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眠れない貴方に(ハヤヒナ一話完結)
日時: 2013/03/11 22:11
名前: ゆーじ


『お前の親、働いてないんだろ?だからこの前ーーーやったんだろ!』

『前見たぞ!お前の親がーーーするとこ!』


人の姿の形をしたそれが、彼を追い詰める。
その憎悪に満ちた目に、恐怖さえ感じる暇もない。


『どうせこの前のーーーも、お前がやったんだろ、白状しろよ!』

『あんな親なんだ、お前も同じだ!』


違う…。
僕じゃない…僕じゃないよ…。
知らないよ、そんなの…!


『この泥棒!そんなことして楽しいかよ!』

『人の金で食べる飯は美味しかったかよ!』


やだ…嫌だ…!
止めて…止めて…!!

耳を塞ぐ。
しかし声は何をしても聞こえる。


『あいつに近寄ると、ろくなことにならねえよ』

『近寄らないのが一番だよ』


ま…待って…!
話を聞いてよ!

手を伸ばす。
流れる涙は止まらない。


『消えろよ、犯罪者』


伸ばした手は、虚しく落ちる。


『あんなこと気にする必要はないよ、ハヤテ君』

『そうよ、気にするだけ無駄よ』


肩を叩いてそう言うのは、全ての元凶。
いつものように裏があるのに、その素振りを見せない笑顔。


『ところでハヤテ君、君に新しい仕事を紹介するよ』

『とても時給がいいところなの!きっとあなたなら沢山稼げるわ!』

『あと、これも渡しておくよ。借用書だ』

『ほんの500万程度よ。きっとあなたなら返済できるわ』

『さぁハヤテ君、早く行かないと!』

『そうよ、じゃないとあなたを売らないといけなくなるわ』


もうこんなことを聞くのは嫌だ。
親なのに。親子というのはこういうものじゃないはずなのに。
この二人は実の息子を、自分達の子供だとは思ってない。


『ほらほら、耳なんか塞いだって聞こえてるんだろう?』

『頑張って!あなたは私達の大切なーー金づるなんですもの!』


もう嫌だ…こんなの…。


「……………………ん!………………君!」


誰か助けて…。


「…………テ君!………ヤテ君!」


誰か…!!


「ハヤテ君っ!!」

「…っ!!」


突然の大きな声にハヤテは目を開ける。
息は乱れ、汗も酷い。
見開いて、泳ぐ瞳に映るのはいつもの見慣れたアパートの天井………ではなかった。
見慣れた少女の顔。綺麗なピンク色の長い髪が暗い部屋では直ぐに見えた。


「ヒナギク…さん…?」

「ハヤテ君…どうしたの?大丈夫…?」


今にも泣き出しそうな顔に、ハヤテはゆっくりと限界まで開いた瞼を戻し、体を起こす。


「大丈夫…。少し夢を見ただけですから…」

「………私…お手洗いから戻ってくる時に、あなたの声が聞こえてきたの…。そうしたら、凄い魘されてて…とても苦しそうで…見てるのも辛かった…」

「すいません…心配おかけして…」

「なんで謝るのよ…ハヤテ君は悪くないでしょう!?」

「……すいません…」


俯くハヤテにヒナギクはどうすることも出来ず、同じように下を向いた。
そして下を向いて見つけた。
ヒナギクはそれにハッとしてから、静かに両手で包み込んだ。

目で見ても分かるほど震えていたハヤテの手を。


「馬鹿…こんなに震えてる…。なんでもかんでも隠しすぎよ…。全然大丈夫じゃないわよ、こんなの…」

「ヒナギクさん…」


ハヤテは驚いた様子で自分の手を握るヒナギクの手を見下ろし、顔を上げてヒナギクを見る。


「ハヤテ君、私さ…。前に聞いたじゃない?『両親が捨てたのには何か理由があったんじゃないか』って…」

「…………ええ」

「その時のあなたの答えを聞いて…私、悲しかったの。私は信じてたから…本当の両親のこと」

「…………」

「でも違うのよね。私とあなたじゃ境遇が違うんだもの。愛されることもなく、ずっと働かせられて…そりゃあ…そうも思うわよね。…それが分かった時…凄く申し訳ないと思った。私はあなたのことを考えてなかったの、自分のことばっかり…」


俯いて目を伏せるヒナギクに、ハヤテはフッと笑う。


「他人のことを考える人間なんかいませんよ、自分のことで精一杯なんだから。他人のことばかり考えるような人は…ただのお人好し。…悪く言えば馬鹿なんですよ。……だから、僕も馬鹿です」

