……！」


私は殺した。他でもない、…自分の親を。

正当防衛なんて言い訳にすぎない。

この手で殺したんだ。この手で。


「……ッ！」


私はその場から逃げるように走り去った。

帰るまでは曇天だった空も、今や雨が降っている。

水たまりを跳ねながら、ひたすら走る。

だから、足元にある小さな石にも気付かなかった。


「ぁっ…！！」


パシャアと音をたてながら、水たまりに顔から転ぶ。

突っ伏した状態のまま、私はあの男の子の言葉を思い出す。


『もし辛いなら…僕の所においでよ』

「……… 」

『兄さんもきっと歓迎してくれる。だから…おいでよ』

「………っ……」


行けるわけない。

こんな、人を殺しといて。

親を殺しといて…どの面下げて辛いなんて言えるのよ。

彼がどんなに優しかったって、人殺しだって知ったら…きっと嫌われる。


「………行けるわけ………ないじゃないっ……！！」


雨は容赦なく私を打ちつける。

顔を伝うその雨は、とても塩辛かった。




○ ○




もうあの日から何日経っただろう。

それすら考えることもなく、ひたすら歩き続けた。

何も食べず、何も飲まず、立ち止まらず、ひたすらどこに行く宛もなく。

体が悲鳴を上げてるのをようやく理解した時、私は綺麗な花畑に辿り着いた。

一面に広がる風に揺れる花々と、宙を舞う花びら。

こんな私には勿体無いくらいに、それはとても綺麗な光景であった。

こんな所で、綺麗なお花に囲まれて死ぬだなんて…幸せ者じゃないか。

道端で死ぬより。よっぽど。


「……………」


花畑の中に倒れる。

花のいい香りが更に眠気を誘ってくる。

このまま寝たら死んじゃうかな。それもいいよね。

もう…すべてがどうでもいい…。


「私なんて………死んじゃえばいいんだ……」


そんな言葉を吹き飛ばすように、一際強い風が吹いた。

その風の音のせいで、目の前まで近寄る足音に、私は気付かなかった。


「ーーそれでいいの？」

「ぇ…」


凛とした、落ち着いた声に顔を上げる。

そこには日傘を差した、綺麗なドレスに身を纏った女の子が私を見下ろしていた。


「あなたはそれで後悔しませんの？……本当に、…それでいいの？」

「何………言ってるの……？」

「何かし損ねたことはないの？死ぬ前に、よく考えてみなさい」

「…………」


し損ねたこと。やり損ねたこと。

こんな私が死ぬ以外に何かやることがあるの？

警察のところに行く？

……違う。

ひとつだけ、ある。


『ねぇ、一緒にお話しようよっ』


会いたい。

もう一度、名前も聞けなかったあの子に。

今度はちゃんと名前を聞いて、名前を呼んで、そしてお礼を言いたい。

『ありがとう』って…。笑って、言いたい。言いたいよ…。


「……後悔がないと。やり損ねたことも何もなく、未練がないと言うのならそのまま眠って、逝きなさい。私が看取ってあげます。でも、あると言うのなら…」


女の子は微笑みながら言うと、しゃがみ込む。


「私と一緒に、もう一度やり直してみませんか？」

「…………一緒に……？私と一緒に……いてくれるの…？こんな…私と………」


女の子は笑って頷く。


「あなたが望むのなら、ね」

「…………、…会いたい人がいるの……探したいの…」

「…………そう。なら立ち上がりなさい。…どうしても駄目というのなら…左手……」


女の子は言った所でハッとしたように動かした左手を引っ込める。

そして一瞬顔を伏せると、すぐにまた笑って右手を差し出した。


「右手くらいなら……貸してあげますから」

「…………うん……」


私は手を出して、女の子の小さな右手を掴む。

それきり、私の意識は急に閉じた。



○ ○




目を覚ました時、私は知らない部屋のベッドの上で寝ていた。

こんなにふかふかな布団の中で寝るのは初めてだ。

視線を横に向けると、ベッドの隣で椅子に座り、何かを読んでいるのか下を向いている女の子が居た。

女の子は、視線を上にやると私に気づき顔を上にあげて微笑んだ。


「やっと起きましたわね。体調はどう？」

「………特に…何も…」

「そう。酷く衰弱していたから心配していたのだけれど、大丈夫そうね。待っていて、今食事を用意してきますわ」

「…………」


私はどこか嬉しそうに部屋を出ていく女の子を見送るしか出来なかった。

その後、食事を持って戻ってきた彼女によれば私はあの後気を失い、二日間は目覚めなかったそうだ。

彼女はその間、私に付きっきりで看病してくれていたと言った。

彼女のお手製と言う食事はとても美味しかった。


「………大分お腹も膨れたようね。じゃあ眠くならないように、話でも聞かせてもらいましょうか。…何があなたをそこまで追い詰めたのかを」

「………うん、話すよ。全部…」


私は彼女に全てを話した。

家のことや、男の子のこと、そして私が犯した罪のことを全て。


「……その男の子は…元気だった？」

「え？……う、うん…体はボロボロだったけど…元気ではあった、と思う。ただ我慢してるだけだろうけど…」

「…………、そう…。………ところで、その話と似たような事件がつい先日起きたみたいなの。これのことかしら」


女の子はテーブルに置かれた新聞を取ると、広げ私に見せた。


「『集団殺人事件。借金滞納の末、殺害し心中』と書いてあるわ。この被害者達の顔に見覚えは？」


女の子は記事に載っている写真を指さす。

それは見間違えるわけもなく、私の両親と…そしてあの日、お父さんに殺された人達の写真だ。


「なら、この行方不明の6歳の長女というのはあなたということね」

「……うん…。でも私が使った銃で、私が犯人だって分かるのも時間の問題だよね…」

「………………」


女の子は、黙ったまま机に白い布で包まれた何かを置くと、それを広げた。

それは紛れもなく、私があの日 拾って…そして使ったものだ。


「えっ…な、なんで…？どうしてあるの？」

「ややこしくなるのは嫌いなの。あなたが眠り込んでる間に拝借して来ましたわ。………これであなたはただの行方不明の女の子、真実は永遠に暴かれることはない」

「……………」

「まぁ、少なくともこんな所まで警察程度が来れるわけもないから…どのみち、あなたが裁かれることはないけれどね」

「……どうして、こんなことしたの…？私は…犯罪者なのに…」


私の問いかけに、女の子は呆れたように苦笑する。


「あなたは二日前、私と一緒にもう一度やり直すと言いましたわ。だから私もこうしてあなたを助けた」

「…………」

「それなのに、言ったそばから警察に出頭するなんて冗談じゃありませんわ。私はあなたにそんな方法で罪を償ってもらうつもりであなたを助けたわけじゃないの」

「じゃ…じゃあどうすればいいのよ！人殺しなのよ！？ならあなたに殺されればいいの！？そうすれば平等！？」


言っている意味もわからず苛立つ私に、女の子はギロリと睨む。


「寝言は寝て言うことね。…そんなことしても誰も喜ばない。それに、出頭した所であなたは未成年でしかも子供。たとえ罪でも罪になんかならないから意味もありませんわ。そもそも信じてくれること自体奇跡に近いわ」

「…………」

「それに私があなたを殺した所で、あなたは満足できるでしょうけど残された私はどうなるの？あなたと同じように苦しまなくちゃいけないの？」

「じゃ…じゃあ…どうすればいいのよ…」


視線を逸らしながら尋ねる私に、女の子はまっすぐと私を見て答えた。


「生きればいいのよ。死んでしまったご両親の代わりに、あなたが生きるの。殺されてはいけないわ。最後まで…自分の力で生き続けるの。それがあなたが出来る償いよ」

「…！」


女の子は机に置かれたピストルを両手でていねいに持つと、私の手の上に置いた。


「でもただ生きるだけというのも罪悪感に押しつぶされてしまいますわ。それに色々と不安な所もあるし、過去に囚われ続けられても困るしね。……だから、まずあなたが両親から譲り受けた名前は一度捨てなさい」

「え…」

「例え数年経って、事件のほとぼりが冷めたとしても、あなたは捜索されている身。下手に名前を呼んで勘付かれたらそれこそ警察行きだわ。…だから一度捨てなさい」

「……………」

「そして、名前を捨てて………奈緒(なお)という名前のボディーガードとして、私のもとで暮らしてほしい」

「ボディー…ガード…？」


私の問いかけに、女の子は頷く。


「丁度ここにピストルがありますわ。…あなたは両親を殺したこのピストルで…今度は私を守るの。練習する場所は私が設ける。…どう？」

「どうって言われても…そんなこと、私に…」

「できますわ。自分を信じて」


女の子は私の手をギュッと掴む。

顔を女の子に向けると、女の子は笑う。


「………私の名前は天王州アテネ。この世で最も偉大な女神の名前なの」

「め…がみ…」

「ええ。………だから、これからも……よろしくね。奈緒」


その女神のような微笑みに、私はただ頷いた。

アテネは、どうしようもない私に手を差し伸べて、道を示してくれたんだ。

私はそれに……応えたかった。

銃の練習は、程なくして日本を離れた先のギリシャの別邸でした。

実戦での経験や知識もすべてギリシャで詰み、10年掛けて私はアテネに信頼されるボディーガードとして完成した。

そして10年経った、その夜。

屋敷を出て夜空を見上げているアテネを見つけて、私は話しかけた。


「何してんのよ、冷えるわよ？」

「…………。日本は、そろそろクリスマスの時期ね」

「え？…………あぁ、そうね。クリスマスかー…久しくそんなの見てないなー」

「……そう」


アテネが何かを考えているときは返事もそんなような短いものになる、というのも10年の歳月が私に教えてくれたことの一つだ。


「何考えてんの？」

「………………奈緒。あなたには申し訳ないことをしましたわ」

「え？」

「あなたと出会ったあの日…私はあなたが会いたい人というのを見つけてあげたいと思った。なのに私は…こんな所にまで逃げてしまいました」

「……は、はぁ？何言ってんのよ。そんな逃げてこんな所に来たわけじゃないでしょ？」

「いいえ、逃げてきたのです。怖かったの」

「…………………」


アテネが何を怖がっていたか。

それは大体分かっていた。時折聞かされたアテネの大事な人の話。

そしてその話の人物と一致する、魘されながら言い続けていた男の子の名前。


「………でも、私はもう…逃げない。迷いませんわ」

「アテネ？」


アテネは風で髪を靡かせながら私に体を向けて、微笑んだ。


「………帰りましょう、日本に。そして…私やあなたの探しものを…見つけに行きましょう」

「……………、うん、見つけよう。一緒に」

「…ええ」















「…それで…日本に帰ってクリスマスイヴを迎えて、アテネは散歩に出たきり戻らなくて、私もそれを追いかけて………それで今に至る。そういう話よ」

「…………………」


私の話を椅子に座って真剣に聞いていたハヤテ君は、黙って俯いた。

私はそんなハヤテ君を他所目に、手のひらを広げて見下ろす。


「私には今も見えるの。あの日、この手のひらにベッタリと付いた大量の血が。……今思えば、私の両親もあなたの両親と似たようなダメ人間だったのよ。まだ抱えた借金を子供に押し付けずに悩み果てる所はこっちの方がマシだったみたいだけどさ」

「……………」


場を和ませるつもりで言った言葉もハヤテ君には重くのしかかる言葉でしかなかったようだ。

私はそれに苦笑する。


「…私…こう見えてもアテネには感謝してるの。今ここでこうして気楽に生きていけてるのも全部あの子のおかげだから。名前も、こうして奈緒として生きてたら凄い気が楽でさ…ホント、親不孝者よね」

「っ！ そんなこと…！！」

「私…アテネを傷つける奴らは絶対に許さない。過去にあの子を怪我させたマフィアが居たけど…そいつは私が殺してやった。アテネに血や涙を流させた奴らは私が全員殺してやる」

「…っ…」

「言ったでしょ？人を殺すことに躊躇いなんかない、……そういうことよ。所詮人殺しは人殺し…。アテネには言うたび怒られるけど…その覚悟で私はあの子を守ってる」

「………違いますよ…そんなの…」

「え？」


ハヤテ君は今にも泣き出しそうな顔で下を向きながら言った。


「アーたんは…奈緒さんにそんなことさせたくて、ボディーガードとしてそばにいる事を望んだわけじゃないですよ…。きっと…幸せになってほしくて…！」

「……………」

「僕はナギお嬢さまにも、マリアさんにも、アーたんにも…笑っていて欲しいです…。それは奈緒さんも同じなんですっ！…だから…人殺しなんて言わないで下さい……。もう…そんなこと、しないでください…」

「悲しんでくれるの？こんな私を」

「そんなのもちろんですよ！」

「………そっか。そうだね…」


君は、そういう人だったね。

昔も、今も。


「殺しちゃったのは、その時だけだよ。ついカッとなっちゃってね…自分すら見失ってた。…でもあとは怪我とか、前みたいに眠らせただけ。もうしないって決めてるよ、ちゃんと」

「…本当ですか？」

「本当よ。アテネと同じこと言わないでよね」

「……そうですか。…なら、良かったです」


ハヤテ君は安心したのかニッコリ笑顔を向けてくる。

その笑顔も、いつまでも変わらないね。


「……………ありがとう」

「え？」

「私を想ってくれて。こんな私に普通に接してくれて」

「そんなの、当たり前じゃないですか。奈緒さんを責める人なんて誰もいませんよ」

「…うん、ありがと。ハヤテ君」


私はベッドから立ち上がり、椅子に座るハヤテ君の前に立つ。

そして体を屈め、頬に手を添えるともう片方の頬に口を付けた。


「…っ！？ な…ななっ…何を…！？」


目を見開かせて真っ赤になって頬を押さえるハヤテ君。

分かりやすい人だなぁ。


「礼よ礼。深い意味はあるから安心しなさい」

「……はぁ、あるんですか…。………………、え！？あるんですか！？」

「うん、そりゃあもう深海500メートルくらいはあるわよ」

「……………」

「……あ、固まった。……ま、いいや。おやすみハヤテ君。また風邪引かないでね」


私は真っ赤な顔のまま硬直したきりのハヤテ君を置いて、部屋を出る。


「…………まったく、覚えてないなんてデリカシーなさすぎよね」


吐き捨てて、歩き出す。

知ってるよ。私はちゃんと覚えてる。

あの日、私に話しかけてくれた男の子はハヤテ君だってこと知ってるよ。

あの日、初めて話しかけてくれた時…突き放しちゃったけど…本当はとっても嬉しかったよ。

おにぎり…とっても美味しかったよ。

ずっと…想ってたよ。また会えて、とっても嬉しいよ。

君が覚えてなくてもいい。私はずっと覚えているから。

でもやっぱり………、ううん。それは贅沢すぎだね。


「…………話しかけてくれて、ありがとう」


大好きだよ、ハヤテ君。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.53 )
日時： 2013/03/15 19:04
名前： masa

どうもmasaです。

今回は奈緒さんの過去話ですか。
でも、いくらハヤテ相手とはいえ、よく話す気になりましたよね。普通は当人同士以外には生涯隠し通すものなのに。

ってか奈緒さんはあの例のダイブを期待してたって言ってましたけど、本当にしてきたらどうしたんでしょう?まさか｢ハヤテ君になら何されてもいいよ｣とか言って受け入れたりして。


奈緒さんの家計もハヤテ同様暗い物だったんですね。いや、子供に働かせなかったという点ではまだマシか。

でも、何で奈緒さんの両親は喧嘩ばかりしてたんでしょうね。多分ですけど、仕事が見つからないと言う焦りと子供を育てなきゃいけない焦りがあったんでしょうかね?

暗い日々を送る奈緒さんにとってはただただ声をかけてくれる少年は嬉しい存在だったんですね。
ハヤテが来なくなったのは夜逃げしたからでしょうね。ハヤテには日常でも奈緒さんにとってはようやく出来た信じれる人間だったので、辛かったでしょうね。

アテネが奈緒さんに右手を差し出したのは左手はハヤテの物だったからでしょうね。
でも、流石はアテネですね。ハヤテの時同様見ず知らずの人間を引き入れたんですから。


流石はハヤテ。全ての事情を聴き、奈緒さんを優しく受け入れたんですからね。
で、奈緒さんのお礼のキスを受け顔を赤くする。ってかアテネと580回もキスしてたのにまだ照れるか。
まあ、奈緒さんの言ってた意味はハヤテはきっと一生分からないままでしょうね。


さて、奈緒さんはハヤテへの好意をどうするんでしょうね?　押し殺しちゃうのかな?それとも表に出すのかな?





次回も楽しみにしてますね。
では。

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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.54 )
日時： 2013/03/23 18:18
名前： ゆーじ

「なぁハヤテ。学校なんてなくなればいいと思わないか?」

「…………は？」


正月から何日か経ったある日の夜。

突然ハヤテの前に立ちはだかるナギが、顎に手を当てながらそう問いかけた。


「だってそうだろ？勉強が本業だなんてそんな生き地獄を全国の学生は味わっている」

「…………」

「だから私は諸悪は根源すべきだと考える！どうだろうハヤテ！！」

「………、それは違いますよお嬢さま」

「何っ？」

「確かに学校は勉強しに行くところです。それに挫けている学生も数多くいるでしょう。…でも！勉強しに行くだけが学校じゃありません！！」


どこか目を輝かせて語り出すハヤテに、ナギは嫌な予感とともにハヤテに尋ねたことを後悔する。

ハヤテは神に祈りを捧げるかのように両手を握る。


「同じ環境で同じ部屋で同じことを学ぶ。そうすれば自然と生まれる友好関係…！時には喧嘩もするでしょう。傷つけ合ったりするでしょう。でも！それを乗り越えてこその友情！素晴らしいと思いませんか、お嬢さま！！」

「え…別に…」

「そうですか…」

「ていうかお前、そんなに語るほど学校好きなのか？行きたいのか？」

「はい、そりゃあもう♪」


ナギの問いかけに、ハヤテは眩しさすら感じるほどの満面笑顔で頷いた。

ハヤテの笑顔とは裏腹にナギの顔は曇る。


「…そうか。…………お前もいずれは敵になるのか…」

「…？ ところで、どうしていきなりそんな不登校の言い訳みたいな事を言い出したんですか？」

「っ！！ べっ、別に深い意味はない！！じゃあ私は寝るから！おやすみハヤテ！！」

「あ…はい、おやすみなさい…」


逃げるように立ち去ったナギを、ハヤテは呆然と立ち尽くして見送った。




○ ○



「うーん…どうしましょう…」


台所に置かれた机の上に置かれた布に包まれた箱状のものを見下ろしながら、マリアは困ったように立ち尽くす。

そんな彼女の後ろ姿を通りかかりがてら見つけたハヤテは、マリアに近づく。


「マリアさん、どうかしましたか？」

「あぁ、ハヤテ君。実はナギが学校にお弁当を持たずに行ってしまって困ってたんです…」

「へぇ、お嬢さまが学校に…。……………、……え！？お嬢さまって学校行ってたんですか！？」

「え？えぇ。知らなかったんですか？」

「てっきり本物の引きこもりかと…」

「間違ってはいませんけどね…」

「え？」

『三千院さんは欠席が多い傾向にありますからね』


背後からの声に、ハヤテもマリアも振り返る。

見れば、小さくあくびをしながらアテネが台所に入ってきていた。


「アーたん！…今日は随分起きるのが早いね？」

「ええ。私も白皇に用事がありましてね…」

「白皇…？ 白皇ってあの…お金持ちばかりが集まる超エリート学校のあの白皇？」

「…？ ええ、そうだけれど…」


不思議そうに首を傾げるアテネを他所に、ハヤテはマリアに顔を向ける。


「もしかしてお嬢さまって…白皇学院に通ってるんですか？」

「ええ…そうですけど…」

「わぁ…通ってそうだなと思ってたけど本当に通ってたんですね…凄いなぁ…」

「あはは…まぁ頭は無駄にいいので…」


マリアは感心するハヤテに苦笑いを向けると、次にアテネに顔を向けた。


「ところで…天王州さんも白皇の生徒だったりするんですか？そんな話は聞いたことありませんでしたけど…」

「生徒としてはとっくに卒業しましたわ。…今は理事の仕事をしているの」

「……………、え………ええっ！？理事！？もしかして理事長なんですか！？」

「ええ、そうだけど」

「若い理事長がいると噂は聞いてましたけど…まさか天王州さんだったとは…」

「凄いね、アーたん…」

「まぁ仕事は基本的には代理の葛葉さんがしてくれていますから、私がやる仕事は少ないけどね」


アテネは小さく息を漏らす。


「そんなわけだから、そこのお弁当を三千院さんに届けろと言うのなら届けますけど？」

「あ…。すいません…ならお願いできますか？」

「ええ、分かりましたわ」


申し訳なさそうにナギの弁当を渡すマリアに、アテネは受け取りながら笑いかける。

受け取るなりアテネはハヤテを見る。


「じゃあハヤテ。一緒に行きますわよ」

「えっ？なんで僕も？」

「主の通う学校のことを知るのも、執事の嗜みよ。あと奈緒が起きてくれないから、代わりに護衛として付き合いなさい」

「そ…そっか…分かったよ。すいませんマリアさん、行ってきます」

「はい、二人ともお気をつけて」


歩き出すアテネを追いかけ、キッチンから出ていく二人をマリアは手を振って見送った。

そして屋敷内にあった自転車を出し、荷台に乗せたアテネの案内のもと、ハヤテは白皇を目指す。


「ハヤテはこの…じてんしゃ、というものの運転が随分と上手ね」

「まぁ親に売られる前までは自転車便のバイトしてたからねー。業界最速とか言われてたし」

「そう…。でも二人乗りというのは少し怖いですわね…」

「大丈夫？ちゃんと掴まっててね」

「え…えぇ…」


そんな会話を交わしつつ、ハヤテは無事に白皇の前に到着した。

大きな校門の先の校舎すら見えない敷地の広さに、ハヤテは感激の声を漏らした。


「うわぁ…想像以上に広いや…」

「ちゃんと私について来ないと迷子になりますわよ。気をつけてね」

「う、うんっ」


先を歩くアテネをハヤテは追いかける。

そして敷地内に足を踏み入れようとした所で、


『ちょっとそこの男女。待ちなさいよ』


女性の声に呼び止められ、ハヤテは立ち止まり振り向く。

ちなみにアテネは足を止めたきりそのままだ。


「なんでしょうか？」

「なんでしょうか、じゃないわよ。あんたら見ない顔だし、この学校の生徒じゃないでしょ？一体何者よ！名乗りなさい！！」

「えっ？えっと、僕は三千院家執事の綾崎ーー」

「嘘つくんじゃねえこの貧乏野郎ーーーっ！」

「あうっ！」


女性はハヤテの自己紹介を聞き終える前に、持っていた出席簿でハヤテの頭を叩く。

頭を抱えて涙目で蹲るハヤテに、横目で見ていたアテネの眉間がわずかに動く。


「な…何するんですかぁ！」

「あんたがナギちゃんなわけないでしょ？あの子一応女の子よ？女の子みたいな顔でもあんたは男だろうが！！このあたしをなめないことねっ！！」

「誰もナギお嬢さまだとは言ってないでしょう！お嬢さまの執事だって…！！」

「嘘をつくなーっ！！」

「あだっ！」


女性は再びハヤテの頭を出席簿で叩く。

痛みが引いてない状態で同じ場所を叩かれたこともあり、ハヤテは膝を折って頭を押さえる。


「あんたみたいな貧乏人が、あろうことかナギちゃんの執事なわけないでしょ！？嘘とクレジットカードには限度があんのよ限度が！！」

「うぅ…ホントなのに…」

「はっ、黙りなさい。………で？さっきから顔も見せない彼女は一体どんなデタラメを言い出してくれるのかしらねぇ！？」


女性はアテネの背中を睨みつける。

アテネは不敵に笑いながら、女性に振り返る。


「そうね。大方、この学校の理事長とでも言いましょうかね」

「彼氏も彼氏ならあんたもあんたね！あんたみたいなケツの青いマセガキが理事長なわけ……………」


女性はアテネの顔を見るなり、目を丸くしていく。

そしてその顔は徐々にこの世の終わりを見たかのように青ざめていく。

対照的にアテネは真っ青になった女性にニッコリと笑いかける。


「ごめんなさいね、お尻が青いこんな子供が理事長で。さぞかし今まで私に対しての鬱憤が溜まっていたかがよーっく分かりましたわ、桂先生？」

「めめっ、滅相もございません理事長！そんな愚かしいことを、この私が思っているわけないじゃないですか！やだなぁ、もぉ！」

「ふふっ、そうよね。妹さん直々にどうしてまだこの学校で働けているのかと聞いてくるほどの問題行動をこれまで数多くしておいて、とっくにクビになってもおかしくなかったのに私が目を瞑ったから今もこうして自由奔放に過ごせているあなたが、
他の誰でもない私のことをそんなに悪く言うだなんてことありませんわよね♪」

