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DEAD or LIVE
日時: 2013/05/05 15:58
名前: コラーダ
参照: http://deadorlive

はじめまして、コラーダという者です。これまで二次小説は読んで楽しむだけだったのですが、最近自分でも書いてみたくなり、ひとつ書いてみようと思います。更新は学生なのでたまに不定期になるかもしれませんが、よろしくお願いします。
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Re: DEAD or LIVE ( No.1 )
日時: 2013/05/05 22:38
名前: コラーダ
参照: http://deadorlive

第1話 <日常を覗く者>

最初に言っておきますが、この話の時間軸はアテネ編の

前で、ナギはまだ遺産を失っていないということにしてお

いて下さい。では、第1話<日常を覗く者>、どうぞ。




いつもの朝、いつもの三千院家。

「お嬢様、今日は学校に行くと言ってくれていたじゃないですか!」

「うるさい!気が変わったのだ!」

「気が変わったって…何があったんですか?」

「…………実はな」

「(…ゴクリ)…はい」

「………………………………………見たい深夜アニメが、今日からだったのだ」

「…………お嬢様、落ち着いて考えて下さい。学校は深夜までには終わります。だから学校に……」

「うるさい!なぜあんな学校などというテンション吸収機関に行って既に知っている知識をご丁寧にグダグダと聞かされて身も心もボロボロになってテンションダダ下がりの状態で深夜アニメを拝まねばならんのだ!そんなことなら初めから学校など行かんほうがずっといい!絶対にいい!」

「そんな…」



ということがあって、僕、綾崎ハヤテは今一人で白凰の

門をくぐっている。

「はぁ…」

一人歩きながらため息をついていると、

「ハヤテくんっ!」

突如背中を叩かれた。僕は振り返り、

「ヒナギクさん。おはようございます」

そこにいたのは、才色兼備な白凰の生徒会長、桂ヒナギクさん。

「おはよう、ハヤテくん。ナギはいつもの?」

「ええ、恥ずかしながら…」

「ハヤテくんが恥じる必要ないわよ。早く教室行きましょ!ご主人様がいないんだから、しっかり私をエスコートしてよね!」

「お任せ下さいヒナギクさん。どんな敵がきても、僕が貴女をお守りしますよ」

「も、もぅ…バカ…」

あれ、ヒナギクさんの顔が赤い。怒っているのかな?バ

カって言われちゃったし…。そうか!ヒナギクさんは負け

ず嫌いだった!守られてばかりなんて嫌に決まってるじゃ

ないか!よし、ここはフォローして……

「でも、ヒナギクさんなら僕が守るまでもなく、どんな敵でも瞬殺でしょうけどね!ヒナギクさん、とっても強いですし!むしろ襲ってくる敵のほうが可哀想っていうか……

借金執事がそのセリフを最後まで言うことはなかった。



そして、ここは白凰学院の近くに立つビルの屋上。

一人の男が、双眼鏡を手に白凰学院を覗いていた。

やぁみんな。俺の名前はスティーブン=クロッド。殺し

屋だ。

依頼主の名前はギル…おっといけね、それは契約違反だっ

た。

とにかく、今回のターゲットは三千院ナギ。あの三千院

家の遺産相続最有力候補だ。

たとえ三千院家だろうと殺す自信はあるが、今俺は一つ

の問題に直面していた。

(…ターゲットの写真、落としちまった…)

普通は依頼された時に見せられるものだが、俺は余計な

感情を抱かないように、殺す日に写真を見ることにしてい

る。もちろん他の情報は全てもらっているが、顔が分から

なければ殺しようがない。

「参ったな…」

俺は苦々しく呟く。

…仕方がない。こういう時は、他の情報からターゲットを

割り出すしかない。…大丈夫だ。三千院ナギに関する情報

はかなり多くもらっている。たとえ容姿が分からなくて

も、それらの情報から三千院ナギを特定することは可能

だ。そして、情報によれば三千院ナギは重度の

HIKIKOMORIだと聞く。

しかし、そのHIKIKOMORIが、今日は登校するという情報

を得た。だからこそ今日を暗殺の日に選んだのだ。

そして、三千院ナギの側には、常に蒼い髪の執事がいる

という。それも恐ろしく強く、凄まじく不幸な。

依頼主も、「アノ執事は恐ろしいデース。デスから、今回

はアノ執事の主を暗殺し、ムリヤリにでも遺産相続候補か

ら引きずり下ろしテヤるのデース!」とか言っていたし

な。

暗殺には邪魔でしかないが、今回はこいつが指標にな

る。つまり、蒼い髪の執事が側にいる女子学生が三千院ナ

ギだと分かるわけだ。

そうと決まれば、さっそく蒼い髪の執事を探そう。



そして、殺し屋が再び双眼鏡を覗いた時に見たものは、

ちょうど二人で話していた、ハヤテとヒナギクであった。







いかがでしょうか?感想貰えるとうれしいです。
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Re: DEAD or LIVE ( No.4 )
日時: 2013/05/06 14:41
名前: コラーダ
参照: http://deadorlive

開拓期さん:感想ありがとうございます。自分と似たような人がいてうれしいです。開拓期さんの作品も是非読んでみます!
P.S:携帯で書くと行が途中で切れたりして、見づらくなってしまいました。読みにくいですが、どうか目をつぶってほほえましく見てやって下さい。というわけで、第2話いきたいと思います。



第2話 <勘違いヒットマン>

双眼鏡を覗くと、ハヤテとヒナギクが見えた我らが殺し

屋クロッドくん。

(見つけたぞ!蒼い髪の執事!ということは、奴の側にい

る女子学生が三千院ナギ!あの桃色の女がそうなの

か!?)

……だが待て。まだ断定はできない。他の情報と照らし合

わせてみよう。

三千院ナギは今日学校に来ていることで間違いない。(来ていません)

だが、情報によれば三千院ナギは飛び級の生徒で、本来

は中学生だが、高校生をしているという…。だが、あの桃

色の女は、どうも実年齢中学生の女には見えないんだよ

なぁ…。

その時、殺し屋の目が、ヒナギクの体のある一点を捉え

た。

(……中学生だ。あれは。うん)

……どこを見てそう決めたのかは、読者の皆様の想像にお

任せします。

(む?あれはどういうことだ?)

再び双眼鏡を覗いた殺し屋は、ハヤテがヒナギクの正宗

で叩きのめされているところを目撃した。…第1話で、ハ

ヤテが最後までセリフを言えなかったシーンである。

(……情報によれば、三千院ナギは執事に対して理不尽な

暴力を振るう時があるという。これもその一つだと考えれ

ば、あの桃色の女が三千院ナギである可能性は高くなる。

……だが、もう少し確定的な情報が欲しいな)

その時、殺し屋が見ているとも知らず、ハヤテとヒナ

クは、

「ほら、さっさと行くわよ」

「……イ、イエッサー…」

(まったく、何が敵が可哀想よ!初めて会った時、「言っ

てくれれば助けに行きますよ」とか言っておいて、強いっ

て分かったら放置プレイ!?まったく、この人は…)

ハヤテをおいてズンズン進んで行くヒナギク

「ま、待って下さいよ、ヒナギクさん!」

「フンッ」

(はぁ…またヒナギクさんを怒らせてしまったな…。ここ

はなんとかして償いをしなければ…)

「ヒナギクさん!」

「…何よ」

「すみません、いつもいつも怒らせてばかりで…。それ

で、今日はヒナギクさんの言うことを何でも聞くというこ

とで、日々の償いとしたいのですが…ダメ、ですかね…」

「…………………」(え!?な、何でもってことは、当然あん

なことやこんなことを言ってもきいてくれるってことよ

ね!?やだどうしよう…)

「…えっと…やっぱり、ダメでしょうか………?」

しばしの沈黙の後、ヒナギクが口を開いた。

「…………………………何でも?」

「は、はい!何でも!」

「…………約束だからね」

「はい!もちろんです!」

「そう♪だったら早くいきましょ♪」

「え?は、はい」(あ、あれ?なんか急にヒナギクさん

上機嫌になったな…?)

