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バンデロールの天使の手錠 第2話更新
日時: 2013/05/16 21:46
名前:
S●NY
たとえばその腕輪を使えば、親しくなりたい人と今まで以上に仲良くなれるだろう。
たとえばその腕輪を使えば、意中の相手と心を通わせることができるだろう。
たとえばその腕輪を使えば、心は縛れずともその身体は手に入る。
『バンデロールの天使の手錠』
瀬川泉が、あれ?まずかったかな。と思ったのは、既に虎鉄が動画研究部の部室に、泉の忘れ物をとりに行ったすぐ直後のことだった。
昨日、お気に入りのポシェットを部室に忘れたのを、今しがた思い出した。
虎鉄に話せば、すぐに取ってくると嫌な顔ひとつせずに走っていったのだが。
おそらく、現在部室は使用禁止となっている。
昨日、部長である橘ワタルから、明日の部室は牧村先生の実験のために使用できない。という旨を聞いていたのだった。
しかし、虎鉄は既に遥か遠く、視界にすらもう入らない場所まで走っていってしまった。
まぁ、部室に入れなかったらまた後日取りに行けばいい、もしもお邪魔できたのなら、中のポシェットを取ってくるぐらいは牧村ちゃんも許してくれるだろう。
それは、まぁいいのだが。
一番まずいのは、誰かがあの中身を見てしまうことだ。
泉にとってそれはすごくまずい。
もし、後日取りに行くことになって、美希や理沙が自分より先にポシェットを見つけたとしたら。
考えるに恐ろしい。
虎鉄は中身を見ないだろうか。
さすがに、あのポシェットは家でも何度も見ているはずだ。見ればすぐに持ち主が誰か分かる。わざわざ中身を確認することもない。
……たぶん、ないはずだ。うん、きっとないだろう。
とりあえずは、部室が開いてないかもというメールと。
一応、中身の確認はしないで欲しいというメールを送ろう。
泉は、鞄から携帯電話を取り出すと、素早くフリックして虎鉄に向けて送信した。
さて、後は兄が戻ってくるまでどこで暇をつぶしていようか。
できれば、あまりこの場所を動かないほうがいいだろう。
今頃全力疾走しているであろう兄を思って、近くのベンチにでも腰掛けていようか。
そう思って近くのベンチに向かったのだが、そこにはすでに先客がいた。
さて、その少女はとても可愛らしい、と泉は思う。
自分は彼女の事をお友達だと思っているが、向こうはどう思ってくれているだろうか。
できれば、ただの他人よりももう少し進んだ関係だと思ってくれていればうれしいな。
彼女はいつもどおりの不機嫌そうな顔で、鮮やかな金色の髪を二つに結んで、そうまるでお人形さんみたいに、ちょこんとベンチに座っていた。
しかし、ほんの少しの違和感がある。
いつも一人でいる時、決して携帯ゲーム機を手放さない彼女が黙ってつまらなそうに座っているのは、珍しい。
何かあったのだろうか。
今日は、執事くんもいないのかな?と、少し残念に、いや疑問に思いながら、泉はゆっくりと少女の座っているベンチへと近づいていった。
★
瀬川虎鉄は携帯が震えると同時に、ポケットから素早く取り出し内容を確認しようとした。
もちろん、走るスピードは緩めない。
妹いや、お嬢の忘れ物に気がつけなかったのは、自分の失態であったし、それは執事としても実に二流な行いだった。
すぐに走り出したのは、確かに泉の大切なポシェットを急いで探そうという気持ちもあったのだが、自分の不甲斐なさに少し悔しかった思いもある。
う〜む。近頃の自分は弛んでいる気がする。
まぁ目下、とりあえずは忘れ物を早く見つけ、お嬢の元へ届けよう。
それで失態がチャラになるわけではないが、執事としてフォローは完璧にこなさなければならない。
よしっと気合を入れて、もう一段階走るギアをあげていく。
身体に当たる風がよりいっそう強くなり、景色はびゅんびゅんと後ろへと押し出されるように流れていく。
風か……。
その単語で、ふと1人の人物が脳裏に浮かびそうになる。いやまてまて。
近頃自分は弛んできていると、いま先ほど反省したばかりではないか。
先の今で自分は何をやっているのかと、かぶりを振って邪念を吹き飛ばした。
ふぅ。さて、それはそれとしてお嬢からのメールの内容はなんなのだろう。
まさか、他にも忘れ物があるわけではあるまいな。
ちょっと不安に思いながら受信BOXを開くと。
「……なんだそりゃぁ」
脱力してしまった。
部室が開いてないかもときたものだ。
そういうことは、先に言ってほしかった。と思って、ああ、自分がいきなり走り出したからか、とすぐに反省する。
最近の自分はどうやら、とことこん集中力に欠けるというか。
いつも以上に失敗をしてしまうことが多くなっているように感じる。
事実、多くなっているのだが。
というのも、最近の虎鉄は物事に集中できていない。
過去の自分は、もっと張り詰めていたと自分でも思うし、周りからも最近は丸くなったとそういわれる。