「も…もちろんですよ、理事長！は…ははっ！」

「ところで私の大切な連れであるハヤテを、全く話を聞かずに独断で不審者と決めつけてその出席簿で二回ほど叩いてたような気がするけど…見間違いかしら？」

「み…見間違いじゃないですかねぇ！だ…だって理事長のお連れ様が不審者なわけありませんから！」

「そうよね。…じゃあ大人しく通してくれますわよね？この子は執事として三千院さんが忘れたお弁当を届けなければならないの」

「もっ、もちろんですよ！ささっ、どうぞお通りくださいっ！！」


女性は土下座の態勢で地面に頭をつける。

アテネはそんな女性にここぞとばかりに晴れた笑顔で告げる。


「今月のお給料は楽しみにしていて下さいね、桂先生♪」

「は…！ははぁ！」


アテネは女性に向けていた笑顔をまるで元からなかったかのように、いつものクールな表情に戻してハヤテに向き直る。


「さ、行きますわよハヤテ。時間を大幅に無駄にしましたわ」

「う…うん。でもいいの？あの人…」


ハヤテは未だに土下座している女性を見る。

あんな強気な態度だった彼女があそこまで弱気になるというのも凄い話だ。


「いいのよ。あれはこの学校最大であり唯一の問題教師だから」

「まぁ確かに見た感じなんでクビにならないんだろうとは思うけど…」

「そういうことよ。まったく、ハヤテを叩くなんてあり得ませんわ」

「あはは…でもまぁ生徒じゃないのは確かだから…」

「あの人にそんな甘い姿勢でいると後々かなり後悔しますわよ」

「もぉ、言いすぎだよアーたん」


と、言っていたハヤテもアテネの言うことが正しかったと思い知らされる日が来るとはこの時はまだ知る由もなかった…。




○ ○


校門を抜けて歩き出してから、既に数十分は経とうとしていた。

しかし周りの森の中に来たかのような木々生い茂る景色が変わる気配はない。

校舎のこの字える気配もない。普通の敷地の学校ならありえない事だ。


「………ねぇアーたん。全然校舎に向かってる気がしないんだけど…迷ってないよね？」

「なっ…失礼な！私はこの学校の理事長ですわよ？どうしてなんで何があって迷わなければならないの！？」


ハヤテの問いかけにアテネは振り返って、己を主張するように胸に手を当てながらハヤテに睨みつける。

こればかりは流石のハヤテも自分が悪いことをすぐに理解する。


「ご…ごめん…あまりに広いから…」

「ふん、もう少し我慢なさい。そうすれば少しはあなたの不満もなくなるでしょうから」


アテネは鼻を鳴らし、再び歩き出す。

ハヤテもそれに付いて行く。

そしてしばらく歩いた所で木々を抜けると丘のような場所に到着し、目に映る景色は途端に見晴らしのいいものに変わった。

中でも特に目に映ったのは、大きくそびえ立つ時計塔だ。


「わぁ…！何あれ…高いや！」

「あそこはガーデンゲート。この学校では一番高い建物よ」

「ガーデンゲートかぁ…凄いなぁ…」

「ふふっ、あの時計塔の最上階は生徒会室になってるの。関係者以外は立入禁止なのよ？」

「へ～」

『えっ…て、天王州さんっ！？』


アテネを見て驚いたようなその声にハヤテとアテネは顔を見合い、辺りを見渡して探す。

しかし周りにあるのは木や茂みだけ。まさか植物が喋るだなんてことはない。


『あ…違うの。こっちよ！上！』

「上？」


ハヤテとアテネは同時のタイミングで見上げる。

そして木の枝の上で、木の幹にしがみついて引きつった笑みを浮かべる少女と目が合った。

アテネはその姿を見るなり呆れたように溜息をつき、ハヤテはきょとんとした顔で少女に問いかける。


「白皇では木上りがブームなんですか？」

「ちっ、違うに決まってるでしょ！これが遊んでいるように見えるの！？」

「まぁ…」

「遊んでないわよ！誰が好き好んでこんな高い場所に来なきゃいけないのよ！！」

「そんなこと言われましても…。聞きたいのはこっちなんですけど…」

「ぐっ…」


ハヤテの正論な突っ込みに、少女は恥ずかしそうに歯を噛みしめて顔を逸らす。

アテネは二度目の溜息をすると、改めて少女を見上げる。


「…桂さん、あなた何があってそんな所にいるの？高所恐怖症は直ったのかしら？」

「直ってないわよ！ないからこうして八方塞がりなんじゃない…」

「なら登らなきゃいい話でしょうに…」


涙目で『うー…』と声をあげる少女にアテネはやれやれと言わんばかりに首を振る。


「ハヤテ。彼女のこと助けに行ってあげなさい」

「う、うん…もとよりそのつもりだったけど…」

「助けてくれるの…？」


少女の期待に満ちた目に、ハヤテは頷く。


「じゃあとりあえず、今からそっちに行くので…」

「えっ、待っ…待ってよ！行くってどういう意味！？」

「ですから、あなたのいるその枝の上に行って一緒に降りて…」

「それって私のことを抱くってこと？」

「まぁ…一人で降りれないのなら、そうするしか…」

「や、止めてよ！そんなこと…！！」


少女は慌てて木の幹から手を離し、両手を出して手を振る。

それによって、今まで保たれていたバランスが崩れ、少女はゆっくりと後ろに倒れていく。


「え…」


そして、やがて枝から足が離れ、少女は落ちる。

少女は横目で迫りくる地面を見て、涙を散らしながら目を瞑る。


「きゃああああっ！！」

「危ないっ！！」


しかし少女の体を空かさずハヤテが抱き寄せて落下を防いた。

お姫様抱っこの状態で少女を抱いたハヤテにアテネは駆け寄る。


「ハヤテ、桂さんっ！！」

「…………天王州さんの声が近い…？私、生きてるの…？」

「そりゃあどのみち落ちてもあの程度の高さならちょっと怪我する程度ですよ」


少女はゆっくりと目を開ける。

そして眼前に広がるハヤテの顔と、そのハヤテに抱き上げられている自分の状況を理解すると慌ててハヤテから離れ、背中を向ける。


「あっ、ありがと…助かった…」

「いえ、怪我がなくてよかったです」

「……う、うん…」


少女は赤く火照った顔のまま深呼吸して、改めてハヤテとアテネに向き直る。


「本当にありがとう。……私、桂ヒナギク。あなたは？」

「僕は綾崎ハヤテです。三千院ナギお嬢さまの執事をしています」

「え、ナギの？じゃあ新しい執事っていうのはあなただったのね」

「お嬢さまとお知り合いなんですか？」

「ええ。ちなみに天王州さんともね」


ヒナギクはアテネに顔を向けると、アテネは目を瞑ってフッと笑う。


「天王州さんったらいつ帰ってきたの？連絡ぐらいしてくれても良かったのに」

「去年のクリスマス頃に帰国したの。その後は色々あってねって」

「そっか。でもまた白皇に戻ってきてくれるのよね？」

「ええ、仕事も溜まってるでしょうからね」

「ふふっ。あ、ねぇ二人とも生徒会室来てよ！さっきのお礼がしたいの」


手を叩いて提案するヒナギクにハヤテは不思議そうな顔でヒナギクを見る。


「どうして生徒会室なんですか？」

「どうしてって…そりゃあ私が生徒会長だからよ。この学校の」

「え！？生徒会長！？」

「うん」


ヒナギクはさも当たり前のように頷く。


「……………木に登って降りれなかったのに、生徒会長…」

「そっ、それとこれとは関係ないでしょ！？もうっ、さっさと時計塔行くわよ！」

「でも時計塔は関係者以外は立入禁止なんじゃ…」

「お客さまと理事長まで追い返すほど器の小さな生徒会室に見えるのかしら？」

「い、いえ…」

「じゃあいいじゃない。行くわよ」


歩き出すヒナギクにハヤテはオロオロとヒナギクの背中とアテネの顔を交互に見る。

そんなハヤテにアテネは笑いかける。


「桂さんなら三千院さんを呼び出してもらえたりするかもしれませんし、ここは厚意に甘えましょう、ハヤテ」

「………うん」


ハヤテは頷き、ヒナギクの背中を追った。




○ ○



「うわぁー！高いなぁ！」


ヒナギクの案内のもと時計塔の最上階である生徒会室に到着し、ハヤテはテラスから見える景色に目を光らせる。

アテネとヒナギクはそんなハヤテの後ろ姿をソファーに座り、紅茶を啜りながら眺める。

「ハヤテ君って、なんだか変な所で子供みたいな子ね。あんな所に出て景色を楽しむだなんて物好きにも程があるわ

「それはあなただけの個人的な意見であって、ここに来る生徒は全員が全員あのテラスで感激の声を漏らしますわ。まぁあの子が変な所で子供なのは分からなくもないですけどね。変わってないもの」

「幼馴染が何かなの？二人って」

「大体そのような感じですわ」

「ふーん…」


ヒナギクはわずかに目を細めて、カップを手に取り紅茶を啜る。

それと同時にチャイムが鳴り、ヒナギクは『あ』と呟きながら顔を上げる。


「授業開始のチャイムですか？」


テラスから戻って来たハヤテがヒナギクに尋ねる。

ヒナギクは腕時計を見下ろし、首を振る。


「ううん、昼休みが開始したチャイムよ。…あ、そっか。ナギのこと呼ばないとね」

「ええ、そうしてくれるとありがたいんですが…」

「……桂さん、今が昼休みのチャイムなら…あなたチャイムが鳴る前までの授業は？」

「うぇ！？」


目を細めて睨むアテネにヒナギクは顔を逸らす。


「い、いや…その…地面に落ちてた小鳥を巣に戻そうと木に登ってたらチャイムが鳴っちゃって…」

「降りようにも降りれなくて今に至るわけね。まったく…」

「うう、すいません…」


呆れたように溜息をつき、手を膝の上において肩を落とすヒナギクにハヤテは苦笑する。

そんな時にチン…と音が室内に響くと、エレベーターの扉が開いた。


『やっと見つけた…』


エレベーターから姿を表した少女はヒナギクの姿を見るなり呆れたような顔で呟いた。


「ヒナギク。お前授業もサボって何をそんなにくつろいでるんだ！」

「あ…綾乃…。ち、違うのよ！サボったわけじゃなくて…！」

「どんな理由であろうとも結果は同じだ、まったく…」

「…うう、はい…」


更に肩を落とすヒナギクに少女は溜息をつく。


「そんなに責めないであげて、御崎さん。彼女も高い木に登って降りれなかったというどうしようもない事情があったのだから…」

「り、理事長！？お帰りになられてたんですか…」

「そんな堅苦しくしなくていいって言ってますわよ」

「あ…す、すいません…。ですがどうして理事長がここに？」

「連れが三千院さんにお弁当を届けたくてね。そしたら桂さんに会って今に至りますわ」

「…ナギの？」


少女はわずかに顔をしかめると、視線をハヤテに向ける。


「……お前…外来者か？」

「あ…はい。三千院ナギお嬢さまの執事の、綾崎ハヤテです」

「綾崎ハヤテ…？ ……そうか…お前そうなのか…」


少女は名前を聞くなり探るような目つきでジッとハヤテを見る。


「あの…何か？」

「っ！ あ、いや…なんでもない。……私は御崎綾乃(みさき あやの)、よろしく」

「よろしくお願いします、御崎さん。…………って、御崎…？ どこかで聞いたような…」

「御崎君の双子の妹さんよ。あなたが三千院さんに閉め出された時にお世話になったでしょう？」

「それは分かるけど…………って、ええ！？双子！？」

「…？ 」


飛び退く勢いで驚くハヤテに、綾乃は不思議そうな顔で首を傾げる。

ハヤテは綾乃の顔を改めてよく見て、顎に手を当てる。


「…でも言われてみれば目つきが悪い所とかが似てるのかも…」

「お前は喧嘩を売ってるのか？」

「そ、そんなことは…」

「ふん…まぁいい」


綾乃はスカートのポケットに手を突っ込み、携帯を取り出す。


「ナギの奴に弁当を渡したいならメールをしておく。ヒナギクはしてないだろう？」

「あ、うん。今からする所だったの、ありがとう」

「いや。さすがのナギも腹を空かせているだろう、早く渡してやらなければな」


綾乃は親指で素早くメールを打ち始める。

打ち終え、携帯を閉じた所でチン…とエレベーターが到着した音が鳴った。

一同は一斉にその方向に目を向ける。


「ヒナぁ…お腹減ったよー…」


だらしなく肩を落として、ふらふらと覚束ない足で生徒会室に足を踏み入れて来る女性。

その女性にハヤテは嫌でも見覚えがあった。先ほど勝手な思い込みで散々叩いてきたあの女性だ。

アテネはうんざりした顔で見なかったような素振りで再び紅茶を啜り始め、ヒナギクは額に手を当てながら深く溜息をついた。


「もぉ…全部自分が悪いんでしょ？お姉ちゃんったら…」

「だってぇ…」


母親のように説教を始めるヒナギクと、駄々をこねながら言い訳を重ねる女性の姿を見て綾乃はやれやれと溜息をつきながら首を振る。


「いつ見ても姉妹だとは思えない光景だな…」

「え？姉妹…？」


綾乃の呟きにハヤテは顔を引きつらせる。


「ん？あぁ、あの人は桂雪路。ヒナギクの実の姉だよ。一応先生で、祐真やナギのクラスの担任だ」

「はぁ…上が駄目だと下がしっかりするって話は本当なんですねぇ…」

「まぁ、いい例ではあるな」

「誰が駄目だ、そこの外野ぁ！！」


さりげなく聞き耳をたてていたのか、雪路はハヤテや綾乃を睨みつけながら怒鳴る。

しかしハヤテの姿を認識すると、目を見開かせた。


「あー！あんた、さっきの不審者！！なんでこんなところに！！」


ハヤテを指差しながら言う雪路に、アテネは鋭い視線で睨む。


「桂先生、ハヤテは不審者じゃないって言ったでしょう？」

「ひっ！？理事長！」

「お姉ちゃん、またお客さんを勝手に不審者扱いしたの！？もういい加減にしてよ！」

「うう…だってぇ！」


アテネとヒナギクに板挟みにされ泣きじゃくる雪路は、不意に何かを思い出したかのように伏せていた目を開ける。


「そうよ不審者！あんた弁当持ってたじゃない！見逃してあげるからその弁当よこしなさい！」

「「はぁ！？」」


先ほどまでの涙が嘘のように、雪路は不敵に笑いながらハヤテを指差しながら言いきる。

ハヤテとヒナギクは声を揃え、綾乃は呆れたように目を細める。


「つくづく見下げたダメ人間だな…」

「もう日本語も通じないみたいだしね」


綾乃の呟きにアテネは冷静に紅茶を啜りながら答えた。


「な、何言ってるんですか！これはお嬢さまの大事なお昼ごはんなんですよ！？」

「そうよ！お姉ちゃん、ナギのお弁当を奪うつもり！？」

「大丈夫よ、あの子なら購買のサンドイッチ辺りで済ませてくれるから」

「あなた担任でしょ！？いいんですか、そんなこと言って！！」

「うるさいわねぇ！さっさとその弁当をよこしなさーいっ！！」


雪路は手を伸ばしつつ、ハヤテに襲いかかる。

そんな雪路にヒナギクは目を鋭くさせ、まず綾乃に顔を向ける。


「綾乃！一本貸して！」


綾乃はヒナギクの要求に、持っていた長めの布袋に手を突っ込み木刀を取り出しヒナギクに投げ渡す。

ヒナギクは受け取るなり、雪路とハヤテの間に立ちはだかり木刀を構える。


「む、ヒナ…！」

「ヒナギクさん！」

「ハヤテ君、下がって！このバカお姉ちゃんは私と綾乃が止めるんだから！」


雪路は横目で後ろを見ると既に背後には、中にまだ長細いものが入っているらしく形を保った布袋を、ヒナギク同様木刀と同じ扱いで構える綾乃の姿がある。

ハヤテは黙って頷いて、テラス前まで下がる。


「お姉ちゃん、今回ばかりは許さないわよ！友達のお弁当を奪おうとする上に、せっかく来てれたお客さんを不審者扱いするだなんて…そんなの生徒会して許さない
「ふん…我が妹ながら言ってくれるじゃない…！」

雪路はヒナギクと綾乃を目で見て、突然エレベーターの方角を指さした。


「あらー！？御崎くんがいるじゃない！」

「「え？」」


雪路の言葉にヒナギクも綾乃も釣られて顔を向ける。

その隙に雪路は再びハヤテを狙って足を踏み出すも、綾乃がその前に立ちはだかった。


「なっ、御崎妹…！」

「ふん、騙されると思ったか。……言っておくが祐真の奴が自分からここに来ることはない！何か本当に特別なことがなければ絶対に！！」

「特別なことが今だったら来るってことでしょ！？」

「その特別なこと自体、学校の敷地内に撒いた米粒を見つけられる確率のほうが高いくらいだ」

「そうよ、祐君をなめないことねお姉ちゃん！！」

「くっ…！」

「(………色々と信用されてないなぁ、あの人…)」


迷いもなく言いきるヒナギクや綾乃にハヤテは苦笑せざる得ない。


「ふん…さすが剣道部の主将と副主将…隙を一切見せないわね…。でも、そんな棒切れは飛んじゃえばこっちのもんなのよ！！」


雪路はそう言うなり助走を付けて飛び上がり、軽々と綾乃の頭上を飛び越えていく。

その動きと素早さは、さながらスポーツ選手並みだ。


「なっ、くそっ！！」

「逃げてハヤテ君！！」


雪路はそのままハヤテの前で着地すると、弁当を奪いにかかる。


「さぁ観念なさい不審者！その弁当をよこすのよ！！」

「だ、だから駄目だって言ってるじゃないですか！」

「なら実力行使で奪うまでよ！！」


手を交互に伸ばし、迫ってくる雪路をハヤテは全て回避しながら弁当箱を守る。

きりのない攻防に雪路は舌打ちし、手を思いきり振る。

ハヤテはその振りも回避するべく弁当を手の伸ばせる限り上に掲げるも空しく、雪路の指先が箱に触れる。


「ふっ、取ったぁー！！」


雪路はそのまま箱を横に振り払う。

ハヤテの手から離れた弁当箱はそのままテラスを超え、呆気なく下に落ちていく。


「「「「あ」」」」


その光景にハヤテ、雪路、ヒナギク、綾乃は呆然と立ち尽くした


○ ○


一方、その時計塔の下ではナギが携帯を耳に当てて、マリアからの電話に応答しながら歩いていた。


「ああ、さっき綾乃のやつからメールがあった。今時計塔の下に来たから大丈夫だ。じゃあな」


ナギはマリアからの着信を切り、携帯を閉じる。

そして短く溜め息をついて、顔を上げるなり眉間に皺を寄せた。


「……………」


ナギは偶然にも通りかかったのか、自分の目の前に立つ祐真を睨みつける。

祐真も祐真でポケットに手を突っ込んだまま、自分の道を邪魔するかのように立ちはだかるナギを見下ろす。

しかし、すぐにその視線をなぜか上に向ける。

その意図が分からず、ナギも怪訝な表情のまま上を見上げる。

見上げるなりナギの視界に飛び込んできたのは、中身をまき散らしながら落ちてくる箱のようなものーー


「ぬわあああっ！？」


ナギは飛び退き、今まで自分が立っていた位置に弁当箱とその中身が地面に落ちる。

箱は割れ、中身は無残にも飛び出て美味しそうな料理は全て生ゴミとなった。


「…な…なんだ、これは…」

「弁当」

「そんなの見れば分かるわっ！！私が聞きたいのはなぜこれが上から降ってきたかであってーー」

『あああああああ！？』


ナギの突っ込みを遮る叫びにも近い声に、ナギも祐真も振り向く。

その視線の先にはナギを見るなり口や目を大きく開かせたハヤテと、その後ろにはアテネ、ヒナギク、雪路、綾乃がいる。


「ハヤテ？どうしたのだ？」

「お嬢さま…………。うぅ、お嬢さまぁ…」


ハヤテは不思議そうな顔で見るナギに、目を潤ませて、膝と手を付いて泣き出した。


「えええ！？なんだよ！なんて泣くのだハヤテぇ！！」

「お嬢さまに弁当一つ届けられないなんて執事失格ですよぉ…」

「…弁当？」


ナギは改めて地面に撒き散らされた弁当箱と中身を見る。

よく見れば見覚えのある弁当箱。どこか気まずそうに目を逸らす雪路と、雪路を睨みつけるヒナギクとアテネ、綾乃。

ナギが状況の理解をするのに時間はかからなかった。


「あー…分かった分かった。そういうことか」


ナギはやれやれと溜息をつくと、もはや丸くなって泣き続けるハヤテの背中を擦る。


「おいハヤテ。大丈夫、お前が悪いわけじゃない。全部桂先生のせいだからお前が泣く必要はない。私も怒らないから顔を上げろ」

「…おじょうさま…」


ハヤテは顔をあげる。

そんなハヤテにナギはニッコリと笑う。


「そんなに気を落とすな。届けに来てくれてありがとうハヤテ」

「……すいませんでした…」

「だから謝るなって。ほら、一緒に購買でも行ってご飯を買おう！行くぞっ！」

「あっ、はい…！」


ナギはハヤテの手を取って、走り出す。

その後ろ姿を残された一同は見届け、雪路は手を頭の後ろに回して笑う。


「いやぁ！これであの子達のお昼の心配もなく、綾崎君もクビにならずに済んだわね！良かった良かった！……じゃ、私はそろそろ次の授業の準備を……」


そしてその場から逃げ去ろうとする雪路の肩をそれぞれ、アテネ、ヒナギクが掴む。


「お待ちなさい桂先生。話はまだ終わってませんわよ？」

「ふぇ…？」


雪路は恐る恐る振り向く。

自分の肩を掴むアテネとヒナギクの視線はとても冷めきっていて人の一人は射殺せそうな程であった。


「ハヤテ君とナギについては解決したかもしれないけど、それでお姉ちゃんが逃げれるのとは話が違うわ」

「ハヤテを勝手に不審者扱いして何度も叩き、そして泣かせた罪…」

「ナギのお昼ご飯を奪おうとして結果的に時計塔から落として、弁当箱ごと壊して台無しにした責任…」

「ぁ………あ………」

「取ってもらうから…」

「覚悟してくださいね。………桂先生」

「ひいいいいいやああああああ！！」


雪路の悲鳴は学園中に響き渡り、空しく消えた…。


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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.55 )
日時： 2013/03/23 19:38
名前： masa

｢天王州静葉よ｣
｢天王州龍輝だ｣


静葉｢フフ、ナギちゃんったら可愛いわね。あんな言い訳して学校をさぼろうとしてたんだから｣
龍輝｢だがなあ。ハヤテ君の意見が一番の正論だぞ。学校＝勉強と思い出を作る場所なんだから｣

静葉｢珍しいわね。アテネが朝早く起きるなんて｣
龍輝｢まあ、仕事があるからな。それに、ハヤテ君に同伴を求めたのは正解だな。あの子だけじゃ危ないし｣

静葉｢全く。桂先生はしょうがない人ね。確かめもせずにハヤテ君を不審者扱いしたり叩いたりするなんて｣
龍輝｢アテネが怒るのも当然だな。あの先生の場合、自分勝手な理由のみで、あんな事したり言ったりしたんだし｣

静葉｢ヒナちゃんとハヤテ君の出会いは原作同様衝撃的ね｣
龍輝｢ってかさ。いくらなんでも木登りが趣味の女の子は少なそうだけどな。少し考えれば分かるだろ?アテネ｣
静葉｢でも、助けられ方は普通と言うか、ハヤテ君らしい助け方ね｣
龍輝｢あのアテネがよく嫉妬しなかったな｣

静葉｢全く。桂先生は本当にどうしようもない人ね｣
龍輝｢だな。全部自分勝手な理由で弁当を奪ったり、めちゃくちゃにしたり、挙句に何事もなかったように逃げるとは｣
静葉｢アテネ、もう構わないからクビにしちゃいなさい。ヒナちゃんも納得するでしょうし｣


静葉｢ナギちゃんも寛大ね。状況をすべて理解し、ハヤテ君を許したんだから｣
龍輝｢うむ。全くだな｣



静葉｢次回も楽しみね｣
龍輝｢ああ。あ、そうだ。我々はこっちのアテネの反応次第でまた来るかもな｣







masa｢そう言えば、祐真と綾乃さんって、二卵性の双子?それとも一卵性の双子?　おそらくは二卵性でしょうね。まあ、性別の違う一卵性双生児もごく稀にあるらしいですから、そっちの可能性もゼロではないでしょうが｣


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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.56 )
日時： 2013/03/27 11:28
名前： ゆーじ


春からの新アニメの作画が好みすぎて…アーたんが可愛すぎて…もぅ…！！

というわけで、レス返し！……とは行けませんが改めて言わせて頂きます。

現在パソコンが壊れているため、ここ最近の更新は全て手持ちのスマートフォンで執筆したものです。

それ自体はただ入力した文字をコピーすれば投稿できるので何の問題もないのですが、このスマフォはサイト内の文字のコピーが出来ないためレス返しができません。

なので最近流行？してるオリジナルキャラクター、または小説内のキャラクターでの感想を送っても私自身は読むだけで返すことはできません。

あとは私に語りかけてくる体のコメントも私が読むだけで答えることはありません。

読者さんからのコメントをコピーせず返事だけを書くという形のレス返しなら出来るのではと思いますが、そうなるとキャラクター感想だと大変返事が書きにくくなります。

今後もパソコンを購入するまではレス返しをお休みするか、一応返事だけでも書いてレス返しをするかは決め兼ねていますが、使い勝手の悪いスマートフォンのことを考えると今後も今まで通りレス返しはお休みの方向に行く可能性が高いです。