その時、前を歩くヒナギクがくるりと振り返った。折し

も、小さな風が二人の間を吹き抜け、さらりとした桃色の

髪が、ふわりと流れた。その姿は、思わず見とれてしまう

ほどに綺麗で…

「そうだハヤテくん。さっそくだけど、一つお願いして

もいいかしら?…ってどうしたの?ぼんやりして?」

「はへ!?あ、いや、何でもないです、何でも!」

「…そう。だったら一つお願い。今日一日、私の執事に

なりなさい!」

「へ?執事、ですか?」

「そう。学校にいる間だけでもいいから、今日一日私の

執事になって、しっかり私をお守りしなさい!いいわ

ね!」

「ヒナギクさん…わかりました」

ハヤテは立て膝をつき、そっとヒナギクの右手をと

た。

「不肖綾崎ハヤテ、今日一日しっかりとヒナギクお嬢様

をお守りさせていただきます」

そして、そっとヒナギクの右手に口付けした。

「ヒ、ヒナギクお嬢様って…ていうか、く、く、く、口付

け…!?」

「なあんて、ちょっと格好つけてみたんですが、いかが

でしたか…ってヒナギクさん!?大丈夫ですか!?」

…ヒナギクは真っ赤になって気絶していた。

「…よくわかんないけど、執事として、運んだほうがいい

よな…」

ハヤテは気絶中のヒナギクをそっとお姫様抱っこして、

校舎へと歩いていった。

……他の男子生徒たちから、妬みの視線を浴びながら。

そして、そのせいで、微々たる殺意のこもった視線に紛

れた、明確な「殺意」を持つ視線には、気付くことはでき

なかった。





「………時として理不尽な暴力を振るい、飛び級で高校生

となり、そして蒼い髪の執事に守られたお嬢様……あの女

が、三千院ナギか……」

殺し屋はそう呟くと、手にしていた双眼鏡を足元のボス

トンバッグに放り込んだ。

「さて、DEAD or LIVE……生きるか死ぬか、楽しいパー

ティーを始めようじゃないか!」



……自分が盛大な勘違いをしていることには、気付かない

まま……





***********************************************************

第2話はここまでです。どうでしたか?感想待ってます。


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Re: DEAD or LIVE ( No.5 )
日時: 2013/05/07 20:06
名前: コラーダ
参照: http://deadorlive

第3話へゴー。

第3話 <殺し屋の潜入学>

殺し屋はゆっくりと白凰に歩を進めた。

変装は完璧。白凰の関係者の中から、身長や体格が近い

奴を一人選んで変装させてもらった。ちなみに本物は睡

眠薬で一日お寝むしてもらっている。余計な殺しをしな

いのも俺の主義だ。

白凰の警備態勢については、既に白凰のサーバに侵入し

て確認済みだ。SPがいることには少々驚いたが、今まで

のターゲットにも普通についていたので、さほどの問題

要素ではない。別に検問がある訳でもなく、通行証さえ

あれば普通に通れるらしい。通行証については、本物か

ら拝借済みだ。

殺し屋はボストンバッグを担ぎ直し、白凰の門をくぐっ

た。(殺し屋が誰に変装したかは、一応秘密です。イ

メージしづらいという方は、コナンくんに出てくる黒い

人の姿でご想像下さい)





一方、迫り来る脅威にも気付かず、ハヤテたちは、

「ハヤテくん、ちょっと生徒会室に行ってもいい?昨日

忘れ物しちゃって」

「ええ、勿論です。ご一緒しますよ♪」

「ありがと♪じゃあ、いきましょ!」





一方、職員室では、

「あー、お金欲しいなー」

「…………」

「ちょっとー、無視ー?」

「……つーか、いまの俺に喋ってたのか?」

「何よー、ナ○ワのくせに生意気だぞー。ってことで、

お金貸してー」


「うるせーよ」

薫と雪路が、いつものような会話をしていた。

「……そうだ、綾崎君たち知らない?」

「綾崎?……今朝ヒナギクといたけど……つーか、担任の

お前の方が知ってるだろ?ていうか何で綾崎?」

「金持ってそうじゃない」

「……生徒にせびるなよ」

「ホントに今月きびしーのよ。今月は」

「……毎月だろーが」

薫は呟いた。

「はーっ、ホントどうしようかしら」

「……どこ行くんだ?」

立ち上がった雪路に、薫が尋ねる。

「トイレよ、トイレ。悪い?」

「いや、別に……」

職員室を出ていく雪路を見ながら、薫は、

「俺もトイレ行こうかな……」

と呟き、立ち上がった。




殺し屋は、白凰の中庭を歩いていた。警備が緩いとは

思っていたが、SPの姿すら見えないとは。どこかにいる

のかもしれないが、俺が特に怪しい訳でもないので、ス

ルーしたのかもしれない。

まあ、どうであれ易々と殺し屋の侵入を許した時点で、

強固な警備とは言いがたいが。

「ま、それだけ俺の変装が見事ってことかな」

殺し屋は鼻歌を歌いながら呟いた。現に、これまで会っ

た人間の中で、彼の変装に気付いた人間は皆無だ。俺も

必死に本物の生活を調べあげて練習した甲斐があった。

皆、鼻歌を歌いながら歩く俺に、

「先生ご機嫌だねー」

と、声をかけていき、手に持つボストンバッグについて

も業者の手伝いと言えば簡単に誤魔化せた。

殺し屋は笑いながら目的地である時計塔、すなわちガー

デンゲートに向けて、うきうきと足を進めた。

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……ハヤテ全然出て来ませんね。次は結構出ると思います。

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Re: DEAD or LIVE ( No.6 )
日時: 2013/05/07 21:17
名前: 新参者
参照: http://mosimohinagikugasunaoninttara

どうも!新参者です。
いやー、ヒナギクさんの執事になるなんて、ハヤテ君!羨ましいですぞ!!でも、ヒナギクさんはハヤテ君とくっついた方が可愛いよな〜……
毎回、更新を楽しみにしています!!
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Re: DEAD or LIVE ( No.7 )
日時: 2013/05/07 22:17
名前: 開拓期

いやー。今回も良かったです!
誰に変装したのか全然わかりません!
次も楽しみにしときます!
あと前の感想については、すいませんでした。
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Re: DEAD or LIVE ( No.8 )
日時: 2013/05/10 20:53
名前: コラーダ
参照: http://deadorlive

第4話いってみよー。

第4話 <射程範囲内ーハンティングゾーンー>

殺し屋は、感心したように時計塔を見上げていた。

ほんとに金持ちな学校だ。こんなに高くて、学校全体を

くまなく見渡すことができて、ちょっとライフルで狙撃

するのにもピッタリな時計塔が建っているとは。

さて、では早速上がるとしよう。三千院ナギが外に居て

くれるといいのだが。

『生徒会以外立ち入り禁止』の立て札を無視して、彼は

時計塔に足を踏み入れた。







時計塔に着いたハヤテたち。

「あれ、エレベーターが上がってますね。誰か上にいる

んでしょうか」

「生徒会の誰かじゃないかしら。この時間には珍しいこ

とだけど」

「誰でしょうね。あ、エレベーター来ましたよ。行きま

しょうか」

「あ、待ってハヤテくん。上には一人で行くから、ここ

で待っててくれる?」

「え?何でですか?」

「い、いいから待ってて」

ヒナギクはそう言うと、素早くエレベーターに乗って

いってしまった。

「あっ、ちょっとヒナギクさん!?……行っちゃった。何

だったんだろ?…………はっ!?もしかして僕またどこか

で地雷踏んだ!?」

借金執事がネガティブ思考に入る中、エレベーター内で

は、

「えへへへへ〜」(ヒナギクです)

……頬を染めながら嬉しそうに悶えるヒナギクがいた。

そう、実はヒナギク、朝の出来事がまだ頭から離れてい

ない。

朝の出来事とは、ハヤテがヒナギクの右手にチュッと

やったあの時のことである。

……実はハヤテと一緒にいる間もずっとそのことばかり

考えてしまい、赤くなるのをずっとこらえていたのだ

が、ハヤテがいない今、思う存分悶えることができてい

た。

「えへへへへ〜」(ヒナギクです)

……自分の右手を見ながら思わずニヤけてしまうヒナギ

ク。よほど嬉しかったのだろう。

「えへへへへ〜ハヤテくんが、ここに……!うふふっ♪」

……まあ、そんなことしてるうちに、エレベーターは最

上階へ。

誰かいるかもしれないので、ニヤけフェイスを形だけで

もいつもの生徒会長の顔に戻す。……心の中ではまだイヤ

ンイヤンやっているのだが。


そして、生徒会室の扉を開ける。

次の瞬間、

「うわあ!?ご、ごめんなさいぃっ!!!」

……何故か中にいた雪路が謝った。

「……なんで謝るのよ」

「え、だって…す、すごく怒ってたから……」

「……なんで私が怒ってるって思ったのかしら?」

「そ、それは……顔を赤くして、口の端を吊り上げて焦点

の合ってない目でこっちを見るから……怒ってるんじゃな

いかと……違った?」

「違うわよ!笑顔よ!」(あれ?まだ顔のニヤけがとれ

てなかったのかしら!?)