実際は、別に丸くなったわけでも、鋭い目つきがやわらかくなったわけでもない。
少しの暇な時間があれば、いや、なくともか。ポーっとしていることが増えてきたのだ。
妄想のしすぎでよだれを垂らしたこともある。
というのも、考えるのはある1人の人間のこと。
ひな祭り祭りの夜、目の前に舞い降りたエンジェル、天使、アンジェ。ああ、もうなんでもいい。
自分は、あの日に本当の恋を知ったのか。そうなのか。
眼を瞑れば、すぐにでも思い浮かぶ麗しのあの姿。
空色の髪に、澄み切った青い瞳と、蔑んだ冷たい目線。中性的で端整な顔立ち。ハスキーな声。
「ああ、なんて美しい。……って、むっ!?」
と、つい妄想の中にトリップ仕掛けていた頭と、先ほどのメールのせいで脱力しきった足が、『それ』を眼に捉えた瞬間に覚醒していった。
右足のつま先が地面を抉るほど踏みしめ、縮まった筋肉が一気に伸びるとともに、重心が前へ前へと移動する。
眼前のただ一点に向かって、突貫するように駆けてゆく。
気が付くと、両の手をいっぱいに広げていた。目標に向かって一直線にダイブ。
まさか、こんな偶然があるだろうか。やはり二人は赤い糸で繋がっていたのだ!
LOVELOVELOVEだ!
すぐに行くぞ!今すぐ抱きつくぞ!!さぁ結婚しよう!!!
「綾崎ぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
「あああああああああああああああああああああああ、くるな変態ぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
動画研究部の部室の前、困ったような憂いの表情をみせて腕を組んでいた綾崎はまさに天使。
虎鉄を見たとたん金きり声を上げて右足を大きく振り上げるが、ああなんて耳に心地よい声なんだ。
たとえるなら、アントワープのノートルダム大聖堂の鐘の音のようだった。
振り上げられた、その見るからに華奢な足からは考えられない脚力を持つその右足だって、とても魅力的だ。
ああ、その脚力の秘密が知りたい。だからちょっと執事服をめくってもいいですかね。
そしてぺろぺろしてもいいでしょう?
「ふははははははは、綾崎のおみ足から繰り出される蹴りなど、もはや褒美!!さぁどこを蹴る?顔か?頭か?鳩尾か?脇か?腎臓か?ちょっと恥ずかしいけどアソコだっていいんだよ。さぁハリーハリーハリィィィィアァァップ!!!」
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ、き、気持ち悪いっ!!」
そうやって極限まで歪めた顔も可愛いじゃないか。なぁ?
そんなことを思っていると、綾崎は振り上げた右足を虎鉄の方ではなく、地面に向かって思いっきり蹴りつけた。
その反動で、横っ飛び。
あ。
「なんでよけるんだよぉぉぉぉぉぉぉ」
「触りたくないからですっ」
あと少しで接触というところで、むなしく虎鉄の両手は空をきる。
しかし勢いは止まらない。
目の前に広がるのは、映像研究部の部室への扉で。
どかんっ、と鈍い音がして、つづいて虎鉄は四方八方へ頭をぐるぐる回転させられた。
地面を何度も体が転がり、世界が反転した形で最終的に止まったのだった。
お尻を天を向けながら、まだ霞む眼で周りを見ると、ここは部室の中だった。
「あ、鍵開いた」
鍵は開いたわけではなくて、扉を壊したんだがね。
部室の外から聞こえてきた天使のような声に、虎鉄は心の中で訂正した。
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『「バンデロールの天使の手錠」、前編となっております。こちら短編小説ですのであの1、2回で終わりを迎えます』byS●NYです
久々の続きものです。たぶん1週間単位での更新になるとおもいますので、ご了承ねがいたいです。
遅筆なので、申し訳ないです。本当に。
タイトルの意味は『バンデロール 天使』でぐぐれば分かるかとおもうですが。
タイトルに反して、さほどシリアスにはならないかと。
虎鉄は好きなキャラでも上位に入ります。書いてて面白いですね。
まぁ、そんな僕にとっては珍しいドタバタものになります。
それでは、次回更新がんばります。
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Re: バンデロールの天使の手錠 (ハヤ虎鉄)
( No.1 )
日時: 2013/05/22 22:11
名前:
名無しのゴンベエ
「いやー、部室の鍵はこのとおり職員室からお借りしてきたのですが、なぜか錠を回しても開かなかったので困っていたんですよ」
チャラリと音をたてたのはハヤテの右手にある鈍い銀色の鍵で。
それを上着の右のポケットにしまいながら、部室の中へと足を踏み入れる。
「牧村先生の実験とやらが関わっているのかどうか知りませんが。変態が突撃しても扉は壊れなかったみたいですし、よかったですよ」