せっかく頂いたコメントに返事が出来ないのは大変心苦しいですが、そこのみご了承頂けたら幸いです。

あ、でもコメントは引き続き送っていただけたら大変喜びます！

長々と失礼しました。


================================================


白皇学院の放課後の時計塔最上階。

そこにある生徒会室の立派な机と椅子を使い、ヒナギクは生徒会にと任された書類を片づけていく。

その仕事がひと通り片付いた所で、綾乃がヒナギクに紅茶を差し入れる。


「お疲れさま」

「あ。ありがとう綾乃、丁度喉が渇いてたのよね」


綾乃からティーカップを受け取り、ヒナギクは口を付けて紅茶を口に入れる。


「うん、美味しい。日々の経験が生きてるわね」

「そうでもないよ」


首を振って否定する綾乃にヒナギクはくすくすと笑う。

そして両手を上にあげ、体を伸ばすと『はぁ』と深い溜め息をつく。


「それにしても今日はなんだかいつも以上に疲れた気がするわねぇ」

「今日は色々あったからな」

「そうねぇ。…ナギのお弁当箱、お姉ちゃんにちゃんと弁償させなきゃ」

「あの人にそんな金があるとは思えないが…」

「なくてもさせなきゃ。あれだけ自分勝手にしといて何もしないのは申し訳ないしね」

「まぁ…そうだな…」


ヒナギクは疲れたように再び溜息をつく。


「でもあれよね。……ハヤテ君、なんだか面白い人だったわね」

「…そうだな。まぁ弁当を届けに来ただけなのにあんなことになったのは不運だったとしか言えないが」

「幸薄いのかしらね、あははっ」

「……………」


どこか思い詰めるような顔で黙る綾乃をヒナギクは不思議そうに見る。

すると何か思い出したように『あ！』と声をあげる。


「ねえねえ綾乃。ハヤテ君、ナギの執事って言ってたわよね？」

「え？あ、あぁ。そうだな」

「あのナギが選んだ執事なのよ？少し頼りなさそうな感じもするけど、実際はもっと手際とか凄くいい人なのかも。綾乃が探してる弟さんの指導役、ハヤテ君に頼んでみたら？」

「え…」

「なんとなくだけど…ハヤテ君ならあなたも安心して頼めるんじゃないかしら」

「………………」


ヒナギクの提案に綾乃は首を縦には振らなかった。

別に嫌なわけではない。ただ自分だけで決めるものではないという意味で振らなかっただけ。

もう少し…本人や自分の主と相談して、ちゃんと決めなくてはいけないのだから。

ヒナギクと別れ、綾乃の足は愛沢家へと向かった。


「……ただ今帰りました」


屋敷を歩き、一室の扉を開けてそう言う。

その声に室内に置かれたソファーに座っていた咲夜が振り向くなり、笑いかけた。


「おー、綾乃さん！おかえり！そっちは始業式なのに授業やったね。お疲れさん！」

「いえ、そんな…私にはもったいない言葉です」

「ナギの奴、ちゃんと来てたか？」

「ええ。まぁおそらく嫌々でしたでしょうが」

「あはは、まぁそうやろな」


咲夜はとある理由でナギ達と一緒に白皇には通っていないため、時折ナギのことを聞いてくる。

だから綾乃もその思いを汲み取ってちゃんと答えている。

まぁ聞いて答えた所で、今のように苦笑するしかないような話ばかりなのだが。


「…………そういえば、咲夜さんがよく話しているナギの執事ですが…今日こちらの学校に来ました」

「え？なんやアイツ、白皇に入学するん？」

「いえ。ナギが忘れた弁当を届けに…」

「あー、そういうこと。綾乃さん、顔合わせたん？」

「ええ、一応。祐真と知り合いだったんですね」

「うん。まぁ…色々あってな…」


咲夜は苦笑しながら頬を掻く。

しかしすぐにニッと笑って綾乃を見る。


「まぁ会ったんなら話も進むわ。ウチは明の件、あいつに任せるのがいいと思ってんねん。…ナギが認めた男やし、なんとなく相性もいいと思う。兄ちゃんとも仲良しみたいやし」

「…………。私も…そうだとは思ってます。ヒナギクにも同じことを言われました」

「ならええやん！ウチもあいつなら安心できるし！」

「ですが……」

「あーもー！こっちで勝手に決めたって意味はない！とにかく明日、ナギん所行って聞いてみればええやん！そこで綾乃さん自身が決めればええ。せやろ？」

「……は、はい……」

「じゃーそれで決まりや！今日面白そうなバラエティー番組やってんねん一緒に見よ！……ほら行こ、綾乃さんっ」


咲夜は綾乃の手を取り、部屋から出ていくのであった。



○ ○



翌日。

いつものように三千院家の広い庭を鼻歌交じりで掃除していたハヤテは、インターホンの音に掃除を止めて客人の元まで走る。


「はい、お待たせしました………って、御崎さん？祐も…」


三千院家に訪れた客人は、どこか面倒臭そうに立つ祐真とその隣に立っている綾乃であった。

休日のため二人共ラフな私服姿だ。


「どうかなされましたか？」

「ナギは今起きてるのか？」

「お嬢さまですか？………たぶんまだ寝てるかと…」


アハハと苦笑しながら言うハヤテに祐真は溜息をつく。


「だから昼過ぎの方がいいって言ったんだよ。こんな時間にあいつが起きてるわけがねえし」

「でっ、でも早い内に決めた方がいいだろっ！」

「ちっ…」

「えーっと…本当に、どうかしましたか…？」

「あ…」


苦笑しながら尋ねるハヤテが明らかに困っているのを察した綾乃は、一度咳き込んで話を区切る。


「とにかくお前とナギに少し話があるんだ。ナギを起こしてもらえたら嬉しい」

「僕は構いませんけど…。………まぁとにかく上がってください」

「あ、あぁ…」


ハヤテの案内のもと、綾乃と祐真は三千院家に足を踏み入れる。

長い廊下を歩きながらハヤテは顔だけを二人に向ける。


「とりあえず僕はお嬢さまを起こしに行きますけど…お二人は部屋で待ってますか？」

「いや、私達も行く。起こすのを手伝うよ」

「そうですか」


ハヤテは綾乃と祐真を率いてナギの自室に足を踏み入れる。

ベッドの上では案の定ナギが気持ちよさそうに寝ている。

そんな姿にハヤテは苦笑し、綾乃は呆れたように溜息をつく。


「と、とりあえず起こしますね…」


ハヤテは苦笑しながら、ナギに近寄る。


「お嬢さま、起きてください！お客さんが来てますよ！」

「…うーん……きゃく……？」

「ええ、お話があるそうです」

「はなしぃ……？」


ナギはゆっくりと思い瞼を開ける。

そしてその眠気半分の瞳に真っ先に映ったのは、ハヤテや綾乃から少し離れた位置で立っている祐真の仏頂面だった。

ナギはしきりに不機嫌そうに顔を歪める。


「……………なぜお前らがいる」

「お前と綾崎に少し話があるんだ。だから起きてくれ」

「断る。私は寝るのに忙しいのだ」


ナギはハヤテ達とは反対方向に寝返り、また目を瞑る。


「あっ！？お、おいこら！寝るな馬鹿！」

「お嬢さま！寝ちゃダメですってば！！」

「うるさいっ、朝一で祐真の顔を見る羽目になるとはなんて朝だ。もう一眠りして清々しい朝を迎えるのだっ」

「朝どころかもう昼ですって！清々しい夕方を迎えちゃいますよ！」

「それもまた良し」

「いいわけないでしょ！！」

「………ったく、いちいちうるせぇガキだな」


祐真はハヤテと綾乃を押し退けて、ナギのベッドの前に立つ。

そして掛け布団を掴むと、そのままはぎ取った。


「ひゃわっ！？」

「こちとらお前みたいに暇じゃねえんだよ。さっさと起きやがれクソチビ」


ナギは顔を真っ赤にして自分の体を抱きながら祐真を睨む。


「おおおおお前！お、女の布団を剥ぐとはどういう了見なのだ！！」

「どうもこうもねえよ」

「あるわ！ この変態っ！！もー出てけ！さっさと出てけぇ！！」

「…てめぇ、このチビガキが…」


この空気はまずい。

よくない雰囲気を察し、ハヤテは祐真の背中を押してナギから離す。


「あーもーほらほら！男の僕らは少しお邪魔なので外で待ってましょうね！」

「なんだよ、押すんじゃねえよ！」

「はいはい、もー先に客間に行きましょうか！じゃあ御崎さん、お願い致します！」

「………分かった」


ナギの説得等などをすべて綾乃に任せ、ハヤテはひたすら祐真を客間に連れ込む。

それから数分経った頃にようやく不機嫌面のナギと疲れた様子の綾乃が客間に到着し、ナギとハヤテ、綾乃と祐真が互いに向き合う形で本題に入った。


「……で、こんな朝っぱらから人を無理矢理起こしといて何の用だ？」

「もう昼だぞ」

「うるさいっ！！」

「まぁまぁ…」


見ただけで分かるほど不機嫌なナギにハヤテは苦笑しつつ宥める。

綾乃はそんなハヤテに内心で謝りながら、咳払いをして切り替える。


「……今日二人のもとに来たのは、頼みたいことがあるからなんだ。主に…綾崎に」

「僕ですか？」


自分を指差しながら言うハヤテに綾乃は頷く。


「少し事情があって…私達は9年前から咲夜さんと伊澄さんの屋敷でお世話になっているんだ」

「あぁ、それは聞きました。祐が伊澄さんの所で、御崎さんと弟さんが咲夜さんの所で居候してるって…」

「……そこまで聞いているのなら話は早い。…頼みたいことっていうのは、その弟のことだ」

「はぁ…」

「明がどうかしたのか？」


ソファーに足を乗せて、ナギはキョトンとした顔で尋ねる。

ハヤテは突然出てきた知らない名前にナギに顔を向けて首を傾げる。


「明っていうのは？」

「あぁ、こいつらの弟だよ。御崎明(みさき あき)。もう10歳だっけ?」


ナギの問いかけに綾乃は黙って頷く。


「私や祐真は咲夜さんや伊澄さんに拾われた恩返しも兼ねて、二人の護衛を努めてる。主の身を守るという意味ではお前と同じ立場だ」

「(拾われた…？)」

「私は咲夜さんや伊澄さんに傷ついてほしくない。同時にまだ幼い明には平和に穏やかに暮らしていてほしかった。それは口には出さなくても祐真も同じことを考えてる」


ハヤテは祐真に目を向けると、祐真は腕組みをしながら目を細めて黙っていた。

否定する気配がないのは綾乃の言うことが事実である証拠だ。


「しかし、あの子はそんな私や祐真の背中を追いかけて真似することがある。自分も同じようにならなければならないと思い込んでいるようなんだ」

「なるほど…。本人はそこだけは譲らないんですね」

「あぁ。だから自分も何か人のためになることをしたいって聞かないんだよ。でも生憎愛沢家にそんなことを教えることのできる人間は居ない…。鷺ノ宮家になんてもっと居ない…だから…」

「それをハヤテに頼みたいってことか？」

「………そういうことだ。咲夜さんはお前が適任だと言っていたし、私や祐真もお前なら安心できる。明は誰でもいいと言っていたが話が話だし、あの子と気の合う相手に任せたいんだ」

「まぁ確かにハヤテなら不安要素はないな。性格的にも実力的にも」

「あぁ…。だからこそ…その…頼めない…か？」


綾乃の懇願の視線にハヤテはナギの方を見る。

例え自分に対する頼まれごとでも主に仕える立場上、その主の指示もなしに決めるわけにも行かない。

ハヤテの視線に気付いたナギは、目を瞑り深く溜息をつく。


「私は反対も賛成もしない。お前が決めた方に私も動くよ」

「お嬢さま…。………ありがとうございます」


ニコッと笑いかけるハヤテにナギも笑みを向ける。

そしてそのまま綾乃に顔を向け、首を縦に振った。


「分かりました。僕でよければ引き受けます」

「本当か！？」

「ええ。まぁ上手く指導できるかは分かりませんけど…」

「いや、それでもいいっ。ありがとう、本当に…」


綾乃は深々と頭を下げる。

そんな綾乃にハヤテは首を振る。


「顔をあげてください。こんなに大切にされて明君も幸せ者ですね」

「……………ああ」


綾乃はゆっくりと頭を上げて、黙り込む。

そしてハヤテの言葉に穏やかに笑って頷いた。


「じゃあそうなるからには明はこっちに住むという流れになるのか？」


ナギの問いかけに綾乃は一瞬キョトンとした顔でナギを見るも、すぐに目を伏せて手を顎にあてる。


「そうだな…。さすがに愛沢家からここに毎日通いつめるのは辛いだろうし…」

「だろうな。…じゃあそこはこちらでなんとかしよう。お前らは明を迎えに行け、あっちからここまで来る間に話でもすれば少しは明の負担も和らぐだろ」

「……ああ、そうさせてもらう。ありがとうナギ」


笑って礼を述べる綾乃にナギはフッと笑い、ソファーから立ち上がって部屋を出る。

ハヤテと綾乃はそれを見届け、扉が閉まったところでまた視線をお互いに向けた。


「じゃあ私も咲夜さんに伝えてくる。少し待っててくれ」

「あ、はい。分かりました」


綾乃も携帯を片手に立ち上がり、部屋の隅に行くと携帯を耳に当て、話し出した。

ハヤテは大きくあくびをする祐真に顔を向けた。


「全部妹に任せきりでしたけど、兄としていいんですか？そういうの」

「明についてはあいつにほとんど任せてんだよ。別居してる以上、顔を合わせるのも少ないしな」

「そういえばどうして別居してるんですか？それにご両親は…」

「……………こっちにだって色々事情があるんだよ、詮索すんな」


口調はいつもと変わらなくとも、いつもと違う気配を汲み取ったハヤテはそれが聞いてはいけないことだとすぐに察した。

『すいません』と一言謝った所で電話を終えた綾乃が戻ってくる。


「待たせたな、じゃあ愛沢家に来てもらえるか？」

「あ…いえ。分かりました」


ハヤテは頷き、立ち上がる。

次に祐真が立ち上がると、綾乃に顔を向けた。


「俺はもう帰るぞ」

「………そうか、分かった。ありがとう」

「別に」


そう言い、祐真は二人に構わず部屋を出る。

それを追うように、ハヤテと綾乃も部屋を出た。



○ ○



ナギに出かけることを伝えてから屋敷から出たハヤテと綾乃は、初めに祐真と別れ、その後 綾乃と談笑を交わしながら愛沢家へと向かった。

愛沢家もまた三千院家並に広く、ハヤテはこの近辺の地図はどうなってるんだろうなと内心で呟かざる得なかった。

屋敷内に入り、綾乃の案内で客間に通される。

客間に着くなり、満面笑みの咲夜がハヤテと綾乃を出迎えた。


「あ…咲夜さん…ただ今戻りました…」

「お…お邪魔します…」

「うん、いらっしゃーい♪ いやぁ借金執事！ウチは最初会った日から自分しかおらんと思っとったでー！ウチの見込みに間違いはなかったみたいやなっ」

「は…はぁ、恐縮です…」


綾乃は部屋を見渡し、咲夜に尋ねる。


「咲夜さん、明は居ないのですか？」

「ん？うん。まだ荷造りしてるみたいやな。…でも荷物も少ないしそろそろ来るはずやけどなぁ…」


咲夜が言ったと同時に扉のドアノブが動く音と一緒に扉が開いた。

一同の視線はすぐに扉に向く。

そしてその視線の先。開かれた扉の隙間から少年が一人、顔を覗かせた。


「すいません…お待たせしました…」

「おー、来たな。はよおいで」

「は、はいっ」


少年は咲夜の手招きにこくりと頷くと、部屋に入り律儀にも扉をしっかり閉める。

そして歩み寄り、手に持っていた大きめの鞄を隣に置く。


「綾崎。この子が弟の明だ」

「御崎明です。よろしくおねがいしますっ」


明は無邪気な笑顔で名乗ると、深々と頭を下げる。

ハヤテは明のその容姿に目を点にせざる得なかった。

細く整った黒髪と、一つに縛っても肩にまで届いている男の子にしては長い髪。

そして、幼いとはいえ女の子のように丸く綺麗な瞳と顔立ち。

年齢差のため身長が違うことと、目つきが違うという所以外では兄である祐真と瓜二つの子供。誰が見ても弟だと一目で分かるくらいだ。


「この男が今日からお前に指導をしてくれる綾崎ハヤテだ。咲夜さんから聞いたとおりナギの執事をしている」

「あ…えっと、綾崎ハヤテです。よろしくお願いします…」

「綾崎ハヤテさん…。咲夜さんから話を聞いてて、ずっとお会いしたいと思ってましたっ。ハヤテさんが引き受けてくれて、とても嬉しいですっ！」

「……………」


常に笑顔を絶やさずに元気に振る舞う明。

冷徹な祐真や祐真ほど冷たくはないにしろ、それでもどこか祐真と同じ雰囲気を醸し出す綾乃の弟と聞き、ハヤテは明もまたそういう雰囲気の子供だと想像していた。

しかし明はその想像とは遥かに違いすぎる。立派な狼に二匹と可愛い子犬一匹を見せられて、この三匹は家族ですと言われたような気分だ。


「あの、この子…本当にお二人の弟なんですか？」

「…何が言いたい？」

「いや…弟と称してるけど本当は血が繋がってない赤の他人の子…みたいな」

「斬り殺されたいか？」

「…すいません」


綾乃はフンッと鼻を鳴らして腕を組む。


「まぁ言いたいことも分かる。明はあいつと比べると涙が出るくらいに明るくて優しい子だ。爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだ」

「え、ええ…そうでしょうね…ホントに…」

「でっ、でも祐真だってあいつなりに優しいところもあるんだからなっ！！誤解するなっ！」


顔を真っ赤にしながら言う綾乃に咲夜はニヤリと笑う。


「綾乃さんホント兄ちゃんのこと大好きやなぁ、ぶふふっ！」

「だっ！？大好きなんかじゃないです！！……と、とにかく綾崎！明のこと任せたんだからなっ！！」

「は、はいっ！お任せください！！」

「じゃあ行け！もーさっさと行け！！」

「わ、わかりました！！」

「いやいや…見送りせんと駄目やろ」


咲夜の突っ込みに綾乃は冷静を取り戻し、玄関までは付いて行くということになった。

そして明の荷物はハヤテが持ち、一同は玄関へと向かう。


「咲夜さん、姉さま。今までお世話になりましたっ」

「そんな会えなくなるわけやないんやから、そんな言い方せんでもええよ。たまには遊びに来てな。弟達も喜ぶし」

「はいっ」


綾乃は明の前まで行くと、明に視線を合わせてその頭を撫でる。


「明、あんまり迷惑かけるんじゃないぞ」

「はいっ」

「ナギや綾崎に何かされたらすぐ言うんだぞ。大丈夫、私がすぐ斬り殺しに行くからな」

「姉さま、それはちょっとおかしいです…」

「斬り殺されるほどのことはしませんよ…」


綾乃は鋭い目つきでハヤテを見上げる。

その目つきはさながら一切信じていない目だ。


「そこは信じましょうよ！こっちだってそんなことで死にたくありませんよ！！」

「………冗談だ」


綾乃は目を瞑り、立ち上がる。

そして改めてハヤテと向かい合い、笑いかける。


「じゃあ、任せたぞ。綾崎」

「…はい！」


綾乃の言葉にハヤテも頷いて、二人に頭を下げてからハヤテと明は愛沢家を出た。

三千院家に向かいながら会話を交わし合う二人は気まずい空気が流れることもなく、会話を交わすごとに親交深めていった。




○ ○




「明ぃ！久しぶりだなぁ、お前ー！」

「ナギさんも久しぶりですっ！」


三千院家に到着するなり、出迎えていたナギは明に抱きつく。

明もまた嬉しそうにナギの抱擁に応えた。


「ほんとお前はあの冷徹双子の弟とは思えんくらいに可愛い奴だなぁ、可愛い奴め♪」

「ナギさん、くすぐったいですっ」


ハヤテは初めて見るナギの一面に呆然と立ち尽くす。

そんなハヤテにマリアが歩み寄って耳打ちする。


「唯一お姉さんになれる存在なんですよ、ナギにとっての明君は」

「ああ、なるほど。確かに年下ですからね」

「そういうことです♪」


ハヤテとマリアが笑い合っているとナギは明から離れ、よし！と立ち上がる。


「じゃあ明も来たところで、ハヤテと明に案内したい部屋がある！来るのだ！」

「え？僕もですか？」

「もちろんだ。ほら行くぞ！」


はりきった様子で駆け出すナギをハヤテ、明は追いかけ、マリアも笑みを浮かべながらゆっくりと後を追う。

そしてナギは一つの部屋に続く扉の前に立ち止まると、自信に満ちた顔でハヤテと明に向き直る。


「さぁハヤテ。この部屋に入ってみろ」

「はぁ…。じゃあ失礼します…」


ハヤテはナギの指示通り、ドアノブを掴み扉を開ける。

そこには広すぎず、狭すぎない室内に二段ベッドに二つの勉強机など。二人の人間が使うにはピッタリである構造の部屋が広がっていた。

しかもどの家具も全てが新しい。


「…お嬢さま、これは？」

「うむ。執事と執事見習いとして、お前達はこの部屋で一緒に暮らせ。その方がやりやすいだろう」

「そ…それにしたって元からある部屋にしては随分準備が整い過ぎてませんか？」

「何を言っている？お前達が咲夜の所に居る間に全て揃えたのだ。もちろん掃除もマリアが短時間で済ませてくれた」


ハヤテは後ろで立っているマリアに顔を向けると、マリアはにっこりと笑ってみせた。


「まぁこれはいつも頑張ってくれてるハヤテと今日からここに住む明に対するプレゼントだ、素直に受け取るのだ！」

「……はい、ありがとうございます。お嬢さま」

「ありがとうございます、ナギさんっ」

「うむっ。よーし！じゃあ今日は明の歓迎会やるぞ！マリア、今日はごちそうだ！！」

「お任せください♪ 」


その後、アテネや奈緒にも挨拶に回り、明は晴れてハヤテの後輩として、三千院家への仲間入りを果たすのであった。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.57 )
日時： 2013/04/21 10:32
名前： ゆーじ


窓から差し込む朝日の光に目覚める。

目覚めるなり真新しい家具と新品だと物語るかのごとくフカフカな布団、そして広く感じる部屋が僕の視界に飛び込んできた。

そこで思い出す。そういえば昨日からこの部屋が自分の部屋になったことを。


「(広い部屋ってのは慣れないなぁ…)」


と、内心で呟きつつ頬を掻くのは、この僕 綾崎ハヤテ16歳。

なんやかんやあって親に売られ、なんやかんやで執事になった高校一年生です。ちなみに学校は売られて以来行ってないです。

そろそろ行かないとなぁ…。

新品の二段ベッドの梯子を使って床に足を付ける。

それと同時に目に映る、下の段のベッドで寝息を立てる小さな子供の姿に僕はもうひとつの昨日と変わった環境があることを思い出した。

長い髪を波立てながら寝ているの見た目はどう見ても女の子。でも本当は列記とした男の子。

彼は昨日から愛沢家より引越してきた御崎明君。先日知り合ったばかりの御崎祐真君や御崎綾乃さんの弟だ。

冷静沈着でどこか冷たいイメージのある二人とは違い、とても明るくして優しい男の子だ。

僕は今日からそんな明君に執事の仕事を教える先輩。明君は後輩になる。

なんだかそれもそれで慣れないけど。


「……………」


今、明君を起こせば新たな日々の始まりが幕開ける。

後輩ができるのも、自分が指導役に回るのも初めてのことだから不安なこともあるけれど…でも始めよう。

僕は小さな寝息を漏らしながら眠る明君の体に手を触れて、軽く揺する。


「朝だよ。起きて、明君」


何度か揺すった所で、ようやく明君は目を開けた。

そしてゆっくりと体を起こした所で、一瞬だけ息が詰まった。

まるで突風が吹いた直後のようにボサボサになって跳ね上がった髪の毛。

正直何をどうして寝たらそんな髪になるのかと言わざる得ないほど、明君の寝癖は酷かった。いやもう酷いのレベルを超えている気もする。


「あ、あの…明君…？」

「……ふぁ……？」


まだ頭が起きていないのか、半開きの目のままこちらを見つめる明君。

この寝癖をどうしたものかと思った所で御崎さんが言っていたことを思い出す。


『明は朝が苦手で寝癖が酷い。すぐ起きるが、起きてもしばらくは頭までは起きてないから、その間にブラシで髪をとかしてやると終わる頃には頭も起きる。ブラシはあの子のカバンの中に入れておいたから…』