「ハヤテ君…。ううん、ハヤテ君は馬鹿なんかじゃない。それは違うわ」

「ヒナギクさん…?」


ヒナギクは両手で包んだハヤテの左手を持ち上げる。


「皆…私達全員が、あなたに感謝してる。ハヤテ君の優しさに助けられてる。ハヤテ君のおかげで皆笑っていられるの!」

「……………」

「だからさ…たまには私達にも頼ってよ。頼られるばっかなんて…おかしいよ。ハヤテ君を支える人は誰なの…?支えられるばっかりは嫌よ…」

「ヒナギクさん…」


ヒナギクはハヤテの手を優しく握り、目を伏せる。
そして目を開けて、よし!と一人頷く。


「ハヤテ君。私に甘えて!」

「え!?」

「なんでもいいわ。…あなたが望むなら、ひ…膝枕でも…一緒に寝る、とかでも…」


顔を赤くして、目を逸らすヒナギクにハヤテも顔を赤くして首を必死に振る。


「い…いやいやいや!何言ってるんですかヒナギクさん!そ…そんな、いいですよ…そんなの…」

「駄目よ!私、あなたが甘えてくれるまで部屋に戻らないから絶対!だから何かして欲しいこと言ってよ!」

「じゃ…じゃあ僕のことは気にせず部屋に…」

「それは却下よ!」

「勉強を教えてーー」

「却下!」

「ヒナギクさん、夜中なんだからもっと声小さく…」

「誰のせいよ!!」

「うぅ…」


正座をして、睨むようにして言葉を待つヒナギクにハヤテは顔を逸らす。
そしてふと、さっきまでヒナギクに握られていた左手を見る。

先ほどまでの震えはなくなっていた。


「……………。ヒナギクさん」

「何かしら?」


ヒナギクの『決まった?』という視線に答えるように、ハヤテは布団の上に横になり掛け布団を首元まで引っ張る。
そして不思議そうな目で見下ろすヒナギクに笑いかける。


「なんだか眠くなってきちゃいました。……僕が寝るまででいいので、一緒にいてくれませんか?」

「………………」


その言葉にヒナギクは目を丸くして頬を染める。
しかし、驚きの表情はすぐに微笑みに変わった。


「…うん、分かった」


ヒナギクは嬉しそうに頷くと、手を伸ばしてハヤテの額に手を当てた。


「ヒナギクさん?」

「あなたは知らないだろうけど…お母さんってね、子供を寝かしつけるときはこうやって…顔を撫でてあげたりするの。優しくね」


ヒナギクは額に当てた手を、頬に行くまで撫でる。


「こうすると…子供も安心するの。……どう?安心した?」

「……はい、とっても」

「そう。良かった」


ニッコリと笑って言うハヤテにヒナギクも笑う。


「ハヤテ君。昔のあなたには…きっと味方なんかいなかったんだと思う。酷いこと…いっぱい言われたと思う。……でも、私は…、私達はずっとハヤテ君の味方だから。どんなことがあっても、最後までハヤテ君のこと…信じてるから」

「……………」

「だから…ね?安心していいのよ。ハヤテ君」


暗い世界の中で、座り込んで涙を流す一人の少年。
皆から拒絶され、親にも家族扱いされず、ボロボロの心と体。
そんな小さな少年の肩を優しく掴む誰か。
涙に濡れた顔のまま、少年は振り向く。
そこには、少年の人生を変えた大切な存在と大切な友人達。
皆笑ってる。名前を呼んでくれる。
『おいで』と手を差し延べてくれる。

そこでようやく少年に、笑顔が戻るーー


「ありがとうございます…ヒナギクさん…」


ふと見た時、ハヤテは寝息を立てていた。
閉じられた瞳の目尻からは涙が伝っている。それが悲しみの涙ではないということはヒナギクは分かっている。
なぜなら、その安らかな寝顔は、どこか安心したようにも見えたからだ。


「………お休みなさい、ハヤテ君。今度はいい夢見てね」


立ち上がろうとしたヒナギクの目に、枕元に置かれた目覚し時計が映った。
手に取り、見てみれば目覚ましのアラームは4時に設定されている。
そして今の時刻は3時半。苦笑せざる得ない。


「もぉ…せっかく寝かしつけたのに30分しか寝れないじゃない。駄目よこんなの」


ヒナギクは目覚まし時計を少しいじると、音を立てないように置いて、今度こそ屋根裏部屋を後にした。



○ ○



朝のはずなのに僅かに聞こえる賑やかな声にハヤテは目を覚ました。
空はかなり明るい。むしろ早朝4時にしては明るすぎる。
まぁこんな日もあるかな、と思い、ハヤテはいつものように布団から出て、執事服に着替える。