その言葉に虎鉄は、おや?と先ほど自分が蹴破ったであろう、部室の扉を確認する。
観音開きの扉は、虎鉄がぶつかった場所にほんの少しの凹みができている。
なるほどしかし、それ以外は何の問題もなく左右の扉は壁に蝶番で頑丈に止められていた。
あれだけの勢いでぶつかったのに。
また不思議なことに、虎鉄の身体には扉にぶつかった時の痛みがほとんどなかった。
肩から少々鈍痛がするのは、部室の床を転がりまわった拍子のことだろう。
「でもおかしいですね。内側にもう一つ鍵でも掛けられていたのか思ったんですが、そういうわけでもないようですし……」
ならば、´つっかえ´の様なものでも扉に掛かってしまっていたのだろうか。
虎鉄は考える。いや、違う。
部屋を転がりまわった時、そのような´つっかえ´になる物には当たらなかった。
それに、扉の不自然に浅い凹みといい。これではまるで扉が自分から―――
「いや、そんなことよりだ綾崎。なんで部室なんかの鍵を持っているんだ。お前も何か探しものか?」
「ええ、そんなことよりです変態。こっちに頬を染めながら近づいてこないでください、まだ死にたくないでしょう?」
虎鉄が質問すると、ハヤテは三歩ほど後ろに下がる。
それをみると無意識に歩を進めていた虎鉄の足が、止まった。
そこでようやく、ハヤテの引きつった顔が、元に戻る。
「ナギお嬢様が昨日PNPをここに置いてきてしまったというので、取りに来たんです。僕も、ということは変態も何か探しているんですね」
「ああ、俺はお嬢のハンドポーチを探しに来たんだがな」
そういいながら、二人は部室の中を見回す。
牧村先生の実験ラボに変わっているこの場所で、もし変なものに触ったりしたら大事だ。
すると部室の一番奥。
普段プロジェクターを映す場所に、大きな鉄の塊のようなロボットが鎮座しているのが目を引いた。
今微かに動いた気もするが、気のせいか。
「これが、牧村先生の実験か?」
「何度か見たことのあるロボットですね。今は動かないみたいですけど、変に触るのはよくないですよ」
「うーん。でもこいつかなり頑丈に作られているな。素材がわからん。なんだこれ?」
「触るなっていったのに。って、ん。ありました」
ハヤテはそういって机に近づく。
美希や理沙、泉の個人的な所有物が乱雑に置かれている中、小型の携帯ゲーム機があった。
PNPのカバーはない。それはナギが持っている。
昨日はなにやら楽しそうに生徒会の3人組と遊んでいたので、うっかり中身だけここに忘れてきたのだろう。
ハンカチに包んで、左のポケットへ。
「それにしても、あのお嬢様がゲーム機も無しによく一日我慢できたな」
「ムラサキノヤカタに住む前なら通販で直に新しいものを頼んでいたんですがね。最近はそういったこともしていませんよ」
「へぇ、てっきり怖ーい家政婦のおばさん……って、ん?いたよな、メイドさん。うろ覚えなんだが。その人に無駄遣いはするなって止められているのかと思っていた」
「あなたがどうなろうと正直どうでもいいですが、僅かな良心が痛むのでいいます。それ以上いけない」
顔面蒼白のハヤテをみて、虎鉄はどういうことだ?と首をかしげる。
本人を見たことはないのだが、凄腕のメイドが三千院家に使えていることは、風の噂で知っている。
その人が物凄く怖いこともだ。
そんな凄い人なら、さぞや年季の入ったベテランに違いない。
「ごほん。とにかく、お嬢様もだんだんそういった我侭を言うことも少なくなってきたということです。昨日は千桜さんと一緒にPN3をしていらっしゃいましたよ」
「そうかぁ。いいなぁ、俺もムラサキノヤカタに住みたいなぁ、お嬢もそこに住まないかなぁ、俺も執事として働くんだがなぁ、綾崎と一緒に家計を切盛りするんだがなぁ、朝は一緒に昼食の下ごしらえをして、朝ごはんを作りながら、すると綾崎が俺に言うんだ「みんなを起こしてきてください」いやこれもう熟年夫婦のそれだよね、子供たちを起こしてきてくださいあなた的なさ、そんでもって学校いくついでに「ネクタイ曲がってますよ」とか何とか言っちゃって、顔近いぜ恥ずかしいだろ、みんなが見てる、んでんで一日が終わったら、みんなが寝静まった跡に、深夜にはふ、ふ、ふふ風呂だな。いいい一緒にどうだ?背中流すぞ?ハァハァ」
「きもちわるすぎる」
ばさりと。
ハヤテは苦虫をつぶしたような顔でポツリとつぶやくき、また一歩後ろに下がった。
その顔からは嫌悪感がありありと浮かんでおり、その表情からも分かるように、できるだけ目の前の´もの´から距離をおきたいと思ったのは分かる。
分かるのだが。
下がった先には机がある。
そして、ハヤテはその時あまりに気持ちが悪い奴が目の前にいたので失念していたのだが。
左のポケットにはPNPが入っている。
さらに机の高さはちょうど腰の位置に。
かこん、と左のポケットから硬いものが机にぶつかる音がした。
ああっ、まずい!!