あの時の言葉はまさに今のことだ。

なんだかお姉さんというよりお母さんだな、あの人…。

苦笑しつつ、無駄だろうが一応一言言ってからカバンの中に手を突っ込んでブラシを取る。

そして椅子を引っ張り出してから、再び眠りの世界に旅立ちつつある明君をその椅子に座らせてブラシで髪を整える。

跳ねた髪は、見た目がとことん酷いだけで意外と何回か掛けるだけですぐに直った。


「(それにしても男の子なのに綺麗な髪だよなぁ…。それだけ御崎さんに丁寧に手入れされてたんだな)」


こっちに来てから酷くなったと言われないようにしないと。

そんなことを思っている内に、酷かった寝癖は元からなかったかのように元に戻っていた。


「(まぁこれだけ直ればいいほうだよね)…明君！ブラシかけ終わったよ。起きて！」

「……ふぁあ………？」


肩を掴んで揺すると、うたた寝していた明君は顔を上げ目を擦る。


「……………ぁりがとうございます、姉さまーー」


頭も目覚め、明君は笑って振り向く。

いつもの癖だろうか御崎さんがやっていると思い込んでの言葉だろうが、あいにく彼の視線の先にいるのは僕だ。

固まる明君に、苦笑しながら言葉をかける。


「えーっと…おはよう、明君…」

「…………………ふぁあ！？」


明君は目を丸くして椅子から転げ落ちると、尻餅をついたまま壁まで後ずさる。


「あああああなたは誰ですか！…あれ！？ハヤテさんです！なんでハヤテさんが居るのですか！？あれ？僕はなぜハヤテさんの部屋に！？おかしいです！おかしいです！！」

「お、落ち着いて！君は昨日から三千院家に引っ越してきて、お嬢さまの計らいで新しい部屋で僕と一緒に寝てたんだよ！」

「……新しい部屋……お引越し………。…あ！そうでした！僕はハヤテさんに色々教えてもらいに来たんです！」

「そう！それが真実！！」

「はい！不束ものですが、よろしくお願いします！」

「う、うん…よろしく…」


苦笑する僕を見て何かを察したのか、申し訳なさそうな顔で目を伏せた。


「すいません…僕、毎日姉さまにこうしてもらってて…癖で…。これを機に一人でできるようにしないといけませんよね…」

「…そんなことないよ。確かに僕くらいの歳になってもそうなのは流石にまずいと思うけど…まだ10歳なんだから。小さい内は恥ずかしくなんかないよ」

「……本当ですか？」


目を丸くして尋ねる明くん。

僕はそんな彼に笑って頷いた。


「それに少しはそういうところがあったほうがなんか愛着が湧くしね」

「…！ はいっ！」


明君はぱぁっと表情を晴らせて、ニッコリと笑って頷く。

そして立ち上がって駆け寄る明君に、僕はその頭に手を乗せた。


「…と、まぁ話はこれくらいにしてそろそろ着替えようか。仕事は山ほどあるからね」

「はいっ！」


クローゼットを開けて、いつものように執事服を取り出した所でふと気付く。

そういえば明君はどの服で着替えるんだろう…。

その疑問が浮かんだと同時に、扉の方からの誰かがノックする音が部屋を満たした。

小走りで扉に行き開けると、衣装を手で持ったマリアさんがいた。


「おはようございます、ハヤテ君。明君も」

「あ…はい。おはようございます…」

「おはようございますっ」


隣で元気に挨拶を返す明君にマリアさんはクスリと笑う。


「あの…こんな朝からどうかしたんですか？マリアさん」

「あぁ、はい。…明くんの仕事着というのがあるという話を聞いていなかったので…昨日綾乃さんにお伺いして仕立てさせてもらったんです」

「僕の仕事着ですか？」


首を傾げる明君に、マリアさんは笑って頷くと視線を合わせるように膝を曲げて、持っていた衣装を明君に渡す。


「一応ハヤテ君の執事服と同じもので作ったので動きやすいと思います。まぁ見習いということなのでデザインはハヤテ君のと比べたら地味なんですけどね」

「いえっ。とても嬉しいです、ありがとうございますっ！」

「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいです。…じゃあ私、先に行ってますから…早く着替えて来ちゃって下さいね二人とも」

「はいっ！」


マリアさんが部屋から出ていくのを見届け、僕は明君に顔を向けた。


「じゃあ着替えようか」

「はいっ」


僕はいつものようにマリアさんが仕立ててくれた執事服を身だしなみも念入りにして着替え終える。

隣を見れば、同じく着替え終わった明君が興味津々と言った様子で自分が着ている服を見下ろしていた。

明君の服は僕とは違い普通のワイシャツにネクタイ。そしてベストという確かに自分の服と比べたら一段階下というような感じのデザインだ。


「へぇ！似合ってるね。サイズもピッタリそうだ」

「ありがとうございますっ！はい、サイズもピッタリですっ」

「そっか。じゃあそろそろ行こうか」

「はいっ」


後ろをついてくる明君と一緒に、ようやく慣れつつある三千院家の長い廊下を歩く。

驚きや戸惑いを見せない辺り、無駄に広い屋敷については咲夜さんのお屋敷で育っただけのことはあるのかもしれない。

キッチンに入ると、台所の前に立って朝食の準備をしていたマリアさんがこちらに気付く。


「あ、二人とも。着替え終えましたね」

「ええ」

「明君もサイズとかは大丈夫そうですね。良かった」

「はいっ、ありがとうございますっ！」

「ふふっ。じゃあハヤテくん。朝食の準備はもう出来ますからナギ達を起こしてきて頂けますか？」

「分かりました！じゃあ行こうか、明君」

「はいっ」


返事をする明君と一緒にキッチンを後にする。


「ふふっ、先輩と後輩というより兄弟みたいですね」


マリアさんが何か言っていたが、内容までは聞こえなかった。



○ ○



お嬢さまの部屋に入ると、すでに一緒に寝ていたマリアさんが起きた時に開けたらしくカーテンは開いていて朝日の心地良い日差しが部屋を照らしていた。

その中央のベッドで我らが主は安らかに寝息を立てている。


「ナギさん相変わらずです」

「あはは…」


明君の呟きに苦笑しつつお嬢さまに近寄り、その体を揺する。


「お嬢さま！朝ですよ、起きてください！」

「………うーん………あと5時間…」

「せめて5分って言ってください！あーもー駄目ですよっ、起きてくださいよー！」

「うるさいなぁ…休みくらい寝かせろよー…」

「休みじゃなくても寝てるじゃないですか！ほら、早く起きてくださいって！マリアさんのご飯が冷めちゃいますよ！」

「…………………」

「あぁ！遂に何も喋らなくなった！無視しないでくださいよっ！」


それきり何を言ってもお嬢さまは微動だにせず言葉も発しなくなった。

もはや僕の声も子守唄にしか聞こえてないのだろうな…。

溜息をつく僕の代わりに、明君はベッドに手を付けると靴を脱いでベッドに乗っかる。

そしてそのまま四つん這いでお嬢さまの所まで行くと、その体を大きく揺らした。


「ナギさん、寝てはダメです！起きてください！！」

「うーん…しつこいぞハヤテぇ…」


お嬢さまは擦りながら目を細くして開ける。

もちろんのことながら開けた瞬間に視界に飛び込んでくるのは自分の体に股がって顔を寄せている明君の顔だ。

それに驚いたお嬢さまは目をカッと見開かせた。


「あ、明っ！？な…なんでお前ここに…！！」

「昨日からここに引っ越してきたんですよ」

「そうですっ！だからナギさんを起こすのも仕事の一つですっ！だから起きてくださいっ！！」

「そ…そういえばそうだった…。あーもー！分かったから！起きるから早くどけぇ！」

「起きてくれるのならいいんですっ」


そして満足げな顔で退く明君に、お嬢さまは体を起こして僕を睨んだ。


「………ずいぶんと教育熱心だな」

「僕まだ何も教えてませんよ…」

「ふん、どうだか…。とにかく私に起きてほしいならさっさと出ていけよ」

「…分かりました。じゃあ次は奈緒さん達のところ行こうか」

「はいっ」


扉に体を向けて歩き出す僕に明君も追いかける。

ドアノブにてをかけたところでお嬢さまが声をあげた。


「……ハヤテ。明日からも明を使って私を起こそうとしても、こんなのは今日だけなんだからな」

「…………」


…今考えた作戦は呆気なく失敗に散った。




○ ○



その後、案の定アーたんは起きずとも奈緒さんは起きてくれたので着替え終えた彼女と共に台所に向かい、お嬢さまが来たところで彼女達の朝食を運ぶ。

不機嫌そうに朝食を摂るお嬢さまとは対照的に上機嫌で朝食を摂る奈緒さんは口におかずを含んだまま、お嬢さまを見る。


「なにあんた怒ってんの？」

「別に怒っちゃいない」

「ふーん、まぁどーでもいいや。…ハヤテくーん、おかわりー󾠔♪」

「あ、はい…」


奈緒さんが差し出す茶碗を受け取り、炊飯器の釜からご飯をよそう。

ご飯が入った茶碗を奈緒さんに返したと同時にお嬢さまが箸を置いた。


「…ごちそうさま」

「お粗末さまでした」


手を合わせて言うお嬢さまに、マリアさんはお皿を回収する。


「…で、ハヤテは今日は何を明に指導するのだ？」

「え？そうですねぇ…。とりあえずこの後やる仕事を教えようかなと」

「……あ、なら二人で買い物に行ってもらえませんか？一人だと少し厳しい数なので丁度いいですし」

「分かりました。明君もそれでいい？」

「はいっ、ハヤテさんの方針にお任せしますっ」


笑って頷く明君。

つくづくあの二人の弟だとは信じ難い。


「買い物か…。じゃあついでに届けてほしいものがある、ちょっと待て」


お嬢さまはそう言うと席を立ち、小走りでキッチンから出ていく。

そして数分後に可愛らしいポーチを持って戻って来るなり差し出した。


「これをワタルのところに届けてきてくれ」

「ワタル君ですか？」

「ああ。ついでにお前はワタルにこの前のこと謝ればいい。あいつの頭も冷めた頃だろう」

「…そうですね。近々行こうと思ってましたし」

「うむ。じゃあ宜しく頼んだ。…あ、あとそれはワタルに渡すまでは開けるなよ」

「え？あ…はい…」




○ ○



ワタル君の家がわかるとのことで明君の案内のもと、三千院家に一番近い駅から電車に乗り、そして降りる。

周りが住宅地である三千院家とは違い、ワタル君のお屋敷の近所は都会のようで高層ビルが建ち並び、車もかなり走っている。


「わー…都会だなぁ…」

「人通りもとてもいいですっ」


ワタル君の屋敷には咲夜さんがよく連れて来てくれていたと言っていた明君のこの景色を見る目はどこか懐かしそうだ。

それはいいとして気になるのは、お嬢さまから託されたこのポーチだ。持った感じでは何か固いものが入っているが開けるなということはそれなりに危ない代物…。

例えば、そう…。解消したいがために用意した許婚を亡きものにする爆弾だ、とか…。


「どうかしたんですか？ハヤテさん」

「いや…これの中身はなんだろうなって」

「たぶんワタルさんのところから借りたビデオだと思いますっ」

「へ？」


予想外の返答に目を丸くして明君を見下ろす。


「び…ビデオ？」

「はいっ。ワタルさんはレンタルビデオ屋さんの店長さんなんですっ」

「レンタルビデオ…」

「はい！そろそろ見えてくるはず……あ！見えました！あれです！」


明君はその店がある方向を指さした。

……正直、あの三千院家のナギお嬢さまと許嫁と言うのだからワタル君のお店もそれなりに大きいと思っていた。

思っていたからこそ、明君が指差す先にある小さくビルに囲まれた古めかしいレンタルビデオ屋の存在が信じられなかった。

お嬢さまのお屋敷と比べたら正反対。….いや、もう比べるまでもなかった。


「….….え？」

「どうしました？」

「….い….いや….だって….」


後ずさる僕の隣を見覚えのある人影が通る。

マリアさんとは違うにしても街にいれば嫌でも目に入るシルエット。


「サキさん！」

「え？….あら、ハヤテさん。ご無沙汰しております」


買い物帰りなのかカバンを持ちながらサキさんは頭を深く下げる。

そして明君にも気付くとサキさんは目を大きくして笑った。


「あら明君！お久しぶりですね。また大きくなりました？」

「お久しぶりです、サキさんっ。ありがとうございます！」

「ふふっ。….ところでお二人はどうしてこんなところに？もしかしてお店に用ですか？」

「えっと….お嬢さまからこれを預かりまして….」


サキさんにポーチを見せると、ああ！と納得したように声をあげた。


「分かりました。では一緒に参りましょうか」


そう言って歩き出すサキさんに恐る恐るついて行く。

彼女の足が向かっているのは案の定小さなレンタルビデオ屋で、ついにその自動ドアが左右に開いた。


「若。ただいま戻りました」

「おー。おかえり」


ビデオやDVDなどが置かれた棚が並んでいる店内のカウンターの内側で、椅子に座り雑誌に目を落としていたワタル君はサキさんの声に顔を上げる。

そしてその隣に立つ僕にも必然的に目が向く。

その目が僕を捉えると、ワタル君は素早くカウンターに足を乗せて胸ぐらに掴みかかった。


「てめえこの野郎！今更どの面下げて来やがった！！」

「謝りに来たんですよーっ！」

「ならその日に謝りに来やがれ！謝る気があんならなぁ！！」

「あ、ありますよっ！」

「はんっ、どうだかな！」

「わっ、若！悪気があったわけじゃないんですし、そこまでしなくても….！」

「そうですっ、ワタルさん止めてください！」


明君の声でワタル君は目を丸くすると、顔を横に向けた。


「明？お前なんでこんな奴と一緒にいるんだよ」

「若….咲夜さんが仰ってたとこ忘れたんですか？」

「咲夜？….….….….あー、なんか言ってたような気がするな」


ワタル君は黙って僕の方に顔を向けると小さく息を吐いて、手を離して椅子に腰を下ろした。


「….….….ま、先輩が年下に胸ぐら掴まれる所なんて見たくないだろうからな。明に免じてあの日のことはなかったことにしてやるよ」

「ありがとうございます….」

「ふんっ。…….で、どうせ謝るついでになんかナギの奴に頼まれたんだろ？」

「あ、はい。これを渡せと….」


先ほどまでではないとはいえ、まだ僅かに敵意が残った視線で見上げるワタル君にポーチを渡す。

受け取ったワタル君は躊躇いなくポーチを開けて中に入っていたビデオを取り出した。


「ったく….ナギの奴、次から延滞料金払わせてやろうかな….」

「あの、それは？」

「ん？あぁ。たまにアニメでテレビで放映されるものとDVDで見るのとじゃ修正が入って変わる時があるだろ？」

「え、ええ….」

「このビデオはその地上波で流されたものを録画したものだ。色々とあってDVDじゃ差し替えが多くてレアものなんだぜ？」

「はぁ….」


自信ありげに笑いながら言うワタル君は何故かとても生き生きしてるように見える。


「でもそんなものをお金取って貸し出しっていいんですか？」

「貸し出しもしてねーし、金も取ってねーよ。あそこに飾ってナギに自慢してるだけ」


と、言いつつワタル君は店内の一角を指差す。

ワタル専用と書かれた看板の下にある棚には手書きのラベルが貼られたビデオが並べられていた。


「ナギの奴の悔しそうな顔はほんと見てて楽しいんだよ。ははっ！」

「ずいぶん手の込んだスネ○っぷりですね….」

「いいんだよ。こうでもしねーとこっちだってやってらんねーしな。こんなの目標のための息抜きみたいなもんだ」

「目標？」


ワタル君は両手を頭の後ろに回して、椅子に寄りかかる。

それと同時にサキさんは僅かに目を細めた。


「ああ。一応俺んちもそれなりに金はあった。でも不況とかで落ちぶれて今じゃこの店が最後の砦なんだよ」

「….….….….」

「両親はこんな小さな店に期待なんかしてない。だから金目当てに三千院家に近寄ってナギと婚約させやがった。でもそんなの俺は認めねえ。この店を繁盛させて三千院家なんて目じゃない財産を作って全員を見返してやるんだ。俺がやらなきゃ….駄目なんだ！」

「….っ！」


誰かがやらなきゃ何も起こらない、何もない。

なら、自分がやるしかない。頑張るしかない。誰かに頼ることもない。….その境遇はお嬢さまに出会う前の僕にそっくりだ。

勘違いしていた。….この子は….ワタル君は想像しているよりも遥かに努力家で、良い子なんだ。


「ま、こんなのはただの意地だ。お前からしたらくだらない話かもしれねえけどさ」


苦笑しながら言うワタル君に僕は首を振る。


「いえ。そんなことないと思います。その気持ちは分かりますから」

「…お前….….」

「ワタル君のそんなことも知らずに、この前は軽はずみな事をしてしまい本当にすいませんでした」

「お….おいおい、そんな頭下げんなよ。もうその話はなしって言ったろ？」

「なくても謝るだけならいいでしょう？」

「そ….そうだけど….」


ワタル君は赤く染まった頬を目を逸らしながら掻く。


「ま….まぁなんだ。お前もその….頑張れよな。ナギの奴は気まぐれだから….」

「….はい。執事としてお嬢さまのことはお任せ下さい！」

「….….….….。ははっ、苦労するぜお前。….でもまぁ….なんかあったらいつでも来いよ。息抜きになりそうなもんなら貸してやるからさ」

「ありがとうございます♪」




　○　　○



ワタル君のお店を後にし、頼まれていた買い物も済ませて僕達は三千院家へ戻り、広い庭を歩く。

マリアさんの言っていた通り、確かに一人で持つには厳しい量だったので袋は2つに分けて僕と明君で一つずつ持って歩いている。


「そういえば明君は学校には行ってるの？」

「….….….いえ。学校には….行ってないです」


僕の問いかけに明君は表情を曇らせて答えた。


「それはどうして？」

「….おこがましいかなって思って。ただでさえ咲夜さんにはお世話になっていましたし…姉さまと違って僕は何もしてませんし。お誘いはしてもらっていますが….それでも…」

「….….そっか。でも学校は行ったほうがいいよ？明君は明君なんだから。ちゃんと勉強しなきゃ」

「….そうなんですかね….」

「うん。学校に行くって言ってくれれば御崎さんも心配しなくて済むんじゃないかな？」

「….っ！ 姉さまに….迷惑かけませんか…？」


ゆっくりと大きな目がこちらに向く。

その目には姉に迷惑をかけたくないという強い意思が見えた。


「うん。普通の日々を生きて欲しいって言ってたからね」

「….….そうですか…。姉さまのためになるのなら…僕…行きたいです、学校！」

「そっか。じゃあ帰ったらお嬢さまに相談してみようか」

「はいっ！」


とても嬉しそうに頷く明君の笑顔が、とても眩しかった。


「(….偉そうに言える立場じゃないのにな…)」

『….….…ハヤテ君！！』

「え…？」


後ろから聞こえた声に振り向く。

そこには女の子が一人立っていた。

走って来たのか肩で息をして、まっすぐ僕を見つめる女の子。

その制服と外見には見覚えがある。

彼女はーー


「….….….西沢….さん….？」
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.58 )
日時： 2013/05/02 14:06
名前： ゆーじ


それは数十分前に遡る….。








「はー….」


休日にわざわざ制服に着替えてまで行かなくてはいけなかった学校への用事(昨日の夜に思い出したただの忘れ物)を済ませて、私は公園のベンチに腰掛けていた。

途中で買った棒アイスが寒い風と一緒に私の体を冷やす。

…..私の名前は西沢歩。潮見高校という学校で一年生をしている列記とした女子高生というものだ。

そんな花も恥じらう年頃の女の子な私がなぜ溜息なんかしているのかと言われば答えは簡単だ。


「….….ハヤテ君….」


私は青く澄み渡った空を見上げる。

ハヤテ君というのは私のクラスメイト、綾崎ハヤテ君のこと。

この空のように青くて綺麗な髪と瞳をしたとても優しい男の子だ。

そんな男の子が冬休み明けから突然学校に来なくなった、というのが私の今の悩みと心配の種。溜息の理由だ。

….….….いや。来なくなった、っていうのも….もう違う表現だ。

なにせ彼は….、いや。


「きっと先生の間違いだよ。ハヤテ君ならきっと大丈夫！私がこんな落ち込んでても仕方ないんじゃないかな！….よーし、ワタル君のところでビデオでも借りちゃおー！」


ワタル君とは弟の一樹が出会って私も知った、ビデオ屋の店長を務めるいわば子供店長のお友達だ。

ワタル君もワタル君で色々と苦労してるみたいで、私はそんなワタル君に協力したいからなるべく彼のお店で見たい映画はレンタルしている。


「今日は何を見ようかなー♪」


なんて口ずさみながらワタル君のお店を目指す。

車が走る音を両耳で聞きながら、コンクリートジャングルを抜けて見慣れた小さな店を捉える。

それと同時に店の自動ドアが開く。


「(あ、お客さんだ)」


ワタル君自身がマニアックなことから、同じくマニアックなお客さんが来ることが多いとワタル君はよく言っていた。

出てくるお客さんはどんなワタル君シリーズを借りたんだろう。

そんなことを思いつつ出てくる客を凝視していた私は、すぐに認識することができた。


「….っ！」


すぐに分かる青い髪。見慣れた顔。ずっとその姿が頭から離れたことはない。

間違いない。….あれは….ハヤテ君だ….！！


「(う….嘘….！こ、これ夢じゃないよね？現実だよね！？….….….やっと….見つけたよぉ….)」


あまりに嬉しくてつい涙が流れる。

….っと、それはまだ早い！とにかく追いかけないと！

走ってハヤテ君より少し離れた電柱に隠れる。

いきなり話しかけても、気まずいかもしれないからとりあえず様子を見よう。


「(….…ハヤテ君….なんかすごい服着てるな….執事みたい….。それに隣の子….男の子….だよね？)」


ハヤテ君の隣には髪の長い子供が居て、二人で歩きながら一緒に笑い合っている。

見た目は女の子だけど、格好的には多分男の子だろう。弟君なのかな？そんな話を聞いたことはないけど….。


「….….…ハヤテ君….….」


久しぶりに見るハヤテ君はどこか前までのハヤテ君と比べて生き生きしているように見えた。

弟君に見せる笑顔は、学校で見せていた笑顔とはどこか違う。

….まぁ今にも死にそうな顔したハヤテ君と再会する、ということも考えてた身としては心の底から安心しちゃうんだけど….。


「(って、そんなお母さんみたいなこと思ってる場合じゃないや！見た感じ大丈夫そうだし、とにかく追いついて話しかけよう！)」


私はハヤテ君と弟君に追いつくべく走り出す！！


「は….！ハヤテ君！ハヤテくーん！！ハーヤーテーくーんー！！」


何度叫んでも、いくら走っても、ハヤテ君達の背中に近づくことはなく、むしろ遠ざかって行く。


「(早い….！名前負けしてないくらい早いよハヤテ君！それに平然とした顔で追いつけてる弟君もすごいし….！！)」


でも、追いつけずとも見失うまでではない。

とにかくハヤテ君の行く先をこの目に焼き付けなければ！！

私は再びハヤテ君の後ろ姿を追って走り出した。



　○　○



それからどれだけ走っても追いつけることはなく後ろ姿を見失わないようにするのが精一杯だった。

そんなハヤテ君達がようやく足を止めた頃には私の体力は呼吸が定まらないレベルで限界を迎えていた。


「も….もう無理….二人とも….早すぎ….」


そんな私を差し置いてハヤテ君と弟君は大きな柵に囲まれたとても広い森林に続く裏口扉を開けて、平然と中に入る。

私は柵に顔を寄せて、森の中に消えていく二人の後ろ姿を目で追う。


「(ど….どうしよう….早く追いかけないと行っちゃう….！でも….こういうのって関係者以外立入禁止とかそういうのなんじゃ….。ハヤテ君….この中で何してるの….？)」


頭に過るのは….鞭で傷めつけられながら、重労働をさせられているハヤテ君の姿ーーー


「いやぁあああっ、そんなのダメえええ！！待っててハヤテ君！！今助けに行くんだからっ！！」


私は走ってハヤテ君達が通って行った扉をあけて先が見えない森の中に足を踏み入れ、ハヤテ君が行った方向に駆け出す。


「(誰だか知らないけど….ハヤテ君を傷つけるなんて許さないんだから！)….….っ！」


走り抜ける私の目の前に突然黒服で強面の男の人達が現れる。

骨格もとても普通の人間だとは思えないくらいに凄い。

この人達….ヤクザ！？


「君。….何が目的だ？」

「もしもし。….不審者を一人見つけました」


男の人の一人が表情も変えずに尋ねてくる。

その後ろでは携帯を使って私を捕まえたことを連絡している人もいる。

きっとどの人も、サングラスの下は殺意に満ちているに決まっている….！

このままだときっと殺される。でもこんな所で捕まってたら意味がない！


「そんなの決まってるでしょ….こんな所から助けるためよっ！」


男の人達の脇を潜って、さながらアイシールドなあの人のような動きでその場をすり抜ける。

そしてそのまま制止を促す声も無視して私は走り抜けた。

しばらく走り続けたところで足を止めて振り返ると、さっきの男の人達はもう追って来る気配もなかった。

ふんっ、ハヤテ君には及ばずとも私だって体力には自信があるんだから！


「(あんな人達がいるなんて凄い危険な場所なんだ….早くハヤテ君に追いつかなきゃ！)」


永遠と続く木々を抜けると、ようやく人の気配がありそうなものを見つけた。

とても大きくて、テレビでよく見るお金持ちの家のような….そんな建物。


「家….なの？.こんな建物一つに….どれだけ広い庭なの….？」


あまりにも常識外れな場所に私は来た道を振り向く。

扉があった柵なんか見えるわけもない。マラソンでもしてるかのような距離を走ってきたんだから。

ハヤテ君がとても遠く感じる。もう会えないかもしれない。挫けかけた私は前を向き直ったところで視界に写った小さな人影に目を丸くした。

遠いけど….あれは確かに今まで追いかけ続けていた、ハヤテ君の後ろ姿。


「….！」


やっと見つけた。追いついた！


「ハヤテ君！！」


走って距離を縮めたところで、お腹の底から呼びたかった名前を叫ぶ。

そしてようやく振り向いてくれたハヤテ君は私を見るなり驚いた様子で目を丸くした。


「西沢….さん….？」

「ハヤテ君….やっと追いついた….私….ずっと…！」


ずっと会いたかった人が目の前にいる。今度は声も手も届く。そう思うだけで涙が出てくる。


「うっ….うう….」

「あ！あ！なっ、泣かないでください西沢さん！あの….これ！」


慌てながらハヤテ君はハンカチを差し出す。

私は黙って受け取り、ハンカチで涙を拭う。


「….ありがとう….」

「いえ….。でも、その….すいませんでした….ご心配おかけしたみたいで….」

「ううん、気にしないで…。でもっ、こんな危険な所にいるのは危険だよ！早くここから出ないと！そっちのほうが心配なんだからっ！！」

「え？き….危険….？」

「うん！だから早く行こうっ！」


ハヤテ君の手を取って、来た道を戻る。


「ま….！待って下さい！その前に聞きたいことがあります！！」


しかしハヤテ君はその場で踏ん張って動こうとしない。

なぜ踏みとどまるのだろう、私は内心で思いながらハヤテ君に振り向く。


「学校….学校はどうなりましたか？僕….冬休みが明けてから一回も行ってないから気になってて…」


とても心配そうに顔を曇らせて尋ねるハヤテ君。

気にかけていたのは私やクラスの皆だけじゃなかったんだ。

それは嬉しかった。でも….現実はそう簡単には行かないんだ。

私はそんなハヤテ君に今から辛いことを伝えなきゃいけないんだ。


「….….….….…。.あのね、ハヤテ君….そのことなんだけど….….」


先生の間違いだって思い込んでたけど、そんな間違いをする先生なんてどこにも居ない。

本当は、分かってたことなんだ。


「….….….….ハヤテ君….潮見高校、退学….したことになってるの….」

「え….」

「ハヤテ君のご両親が年末に学校に来て、ハヤテ君が来る日はもうないから学費を返せって言って….お金だけ貰って帰ったって….」

「….….….….….…」


ハヤテ君は表情を変えることなく至って無表情で黙り込んだ。

そしてどこか寂しそうに目を細めて、俯いた。


「お….おかしいよね….学費を払ってたのはハヤテ君なのに。それにそんな一言で退学を成立させてお金返す先生もおかしいよ….だから今すぐ学校行って全部話そう？教育委員とかにも話したらきっと助けてくれる….また学校に行けるよ！」