「え、笑顔……?」

「そうよ、文句ある?」

「いえ、ありません」

「全く……で?どうしてここにいるの?」

雪路の横を通って、会長の机に向かうヒナギク。

「いや〜実は……」

「何?またお金って……え?」

……気付いた時には、雪路がヒナギクの背中に密着し、

剃刀の刃をヒナギクの喉元に当てていた。

「え、ちょっと…おねぇ…「黙れ」

そう言う雪路の声は驚くほど冷たく、顔を見ることはで

きないが、おそらくは声と同じく、冷たい顔をしている

のだろう。

ヒナギクは混乱する頭の中を必死に整理しようとした。

しかし、どう整理してみても、自分が一番尊敬している

人から剃刀で脅されているという現実がヒナギクを襲う

だけで、余計に混乱するだけだった。

理由は全く分からないが、自分は今、実の姉に殺されよ

うとしている。いつだって側に居てくれた優しい姉が、

今まさにヒナギクの喉元を掻き切ろうとしているのだ。

ヒナギクの琥珀色の瞳が、溢れそうな涙で揺らいだ。

抵抗しようということすら、考えられなかった。

そして、雪路の持つ剃刀が、ヒナギクの喉元にゆっくり

と進み始めた時、大きな音をたてて生徒会室の扉が開け

放たれた。







「ワッハッハッハッハッハッハ!」

「ヒナッ!!」

「ドッキリ大成功ーーーーー!!!」




「…………は?」

「いや〜、実にいい動画が撮れたな!」

「ああ。『生徒会長ドッキリ大作戦』見事成功だな!」

「ヒナちゃんも本気で信じ込んでたしね〜」

「ほら、あんたたち、約束のバイト代10万よこしなさい

よ」

「えっと…これって一体……?」

ヒナギクは、突然の生徒会三人娘の登場と事態のあまり

の変わりように全くついていけていない。

「フッ、教えてやろう、ヒナ」

ポカンとしているヒナギクに、美希が言った。

「さっきヒナが雪路に襲われたのは、全てヒナのドッキ

リ映像を撮影するための演技だったのだ!」

「え……ドッキリ……?じ、じゃあ、それは……?」

ヒナギクが雪路の持つ剃刀を指差して言う。

「あー、これ?オモチャに決まってんでしょ。最近のは

何でもよくできてるわよねー」

あっけらかんと答える雪路に対し、ヒナギクは、

「へぇ……ドッキリ……ねぇ……」

「さっ、ヒナ。ドッキリの後の記念撮影だ!ハイ、チー

『グシャアッ!!』カメラああああああぁぁぁぁ!?」

一瞬でジャンクにされた元々カメラだった金属の塊を見

ながら、三人娘+雪路は、やり過ぎを悟った。

が、もはや手遅れ。鬼神は降臨してしまったのだ。彼女

達にできたのは、大人しく死を待つか、その死をほんの

少し遅らせるだけの逃走を図ることだけだった。

「「「「逃げろおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」

彼女達は走った。命続く限り。

が、奇妙なことに、鬼神は後を追わなかった。それは、

下にいるハヤテに残虐シーンを見せたくなかったのもあ

るかもしれないし、その残虐シーンを巻き起こす自分の

姿を見られたくなかったのもあるかもしれないし、姉は

やっぱり姉だったというのが、ほんの少しだけ、嬉し

かったということも、あったのかもしれない。

「……全く、あの子達は……」

鬼神、もといヒナギクは、そう呟くと、いつも使ってい

る会長の机に歩いていき、その引き出しから、小さなピ

ンク色の紙袋を取り出した。そして、

「……よし」

と、呟いて、その紙袋をそっとポケットに入れ、生徒会

室を後にした。



そして、ヒナギクがエレベーターを降りた瞬間、

「ヒナギクさんっ!すいませんでしたあっ!」

……何故かハヤテが土下座してきた。

「……ハヤテくん。何で土下座しているの?」

「え、だって、ヒナギクさん、怒ってます、よね……?」

プチッ

「……ハヤテくん……そんなに、私の笑顔、怒って見え

る……?」

「え?い、いや、僕は、また何かしてしまって、それで

怒ってるんじゃないかと……」

が、ハヤテは肝心なことを忘れた。……顔についての訂

正を、し忘れたのである。

「……怒って見えるんだ……」

「あ、い、いや、違いますよ!?ヒナギクさんの顔はど

うでもよくて……ってうわあ!?違うんですよ!?ヒ、ヒ

ナギクさんの顔がどうでもいい訳じゃなくて、その、そ

の……!」

「ハヤテくん、目を閉じて歯を食い縛りなさい」

「え?」

「……主の命令は絶対でしょ」

「は、はい……」

(仕方ない。ヒナギクさんを怒らせたのは僕だし、一発

喰らって償いになるのなら、耐えるしかないか……)

ハヤテは、覚悟を決めた。

「いくわよ」

「……はい」

ハヤテは目を閉じて歯を食い縛り、まもなく来るであろ

うヒナギクの一発を待った。

が、いつまで経っても一発がこない。

「ヒナギクさん……?」

不思議に思い、そう尋ねた時、ハヤテの頬を羽毛のよう

に柔らかな口付けが、そっと撫でていった。

「!?ヒ、ヒナギクしゃん!?」

ハヤテは一瞬何をされたのかわからず、分かった瞬間に

は、思わずヒナギクの名前を叫び、盛大に噛んだ。

「……何よ、嬉しくないの?」

「い、いえ、嬉しいかと言われれば、その……嬉しい、で

すけど……何で?」

「お仕置きの一発に決まっているじゃない。……効いたで

しょ?」

「え、ええ……」

「そう、じゃあ、早く教室に戻りましょ!」

そう言うヒナギクの顔も真っ赤であった。

(ドクン…ドクン…ドクン…)

(……さっきからドキドキが止まらない……何だろう……こ

の気持ち……)