PNPにカバーはなく、むき出しだ。ソレを机の角に当てたりしたら。
ハヤテは音がした瞬間、慌ててポケットからPNPを取り出そうと手を突っ込んだ。
カチリ。
と、その時スイッチの入る音がした。PNPの横についている、電源を指が掠めたのか。
ああ、しかしよかった。PNPには傷一つ付いていない、これでお嬢様にも顔向けできる。
刹那。
ぐわんっと物凄い力でハヤテはスクリーンに向かって引っ張られた。
左腕が千切れんばかりに引っ張られる。
両の足がずるずると地面を轢きづられる。
散乱した部活で使用されたのか実験で使用されたのか分からないような、コードや三脚などを蹴散らして。
ガツン!とぶつかった先には変態がいた。
「いてて、大丈夫か?綾崎」
「なぁぁぁああああああああああああああああああ、はなれろぉぉおおおおおおおお」
悲鳴にもならないような掠れ声で、若干涙目になりながらハヤテはじたばたと暴れた。
どういうことだ。いきなり自分を引っ張りこむなんてついに気でも狂ったのか?
突然のことで頭が追いつかない。なにより、虎鉄が怖い。
左手をがっちりとつかまれて、体格のいい男に多いかぶらさられるほど、恐ろしいものはないのだ。
ハヤテはなんとかその身を剥がそうと、右腕を強く握り締めたとき。
「まてまて、落ち着け!自分の腕をよく見てみろっ!ほら」
混乱したハヤテこぶしをこんな至近距離で受けるのはさすがにまずいと思ったのか。
慌てるハヤテが不憫でなんとか落ち着かせようと思ったのか。
虎鉄は目の前で両手をぶんぶんと振った。
その右手には……手錠?
「僕の左手にも、これはエイトの手?」
ハヤテには見覚えがあった。
牧村先生が作るロボット、その手の形にそっくりなのだ。
そしてそのとおり、その手錠は先ほど見つけたロボットの腕から伸びていた。
「なんなんですかっ!これはっ!!」
「俺にもさっぱりわからん。それにしても綾崎よ。先ほどから反応が女の子みたいで可愛いな。女の子より可愛い」
「うっさい、変態っ!」
歯をむき出して虎鉄を睨みつけるが、目がいまだ潤んでいる。
先ほどは本当に襲われるかと思った。怖かったのは、本当だ。
しかし、虎鉄はよくよく考えてみればそんなひどいことをする奴ではない。はずだ。
ハヤテは、虎鉄に対して疑惑を抱いた。それにほんの少しの罪悪感を覚える。
「なんだ?ちょっと手錠の力が弱まったぞ?」
「本当だ。ちょっとラクになりました」
それにしても、この手錠はいったい何なのだろう。
牧村先生の実験には違いないのだが、なぜいきなり動き出したのか。
ロボットをいじっていたのは虎鉄だ。まさか?
ぶんぶん、と。ハヤテが手錠とロボット、そして虎鉄へと視線を動かせば。
俺じゃないと激しく首を横に振っていた。
ならば、なんだ。
引っぱられる前に、ハヤテが何かしたことと言えば。
「そうだPNP!!」
「あー。そうだな、それのことなんだが……」
ハヤテの言葉に虎鉄はバツの悪そうな顔で、左の手で遠く入り口のあたりを指差す。
その視線の先をたどっていけば。
「ああああああああああああああああああああああああああああああ」
液晶が見るも無残な姿になっていた。
[メンテ]
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