「….….…ハヤテさん….」


弟君も心配そうにハヤテ君の袖を掴んで見上げる。

そして俯くハヤテ君は元気のない笑みを浮かべながら少しだけ顔を上げた。


「そんなことしたら…先生達が悪者扱いされちゃいますよ。悪いのは全部僕と両親なんですから」

「そんな….！ハヤテ君は悪くないよ！！悪いのは両親だけ…、…っ！」


私はそこまで言って口に手をあてる。

他人の私なんかが知ったような口でハヤテ君の両親の悪口なんて言っちゃ駄目なのに….。


「気を遣わないで下さい。全部事実ですから。….….….….….」


ハヤテ君はしばらく黙り込むと、私に背中を向けて建物がある方に体を向けて歩きだした。


「….！　ハヤテ君….どこ行くの….？」

「学校が退学になってるなら丁度いいです、ずっと気がかりだったので….。でもこれで執事の仕事に専念できる」

「し….つじ….？」


ハヤテ君は私に顔を向けると、悲しげに笑った。


「今まで….ありがとうございました、西沢さん。….そして、….….さようなら」

「….！」


ハヤテ君はまた私に背中を向けて歩き出した。

せっかく見つけたのに。やっと追いついたのに。また、ハヤテ君は手の届かないどこかに行ってしまう。

そうなったらきっと….もう会えなくなる。


「….いや….….」


そんなの嫌。

最後に見たハヤテ君の顔が、あんな悲しそうな顔だなんて嫌。

もう会えなくなるなんて…嫌…！！


「待って、ハヤテ君！！」


私は駆け出して、追いついたハヤテ君の手を取る。

そして目を丸くして振り向いたハヤテ君の目を真っ直ぐ見て、


「ハヤテ君が好きっ！！」


今まで伝えたかったことをハヤテ君にぶつけた。

ハヤテ君は驚いたように目を大きく開いていく。

私は片手で掴んでいたハヤテ君の手を両手で包み込む。


「ずっと.好きだったの….。もう会えないなんて嫌だよ….行かないで….」

「西沢さん….」


ーーパサッ。

私から見て前の方から聞こえた、何かが落ちる音にハヤテ君も私もその方向を見る。

そこには足元にノートを落とした金髪のツインテールの女の子と、同じく金髪の縦ロールの女の子が目を丸くして私達を見ていた。


「お嬢さま….それに、アーたんまで….！」

「….….…ハヤテ君、あの子達….誰？」

「えっ！そ….それは、その….」


私の問いかけにハヤテ君は困ったように笑って目をそらす。

この反応….きっと口止めされてるんだ。つまり….この子達がハヤテ君を縛り付けてる元凶….！！

私が睨みつけると、彼女達も顔をムッとしかめてハヤテ君を睨みつける。


「おいハヤテ！その女は一体何者なのだ！！」

「お客さまにしては鐘の音は聞こえませんでしたけれど？」

「えっと、彼女は….」

「私は西沢歩。ハヤテ君と同じ学校で同じクラスメイトよ」


ハヤテ君を押しのけて名乗りあげる。

私の言葉にツインテールの女の子の眉間に皺が寄る。


「クラスメイトだとぉ….？」

「ええ、そうよ。あなた達が何を企んでるか知らないけどね….もうハヤテ君に辛い思いはさせないんだからっ！！」


今度は縦ロールの女の子が僅かに眉間を動かして、目を鋭くさせる。


「….何を思ってそう言ってるのかは知りませんけれど、年明けから学校に行っていない人間の前にクラスメイトの人間が現れる事の方がハヤテの立場からしたら気まずくて辛いと思うけれど….その辺は自覚しているのかしら？」

「なっ….！そんなこと….！！」

「ない、と言い切れるかしら？」

「ぐ….」


この人、私より何倍も上手だ。

でもそんなことで負けられない！


「あ….あのー….皆さん….？」

「「「ハヤテ(君)は黙って(なさい)(ろ)(て)！！」」」

「はい….すいませんでした….」

「皆さん怖いです….」


苦笑いを浮かべながら話しかけるハヤテ君を私と彼女達とで声を揃えて黙らせる。

そして改めてお互いに睨み合う。


「「「….….….….….….」」」


きっと、あの子達もハヤテ君のことが好きなんだ。

だから、彼女達は宿敵….ライバル。

お金持ちで美人な彼女達に比べたら私は劣ってるかもしれないけれど、でも負けられない戦いが私にはある！！


「ふん….クラスメイトだかなんだか知らないが、さっさとハヤテから離れてもらおうか不法侵入者が！」

「今なら迷子の子猫ちゃん、ということで見逃してあげますわよ？」


鋭い視線で私を睨みながらそう言う二人の背後に何か大きなものが見える。

ツインテールの女の子の背後には漫画とかによく出そうな大きな龍。

そして縦ロールの女の子の背後にはこれまた漫画とかにいそうな黄金の鳥。いわば不死鳥。

どちらもイメージがそうだと思い込んでるからか様になっている。


「ふ….ふん、カッコイイじゃない….。なら私だってきっとすごくカッコいいものが….！」


私は自分の背後にいる自分の象徴となるものを見上げる。

….….….….….カリカリと音を立てながらひまわりの種を食べている、大きなハムスターを。


「って、ハムスター！？ええ！？ここは流れ的に巨神兵みたいな龍とかにも匹敵するようなのが来るんじゃないの！？」

「随分と可愛い巨神兵ですわね」

「ふんっ、お前なんかにはお似合いだハムスター女！！」


そして私の象徴となるハムスターは不死鳥に嘴で突かれ、龍に食べられる始末に。


「弱っ！私のハムスター弱っ！！」

「所詮その程度の女だってことだ、お前なんか！さっさと出てけ、このハムスターが！！」

「ハムスターじゃないもん！….うーっ、覚えておきなさい！次はもっと強いハムスターを連れて来るんだからぁ！！」


今日はもう勝てないと直感し、苦しくもその場から逃げ出す。

ハヤテ君の私を呼ぶが後ろから聞こえても、立ち止まることはしなかった。


「(ごめんねハヤテ君….。でも私….諦めないから….！！)」


そうして私はまた、先が見えない森の中を走り抜けて行くのであった….。



　○　○



歩が走り去って行った方向をハヤテは立ち尽くしながら見つめる後ろで、ナギはやれやれと言わんばかりに溜息をついて足元に落としていたノートを拾う。


「まったく、何なのだあの女は。人の家に勝手に入っておいてあの態度は」

「ふわぁー…。まぁいい眠気覚ましにはなりましたけれどね」


ナギとアテネの会話に我に返り、ハヤテは振り返る。


「そういえば、お二人はどうして外に？アーたんなんてこんな時間に起きてるのすら珍しいのに」

「うむ。新しい漫画を書き上がってアテネを起こして見てもらっていたら部屋の窓からお前達が見えてな、迎えに行くついでに見てもらおうかと思ったのだ」

「そうしたらあの子があなたに告白している所に行き着いて今に至るというわけですわ。….ちなみに彼女の漫画とやらはよく分からないお話でしたわね」

「うるさいっ！」


眠たそうな顔であっさりと言い切るアテネにナギは一喝し、ハヤテは苦笑する。

そして袖が引っ張られる感覚にハヤテは見下ろすと、表情を曇らせた明がハヤテを見上げていた。


「ハヤテさん….さっき西沢さんが仰ってたこと….」


さきほど歩に退学させられていたという話を気にしているのだろうと察し、ハヤテは笑いかける。


「大丈夫だよ。さっきも言ったようにこれで仕事に専念できるから」

「でも….」

「….？　なんの話だ？」

「どういうこと？ハヤテ」


首を傾げるナギと顔をしかめるアテネの問いかけにハヤテは苦笑しながら答える。


「いえ、僕はもう学校を退学していることになってたってだけですよ」

「….….….….、それはあなたが自分から申し立てた話なの？」


何かを悟ったアテネは更に顔をしかめながら問いかける。

その問いにハヤテは首を横に振った。


「親が学費欲しさに勝手に」

「あいつらは….！！」

「ううん、いいんだよ。まだ執事の仕事にも慣れてないのに学校になんか行ってられないもん。だから….いいんだよ」

「ハヤテ….」


ハヤテはニコリと笑うと明が持っていた買い物袋を取り上げる。


「あ….」

「じゃあ僕、買ってきたものを片付けて来ますね」

「あ….あぁ….」

「….….….」


黙って歩き出すハヤテの後ろ姿を取り残されたナギ、アテネ、明は見送る。

そして見えなくなったところで、ナギはアテネに問い詰める。


「おいアテネっ、どういうことだ！ハヤテが学校退学になってるって….！！」

「あの子がさっき言った通りよ。あいつらはハヤテを売っただけでは留まらず、あの子の学校にまで手を出した。何にもしなかったくせして….今更親という特権を生かして勝手に退学させたのよ。金欲しさにね」

「そんな….」

「性根が腐った奴らなのよ、あいつらは…。いつまで経ってもね」


怒りや恨みが篭ったアテネの声と顔に、ナギは俯く。

ナギも以前学校に行きたいかと聞いて、笑って頷いていたハヤテのことを知っている。

そんなナギの服の袖を明は引っ張る。


「ナギさん。…僕、ハヤテさんやナギさんと一緒に学校に行きたいです」

「….明？」

「今までは行っちゃいけないって思ってました。でもさっきハヤテさんに言われて行こうって決めました」

「….….….」

「なのに、ハヤテさんが行けなくなるだなんて….そんなの嫌です….」

「明….」


ナギは黙り込んで、目を閉じて俯く。

その姿をアテネは黙って見つめていると、ナギはアテネを呼んだ。


「なぁ、アテネ」

「なんですの？」


ナギはゆっくりと目を開けて、顔を上げる。


「私は…ハヤテと出会ってから助けれられっぱなしだ。きっとそれはこれからもずっと続いていく」

「….そうでしょうね。執事というのはそういうものですし」

「….うん。ハヤテは命をかけて私を守ってくれる。いつも私のそばにいてくれる。でもハヤテにやらせてばかりで私はハヤテに何もしてやれてない。私はずっとそのことで悩んでた」

「….….….どうするつもりですの？」

「ずっと頭に引っかかってた。….天王州アテネという名前….どこかで聞いたことがあると。….….….でも、さっき思い出した」


ナギはアテネに顔を向ける。


「白皇学院の若き理事長、天王州アテネ。….….….お前の力でハヤテを白皇に入学できるよう、手続きをしてくれないだろうか？」

「….….…….。それは本気で言っているの？」

「冗談なわけあるかっ！私はハヤテに礼がしたい….それはあいつが喜ぶ形での礼がいい。….こう言ってはあれだが、学校を退学になった今がそれにうってつけの状況なのだ！！」

「….….….….」


ナギの真剣な眼差しをアテネは目を鋭くさせて見つめる。

そして目をつむり、フッと笑って目を開けた。


「分かりましたわ。…早急に書類の準備をしましょう」

「本当かっ？」

「ええ。私もハヤテには笑っていてほしいですもの」

「うんっ！」


ナギはニコリと笑って頷く。

釣られてアテネもフッと笑うと、明に顔を向ける。


「では入学手続きはハヤテと明の二人、ということでいいのね？」

「ああ、そうだな。明も綾乃や祐真がいる白皇のがいいだろう？」

「はいっ。….あ、でも….僕、入学試験というものに受かる自信がありません…」


不安げに言う明に、ナギは『あ….』と声を上げて顔をしかめる。


「そうか….白皇には編入試験があったな….。あのハムスターの安っぽい制服を見るにハヤテが行っていた高校のレベルと白皇のレベルが一緒には見えないし….厳しいかもな…」

「ふふっ、そこは心配しなくても平気ですわ」

「え？」

「私が認めた者の編入に、試験なんてまどろっこしいもの必要ありませんもの」


そう言って、アテネは自信ありげに笑うのだった。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.59 )
日時： 2013/05/20 08:26
名前： ゆーじ


「おめでとうハヤテ君！お前は明日から白皇の生徒だ！」

「….….….はい？」


元クラスメイト、西沢歩との再会と学校を退学になっていた事が発覚された日の翌日。

ハヤテはナギに呼び出され、ナギとアテネとマリア、奈緒が待つ部屋へと入った途端にそう告げられた。

言われた本人のハヤテも、一緒に訪ねた明もポカンと開いた口が閉まらないでいる。


『何をそんな『何を言ってるんだこの人は。ていうかなんで皆そんなめでたいものを見る目で見てるんだ』みたいな顔しているの、ハヤテ」

「みたい、じゃなくてそんな顔してるんだよ！なんの話ですか！？」


不思議そうに首を傾げて尋ねるアテネにハヤテは突っ込む。

そしてハヤテの問いかけにナギは面倒くさそうに立てた人差し指を振りながら答える。


「だーかーらぁー、潮見高校を退学になる。だから白皇に編入しよう。編入決定、今ここ！分かったか？」

「わかりませんよ！！」

「全く物分りが悪い奴だなぁ、お前は！」

「明らかに物分り以前の問題ですよね！？」

「ならなんの問題がありますの？いいじゃない、好きな学校に三千院さんや明と一緒に行けるんだもの。これほど嬉しい知らせはないと思うのだけれど？」


やれやれと言わんばかりに溜息混じりで言うアテネにハヤテは言葉を濁す。


「それはそうだけど….。そもそも白皇の試験なんて今から勉強しても受かる自信ないし…」

「それなら心配する必要はありませんわ。あなたと明は白皇の特別枠での編入になりますから」

「特別枠？」

「ええ。白皇には飛び級制度の他に『理事長推薦枠』っていう枠があってね、理事長である私が認めた人間は編入試験なしで白皇に入学することが出来るの」

「でもそれってのアーたんが認めるだけで入学出来ちゃうんでしょ？」


ハヤテの言葉にアテネはフッと鼻で笑う。


「私、他人のことにあまり興味を示さない人間なの。そんな上辺だけで私に気に入られようとする輩なんてこちらから願い下げですわ」

「このように聞こえは簡単だがアテネに認められるなんて白皇に撒いた米粒を探すこと並に難しいってことだ。そんな望みのない枠をいつまでも狙うよりかは勉強して普通に受験したほうが確率も高い。だから白皇では幻の枠として有名だ」

「そ….そんな枠が….。でもそんな凄い枠で試験素通りしちゃっていいの？」

「もちろんですわ。なんなら受けてみる？試験。やるなら本番が明日だけれど」

「….….….….、明日は流石にちょっと….」

「でしょう？だからこれを使うしかないの。納得したかしら？」

「う….うん….」

「ちなみにその枠でお前と明が入ることは既に白皇中に知れ渡ってるから。誰かまではお前と私で共通の知り合いしか知らないけどな」

「えっ」



　○　　○



その頃白皇学院では、ナギの言った通り明日より理事長推薦枠で編入してくる二人の生徒の話で持ちきりになっていた。

休み時間になれば誰もがそのことについて話し出す。

ヒナギクと綾乃はそれを横目で見ながら廊下を歩く。


「すっかり有名人ね～ハヤテ君」

「幻の推薦枠だからな。あの理事長が認める人間がどういう奴なのかは皆も気になるところだ」

「ふふっ、まぁそうなんだけどね。….それにしてもハヤテ君が白皇にかぁ….、なんだか更に楽しくなりそうねっ」

「そうだな。….….それに私が何度言っても聞かなかった明を学校に行く気にしたなんて….綾崎に預けて正解だったのかもしれないな」

「適任だったってわけね♪」

「….あぁ、そうみたいだ」


どこか嬉しそうに笑うヒナギクに、綾乃もまた笑って頷く。

そして同じ頃、カフェテラスにいる伊澄と祐真もまた同じ話題で会話していた。


「なんでもハヤテさまはナギと同じクラスに入るみたいですよ。祐さまとも一緒ですね」

「逆にここまでして同じじゃない方がおかしいだろ。あとお前も一緒のクラスだからな」

「理事長さまはハヤテさまの事をよく考えているお優しい方ですね」

「….….考えすぎだけどな」


　
　○　　○



「….…..と、まぁこんな感じで白皇でお前達は世界で唯一魔王を倒すために選ばれた勇者に近い存在だから」

「本当なら全校生徒を集めて顔合わせした方が良かったんだけどね」

「ええっ！嫌だよ、そんな公開処刑みたいなこと！！」

「しませんわよ、流石に。….ただクラスの人達に挨拶する時間は割いてもらったから、そこはちゃんとしなさいね」

「ま…まぁクラスの人だけならまだ…」


安堵したように笑って胸を撫で下ろすハヤテにアテネは呆れたように息を吐く。


「全く情けない….。とにかく、明日よりあなたは白皇の生徒となりますわ。でも学校だからと気を抜かないように！白皇にはあなたのような執事はありふれてますからね！」

「えっ、そうなんですか？」

「ああ。我々のように主も執事も一緒に学校に行ってるところもあるのだ」

「へぇ…」

「だから！あなたが不甲斐ないと、それだけ三千院さんや三千院家の顔に泥を塗ることになるんですからね！その辺ちゃんと理解するんですわよ！」

「う….うん….」

「話はそれだけですわ。仕事に戻りなさい」


アテネは短く溜息をつくと、一同に背を向けて部屋から出ていく。

止めることもなく見送ったハヤテは、ナギに体を向けると頭を下げた。


「あの、お嬢さま。ありがとうございます」

「ん？….まぁ私は日頃の礼だからお前に感謝される筋合いはない。ただアテネにはちゃんと感謝しろよ。理事長推薦枠なんて滅多に入れる枠じゃないんだ」

「ええ。それはもちろん」

「ふっ。….…学校…楽しめよ、私の代わりにな」

「….….….….いや。お嬢さまも一緒に行くんですよね？サボっちゃダメですよ」


黙ってハヤテから顔を逸らすと『チッ！』とあからさまに舌打ちするナギに、ハヤテは改めて明日からの学校生活を頑張ろう、と決意した。



　○　○



そして翌日の初登校日。

明を自ら任せて欲しいと申し出た綾乃に任せ、ハヤテはナギの案内のもとに教員室へと到着した。


「ここが教員室だ。来る時は一人で行けよ。私はここが嫌いだから」

「え？どうしてですか？」

『出席日数のことで何か言われるのが嫌なだけでしょ』


横からの声にナギは顔を顰め、ハヤテは顔を向ける。

そして微笑みながら歩み寄って来るヒナギクにハヤテは『あ』と声をあげた。


「ヒナギクさん！おはようございます！」

「ええ、おはよう。……ハヤテ君、あなたが白皇の生徒になること…生徒会長として心から歓迎するわ。これからもよろしくね」

「はい！よろしくお願いしますっ！」

「うんっ。….….でね？その嬉しそうな気持ちをぶち壊しにするようで悪いけど….あなたのクラスの担任がお姉ちゃんなんだけど、もし変なことしてたらもう容赦しなくて平気だからね！」

「え？え….えぇ、分かりました….」

「ふふっ、じゃあ私は生徒会の仕事があるから….またね！」


手を振って、颯爽と去っていくヒナギクをハヤテとナギは見送る。

そしてヒナギクの姿が見えなくなった所で教員室の扉が開き、雪路が現れた。


「….ん？あら綾崎君。おはよう」

「あ….どうも」

「早速だけどあんたの担任、私だから。大船に乗った気でいなさいよね！」

「….….….むしろオンボロ船に乗った気分です」

「失礼ちゃうわねぇ。ま、いいわ。早く行くわよ」


出席簿を片手に歩き出す雪路の後ろをハヤテとナギは付いて歩く。

ハヤテが興味深そうに廊下や教室を見渡している内に、雪路はひとつの教室の扉の前で立ち止まり、ナギはそのまま扉を開けて入って行った。


「じゃあちょっと待ってなさいね。いきなり入って行くのも嫌でしょ」

「分かりました…」


ハヤテはその場で教室に入っていく雪路を見送る。

扉越しから雪路の着席を促す声と椅子が椅子が動き賑やかな声が静かになって行く様子が聞こえ、ハヤテは緊張で高鳴る胸を手で添えた。


『えー、HRの前に今日はこのクラスに新しい転校生が来るからその子の紹介をするわね』

『あ！知ってるよ桂ちゃん！その子、あのりじちょーさんが認めた凄い子なんでしょ？』

『無難にその子が男が女かイケメンか美少女かを教えてもらおうか』

『ま、転校生イベントではありがちなことだ』

『なんで上から目線なのよ…』


3人の女生徒の声に転校の経験が多かったハヤテは『あったなー、こういうの』と懐かしみつつ苦笑する。

その一方で雪路は考える。


「(転校初日で綾崎君緊張してるわよね。ならこの前のお詫びも兼ねてここは一つとけ込みやすいようにしてやるか！)」


雪路はニッと笑うと、教卓に手を置く。


『転校生は男の子。しかもとってもイケメンよ！！』

「…！？」


その言葉が扉越しから聞こえた瞬間、ハヤテの体は強張った。

そんなこともお構いなしに教室内からはキャー！と声を上げる女生徒達。


「イケメンってどれくらい！？」

「えっ！？(…ここは良いように言った方がいいわよね)そ、そうね…速○もこ○ちか福山雅○の生まれ変わりなんじゃね？ってよく言われるそうよ！彼が一度ニコッと笑えば半径1メートル内の女子は大体そのイケメンっぷりに気絶すると噂もあるらしいわね！！それからーー」

「「「きゃあああ！！」」」

「(おいおい…)」


盛り上がっていく女生徒達とどんどんハードルを上げていく雪路に流石のナギの頬づえをかきながら苦笑する。

これを扉越しから聞いてるハヤテは今どんな心境なのか。そんなナギの心中を他所に雪路の口は止まらない。


「あ、そうそう忘れてたわ！彼はホントはーー」

「あることないこと勝手に喋るなぁ！！」

「あだっ！」


耐え兼ねたハヤテは扉を開け放ち、脱いだ上履きを雪路に投げつけた。

その見事な球筋に生徒達からはおぉー！と感心の声が上がる。


「ちょ…！ちょっと、ちょっと！！あんた担任に上履き投げつけるって何事よ！！」

「学校に来る人間全員を不審者扱いして、その上生徒でもない人間から弁当箱を取り上げて時計塔から落とした人に言われたくないです。あと妹さんから直々にやっていいと言われたので」

「ぐ…あの貧乳ヒナめ…」

「………はぁ」


ナギは疲れたように溜息をつく。


「ハヤテ。間違った判断だとは言わないが自分の立場をよく考えろよ」

「え？……あ」


ナギの言葉にハヤテはクラスの生徒達全員の唖然とした顔にハッとする。

しばらくの沈黙の後、何事もなかったように姿勢を正して笑ってみせた。


「え、えーと桂先生から紹介にあずかりました三千院家で執事をしております、綾崎ハヤテです。先生が言ってたことは気にしないで下さい。…よろしくお願いします…」

「「「……………」」」


引きつった笑みで頭を下げるハヤテに、同じく引きつった顔でクラスメイト達は拍手する。

雪路は頭を擦りながらも教室を見渡し、空席を指さす。


「はい。皆この担任教師に上履きを投げつける非常識者と仲良くしてあげてねー。じゃああんたはあそこの席ね」

「だから先生に言われたくないですってば…もぉ」


ハヤテは雪路を睨みつつも指定された空席に座る。

その姿を見ていた3人の少女達はニヤリといやらしく笑みを浮かべるのであった。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.60 )
日時： 2013/06/15 21:29
名前： ゆーじ