その時、前方のヒナギクが振り返り、

「そ、それと!」

「はい!?」

「……も、もうひとつ罰をあげるわ。…………今日、私と一

緒にお昼を食べなさい!」

「え、はい、そんなことでしたら、喜んで!」

「あ、ありがと。じゃ、いきましょ!」

「はい!」

……しかし、少しすると先ほどのアレが思い出され、二

人は教室に帰るまで、終始無言だった。……互いに顔を赤

くしたまま…

そのせいか、二人を見つめる視線に気付くことはなかっ

た。普段は無敵の二人だが、恋は人を必要以上に盲目に

してしまうものなのだ。……ハヤテはまだ自覚できていな

いが…





一方殺し屋は、授業をしていた。変装の相手が教師なの

で、一応教師として振る舞う必要があったからだ。

どこをどのように授業すればいいかは、変装相手を調べ

る時に知っていた。……この歳で高校生の勉強をしなおす

ことになるとは、依頼を引き受けた時には考えてもいな

かったが。……ちなみに俺は26だ。

退屈な授業を続けながら、殺し屋は暗殺の瞬間を思い描

いた。





そして、お昼休み。

「ほら、早くいきましょ、ハヤテくん!」

「はは、待って下さいよヒナギクさん。…ていうか、外

で食べるんですか?」

「ええ。こんなにいい天気なのに、勿体ないじゃな

い!」

「それもそうですね。じゃあ、中庭に行きましょうか」

「うん♪」






皆が笑顔になる昼休み。

殺し屋も笑顔だった。

退屈な授業は終わった。ここからが彼の本業。すなわち

殺しだ。

殺し屋の歩みに迷いはない。目的地は既に決まってい

る。

そして、歩みを止める。ここだ。

殺し屋は、これから人殺しを行う人間のものとは思えな

いほどの爽やかな笑みを浮かべて、そびえ立つガーデン

ゲートを見上げた。





「いや〜、たまには外で食べるのもいいですね」

「でしょ?やっぱりこういう天気のいい日には、外にい

るのが一番よ」





ゴウン…ゴウン…ゴウン…

エレベーターの音だけが響く中、殺し屋は無言だった。

彼の意識は、これから行う殺しのことで満たされてお

り、他のことなどどうでもよかった。

静かにエレべーターの扉が開く。殺し屋は足を踏み出

し、生徒会室の扉を開けて中に入ると、静かに扉を閉め

た。

彼は最初に来たときに隠しておいたボストンバッグを

引っ張り出し、無造作にジッパーを開けて中に手を突っ

込んだ。

そして、中からプラスチックのケースを取り出す。

彼は黙ってケースを開け、中身を床に並べた。

「さて…」

彼はここに入ってから初めての言葉を呟くと、慣れた手

つきで「それ」を組み立て始めた。




「ハヤテくん、この卵焼き食べる?」

「え、くれるんですか?」

「ええ」

「でしたら、このお弁当箱に…」

しかし、ヒナギクはハヤテの弁当箱に卵焼きをのせず

に、

「あ、あーん…」

「へ?ヒナギクさん?何をされているのでしょうか?」

「だから、あーんよあーん!食べさせてあげるって言っ

てるの!」

「ええ!?で、でも……いいんですか……?」

「嫌ならこんなことしないわよ!いいから、ほら、早く

口を開けなさい!」

「い、いや、悪いですよ……」

「いいって言ってるでしょ!黙って口を開ける!」

「そ、そんなこと言われても……」

「あーもう!いいわ、じゃあ主として命令するわ。口を

開けなさい」

「ええ!?」

「ほら、主の命令は絶対なんでしょ〜?」

「わ、分かりましたよ……」

「決まりね。じゃあ、はい、あーん♪」

「あ、あーん……パクッ……モグモグ……」

「どう?美味しい?」

「は、はい。美味しい、です……」

「よかった♪じゃあ、唐揚げも食べさせてあげるわね

♪」

「ええ!?まだやる気ですか!?」

「当然でしょ?主の言うことが聞けない執事君には、

たっぷりお仕置きしないとね♪」

「き、聞いたじゃないですか〜」

「命令されてからじゃダメよ♪」

「そ、そんな〜……」

「じゃあ、唐揚げいくわよ♪」






殺し屋は、極めて迅速に手の中のそれを組み立てた。

それは、まるで彼自身の殺意が形となっていくようだと

彼は思い、そして、それがあながち間違っていないこと

に気付き、彼は笑った。

……手の中に鎮座する、ウィンチェスターモデル70ボル

トアクションライフルを見つめながら。






「ヒナギクさん、まだ続けるんですか?」

「もちろんよ♪はい、あーん♪」

「あーん……」








彼はひととおりライフルを点検、掃除を終えると、ボス

トンバッグからスコープを取り出し、ライフルにマウン

トし、固定した。

そして、もう一度ボストンバッグに手を入れ、缶のよう

な形状をしたシュプレッサー、すなわち消音器を掴み出

すと、銃身に突っ込んで、これもしっかりと固定した。

……さて、始めるか。

彼は、一度ライフルを床に置き、双眼鏡を掴んでテラス

に出た。

双眼鏡を目に当て、なめるように学校中を見渡す。

ターゲットは桃の髪、その側には蒼の髪。桃と蒼だ……

桃と蒼……






……見つけた。

中庭のベンチで食事をしている。

彼はここからベンチまでの距離をレーザー測距し、一度

テラスから引っ込んで、ライフルを持って再び姿を現し

た。

ベンチまでの距離を頭に入れて、スコープのエレべー

ションを動かし、視野を調節する。

……これでいい。

殺し屋がスコープに目を当てると、桃色の頭がくっきり

と映り、中央のクロスヘアに重なっていた。

殺し屋はニヤリと笑い、ゆっくりと引き金に指を掛け

た。

ここはハンティングゾーン。……射程範囲内だ。


************************************************************

……なんか今回長いですね。まあ、やっとハヤテたちを

しっかり出すことができたし、いいですよね?

……オチは殺し屋が取っちゃったけど。

さて、次回はやっとハヤテたちと殺し屋が接触します。

ヒナギクは撃たれてしまうのか!?……撃たれたら話終

わりますけど……

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Re: DEAD or LIVE ( No.9 )
日時: 2013/05/10 21:18
名前: コラーダ
参照: http://deadorlive




新参者さん:そうですか!楽しみにしていてくれてありが

とうございます!ハヤテも思いに気付き始めましたよ!

開拓期さん:よかったですか!ありがとうございます!誰

に変装したかは、もう少し隠したままです。お楽しみ

に!P.S:前回の感想については、気にしなくてもいいで

すよ。




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Re: DEAD or LIVE ( No.10 )
日時: 2013/05/11 18:02
名前: コラーダ
参照: http://deadorlive

第5話いくか。

第5話 <日常を貫く狙撃手と雛を守る蒼い風>

殺し屋が引き金に指を掛ける少し前、ハヤテとヒナギク

は、

「ふぅ、美味しかったわね、ハヤテくん♪」

「え、ええ…」

ハヤテはようやくヒナギクの「あーん地獄」から開放さ

れ、一息ついていた。

そして、何気無くヒナギクの手首を見ると、ヒナギクの

手首に、見慣れないリストバンドが巻かれていた。

「あの、ヒナギクさん?」

「ん?何?」

「その手首のリストバンド、どうしたんですか?いつも

は何も着けていないので、少し気になって……」

するとヒナギクは、

「ええ!?こ、これ!?これは…な、何でもないの、

きっとそうなの!」

そう言って、そっぽを向いてしまった。

(こ、これは……またしても地雷を踏んでしまった…?)

「ヒ、ヒナギクさん?」

ハヤテは尋ねるが、ヒナギクは

「もぅ…ハヤテくんのバカ……こっちからその話題に持っ

ていって、ポケットのこれを渡して、こ、告……しようと

思ってたのに、まだ心の準備すらできてないうちにそっ

ちから言ってくるなんて……ど、どうしよう…」

と、何やら小声で呟くばかりである。当然ながらハヤテ

には聞こえない。

(まずい……これは聞いてはいけないことだったよう

だ……どうして僕はいつも……)

(……悩んでいても仕方ないわ。むしろチャンスと考えな

さい!せっかくハヤテくんから話を振ってきてくれたん

だから……思い切って……!)