階段を降りて、廊下を歩いたところでゲームの電子音が麩の向こうから聞こえる。
こんな時間に誰かゲームでもしてるのかな?とハヤテは顔をしかめながら襖を開けた。

そして畳の上でうつ伏せで上半身をあげた状態でテレビゲームをするナギの姿にハヤテは硬直する。


「お嬢さま…お早いですね…」

「ん?…おお、ハヤテか。おはよう」

「お、おはようございます」


ナギは体を起こし、畳に座って改めてハヤテに体を向ける。


「ちなみに私はいつも通りの時間に起きた。起きる時間が変わっているのはお前の方だぞ?」

「へ?」


ナギは澄ました顔で『ほら』と言いつつ人差し指を立てる。
それが時計を指すものだと直ぐに察したハヤテは壁にかかっている時計を見上げる。

12時5分。………もちろん午後だ。


「………………へ?」

「よく眠れたみたいだな、良かった良かった」

「よ…!良くないですよ全然!ちゃんと目覚ましセットしたのにこんな時間まで…すいせんでした!」


頭を下げるハヤテにナギは苦笑する。


「謝る必要はない。むしろこのくらいの時間まで寝ててくれないとヒナギクの厚意が無駄になってしまう」

「え?」

「ヒナギクから聞いた。…故に我々は今日よりハヤテに甘えてもらおう週間に入った!その第一回目の作戦が、目覚まし時計の設定をいじってでもハヤテにゆっくり寝てもらおう、ということになったのだ。だからお前が謝ることも、私が怒ることもない」

「で、でも…!」

「いいから!今日はもうお前に仕事はさせん!縁側でぼーっとしているのだ!」

「あ…!ちょ…!お嬢さまぁ!」


ハヤテはナギに押されるままに縁側に放り出され、襖を固く閉めた。
諦めて、縁側に座って肩を落とす。


「はぁ…いいのかな、こんなことして」

「いいのよ。皆ずっとやりたがってたことだもの」

「え…」


前から聞こえる声にハヤテは顔を上げる。
そこには箒をもって笑いかけるヒナギクの姿があった。


「ヒナギクさん…」

「おはようハヤテ君。いい夢見れた?」


ニッコリと笑って言うヒナギクに、時計をいじったのはヒナギクなのだとすぐに分かった。


「甘えるっていうのは、さっききりじゃなかったんですか?」

「『私は』ね?だから言ったじゃない、皆やりたがってたことだって。あなたが頑固だからやろうにも出来なかったの」

「もぉ…ずるいですよ、皆して…」

「ふふっ、私達はいつもあなたにそんなこと思ってたのよ。ハヤテ君ばっかりズルいってね」


ヒナギクは箒を置いて、ハヤテの隣に腰を下ろす。


「……ね。笑ってよ」

「え?」

「私もナギも、皆…ハヤテ君の笑顔が大好きだから。だから笑ってよ。それとも、ハヤテ君にとっては今もまだ辛いのかしら?」

「……ほんと、ずるいですよね」

「どういたしまして♪」


苦笑するハヤテにヒナギクは笑う。


「でも、ありがとうございます。僕…今が最高に幸せですよ。皆さんに、ヒナギクさんに会えて…良かったです」

「………うん。私も、ハヤテ君に会えて良かったよ」


ニッコリと笑ってみせるハヤテに、ヒナギクも微笑んで、ゆっくりとハヤテに体を傾けるのであった。



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はい、風邪気味の中 突発的に浮かんで書いてしまった結果がこれだよ!!

超久々のハヤヒナ小説、如何でしたでしょうか。

よくあるパターンではハヤテがする行為をヒナギクさんにしてもらいました。
たまにはこうハヤテの過去の闇?を払ってくれるような救いのある話がほしいですね、ということで書きました。
……てかマジでお願いします畑先生ホント。

ちなみに、なんて言うのかな…冒頭とかの「」がないハヤテの描写は基本的にちびっ子ハヤテくんの姿で想像してください。もう過去編のハヤテと同じような感じで結構です。

ヒナギクの位置はナギでも良かったんですが、後々ヒナギクのほうがしやすい話題もあるかなーと思ってのヒナさんでした。

あとがきはこんな感じです。
春からのアニメ、1話からハヤテですってよ楽しみですね!あとアーたんもね!

というわけで、シーユーアゲインなのです!
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