昼休み。

白皇の中庭のベンチに座って昼食を食べるナギは、卵焼きを口に入れ飲み込むなり隣で座るハヤテに顔を向けた。


「で、どうだったよハヤテ。白皇の授業は」

「….….….….」


ハヤテは同じく卵焼きを口に入れたまま目を伏せると、飲み込み、箸を離す。


「….数学の時間、先生に『理事長推薦枠で入学した綾崎。この問題分かるか？いや、分かるよな。だって理事長推薦枠だもんな』って笑顔で半分脅されながら凄く難しい問題を出された時は死にたくなりました」

「あぁ、あれな…。お前、鳩が豆鉄砲食らったような顔してたもんな….」

「周りからの目もなんだか痛いですし、この学校の人達の中の彼女はどれだけ崇高な存在なんですかね…」

「まぁ屋敷でのあいつを見てると余計にな。….ま、今は教師含めた全員がアテネが選んだ人間は天才な奴ってイメージが染み付いてるだけだ、しばらくすればそれも消えるだろ。それまでは耐えろ」

「….はい…」


どこか疲れた様子で昼食を食べるハヤテにナギはやれやれと言わんばかりに短く息を吐いて、ウインナーを口に入れる。

そんな2人に少女が3人近寄ると、立ち止まった。

ハヤテはきょとんとした顔で見上げ、ナギは見上げるなり不愉快そうに目をそらした。


「随分疲れた顔をしているな、転校生君」

「日々の仕事に限界を感じた中年サラリーマンのような雰囲気を醸し出しているぞ、転校生君」

「そんなことじゃ将来はげちゃうぞー、転校生くーん♪」

「はぁ….。あなた達は確か….同じクラスの…」


そこまでは分かるが名前が分からず、ハヤテは顔を顰める。

その姿に少女達はニヤリと笑う。


「ほう、あの数時間でクラスメイトの顔だけは覚えるとは流石理事長推薦枠」

「にははー、やっぱり頭いいんだねー♪」

「ま、あの数学の問題は我々にも分からなかったからな。そう気を落とすな」

「は….はい、どうも….」

「ハヤテが分かる問題でも分からなかっただろうが、お前らは」


ナギは不機嫌な顔でそっぽ向きながらウインナーを咀嚼する。


「まぁまぁ。そう邪険にするな、ナギちゃん」

「私達はただ新たな仲間である綾崎ハヤ太君と仲良くなりたいだけじゃないか。なぁ泉」

「うん♪」

「仲良くなりたいならまず名前を覚えろよ」

「そうだった、君はまず我々の名前を知らなかったな。私は朝風理沙。覚えたか？ハヤ太君」

「私は花菱美希。よろしく、ハヤ太君」

「瀬川泉だよー♪よろしくね、ハヤ太君！」

「….….そういう話をしてるわけじゃないんだがな」

「もうハヤ太でいいです….」


マイペースの一方通行を突き通す3人にナギは眉間を押さえ、ハヤテは疲れたように肩を落とした。

そんな二人もお構いなしに理沙は話を続ける。


「そんな我々が普段何をしているかと言えばだが…」

「….….….….ん？あれ、綾乃くんじゃないか？」

「え？」


一同は美希が指差す先を一斉に見る。

その先には美希の言うとおり、小走りでどこかに向かう綾乃の姿があった。


「….本当だ。御崎さんどこに行くんでしょう？」

「あの方向は初等部のはずだが…」

「….….….….….」


理沙、美希、泉は黙って綾乃の姿を見据えると、不敵に笑って目を合わす。


「….ハヤ太君。我々が普段何をしているか、それは日常に潜む面白そうな光景をビデオで撮影する！それが我々の日常であり、我々が所属する動画研究部の活動なのだ！！」

「ど….どうがけんきゅうぶ….？」

「ああ、俗に言うユーツーベというやつだ」

「言わんでいい」

「….というナギちゃんの冷徹なツッコミにもめげない、それが動画研究部！そういうわけなので本日の部活の内容は綾乃君の尾行だ！！」


理沙は勢いよく綾乃の後ろ姿を指さし、美希と泉は『いえーい！！』と盛り上げる。


「ええっ！そんな尾行だなんてダメに決まってるじゃないですか！」

「….止せハヤテ。こうなったこいつらに何を言っても無駄だ」

「でも….」

「あいつらが綾乃に怒られたところで私達には関係のない話だ。お前が構う必要はーー」

「よーし、では行くぞナギちゃん！ハヤ太君！」

「れっつごー♪」


美希はナギの、泉はハヤテの手を取り歩き出す。


「ちょっ….！何をするのだっ、離せっ！！」

「部員の一人として活動には参加せねばならないんだぞ、ナギちゃん！」

「誰がいつお前らの部活に入った！！私達を巻き込むなぁ！」


ナギの叫びと抵抗も虚しく、ナギとハヤテは美希と泉と共に初等部に連行されるのだった。



　○　○



白皇学院は初等部から高等部までのエスカレーター式の学校である。

しかし編入や転校もしてくる生徒も中には居るが、エスカレーター式で昇進する生徒がほとんどであろう。

そして初等部というのはわかりやすく言うなら小学校。その校舎に高校生、もとい高等部の生徒が居るというのはかなり浮いている。

そんな後輩達からの不思議そうな視線の中、美希、理沙、泉に連れて来れるがまま立ち尽くすナギは不機嫌そうに腕を組み、ハヤテは興味深そうに辺りを見渡す。


「初等部の校舎もちゃんとしてますね、やっぱり」

「当たり前だろ。これで校舎の構造にまで順番が付いてたら問題ものだ」

「そうなんですけど…」

「ま、そんな小学生から見たこいつら…いや、我々もか。…ともかく私達はかなり変な集団、というわけだ」


ナギはやれやれと言わんばかりに首を左右に振ると、冷ややかな視線で壁に張り付いて綾乃を見る理沙、美希、泉を見る。


「おいお前ら。今すぐ私達を解放するか、そのストーキング行為を止めるかどっちか選べ」

「まぁ待てナギちゃん。考えてみるがいい。あの綾乃君が、この初等部に来る理由というのを」

「そんなの初等部の先生に用があるとか理由なんてありふれてるだろ…」

「いや。確かに彼女と一緒にこの初等部を出た私達にのみ分かることだが、白皇は基本的に教師の入れ替わり等は少ないから、当時私達がお世話になった先生方は今もこの校舎で後輩達の担任をしていることだろう
。だがわざわざこんな所に来てまで用事まがあるとは思えん。彼女は仮にも生徒安全委員会の委員長だけれども」

「生徒安全委員会…？」


首を傾げながらのハヤテの問いかけに、泉が振り向いて笑顔で説明する。


「にはは。生徒の安全を脅かす人達を、この学校内で選りすぐりの強い人達がやっつけるための委員会だよー♪だから綾乃ちゃんはこの学校で一番強い子なのだー！」

「ま、ヒナという選択肢もあるがあいつは生徒会長という役割が既にあるからな」

「でも生徒の安全を守るために生徒を使うんですか？」

「綾乃君の強さはSPよりよっぽど信頼できるってことだ」

「…へぇ」

「……………綾乃本人はその決定をあまりお気に召してないようだがな」

「え？」


小声で呟くナギを見下ろすも、それ以上ナギが何か言うことはなかった。

そして理沙は歩み進めていく綾乃の後ろ姿に、顎に手を添える。


「…ふむ、どうやら綾乃君は3年生の階に行くようだな。では行こうか、皆の衆」

「らじゃー！」

「…………私達、もう帰っちゃダメなのか？」

「帰るとまた更に厄介なことになる気がしますが…」

「そうだな…そっちの方が面倒臭そうだ。仕方ない、行くぞハヤテ」

「はい…」



　○　　○



綾乃は初等部の3学年の階である3階のとある教室の扉の小窓から、中の様子を覗く。

見えるのはかつては自分が着ていた制服を身に纏う幼い後輩と、そしてーー


「………傍から見たら不審者だな」

「綾乃君であることがそう見られない唯一の壁だな」

「っ！？」


背後からの声と気配に綾乃は咄嗟に振り向くと、理沙、美希、泉、ナギ、ハヤテの呆れたものを見る目が一斉に刺さる。


「おおおお前らっ、な…なんでここに…！」

「それはこっちの台詞だ。お前は一体何をしている」

「御崎さん…」

「み…！見るな！そんな可哀相な人を見る目で見るな！！」

「君はもしやそういう趣味の持ち主か？」

「違ぁう！！」


綾乃は顔を真っ赤にして理沙や美希に怒鳴りつけると、躊躇いつつ目を後ろの小窓に向けた。

その小窓からは丁度クラスメイトである少女2人と楽しそうに話している明の姿があった。

それを見てハヤテは察する。


「御崎さん…もしかして明君の様子を…？」

「……………」


綾乃はハヤテを一瞥すると、目を逸らして黙って俯いた。


「この学校に限ってそういうことはないとは思っているし、少なくとも編入初日から誰かに嫌われるようなことはないだろうが…それでもやっぱり心配だったんだ」

「…御崎さん…」


綾乃と同時にハヤテも小窓から見える明を見ると、明もまたこちらに目を向け気がつくなり顔を晴らして駆け寄って来た。


「姉さま、ハヤテさんっ、ナギさんも！皆さんどうかしましたか？」

「あ…い、いや….その…」


戸惑う綾乃に代わってハヤテが前屈みになって明に笑いかける。


「御崎さん達に校舎の案内をしてもらってたんだ。それがてら明君の様子も見に来ただけだよ」

「あっ、そうでしたか！僕のことなら心配ありませんっ。夏樹さんも早苗さんも優しい方ですっ」

「「え？」」


突然現れた知らない名前に目を丸くしていると、遅れて少女が2人一同に歩み寄る。

2人の少女はハヤテ達を見上げると、一人の少女は首を傾げつつ顔をしかめる。


「….？　なんで先輩達がこんな所に居るんだ？」

「….….….沙南、先輩相手くらいにはちゃんと言葉遣い正す」

「むぅ….」


表情一つ変えずに淡々と話す少女に、沙南と呼ばれる少女は口をへの字にする。


「あ、紹介します、皆さんっ。こちら夏樹沙南(なつき さな)さんと早苗未雨(さなえ みう)さんですっ」

「….….よろしくお願いします」

「え？あっ。よ….よろしく….お願い….します….」


明の紹介に未雨は無表情で、沙南はどこかぎこちない様子で頭を下げた。

その姿にハヤテは笑って『よろしく』と応えると、理沙と美希はいやらしく笑って明の顔を覗き込んだ。


「ほほう、小学生にして既に両手に花か。綾乃君の弟君は将来はいい男になりそうだな」

「ああ。素晴らしくも醜い女垂らしに…痛たたたた！綾乃くん！そこ顔！手で掴んじゃいけないところ！！」

「明の前で変な言葉を使うな…！！」

「痛い痛い！ごめんなさいごめんなさい！！助けてハヤ太くーん！！」

「ちょ…！御崎さん、落ちつてください！！」


理沙の顔を鷲掴みにする綾乃に涙目で助けを乞う理沙にハヤテが仲裁に入るも、綾乃はギロリとハヤテを睨みつける。

その目で離す気配がないことは目に見えていた。…が、


「ね…、姉さま！やめてあげて下さいっ！」

「…っ！」


ハヤテの静止の声も聞かなかった綾乃が明の静止の声に、力を弱めた。

そして一瞬目を伏せると、手を下ろし、理沙や美希を退けて歩き出す。


「あ…御崎さん！」

「姉さま！」


ハヤテと明が呼び止めると、綾乃は足を止め、横目で明を見る。


「もう話せる友達が居るならいいんだ。…じゃあ」


冷めた様子でそう言うと、綾乃は今度こそ立ち止まらずに歩き去って行った。

残された一同はその後ろ姿を呆然と見送る。


「…………姉さま….。また僕….姉さまに迷惑かけてしまいました….」

「明君？」

「もう、迷惑はかけないって決めてたのに…」

「……………」


俯いて黙り込んだ明にハヤテは疑問しか浮かばなかった。

以前から明は姉である綾乃に気を遣って行動しているように見えた。

彼女が明の面倒を見るようにと自分の所に頼みに来た時も、自分達を真似すると言っていた。

そして学校の話をした時もそうだ。綾乃に迷惑を掛けたくないと言うだけで自分の意思を一切見せなかった。

綾乃も綾乃で、どこか明に対して過保護すぎるというか腫れ物に触るように接しているように見える。

そう考えればおかしいことは山ほどある。

血の繋がっている3人の兄妹。1人だけ別居している兄と、お互いに気を遣っている残りの姉弟。

あまり詮索はしない方がいいのだろうが、両親がいないというのも謎だ。


「……………」


もしかしたら、この3人の兄妹は思っているよりも深い闇を抱えている…のかもしれない…。


===============================================


【おまけコーナー～プロフィール編～】



【奈緒(なお)】

年齢:16歳

身長:160㎝

好きなもの、特技:アテネ、ハヤテ、食べ物、銃、弾造り

嫌いなもの:アテネ、ハヤテを傷つける奴、自分

【概要】

10年前に借金滞納のために思い詰めて借金取りを殺害した父親と母親を自分の手で殺害。その後、野垂れ死にかけていたところをアテネに救われて、アテネのボディーガードとしてスナイパーとなった少女。
また奈緒という名前はアテネのボディーガードになる際に過去とともに名前を捨てろとアテネに奈緒という名前を授かっているため、本名ではない。
一番使用率の高いピストルは元は父親に殺された借金取りのもので、彼女はそれを使用して両親を銃殺した。
ちなみに所持している銃弾は実弾もあるが、ほとんどが彼女自身が配合を重ねて製造したもので殺傷能力はどれもない。
またスナイパーとしての腕はプロ並みで、身体能力もハヤテ並である。
そのハヤテとは10年前に既に会っていて、彼女自身は鮮明に覚えているがハヤテは覚えていない。
そしてハヤテには好意を抱いていて、その気持ちもはっきりと自覚しているがアプローチする気はない。



【御崎祐真(みさきゆうま)】

年齢:16歳

身長:176㎝

好きなこと:寝ること、静かな場所、1人でいること

嫌いなこと、もの:朝起きること、うるさい場所、人混み、甘いもの

【概要】

伊澄の護衛役として鷺ノ宮家に居候している少年。
武器は伊澄の力により退魔の力が備わっている日本刀。基本的には妖怪を斬りつけて倒すものだが、物理的にもよく斬れる。
また6年前に両親に捨てられ数ヶ月間を建物と建物の間の路地裏で過ごし、その際に伊澄と咲夜に出会い、拾われたという過去の持ち主。
しかし捨てられたことに関しては本人は納得しておらず、いつか探し出そうと思っている。
剣の腕は勿論ながら、身体能力もハヤテ並かそれ以上である。また勉強面でも成績はナギやヒナギク並であり、授業中は基本的に寝ている。
早起きが苦手であり、他人に無理やり起こさられると機嫌が悪くなる。
更に伊澄の迷子癖にも悩みを通り越してイライラしている。
ハヤテ、ヒナギクには祐と呼ばせているがヒナギクは勝手に呼び出したものであるが、ハヤテに関しては別の理由で自分から『祐真』以外の呼び方を提示したところそうなった。
ナギとは出会い頭で喧嘩になり仲は険悪だがマリアとは比較的話す。



【御崎綾乃(みさきあやの)】

年齢:16歳

身長:162㎝

好きなもの:祐真、明、咲夜、両親、可愛いもの

嫌いなもの:自分、暗い場所、霊的なもの

【概要】

祐真の双子の妹であり、咲夜のメイド兼護衛役であり白皇では生徒安全委員長を務めている少女。
武器は祐真と同じく日本刀だが同時に木刀も所持している。
過去は祐真と同じだが、彼女は咲夜に拾われて愛沢家に居候している。
弟である明のことは過保護すぎるくらいに大切にしており、明に変なことをしようとする輩には手加減はしない。
また白皇で一番強い生徒として生徒安全委員長に選ばれた彼女だが、彼女自身 祐真が一番強いと思っているのでこの決定に納得はしていない。
双子だが祐真と違い早起きは比較的得意である。


【御崎明(みさきあき)】

年齢:10歳

身長:127㎝

好きなもの:祐真、綾乃、ハヤテ、両親、お手伝い

苦手なもの:起きること、勉強

【概要】

祐真と綾乃の弟であり、ハヤテの後輩にあたる少年。
祐真や綾乃と同じく剣術は嗜んでいるが、日本刀は所持していない。
過去は祐真や綾乃と一緒であり当時赤子だった彼は綾乃と一緒に咲夜に引き取られた。
祐真や綾乃の弟として二人と同じようにならなければと思い込んでおり、強さや人のためになることをすることを望み、三千院家に引越しハヤテの指導のもと執事の仕事を習う事になる。
また知識が浅いのが災いして、人を疑うことを知らずに言われた事は何もかも真に受けてしまうくらいには純粋である。
ハヤテにはあまりに似てなさすぎて祐真や綾乃の弟なのかと一度は疑われた彼だが、それを証明するかのように祐真と同じく朝が弱く、更に寝癖がひどい。





というわけで突然のプロフィールです！
まぁリメイク前のを読んでくれてる方がいたらもう読み飽きた内容でしょうが…
ちなみに今回ネタ切れが酷すぎてとっても意味深かつ意味不明な感じで終わってますが次回は一切関係ないお話になりますので！←

ちなみに沙南、未雨は一言二言しか台詞がなかったので持ち越しです。

というわけで、また次回！
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.61 )
日時： 2013/06/18 22:36
名前： 大和撫子

どうも、大和撫子です。もとアーたん大好きです。名前変えました♪覚えてないですよね。


いやー今まで感想かけなくて申し訳ありません。自分の作品の方に気を取られてしまっていました。私の大好きなハヤアテ小説の感想を書かないなんて一生の不覚！


最近はハヤルカ系の小説が増えてきたので今こそ再びハヤアテの良さを広めて欲しいです！


感想ですが、いよいよ新キャラが段々増えてきましたね。私の頭がショートしてきました（笑）。生徒会３人組も登場してより話が広がっていきますね。そして明を気にかけている綾乃さん、可愛らしいですねぇ。最後がとっても意味深だ……と思ったら次からは関係なくなるんですか。ちょっと残念。というわけで更新楽しみにしています！
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.62 )
日時： 2013/06/30 14:29
名前： ゆーじ


ここ最近になって白皇学院ではとある噂が流れ始めた。

月照らす夜にガーデンゲートに近寄りし者、黒き影が襲う…と。




　○　○




「………はぁ」


生徒会室のソファーに腰掛ける綾乃は疲れたように紙の束を机の上に投げるように置いた。

それと同時に紅茶を入れて戻ってきたヒナギクは苦笑しながら綾乃の隣に座る。


「随分お疲れの様子ね。どうしたの？」

「……例の件だよ、また被害が出た」

「そう…」


ヒナギクは紙の束に手を伸ばし、内容に目を通す。


「いつも同じ条件よね。誰もいない夜の時計塔に近づいた生徒が襲われる…」

「最近では生徒会がやってるんじゃないかって話も出てるしな」

「困った話ね。でも確か襲われたっていうけど皆怪我はしてないんでしょ？」

「ああ、皆怪我はしてない。強いて言うなら転んだ際の擦り傷くらいだ。ただ全員が口を揃えてこう言うんだよ、大きな影がジッと佇んで睨んでくるって…」

「……大きな影って…具体的には…？」

「具体的には――」










「まるで大蛇のような、そんな影だったと全員が口を揃えて言うんだよ、ハヤ太君」

「…はぁ」


ヒナギクと綾乃が話をしている一方で、美貴と理沙、泉もまた同じ話をハヤテにしていた。

ナギが引きこもり的原因で学校に居ない日のハヤテは、この三人に絡まれることが多い。

ちなみに例によって呼び方は3人揃って『ハヤ太君』だ。


「それで、その話を皆さんはどう捉えるんですか？」

「甘いなハヤ太君。そんなの決まっているだろう？」

「動画研究部としてはこれ以上面白いネタはない。故に！我々はその影の正体を突き止める！！」

「はぁ…。それは頑張ってください…」

「ああ、頑張るよ。ただハヤ太君にも協力して欲しいことがある」

「…？　協力して欲しいこと…？」





　○　○




「…………この部屋も、ずいぶんと賑やかになりましたわね」


3人が一方的にハヤテを釣れ出した場所は理事長室であった。

アテネが座る机を前に、緊張した面持ちで棒立ちする美希、理沙、泉とハヤテが並び、アテネは紅茶が入ったカップを片手に一同を一瞥した。


「それで、ハヤテを盾にして何を聞きたいのかしら？花菱さん」

「うぇ！？」


アテネの射抜くような鋭い視線が美希に向く。

しかもハヤテを一方的に巻き込んだ上にハヤテを通してアテネから情報を聞き出そうという作戦も全てばれているのだからもうなす術もない。


「う…あ…それは、その…だから……、……ハヤ太君、代わりに頼んだ！！」

「ええ！？僕そんな詳しいこと知りませんけど！？」

「だからさっき話してたことをそのまま話せばいいんだよ！…私の代わりに！！」

「なんであなたの代わりに聞かなきゃいけないんですか！ここに何しにきたんですか！！」

「だ…だって、だってぇ…！」


自分の背中に隠れるようにしがみつく美希はすでに涙目になっている。

確かに、この張り裂けそうな空気の中、切り裂くような雰囲気を醸し出すこの学校で最も地位の高い人間を前にすればこうなるのも無理はない。

しかも屋敷内ではこんな雰囲気は皆無なのだからハヤテはため息をつかざる得ない。


「…はぁ。えっと、最近噂になってる時計塔の近くに現れる大きな影の話、知って…じゃなくてご存知ですか？」

「……………ええ、嫌でも耳に入りますわ。ただ、その事に関して私に言えることは一つしかありません」

「な…何かご存知なんですか！？」


アテネの返答に理沙が食いつく。

しかしアテネは首を横に振る。


「知りませんわ。知らないからこそ言える話だけれど……これ以上この話には関わるのを止めなさい」

「え！ど…どうして…！！」

「どうしても何もありませんわ。得体の知れないものに生徒を巻き込むわけには行きませんわ、理事長として当然の理由よ。
それに真剣に考えている桂さんや御崎さんと違ってあなた方は面白半分なのでしょう？遊びで首を突っ込んで死ぬのはあなた達よ」