「……ハヤテ…くん」

「は、はい!すいませんヒナギクさん!まさかそんな、

聞いてはいけないことだとは知らなくて……え?」

ヒナギクが、ハヤテの手を、握った。

繰り返す。ヒナギクが、ハヤテの手を、握った。

あのヒナギクが、である。

「ヒナギクさん!?これは……!?」

「……聞いて欲しいことが、あるの……」

ヒナギクは顔をほのかに朱色に染めながら、それでもハ

ヤテの蒼の瞳を、その琥珀色の瞳でしっかりと見つめな

がら、言った。

いつになく真剣なヒナギクの姿を見て、ハヤテは謝罪を

やめ、黙ってヒナギクの目を見つめ返した。

「……ヒナギクさん…言って下さい」

「ハヤテくん…私……!」

二人の世界が一つになろうとしたその時、轟音と共に飛

んできたそれが、二人を、引き裂いた______





ライフルにマウントされたウナートル10倍スコープごし

に見える世界は、殺し屋にとって馴染みの世界だった。

まもなく死ぬ人間が、クロスヘアという名の十字架を背

負い、1秒後自分がどうなるかも知らない純真な瞳で生

を謳歌している。

しかし、まもなくその瞳から光は消え、その体は大地に

倒れ伏し、二度と動かなくなるのだ。

そして今は、桃色の髪をした女がこれまでのターゲット

たちと同じように、スコープごしに死の十字架を背負っ

ている。

まもなくこの女も逝くだろう。

ライフルに装填されているのは、168グレインのシエラ-

マッチキング-ボートテール型ホローポイント弾。SWAT

のスナイパーチームをはじめとする、陸、海、空軍に海

兵隊にも使用されている非常に強力なライフル弾だ。

このライフル弾は、標的に命中すると先端のポリカーボ

ネイトが剥がれて大きく広がり、そのまま秒速2500

フィートで人体に突っ込んで内部をズタボロにえぐり、

切り裂く。さらに、命中の衝撃によって骨を砕き、皮膚

を引き裂くのだ。

これを頭か心臓に撃てば、どうなるかは容易に想像でき

るだろう。

……確実に、死ぬのだ。

殺し屋は、ゆっくりと引き金を絞る指に力を込め___






……彼は撃たなかった。

殺しを躊躇した訳ではない。ただ、スコープごしの女の

横顔を見た時、この女の頭にホローポイント弾を叩き込

んでこの美しい顔を損なうのは、どうかと思ったのだ。

……よし、心臓を撃とう。

心臓ならば、綺麗に撃ち抜けば体の損傷を最低限にして

殺せる。なにより即死だ。自分がライフル弾に撃ち抜か

れて死んだなんてのは、できれば知らずに死んだ方が幸

せだろう。

殺し屋はライフルをやや下に下げ、クロスヘアが心臓の

位置に重なるようにした。

精神を集中させ、ライフルと一つになる。

……一撃で仕留める。ワンショットワンキル。最も理想的

な狙撃の形。

息を吸って、吐いて……

その時全ては無になり、世界が停止した。

永遠に続くかと思われたその時間を砕くかのように、殺

し屋は引き金を引いた。

シュプレッサーによって消音された微かな発砲音が響

き、ライフルが火を吹いた。






そして、二人の世界が一つになろうとしたその時、

「綾崎ーーーーー!!!!!」

……轟音と共に飛んできたそれが、いろんな意味で二人

を引き裂いた。

「この変態がっっっ!!!」

ハヤテはヒナギクと手を離し、飛び込んできた変態、も

とい虎鉄を回し蹴りでぶっ飛ばした。

そして、吹っ飛んだ虎鉄は、その瞬間飛んできたライフ

ル弾を横から巻き込み、共に茂みに落ちた。

……しかし、せっかくのムードは粉々だった。





そして、スコープごしにこれを見ていた殺し屋は驚愕し

た。

「なんだとおおおおぉぉぉぉ!!!???」

……思わず叫んだ。当然だ。

彼も殺し屋になってけっこう経つが、こんな形でライフ

ル弾を防がれたことなど一度もない。……当然といえば当

然だが。

「くそっ」

彼は小さく悪態をつくと、再びライフルを構えた。

……そうだ、これで終わりではない。弾はまだあるし、

向こうも狙撃には気付いていない。一撃で仕留められな

かったのは残念だが、次で仕留めれば問題ない。

……よし、落ち着け。俺はプロだ。プロならば、こんな

事態が起きても冷静に対応するべきだ。そうだ、落ち着

け……

殺し屋はスコープを覗いた。……よし、女はまだいる。

その時、常に女の側にいた執事が、突如走っていった。

……よし、邪魔者は消えたようだ。何故走っていったの

かは分からないが。

……いつ戻ってくるかは分からない。さっさと片付ける

とするか。

再び、殺し屋は引き金に指を掛けた。

困惑する女の顔を見ながら、銃身を少し下げる。

クロスヘアが心臓に重なる。

殺し屋は、ゆっくりと引き金に力を込め______






その少し前。ハヤテとヒナギクは、

「……えーと……」

「…………」

……ブチ壊されたムードの残骸の中で、どうしていいか

わからなくなっていた。

(……ヤベー…すっごく気まずい……)

さすがのハヤテも、どう気遣えばいいのか分からない。

一方のヒナギクも、

(はぁ……せっかく、言えると思ったのに……)

「…ナ…クさん…」

(どうしていつもこうなのかしら……ハヤテくんといい感

じになると、いつも……)

「ヒ……クさん…」

(「好き」って言いたいだけなのに……それだけなのに…

どうして…!)

「ヒナギクさん!」

「へ、な、何!?」

「ちょっと僕、ジュースでも買ってきますね!」

「え、ハヤテくん!?…………行っちゃった……」

ヒナギクは、黙ってうつむいた。

「何よ……私が何を言いたかったのか、気になったりしな

いのかしら……」

琥珀色の瞳が潤む。

「……ひょっとして、私が一人で盛り上がってただけなの

かもね……ハヤテくんは、私のことなんて、どうでも…」

涙の一滴が、きらりと光った。…しかし、その光は、と

ても悲しい光だった……

「…………ハヤテくん……」

涙が、こぼれる。

止めたいのに、止まらない。

溢れる想いは、止まらなかった。

脇で死んでいる虎鉄を見る。(死んでいません)

彼が来なければ、自分は想いを告げることができたかも

しれない。

でも、彼を責めることはできない。

彼は、好きな人に、好きだと告げただけだから。

そして、私にはそれができなった。

でも、私も……言いたい。

……好きだって、言いたい。

……大好きだって、言いたいよ……ハヤテくん……!






その瞬間、殺し屋は引き金を引いた。

極めて静かにライフル弾が飛翔し、ヒナギクの心臓を貫

こうと迫った。








その時、蒼い疾風が駆け抜けた。






「……え?」

気付いた時には、ヒナギクはハヤテにお姫様抱っこさ

れ、空を飛んでいた。

「……ハヤテくん……?」

「……ヒナギクさん。もう大丈夫です」

ハヤテは優しくそう言い、ふわりと着地した。

そして、その目を、ガーデンゲートに向けた。





殺し屋は、再び驚愕に目を見張った。

……一瞬、本当に風が吹いたのかと思った。それほどま

でに、速かった。

音速で飛翔するライフル弾を、認識した上でかわすだ

と?

そんな芸当は聞いたことがないし、見たこともない。

そもそも、奴はどうやって狙撃に気付いた?

「……考えても無駄か……」

そうだ、事実は事実として受け止める。それがプロだ。

……彼はスコープから目を離した。

肉眼だと、執事も女もちっぽけな粒にしか見えない。

だが、奴がこちらを睨んでいることは、はっきりと分

かった。

「ハハッ、ヤベェな。ゾクゾクしてきやがった……!」

殺し屋は再びライフルを構えた。

スコープごしに、蒼の執事を睨み返す。

「DEAD or LIVEだ。楽しもうぜ、綾崎ハヤテ!」

その時彼は初めて執事の名前を叫んだ。

それは、生と死の狂乱が、佳境に入った瞬間だった…!


************************************************************

第5話終了。…なんか第4話から1話1話が長いなあ。

とはいえ、ようやく物語も佳境に入りました!

次回からいよいよハヤテと殺し屋が対決します!

また長い1話になるんだろうな……


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Re: DEAD or LIVE ( No.11 )
日時: 2013/05/12 14:48
名前: コラーダ
参照: http://deadorlive

第6話いくぜ。

第6話 <疾風のごとく>

「ちょっとハヤテくん、何が起きてるの!?」

「すいませんヒナギクさん。詳しいことは後で説明する

ので、今はこのままでいさせて下さい!」

「え、このままって……」

分かっていると思うが、今のヒナギクはハヤテにお姫様

抱っこされている状態である。

「う、うん……今だけだからね……」

顔を真っ赤にして、かろうじてそう答えるヒナギク。

しかし、ハヤテの顔を見ると、その目はガーデンゲート

に向けられており、その顔は普段のハヤテからは想像で

きないほどの真剣な顔、戦う者の顔だった。

「ハヤテくん……?」

「来ます!」

ハヤテがそう叫んだ時、一瞬ガーデンゲートのテラスで

何かが光った。

その瞬間、ハヤテが飛び上がり、足元の敷石に何かが高

速でぶつかって、火花が散った。





殺し屋は、執事が再びライフル弾をかわすのを見た。

「やるねぇ…バトラーの名は伊達じゃないってか?」

殺し屋は笑い、続けざまにライフルを発砲した。

これも執事はかわす。見事なもんだ。

殺し屋は間髪入れずに引き金を引いた。

M70が立て続けに火を吹き、ハヤテを襲った。






「くっ!」

「ハ、ハヤテくん、大丈夫!?」

次々飛んでくるライフル弾をかわし続けるハヤテだが、

既に疲労の色が見え始めていた。

「一度引きます!」

ライフル弾をかわしながら、ハヤテは校舎の方へ後退を

始めた。





ヒナギクには、何が起きているのか分からなかった。

気がついたら自分はハヤテの腕の中、そして何故か時計

塔から狙撃されており、自分を抱えたままハヤテがそれ

を必死にかわしている。

ふと気付くと、ハヤテの額には汗がにじんでおり、息遣

いも荒くなっている。

さすがに人一人抱えたままライフル弾をかわすのは無理

があるのだろう。

「ハヤテくん!私を下ろして!私は一人で逃げられるか

ら!」

「嫌です!」

「何でよ!だってハヤテくん、そんなに苦しそうじゃな

い!私のせいでハヤテくんに傷ついて欲しくないの!だ

から私を下ろして!」

ライフル弾をかわしながらハヤテは答える。

「…それは僕も同じですよっ…ヒナギクさん!僕のせい

で…あなたに傷ついて欲しくありません!……それに、僕

は今、ヒナギクさんの執事です!…主を守ることがっ…執

事の役目!!!」

「そんなこともういいから!だから…」

「『そんなこと』であなたを手放したくない!!!」

「……え?」

「…ヒナギクさんは…僕にとっても、皆にとっても、本当

に大切な人なんです!『そんなこと』…なんかで…手放せ

る訳ないじゃないですか!!!!」

「……」(皆にとっても……か。でもなんだろ……すごく、

嬉しい……!)

「…今、ヒナギクさんを守れるのは僕だけです!…っだか

ら!…僕がヒナギクさんを守る!!!!」

再び飛翔したハヤテを無数のライフル弾が襲う。

その一つが、ハヤテの右腕を掠め、肉を少しえぐった。

微かな赤い霧が飛び散る。

「ぐあっ!」

「ハヤテくん!」

「……大丈夫ですよ、こんな傷慣れっこです!それに、そ

ろそろ向こうも弾切れになるはずです!その間に引きま

す!」

……おそらく敵が使っているライフルはボルトアクショ

ンタイプ。ボルトアクションのライフルは、弾切れの後

次の弾を薬室に送るまで、数秒の間があることをハヤテ

は経験から知っていた。……どこで経験したかは聞くな。






殺し屋は、一発の弾が執事の腕を掠めるのを見て笑っ

た。

「……そろそろ疲れてきたようだな。」

だが、こちらも弾切れが近いことを殺し屋は分かってい

た。

……弾切れになれば、次の弾を撃つまでに時間がかか

る。そうなれば、まず奴は逃げるだろう。ターゲットを

連れて。

……そんなことは許さない。こんなところで逃がしてた

まるか。

なんとしても今、あの執事を殺す。そうしなければ、

ターゲットを仕留めることもできないだろう。

……余計な殺しはしない主義だが、逆に必要な殺しは躊

躇なく行う。…それもまた、彼の主義だった。






その時、殺し屋がテラスから引っ込んだ。

ハヤテは、今が引くチャンスだと悟った。

「ヒナギクさん、しっかりつかまってて下さい!」

「え、う、うん!」

ドキドキしながらヒナギクはハヤテの首に腕を回して、

しっかりとハヤテに抱き付いた。

(ハ、ハヤテくんの顔が近い……こんな時なのに、顔赤く

なっちゃう……)

(うわ、ヒナギクさんが近い……こんな時なのに、顔赤く

なる……)

「で、では行きます!」

「う、うん!お願い!」

ハヤテは時計塔に背を向け、足に力を込めた。












この瞬間だ!この時を待っていたァ!!!

テラスを下がり、双眼鏡で獲物を見ていた殺し屋は、

双眼鏡を投げ捨てると脇のライフルを引っ掴み、一跳び

でテラスに踊り出た。

……ライフルには二発だけ残してあった。一発で執事を

殺し、二発目でターゲットを殺す。弾切れのフェイク

だった。

殺し屋は考えるまでもなく、反射的にライフルを構え

た。何千回、何万回と繰り返してきた動き。もはや彼は

ライフルであり、ライフルは彼だった。

素早くスコープを覗き、今まさに駆け出そうとする執事

の背中にクロスヘアを重ねる。

思考など必要ない。ただ殺す。それだけでいい。

殺し屋はライフルを発砲した。

反動を優しく受け止め、彼は射撃の余韻に浸った。







ヒナギクはハヤテの背中ごしに見た。

テラスに再び悪魔が現れ、その手のライフルをこちらに

向けている。ハヤテに向けている。

彼女の大好きな人を奪い去ろうとしている。

嫌だ。ハヤテくんが居なくなるなんて。私の前から、

ハヤテくんが__________

「ハヤテくん、ダメ!」

ヒナギクは叫んだ。

それを嘲笑うかのように、ガーデンゲートで銃口炎が

光った。殺戮の光__________











「疾風のごとく!!!」









風が、吹いた。蒼の風が。






ハヤテの背中を貫くはずだったライフル弾は、空の果て

まで吹き飛ばされた。






ヒナギクは今、優しい風に包まれていた。




ハヤテは今、風となり飛んでいた。




_________疾風のごとく。



************************************************************

えー、第6話終わりです。

オチを殺し屋以外に取らせたのはこの話が初めてです

ね。

本当は殺し屋に取らせようとも思いましたが、今回はこ

こで終わって次につなぐ方がカッコいいかなと思い、第

6話はここで終わりです。

次回も殺し屋はがんばります。ハヤヒナに進展が欲しい

なあ…
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Re: DEAD or LIVE ( No.14 )
日時: 2013/05/19 15:35
名前: コラーダ
参照: http://deadorlive

第7話行こうか。

第7話 <人狩りーマンハントー>

殺し屋は、今日何度目かも分からない驚愕の表情を浮か

べた。

なんだあの速さは!?

二発目の射撃も忘れて、殺し屋は呆然としていた。

その時、テラスの手すりに何かが当たって、彼の足元に

落ちた。

……ライフル弾。先ほど殺し屋が撃った弾だ。ここまで飛

ばされてくるとは。

彼は、その弾を拾い上げ歯ぎしりした。

……あの執事…!!!

殺し屋はなんとしてもあの執事を殺してやる、と考えた

が、

…いや、落ち着け。俺はプロだ。私怨で人を殺すようなア

マチュアとは違う。殺せと依頼されたのはあくまでも三千

院ナギ。執事の綾崎ハヤテではない。だとすれば、次に俺

がすべきことは再びターゲットを殺すチャンスを伺うこと

だ。

そうだ、まだ失敗ではない。途中経過だ。暗殺に気付か

れた分、警戒もキツくなるだろう。だが、終わりではな

い。

殺し屋にはまだ計画があった。そして計画がある者は、

ない者より遥かに強い。そんな言葉をどこかで聞いたこと

があったが、どうでもいい。

…よし、落ち着いたな?イエス。ならば早いところここか

ら離れよう。

殺し屋はライフルを持って中に入ったが、

「……何、してるんですか…?」

…そこには、先ほどターゲットをからかっていた三人の女

子生徒がいた。

……フム。目撃された。ではどうする?

誤魔化しはきかないだろう。ならば、殺すか。目撃者を

消すことは、必要な殺しのはずだ。

殺し屋は服の下に隠した大型のサバイバルナイフの位置

を確かめた。こいつらは運動能力は低そうなので、これで

殺れるはずだ。

……待てよ。こいつらはうまく利用すれば暗殺に使える。

……生け捕りにするか。

「あ、あの……」

ビデオカメラを持った女が話しかけてくる。…どうやら俺

がライフルを持っていることが本気か何かの冗談か判断で

きないらしい。

……それならそれでいい。すぐに分かるだろう。

殺し屋は問いかけを無視してライフルを足元に置くと、

ボストンバッグからガムテープを取り出した。

ビイイッ!と、音をたててガムテープを伸ばし、三人娘

を見やる。

……その目は、もう殺し屋の目だった。

「にはは…じ、冗談…だよね……」

ニコニコ笑いの女が問う。

……その問いに答えは返ってこなかったし、彼女達も答え

を待つことなく逃げようと駆け出していた。

……悲鳴はなかった。たいした物音も。一切。






「はあっ、はあっ、はあっ……ここなら狙撃されないはず

です」

校舎の陰に逃げ込んだハヤテは、ようやくヒナギクを降

ろして一息ついていた。

…そして、そんなハヤテにヒナギクが問う。

「……ハヤテくん…一体何が起きているの?…何で私たちが

狙われているの?……教えてよ……」

まだショックが完全には解けていないヒナギクだが、何

とか声を絞り出して尋ねた。

「……すみません、ヒナギクさん……まさかヒナギクさんが

狙われているなんて……」

「え?狙われてる?……どういうこと?」

「……まずは謝らせて下さい。僕は、一発目で狙撃には気

付いていました……でも、最初は僕が狙われていると思っ

ていたんです…三千院家の、遺産がらみで……。でも、まさ

かヒナギクさんが狙われているなんて……」

「……どういうこと……?」

「……実は……」




……少し前。ハヤテが虎鉄をぶっ飛ばした時。

(ヤベー…すごく気まずい……)

重い空気に耐えかねたハヤテは、とりあえず虎鉄に止め

を刺そうと近づいた。

その時、ハヤテの鼻が、ある匂いを嗅ぎとった。

(……硝煙の匂い…?)