「う…」

「分かったなら…さっさと帰って授業の間準備でもしていなさい！！」

「「「ご…！ごめんなさああああいっ！！」」」


アテネはドン！と机を叩き、言い放つとそれがトドメになったのか、すでに後ずさっていた美希、理沙、泉は涙目で理事長室から飛び出して行った。


「あ…！ちょっ、皆さん！！……………はぁ…」


ハヤテは溜息をつくと、口をへの字にしてアテネに向き直る。


「もー…いくらなんでも言い過ぎだよ。大体なんで学校ではそんなに仏頂面なの？お嬢さまじゃあるまいし…」

「…………最低限の人間にしか見せたくないのよ…あの子を…」

「…？　あの子って…アーたんは影の正体を知ってるの？」

「………………。…ハヤテ、事情は後で話しますわ。だから夜になったら付き合ってくださる？」

「え？う、うん。いいけど…」

「ありがとう。……ならあなたも戻りなさい。次の授業に遅れてしまいますわ」

「うん…分かった…」


それきり俯いて何も言わなくなったアテネを横目で気にしつつ、ハヤテは静かに理事長室を後にした。



　○　　○



理事長室を後にして、しばらく歩いた所でハヤテは足を止めた。

そして視線の先にある4人の人影に目を向けた。


「ううううう！怖かった！怖かったよ、ゆー君！！」

「あんな人に気に入られるとか英雄以外の何者でもないよぉ！！」

「ふええええ！」

「うるせぇ抱きつくな！うっとうしい！！」


号泣する美希と理沙と泉と、その三人に泣き付かれて心底うんざりしている祐真の姿にハヤテは苦笑する。


「すいません…なんと言いますか、色々と…」

「謝るくらいならこいつらどうにかしやがれ！」

「そう言われましても…泣いてる女の子を無理やり引き離すのは気が引けるというか…ねぇ？」

「『ねぇ？』じゃねえよ！！」

「………………。あなた達、何してるの…？」


……少し離れた位置で立ち尽くすヒナギクの登場によって、泣き喚く3人娘達はなんとか落ち着きを取り戻した。

そして理事長室でのことをハヤテが代弁するとヒナギクはやれやれと呆れたように溜息をつく。


「聞く相手を間違いすぎたのよ。天王州さんが他の誰でもないあなた達に教えるわけないでしょ？お姉ちゃんと同じくらいあなた達も有名人であることを自覚しなさいね」

「「「はい…」」」


ヒナギクの言葉に正座して並ぶ美希、理沙、泉はただただ俯く。


「桂先生と同じって…そんなに有名なんですか？彼女達…」

「初等部の頃から成績は底辺、テストも全教科赤点、なのに補習を受ける気はゼロのサボり常習犯だしな」

「………。それは有名人ですね…」


ハヤテは今更ながらアテネの対応が正しかったことを認識する。

そしてヒナギクは再び溜息をついて、時計塔がある方角へと顔を向けた。


「…これ以上、野次を増やすわけにはいかないわね…」

「ヒナギクさん？」

「…………。この話は私がなんとかするから…だからあなた達は天王州さんが言ったように関わらないこと！いい？」

「はい…」

「分かればいいのよ。じゃあねっ」


ヒナギクはニコリと3人に笑いかけると、身を翻して歩き去る。

その後ろ姿をハヤテは呆然と見つめ、祐真は睨むように見据えるのだった。





　○　　○




日が暮れ、月夜が照らす夜の白皇学院をヒナギクは歩く。

その手には木刀が握られているが、表情はどこか不安げである。


「さ…さすがにやっぱり夜の学校ってのは不気味ね…。まぁ校舎の中じゃないだけマシだけど…」


ヒナギクの足は時計塔に向かっている。

そして時計塔に近づくにつれ、彼女の顔は緊張を見せだす。


「(今日中にせめて…解決まで行けなくても、正体を突き止めるくらいはしなくちゃ…皆のためにも…！！)」

『きゃあああああああッ！！』

「…っ！悲鳴！…すぐ近く！！」


ヒナギクは木刀をギュッと握りしめ、駆け出す。

そして時計塔が見えてくると同時に躓いて転ぶ女生徒を見つけた。


「大丈夫！？どうしてここにいるの！」

「わ…忘れ物を取りに来たけど…暗くて迷って…。そうしたら…か…影が…！！」

「…！！」


女生徒の怯えきった顔にヒナギクは前を向く。

しかしそこには月夜に照らされる道しかない。


「(姿は見えない…、でもそんな短時間でどこかに行けるわけない…なら…！)あなたは危険だから逃げなさい！！」

「か…会長は！？」

「私のことはいいから！早く！！」

「……は…はい…！！」


走り去って行く女生徒の姿が見えなくなるのを確認し、ヒナギクは改めて木刀を構える。


「よくも生徒を襲ったわね…！…姿を現しなさい！！」


ヒナギクの声に反応するかのように目前にある茂みが揺れる。

風が吹いているわけでもない。ヒナギクは木刀を握る力を強める。

そして再び茂みが揺れると、その揺れと共に人影が出てくる。


「…！？(人…？それに…身長からして、同年齢の……男…の子…？)」

『………………』


少年の影は微動だにしない。

顔は影で見えずとも、その目には自分がはっきりと映っているはずだ。


「………あなたが影の正体！？どうしてこんなことするの！一体なんの目的で…！！」

『…………………だ…』

「え…？」

『――守る、それだけだ』

「…！！」


その瞬間、少年の姿が消えた。

ヒナギクが咄嗟に振り向くと、少年の姿はヒナギクのすぐ後ろにあった。


「(早――！)」

「邪魔をするなら、倒すだけ！！」

「…！」


振り上げられた足は真っ直ぐにヒナギクに向かって来る。

これは…紛れもなく、本気の攻撃ーー

その刹那、グイッと襟首を引っ張られヒナギクは倒れる。


「キャッ！…………っ！？」


倒れてすぐ見上げると、自分が立っていた場所には少年の蹴りを掴んで受け止める祐真の後ろ姿があった。


「ゆっ、祐君！？」

「……ちっ…！」


少年は舌打ちすると足を振り、祐真の手を振り払い、飛躍して距離をとる。

そして祐真もまた持っていた刀から鞘を抜き、少年に刃を向ける。


「祐君…なんで…」

「どっかの馬鹿が1人で突っ走るんじゃないかと思って来てみれば案の定だ。そんな木の棒で勝てる相手なら誰も苦労しねえんだよ、馬鹿」

「な…！何よ！私だって…！」

「とにかく、その話は後だ！今は…！！」


祐真の言葉にヒナギクはハッとする。

まだ状況が一転したわけではないのだ。

ヒナギクは立ち上がり、再び木刀を構える。


「……お前ら、今までの奴らとは違う。敵意がある」

「敵意どころか殺気がある奴に言われたくはねえよ」

「………………。俺の敵は、アテネの敵だ！！」

「え…アテネ…？きゃあ！」


少年が叫ぶと強い風がヒナギクと祐真を襲う。

そしてついさっきまで少年が居た場所には大きな影が佇み、静かに二人を見下ろす。

その月をも隠れるほどに大きな大蛇の影にヒナギクも祐真も目を見開かせる。


「…な…何…これ…。これが…噂の正体なの…？」

「…………どうやらそうみたいだな。…そりゃあ…こんなのが居たら襲われた気分にもなる」

「祐君…」

『ヒナギクさん！祐！』


声に振り向くと、ハヤテとアテネが駆け寄って来ているところだった。
　
そしてアテネは立ち止まり、大蛇の影を見あげるなり表情を曇らせた。


「ハヤテ君！天王州さんも！」

「お前らなんでこんな所に居るんだよ」

「それはこっちの台詞です！僕は彼女が一緒に学校に来て欲しいって言うから…。それより…なんですか？あれ…」

「あれが例の噂の正体よ。さっき…あいつが出てくる前に男の子が居たの。信じられない話だけど…その男の子があの大きな蛇なのかも…」

「そ…そんな漫画みたいな話が…」

「ありますわ。…そんな話がね」


アテネは大蛇の影を見上げながら口を開く。

そして大蛇に向いていた視線を地面に下ろし、小さく呟くように言った。


「………こんな事態を招いたのは紛れもなく私…。だから、あの子を止めるのも私の役目」

「そんな…何言ってるの？天王州さん…」

「アーたん…何しようとしてるの…？」

「あの子は私に攻撃することはない。だから…私に任せて」


アテネはハヤテやヒナギクに顔を向けて笑いかけると、大蛇の影を目指して歩き出す。

ハヤテやヒナギクの静止の声にも耳を貸さず、大蛇の影の下まで行くと見上げた。


「……………。あなたは、私の命をずっと守っていただけ…。私がガーデンゲートに生徒を近づけさせるなって言葉をずっと守っていただけだったのよね」

『……………』

「でも、もういい…もういいの。ありがとう…そして、戻って来なさい。……『マキナ』」

「(…マキナ？)」


ハヤテにとってその名前には聞き覚えがあった。

…奈緒がアテネを連れ戻しに来た時に聞いた名前。行方不明になっていた、アテネの今の執事…マキナ。


「えっ…嘘…！」


隣のヒナギクの驚愕の声に我に返りハヤテは前を向く。

そして先程まで嫌でも目に入っていた大きな影は元からなかったかのように消えていた。


「ひ…ヒナギクさんっ、影は…！」

「信じられないけど…天王州さんが男の子の名前を呼んだ途端いきなり消えて…」

「えっ！そ、そんなこと…」

『アテネえええええ！！』

『え！？ちょ…！そんな突っ込んで来…きゃああっ！！』


という声と一緒に人が倒れる音にハヤテとヒナギクはお互いの顔に向けていた視線を、その方向に向ける。

そして地面に倒れるアテネと、そんなアテネに抱きつく少年がそこにはいた。


「あ…アーたん、…大丈夫？」

「ええ…な…なんとか…。………もうっ！離れなさい！重いですわよ！！」

「分かった！」


アテネが怒鳴ると少年は実に潔くアテネから退く。

少年は銀髪のショートヘアに黒めの肌であり、どう見ても日本の人間ではない。

ハヤテは『まったく…』と呟きながら不機嫌そうに起き上がるアテネに手を貸しながら、少年について尋ねる。


「掴まってアーたん。………それで、その人は？」

「あ…ありがとうハヤテ。……この子はマキナ。名前だけなら奈緒に聞いたでしょう？私の執事よ」

「でも…アーたんの執事のマキナさんがなんでこんなことを？」

「それは…私が悪いの…」


目を逸らしながらバツの悪そうな顔で答えるアテネにハヤテとヒナギクは顔をしかめる。


「ハヤテに再会する前から白皇には度々来てて…その時に桂さんとも知り合いになったのだけれど…、少し他の生徒に会いたいない時というのもありまして…そういう時にこの子に来た生徒を追い払うようにと言っておいたの。それが今になってこうなるとは思わなくて…」

「まぁ…確かに追い払うのレベルは超えてるよね…」

「うう…本当にごめんなさい、桂さん…」

「べ…別に私は構わないけど…」


ヒナギクは苦笑しながら目を横にすると、見かねて既に背中を向けて歩き出している祐真に気づき、おろおろと祐真とハヤテを交互に見ると、慌てたように笑い出す。


「あ…あはは！ま、まぁこれで事件も解決したみたいで良かったわ！じゃあ私もそろそろ帰るから…じゃあねっ！」

「あ…はい…」

「ええ、気をつけて」

「うん！じゃあまた明日！」


そして祐真を追いかけるように走り出したヒナギクをハヤテとアテネは呆然と見送ると、黙りながら互いの顔を見合わせる。


「………帰ろうか」

「…ええ、帰りましょう」


ハヤテはマキナを一瞥すると、アテネに顔を向け直す。


「マキナさん…どうするの？」

「三千院さんに頼んだらまたお部屋貸してくれるかしら…」

「部屋は有り余ってるだろうし大丈夫だと思うけど…。まぁ僕も一緒に説得するから」

「ええ、ありがとうハヤテ。マキナもそれでいいですわよね？」


アテネはハヤテに笑いかけるとマキナに顔を向ける。


「ああ！それよりアテネ、お腹減ったぞ！ハンバーガー食いたい！」

「………………」

「………………えっと…財布は持って来てるから…お店寄って帰る…？」

「…ごめんなさい、ハヤテ…」


そしてその後、幸せそうにハンバーガーを頬張るマキナとそれを睨むアテネに苦笑するハヤテの三人で帰り、ナギの了承を得て、晴れてマキナも三千院家の仲間入りを果たした。





　○　○




一方、先に帰り始める祐真を走って追いかけたヒナギクはようやく追いつくなり口をへの字にした。


「もぉ。一人で帰ることないでしょ？つれないんだから…」

「別に。噂の正体を突き止めるために来たわけじゃねえし」

「……………」


ヒナギクはハッとしてからニコリと笑う。


「ありがとう、助けてくれて。…嬉しかった」

「その後先考えずに突っ走る癖直さないと、いつか大怪我するからな。絶対」

「ふふっ、その時もきっと祐君が助けてくれるから平気よ。…ね♪」

「……………。調子乗んな、まな板」

「なっ…！？だ…！誰がまな板よ！！ちょっと！待ちなさーいっ！！」


そして月が照らす夜にヒナギクの怒声だけが響くのであった。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.63 )
日時： 2013/07/22 17:17
名前： ゆーじ


波立つ音と潮の匂いのする風。

時折鳴り響く煙突の音。

一面広がる青世界。

……ああ、なんかもうどうでも良くなってきた。

どうして私はこんな氷山に当たって沈没でもしそうな豪華客船に乗って、死んだ目で海を眺めているのだろう。

それは…昨日の夜にまで遡る……。



　○　○



「はぁ？豪華客船？」

「せや。今度はドタキャンもキャンセルもさせへんで！」

「拒否権をくれ」

「駄目言うてるやろ！？自分は行かなあかんねん！行くしかないねん！！」

「はぁ…」


事の発端は突然やって来た咲夜のこの発言だ。

どうやら愛沢家のクルーズでパーティーをするらしく、それへのお誘いだ。


「ていうか…お前らの所でやるパーティーなら私達関係ないじゃないか」

「ふん。それは自分が正月の旅行ドタキャンしたのが悪い」

「はぁ？どんだけ私と旅がしたいのだ？モテモテだな私は」

「ちゃ…！ちゃうわ！……い、いや違うわけやないけど…って、そういう話してるんじゃないわ！！」

「おお、咲夜がノリツッコミとは珍しい」


顔を真っ赤にして睨みつける咲夜の無言の圧力に負けて黙る。

そして私がもう口を開く気がないと悟った咲夜はごほんと咳払いをする。


「ええか？うちは正月にうちとナギと伊澄さんと出かけようと考えた。兄ちゃんと綾乃さんと明はお留守番や。
んで！うちと伊澄さんが居ない間、兄ちゃんと綾乃さんの二人には暇を与えて家族水入らずで羽を伸ばす時間を与えてあげようと考えたわけや！！」

「まぁ綾乃はともかく明は祐真に会いたがってるからなぁ。……私には理解できないが」

「せや。だからうちらが旅行中は3人で仲良く伊澄さん家あたりでお泊り会でもさせようと思ってたんや。…どっかの誰かさんがドタキャンするだなんて言い出すまではな！！」

「………………」


咲夜の睨みに私は黙って目を逸らした。

そう言われると、断った日にやけに怒ってたのも納得が行く。


「だ…だからそれは年末にハヤテのこともあったし仕方ないのだ！そりゃあ、なんの事情も話さずに断ったのは悪いと思ってるけど…！！」

「悪いと思ってんなら今度こそうちの誘いに乗らんかい！もう借金執事も明に指導できるくらいには屋敷にも慣れたんやろ！？断る理由はない！！」

「うぐ…」

「そもそもの話よく考えてみい？あの借金執事がクルーザーなんか乗ったことあると思うか？」

「………まぁないだろうが…。何が言いたい？」


咲夜はニヤリと笑い、顔をぐいっと寄せる。


「つまり、不慣れな場所にあいつを一人にすれば必然的に誰かと一緒に居たがる。そこに自分が居たとなれば、どうや？あいつと二人で海上デートも夢やないで！」

「………！　その手があったか！！」

「せやろ？」

「ふふふ…！そうだな…豪華客船の一番前でハヤテと二人、両手を広げて抱きあうというのも悪くはない…」

「まぁそれすると後々海の藻屑となるのはアイツやけどな」

「よしわかった！その誘い乗ろうではないか！！」

「うんうん、分かればええんや。じゃあ明日、港来てなー」

「うむ！」


咲夜を送り出し、私は一人廊下を歩きながら考えに浸る。

………まったく、咲夜の奴…たまにはいい事を言うではないか。

そう言われてみれば確かにハヤテがクルーザーに乗った経験があるとは思えない。

そんな慣れない場所に来て、逆にどこに行けばいいか分からず誰かに付いて行くのが最善だと判断したハヤテが私を付いて行く対象に選べば、もれなくあいつは刷り込み後のカルガモの雛のように付いて来るであろう。

しかし、そこで満足していては状況は今と変わらない。

思えば最近のハヤテは明の指導で忙しいようで、あまり私の面倒を見てくれない。

そこは私自身が許可したことだから文句は言えない。

だが、あいつがここに来てから続いていることだが…やはりハヤテはアテネと話すことが多い。

アテネ…というかアテネ一家と、だが…。

それはやはり…悲しいが私とハヤテにはまだ距離というものがあるということだ。

だからこそ、このクルーザーのパーティーでハヤテとの距離を限界まで縮めてハヤテとラブラブにならなくてはならない！

そのためにはまずハヤテが私にメロメロにならなくてはならない。そこが難しい所だ。


「……あら、三千院さん。ごきげんよう」

「え？」


後ろから声をかけられ振り向くと、アテネと先日アテネとハヤテが連れてきたアテネの執事、マキナがそこにいた。

ハヤテは近くにはいない。


「ああ。ハヤテとは一緒じゃないのか？」

「ええ、あの子は明と一緒に居ますわ。……ところで突然だけど…ハヤテにマキナの指導もお願いしてもらおうかとわりと真剣に考えているのだけど…どう思います？」


…唐突に相談されてしまった。

相談したいのはこっちだってのに。


「出会って間もない奴のことを私に聞かれても…。そもそもお前の執事だって名乗るならそれなりに家事とか出来るんじゃないのか？」

「できても一部だけですわ。この子がハヤテのように何でもこなせるような子に見える？」

「…？」


ハンバーガーを頬張りながら首を傾げるマキナ。

まだ会って間もない上に接点なんか一切ないが、印象だけでわかることもある。


「……まぁ、見えないな」

「でしょう？箸もまともに使えないんですから…呆れたものですわ」

「失礼な！俺だって箸くらい使えるぞ！」

「じゃあ今すぐ大豆を用意しますからそれを一粒ずつ箸で摘んでお皿に移してみなさい。できる？」

「…………お、おう！できるぞ！」

「その間が全てを物語っていますわね」


アテネはやれやれと言わんばかりに首を振りながら溜息をつく。


「………確かに三千院さんに相談するのは適切ではありませんでしたわね。ごめんなさい」

「いや…別に平気だけど…。あ、そういえば明日ちょっとクルーザーに乗りに行くらしいから準備しといてくれ」

「ええ、分かりましたわ。では」

「ああ」


軽くお辞儀をしてアテネは私の隣を横切って行き、マキナは小走りでアテネを追いかける。


「アテネ！置いてくなよ！」

「置いてくどころか連れてもいませんわ。早く自分のお部屋に帰りなさい！」

「待てよー！」

「……………」


マキナが単純すぎるだけなんだろうけど…あんなに冷たくされてよく挫けないな、あいつ。

それだけアテネのこと好きなんだろうな。そういう感情ではない普通の意味で…


「…………！？」


その時、私の頭に一つのひらめきが訪れた。

好きな奴から冷たい態度を取られると…更にときめく。

咲夜が言っていた船上デート作戦に便上し、ハヤテが行き場に困って私のところに来たところで私がハヤテに冷たい態度を取ればハヤテはたちまち私のものに…！！

これはいける！


「ふ……ふふっ…ふふふふふ……」

『………………マリアさん、あなたのところのお嬢さま大丈夫？主に頭とか』

『うーん、大丈夫じゃないかもしれませんねぇ…』


後ろでマリアと奈緒に似た声が何か喋っていた気がしたが、私は構わず自分の発想の良さに笑みを浮かべながら部屋に戻るのであった。

そして翌日。咲夜達との待ち合わせ場所に到着するなり待ち構える豪華客船に下車したハヤテは目を丸くしながら見上げていた。


「実在してたんですね…こういう船って」…

「タイタニック号は実在した船だぞ」


興味深そうに船を見上げるハヤテを横目に、私は辺りを見渡す。

………咲夜め。人を呼んどいて最初に来ていないとは…全く、呆れた奴だ。

ふぅ、と溜息をついているとリムジンが一台近くで止まり、出てきた男が後方座席の扉を開けると、そこからは悪びれもなさそうに笑う咲夜が出てきた。


「ん？おー！早いなぁ自分ら！」

「『早いなぁ』じゃない！こういうのは招待した奴が一番先に来るものではないのか！！」

「いやぁ、ウチかてそうしたかったんやけどな？どーも困ったさんが駄々こねてなぁ」

「はぁ？」

「………あれ？御崎さんはいらっしゃらないんですか？」


私と咲夜が話している所でひょっこりと顔を出すハヤテが辺りを見渡しながら尋ねる。

そういえば見当たらない。兄妹水入らずにさせたいのならこういう時にこそ連れて来ればいいものを。


「いや、おるで？おるんやけど…」


そう言いつつ自分が降りてきたリムジンに顔を向ける咲夜。

私やハヤテが首を傾げていると、苦笑いをしながら一言謝ってリムジンに駆けて行った。


『……ほら、綾乃さん！そんな今更照れたってしゃーないやろ！』

『で…！ですが、こういう公の場ででもこの服である必要は…！！』

『何年それ着てると思ってんねん！いい加減慣れなアカンって！』

『や…！だめですって…！！』


どうやらリムジンに引きこもっている綾乃を引っ張りだそうとしているらしい。


「御崎さん、何かあったんでしょうか？」

「……………あ。あー…なるほど。今日は着てきたのか」

「え？」


会話の内容と綾乃の嫌がり具合で察しがついた。

そしてそれと同時に咲夜は思いきり綾乃を引っ張りだしたところであった。

顔を真っ赤にさせて、涙すら浮かべた、……メイド服姿の綾乃を。


「…！？」


隣でハヤテが驚きのあまり声を失っている。

私やマリアは何度が綾乃のメイド服姿は見ていたが、思えばこいつは初めてだったな。


「いやぁ、すまんすまん！綾乃さんがあまりに嫌がるから説得に時間かかってなぁ！」

「その説得もできていない状態で来たのか…」

「ははは！まぁそんなとこや。まったく…いつまで経っても慣れてくれないんやもん、困ったもんやで。マリアさんを見習わなきゃあかんよ？」

「うぅ…」


咲夜の説教に顔を真っ赤にしながら縮こまる綾乃。

まぁあの手の性格の奴は極端に派手なものは好まないし、マリアのあれはある意味特殊だし…嫌がる綾乃の気持ちも分からないでもない。

多分咲夜の奴も長年一緒にいるのだから察しているはずだが…まぁ楽しんでるんだろうな。呆れた奴だ。


「…はぁ。…御崎さんってメイドさんだったんですね…護衛役って聞いていましたが…」

「護衛兼メイドや。ウチにはナギで言うマリアさんみたいなのがおらへんからなー」

「へぇ…」

「でも護衛役としてはこれ以上なく頼れる綾乃さんやけど、メイドさんとしての能力は………な、感じでな！どじっ子って言うん？とにかくそんなんでな、見てておもろいねん！ははははっ！」

「さ…！咲夜さん！～～！」


咲夜を怒鳴りつつ更に顔を真っ赤にさせる綾乃。

家事や料理は元々出来る奴なのだろうが、不慣れな服があいつの能力を低下させる…ゲーム的に言えばステータスが全て低下する装備なのだろう。


「脱ぎたくても主が楽しんでるものだから脱げない。まったく哀れなものだな」

「……お嬢さまがそれを言いますか？」

「は？なんでだ？」

「いえ…。………………」


ハヤテが意味深なことを言うも、そのことにはあまり触れず、ハヤテは黙って綾乃の姿を見た。

ハッとしたようにそれに気づいた綾乃は、自分で自分の身体を抱いてハヤテを睨む。


「な…！なんだ！あんまり見るな！！」

「あ…す、すいません…」

「…………ふん。どうせ似合わないと思っているんだろ。…私だって似合ってると思ってないし、こんなのいつもは愛沢家だけでしか着てない。…外で見るのはこれが最初で最後だ」

「…そんなことないと思います。可愛くて、似合ってると思いますよ」

「……………」


微笑みながら言いきるハヤテに綾乃は目を丸くする。

そしてやがて、かぁっと顔を赤くさせると


『か…！可愛いもんかぁああああ！！』


と叫びながら逃げ出した。


「あぁ！御崎さーん！！」


ハヤテが伸ばした手も虚しく、綾乃の後ろ姿は遠ざかって行く。

そして走るのに必死すぎて前を見るのが厳かになっていたのか、一人の男の背中にぶつかった。


『あ…す、すいませ――』


ん、と言う前に綾乃は固まる。

咲夜や綾乃に気を取られていて、こいつらの到着に気づけなかった。


『………………』


そして男…もとい祐真は静かに振り向き、自分にぶつかった変わり果てた妹の姿を見るなり目を細めた。


『……何お前。その格好』

『…ひっ………ぅ…………。ぅ…ううう…！うわぁあああああ！！』


顔をトマトのように赤くさせた綾乃は、そのまま涙を散らしながら走り去って行った。

後から聞くと、綾乃はこの数年間…自分がメイドだという事を祐真にだけは伝えていなかったそうだ。


「まぁ、とにかく！そろそろ出航や！皆行くでー！」

「よぉーし、マキナ君！やることもないしこの船を巡り回るわよ！！」

「おー！」


マキナを引き連れ、奈緒が先行して船に突入していく。


「あっ！ちょっと待ちなさい、あなた達！！」


そんな二人をアテネが怒鳴りながら追いかけていく。

あいつらの関係を比喩で一家と称している私だが、手の付けられない子供に苦労している母親に見えなくもない気がする。


「やれやれ…あいつも苦労してるな…」

「あはは…」

「とにかく我々も行くぞ、ハヤテ」

「はい！」


いつもよりどこか嬉しそうな返事を背中で聞きながら、私達は船に乗り込んだ。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.64 )
日時： 2013/08/09 11:22
名前： ゆーじ


乗り込んで間もなく、船は汽笛の音と共に出港した。

その光景を見慣れた私やマリアはともかく、ハヤテは目を輝かせながら食い入るように見ていた。


「ハヤテ君。こういう船に乗るのは初めてですか？」

「はい！船は漁船くらいしか乗ったことないので…これだけ大きいと船酔いする人も少ないですね！」

「………ああいう船は少しの波でもすごい揺れますからね…」


晴れた笑顔で言いきるハヤテにマリアは乾いた笑みで返す。

こいつにはお互いに笑えるエピソードはないのか…。


「……………」


なんて暗いエピソードを語るハヤテの笑顔はまるで初めての乗り物に乗ってはしゃぐ子供のようで、……なんだなこっちまで嬉しい気がした。


「良かったじゃないか」

「え？」


だから、気づけばそんなことを言っていた。


「お前のことだ。どうせこんな船に乗るだなんて思ってもみなかったのだろう？」

「…そうですね…。こんな大きな船に乗るだなんて…想像もしなかったです」

「ふん。なら良かったじゃないか。…お前が幸せそうで嬉しいよ、私は。咲夜に礼を言っておけよ」


そう言って、歩き出す私をハヤテは呼び止めた。


「お嬢さま！」

「…？」


振り向けば、嬉しそうに微笑むハヤテが私を見ていた。


「確かに咲夜さんが招待してくれたからかもしれませんけど…連れて来てくれたのはお嬢さまです。お嬢さまがいたからです。……お嬢さまの執事になれて、心の底から良かったって思います」