それはほんの微かな匂いだったが、ハヤテの鼻はそれを

逃さなかった。

素早く匂いをたどり、茂みで死んでいる(死んでませ

ん)虎鉄の側に落ちていたそれを拾い上げた。

(これは!?168グレインのシエラ-マッチキング-ボート

テール型ホローポイント弾!?…しかもまだ熱い。撃った

ばかりのようだ……)

ちらりとヒナギクを見やる。……何か物思いに沈んでいる

ようだ。

(……一体何故撃たれたんだ…?……まさか三千院家の遺産

がらみか!……そうなるとヒナギクさんを巻き込むわけに

はいかない……これは僕の問題だし……仕方ない)

ハヤテは、物思いに沈んでいるヒナギクに声をかけた。

「僕、ちょっとジュースでも買ってきますね!」

そしてヒナギクを置いて駆け出したハヤテだが、しばら

くして違和感を感じた。

(……追ってくる気配がない……?)

辺りの気配を探るが、自分を追ってくる者の気配が感じ

られないのだ。

(……どういうことだ?僕が目当てなら、いい加減狙撃地

点から引き払って追って来ているはず……まさか、目的は

僕じゃない?…仮に向こうの目的が僕じゃないとするな

ら、あの時あの場所で僕以外に誰かに命を狙われそうな人

は……変態?…はないよな。じゃあ、残るのは……!!!)

考えるよりも先に、ハヤテは駆け出した。

(……ヒナギクさん!!!)

そして、殺し屋が、ヒナギクのどこを撃つかで少し悩ん

でいる間に、ハヤテはヒナギクのいるベンチが見える場所

まできた。

(良かった!まだ襲われてないみたいだ。……そもそも、

本当にヒナギクさんが狙われているって決まったわけじゃ

……)

その時、ハヤテの目に、時計塔のテラスから何かを構え

ている人影が映った。

……何故ハヤテはあの時あんなにも速く動けたのか分から

ない。だが、あの人はヒナギクさんを傷つけようとしてい

る。そう思った瞬間、無意識に体が動いていた。

まさに疾風のごとく。

……そして、第5話のラストシーンに続くわけである。



「すみません、ヒナギクさん…!!!僕は、あなたを守

る、なんてことを言っておきながら、自分の勝手な判断で

ヒナギクさんを放り出して…むしろヒナギクさんを危険な

目にあわせてしまうなんて……!本当に、すみません!」

ハヤテは全身全霊を込めた謝罪と土下座を続けた。

「……いいのよ、ハヤテくん。……私のためにやってくれた

んでしょ?それなら許してあげる。……ちゃんと来てくれ

たしね」

「ですが……」

「いいって言ってるでしょ?ほら、早く顔を上げて?」

「……ありがとうございます。では、とりあえずこの事を

先生達に伝えないと…」

「そうね。次はいつ襲われるか分からないし……」

二人は職員室に向けて走り始めた。




職員室。

「ナ○ワー」

「……なんだよ」

「あの生徒会の三人知らない?」

「……今度は瀬川達からたかるつもりか?いい加減にしな

いとヒナギクに怒られるぞ」

「金はもうあの子達のバイトしてもらったわよ。今は純粋

に仕事のことで探してんの」

「……それはそれでどうかと思うが……」

「そんなことどうでもいいから、あの子達がどこにいる

かって聞いてるの。知らない?」

「いや、俺は知らないぞ」

「何よ使えないわねー…じゃあ探してきてよ」

「はあ!?自分が行けよ!」

「私は忙しいのよ」

「俺だって忙しいんだよ!」

「……プラモデル作ってる奴が言うセリフ?」

「……そうだよ。……っていうか自分のことは自分でや

れ!」

「誤魔化した!ナ○ワが誤魔化したー!」

「ああもう、うるせえな!…行けばいいんだろ、行け

ば!」

「よろしい、これでナ○ワという名のプラモデルに男の優

しさというパーツが加わったわよ」

「うるせえな…」

薫は立ち上がると、職員室を出ていった。

それを見届けた雪路は、薫の作りかけのプラモデルで遊

び始めた。





その時、職員室のドアが開き、ハヤテとヒナギクが慌て

た様子で入ってきた。

「あ、お姉ちゃん!今すぐ聞いて!」

「桂先生、今から言うことは本当のことです!真剣に聞い

て下さい!」

「な、なになになになになに!?私何もしてないわよ!」

「そうじゃないのお姉ちゃん!落ち着いて聞いて!」

「そうです!真剣に聞いて下さい!」

「……あんた達こそ落ち着きなさいよ……」

しかし、二人が落ち着く様子はなく、仕方なく雪路は二

人を落ち着かせることにした。

「……なんなのよあんた達、結婚でも決まった?」

それを聞いたとたん、

「んなっ……けっ……こ……」

ヒナギクは真っ赤になって沈静化し、

「な、ち、違いますよ!」

ハヤテも真っ赤になって弁解を始める。

「で ?何の用?」

そんな二人を無視して、雪路は尋ねた。

「そ、そうよ!こんなこと話しにきたわけじゃなくて!!

……この学院に、殺し屋がいるの!」

「そうです。そして、その殺し屋はヒナギクさんを狙って

いるんです!」

「……」

「……」

「……」

しばしの沈黙。

その後、

「……あんた達、頭大丈夫……?」

「「お姉ちゃん(桂先生)にそんなことを言われるなん

て!!」」

「ちょっとー!そのリアクションはヒドくない!?」

「…じゃなくて、本当のことなの!信じてお姉ちゃん!」

「そうです!ほら、僕のこの傷!」

……ハヤテが見せた右肩は、ライフル弾にえぐられて執事

服が破れ、血がにじんでいた。

「……えっと……これ、ホントの血……?」

「本当の傷です。殺し屋のライフル弾がかすって……」

「ちょっと、ハヤテくん!その傷、あの時のでしょ!?何

が大したことない、よ!重傷じゃない!!見せなさい!」

「え?い、いや、これは、ホントに大したことなくてです

ね……」

「いいから早くジャケット脱いで!」

「いいですよ、本当に大丈夫ですから!」

「血が出てるのよ!手当てしないと!」

「だから平気ですって!血が出るくらいのケガは慣れっこ

ですから!」

「いいから黙って脱ぐ!」

「あ、そんな、ヒナギクさん!待って下さい、そんな乱暴

に!ああ!」

「……あんた達、ラブコメるなら他所でやってくれな

い?」

「だ、誰もラブコメってなんかないわよ!ハヤテくんがケ

ガしてるんだから、手当てしようとしてるだけよ!」

「……あくまでも拒否する綾崎君を捕まえて、激しい抵抗

をしないのをいいことに、ムリヤリそのジャケットを脱が

せて、(手当てを)させろと迫るヒナ……」

「事実をヒワイな言い方で曲げるなあああ!!!」



まあ、そんな夫婦&姉妹漫才の後、ようやくハヤテとヒ

ナギクは殺し屋の存在を学院に報告した。

二人共、学院内では極めて真面目な生徒であったのと、

ハヤテの傷、さらにハヤテが提出した殺し屋のライフル弾

等、いくつかの証拠が提示されたため、学院も報告を真実

として受理。すぐさま生徒会長桂ヒナギクと理事長代理葛

葉キリカの名において非常事態宣言が発令された。

全校生徒は体育館に集められ、全てのSP達が殺し屋捜索

に駆り出された。すぐに特殊部隊も到着し、学院を包囲、

一部突入した。付近一帯には検問が設けられ、完璧な警戒

体制を整えた。

「……これで、大丈夫よね…」

体育館で、数名のSPに守られながら、ヒナギクは呟い

た。

「大丈夫ですよ。特殊部隊もSPの方々も皆プロです。そ

れに、ヒナギクさんには、僕がついてますから」

ハヤテが優しく言う。

「……絶対に、守ってよ……また放り出して行ったりしたら

許さないんだから……」

ハヤテの服の裾を掴みながら、ヒナギクが言った。

そんなヒナギクを見ていると、ハヤテはまた不思議な胸

の高鳴りを感じた。

……自分でも無意識に、ハヤテはヒナギクを抱き締めた。

「……ハヤテ、くん……?」

一瞬、何が起きたか分からず、硬直するヒナギク。

しかし、何が起きたか分かると、たちまち真っ赤になっ

た。

ハヤテもハヤテで、自分のした行動を理解した瞬間、

「あ、すみません、ヒナギクさん!…こ、これは…絶対に

お守りするという、決意のハグでして……」

と、慌ててヒナギクから離れ、弁解した。

「……あ、そうなんだ……」

少し残念そうに、ヒナギクは呟いた。

(……あれ?なんかヒナギクさん、ガッカリしてる…?もし

かして僕に抱き締められたのが嬉しかったとか?……ない

ない。あのヒナギクさんが僕なんかに抱き締められても不

快になるだけだ、きっと気のせいだよ、うん)