「………………」

「ですから…ありがとうございますっ」


ニッコリと、純粋で素直な笑顔が私に向けられた。

ここまで感情が含まれたハヤテの笑顔を私は初めて見たのかもしれない。


「…別に礼を言われることはしてないよ」

「そんなことないですよ。…………あの、だから…もし良かったら、僕と一緒にこの船の中…周りませんか？」

「…！」

「こういう船ってどう過ごせばいいかわからなくて…歩き回ってても迷いそうですし…」


…来た！ついに来た！！

咲夜の言う通り…行き場に困って身近に居る私を頼ってきた…！

こ、ここで頷けばもれなくハヤテと船上デート…。船の一番最先端で手を広げて抱き合える。

しかし…そうした所で私とハヤテの関係はきっとあまり変わらない。私の狙いは…ハヤテが私にメロメロになること…！！

だから、ここは…ここは…！！


「……………っは、何を言い出すかと思えば…」

「え？」

「船くらい一人で回れ。私はお前と違ってこんな船乗り飽きてるんだ。今更相手が違うだけで退屈がなくなるもんか」

「………………」


………どうだ！この、完璧を通り越して殴りたくなるくらいの突き放し！！

もちろんこんなの嘘っぱち。確かに船には乗り飽きたが、隣にいる相手がハヤテなら一生船でも良いくらいだ。

ここでハヤテが泣きついてくれば私は仕方ないなぁと手のひら返して、ハヤテはそんな私にメロメロ。ネタばらしはその時でも充分可能。

さぁどうだハヤテ！惚れたか？いいや、もうすでに惚れてるから惚れなおしたか！？


「………………」


そんな期待の気持ちとは裏腹に、ハヤテは表情を曇らせて俯いた。


「そうですよね…。天下の三千院家のナギお嬢さまが、こんな庶民以下の生活しか知らない僕なんかと一緒なんて…嫌ですよね…」

「な…！」


ば…馬鹿ぁ！私の馬鹿ぁ！！

見ろ！ハヤテが飼い主に捨てられた子犬のような目になっているではないか！！

そ…そんな目で私を見るな…！！


「と…とにかく！私は咲夜達と合流する！！行き場がなくなったらそこに来い！！」

「あ…」


私は逃げるように、その場から早足で立ち去った。


「………………」

『…あっ、ハヤテさんです！』

「え？」


ナギに突き放され、取り残されたハヤテは後ろからの声に振り向く。

振り向くと私服姿の綾乃と明が手を繋いで歩み寄ってきていた。


「あ、御崎さん…明君。………着替えたんですね」

「あ…あれは忘れろっ！…もうしばらくは着たくない…一番見せたくない奴にも見られてしまった…。ぐっ…！」

「そ、そこまでなんですか…？」

「当たり前だ！！まったく…！」


確かに、あの手の性格の人間に見られる自分の恥ずかしい姿というのは普通の人に見られるより嫌かもしれないな、とハヤテは思う。

その上、それが兄であるなら尚更である。


「それよりお前は一人なのか？ナギと一緒ではないのか？」

「あう…」

「…？　なんだ？また理不尽に怒られて見捨てられたか？」

「うぅ…」

「やれやれ…」


綾乃は呆れたように首を左右に振る。

そして目を伏せて落ち込むハヤテを見て、明は提案する。


「ならハヤテさんも一緒に船を回りましょうっ。僕達二人で歩きまわってる最中なんですっ」

「そうだな…。色々聞きたいこともある、一緒にどうだ？綾崎」

「………………」


明と綾乃の二人の誘いに、ハヤテは二人の顔を見る。

明が三千院家に越して来てから、こうして綾乃と二人きりになる時間というのは恐らくこれが初めてだろう。

そんな水入らずのところに、二人の合意があるとはいえ入るというのも何だが気まずい。


「いえ、僕の事なら気にしないで下さい。一人でうろうろしてますから」

「ええっ、そんな…」

「ごめんね。でもほら、せっかく姉弟水入らずなんだしさ。…ね？」

「…そう言われてしまうと何も言えないな…。無理に誘ってもお前が居づらいことになる…。悪かったな」

「い、いや、そんな謝ることは…。じゃ、じゃあ僕行きますから」

「ああ、迷わないようにな」

「また後でお会いしましょう！」


手を振って見送る綾乃と明にハヤテも小さく手を振り返し、屋内の中に入っていった。





　○　○




「………はぁああああ…」

「…………。あんなぁナギ…せっかくの船旅でそんな深ぁい溜息つかれると、こっちの気が滅入るから止めてくれへん？」

「うるさい黙れ。他人のことなんか気にしながら落ち込む人間などいるものか」

「…出航して数分で何があったらそうなるんや…⊇


あの後、咲夜と伊澄とついでに祐真が集まっていたテラスに到着するなり私は机に突っ伏した。

頭上の方から咲夜の溜息が聞こえるがそんなことすらどーでもいい。


「やれやれ…。うちの周りの幼馴染にろくな奴はおらへんな」

「…咲夜。確かにナギは素直になれない強がりな性格だけれど、ワタル君は至って普通の子よ。そんな言い方ではワタル君が可哀想よ」

「うん、うちの言い方が悪かったわ。ろくでもないのは伊澄さん、あんただけやった」

「そんなことないわ。私も至って普通よ。そうですよね？祐さま。…ところでどうして私は椅子に縛り付けられているのですか？」


椅子に厳重に縛り付けられている伊澄はその後ろで腕を組みながら壁に寄りかかる祐真に尋ねる。

その問いかけに祐真は伊澄を睨みつけながら答えた。


「そうでもしねえと後々めんどくせえんだよ。あとお前が普通なら普通という言葉の意味を改めて見直す必要がある」

「祐さままで…酷い…」


うぅ、と声を零しながら涙を流す伊澄。

まぁ気持ちは分からんでもないが…。


「何もこんな縛り付けなくたっていいだろ…そりゃあ船上ジャックとかされたら別だけどさ…」

「そんなこと滅多にないしなぁ」

「……………ふん。滅多になくても、必ず今日この場では起こらないとは言い切れないみたいだけどな」

「へ？」

「それってどういうーー」


そう、言いかけた途端だった。

パァン！！と銃声が船上に鳴り響いたのは。


『おい、テメーら手ぇ上げろ！！』

『今からこの船は俺達が占拠した！！死にたくないなら俺達に従いなぁ！！』


男達の怒号とそれに似合った乗客達の悲鳴。

私と咲夜は席から立ち上がり、下から聞こえるその声を見下ろした。

覆面をかぶり、銃を突きつける男が4人。

きっと客に紛れ込んで出てくるタイミングを見計らってたのだろう。

しかし私も咲夜もそれを見てもなんとも思わなかった。


「なんや、随分とお約束な展開やな…」

「あいつら乗り込んで占拠する船間違えたな…」

「身内だけでも最低3人はあんなの蹴散らせるのおるからなぁ」

「そうだな…」

「…………で？あいつらはどう処理するべきだ？」


面倒くさそうに頭をボリボリと掻きながら蹴散らせる身内その1が尋ねる。

その問に私と咲夜は顔を見合わせる。


「あそこで片付けておいた方が後が楽だろう。変な仕掛けされんのも厄介やし」

「せやな。兄ちゃん、気絶以下やで！」

「ちっ…めんどくせえな…」


悪態をつきつつも、祐真は軽やかにテラスを飛び降りていく。

そして客を脅すのに気を向けていて、その背後に降り立つ祐真に気づかない男達の姿を見た所で私と咲夜は溜息をひとつついた。


「ま、これでトラブルの種はなくなったな」

「せやな。あの様子じゃ兄ちゃんだけでも安心や」


そして、改めて男達の行く末を見下ろした。


「おらぁ、そこの！死にてえのか！早く大人しくしやがれぇ！！」

「お前らがな」

「あ？」

「え？」


祐真は男二人の頭を鷲掴みにすると、そのまま勢いよく2つの頭をぶつけた。

頭をくっ付けながら倒れ行く男二人に気づいた残りの男は銃を構えるも、祐真はその構えたばかりの男の銃を蹴り飛ばし、がら空きになった男の腹部を蹴り飛ばす。


「はっ、雑魚が」

「て…てめぇ…！！」


残された男一人は、祐真とは反対方向に立ち恐れと怒りが混じった顔で祐真に銃を向ける。

自分に向けられた銃口にも動じず、祐真はジッと男を睨みつける。


「あ…あんまり調子に乗るんじゃねえぞガキ…！！こっちには指一つ動かせばお前の命くらい簡単に奪えんだ…！！」

「へぇ…じゃあやってみろよ」

「な…！」

「指一つ動かせば殺せるんだろ？ならやれよ。じゃないとお前らの作戦、開始5分で失敗に終わるぞ？」

「そ…それは…」

「ほら、やれよ」

「ーーまぁ、やらせはしないがな」


凛とした声の主は、男の首元に添えられた日本刀と共に現れた。


「お、綾乃さん！」

「お前らの悪事もここまでだ。大人しく降伏しろ」

「そういうわけだ。下手に抵抗するとさっくり行くぜ？…………首が」

「ひ…！ひぃいいい！！」

「流石にそんなことにまでなるか！」

「勢い余ってってこともあるかもしれないだろ」


頭を抱えてしゃがみ込む男を挟むように、蹴散らせる身内その1と2が物騒な内容で口論する姿を私達は呆然と見下ろす。


「ナギさんっ、咲夜さんっ」

「…明。お前らいつの間に来たのだ？」

「はい、姉さまと二人で歩いていたら銃声と声が聞こえたので急いで来たら、こうなっていて今に至りますっ」

「そうでなきゃこうはなってないからなぁ。ま、とりあえず事情聴衆と行こか」

「うむ」


私と咲夜、そして明は既に紐で縛られた男達4人のもとに向かい、囲むようにして男達の目覚めと自白を待った。

しかし男達は喋る気配を見せない。祐真は持っていた日本刀を抜刀し、男の目の前で床に突き刺した。


「ひいいい！！」

「おい、この床のようになりたくないならさっさと吐け」

「脅してどうする！！」

「駄目ですよ、兄さまっ！」

「短気ってレベルじゃねーよ…」

「ま、今更な話やな」


小刻みに震える男達から一旦祐真を離し、改めて男達に問い詰める。


「で、お前らは何用でこんなことしたのだ？」

「う…噂を聞いただけだ。大富豪のお嬢さまを泣かせば膨大な遺産が手に入る。そしてそいつが今日この船に乗ることが分かったのさ」

「なるほど。遺産目当てってことか」

「でも誰がその『お嬢さま』かまでは分からないみたいやな」

「それは…！た…確かに分からないが…情報には金髪のチビだと…」

「恐ろしいほど正確な情報だな」

「うるさぁーい！誰がチビだ誰がぁ！！」

「ま…まぁまぁ落ち着けナギ。どうせもう、こいつらの作戦も失敗や」


羽交い締めにする咲夜から手を振りほどき、腕を組んでそっぽ向く。


「確かにそうだな。あとはハヤテが戻ってくれば、こいつらを海に突き落とすなりなんなりしてもらおうではないか」

「いやいや死ぬて」

「ふ…ふふふ…あーっはっはっはっ！！」


突然笑い出す男達に私達は目を丸くする。

こいつら、何を考えている？


「ふふふ…我々の作戦が失敗？残念だったなぁ！まだ終わったわけじゃない！！」

「な…何を…！！」

「俺達を捕まえた所で時間は動き続ける…！捕まっても時間さえ稼げれば俺達の作戦は成功なんだよ！！」

「…！　ま、まさか！！」

「ショータイムの始まりだぁ！！」


男の掛け声と合わせるように、ドォン！！と大きな轟音と共に船が大きく揺れた。

揺れが収まるなり、祐真はズカズカと歩み寄り男の胸ぐらをつかむ。


「おいてめぇ、何しやがった！！」

「見ればわかるだろう？時限爆弾ってやつだよ。地下の貨物庫に仕掛けさせてもらったのさ」

「ち、地下！？じゃあ…！！」

「そう！今頃は爆発で開いた穴から海水が入り込んでいる！！これだけ大きな船だ、何時間で沈むかなぁ？」

「な…！」


こいつら、ただ遺産目当てに侵入してきた馬鹿じゃない。戦闘的に弱いからと油断をしていた。

しかし、まだ怪我人がいないだけマシな方だ。地下の貨物庫なんかに自分から足を踏み入れる奴なんている訳がないのだから。


「そいつはどうかな？」

「…っ！………どういう意味だ？」


ニヤニヤと笑いながら答える男。

嫌な予感がする。そんなはずはない。あってたまるもんか。


「俺達が行動を開始する前に、女が一人誰かを探すように貨物庫に入っていったのを確認している。…お前のように金髪の女だ」

「金髪の…女…。………まさか、アテネ…？」

「そして、その後に…その女を追いかけて入って行った男が一人居た。大方、貨物庫なんかに入る奴を不思議に思って追いかけたんだろうなぁ。…執事服を着た…丁度お前達と同い年くらいの男だったよ！」

「…っ！！」


身体に槍が刺さった気分だった。

執事服を着た16歳前後の男……間違いなくハヤテだ。

あいつは貨物庫へと降りていくアテネを追いかけて地下に…。

そして、今の爆発は地下の貨物庫で起こったもの。


「あ…あぁ…！！」
　
「あの爆発を直に食らって無傷でいるわけがねぇ！たとえ無事でも入りこんだ海水で、どのみちお陀仏だ！！ははっ、まぁ反応を見るに大体誰の執事かは予想がつくけどなぁ！！」

「……！　ハヤテ……ハヤテっ！！」

「ナギ！どこに行くつもりやっ！ナギ！ナギぃー！！」


咲夜の声など聞こえなかった。

ハヤテが危ない。それだけが私の頭を満たし、そして駆り立てた。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.65 )
日時： 2013/08/29 13:04
名前： ゆーじ


いつものようにお嬢さまを怒らせてしまったらしく、突き放されて一人になってしまった僕は案の定広くて豪華な船の中で迷子になってしまった。

彷徨うように歩いていたところで下り階段がある部屋に入って行くアーたんを見つけたんだ。

あの様子だと奈緒さん達はまだ見つからないようだ。

どっちにしても折角見つけた知り合いだし、アーたんなら船の構造も理解してるだろうと僕はアーたんを追いかけて地下への階段を下りた。

地下は貨物庫だったらしく、大きな貨物が沢山並んでいた。

そんな中で辺りをキョロキョロしながら歩くアーたんを呼びかけた。

アーたんは驚いたように、ゆっくりと顔をこちらに向ける。

そして僕と彼女の目が合ったところで、僕の視界は真っ白になった…。



　○　○



『て！………………やて！……………ハヤテ！！』


まるで洪水でも起きているかのような水が流れる轟音と一緒に聞こえる誰かの声に目を覚ます。

どこか朦朧とする意識の中、起き上がり目の前に広がる光景を見て愕然とする。

さっきまで貨物庫だった場所は海水が既にかなり流れこんできていて、あの重そうな荷物も簡単に流れてしまっている。


「な…なんでこんなことに…」

「は…！ハヤテっ！」


背後から聞こえる声に振り向く。

そこには大きな荷物の上に座り込んでいるアーたんの姿があった。

アーたんが乗っている荷物は他の荷物と突っかかっているためか水の流れに乗ってはいない。


「あ…アーたん！なんでそんなところに！！」

「この貨物庫に爆弾が仕掛けてあったみたいですわ。私とあなたが会ったと同時に爆発したの。壁には穴が開いてこの通り海水が大量に流れこんで来ていますし…この船が沈むのも時間の問題よ」

「そ…そんな…」

「私は爆発で飛ばされて運良くこの荷物の上に落ちたからいいけれど………って私のことはいいですわ！それより問題はあなたよ！！」

「え？」

「だ…だって、あなた…！！」

「………………」


そういえば、なんだかさっきから頭から顔にかけて何か生温かいものが張り付いてる感覚があったのを思い出した。

やけに慌てているアーたんに首を傾げつつ、その張り付いた何かを手で触ってみると手にも張り付いてしまった。

何やら液体のようなそれを、僕は手のひらを広げて見る。

広げた手のひらは、生温かい…己の体から出ている血液によって真っ赤に染まっていた…。


「…………………え…。ええええ！？な…！なにこれ！なんでこんな…ち、血が…！？」

「あなた…きっとさっきの爆発をもろに食らったんですわよ！よく見たら体中ボロボロですし…。たぶん立っているのが信じられない程度には怪我してるんじゃ…」

「ま…まさか！だってそんな怪我だったら今こうして立ってるわけーー」


そう言ったところで、酷い目眩が襲いかかる。

…今、間違いなく意識が一瞬飛びかけた。知った途端に、というやつかもしれない。

でも、今倒れてしまったら彼女を助けられない。


「…っ、……それよりアーたん！そんなところに居たら危ないから、こっち来ないと！」

「…そう、ですわね…。今頃救助船の連絡もしてくれているでしょうし…今そっちに行きますわ。早くあなたの治療に行かないと！」


アーたんは海水で不安定に揺れる荷物の上でよろめきながら立ち上がる。

しかしそれと同時にアーたんが乗っている荷物と流れて来た荷物がぶつかり、その衝撃でバランスを崩したアーたんは身体を投げ出された。


「…っ！」

「アーたん！！」


彼女が海に落ちるのと、僕が海に飛び込んだのは同時だった。

海水のおかげで余計に痛む身体に鞭を打ち、ひたすらアーたんのところまで泳ぐ。

そして少し泳いだ所で、ロングスカートのドレスのせいか泳ぎ難そうにしているアーたんを見つけた。


「(見つけた…！)…………っ！！」


しかしその奥では爆発した穴から入ってきた大きな鮫が、彼女に近づいてきていた。


「…！」


アーたんも鮫の存在に気づくが、それと同時に鮫が彼女を食べようと大きな口を開けていた。


「(そんなことさせてたまるか…！！)」


すべての力を振り絞り全速力で泳ぎ寄り、そして力の限り鮫を蹴りつけアーたんから離す。

そしてアーたんはどんどんと水の流れに乗って、水面に浮いていく。

あの方向は降りてきた階段があったところ。そこまで行けばきっと大丈夫だろう。

僕も早く行かなくちゃーー

そう思う意思とは裏腹に体はまったく力が入らなかった。

あ…そうか。僕、怪我してたんだった…。

そうして意識は沈んで行った。



　○　　○



広い船内を走り、ようやく貨物庫へと続く階段を見つけた。

階段に出るなり、景色は一変しまるでプールのように海水が流れ込んでいた。

ここにハヤテとアテネがいる。私はすぐさま階段を駆け下りた。

降りた所で、海から出てきたらしく全身びしょ濡れになって四つん這いになりながら咳き込むアテネを発見する。


「アテネっ！お前、大丈夫か！？」

「けほっ……っはぁ……、……三千院…さん…？」

「お前も爆発に巻き込まれたんじゃないかって心配して…そんなに怪我がないみたいでよかった…。それよりハヤテは？あいつもここに居たんだろう？」

「はやて…。…っ！…そうだ、ハヤテ！！」


アテネはハッとしたように、入り込んできた海水に顔を向け、辺りを見渡す。

しかしあるのは流れている荷物と海水だけ。


「…そんな…まさか…あの子…！！」

「おい…どうしたのだ？」

「……………私と違って、あの子は爆発をもろに受けたの。だから体中ボロボロ…。なのにあの子…海に落ちた私を助けて…きっとそれで力を使い果たして、泳ぐ気力もないんだわ…」

「…そんな…！じゃあ早く助けに行かなきゃ！！」


海に飛び込もうとする私の腕をアテネは掴む。


「ここには鮫が迷い込んでるの！私もさっき食われかけた…！入ったら鮫の餌食よ！！」

「そんなのハヤテも同じじゃないか！あいつは血も流してる分、余計に狙われる！！」

「そうかもしれない…でもあなたを危険に巻き込むわけには行かないの！！」

「じゃあどうすればいいんだよ！このままハヤテを見殺しにするのか！？」

「それは…」

「私のせいなんだよ！私が…！私が変なこと考えてハヤテを突き放したから…！！だからこんなことになったんだ！！こんなことでハヤテが死んじゃったら…私…！」

「…あなた……」

「お願いだよ…誰でもいい…。誰でもいいから…。私を鮫の囮にしてもいい…だから…！あいつを…ハヤテを助けて…！！」

「ーー任せて」

「…え…？」


後ろから誰かの声がして振り向いた頃にはもう誰もいなくなっていた。




　○　　○




落ちていく。

ただただ暗い底に落ちていく。

もう体は動かないし、動かそうという意思もない。

体の痛みも、息苦しさも何も感じない。

きっとこれが死ぬ直前の感覚なのだろう。

………見れば、さっき精一杯の力で攻撃した鮫がこっちに向かってきていた。

そりゃそうだよな。水の中で、しかもこんな死に損ないの蹴りにそこまでの威力があるとは思えない。

それでも、アーたんを助けられるたなら良かったのかもしれない。

お嬢さまに謝れなかったのは…心残りだけど。


「…………」


目を瞑ろうと、細めた所で近づいてきた鮫が突然何かがぶつかったかのようにくの字に曲がった。

その丁度曲がったところには何かが見えた。

………あれは…人影…？

その人影は鮫を様子を見るかのように、静止している。

そして僕の体はいつの間には何かに包まれるような感覚のまま、勝手に浮き上がっていった………。













「…………ぷはぁっ！！」


聞こえたのに居ない声の主に呆然としていると、突然目の前で見覚えのある面子達が海水から顔を出した。

その顔に私よりもアテネが目を丸くして驚いていた。


「な…奈緒！？それにマキナも！貴方たち、今までどこに…！！」

「そんなこと今はどうでもいいでしょ！？それより今はこっちよ！！」


奈緒は少し体を傾けて、ぐったりしている様子で気絶しているハヤテを見せつけた。


「っ！ハヤテ！！」

「マキナ君、先に上がってハヤテ君を上げてくれる？」

「おう！」


奈緒の指示に頷いたマキナは素早く陸に上がり、奈緒が背負うハヤテを引っ張りあげ、地面に寝かせた。


「ハヤテっ！起きろ、おい！！」

「ハヤテ…！」


私とアテネはすぐに膝を付いて呼びかけるも、ハヤテが起きる気配はない。

遅れて上がってきた奈緒が髪を搾りながら、私達と同じように膝をつく。


「海水を相当飲んでる。自分で吐き出す力があるなら、そろそろ吐かないと…」


奈緒がそう言った途端、ハヤテが咳き込みながら大量の海水を吐き出した。

そして何度かそれを繰り返したところで、ハヤテはゆっくりと目を開けた。


「………お嬢…さま…」

「ハヤテ…！ハヤテぇ…。うう…！」

「お嬢さま…なんで泣いてるんですか…？」

「だって…だってぇ…！」

「……感動に浸ってる暇はないわよ。ちんたらしてたら皆まとめて鮫の餌なんだから」

「それもそうですわね…早く上に行きましょう！」


涙を拭いながら言うアテネに全員が頷く。


「じゃあマキナ君。悪いけどハヤテ君お願いね」

「おうっ！」


マキナがハヤテを背負った所で、私達は階段を駆け上がり、そして地上に出た。

そこにはもう避難がし終わっているらしく人の気配はなく、代わりにマリアが一人立ち尽くしていた。


「マリアっ！？」

「あっ…ナギ！それに皆さんも！」

「お前…なんでこんな所にいるのだ！！」

「だってハヤテ君も天王州さんも皆が居ないのにあなたまで居なくなって…一人だけ安全なところに居れるわけないじゃないですか！」

「それは…」

「とにかく私達以外の人はもう全員避難し終わっています。ハヤテ君の治療もありますし、早く救助船に！」

「う、うむっ！」


こうしてすぐさま救助船に乗り込み、ハヤテは待機していたドクターに任せ、私とマリアは沈んでいくクルーザーを眺めていた。


「幸い大きな怪我人はハヤテ君を除いたら居なかったそうです。そのハヤテ君も2、3日は安静みたいですけど、そこまで酷い怪我でもなかったそうで…今は治療も終えて寝てますよ」

「…………私はハヤテに悪いことをしてしまった。あの怪我も元を辿れば私のせいだ…」

「ナギ？」

「ハヤテは…怒ってるかな。私のこと」

「………………」


マリアは小さな声でフフっと笑うと、私を包むように後ろから抱きしめた。


「じゃあハヤテ君は、あなたがした事に対して怒るような人に見えますか？」

「……あいつの性格を考えると、怒らないかもしれない…。でも表面では笑ってても内心ではとっても怒ってるかもしれない…」

「あなたはいつも理不尽にハヤテ君のこと怒りますから色々溜まってるものがあるかもしれませんね～」

「うぐ…」


マリアの言葉は嫌というほど突き刺さる。

確かにそうだ。そしてそれの積み重ねがあんなことになったんだから。


「反省してますか？」

「し…してるよ…。今回ばかりは、本当に…」

「ふふっ。じゃあここで一回ちゃんと謝って、それで一旦リセットしてもらいましょう？」

「…うん」

「その上ちゃんと明日からの学校も行けばハヤテ君も喜びますね」

「うっ………ぅん…」

「あらら？声が小さくなりましたね～。これじゃあハヤテ君も許そうにも許せませんね～」

「うー！マリアのばかぁ！！」


そうして、涙ながらの私の叫びは波の音に掻き消えるのであった…。
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Re: -hope-君に笑顔を、あなたには幸せを ( No.66 )
日時： 2013/08/29 20:58
名前： ささ

はじめまして、ささです。
ひなたのゆめの方も読みましたが、こちらもなかなか味がありますね。
いくつか、コメントしていきます。
1　流石奈緒、的確な判断でハヤテを救出するとは。
２　マリアさんにダークオーラが…マリアさんがくる前に撤収します。
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