……しかし、そんなことを考えると、なぜだかハヤテの心

が、ズキリと痛んだ。

(……?なんでだろ、なんでこんなに悲しいんだ?いつも

思ってようなことじゃないか。……ヒナギクさんと僕は釣

り合わないし、ヒナギクさんが僕なんかを好きになるなん

てこともない。分かりきったことだろ?……分かりきった

こと、なのに、なんで悲しくなるんだ……)

「……ハヤテくん?」

顔を上げると、ヒナギクが心配そうにハヤテの顔を覗き

こんでいた。

「……いえ。大丈夫ですよ」

(……そうだ。今はこの人を守ることに専念しよう。余計

なことは考えるな……)

その時、雪路が二人の側にやって来て、

「ねぇ、あんた達あの三人知らない?」

「……あの三人って……もしかして瀬川さん達ですか?」

「そう。全校生徒集めたんだけど、あの子達だけいないの

よ……」

「……私、探してくる!」

「ダメです、ヒナギクさん!殺し屋の狙いはあなたなんで

すよ!?」

立ち上がったヒナギクを、ハヤテが引き止める。

「離して!……あの子達は、私の大切な友達なの!……それ

なのに、私のせいで危険な目にあっているんだとした

ら……私……!」

「……ヒナギクさん……!」

その時、薫がやって来た。

「お、いたいた。雪路!あの三人だが、ひととおり探して

みたけど、どこにも見つからない!SPの人間にも捜索を

頼んでおいたけど、俺ももう一度探してみる!お前は?」

「……仕方ないわね。私もいくわ。……だからヒナ、あの三

人は私達に任せて、あなたはここで待ってなさい。大丈夫

よ。絶対に見つけてくるから」

「……お姉ちゃん」

「じゃ、行くわよナ○ワ」

「ああ。俺はとりあえず……時計塔の方を探してみる!」

「んじゃ、あたしは……」

……二人が駆け去った後、ハヤテとヒナギクは、

「……ハヤテくん。本当に、大丈夫よね…」

「心配要りませんよ。瀬川さん達も、桂先生も、……僕

も、絶対にあなたの前からいなくなったりしませんか

ら……ん?」

ハヤテは、いつの間にか自分の足元に落ちていた、携帯

電話を見つけた。

「……誰が落としたんだろ」

とりあえず拾ってみた瞬間、

チャラチャラ……♪チャラチャラ……♪

……携帯が鳴った。

「!?うわあ!!」

「ハヤテくん?どうしたの!?」

「い、いえ、落ちていた携帯が突然鳴り出して……でた方

がいいんでしょうか…?」

「うーん……事情を話せば落とし主を教えてくれるかもし

れないし、一応でてみたら?」

「は、はい……もしもし……?」

ハヤテが電話にでた瞬間、聞き慣れない声がした。

「……綾崎ハヤテ、それで間違いないな?」

「……あなたは……?」

「……とりあえずこう名乗ろう。<ダイアウルフ>……これ

で、通じるかな?」

ハヤテは戦慄した。

「……殺し屋……!!!」

電話の向こうで、微かな笑い声が漏れ、

「……俺のコードネームを知っているということは、お前

も裏の世界で何らかの仕事をこなしてきたということだ

な。どうりで狙撃にも気付けるわけだ……まあ、そんな話

は今どうでもいい。早いところ本題に入ろう。警備員がう

じゃうじゃいて見つかっちまいそうだしな。」

「用件は何ですか」

「おっと、そうだ。今回お前に電話したのは、お散歩の誘

いだよ」

「……散歩?」

「ああ。散歩だよ。……知っているか?お前んとこの女子

生徒が三人、行方不明になってること」

それを聞いた瞬間、

「瀬川さん達に何をした!?答えろ!!!」

ハヤテは叫んだ。

「ハヤテくん!?」

ヒナギクが話かけようとしたが、ハヤテは電話の相手と

の会話に没頭している。

「……こちらの用件は一つだ。お前の側にいるお嬢様を連

れて、今から指定する場所にこちらが指定したルートを

通って、二人で来い。……もしSPとかがついてきていた

ら、そいつらを全員殺す。俺を捕まえようと特殊部隊の奴

らを展開しても、そいつらを殺せるかぎり殺すし、この学

院の生徒達もタダではおかない。金持ちのボンボンばっか

りみたいだが、関係ないぜ。……爆弾は、平等主義者

だからな」

「……お前、ここに爆弾を……!?」

「ああ。軍用TNTプラスチック爆弾の威力、お前なら分か

るだろ?……ちなみに、爆弾を捜索したり、解除しようと

すれば、その瞬間爆発させる。生徒達を避難させようとし

ても同じくだ。……約束通り指定の場所に来たら、あの三

人を引き渡す。来なければ三人は殺す」

「……そんなの、できるわけないじゃないですか!ヒ…彼女

を外に出せば、あなたは彼女を殺すつもりでしょう!?」

「当然だ。そのために俺は来たのだから。別に約束を守ら

なくてもいいんだぜ?その時は三人は俺が殺すし、お前達

は爆弾で全校生徒もろとも吹っ飛ばす。この提案は、余計

な殺しは極力避けるという俺の主義がそうさせたものだ。

だが、お前が拒むなら、俺は自分の主義を捨てて任務を全

うしなければならない」

「……そんな……」

「……悪い提案ではないはずだ。このやり方なら、俺は自

分の主義を捨てずに済むし、お前はお嬢様を失うが、本来

死ぬはずの多くの人間の命を救える。……それよりもお嬢

様が大事だというなら、どうぞ多くの人間の命を道連れに

死ぬがいい」

「……む、無理ですよ…僕なんかが、そんなことを決めるな

んてできません!」

「……それでもお前が決めるしかない。さあ、選べ」

「……」

電話の向こうで、小さなため息が聞こえた。

「……一つ言っておく。全てを守ることなどできない、綾

崎ハヤテ。お前は多くのものを守ってきたのだろうが、時

として何かを守るために何かを捨てなければならない時が

くる。……それが今だ。一時間以内に結論を出せ」

「ま、待って下さい!」

「その電話には、二件の留守電を入れてある。詳しいルー

トの指示などは一件目、二件目は場所に着いてから聞け。

交渉は無しだ。……お前が何を選んだかは、行動で示して

もらう。じゃあな、綾崎ハヤテ」

「待って下さい!………………ああ……」

電話は切れた。

ハヤテは、その場に立ち尽くした……




「……さて」

ハヤテとの電話を終えた殺し屋は、その足を時計塔に向

けた。

……さあ、いよいよメインイベントだ。





「……選べって……無理だよ……」

ハヤテは呆然としていた。

(爆弾を怖れずにヒナギクさんを守るか、ヒナギクさんを

殺し屋に渡して皆を守るか……ハハッ、できるわけない

じゃないか。どちらも)

頭の中に、殺し屋の言葉がこだまする。

(全てを守ることはできない……!)

(……そうだよ、できない。できるわけがない!)

(守る、だなんて……僕はなんて軽々しく口にしてきたん

だろう……現実には、こうして何を守るかも決められない

のに……)

……どうしてだよ。

……今まで不幸な人生だったけどさ、




その不幸は、全部僕だけにとっての不幸だったじゃない

か!

……なのに、どうしてだよ。

どうして今になって、僕の周りの人達にまで不幸が降り

かかるんだ!

……僕はどれだけ不幸でもいい。でも、どうして皆にま

で!

皆にまで……

皆……






そうか……






『皆が幸せでいること』






それが、






僕にとっての『幸せ』だったからだ……



だから皆にとっての不幸は、僕にとっての不幸になってし



まったんだ……










ヒナギクさん……


皆さん……


僕は……







「……決めた」




ハヤテは立ち上がった。




再び風は吹いた。


しかし、その風は、






悲しい風だった__________




************************************************************

第7話終わりです。シリアスです、はい。

次回は、張り巡らされる殺し屋の罠!下されたハヤテの決

断!ヒナギクの思い!ついに殺し屋がその姿を表す!絶望

的な運命の中で、二人は真実の愛を掴めるのか!?

……みたいな感じで行こうかと。はい。

とりあえず、次回をお楽しみに!
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